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67、食事でもしながら。

 皆で天幕を二つ設置する。出入り口を向かい合わせにして、その中間でこの場にいる全てのもので食事ができる程の広さを確保して。ここまで来ると皆慣れたもので、淀みなく作業は進み、瞬く間に任務を完了した。

「・・・しっかし、よくこんなもの用意したなぁ。わいは思い付きもせんかったわぁ・・・。」

 今しがた俺達と一緒に設置した天幕を見上げながら感心している。

「ははは。ま、魔物なら普通こんな事はしないだろうしな。俺はただ、毎回安全な寝床を確保するのが面倒だなと思ってな。だったら簡単な結界みたいなものを持ち運べば良いかなと。」

「なるほどなぁ・・・。わいも今度作ってみるかな。」

「良かったら、一個やるよ。・・・良いか、ヤクモ。」

「主殿が良いのであれば、私達に異存はありません。」

 あまり良い顔をしないかと思ったが、そうでもなかった。

「ええんか。」

 申し訳無さそうにクロトはこっちを見た。

「あぁ、今了承を得た。一応、これを入れて四つ用意してあったんだ。」

「なぬ。そんなに作ったんか。」

「おう。万が一壊れた時の事を想定してな。だから一つ進呈しても特に問題はない。」

「そうか。それならありがたく。今度、何かでお返しするわ。」

「おう。ハク、後で設置の仕方をあっちの皆に説明してやってくれ。」

「は、はい。・・・で、えっと・・・どなたに・・・。」

 ハクのこの返事で気が付いた。

「あ。まだお互いの、皆の紹介がまだったな。・・・食事でもしながら、どうかな。」

「そういやそうやったね。そうしよう。わいも腹減ったわ。」

「あぁ、俺も腹減った。そして身体中が痛い・・・。」

 その言葉にモモカが反応して不安そうな顔を此方に向けた。俺は笑顔で「大丈夫だ。」と手を上げて応える。

「ハク、それじゃぁ・・・食事の後で頼めるか。」

「はい。分かりました、あるじ様。」

「ヤクモ、今度新しい天幕を作ろうな。改良もしたいしな。」

 使ってみて分かる事もある。何日もその中で過ごすと改善点も見えてくる。

「畏まりました。」

「良し。じゃぁ・・・食事の準備をしようか。」


 俺の号令で皆が動き出す。二つの天幕の間に焚火を作り、それを皆で囲んで座る。俺とクロトは隣り合って座り、俺の座った側から半円状に家族が並び、クロト側にはクロトの一家が同じく半円状に並んだ。俺とクロトは自分のアイテムボックスから大量の食料を取り出し、お互いに取り出したものの品定めをする。良し悪しを比べているのではなく、自分達の食べた事のない食材がないかと調べている訳だ。

「似てるけど、食べた事のないものが多いな・・・。」

「そやね。これは意外やね。」

 全くその通りだ。住む地域が違うとこうも違うのかと驚く。環境が違うと進化にも影響があるのはこの世界でも同じようだ。にしても、何がどう影響して、翠玉馴鹿みたいな魔物に進化するのかは不明だが。自分達の住処からこの場所に至る道程で収集したものに関しては、大きな差は無かった。

「でもこれは、お互いに振る舞えば良いって事だな。」

「分かり易くてええね。」

 意図を容易く汲み取って貰えて助かる。

「よっしゃ。ここからはわいの腕の見せ所や。」

 クロトは自分のアイテムボックスから、あるものを取り出した。俺はそれを知っている。だがこの世界へ来て初めて見る。そして俺は魔物になってから、それの必要性を感じた事がない。

