想い出の場所
ホワイトアウト。
1度冬の青森の高速で体験したことがある。
トンネルを抜けるとフロントガラスが真っ白になり
自分の車のライトの明かりすら分からない
進んでいるのか下がっているのか
アクセルを踏んでも止まっているような感覚に包まれる
ただただ白に包まれた世界。
先程の煌びやかな舞台を離れ、
ただただ真っ白なそれ以外何もない空間に俺は居た。
それからどれほど時間が経ったかも分からず
先程の事も夢か何かかと思ったとき
いきなりぼやっと周囲が形成されてくる。
窓際の袖に32インチのデジタルテレビ
黒い三人掛けのソファー
四人座れるダイニングテーブル
白いウッド調の壁紙
紺色の斜光のカーテン。
このダイニングテーブルで
“俺がどんな嘘をついてもこの先どんな事があってもお前への気持と子供達の愛だけは本当だから”
二人で涙を流し話をした。
とても懐かしく、そしてとても哀しい風景。
次第に風景ははっきりとしてくるのとは逆に
涙で、視界がぼやけていくのを感じた。
ここは家族と最後に過ごしていたアパートだ。
帰ってきた。
1人で。
あまりの虚しさに俺は右手で力いっぱい涙をぬぐった。
「ん?」
血塗れの腕に驚いた。
先程までの実態のない自分とは違い、絶命したであろう時の自分の身体がそこにはあった。
「驚いたかの?」
背後から声がし、振り向いた。
つるっぱげの頭に白髪の山羊髭、
細った身体に杖を持ち
薄い白の衣を纏った老人は
そんな事を信じない自分にでも誰なのかが一目で分かった。
「初めまして、神様です。」
年甲斐もなく親指をビシッと立て
誇らしげに神はそう言った。
「面倒な話は閻魔より聞いておるの?時間がないんじゃ。先程転生した人妻がとても艶やかでのう。お主の転生まであと7分しかないんじゃ。異世界に転生するお主に今から特殊スキルを授ける。選んでくれるかのう?」
え?転生ってこんな感じ?
「待ってくれ、転生先の情報や与えられたチャンスの細かい説明なんかは...」
そんな話をしていると言うのに目の前に10枚ほどのカードが並べられた。
「ほれ、早うえらべ。時間がないんじゃ!あと5分と2秒。あ、いや4分と58秒...」
誰のせいだ!
きっと艶やかな人妻のせいに違いない。
カードには
【強制テイムSSS】
【テレポートSSS】
【経験値増大SSS】
など、恐らくすごいのであろう
項目がずらり並んでいた。
「残り2分47秒!いや42秒...」
「いやもうそれいいって!!」
どうやら小さく書いてある説明を読んでいる時間はない。
が、自分は1つだけ目にとまったカード。
他にも様々チートな能力がズラリ並ぶ中でも
これ以外は考えられなかった。
「神様、これでお願いします」
俺はカードを手に取り
いつの間にかダイニングテーブルにかけて居た神様へそのカードを渡した。
「お?本当にこれで良いのかお主?お主すでにこれと同じ物をステータスに持って転生するのじゃぞ?!」
...そんなの聞いていない。
「え、ちょっと待ってくれ。それなら...」
「お主ちゃんと自分のステータスを確認してからじゃな、あいや違う。ステータスの確認方法はの、こうやって、ってあぁ!!」
一気に思い出の部屋は光に包まれ
白の世界に神様と自分だけ残された。
「コホン。使命を任された愚かな者よ。お主の旅が良いものとなるようにこのスキルを授ける。」
何事も無かったかのように神は綴る。
「いやいやいや...」
神をそこに残し自分の身体とスキルカードが天に向かい上昇し始めた。
「良い旅を!そして自分の目的を果たすのじゃ!これにて転生の儀、終演!!!」
神が杖を中心にバチッと合掌すると、
俺の身体の実体がまた無くなり
最後に見えたものはスキルカード
“豪運SSS”
の文字であった。
「あれ、40秒余ってもうたわ」
遥かに下の方から小さく声がしたが
俺は聞かなかった事にした。