転生
「アル!起きなさい!!」
遠くで誰かが叫んでいる。
気持が良い。
ふかふかのベッドとは言えないが、
良い柔軟剤のような香りがする
少しガサガサのタオルケットが巻かれた枕を頬に感じた。
窓からは風が吹込み、久し振りにまだ寝ていたいと心からの感じている。
「アルベルト!もうお昼ご飯よ!起きなさい!!」
それはそれは昼寝日和だ。
子供も昼まで寝ていて不思議無い。
こんな寝坊に適した条件が揃っているのに起こす方が可哀想と言うものか。
ダンダダンダンダンダン!
「アルベルト・ライン・シュナウザー!!!」
身体が持ち上げられるのを感じる。
目を開けるとそこには20代後半に見える
黒く長い髪を後ろで結わえ、
前世ではみたことのない緑色の瞳に
顎に軽く髭を生やした男性が
“高い高い”
の状態で俺の顔をニッコリ笑って見上げているのだ。
「アル、母さんの頭の角が2本になる前に父さんと昼メシだ。」
状況が読み込めないまま俺は肩車をされると
勢いよく
“父さん”
は階段を下っていく。
状況を整理したい。
俺が知る転生というのは
赤ん坊からというのが定石なのだが、
世の中は違うのだろうか。
頭が重くふらふらする。
「かあさーん!アルがおきたぞー!」
リビングに突入するなり目の前の姿鏡でそれは確信に変わった。
3、4歳くらいであろうか?
白髪に父親らしき人物と同じ緑色の瞳が
色白の肌によく映えている。
そう、この幼児が転生した俺
アルベルトである。
ボンッ。と幼児用の椅子に座らされ呆気にとられていると
「おはよう、アル。今日はお寝坊さんですよ。」
と目の前に食事が並べられた。
父親と同じ歳くらいの年齢で
白髪に赤い瞳、色白の肌で
鼻が高くとても美しい女性。
そして何より特徴的なのは長く尖った耳。
異世界へ転生したのだとここで初めて実感した。
母親はエルフ族だ。
「アル、ご飯の前に神様からお手紙が届いているわ。赤いところを指で押すのよ。出来る?」
と母親から便箋ののような物が渡され、
左上に赤く光る紋章がある。
「か、神様から?!」
「そうよ、アルはいつも神様からお手紙が届くわね!」
とニコリと微笑む母親に
「アルは父さんに似て将来有望なのかもしれないな!!」
と自慢げに腕を組む父親。
どうやらこの世界では、
神様から手紙が届く事は珍しい事ではないらしい。
「アル?お手紙!赤いところ分かるかな?お手々でピッて。」
俺はコクリと頷くと、恐る恐るその紋章を人差し指でタッチした。