「フライパンと包丁・・・。お前、料理するのか。」

「おおよ。・・・ま、ちょっと表面を焼く程度だけどな。おっさんはせえへんのか。」

「しないなぁ・・・。今の俺は調理したいと思わない、かな。生の方が美味そうに思える。」

「まぁ、それはそうやねんけど・・・。やってみたかったんや。」

 おっと。そういう事か・・・。そこまでは気が回らなかった。反省だ。

「そうか。調理すると何か効果があるのか。」

「んん、特にない。」

 楽しそうに明るくそう言い放った。こんな風に言われると気持ちが良いね。

「あ。煮込むと身体が暖まるぞ。」

「おぉ。それは良いな。」

 確かに寒い時には良いかもしれないな。今までは通年で実に穏やかな気候だったから、考えもしなかった。これから先どんな場所に行く事になるか分からないからな。暖を取ったり、涼を取ったりするのにとても効果的な気がするな。

「それから料理の技能が取得出来るで。」

 うん。それはなんとなく予測出来る。

「まぁ、じゃあとにかく、頼むわ。」

「任しとき。」

「あ、一応生のものも残しておいてくれ。」

「おぉ、せやね。」

 調理したものが食べられない、食べたくないものもいるだろうからな。クロトは楽しそうに食材を捌き始め、次々とその食材の表面を焼き始めた。

「手慣れてるな。技能は続けていれば上がるのは分かるけど。どれくらいやってるんだ。」

「んん・・・そうやねぇ。かれこれ一年ちょい位かなぁ。」

 問題は調理器具だ。この世界で金属の類を取得するのは、知らないと結構大変だ。俺達もそうだった。

「金属は何処で見つけたんだ。」

「近場に色んな鉱石の鉱脈があってん。・・・それには直ぐに気が付いてんけどな、それを採掘出来るまでに結構時間が掛かったわ。そんでもって、それを加工出来るようになるまでにも色々大変やったわ。」

 手際よく調理をしながら俺の質問に答えた。うん、美味そうな香りがする。不快ではないって事を考えると、調理したものを食べても問題はなさそうだ。前世の俺は猫舌では無かったが、兎の俺の舌はどうだろうか・・・。あれ・・・クロトが大丈夫なら俺も大丈夫なのではなかろうか。クロトが何かその為の技能を取得している可能性もあるが。一回食べてみてから考えよう。

