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62、道草

 ちぃっ、どうしてこんな事になった。・・・っていうか、そんな事はどうでもいい。とにかく数が多い。銀色か灰色の馬みたいな鬣のある子鹿みたいなのが、十二、三。身体に少し太めの赤い縦縞が三本入った白馬が五頭。栗鼠だか鼠だかは判らんが、俺の半分くらいの大きさのそれが、二十数匹。それに加え、電撃を放つ犀が一頭、角が四本付いた巨大な牛が二頭、河馬みたいな奴が一頭。おそらくこの四頭は・・・あの、翠玉馴鹿に匹敵する。その挙げ句に、この騒ぎに気が付いた鳥類の魔物まで接近してくるのが見える。

「くそぅ・・・。面倒な事になったな。」

 フタバがいてこんな事態になるとは。完全に油断していた。

「これは完全に彼等の領域に入っちゃったようだねぇ。」

 この南瓜は涼しい顔で言ってくれる。領域・・・そうか、彼等の縄張りに不用意に足を踏み入れてしまったということか。道の上々を歩いていたから、その付近には野生の魔物は近づいて来ないものだと勝手にそう思い込んでいた。そんなはずはないよなぁ・・・。その文明を築いたであろう「人」種は、大分昔に滅んでしまっているのだから。本当に滅んでいるのかは、確かめた訳ではないから、あくまで推察でしかないが。にしても、それならそうと警告の一つもしてくれれば良いものを・・・と思ったりもしたが、この空飛ぶ南瓜様は、此方の世界では魔物の縄張りなど考えた事もなかっただろうから、已む無し。

「縄張りか。そりゃぁ、ご機嫌も損ねるか。」

 道理でフタバが反応しない訳だ。俺達の方から気が付かれに行ってったんだからな。

「だけど何でこんな事になってるんだ。領域を侵犯したっていっても、せいぜい二種族くらいじゃないのか。俺達みたいに一緒に暮らしている訳じゃなかろうよ。」

「ですがあるじ様、皆草食の魔物です。」

「なるほど・・・。」

 ハクにそう言われて納得した。俺達程ではないが、共存が成立していたって事か。・・・って、そんなに悠長に状況分析をしている場合じゃなさそうだな。

「ジュウザ、モモカと一緒にサツキを守ってくれ。サツキは無理するなよ、小さいのを頼む。」

 モモカとジュウザ、そしてサツキの返事が聞こえる。

「スーアン、サイは全方位の対応を。フタバは対空迎撃を中心に。」

 スーアンは頷き、サイは「はい。」と、フタバは「あい。」とそれぞれ了解した。

「ハクは後方で皆に指示を出せ。」

「えっ・・・僕がですか。」

「そうだ。皆の目になれ。」

 そう言われて少し自分の役割に納得したのか、気が楽になったのか、元気よく「はい。」と返事をした。

「ヤクモ、ミナ、ロックは俺と一緒に前に出るぞ。あのでかいのを各個撃破する。」

 黙って頷き気合を漲らせる。

「ノイン。トウオウ。いざって時は頼む。」

「心得ている。」

「任せてくれ。」

 ノインはミナの近くに陣取る。トウオウはサツキの頭上に自分の居場所を定めた。

「それじゃあ、行こうか。」

 俺達を囲むように間合いを取っていた魔物の敵陣の中へと走り出す。火蓋は俺達の方から切って落とす。お前達に恨みはないが、俺達の道を阻むと言うなら蹴散らしてやる。


 俺の相手は・・・あの犀かな。指示を出した訳ではないが、ヤクモ達を含めそれぞれの一番近い相手を自分の敵と定めた。

 その犀との間にも子鹿やら大鼠やらが待ち構えている。その数は四匹程。面倒臭いから無視してしまいたいところだが、結局この中で一番の標的になるのは俺だからなぁ・・・。あの犀はあの翠玉馴鹿と同等。今の俺でも一撃で仕留めるのは難しいだろう。その戦闘中に邪魔されると、そちらの方が面倒だから、蹴散らしながら接近するか。

 犀の親衛隊の間合いに入る手前で立ち止まる。一度深く呼吸をして集中する。呼吸をしながら戦場を見つめ、進路の見当をある程度定める。

「さあ、始めようか。」

 まずは一番手前にいるあの・・・草原大栗鼠。正面から接近する。大栗鼠はそれを素直に正面で待ち構えてくれるご様子。そりゃそうだよな、一番の獲物が自分の方からやってくるんだから。だがぁ、残念。大栗鼠の間合いの一歩手前で急激に右へと跳び、身体の左側へと回り込む。意表を突かれて慌てる大栗鼠の横っ腹を思いきり下から蹴り飛ばす。

