63、導かれて
今日も朝からジュウザとサイの元気な叫び声が響き渡っている。どうやら昨日の一戦がその原因のようだ。ジュウザの自分より身体の小さい相手への対応がヤクモはお気に召さなかったらしい。サイは巻き添えを食らってしまったのかと思いきや、終盤少し息切れしていて、体力不足を改善するべくジュウザと共に大騒ぎしている。サイの場合、使用する能力や技能の消費する力の効率が悪いものが多い。簡単に言えば燃費が悪い。そう考えると、大目に見てあげても良いんじゃないかと思うんだけど。その旨をヤクモに進言してみたのだが、ヤクモ曰く「いざという時に、精度を欠いたり、息切れをしては意味が無い。」のだそうだ。全くその通りだよ、ヤクモが圧倒的に正しい。俺も耳が痛い。ジュウザ、サイ・・・合掌。俺も一緒に頑張るからな。
朝食を済ませ道を辿りながらの旅を続ける。見える景色に大きな変化は無い。それでも俺にとってはその全てが初めて見る景色なので飽きたりはしない。だが・・・子供達は退屈になったりしないのだろうか。
特に心配なのはジュウザだったのだが、そんな事はなさそうだ。ロックと共に隊列の先頭に立ち周囲の警戒を一生懸命やっている。自分に大事な役目を与えられている事が嬉しいのだろう。サイとハクは、あちらこちらを観察して、新しい発見をして歓声を上げている。道の脇に生えている雑草と思しき植物にさえ目を輝かせている。素晴らしい事だ。
フタバは今日もご機嫌に歌っている。余程この旅が楽しいのか、ずっと皆で一緒にいられることが楽しいのか。ま、なんにせよ、ご機嫌なのは良い事だ。サツキは現段階では俺達と同じ速度で進ものも大変そうにしている。まだ旅を楽しむ余裕はなさそうだ。それでも皆が気にかけてくれているので、楽しそうにしてるので良かった。
ミナは・・・まるで任務を遂行する傭兵の様に黙々と行軍を続けている。ま、まぁ・・・元々寡黙の方だから、今一つ感情が汲み取り難い。大丈夫なのだろうかと心配になってモモカとスーアンに聞いてみたことがある。するとどうやら彼女は本当に感情が表に出ないだけで、この旅を楽しんでいるのだそうだ。適度の緊張の中にいるのが心地良いのだそうだ。うぅん、根っからの戦士気質・・・。
女の子なので多少心配ではあるが。ま、楽しいなら良いんだ。
「ノイン、トウオウ。昨日はありがとうな。昨日は疲れて、礼を言いそびれた。」
腕を頭の後で組み、流れる雲を目で追いながら歩く。
「ボクは特に何もしてないよぉ。」
「私もだ。」
実際特に出番は無かった。
「そんな事はないさ。ノインとトウオウがいてくれるだけで、安心して戦える。」
本当の事だ。
「そうかい。」
「そう言って貰えると、私も嬉しい。」
トウオウはそう言って宙返りした。ノインは少し照れくさそうに頷いた。彼等が実際に戦った事は一度もない。トウオウの方は、森の中で何回か開催した追いかけっこで俺に向かって初級のものと思われる魔法をぶっ放していたが。それが炎の魔法だったので、危うく森が火の海になるところだった。あぁ、あの時は大変だった・・・。皆で火を消すのに大騒ぎした。流石のトウオウもこの時ばかりはかなり狼狽えていた。
「だがイッスンよ、この先はこうはいかないかもしれんよ。」
「そうだねぇ・・・。ボクにも出番が来るかもしれないねぇ。」
両者の言葉に眉間の幅が狭まる。確かにその通りだ。この道の先に待ち受けるものが今まで通りということもないだろう。それにこの眼前に広がるこの平原にも、翠玉馴鹿級の魔物が普通に生息しているんだからな。あれくらいの魔物なら強者という扱いでも無いのだろうな。翠玉馴鹿も強者の森では絶対強者という訳ではないからな、油断は出来ない。
「そんな事にならない様に願うばかりだ。」
「全くだ、イッスンよ。」
ここでトウオウが押し黙るのが少し気にはなるが。
「・・・いざって時は、本当に頼むよ。俺の身だけなら何とでもなると思う。だから、皆を頼むよ。」
「あぁ・・・ボクの命に変えても。」
そんな答えが、何時になく低い声で返ってくる。
「・・・縁起でもない事を言うなよ。トウオウもノインも俺にとっては大切な家族なんだ。命を引き換えにまではしてくれるなよ。」
