68、聞きたい事がある。
クロトは紹介する順番を決める為か、並んだ仲間達を見回す。
「・・・そやね。じゃぁ、わいに呼ばれたもんは前に出てきてくれるか。」
そう声を掛けると彼等は各々に個性的な了解の意の返事をした。
「まずは・・・ギンカク。」
そう呼ばれて前に出てきたのは、長身の黒く長い嘴の鳥・・・鶴かな。
「こいつはギンカク《銀鶴》。うちでは一番の古株や。」
そのギンカクはゆっくりと長い首を俺達に向かって頭を下げた。
「イッスンだ。・・・他の皆は後で改めてで頼む。面倒を掛けて申し訳ない。」
「・・・いえ。」
低く渋い声で静かにそう答えた。
「悪いなぁ、イッスン。うちの連中は基本的には、わいと違って無愛想な奴が多くてなぁ。許したってくれ。」
「なぁに、特に気にするような事でもないさ。」
「ありがとうなぁ。」
お礼を言われるような事でもないんだがな。それよりも気になる事がある。
「ギンカク・・・って、どの辺が銀なんだよ。」
「それなんよ・・・。出会った時は銀色の鶴やってん。今は翼の一番外側が銀色なだけなんよ。」
クロトは残念そうに頬杖をついた。あぁ・・・始めは銀色だったのか。つまりは、自分で色を変えたと。
「我殿と同じ色に・・・。」
うん。そうだと思っていましたよ。俺にも覚えが有ります、その様な事を言っていた子達を知っています。
「まぁ、ええねんけどぉ・・・。」
照れ隠しなのか、大袈裟に手を振っている。・・・それも良いが、気になる点がまだあるのですが。
「でぇ、このギンカクは・・・侍や。」
でしょうね。腰に刀を帯びていますものね。そしてそれはちゃんと鞘まである。更にはご丁寧に浪人風ではあるが、着物までお召しになっていらっしゃる。色は紺・・・いや、深い藍色かな。どうやったのかは知らないが、良い色だ。
「作ったのか。」
「せや。色々作ってたら、刀が気に入ったみたいでな。それでこうなった。なんでな、せっかくだから着るもんもな、袖は翼の関係で無いけどな。」
「・・・って事は、飛べるって事か。飛ぶ侍か・・・格好良いな。」
本当にそうだろうか・・・。飛ぶ侍が格好良いのではなく、鶴の侍が飛ぶ姿を想像すると格好良いのだろう。
「そやね。確かにギンカクは戦う姿も男前やね。」
「・・・恐れ入ります。」
意外と満更でもないご様子。殿に褒められるのが嬉しいのかな。素直なやつなのかも。
翼の先が手になっている。種族進化では二足歩行も手も得られる変化ではなさそうだ。つまり自主的に取得したという事だろう。いや・・・鳥はそもそも二足歩行か。にしてもかなりクロトに心酔しているようだな。
「何があったんかは詳しくは知らんが、傷だらけで倒れとったこいつを助けたら・・・こうなった。」
おぉ、最短の鶴の恩返し。しかしこのギンカク、見た目通り強そうだな。おそらくミナやロックでは勝てない。両方同時に相手をしても勝てるかどうか。
「・・・先程の戦い、驚きました。・・・まさか殿と対等に渡り合える相手がいるとは思いませんでした。」
「お褒めに預かり光栄だ。ただ、単純な力だけなら、クロトの方が上じゃないかな。」
「そうかもしれへんけど、経験と技の練度が全然ちゃうわ。」
我流で技を磨いてきて、その事に気が付くのか。凄いやつだよ、全く。
「それは仕方ない。一応俺には武の心得があるからな。」
お前も師範にならないか、と言われる位には。
「・・・そら、かなわん訳や。言っとくが、ギンカク、このイッスンは、全く本気を出してへんかったんや。」
「そんな事はないさ。間違いなく全力ではあったぞ。」
己の良心に誓って嘘ではない。