「そうなんだ・・・。俺達は茸きっかけだったぜ。」

 そう・・・金属の塊の茸が。

「なんやって。一体どういう事やねん、茸って・・・。」

 あれ・・・クロトの住んでいた所には金属製の茸は生息していなかったのか。という事はご存知無い・・・。

「魔界に生息している茸か。」

 無愛想な表情でクロトに食材を運び、調理済みの食材を受け取っていた灰猫さんがそう呟いた。うん、どうやら魔界出身なのは間違いなさそうだね。

「そうだねぇ。ボク達の暮らしている森には、穴が開きっぱなしの場所があるんだ。」

 料理が珍しいのだろう、ジュウザやサイ達と一緒にクロトを取り巻いているトウオウが頭上から補足した。

「おい、南瓜の。貴様は子供等と遊んでいないで手伝え。」

 トウオウを鋭い目つきで睨みつけ、牙を剥いて唸った。

「はぁい。」

 トウオウはそう返事をして、出来上がった料理を運び始めた。なんだか楽しそうだな。

「ボクも運ぶよぉ。」

 サイは器用に鎖や念動力を使って運び始めた。するとハクやロックも一緒になって灰猫さんの指示に従い食材を運び始めた。

「ジュウザ兄ぃ、まだ食べちゃ駄目だよぉ。」

「お、おぅ・・・。分かってるよぉ・・・。」

「本当ですかぁ、ジュウザ兄さん。」

 本当ですか、ジュウザさん。口元から何やら液体が滝のように流れていますが。楽しそうですな。

「魔界の茸って金属なんか。」

「魔界にはそんな茸もあるって事だな。」

「なるほどなぁ・・・。そいつはびっくりやね。」

「俺も驚いたよ。」

「・・・っと。これくらいでええんちゃうか。」

「よぉし、じゃぁ飯にするか。・・・待たせたな、ジュウザ。」

 ジュウザは思ったより高く跳び上がり、皆の笑いを誘った。


 準備を一通り終え、再び席につく。クロトの「いただきます。」の号令で食事を始める。今日は俺も腹が減った。良く考えたら、朝食を食べてから何も食べていなかったよ。しかもその殆どの間、クロトと派手にじゃれ合っていたからな。腹も減る訳だ。焼いた肉を口にする。・・・確かに味わいは変わる。が、極めて美味しいとは感じない。気分の問題かな。決して不快なものでも無い。

「・・・あんま変わらんやろ。香りと気分やね。」

 悪戯小僧みたいな笑顔で俺を見ている。

「そうだな。・・・だが、温かいのは良いな。」

 俺も正直に笑顔で応える。

「完全にわいの自己満足やね。」

「大事な事だ。・・・と、俺は思う。」

「わいもそう思う。」

 俺の家族は一応一度口に入れていた。ノイン以外は。そもそもノインは肉を食べない。ロックは肉は食べないが、魚は食べる。一様に首を傾げている。しかしロックは焼いた魚が気に入ったご様子で、普段より食が進んでいる。なによりだ。その中で一番意外だったのはトウオウが「美味しい。」と言っていた事だ。トウオウは本来食事は必要としてはいないらしいんだが、食べる事自体は嫌いではないらしい。たぶん皆と食事をするという行為が好きなのだろう。・・・それよりもだ。確かに口に運んでいる事までは確かなのだが、咀嚼しているとは思えないんだよなぁ。南瓜の仮面の中の黒い空間に吸い込まれている様にしか見えないんだよな。あれで味を感じ取れているのだろうか。だが、トウオウ自身が美味しいと言っているのだから、きっとそうなのだろう。

 クロト側の陣営では、クロトと灰猫さんが調理したものを食している。・・・魔界出身者は料理の文化があるのかな。

「・・・そんな事よりもだ。おいクロトの、貴様。」

「な、なんやねん、急に・・・。」

 切り分けられた焼いた肉を串の様なもので突き刺して口に運びながら灰猫さんがクロトにそう言った。

「そこの白兎のは・・・皆に指示を出して、おそらくそこの白い狐と聖獣の麒麟が結界を張っていたのだぞ。貴様達が盛大にじゃれ合っている間中な。」

「そ、そうなんか・・・。」

 クロトはモモカの方を見た。

「・・・はい。拙い結界ではありますが。」

 モモカは厳かに頭を下げた。

「そんな事はないぞ、モモカよ。モモカの結界は私のものより強固なものだ。私のはどちらかと言えば、簡易的な聖域を作り出すと行った方が正確だな。」

「恐れ入ります。」

「そうなんかぁ・・・。」

 ・・・そうなんだぁ、確かに決壊は二重になってるなとは思っていたけど、全然気が付かなたったよ。モモカの結界はそんなに凄いものだったのか。ま、ノインはそれが分かっていたから聖域術に重きを置いたのだろう。

「私のは・・・あくまで念の為と言ったところだ。」

 そういうノインの顔は何処か誇らしげに見える。勿論俺も誇らしく思う。

「そらぁ、えらい申し訳なかったなぁ・・・。」

 モモカもノインも「大した事はしていない。」と謙遜した。もっと自慢しても良いんだぞと思わんでもないが。これも美徳ではある。

「そういう事ではない、クロトの。貴様がきちんと指示を出さないから、吾輩達は傍観者になっていたのだぞ。あやつらは貴様に忠実な分、指示のない事は行わないのだぞ。分かっているのか。」

