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罪と罰


走馬灯。

こんな言葉は思い浮かぶのに、自分の名前はもう思い出せない。


視界もぼやけ、地面に這いつくばる自分は誰だったであろうか。


「もう飽きタ、そろそろ片付けロ。」


ガツン!!と後頭部に鈍痛が走ると、顔面に感覚はなく、初めて口にしたコンクリートは血と土が混じり合った味がした。



自分には嫁がいた。

子供も2人いた。

愛してやまない3人。


アラフォーの自分と同じ背丈の

世間体的には大きめの嫁と、

可愛くてしょうがない5歳の娘と2歳の息子。

最後にもう一度3人を抱きしめたい。

何があってもこいつらを守っていくと、

俺は心に決めてきた。

もう守っていってやれないのか。




...。




待てよ。いや、違う。

自分は家族を裏切り離婚をしていた。


どうして世界で1番大切な家族を見捨てるような事をしたんだっけ。




“テーブルの引出しの一番下に離婚届書いて印ついてある。すぐに書いて出してくれ。今電話は危ない。すまない。本当にすまない”



俺は後部座席に乗せられ、何処かへ連れてかれている。

運転しているのは...誰だ?

もう頭が回らない。





「お前、死ににきたんだロ。まさか本当に私達の金を奪って逃げ切れるなんて思う訳ないもんナ。しかしなんで7000万なんダ?どうせ殺されるなら金庫の金全て持ってくだろう、普通はナ。日本人は理解に苦しむヨ。」


小柄で少しガタイの良い七三分けの男が

流暢な日本語を操り話した。


俺を取り囲んでいる構成員らしき全員が

社交辞令さながらに大声で笑い声をあげる。

20人ほどはいるだろうか。



「1000万につき1時間、全力で痛めつけタ。まだ意識もあるところを見ると流石武闘派として名を轟かせただけあるヨ。」



チッ。片言マフィアが。

こちとら意識なんてもう...。






マフィア?



「とは言え、ここまでのお前の功績に免じてこれ以上苦しまずあの世へ送ってやる感謝しロ。」



カチャッ。


「家族の安全も保証し、綺麗に足抜けしたのに全く理解が出来ないが、それまで嫌々ながらよく数年に渡りよく稼いでくれタ。」



そうだ。

俺は些細なことから今話題の闇バイトへ応募しそこから嫌と言うほど人々を騙した。


他にも腕っぷしを買われ金を返さない人の家に連れて行かれその回収の仕事をさせられた。


やらなければ知らないぞと家族を人質に取られ、どんどん自分以外の人を不幸にしていった。



そうだった。

俺はもう父親なんて語れる人間なんかじゃない。

望んでここへ来た。


稼いだんじゃない。


数年に渡り人から騙し取った7000万。

こいつらから回収して謝って全ての人へ返して

可能なら家族とどのような形かで関わって

何らかの形で一生支えていきたい。


勝算もなく、単身アジトへ乗り込んだんだ。



「サヨナラだヨ侍。愚かな逆襲の虎サン。」



いつか必ず足抜けすると

反骨精神剥き出しで

足抜けのノルマ達成の為に人を騙し、

貸し金回収の為に腕を振るい彼らの言うところの

“稼ぎ”

をあげ、この業界には滅多にない

比較的円満な足抜けを果たした俺はいつしか

逆襲の虎

と呼ばれていた。


もちろん家族友人親誰も何も知らない。

友人達には警察にも行かれ、捜査もされた。

この時に嫁に別れを告げた。


これくらい大きい組織になると

次の日には証拠も何も全て上書きされ

この世界に残った事実は


家族親友人から騙し取った金を

ギャンブルに使い込み破滅した。


という事実へ書き換えられていた。

身に覚えのない銀行の履歴や

公営ギャンブルのログイン証拠も、

すべて偽造されていた。


しかしながら返捜査が終わる頃には!

金もおこなっている、

本人に返す意思があるという視点から

詐欺罪にはならないと言うことで


“子供達の為に

真っ当に稼ぎ一生かけて返金しなさい”


と刑事から背中を押され警察署を後にした。



なのに何故今この状況なのかと言うと...


「集まレ!別れヲ!」

七三が叫ぶ。



その話はまた地獄で

になりそうか。



「オ゛ー!!!!!」

「ウォー!!!!!」

構成員全員の雄叫びでボロの倉庫が揺れる。



聞いたことがある。

組織で一定以上の功績をあげた者に行われる別れの儀式だ。

この雄叫びが終わると引き金が引かれ、殺される。



くそったれ。


会いたい。

4人で暮らしてたあの頃に戻りたい。


身の丈にあったプロポーズをと

チェーンの居酒屋でプロポーズした。

泣きながら笑ってくれた今も愛する嫁。

その後愛してやまなない娘が産まれ、

息子が産まれた。

3人との思い出が一瞬のうちに駆け巡る。




なんで引き返せなかったんだろう。




分かってるよ。俺はクズだ。





構成員の雄叫びがおさまった。








「...Goodbye.」




パァン!!!





どこのメーカーの物かも分からない拳銃から放たれた銃声が倉庫内に響き渡った。

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