「イッスンの、それはボクも一緒だよ。ボクだって皆のことを・・・家族だと思ってる。だから皆の為なら命くらい懸けるよ。同じ状況なら同じことをするだろう、イッスンの。」
返す言葉が見つからない。トウオウの言う通りだ。俺だってきっと皆を守る為なら自分の命を懸けるだろう。
「あぁ、そうだな。すまない、トウオウ。」
「構わないさ。・・・なぁに簡単さ。そうならない様にすれば良いのさ。」
「ははっ・・・そうだな。そうしよう。」
トウオウのこういう物言いに助けられる。
「ならばイッスンよ、君もヤクモに鍛えて貰った方が良いのではないか。」
「それは良いねぇ。ボクも一緒にやってあげるよ。」
「冗談はやめてくれ。強くなる前に死んじゃうよ。」
それもちょっと面白そうだなと思ったが、本当に大変な事になりそうなので、そっと胸の奥にしまい込んだ。
太陽が真上を少し過ぎた辺りでちょっとした事に気が付いた。道が大分道の様相を呈してきた。道とそうでない部分との境目が益々くっきりしてきた。所々その境目と思しき箇所に目印の様に石があるのが確認できる。おそらく何者かが意図的に置いたのだろう。
「明らかに道を作ったって感じになってきたな。」
誰に言うでもなく、そう感想を呟いた。
「作った・・・ですか。想像もつきません。」
隣のヤクモが目の前を真っ直ぐに伸びる道を見つめながら、溜息混じりにそう言った。魔物からしてみれば、確かに想像はし難い事だろうし、そんな事をする理由も見つけるのは難しいだろうな。
「主様、なぜこの様なものを作ったのでしょう。」
当然の疑問だな。さて・・・どう説明したものかな。文明そのものを説明する訳にもいかないし、そんな事俺には出来ない。仮に出来たとしても、何日掛かる事やら。
「そうだなぁ・・・。便利だから、じゃないかな。」
苦し紛れのやっつけみたいな答えを返す。すまんな、スーアン。
「便利・・・ですか。」
そりゃぁ、そうだよなぁ。そんな曖昧な答えじゃ、納得も理解も出来ないよなぁ。
「移動とか。」
「なるほど・・・。しかし、これを作ったもの達は余程強かったのでしょうね。こんなに見通しの良い所を堂々と移動するのですから。」
ほぅ・・・なるほど、魔物から考えるとそうなるのか。
「それは・・・どうだろうな。」
「・・・それはどういう事でしょう。」
「んん・・・弱いからこそ、直ぐに魔物を察知出来るように見晴らしを良くしたり、素早く移動出来るようにしたのかもしれないぞ。」
おそらくそういう側面もあったとは思うが、理由の全部ではないだろうよ。道についてそんなに深く考えたことなんか、ないもんなぁ。
「弱いからこそ、ですか。それはそれで・・・なんというか、凄い事ですね。」
「凄い・・・か。」
「えぇ。自分達が弱い存在であることを自覚し、その上で創意工夫をしていた、という事ですよね。」
スーアンに指摘されて、額を軽く叩かれた様な感覚を覚える。弱い事を自覚していた・・・か。何時から俺達は・・・もとい、前世の人間だった頃の俺達は、自分達の事を強い存在だと勘違いしていいたのだろうか・・・。他の動物より知能が高いだけだったのにも関わらず、何時からそれを忘れてしまっていたのだろう。生身では他の生き物に簡単に命を奪われてしまう様な存在だったのに。
「・・・どうかされましたか、主様。」
「スーアンに言われて、本当にその通りだなと思っただけだ。」
弱い自分達を自覚して、魔物の爪や牙、毛皮や体皮に変わるものを生み出した。それを文明と言うのだろう。勿論その一部ではあるが。だがその魔物が文明を持ち込んでしまっているなぁ・・・。と、なんとなく腰に下げたガガ小剣に触れる。
「そりゃぁ自分が弱い存在だと自覚してれば、わざわざ自分より強い相手に喧嘩を吹っ掛けないだろ。」
それを何処かで自分達の方が強くなったと勘違いしたのだろう。おそらくこの世界では魔物を狩れば強くもなれただろうしな。
「俺だって自分から狐や眼鏡蛇に襲い掛かったりしないし。」
「主様が弱いとは思えませんが・・・。」
「おいおい、俺は兎だし。元草食だし。・・・それにな、強いんじゃない。生きる為にそれを撃退してたら、強くなっちゃったんだ。」