「はい・・・えらいすんません・・・。」

 正座をして肩を落としている。小さい身体が一段と小さくなっている。同等の小ささの俺が言うのもなんだが。

「まあまあ、許してやってくれよ。特に大きな問題は無かったんだし。」

「・・・ふん、まぁ良い。此奴を甘やかすのは気が進まんが、今回は貴様に免じて、許してやる。」

 なんとか治まったようでなにより。クロトは「ありがとうなぁ。」と俺と灰猫さんに手を合わせて礼を言った。

「じゃぁ・・・この流れで、俺の家族を紹介するか。」


 出会った順に紹介していく。まずはヤクモとモモカの美しき白い狐の兄妹。

「こっちが兄のヤクモ。で、こっちが妹のモモカ。」

 ヤクモとモモカは頭を下げる。

「あんさんは、えらいぎょうさん尻尾が生えとるねぇ。」

 まぁ、そこに食いつくよな。俺も所見ならきっとそうなる。

「あぁ、進化の過程で一本づつな。」

 俺が解説する。

「お。という事は、最終的に・・・。」

 クロトの言葉が出終わる前に、俺は右の人差し指を自分の口の前に立てる。

「・・・何本になるか、楽しみやねぇ。」

 目だけで感謝を伝える。クロトは笑顔で応える。俺とクロトには共通の知識があるが故に答えが予測できる。まぁ、それがはたして正解なのかは不明だが。もしかしたら予想より多いかもしれないし、少ないかもしれない。・・・倍以上だったらどうしよう。そうなるとヤクモはどちらが本体か分からなくなってしまいそうだな。

「・・・で、あそこの蛇の一家が、スーアン。その子供達が・・・こっちから、ジュウザ、サイ、ハク、そしてミナ、だ。」

「こっちはえらい、個性豊かやね。一見すると家族とは気づかんね。でも顔を見るとよう似とるから納得やけど。」

 確かに。個性派揃いなのは間違いないね。

「な。実は眼鏡蛇の一家でした、出会った時は。」

「眼鏡蛇・・・何がどうしてん。」

「ははは。それはまた後でな。取り敢えず皆の紹介を先にな。」


 少し離れた所で既にあちらさんの小柄な桃色の・・・虎か猫かの魔物と交流を深めていたロックやフタバ達をミナに呼んできてもらう。それと入れ替わりでジュウザとサイがその桃色の魔物の相手をしてくれるようだ。流石はお兄ちゃん達、面倒見が良い。

「この小柄な熊が、ロック。天使で俺の弟子だ。」

「弟子、かいな。・・・って、天使て。そら可愛らしいのは分かるけど。」

「ははは。・・・ほら、ロック。ちょっと背中を見せてくれないか。」

 ロックは小さく頷いて背中を俺とクロトへ向けてくれた。

「・・・な、天使だろ。」

「ほんまや・・・。それも複数枚・・・。まじか。」

「今の所、毛の色がそんな形をしているってだけだけどな。」

「そうなんか・・・。でも可愛らしくて、ええやん。」

「一応、種族も天使って付いてるんだけどな。」

「なんやって。そんなら・・・もしかして・・・。」

「それは俺にも分からん。そして詳しくは、また後でって事で。ロック、ありがとうな。」

 ロックは向き直り、「うん。」と頷いて当たり前の様に俺の横に座った。思わずロックの頭を二回撫でてしまった。そして、次は、えぇと・・・。

「クロトならなんとなく察しがつくだろうが、聖獣・麒麟のキリノインだ。」

 そう紹介されたノインは「宜しく頼む。」と礼儀正しく頭を下げた。

「麒麟かぁ。初めて見たわ。・・・お酒の会社の絵では見た事あるけど。飲んだ事はないけどな。」

 確か十代だったな・・・。酒も飲めなかったのか。ずっと入院してたんなら尚更だ。酒が必ずしも良いものだとは言わないが、全くの未経験というのは些か不憫な気もするな。自分にとっての良し悪しくらい確かめさせてやりたい気もするなぁ。ただ問題なのは、今現在の俺自身が酒を飲みたいと全く思わない事だ。そう考えると、この世界に転生した事は良かったのかもしれないな。