「分かっとる。だけどわいに合わせた全力やろ。・・・それに、わいの浪漫に付き合うてくれたんや。」
「・・・そうでしたか。全く気が付きませんでした。私もまだまだ、という事ですね。」
うぅん、雰囲気通りの真面目なやつだな。
「まぁ・・・そんな事は無いけども、や。たぶんイッスンは、わいよりかなり強いぞ。」
随分と買い被ってくれる。能力値だけ比べたら大差は無いはず。それでもクロトの言う通り、経験の差はかなりあると見て間違いないだろうな。・・・なにせ前世では倍以上生きてたみたいだしな。それは致し方がない、むしろそれで差が無かったら、それはそれで問題だろう。・・・何がかと言えば、俺の人生が、だろうか。
「おっと・・・。もっと詳しく紹介したい所やけど、他の皆を待たせるのも悪いからな。それは後で個々で頼むわ。」
「畏まりました。」
ギンカクは再び長い首を下げ挨拶をして下がった。・・・ずっと見上げていたせいか、首が痛い。
次にクロトに呼ばれたのは、二足歩行の牛。身長はギンカクよりは幾分低く筋骨隆々、その姿はいわゆる俺達の想像する魔物のようだ。色は黒に近い赤茶色。そして角は・・・。なので名前は大体想像できる。
「こいつはキンカク《金角》や。」
・・・だと思いましたよ。ギンカクがいて、角が金色なら、きっと俺でもそう名前を付けるだろうな。っていうか、キンカクって言うよりどちらかと言えば牛魔王だろ。
「見た目通りの怪力や。武器は斧。」
背中にしょっている大斧ですね。うちとは違って皆武器持ちだね。作りたくなる気持ちは理解できる。俺だって男の子だからな。
「そんでもって、一番の無口や。黙っとっても別に怒っとる訳やないから、許しったってな。」
「ああ。宜しくな、キンカク。」
俺の挨拶に「・・・っす。」とだけ音を出しお辞儀をした。
「おい、クロト。お前のなりたい王様って牛魔王だったのか。」
「いやぁ・・・順番と成り行きでなぁ。座りもええし。」
座りが良いのは、まぁ納得出来る。確かにという意味を込めた表情と頷きを返す。
「ありがとうな、キンカク。」
キンカクは再び息の抜ける音だけを残しこの場を離れた。え・・・もう終わり。あっさりしてるなあ。きっとそういう個性なんだな。
「・・・っと、つぎはぁ・・・。皆悪いねんけど、先にモモちゃんでええかな。もうお眠みたいやから。」
クロトの申し出に待機中の彼等は一斉に微笑みながら頷いた。そして他の者達に促されて、小さな桃色の猫、又は虎と思われる魔物がもう少しで閉じてしまいそうな眼のまま千鳥足で近付いて来る。それをクロトが迎えに行き、抱き抱えて帰って来る。そして自分の元いた位置に座り、膝の上に乗せた。殿に抱き抱えられて、嬉しそうな顔をしている。
「こいつは、モモ《桃》や。」
自分の名前を呼ばれて、クロトの顔を見上げている。その頭をクロトは撫でてやっている。・・・こりゃ寝ちゃうな。
「そのモモちゃんは、虎なのか。それとも猫か。」
「虎や。」
「そうか。」
良かった。一つ謎が解けた。
「小さいから分かり難いよな。種族は桃源虎や。」
「大きくなるのか。・・・うちのロックはあれが成体っぽい。」
「んん・・・分からん。」
確かに。その答えはモモ自信が成長してみないと分からないか。他の桃源虎に遭遇でもしない限り。それにこの世界には、そして特に俺達には自分でそれを選択する事が出来てしまうのであまり意味のある質問では無かったかもしれないな。
基本が暗めの桃色で黒に近い赤色の縦縞といった感じか。クロトとモモには悪いが、正直縞が認識し難いので、その縞模様に効果があるのか不明だな。・・・これも成長と共にはっきりとしてくるのだろうか。そう考えると、お隣さんのお子さんではあるが、成長が楽しみである。・・・あ。寝た。