「白兎流格闘術・昇星脚しょうせいきゃく。」

 無防備な腹を蹴り上げられ、短い呻き声をあげながら空中へと舞い上がる。おそらく空など飛んだ経験もなかろう。このまま放っておいても、まともに着地出来ず勝負ありだとは思うが、油断はしない。しゃがみ込んでから、舞い上がった大栗鼠を追う様に跳び上がる。空中でその大栗鼠の身体を頭部を下にして、背中側から抱き抱える。


ーー白兎流格闘術・重落下式パワーボムーー


 重加速の勢いを乗せ、そのまま力任せに地面へと叩きつける。・・・まず1つ。

 間髪を入れずに次の標的に向かう。同胞が成す術もなく大地に落とされ、戸惑っているもう一頭の草原大栗鼠へ。ここまで怯んでくれているなら、容易い。俺達が・・・いわば不用意に縄張りに踏み込んでしまった事が発端ではあるが、出会ってしまった不運を嘆いてくれ。君達の本能に逃げるという選択肢が存在しない不幸を不憫に思うよ。

 最短距離を直線に進み接近する。真正面に立ち、両腕を振り上げ顔面に振り下ろす。に頭目の大栗鼠は顔面を強打され呻きながら地に伏す。地に伏した大栗鼠の首に左腕を回し掴む。左前脚と頭の間に首を差し込み、右手を添えて持ち上げる。そして頭部を直接大地へと落とすように倒れ込む。


ーー白兎流格闘術・直下式ブレーンバスター ーー


 せめて苦しまないよう、少ない手数で。・・・これで二つ。そして、俺の相手をすべき犀まで、左に白馬が一頭、右に鬣の子鹿が一頭。さて、ここからどうしようか。

 次の一手を思案していたほんの少しの隙間を突く様に、俺に向かって一陣の閃光が飛んでくる。出会い頭にその一撃を目撃しているので、それがあの地電犀アース・ライノスの雷撃である事が分かる。閃光を認識した時には既に遅く、その雷が俺を襲う。だが、その雷撃の光が消えた場所に何事も無く立つ俺の姿を見た地電犀は、つぶらな瞳を見開いた。

「残念だったな、俺にそれは効かないんだ。」

 なぜなら俺は、いずれ獣神になる兎だからな・・・という台詞は飲み込んだ。目の前にいる魔物に言葉が通じない訳では無いが、言っている事の意味が理解できないだろうからな。まぁ・・・理解できたとしても、理解できないだろうけどな。

 そんな事はさておき、次の相手だ。先に鬣の子鹿と定める。現在の状況に動きを止めている子鹿に全速で接近する。間合いに入ったところで跳び上がり子鹿の顔面目掛けて両足で突っ込む。


ーー白兎流格闘術・四文ドロップキックーー


 俺の可愛らしい大きさの可愛らしくない威力の白い弾丸が、いとも簡単に着弾する。そして今回はその一撃で子鹿の首があらぬ方向を向いてしまい、勝負あり。これで三つ。ちなみに、この子鹿は鬣鹿たてがみじかというそのままの名前だった。そしてこの大きさで成体らしい。残すは紅白の縞馬と地電犀。・・・この戦場にはまだ他にも魔物は沢山残っているが。

 取り敢えずこの赤い縦縞の馬を倒す算段を。流石に何処ぞの傾奇者の愛馬の様に縮尺がおかしな程大きくはない。せいぜい普通の馬の大きさと見て間違いないだろう。ノインと同じか、気持ち小さい位。・・・ノインは麒麟特有の毛並の分大きく感じる。まぁ、それでも愛らしい兎である今の俺からすれば、何処ぞの傾奇者の愛馬とそう変わらない迫力がある。あの翠玉馴鹿よりは大きくはないが。

 これだけ体格に差があるなら、懐に入り込んでしまえばどうとでもなると思われる。もっと言うなら、頭なり腹なりの下に潜り込んで、ご自慢のこの角で突き上げれば的も大きいから仕留めるだけなら容易かろう。だができればそれは避けたい。角を使う事を躊躇っている訳ではない。必要なら躊躇いなく使うつもりだ。だが今は使わずに倒したい。なぜなら返り血を浴びてしまうからだ。返り血を浴びる事は生き抜く為なら別に構わない。しかし相手はこいつだけじゃない・・・少なくともこいつより強い相手がまだ残っている。その戦いの前に返り血を浴びたくない。簡単に言うなら返り血を顔面に浴びて視界を塞がれたくない。故に角を使う戦い方は、なるべくなら避けたいという訳だ。・・・どうするかな。久し振りに、配管工の拳撃をお見舞いしてやろうか。・・・相手の頭が遠くて、一撃で仕留め切れるとは考え難い。選択肢の一つにはなるが。あまり迷っている暇はなさそうだ・・・行こうか。