「いや、俺だって麒麟を見るのは初めてだ。」

「はは。そらそうやね。」

 にしても、聖獣っていう点にもそんなに驚く様子はない。つまり、それくらいは想定内って事か・・・。

「で、そのノインの頭の上にいる梟が、フタバだ。」

「あい。」

 俺に名前を呼ばれて、嬉しそうに返事をした。相変わらず夜は元気だねぇ。・・・最近は昼間も元気だけどな。俺とクロトが殴り合っている間は殆ど寝てたみたいだが。きっと全く危険がないと分かっていたから、安心して寝ていたんだろう。そして殴り合いは興味がないんだろうな。

「可愛らしい子が沢山おるねぇ。」

「歌が大好きでな。ほっとくと一日中歌ってるよ。」

「・・・歌かぁ。ええね。・・・今度わいも楽器の一つも作ってみるかな。」

 楽器か。考えた事も無かったな。そういうのは全く通って来なかったからなぁ。

「何か触った事はあるのか。」

「ない。でもやってみたいやん。楽器弾けたら格好ええやん。」

「確かに。でも全くだと知識もなくて、合ってるかどうかも分からないんじゃないか。」

「それは・・・おそらく大丈夫やないか。なんてったって、わいらには技能っちゅうもんがあるやん。」

 なるほど。確かにその通りだな。絶対音感でも取得したらなんとかなりそうだな。趣味の為に技能を取得する、か。それも良いな。俺も余裕ができたら考えてみようかな。

「そして、この浮いている南瓜が、トウオウだ。魔王だ。」

「お菓子を渡さんと悪戯されそうやね。・・・魔王ちゅう事は、魔界出身やね。まぁ、そうやろうとは思っとったけど。」

 魔王に対する驚きはない。やはりなと・・・。それが何故なのかという答えは大体予測出来る。そしてその答え合わせは、後で直ぐにできるだろう。

「最後は・・・。ミナの腕の中で舟を漕いでるのが、この旅の途中で加わった、サツキだ。針鼠だ。」

「わいが言うのもなんやけど、本当にちっさい子が多いねぇ。賑やかそうでええねぇ。」

「そうだな。皆、好奇心旺盛で大変な時もあるけどな。」

「そら確かに大変そうやね。・・・でもわいの方でなくて良かったわ。」

「ん・・・子供は嫌いか。」

「そうやない。わいが子供やから。子供に何も教えてやれんわ。」

 随分と客観的に自分の事を見ているな。それでもお兄ちゃん位の事はできると思うのだが。

「そんな事はないと思うんだけどな。それに俺にも親の経験はないんだ。」

 それに男なんて何歳になっても男子のままなんだよ。三十代になってから気付く驚愕の事実。

「それでもわいよりは経験や知識は豊富やろ・・・。」

「気にし過ぎだと思うけどな。・・・しょうがねぇな。じゃぁ、衝撃の事実を教えてやろう。家族の中で、俺が一番年下だ。」

 自分で言っていて驚く。

「・・・それな。それは、わいもや。」

 でしょうねぇ。なんとなくそんな気はしていたが。

「そんな俺でも、親の真似事位は出来るって事だ。だからクロトも大丈夫だと思うぞ。」

 ちゃんとその役割を全う出来ているかは分からないが。

「ありがとうな、イッスン。」

「あんまり難しく考えるなよ。」

「はは、そうやね。」

「・・・これで一応皆紹介したかな。」

 そんな事はないと思うが、それを確かめる様に見渡す。

「いやいや・・・おっさん、しっかりせぇよ。」

「ん。俺は誰か紹介し忘れてるか・・・。」

 今一度全員の顔を確認してから、クロトに視線を戻す。俺と目の合ったクロトは、小さく溜息をつき首を振ってから、俺を指差した。・・・あ。

「俺か・・・。」

「せや。一応頼むわ。」

 いやぁ、完全に忘れてたな。本来なら一番始めに自己紹介をするべきだったな。

