64、全部乗せ。
数は同じ位だろうか。影形を見る限り、俺達よりも多種多様の様だ。ある程度離れているとはいえ、ここから受ける印象としては、若干の逆光の影響もあるのかもしれないが、全体的に黒い。そして、でかい。但しどんな魔物であるのかまでは、まだ視認出来ない。・・・まぁ、技能を使えば見えない訳でもないのだが、せっかくだから楽しみはもう少し後に取っておく事にしよう。
俺達はその場に立ち止まり、様子を伺う。あちらも様子を伺っているらしく、立ち止まっている。さて、どうしようかね。
「主殿、どうされますか。」
「そうだなぁ・・・。たぶん俺達と敵対するつもりはないだろう。それでも不必要に刺激したくない。」
「そうですね。私も無駄な争いは避けたいところです。・・・かなりの強さのようですし。」
その通りだな。故にヤクモだけでなくモモカやスーアンも緊張気味なのだろう。それはどうやら、あちらさんも同様のご様子だけどな。それに引き換え、子供達ときたら、伸ばせるだけ首を伸ばしてるし。ジュウザとサイなんか、もう殆ど一本の棒みたいになっている。流石にフタバはミナに抱き抱えられて、静かにするように言い付けられている。それでも静かにはしているものの、抱き抱えていないと飛んで行ってしまいそうな程身をミナの腕から乗り出している。楽しそうで何より。ハクは事態がある程度理解できているらしく、その所為で緊張しているようだ。サツキは何が起きているのか良く解ってはいないみたいだが、それでも周りの皆の緊張感が伝わっているらしく、それに同調するように緊張している。・・・で、ロックはというと。全く持って普段通り、どこ吹く風。相手に敵意が無い事が本能的に判るのか、付近の建造物跡や野草の観察に余念がない。・・・我が弟子ながら、凄いやつだよ。
「かと言って、此処で睨み合っててもしょうがないしな。」
「とにかく会いに行ってみるより他にないのではないかな、イッスンよ。どうやら私の古い知り合いも居るようだし、おそらく大丈夫だろう。」
なんですと。聖獣・麒麟の古い知り合いとな。という事は、そのお相手も聖獣の類なのかしら。・・・十中八九、そうだろうな。それは楽しみだな。
「そうか。ま、それでも皆で行くと余計な刺激をしちゃうかもしれないからな。まずは俺だけで行ってみるとするかな。」
「それは・・・少々危険なのでは。」
ヤクモの心配は尤もだが、おそらく大丈夫だろう。あくまで俺の勘でしかないが。
「たぶん問題ないさ。きっとあっちも出てくるさ。「殿」ってやつが、ね。」
なぜならそいつは俺と同じ転生者の可能性が極めて高いからだ。
「殿・・・おぉ、なるほど。承知しました。」
思ったより簡単に納得したな。今の会話の何処にその要素があったのか。そういえばヤクモはブルートゥースと、たった一晩だけだが随分と仲良くなっていたからな。その分その友が殿と呼ぶ存在にある程度の信用をしているのかな。うん、それは決して悪い感じ方ではないと俺は思う。
「イッスンの、ボクも一緒に行こう。」
おや、これは予想外の方向からのご提案。
「おぉ。その心は。」
「イッスンのと似たような理由かな。ボクが行けば、きっとあいつも出てくる。」
正面に対峙している一団の中にいるであろう意中の相手を遠くに見据えながらそう答えた。
「なぁるほどぉ・・・。」
という事は、そのお相手は魔物ではなさそうですねぇ。しかもトウオウのお知り合いならば、好戦的とは考え難い。その上、知性も高そうではある。話が通じない事もなさそうだ。・・・あくまで憶測だが。
「それじゃ、お供をお願いするかな。」
「礼を言うよ、イッスンの。」
そんな事はない。むしろトウオウの方から何かをお願いされる事の方が珍しい。基本的にはどんな事に対しても、なるべく見守る姿勢を貫いてるからな。勿論皆との交流に関しては積極的にしている。特に子供達にはしょっちゅうちょっかいを掛けている。反応が楽しいのだろう。そして、何でも吸収する感じと、思いもかけぬ発想で新しい発見をするのがもっと楽しいのだろう。
「トウオウ殿が共に行かれるのなら、私も安心です。」