 まずは当初の想定通りに、懐へ入り込む為に間合いを詰める。足元に接近して見上げると、やはり大きい・・・が、これ位の相手は今までに何度も戦ってきた。決して腰を抜かす程でもない。赤縞白馬は俺に足元に滑り込まれて、慌てている様子ではあるが。

 まず手始めに目の前にある左前脚を外画へと蹴り払う。思っていたよりしっかりした脚腰のようで、重い。ほんの少しぐらつくに留まり、逆にこの一撃で正気を取り戻してしまったようだ。角による攻撃を制限しているとはいえ、些か悪手だったか。ここで色々迷っているわけにもいかない。すぐにこの脚が俺に降り掛かってくるだろうからな。今蹴りつけた脚の外側へ回り込み小さく跳び上がり、膝を裏側から蹴りつける。その脚はくの字に曲がり、強制的に体勢を前傾に変えさせる。一度着地してからすぐさま再び跳び上がり、高度の下がった顎を蹴り上げる。


ーー白兎流格闘術・半月脚はんげつきゃく・上弦ーー


 勢いよく首を後に跳ね上げる事に成功したが、仕留めるには至らない。蹴り上げた勢いのまま、赤縞白馬・・・赤射馬バーン・ホースの頭部の上部まで通り抜ける。そして今度は振り上げた脚を鼻先目掛けて振り下ろしながら、来た道を帰る。


ーー白兎流格闘術・半月脚・下弦ーー


 赤射馬の鼻先を予定通りに捉え、その巨体を地へと叩き伏せる。それでも未だ仕留めきれてはいない。意識を飛ばすにも至らない。一度ほんの少し距離を取る。

「くそぅ・・・思ったより丈夫だな。」

 愚痴をこぼしてみても状況が変わる訳でもない。かと言って、こいつにあんまり構っている暇もない。

 赤射馬は身体を蹌踉めかせながら立ち上がる。流石に全く効いていない訳ではなさそうだ。脚に来てはいるご様子。回復される前に追撃といこうか。

 先程とは逆の赤射馬の右側へと回り込む。今度は此方側から腹を蹴り飛ばす・・・。

「・・・熱っ。」

 俺の蹴りは見事に命中した・・・までは良かったが、熱い。俺の左足が焼けるように熱い。熱さを感じてすぐに足を引いたので大事には至らなかったが、右足だけで細かく跳び上がりながら左足を振る。

「・・・なるほど、熱いはずだぜ。」

 頭の上に熱を感じて見上げると、馬の赤い縦縞から炎が吹き出ているのが見えた。赤射馬の名前は伊達じゃないらしい。それにしても面倒な・・・。本気でやっていない訳ではないが、少し温存し過ぎたかもしれない。相手に本領を出させずに仕留めたかったんだけどな。

「少し急がせて貰うぞ。」

 相手は熱と炎。有効そうな属性とすれば、水と氷か・・・。今の俺に氷は使えない。まぁ、即席で取得することも可能だが、ぶっつけ本番で使うには些か相手が悪い。とするならば選択肢は水か無属性の兎玉か。別に雷でも効果がない訳ではなさそうだが、これくらいの大きさの魔物を一撃で仕留める程の威力を出せる程俺は法術を得意とはしていない。だが・・・やってみるか。

「取り敢えず・・・技能・放水っと。」

 両の掌を開いて前へ突き出す。その掌から何処から来たのかは知らないが、大量の水が筒状になって放出される。その水が赤射馬の胴体に直撃する。この放水自体に攻撃力は無いに等しい。せいぜい相手を吹き飛ばすくらいだろう。ましてや馬程の大きさならば、この威力ではよろけもしない。だがぁ・・・目的はそこには無い。

 赤射馬の身体を洗うかの様に俺の放った水が命中すると、辺りが白く煙る。良かった、予想通りに大量の水蒸気が発生し、お互いにではあるが、視界が塞がれる。この水蒸気は離れているとはいえ、他の魔物の中では一番近くにいる地電犀も巻き込んだ。おそらく少しの間だけだろうが、狙われずに済む。そしてぇ、本当の狙いはぁ・・・視界を塞ぐ事でも無いのです。