旅に出るために過ごした期間はそうではないが、基本的には嘘ではない。
「そうでした。主様は兎、でしたね。」
「おぉい、スーアンは俺を何だと思ってるんだ。」
「ふふ、そうですね。・・・強い兎、ですかね。」
「なんだそりゃ。」
スーアンの笑顔に呼応する様に笑う。
「主殿は出会った時から強い兎でしたよ、スーアン殿。」
急にスーアンとは反対側から声がする。
「それは・・・私も重々承知しておりますよ。」
「おい、やめろよぉ。」
また昔・・・と言うには最近な気がするが、その話になると俺は褒めちぎられるから、やめて欲しいのだが。なんというか、身内贔屓の親戚に囲まれている気分だよ。前世の俺がそんな環境にあったとは思えないが。それでも下手な拷問より効く。聞いてるだけで全身が赤く染まりそうだ。
普段通りの他愛もない会話をしながら道を歩く。こんなに毎日話しながらだと、そのうち話題が尽きてしまうんじゃないかと思っていたが、案外そんな事もない。この「道」もそうだが、微々たる量ではあるが、森の外には森の中では見かけないものがあり日々の発見に事欠かない。魔物にしても植物にしても同様だ。それに付け加え、子供達の成長も話題にしやすい。なにせ日々の成長が著しいからな。そして新たに家族に加わったサツキも。
そこから数日、何事もなく進む事が出来た。・・・それにしても極端だな。他の魔物との接触をなるべく避けているとはいえ、こうも出会わないとは・・・。時折、数羽の鳥系の魔物が無謀にも襲い掛かってくるが、取るに足らない相手だ。子供達だけでも、フタバやハクが対応するだけで殆ど終わってしまう。それこそ俺はおろかヤクモやスーアンにも出番は回って来ない。
そう考えると、やはり先日のあれは、どの魔物だったのかは判らないが、不用意にその縄張りに踏み込んでしまった事が悪かったんだな。そうかぁ・・・縄張りかぁ。意識したことがなかったな。森でも自宅という名の聖域に住んでいたから、その辺が適当だったんだろうな。外に出てみて、自分の定住地が存在しない場所に来てみて、初めて分かることも沢山あるんだな。俺も魔物だし、もう少し縄張りってものを意識して生活しないと駄目かな。
それにしても、道を進むにつれて他の魔物の気配が一段としなくなってきた。全くしないという訳でもないが、意識的にというか本能的にというか、明らかに道から距離を取っている様に思える。
それもその筈だ・・・。その理由に繋がるであろうものを道の傍らに見つけた。この道を辿って行けば何時かは発見するだろうとは思っていた、文明の欠片。
それが建物の壁だったのか、庭を囲む塀だったのかは分からないが、大きさの整えられた石の塊がほんの数個ではあるが、積み上がっているものを見つけた。横に三つ並び、その上に一つだけ、その下の段のものと同じ様に加工された石が乗っている。大分風化してしまっているが、それが建造物の名残であることは確かだろう。
「どうされました、主殿。」
思わず足を止め、それを見つめていた俺にヤクモが声を掛ける。
「うん・・・。ほら、あれ。」そう言って指を指し「奇妙だろ。」とヤクモの視線を促す。
「あれは一体・・・。確かに奇妙ですね。」
魔物から見れば、それこそ森から出た事のない魔物の目には一層奇妙なものに映るだろう。
「これが、いわゆる文明というやつの一端だよ、ヤクモの。」
腹に洋燈を携え、右手に角灯をぶら下げた文明の体現者みたいな魔王様が俺達の頭の上からそう言った。
「文明、ですか・・・。」
「ここから先は、こういうものが増えて来るよ。それに・・・この辺りからなら君達にも見えるんじゃないかな、あれが。」
トウオウは身体ごと北東側へ向けて、視線だけで指し示す。それに促され、ヤクモと一緒に視線を向ける。そこには、遥か遠くではあるが確かに見える。いや、そうじゃない。ここから距離があるにも関わらず、見える程背の高い建造物があるんだ。
「あれは・・・城・・・か。」
「たぶんそうだねぇ。ボクはあそこを探索はしたことが無いから、確かな事は言えないけど。」