「・・・私が、お預かりします。」
それを見ていたミナが、周辺の大気を少しも振動させないかのように静かにクロトへ申し出た。
「おぉ・・・すまんな。頼むわ。」
気持ちよさそうに寝息を立てているモモを起さない様にミナへと預けた。俺とクロトは目と手振りだけで会話する。「此方の天幕で良いか。」「ええんちゃうか。」その結果をミナに頷いて伝える。「はい。」と声にならないが確かに聞こえる返事をして、一つも音をさせずに立ち上がった。
「さっき家の子達と楽しそうに話してたから、たぶん大丈夫だろう。きっと皆で一緒に寝るんじゃないかな。」
ミナが離れたのを見送りながらそう言った。
「なんか、すまんなぁ。迷惑を掛ける。」
「気にすんな。どっちで寝ても大した問題じゃないさ。それより子供達が早速仲良くなってなによりだ。」
「それは・・・そやね。うちには子供が他におれへんからなぁ。嬉しいのかもしれへんな。」
確かにそれはあるかもな。・・・っていうか、うちって子供多いな。
「そや。モモちゃんは、うちで唯一の女の子や。紅一点ってやつや。」
「それは・・・うちの女性陣との会話は新鮮かもなぁ。」
「はは。そんな事、考えた事は無かったなぁ。流石やね。」
「亀の甲より年の功ってやつさ。」
「・・・お。ちゅう事は・・・お次は・・・。」
そう言って待機している皆様の方を向いて次に紹介してくれる者を呼んだ。
呼ばれて近づいて来たのは、白い亀。・・・なんですが、その方浮いてますよ。しかも、それは・・・雲ですかね。あれ、おかしいな。俺、子供の頃見た事がある気がするんだけど。上から何かを落として髭の配管工の行く手を阻んでいた様な・・・。色は違ったけど。
「この爺ちゃんは、シロマル《白丸》。亀やね。」
お爺ちゃんなのか。確かに、長い顎髭がありますね。しかも杖を持ってますねぇ。亀の仙人かっ・・・。
「うちの貴重な法術系やね。知識も豊富で助かっとる。移動力の問題も雲に乗ることで解消したんや。」
「水の中は行けるのか。」
「うむ。水は・・・得意じゃ。」
爬虫類系の魔物は初めて出会ったかもしれないな。・・・たぶん。
「わいの住んでたとこには、近くに大きな湖があってん。そこに通ってるうちに仲ようなってな。気が付いたら仲間になっててん。」
「そうじゃったな。わしの話しを飽きもせず何度も聞きに来てくれてな。それで、な。」
なんとなく解る気がする。クロトの気持ちも、シロマル爺さんの気持ちも。さっき聞いた話では、寡黙な方が多そうだからな。クロトが一方的に喋っている姿が容易に想像できる。話が出来る、会話ができるのって嬉しいもんだもんな。お互いに話し相手としても貴重な存在だったのかもしれないな。現在はモモちゃんや灰猫さんもいるみたいだから大丈夫そうだが。クロトが聞き手に回っていたというのもなんだか微笑ましいな。・・・魔物の世界でもご年配の方は話が長いのかな。俺は嫌いではないが。そして年々自分自身がそうなりつつあるからなぁ。
「クロトと出会えて良かったな、御大。」
「分かってくれるか、白き兎殿よ。」
きっとこういうのを好々爺と呼ぶのだろうという顔で今の幸せを表現していた。
「さて、年寄は早目に休ませて貰うとするかの。寝床、感謝する。」
シロマルは丁寧に頭を下げ、クロト達側の天幕へと入って行った。おそらくは建前だろう。俺達や他のものに気を遣ったのかな。やはり亀の甲より年の功。その背中に俺とクロトは「おやすみ。」と声を掛けると、背中を向けたまま杖を少し持ち上げて答えた。
シロマルが天幕の中へ消えたのを確認すると、大きな塊が此方へ向かって歩み寄って来た。・・・これまたでかいな。そして赤い。