ーー白兎流法術・雷撃ライオネット・ホーンーー


 角に雷の法術を集中させ、広範囲にばら撒く様に大量にぶっ放す。水蒸気の奥から悲鳴が聞こえる。・・・が、水を浴びせたとはいえ、拡散させて放った雷撃の威力が思ったより高い様な気がする。赤射馬の灯火が消えかかっている。確かに相当な威力にはなるとは思っていたが、致命傷になるとは想定していなかった。・・・いや、違う。

「あの野郎・・・味方ごと撃ちやがったな。」

 そして、俺が完全雷耐性持ちだという事を理解できていないのか。次第に水蒸気が晴れてくると、火の属性にも関わらず、真っ黒焦げになった無惨な赤射馬が現れる。

「・・・武士の情けってやつだ。せめてこれ以上苦しまない様に、な。」

 武士だった事など一度も無いが、それでも元武士のいた事のある国出身だからな。身勝手な誇りのようなものかもしれないが、味方ごと撃ち抜く様なやつよりはましな筈だ。アイテムボックスから自分用に作った槍を素早く取り出し急所を突く。・・・あと一つ。


 槍を引き抜きながら、この状況を眺めている地電犀を睨みつける。久し振りに少し頭に来たぜ。確かに野生の魔物に種族間での仲間意識があるとは思えないが、それでも仮にも同じ獲物である俺を狙っていた味方を巻き添えにする様な戦法は気に入らない。今の俺なら上手く立ち回れば問題なく相手出来るだろう。

「だが、悪いが全力でいくぞ。」

 この赤射馬に何の思い入れもなければ、ましてや俺を襲ってきた敵だ。こんな仕打ち、あんまりだ。これは同情か、それともただの俺の酷く身勝手な逆恨みか。おそらく後者の方が近いだろう。だったとしても、やっぱり俺はこういう奴は気に入らない。一度目を閉じ集中する。目を開くのと同時に普段抑えている力と幾つかの技能を開放する。

 もう一度深呼吸をして体勢を整える。そこへ再び強烈な雷撃が俺に向かって飛んでくる。

「避雷針。」

 その雷を敢えて俺の方へと引き寄せる。別に此れ見よがしに雷は効かないぞと見せつけたい訳じゃない。流れ弾が他のものを傷つけない様にする為だ。特に・・・この、俺の直ぐ側で横たわる亡骸にこれ以上無体な仕打ちをさせない為に。そしてその状況を見てもなお、まだ俺に雷が効かない事が理解できない様だ。・・・相当頭が悪いみたいだな、あの犀は。いや、ヤクモみたいに頭が良くなくて良かったよ。これで知恵が回るようなら、厄介極まりない。

 俺は地を蹴り前へ走り出す。自分へ接近しようとする俺に細かい雷撃を幾つも放つ。好きなだけ撃てば良い、この感じなら避ける事も可能だがその全てを避雷針に受けてやろう。それにしてもこの段階になってもまだ俺に雷が効かない事に気が付かないらしい。つくづく残念だ。何の問題もなく犀へ接近する事が出来た。

 そのまま左側へと回り込む。地電犀の巨体を眺める。あらためて近くで眺めると、馬程の高低差は無いもののこの前の牛かそれよりも大きいか、迫力がある。硬そうな体皮で覆われている。犀特有のざらついた岩のようだ。全力で殴って蹴り飛ばせば特に問題はないだろう。そしてこれだけ的が大きければ殴り放題蹴り放題だ。だが全力で倒す。少ない手数で倒す。本気の俺に身体が呼応する。側面から眺める地雷犀の巨体に光の点が浮かび上がる。その数・・・十一。その意味を俺は知っている。この光の点が見える理由や条件は未だに完全には解明には至ってはいないが。その一つに、相手を絶対に倒すという俺の意思が関係している事は間違いなさそうだ。

 まず一つ目の星、地電犀の左の米噛みを右の拳で力一杯殴りつける。続いて鼻先、鼻と唇の間辺りを胸の前に折り畳んでいた左の拳を外側へ振り払う様にして、二つ目の星に裏拳を叩きつける。そのまま身体を一回転させその勢いのまま、左前脚の膝上の星を右足で蹴りつける。右足を引き戻して、着地と同時に大地を蹴って左腕を伸ばし、左前脚の付根・・・左肩と首の間に拳を突き刺す。これで四。再び地上に戻り、左足で犀の左前脚の脛の五つ目の星に一撃。足を入れ替え、右足で左の脇の下を蹴り込む。六つ。犀の身体を正面に捉えたまま少し後方へと移動する。肋骨から腹の辺りに、前世で良く見た冬の星座の様に並ぶ三連星を左右の拳で交互に殴る。右が先。後二つ。左の後ろ脚の太腿の前の星を左足で蹴る。そして跳び上がり左臀部にある最後の星を正面に捉えて、右の拳を渾身の力を込めて突き込む。