ヤクモは俺のお供をするのが自分でない事を微塵も不満に感じていない様子だ。むしろ本当に安心している様に見える。トウオウに対する信頼も厚い。トウオウの実力も少なからず感じ取れているからなのだろう。できたやつだよ全く。何時も思う、俺には勿体ない程の臣下だよ。
「大丈夫さ、ヤクモの。ノインのも言っていた通り、争いになるような事にはならないよ。ボクは特に何もしないよ。ちょっと我儘で付いて行くだけさ。」
「それでも皆は安心するものさ、トウオウよ。」
きっとノインの言う通りだろう。
「そうかい、ノインの。ならそういう事にしておくよ。」
「じゃ、トウオウ。行ってみようか。」
他の皆には申し訳ないが此処で待機してくれと伝えてから、ゆっくりと前へと歩き出す。さて、あちらさんは俺の意図を汲んでくれるかな。鬼が出るか蛇が出るか。一勝負と行こうかね。・・・いや、実際に勝負になるのは御免被るが。可能性として零ではないからな。念の為モモカとノインに付近の警戒等を頼む。気配を探る限り、問題はなさそうに思えるが。緊張感を持って臨もう。・・・それじゃぁ、あらためて、始めようか。
軽く一呼吸してから、ゆっくりと俺達とあちらの一団との中間地点を目指して歩き出す。トウオウはその俺の少し後方の少し上を、俺の歩行速度に合わせて付き従う。久し振りの再会に緊張しているのか、普段より口数が少ない・・・のかな。それこそ普段通りトウオウの表情から感情や思考を読み取るのは極めて困難だ。つまり、全く分からない。
「緊張しているのかい、イッスンの。」
おっと。逆に俺が聞かれてしまった。トウオウにはそう見えていたのだろうか。
「そりゃぁまぁ、多少はな。」
俺だって相手が未知の存在なら何であれ緊張はするってもんだ。しかもおそらく俺の直感が正しければ、かなり重要な邂逅になるだろうからな。それは向こうも同じであると考えたいが・・・さて、どうだろうか。せめて話が通じる、最低限で良いから会話が成り立つ相手だと良いんだが。
「まぁ、あいつが一緒にいるくらいの相手だ。大丈夫さ。」
ふむ・・・。余程そのトウオウのお知り合いの事を信用しているみたいだな。そんな相手がいた事実がなんだか嬉しい。
「そうか。トウオウがそう言うなら、きっとそうなんだろう。・・・ありがとうな、少し期が楽になった。」
「はは。そういう事にしておこう。」
「お。思った通り、向こうも出できたな。」
その影は此方と同じく二つ。良かった、どうやら話が通じそうな対応だな。だが・・・その二つの影は両方とも二足歩行なんだが。まぁ良いか。
「どうだ、トウオウ。お相手はお前の誘いに乗ったか。」
「うん。思った通りだよ。」
そう答えたトウオウの声は、心なしか嬉しそうだ。どちらかが知り合いなのは確からしい。そして野生に二足歩行の魔物は存在していない・・・はず。ミナのように自ら望んで二足歩行を取得しなければの話だが。って事は魔界にいた頃の知り合いと考えるのが妥当だろうな。魔界にはあまり良い思い出がなさそうに思えるが、その中にあって、その再会が喜ばしいと思える相手ならなによりだ。俺も楽しみだ。そしてもう片方が「殿」と呼ばれる存在で、俺と同じ転生者と考えるのが妥当だろうな。
「一応、思惑通りって事で良いんだよな。」
「まぁ・・・そうだね。」
ふむ。思惑通りの割には、随分と落ち着いているな。普段のトウオウなら、楽しみだという感情が漏れて、左右に小さく揺れているところだが・・・。先程は嬉しそうな返事をしていたと思ったんだけど、俺の思い違いだったのかな。ま、トウオウにだって色々あるんだろう、進んで話さない事を敢えて追及する必要はないだろう。それに多分その答えはこの後に分かるだろうしな。
俺達は一足先にお互いの中間地点付近に到着し、相手の到着を待つ。その相手は特に問題は無いにしても、一応周囲の確認をしてみる。特に警戒する必要のありそうな気配は無い。この付近が文明圏内なのは確かだが・・・それでもこの静けさのようなものは、些か不自然にも感じる。今までとは違う緊張を感じているから、少し過敏になっているだけかもしれない。
近付いて来る二つの姿がはっきり確認出来る様になる。
「おい、嘘、だろ・・・。」