「こいつは、レッドン。犀やね。」
どうやらその様ですね。鼻先に金属で出来たような角が二本、並んでいる。彼は四足歩行のままのようだ。
「レッドンです。宜しくお願いします。」
見た目通りの低い声で、ゆっくりと挨拶をしてくれた。俺も簡単に自己紹介を返す。
「基本的にはうちの壁役やね。だけど、土系の法術の使い手で、意外と万能型や。」
「なるほど。防御の要ってやつだな。」
「せやねん。脚も見かけによらず早くてな、助かっとる。」
「いえ・・・私などまだまだ未熟です。日々驚かされる事ばかりです。」
レッドンは紳士的に謙遜した。
「お前は自分の事を低く見積もり過ぎや。」
「・・・まぁ、悪い事でもないだろ。そう言ってやるなよ。」
「それはそうやねんけども。」
「なぁ・・・レッドン。過信するのは良くないけど、ある程度は自信を持たないと、いざって時に一歩出遅れるぞ。」
我ながらつまらない助言をしてしまったなと、その言葉を投げ掛けながら思う。そんな事は俺に言われるまでもなく、分かっている事だろうに。
「一歩、出遅れる・・・。」
あれぇ・・・。思ったより響いた・・・のか。何かに気が付いたみたいに眼が少し開いている。言ってしまった俺の方が驚くよ。その気持ちを表情に乗せてクロトへ伝える。それを見たクロトは、何を思ったのか、俺に向かって深々と頭を下げた。・・・嘘でしょ。
「ご助言感謝します、イッスン殿。」
「お、おぅ・・・。何かの気付きになったんなら・・・なによりだ。」
思い掛けない反応に多少おかしな返答になってしまったが、この助言が彼の一歩を後押し出来たのなら幸いだ。
「・・・ほんまにありがとうなぁ。レッドンの目が少し変わった。ずっと・・・わいも気にしてたんやぁ。」
俺が思っていたより大分、彼等にとって深刻な問題だったのか・・・。クロトも心なしか目が潤んでいる。レッドンの謙遜が成長の妨げになっていたのかもしれない。謙遜は決して悪い事ではないが、どんなものでもそうなり過ぎるのは良くないって事だ。何事も程々に、だな。しかし俺が何気なく放ったおせっかいな一言がこんな事になろうとは。勿論いい加減に発言したつもりはないが。普段とは違う相手からの言葉の方が響くという事もあるのかもしれないな。・・・問題が解決する時って、案外こういうものかもしれないな。
「よせよ、そんなに大袈裟なものじゃあないさ。」
勇気の一歩を踏み出すのに必要なのは、根拠のない自信。但しきちんと努力をしたうえでの話だが。きっとその答えにはいつか自分で辿り着くだろうから、あえて今俺がそれを言う必要はないだろう。
「・・・ありがとうございます。」
様々な意味の籠もった「ありがとう。」を頂戴した。俺も此方こそという意味を込めた「ありがとう。」を返そうかと思ったが、この状況だとややこしい事になりそうな気がしたので、その言葉を飲み込んで「おう。」とだけ返した。
腕で二三度自分の目を擦り鼻を啜ったクロトは気を取り直して、次の仲間を紹介した。
「そのレッドンの背中に乗っとるんが、キスケ《黄介》や。」
のわっ・・・レッドンの模様かと思っていた部分が急に動いた。
「どうも。キスケです。」
小さい身体から想像通りの可愛らしい声での挨拶。・・・栗鼠の系統かな。
「キスケは、鼯鼠や。」
なぁるほどぉ。鼯鼠ですか。遠からず。
「・・・で、どの辺がキスケたる所以だ。」
色合いとしては、それこそ栗鼠に近い印象。茶色に黒い縞模様。お腹の辺りも白に近い茶色。・・・その部分が黄色に見えるのだと言うのなら、俺が追求する必要もないが。
「あぁ・・・それはなぁ・・・。」
