小さな嘘-1
結局、姉の昼食が終わると3人で泥遊びをしていた。
実家はシャングリラの家と小さな丘の上に2軒並んでおり、どちらも三角屋根の大きなログハウスの様な家に“魔宿”と言うらしいが従魔の飼育部屋が隣接されていた。
後に父に聞いたところ、魔宿隣接型の造りはこの地方における一般的な作りのようだ。この世界では成人を迎えると魔獣が主人を選び、生涯主人に仕える為家の隣には必ず魔宿が隣接されるらしい。
目の前には大きな湖があって、それを囲むように点々と家が並んでいて水辺に魔宿がある家もある事から、従魔は様々な種類が存在するのだろうと思われる。
「そう言えば今日はアルをびっくりさせようと思ってたんだよ!」
シャンは突然思い出したように目を輝かせながらは言った。
「あら、ステータスでも確認出来るようになったのかしら?」
姉が泥団子を綺麗に丸めながら片手間に発すると、ぎくりとしながらジト目でシャンは姉を見つめた。
「あ...ごめんなさい!まさか本当にステータスが見れるようになったなんて。それにしてもすごいじゃない!私のクラスの子なんてまだ半分もステータス見れてないのよ?」
姉は驚きながら言った。
このタイミングでステータスの話。
先程確認した“豪運”の賜物であろうか。
「えっへん!!でもね、パパが他の人に見せたら行けないよって言うし、ママはおばさんに今日お茶するときに相談するって言うんだよ。うちもしかして変な力持ってたら嫌だなあ。」
話初めの誇らしい顔は何処かに消え去り、不安そうな顔をして俯いてしまった。
「変な力があってもシャンは俺の友達だよ。」
何と声をかけたら良いのか分からず、気の利く言葉をかけたかったのだが5歳児には少し早かっただろうか。
「ほんと?ずっと?」
「うん、ずっとだよ。」
そう話すと安心したようにニコリと笑い、泥だらけの両手を合わせてもじもじと見つめていた。
「そうよ!私達赤ちゃんの頃からずっと仲良しでしょ。当たり前じゃない。アルともずっと友達よ。」
意地悪そうに姉が諭すと、さすがにその意味を理解したようで
「んー!!!マーガレット!待て!!」
泥だらけの2人はキャッキャと家の中へ走り込んで行くと、家の中から母の怒号と何故か父の悲鳴が聞こえたのは直後の事であった。
ここで大切な事は、まだステータスを確認出来ることは伏せておいたほうが良いと言うこと。時期を見ながら見れるようになった事にして、それまでの間は“隠蔽”のスキルで見られたくないスキルや、異常に高い能力があれば隠す方法を学んで行こう。
シャンのお母さんが今日うちの母にステータスの相談をする為来るということなので、何としてもその場に居合わせて情報を集めたいところだ。
何にせよ転生して数刻、まだまだ情報不足が否めないのでこのチャンスは絶対に逃したくない。
父と妹の横で居眠りをするふりをして、その場へ居合わせる事にしよう。俺は泥だらけの手で腕組みをしたまま家の中へと戻った。
当然のように母の鉄拳制裁を受けると
「3人ともしばらく泥遊び禁止!!!」
ムスッとした母は妹の横で昼寝をしていた父にもたれかかり、しばらく父の顔を眺めると
バチン!
と父の尻を平手打ちした。
先程の悲鳴の理由が明らかになった瞬間であった。