俺の目に映ったのは、二足歩行の兎。それも黒い兎。その右隣に二足歩行の灰色の猫。只、それだけなら「おい、嘘だろ。」にはならない。相手が転生者であることを前提に考えれば二足歩行である事くらいは想定内。どちらかが転生者で、もう一方が魔界出身者だろう。そしておそらくはこの灰色の猫の方ではなく、黒い兎の方が殿と呼ばれる転生者の可能性が濃厚だ。なぜならこの黒い兎は俺のような角こそ無いが、目の部分だけを覆う仮面を装着しているからだ。それこそ兜こそ被ってはいないが、赤い三倍の人が己の素性を隠す為に着用していた様な仮面を。
「んん、何が嘘なんや。わいは本気やねんけど。」
黒い兎はそう言って満足気に歯を見せて口角を上げた。その口元を見て俺は更に驚きが増す。驚きのあまり、決して恐れからではなく、身体が震え始める。開いた口が塞がらない。
「・・・いや、お主は充分にふざけていると思うがな。」
黒い兎の隣に立っている灰色の猫が呆れ顔で首を振りながらそう言った。・・・見た目から想像していたより渋い声だな。いや、それよりもこの灰猫も色々と突っ込みどころを搭載しているが・・・今際取り敢えずその件は横に置いておこう。それよりも、だ。
「お、おい、お前・・・正気か。」
「な、なんや、初対面の相手に随分と失礼やないかい。」
「同じ兎で色違い。ここまでは、ある程度想定内だからまぁ良いさ。だがその上に、仮面付きで、関西弁で、八重歯だとぉ。」
「お、おぉぅ・・・。それがどないしてん。」
「全部乗せか。好敵手設定の全部乗せか。ふざけてんのか。」
「ふざけてへんわい。兎で色が黒いのは、わいが選んだんちゃうわい。って言うか、色違いはお互い様やないかい。それに関西弁はこの世界に生まれる前から標準装備じゃ。自分で上乗せしたんは、この八重歯だけや。最初は噛み付き以外に戦う方法が思い付かんかったんじゃい。・・・仮面は、まぁ、遊び心やね。」
「あぁ、そうなの・・・。それは・・・なんか、すまん。」
「ぉお、おぅ・・・。分かってくれたんなら、ええんやけど。ま、まぁ・・・良く考えたら、爪とかあってんけどな。」
「そうだよなぁ・・・。俺は始めから、この角があったからなぁ。」
「そうなんかぁ、ええなぁ。わいは角が生やせる様になった頃には、必要無くなっててん。」
「そっかぁ・・・。大変だったんだな。」
「あぁ、大変だったわぁ・・・。」
「分かるぜ。」
「分かってくれるか。」
「そりゃぁ、分かるさ。俺だって、兎だからな。」
「そう言われれば、そうやった。」
黒い兎がそう言い終わると、お互いに顔を見合わせる。そして込み上げて来る笑いに肩を震わせる。それだけできっとお互いに似たような苦労をしてきたのだろうと伺い知れる。
一頻りお互いに笑い声を大空へと投げ飛ばした後、一呼吸して息を整える。
「イッスン、だ。」
まずは名前から。
「クロト、や。」
右手の肉球を重ね合い悪手を交わす。
「しかし、イッスンか。それは・・・本名・・・ではなさそうやね。」
「おぅ。あだ名だな。お前は、本名か。」
この名前の由来の説明は後程にしよう。
「せやね・・・多分。」
多分か。ま、そんなものだよな。
「名字?名前?」
別にどちらでも構わないのだが、一応。
「多分、名字やね。よう覚えてへんけど。」
「ま、良いじゃねぇか。俺の本名はどっか行っちまったからな。」
「そらぁ・・・ご愁傷さま、やね。」
「それが意外とそうでも無いんだよな。」
「それは・・・わいも、そうやね。」
「イッスンって名前、結構気に入ってるしな。」
「わいもや。黒兎で、クロト。丁度ええやろ。」
「確かに。・・・それよりさぁ。」
「・・・何やねん。」
「そろそろ、その仮面を外したらどうだ。」
「あ。それもそうやね。・・・これ、視界が狭まって良く見えへんのよ。」
そう言いながら仮面を外した。
「だから吾輩はやめた方が良いと言ったのだ。」
鍔の広い帽子を被り、腰に細身の剣を帯びた、長靴を履いた灰猫が、腕組みをし、そっぽを向きながらそう言った。
「そう言うなやぁ。こんな機会滅多にないから、やってみたかってん。」