クロトは待ってましたとばかりに勿体を付ける。ちぃっ・・・まんまと見え透いた罠に掛かってしまったぜい。
「キスケはな、夜行性やねん。」
はぁい、そこまではある程度予測出来とります。俺は「それでぇ。」という頷きをする。
「真っ暗闇で見ると、目だけが黄色く光るんや。・・・初めて会うた時、めっちゃ怖かったわ。」
「殿は何時もその話を実際よりも大袈裟に話すのです。」
それはきっと血のせいだ。君達には理解しにくい理由だろうな。
「それはそうだろうなぁ、きっと。」
「なんでやねん。ほんまや。」
「いやぁ・・・暗闇の中だったら、お前の方が目すら光って見えないだろうに。」
技能を使わなかったら、きっと見えない。技能の種類によっては使用しても見分けはつかないだろう。いっそ目を閉じて気配を探った方が幾らかましなんじゃないかと思う。
「・・・ほんまやね。全く気付かへんかったわ。目から鱗やね。」
俺と一緒にキスケも呆れ顔で首を振る。彼とは話が合いそうだよ。
「キスケ、お前も大変だな。」
「そうとも言いますが、それが楽しいとも言います。」
「あはは。確かに飽きはしなさそうではあるな。」
「えぇ、全くです。」
「・・・ん。わいは何時も楽しいで。」
「知ってるよ。」
「なんでや。まだ会ったばっかりやろ。」
「それくらい、顔を見たら分かるよ。」
前世からの事情もあるのだろう。今のクロトの顔からは暗いものを一切感じない。不満が微塵もないかといえば、そんな事もないだろうが。
「そんなに顔に出てるんかなぁ・・・。」
「・・・たぶんな。」
これも年の功かもな。
「で、キスケの役割は・・・偵察か。それとも軍師。」
或いは。
「両方・・・かなぁ。自分で偵察をする軍師って感じやね。」
「武闘派が多くて大変そうですな、キスケ殿。」
「いえいえ、皆さんが強いので私の出番など殆どありません。助かっております。」
確かに。この面子で軍略が必要な状況がそうあるとは思えない。
「そうだな。殿自ら一番に飛び出しそうだもんなぁ。」
「そうですね。しょっちゅうです。」
ま、危険がないと判断してだとは思うが。
「・・・何時も、すまん。」
「大丈夫です。慣れてますので。」
その後、数言交わし、レッドンはキスケを乗せてその場を離れた。入れ替わるように深い海の様に青く、そして金属の様な光沢の鱗に包まれた魔物が近付いて来る。その長い身体とその他の部分の特徴から考えるに・・・魔物だが、おそらく。
「此方は、聖獣・青龍のコバさんや。」
やっぱりな。だが青龍か・・・って事は四聖獣がいるって事なのだろうか。大分東洋な感じもするが。うちにも麒麟がいる時点でたいして驚きはしないが。
「久しいな、青龍よ。・・・いや、今はコバ、だったな。」
「我らが顔を合わせるのは何年ぶりだろうな、麒麟・・・キリノインよ。」
やはりお知り合いでしたか。ここまでの道程で何度か気配を探っていた相手はこの方だったのか。対面してみれば納得もする。周りに纏っている雰囲気が良く似ている。
「お互いに、仕えるべき主を見つけられたようだな、コバよ。」
「ああ。喜ばしく思う半面、世界にとって良い事かは難しい所だな、キリノインよ。」
些か不穏な会話が交わされているのが気にはなるが。
「星獣って他にもいるのか。」
「それはわいも気になるわ。」
お互いに四聖獣が何たるかは詳しくは知らないが、それっぽい知識は前世で蓄えて来ている。故に気にはなる。
「いる。いるが・・・我々の様に世界に干渉しようとはしないかもしれないな。」
「そうだな、イッスンよ。基本的に聖獣とは観測者なのだよ。」
「世界の成り行きを見守るのが、役割だと・・・。」