「そうだな。仰る通り。まずは、自分の名も名乗らずに失礼した。非礼を詫びよう。」

「いやいやいや、そこまで畏まらなくても・・・。」

「ああそう。じゃあ・・・。」

「落差っ・・・。」

「いやぁ、一応やっとこうと思って。」

「面倒くさ。」

「そう言うなよ。ちゃんと反応してくれる相手がいるから嬉しくて、ついな。」

「・・・気持ちは解る。」

「ま、冗談はこれくらいにして・・・。」

 本音を言えば、こういうくだらない話をずっとしていたいところだが。これ以上続けてると話が進まないからな。

「俺は、イッスン。白い兎だ。夢は獣神になる事だ。宜しくな。」


 そして俺が最初にいた森の話や簡単な家族の特徴や役割を説明した。そしてその森を出て旅をし、この場所に至る経緯を話した。取り敢えず、皆に出会った時の話や様々な出来事の話はクロト側の紹介が終わってからという事にした。勿論、皆の見た目もかなり個性的なので質問もあるだろうが、それも後程と相成った。

「それじゃあ今度は、わいの方の皆を紹介しないとな。」

 そう言ってクロトが自分の側の仲間達に視線を向けると、彼等は近づいてきて決められた立ち位置でもあるのかなと思われる程収まり良く並んだ。

「あ・・・そうだ。」

「なんや、やっぱり誰か忘れてたんか。」

「違う違う。そういえば旅の途中で、ブルートゥースに会ったぞ。」

「・・・なんやと。」

「正確には、ブルートゥース率いる狼の群に、だけど。俺達以外に名前が付いてる魔物となると、やっぱりクロトの仲間って事で良いのかな。」

 この世界に俺とクロト以外に転生者がいて、俺達と同じ様な生活を送っている可能性も無いとは言えないが。ブルートゥースも「殿」って言ってたし、ほぼクロトの仲間と考えて間違いはなさそうではあるが。そしてその殿と俺が似ていると言っていた事も。

「せやね。そらぁ、間違いなくうちの狼隊やね。」

「斥候か。」

「そうやね。一応安全そうな所だけでええって事で。にしても、えらい遠くまで行ったなぁ。」

「もう少し西に行くって言ってたぞ。」

「一体何処まで行くつもりなんやろ。・・・ま、そのうち帰って来るやろ。」

「しかし凄えな。別動させるなんて。」

「あいつが言い出したんや。わいはそんな事せんでもええって言うってんけどな。」

「自主的に・・・か。」

「そうやね。そもそもあいつは放浪する種族やからな。習性みたいなもんやね、たぶん。」

 そういえば「旅団狼」だったもんな。この広大な大地を回遊するのが本来の生き方なんだろう。それが誰かに仕えたとはいえ、一所に留まるのは性に合わないのかもな。

「行く先々で、逸れ狼を従えてるみたいだったけどな。」

「なんやと・・・。また大所帯になってまうなぁ。・・・で、ブルートゥース以外に何頭おった。」

 ・・・んん、えぇとだなぁ。腕組みをして目玉だけを上に向けて、その時の映像を思い出してみる。

「確か・・・七か八・・・だった気がする。」

 この世界で最も信用の出来ない己の記憶。

「また増えとるね・・・。五頭の小隊だったはずなのに、二つ分ぐらいになっとるやん。・・・まあ、ええけど。」

「おっと。とにかくブルートゥースには会った事あるぞ、と。話が逸れちまった、そちらの皆さんを待たせっぱなしにしてた。申し訳ない。」

「あぁ、そうやったね。・・・それでは改めて、わいの自慢の仲間達を紹介しようかね。」

「ああ、宜しく頼む。」

 体勢を整える為に一呼吸して、向き直った。

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