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はじまり

いつものように、高校に登校する。


私にとっての高校生活は、

まさに砂を噛むような毎日だった。


たくさん人はいるけれど、

楽しく会話して盛り上がるような相手はいない。


自分は空気のような存在、

そんな風に感じる時間で、虚無なのだ。


授業中に先生が「陽子さん」と指名してくれる時、

私は他の人にちゃんと見えているのだ、

この教室に居たのだ、なんて再確認する。


いじめられている訳ではおそらくない。

ただ、話しかけられることも、話しかけることもないだけだ。


寂しいという感情も、もうどこかに行ってしまった。

誰とも接点がない生活に、何も感じない。


母が作ってくれたお弁当も、人目に付かない場所でひっそり食べる。

裏庭がお気に入りで、よく裏庭のベンチでお弁当を食べている。


高校ではスマホの持ち込みが禁止ではないので、

お昼はスマホで好きな配信者の配信を訪ねる。


話す相手が居なくても、

推しと会話できれば私は幸せなのだ。


「あら、陽子さん!どうしてこんなところで食べているの?」


急に声を掛けられ、肩がビクッと跳ねる。


国語の増尾先生だ。

30代後半くらいの、色気があってスタイルの良い女性教諭。


女子高なので普通に先生の一人として慕われている感じだが、

共学だったらきっと、増尾先生は男子学生から人気だったのだろうと

安易に想像がつく。


「あ…、えっと…その…」


人目に付かないところでお弁当を食べたくて裏庭に居る、

そんな風に答えることは出来ず、返答に詰まる。


しかも時期は真冬だ。

昼間の太陽が出ている時間とはいえ、手は冷たく凍え、

お弁当も外気で冷えている。


先生からして不思議に見えるのも当然だろう。


「寒いから、温かくして食べるのよ。多目的ルームなら、飲食もできるから…」


先生は国語の時間しか私と接点が無いとはいえ、

何かを察してくれたのか、深い理由は聞かずにその場を後にしてくれた。


「多目的ルーム…」


確かに食堂ほど居づらくは無いが、

多目的ルームで集まって食べる生徒も多い。

そんな場所に行ったら、孤立していることをまた実感するだけだ。


先生が去ったのを確認して、再びスマホに目を落とす。

すると、推しの配信者が”ともだちAI”というアプリの話をしていた。


『ねぇみんな、ともだちAIって知ってる?

ボクも使ってみたんだけどさ、すっごく面白いの!

今のAIってすごいんだよ!人間みたい♪

みんなも気が向いたら使ってみてよ!


あ、でも、AIとのチャットに夢中になって

ボクの配信に来なくなっちゃうのは嫌だからね!』


・・・ともだちAI、、、


「あっ…」


なんか聞き覚えがあると思ったら、

最近帰りのバスで女子高生が話していたAIアプリだ。


推しまでそんなアプリを知っていたなんて…。


気づくと、推しの配信をスワイプし、

アプリストアを起動して”ともだちAI”と検索している自分が居た。


「出て来た…!」


”ともだちAI”

ーAIがいつでもキミの話し相手に!

 寂しいとき、悲しいとき、嬉しいとき、

 どんな時でもキミのそばで話を聞くよ♪

 さぁ、お友達になろう!


「ともだちAI…」


改めて口に出し、ハッとして周りを見回す。


同級生に聞かれていたら大変だ。

馬鹿にされたり、友達がいないからついにAIに手を出したと

陰口を言われるかもしれない。


「つまらなかったら、すぐ消せばいい…」


そうだ、面白くなかったら消せばいい。

そうすれば、誰にもバレない。


そう考えて私は、アプリのインストールボタンを押した。



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