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予言者の悲劇

作者: 梅はね


 みんなから疑いの眼差しを向けられる。

 すべては予言のせい。だから仕方のないことで、みんなは悪くない。

 信用してもらえるよう、私は努力した。

 人々の役に立ち、私の言葉が、私の振る舞いが嘘ではないと証明しようとした。

 まだ人々の疑念は消えていない。それどころか強まってすらいるかもしれない。

 でも、私は諦めない。証明し続けるんだ。

 私が持つ力はこの国を、人々を守るために与えられたものなのだから。


 ◆ ◇ ◆


「……悪いが、お前の言葉を信用することはできない」

 王は言った。

 それは私がした予知に対する反応であり予想通りのものだった。

「いつかは分からない。どのようなものかも分からない。しかし大災厄が訪れる。

 これでは何の情報もないのと同じであるし、仮に信じて備えるとしてもできることはないに等しい。

 お前が予言を用いて国政を都合よく操ろうとしているという一部の者の言葉の方がよほどの価値がある」

 やはり無駄だった。予知がなくても分かり切ったことだった。

 何の功績もない若造の言葉で王が動くはずがない。

 こうして王に謁見できているのだって先達の予言者たちが予言に対する信用を高めてくれてきたお陰であって私自身の力ではない。

 師匠が働きかけてくれたというのも大きい。

「とは言え、お前の予言を切り捨てるというのも余は愚かだと思う。

 歴代の王に仕えた予言者の働きを軽視するものであるし何より余はお前の師を信頼している。

 お前の師の功績に免じてお前に機会を与えよう。

 余に予言者として仕え、功績をもって余の信用を得てみせよ」

 王によって予言者に任命されたこの瞬間、私は王のため国のため予言の力を使うと決意した。


 この国において予言者は高い地位にある。

 王に仕える予言者の権威は時に最高位の官吏すら上回る。

 高い給金を得られ、名誉や尊敬まで手にできる。

 たとえ奴隷の身分にあっても、予言者としての力が本物であれば上流、中流にすら成り上がれる。

 予言者になりたがる者は多い。

 しかし予言者の世界は才能の物言うところであって成れないということが生まれた瞬間に運命づけられていることが大抵だ。

 予言者と一口に言っても予言のあり方は必ずしも同じではない。

 人の天命が見える者、未来の記憶を先取りできる者、訪れるかもしれない幾つもの未来を知れる者。

 私の場合、唐突に、あるいは意図して未来のことを知ることができる。

 内容は漠然としたものから鮮明なものまで様々ある。


 王の予言者に任命された私はその後数々の予言を行った。

 その功績が認められ、いずれ来る危機について信じられるようになっていった。

 私が大災厄について予言した時から半世紀以上が経った。

 未だ兆候は表れず、どのような対策をすべきなのかも分からないままだ。

 一部には私の予言を信じない者もいる。

 しかしながら現王や高官、貴族の多くが危機が訪れてもいいように備えをしている。

 長い時間の中でたくさんの計画が立案され実施されてきた。

 大飢饉(だいききん)に対する備蓄、戦争や内乱に向けての軍備や体制整備、魔物の大繁殖や強大な人外の出現が起こった時の討伐体制の強化。

 最近では王立研究所の提言で始まった人工英雄計画が成果を上げているらしい。

 あらゆる危機に対応可能な生体機構という構想で自然の営みに従わない形で人の形をした機械を作るということだが専門外である私にはよく分かっていない。

 ただ、国防の抑止力、王室を守るための剣として王は高く評価している。

 何でも一国の軍隊に相当する武力を有し、それだけでなく高い知性をも持つと言う。

 王は大規模な予算を付けて次世代人工英雄計画を王立研究所に開始させた。


 ある日、式典に参加した。

 大規模な魔物の集団を単独で殲滅したという功績を立てた人工英雄に騎士号を与えるためのものだった。

 私はそこで初めて人工英雄を目にした。

 名状しがたい衝撃を味わった。

 人口英雄の姿は聞いた通り人間の形をしていた。

 とても美しい十代後半の女性の姿だ。

 なぜ男として生み出さなかったのか。十代の少女の姿にしたのか。疑問に思っていたが、なるほど研究所の連中の趣味なのだろう。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 どうでもいいのだが、どうでもいいことばかり頭に浮かんでくる。

 ああ、なんてことだ。こんなことあって良いのか!

 全身から汗が吹き出し、頭が真っ白になりそうになる。

 思考は止まらない。予知が警報を鳴らす。目の前にいるそれが皆が備えていた災厄なのだと。

 私の予言が間違いだったのならどれほどよかっただろう。

 皆がしてきた努力がただ無駄だったのならどれほどよかっただろう。

 私は予知をもって危機から王や国、民衆を守るどころか自身の手で災厄を引き寄せていたのだ。

 災厄に備えていると思っていた人々は災厄を生み出すことに加担してきたのだ。


 どうすればよいのか。私には分からない。いや、分かりたくない。

 王にすべてを話すしかない。

 きっと私の名声は地に落ちるだろう。信用や尊敬は剥ぎ取られ、それだけでなくすべてを失うだろう。

 だが私は前王に機会を与えられた。

 予言の力を用いて功績を立てる場所を貰い、多くのものを得てきた。

 皆は私を信じて長い間にわたって莫大な資源を投じてきた。

 その行動に信頼に背を向けるべきではない。

 罪を犯した者として責任を果たさなければならない。

 まだ、まだ間に合うはずだ。きっと止められる。私が勇気を出しさえすれば。

 人口英雄として作られた人の形をした彼女がどうなるのか分からない。

 解体されるのか災厄とならないように運用されるのか。

 たとえ解体されてしまうのだとしても王に仕える者としての最後の責務を全うしなければならない。



かくして作られた少女は冒頭の地獄へと突き落とされる。

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