クロトは外した仮面をアイテムボックスに放り込んだ。多分俺と同じ境遇だからアイテムボックスで合っているとは思うが。
「すまんな、白兎の。此奴は少し阿呆だが、悪い奴では無いのだ。」
灰猫は溜息をつきながら首を横に振った。殿と呼ばれている割には随分な言われようだな。
「いや、そう言ってやるなよ。気持ちは分からんでもない。俺も思い付いていたら同じ事をやってたかもしれないしな。」
「そうだねぇ・・・。イッスンの、君ならやりかねない。」
おや、此方も随分な言われよう。そして反論出来る要素はない。
「ふぅ・・・っ。兎とは皆こうななのか。」
それは、俺達以外の兎に出会った事がないので、否定も肯定もできない。しかし辛辣な猫だな。声は渋いけど。・・・って言うか、それよりもだ。
「・・・おい、細目まで上乗せするのか。」
「何やと。わいの目に文句があるんか。」
「いやぁ・・・最高だな、クロト。」
右手の親指を立てて、そう答える。
「せやろ。」
クロトは両手を腰に当てて高笑いする。俺も一緒になって笑う。その光景を見て、トウオウは笑い、灰猫は額に右手を当てて首を振っている。
さて、この後はどうするかな。取り敢えず皆を集めて、お互いに自己紹介でもする流れかな。
「どうする。近くの家・・・だったと思われる所にでも入ってみるか。」
辛うじて家の様相を呈しているものを指差しながら聞いてみる。
「それもええねんけど・・・。こういう時は、まずは・・・。」
おやぁ・・・。これは。
「えぇ・・・やるのぉ・・・。」
「それは、やるやろ。」
そうなるのかぁ。俺も男の子だ、気持ちは理解できる。
「おい、何をするつもりだ。・・・どうせろくな事ではないのだろう。」
灰猫さん、おそらくその通りだと思われます。そしてこの感じはきっと理解出来ないだろうな。俺達は只の男の子ではなく、地球という星の、とある島国の出身の男の子なのが問題なんだよ。その全てがそうという訳ではないが、こういう状況を飲み込み易い環境で育ってしまった事が大きな問題なのだよ。・・・申し訳ありません。
「今からかぁ・・・。」
「気が乗らへんか。」
「まぁ、気持ちは分かるから、別に良いんだけど。後で改めてじゃ駄目か。」
「それでもええんやけど・・・。わいは、今気持ちが高まってん。」
そうかぁ・・・。同郷の、しかも男の子とこの世界で出会えたら、そうなるよな。自分のやりたいことを理解してくれそうだもんな。・・・しょうがねぇなぁ、付き合ってやるか。俺もやってみたくないって言ったら、嘘だしな。しかしこの台詞を素で言う事になるとは思っていなかったな。
「ふぅ、やれやれだぜ。」
俺の答えを聞いて、クロトは本当に嬉しそうな顔をした。アイテムボックスに手を突っ込み、何かを準備し始めた。ほぅ・・・武器を使うのか。普通そうなるよな。俺みたいに文明の利器をなるべく持ち込まないなんて、自分で難易度を上げるような事はしないよな。
しかし先程からトウオウが静観しているのが気にはなるが。トウオウに限って緊張って事はないだろう。きっと何か思う所があるのだろう。
「おい、クロトの。何をしている。」
「見たら分かるやろ、戦いの準備や。」
「やはり・・・そんな事だろと思ったよ。」
良き相棒のようでなにより。この世界でそういう仲間に出会えて良かったな。勿論それは俺自身にも言える事だが。そしてクロトはどうやら手甲のようなものを装着しようとしているらしい。
「クロトは武器を使うのか。」
武器を使用することを批難するつもりはない。拘りがありそうな気がしたから聞いてみたかっただけだ。
「おぉ・・・そうや。だってあんさん、その剣使うんやろ。それを素手で受ける訳にもいかんやろ。」
あ。そりゃあそう思うよな。
「これは・・・武器じゃないんだ。」
腰に携えてある小剣の柄を掴む。
「え。それ、武器とちゃうんかい。」
「そうだな。」
「じゃあ何やねん。わいの仮面と同じ仮面かいな。格好ええから付けとんのかい。」
「これは武器じゃなくて、どちらかと言うと道具だな。・・・そうだな、わかり易く例えると、狩猟民御用達の素材剥取用だな。」
本当にわかり易いかは、甚だ疑問だが。ちょっとした知識があれば簡単に伝わるはずなのだが。