城。という事は、きっとそれだけではないはず。その付近には城下町もあるはずだ。あれが何処かの領主の別荘でもない限りは。だが筒状の物の上に円錐が乗っている形状の建造物を伴った建物なら、いわゆる王城だと判断して良さそうだ。
「シロ・・・とはなんでしょうか。」
まぁ、そうなるわな。
「そうだなぁ・・・。王様の住む場所かな。」
「王の住む場所ですか。王とは住むだけで、あんなに大きな場所が必要なのですか。」
「・・・くっ、くっ、くっ。あっはっはっはっ・・・。」
俺とトウオウは顔を空に向けて、声を揃えて笑う。ヤクモは怪訝な顔をしている。
「あはは、すまん、ヤクモ。確かにヤクモの言う通りだと思っただけだ。」
「そうだねぇ・・・。食事をして寝るだけの場所なら、大き過ぎるねぇ。」
そりゃぁそうだ。純粋な魔物から見ればそうなるよな。なんで日々の生活を送る為にあんな大きな寝床が必要なんだよと思うよな。
「そう思うよな。だけどな、そうじゃないんだ。王が国を・・・俺達みたいに、色んな種族が集まった群を、それも俺達よりも沢山の数の群を率いるには必要だったんだよ。」
「なるほど・・・。大きな群を、ですか。王とは大変なものなのですね。」
「そうだな、きっとヤクモが想像しているよりも、ずっとな。」
ヤクモは頭が良い。そのヤクモを持ってしても、きっと思いも寄らない事が沢山あるだろうな。少なくとも俺は王になどなりたくないけどな。面倒臭くてやってられない。俺に出来るのは、この手の、この足の届く範囲ぐらいだ。それも今の俺ならば、だ。前世の俺だったらきっと、もっと狭い範囲だっただろうし、本当にそんな事態に遭遇した時に動けたかかと問われたら、正直自信はない。
「そうだねぇ。王様なんて自由がなさそうで、そんなのボクは御免だね。」
「魔王様がよく言うぜ。」
「そういえば、そうだったねぇ。城も土地も軍も持っていないけどねぇ。」
笑いながらそう言って、俺とヤクモの頭上で円を描いた。
「魔界にもいたのか。」
何気なく聞いてみた。以前生い立ちの様なものを聞いた事はあったが、あまり自分から話さないから、敢えて詳しく聞いても来なかった。
「いたよ。城もあったし、王によっては軍隊も従えていたよ。」
「へぇ、それは意外だね。個の力を争ってるんじゃなかったのか。」
「強くなると、それに従う者もいるという事さ。そして強くなり過ぎると、弱い物を無闇に殺さなくもなるのさ。そして擬似戦争みたいな事をし始めるのさ。」
「なるほどなぁ。自分が出てったらすぐ終わったちゃうから・・・か。」
「そういう事だね、たぶん。あぁ、勿論誰かと組むのを嫌う者もいたけどね。」
「目指すは、最強・・・か。」
「それでも勝手に付き従われちゃったりしてる奴もいたみたいだけど。」
「強さに憧れて付いて行く、か。ま、それも分かる気がする。」
「二つ名なんかを冠しているのもいたしねぇ。」
「トウオウ殿、その二つ名とは一体なんでしょうか。」
「そうだね・・・なんていうのかな。魔物も魔界獣もボク達みたいに名前はない。だから基本的には種族の名前で呼ばれるんだけど、魔物に近いような姿をしているもの以外は結構固有の種族が多いから、それが名前の代わりになるんだよ。」
「ふむ、なるほど・・・。」
「それでね、さっき言ったみたいに凄く強いやつにはその強さに畏怖と敬意を込めて、その容姿や戦い方にちなんだ名で呼ぶんだよ。それが二つ名ってやつだよ。」
「そうだな、例えば・・・「南瓜の魔王」みたいな。」
「おお、なるほど。」
「・・・イッスンの、それはやめてくれないか。」
「なんで。良いじゃんか。それとも既になんか別の二つ名があるのか。」
「よしてくれよ、イッスンの。戦うのが嫌で魔界を逃げ出したボクに、そんなものがある訳ないじゃなか。」
「そうなのですか・・・。トウオウ殿程の力があっても二つ名はないのですか。」
なんだか少し残念そうにヤクモがそう言った。ヤクモもトウオウの実力をある程度感じ取っているのだろう。知っているからこそ、期待したのかもしれないな。
「じゃあやっぱり、かぼ・・・。」
「やだ。」
「そっかぁ、残念。」
トウオウとヤクモと一緒に笑い合う。今日も楽しいね。
「主殿、どうされますか。あちらへ行ってみますか。」
