小さな嘘-3
「いえ...明日から貴方の部隊の魔竜討伐の遠征があるでしょ。そんな大切な仕事の前にアーサーにこんな事相談できないわ。副隊長が使い物にならなければ貴方達に顔向け出来ないもの。」
親父は何かの部隊の隊長をしていて、シャンパパはその副隊長であることが判明した。なるほど、親父の脳筋な所も何となく納得できた。
「いや、そんな事は良いんだ。何があっても命だけは失わず帰って来れれば。それに俺達4人は冒険者時代からの仲じゃないか。俺はこんな仕事をしているのだから、ちゃんと家に帰ることが1番大切だと思っているよ。」
「それならこれからは訓練後2人とも飲みに街に繰り出すのではなく、ちゃんと家に帰ってきてもらわないとね」
なんと先程のマーガレットと瓜二つな意地悪そうな笑みを浮かべて、母は父にもたれかかる。そういえば尻に敷かれているようでずっと父にベタベタしている母を見ると、両親は本当にバランスの取れたおしどり夫婦なのだなと感じた。
「コホン...それより、だ。そんな大事な事はアーサーにもちゃんと伝えるべきだと俺は思う。この場にアーサーが居ないのも俺は少し違うんじゃないかと思うよ。もちろん、明日からの魔竜討伐は1年に1度の危険な任務だ。サナが遠征に気を遣ってくれた事は本当に感謝するが、家族の事はしっかり主にも伝えて置くべきではないだろうかね。」
父の意見もその通りである。
一家の大黒柱が知らなくて良い話ではないと確かに俺も思った。だが、シャンママの言う事もその通りである。もしその事に気を取られて身が入らず、命を落とすような事があれば...
「パパ。こんな話出兵前のアーサーに話をして、もし討伐中にアーサーの身に何かあればここに居る全員、何よりあなた自身が後悔する事になるわ。シャンの話はそれくらい大きな話なのよ。」
「お前たちはアーサーを甘く見すぎだ。アーサーは俺の隊でも俺以外唯一国王選抜の部隊に招集がかかる戦士だ。奴が強いのは、心技体の中でも“心”が強いからだ。それに今回の龍種は近年の中でも1番強い。いつ帰って来られるかも正直分からない。そんな遠征から帰り自分だけこの事を知らずに過ごしていたと知ったらいくらアーサーでもショックだろう!」
「ベル、あなたの言うことも分かるわ。でもあの人シャンの事となると本当に我を失ってしまうの。シャンが4歳のときだって...」
ここからは母親VSベルカルトの押し問答が続いた。
両方の言い分は確かに筋が通っていた。
いや、筋が通っているいないではなくこの問答にきっと正解などないのだ。
先程から尻に敷かれていた父親が勇ましく見えて、とても頼もしい。
「ならベルは何が正しいと思うっていうの!?」
そんな中俺は、目を閉じ寝たふりをしながら聞いていたが、話を聞き入るあまりいつの間にか自分も一緒に話している気になってしまい
「それならシャンパパに“博打”になるかもってとこだけ内緒にして教えてあげたらいいんじゃないかなあ。」
...やってしまった。