「おぉ、なるほど。じゃあ武器は何を使うんや。」
良かった、どうやら問題なく伝わったらしい。むしろ我が祖国の基本的な文化の知識とはいえ、当たり前の様に伝わるのも凄いな。特に男の子なら一度くらいは触った事はあるのだろう。触った事が無かったとしても、何処かで目にしたことくらいはあるに違いない。そう考えると・・・やっぱり凄い事だな。
「俺の武器は・・・こいつだ。」
そう言って、右の膝を上に上げてみせる。
「何やと・・・。」
「俺は基本、いわゆる無手だ。」
「そ、そうなんか・・・。」
「俺は武道の心得があるからな。多少なりともその・・・矜持みたいなものがあるのさ。」
正確に言うと合気は武道ではなく護身術に近いんだけどな。
「武道かいな。何をやってたんや。」
「それは・・・せっかくだから、後のお楽しみって事で。」
「くぅっ、そう言われたらしゃあないなぁ。」
楽しそうに笑っている。クロトとは気が合いそうだ。現時点では唯一の同郷出身者が仲良くなれそうなやつで実に喜ばしい。
「って事で、こいつは使わない。」
そう言いながら、腰に巻かれた帯を解いていく。
「じゃぁ、イッスンの。そいつはボクが預かろう。」
今まで沈黙を貫いていたトウオウが唐突に声を掛けてきた。だが些か不可解ではある。この小剣なんかそのままアイテムボックスに放り込んでしまえば良い。それを理解していないとは思えない。何か意図があるのだろう。
「おう、頼むよ。」
トウオウは俺の近くまでゆっくりと降下してきて、ガガ小剣を受け取った。そしてクロトの側にいる灰猫に視線を向ける。
「久し振りだね、灰猫の。」
そうか、本命はこっちか。この灰猫に話しかける機会を伺っていたのか。
「ふん。貴様には言いたい事が山程ある。」
トウオウに声を掛けられた灰猫は不機嫌に睨みつけそう答えた。
「分かっているよ。」
一言では言い表すのは難しそうな、色々な感情の入り混じった声だ。
「だが・・・それは後程だ、南瓜の。阿呆な我殿と馬鹿な貴様の主がこれから一戦交えるみたいだからな。」
ははは。えらい言われようだな。全くその通りではあるが。
「そう言うなやぁ。わいが阿呆なんは認めるが、あんさんはわいの我儘に付き合うてくれてるだけや。失礼な事を言うなや。・・・すまんなぁ、イッスン・・・さん。」
クロトはせっかく装備した手甲を外しながらそう言った。
「全く問題無い。それに「さん」は、いらない。どうせこの世界じゃ、同い年だろ。・・・だよな。」
俺とクロトは顔を見合わせた。同時に画面を開き、年齢の項目を確認して発表し合う。
「一日違いやね・・・。わいの方が一日少ないな。」
「やっぱり時間的にはほぼ同時と考えるのが妥当かな。」
「それはそうやろね。でもこの一日の差は何やろね。」
「おそらく最初の位置・・・かな。」
「最初の位置・・・。それでなんで差がつくんや。」
「日付変更線の位置の問題かな。」
「なぁるほど。」
「だから実際には半日くらいの差しかないんじゃないか。」
「せやね。」
「有って無いような差だな。同じで良いんじゃないか。」
「そうやね。でも一応わいが弟って事にしとこ。」
「クロトがそうしたいなら、俺も特に問題は無いけど。俺が弟でも良いんだぞ。」
「えぇ・・・。」
「何だ、不満なのか。」
「そないな事もないねんけど・・・。イッスンはんは何歳やったん。」
「俺は・・・多分四十代だな。だけど正確なのは覚えてない。すまんな。」
「えぇっ・・・。わいの倍以上やないかい。」
「え。そうなのか。」
と、なると・・・十代だったのか。
「わいは十九やね。」
「そうか。それは・・・なんというか・・・。」
「あはは。気にせんといて。後で詳しく話すけど、わいは今の生活が気に入ってるんや。」
そう言ったクロトの顔はその言葉が嘘でなかった事を示していたので一安心だ。
「そうか、それなら良いんだ。」
「つう事で、イッスンはんがお兄ちゃんって事で。」
「ああ分かった、好きにしてくれ。それにおっさんでも親父でも好きに呼んでくれ。」
「それじゃぁ遠慮なくそうさせて貰うわ、おっちゃん。」
「・・・じゃぁクロト。そろそろ始めようか。」