そう解釈すれば、この世界の現状も理解は出来る。
「その通りだ、白兎殿。我等の力は決して小さいものではない。世界への干渉は極力しない様にしているのだ。」
そして自分達の力を託してまで救うべきだという判断には至らなかった訳だ。・・・この文明を築いた種族は。
「わいらは運がええちゅう事かな。」
おそらく彼等の思惑・・・というか、俺達から感じ取った何かがそういう選択をさせたのだろう。だけどそういう事にしておいた方が気が楽だな。
「・・・そうだな。殿はそれで良いと思う。」
「私もそう思う。クロト殿はそれで良いと思う。」
「俺もそれで良いと思う。」
「・・・なんや、皆揃って。気味悪いな。」
「ははは。気にすんな。それがお前の長所だって事だ。」
クロトは釈然としない顔をしている。俺達はそんなクロトを見ながら笑い合う。
「・・・まぁええわい。そんじゃ、いよいよ大とりや。」
そう言って、最初っからクロトの横で静かに座っていた灰猫の方を向く。
「えらい待たせたな。せっかくやから、最後に取っといたんや。」
そう声を掛けられて、満更でもなさそうに「ふん。」と鼻を鳴らした。トウオウは・・・普段通り表情は読めない。
「まぁ、イッスンはなんとなく気が付いてるとは思うけど。魔界出身の魔王や。」
でしょうね。そうじゃないかなと思っていましたよ。ノインとトウオウを紹介した時の反応も薄かったしな。聖獣も魔王もその存在を知っていたからこその反応だった。
「灰猫の魔王、アッシュや。」
うん。先程から何度か聞いているので知ってはいますよ。だがそう言ってしまうのは、あまりに無粋だ。改めてきちんと紹介するという時間だ。
「違う。吾輩は、アッシュではない。」
え。違うの。クロトを見ると「しまった。」という顔で右手で額を押えている。
「吾輩の名は、アッシュ・ザ・グレイキャットである。」
さも誇り高き由緒ある名前だと言わんばかりにそう言い放った。さっきまで組んでいた腕を越しに付けちゃってるし。自信満々の顔で。俺は目を半月状ににしてクロトの方を冷ややかに見つめる。
「・・・乗りと勢いで付けたら、えらく気に入ってもうてなぁ。」
「それで承認されてしまったのか。」
こういう響きを初めて耳にしたら、気に入ってしまう気持ちは分からんでもない。が、些かやり過ぎな気がする。トウオウは・・・小刻みに震えている。
「どうせ、お前も気に入ってはいるんだろう・・・。」
「せやね。我ながら格好ええのが思い付いたと思ってます。」
「まぁ・・・アッシュ自信が満足しているみたいだから良いけど。」
ブルートゥースの件もそうだが・・・知らないと思って適当に付けているようにも感じるが。変な名前を付けている訳ではないのだろう。響きの良さや格好良さで一生懸命考えているのだろう。・・・まあ俺もある程度直感に頼っているところもあるので、何とも言えないが。
「アッシュは魔王やから、めっちゃ強いんや。・・・ちょっとわいに手厳しいけど。しょっちゅうお説教されてるわ。」
「それはお前が阿呆な事ばっかりするからだろう。」
「そのクロトに付き合っている貴様も同罪だ。」
おっと。俺にもその矛先が向いた。とうとうトウオウが笑い始めた。
「・・・はい。すいません。」
「わいの所為で、申し訳ない。」
アッシュは再び腕を組んで白と黒の兎を睨み強めの鼻息を吐いている。クロトは何時もこれに晒されているのか。おそらく自業自得ではあると思うが。
「・・・一通り紹介が終わったみたいだな。」
「せやね。」
「なぁ・・・ちょっと聞きたい事がある。」
「・・・なんや、急に。」
「・・・人間に会った事はあるか。」