一笑いが落ち着いたのを見計らってヤクモがその城と思われるものがある方を見ながらそう聞いた。
「・・・いや、今はやめておこう。」
そう言いながら俺は、その城から今進んでいる道の先へと視線を向ける。おそらく今進むべきはこの道。理由は説明できないが、俺の直感がそう言っている気がするから。
「なぁ・・・ノイン。」
例によって目を細め遠くを見つめているノインに同意を求める。
「あぁ。私もその方が良いと感じている、イッスンよ。」
一度瞬きをしてからゆっくりと此方に振り向きそう答えた。そうだ、まずはこの道の先に何があるのか確かめてから。それからでも決して遅くはないはずだ。先を急ぐ理由も焦りも今の所明確にはないが、それでもある程度時間が限られていることも確かだ。ならばその問題を解決してからの方がゆっくりと探索出来るってもんだ。
「帰りに寄ってみよう。」
「かしこまりました。」
「全部終わらせてから行った方が楽しめそうだからな。」
「そうですね。きっと皆もそうでしょう。」
ジュウザやサイも喜びそうだな。特にハクは楽しくてしょうがないんじゃないかな。
「それは良いねぇ。あそこはボクも近くまでは行ったことがあるけど、ちゃんと中に入って調べた事がないから楽しみだね。」
俺も興味がある。この世界の人間が築いた文明がどんなものだったのかに。・・・たぶん人間だよな。人間って名前で呼ばれてたかどうかは分からないが。
「そうだな、俺もだ。」
「じゃぁ早く終わらせよう。」
「おいおい、簡単に言ってくれるぜ。仮にも世界の存亡の危機なんだろ。」
「きっと大丈夫さ。」
「そうです。主殿ならきっとすぐに解決出来ますよ。」
・・・ヤクモもトウオウも思ったより楽観的だな。ノインも涼し気な笑みを浮かべている。あれ・・・俺が警戒し過ぎなのかな。いや、油断はしないようにしよう。
「まぁ、そう出来る様に頑張ってみるよ。」
そこから東に、三日程進んだ。丁度真北にあの城が見える辺りまで来た。進むに従って、道沿いの建造物が元の姿を想像出来る位になってきた。そうなるとやはり野生の魔物達にとっては、人間の領域・・・縄張りという意識が本能的に働くのか、遭遇率が極端に減った。・・・本当に原因はそれだけなのだろうか。南の方になんとも言えない嫌な気配がする。そしてそれが俺達の向かう先である事も悟る。
「これは・・・かなり危険な香りがするな。」
この距離ならまだ安全である事も認識できてはいるが。それでも思わず眉間に皺が寄る。
「どうされますか、主殿・・・。」
俺よりも眉間に深く皺を寄せているヤクモが、低い声でそう言った。
「そうだな・・・。ま、できるだけ近づいてみよう。」
「はい、かしこまりました。」
「その代わり、ちゃんと準備してからな。そして危険だと思ったら直ぐに引き返すぞ。」
「はい。」
何時になく真剣な声でヤクモが答える。俺に頭を下げると、その旨を少し離れた所で待機している皆へ伝えに行った。
「退路はボクが確保しよう。」
今回はその言葉に何時ものお気楽さは無い。
「あぁ、宜しく頼むよ。」
その会話の直後だった。複数の魔物と思しき気配を察知する。南からではなく東から。その気配のする方へと視線を向ける。この距離まで気が付かなかっただと。それもこんな強い気配に。フタバが反応していないから敵意が無い事は確かだろうが、それにしてもだ。そうか・・・そういう事か。
「ノイン、あれか。時折気配を探っていたのは。」
「そうだ、イッスンよ。」
「敵・・・ではなさそうだな。」
「そうだ、と断言しよう。」
だろうな。でなければ、俺達みたいになるべく気配を消して移動はしない。そして俺達を襲う気ならば今みたいに気配をわざと気取られる様な真似をしないだろう。敵意や悪意は含まれていないことも感じ取れる。多少緊張している様子ではあるが。そしてそれが俺達同様、様々な魔物の気配が入り混じっている事も。つまり、あの一団と俺達は良く似ているって事だ。
城のある場所へと続くであろう北へと伸びる道を挟み、俺達とその集団は対峙する。お互いにその姿がある程度認識できる程の距離で。
この出会いが俺にとって、俺達にとって、大きなものになる。無論それはお互い様ではあったんだが。