 全ての星を結び終え着地して振り返り、地電犀に背を向ける。そしてゆっくりとその場を離れる様に歩き出す。


「白兎流格闘術・奥義・二十六星座・魔法杖マジック・ワンド

ーー白兎流格闘術・奥義・二十六星座・魔法杖ーー


 結果など確認するまでもない。手応えがあった事は、この拳と足に残る感触が確かだったと証明してくれている。断末魔も上げる事なくその場に巨体が倒れる地電犀の音と振動が全てを物語る。そしてその生命の灯火が消えたことも気配で感じ取る。


 これで一応の自分のお役目は果たせた。多少身勝手な戦いになってしまったが、お役目を果たせた事に安堵し、辺りを見渡し他の戦場の様子を伺う。・・・特に問題はなさそうではあるが、まだ交戦中のようだ。

『ヤクモ、大丈夫かぁ。』

 勿論、特に問題がなさそうだと判断して声を掛ける。

『お見事でした、主殿。』

 この状況で、俺の戦いを見ていたのか・・・。全く大したやつだよ。

『いやぁ・・・少し冷静さを欠いた。ロックやミナに何時も言っているのに。恥ずかしい限りだ。』

『主殿はご自分に厳しい。』

 そうかなぁ・・・。そうかもしれない。意識的にそうあろうとはしているが。それでも甘い気はしているんだけどな。

『手伝おうか。』

 既に親衛隊もどき達は一掃し終え、四本角の牛の相手をしている・・・というより、あしらっていると表現した方が正しいヤクモに答えの分かっている質問をする。

『問題ありません。後数回で終わります。』

 詰将棋は解けているようだ。

『そうか。』

『私よりも、サツキの援護に行った方がよろしいかと。』

 なんですと。そんなに追い込まれているのか。・・・と、慌てて視線を向ける。そんな事はない。一安心。だが・・・ヤクモの意図も理解できた。確かに俺が行った方が良さそうだ。相手の数が多過ぎて、モモカとスーアンもサツキに構う暇もなさそうだ。ジュウザは身体の小さい相手に苦戦しているし。ま、もう少し落ち着いて対処すればどうとでもなりそうなんだけど。その点サイはハクの指示に従い冷静に対処している。それよりもその指示を出しているハクが、その数の多さに目が回りそうになっている。

『そうだな・・・ハクが大変な事になってるな。了解だ。』

『私も終わり次第合流します。』

 俺は右手を軽く上げ、それを返事の代わりにする。

 さて、ロックの方は・・・と覗いてみれば、丁度ロックの数倍もありそうな巨体の河馬の魔物を右手で横に張り倒している所だった。強烈なその一撃に河馬は沈んだ。

『ロック。』

『・・・師匠。今、倒した。』

 急に声を掛けられて、少し驚いたようだった。悪い事をしたかな。

『おう。終わってすぐで悪いんだけど、他のも頼む。』

『うん。分かった。』

『無理しなくて良いからな。』

 ロックは「うん。」と頷いて近くの的に向かって走り出した。


 軽く走りながら、ミナの方も確認する。

「嘘だろぉ・・・。」

 そこで見た光景に思わず声が漏れてしまった。あの四本角の牛が・・・真っ二つに・・・。どうやったらそんな事になるんだろうか。俺の見た限り・・・あの牛も翠玉馴鹿と同等か若干弱いくらいの能力値だったと思ったが。あの河馬もだが。ヤクモにしてもロックにしてもだが、そんな相手を何の問題もなく相手ができるくらい強くなっているとは驚きだよ。・・・おかしいな、あの時俺は死にかけたんだけどな。あの時からそんなに時間が経っているとは思えないんだけどな。・・・あ。良く考えたら、前世の時間でいえば二年以上経過しているのか。それを魔物の成長の速度を考えれば・・・そんな事にもなるのかな。良くないな、俺はまだ人間だった頃の基準でものを考えているみたいだ。にしてもだ・・・。子供達の成長の速さには驚かされる。俺も頑張ろう。

「ミナぁっ・・・。お疲れのところ悪いんだけど、残ったやつも頼めるか。」

 ミナに手を振りながら呼び掛ける。

『はい。』

 と、思念伝達で小さな声を補って返事をした。俺に離れた所で一礼をして、残った魔物を掃討する為に飛び去った。頼もしい事だ。


 サツキを中心に置いて防衛戦をしていた皆に合流するまでに数匹の魔物を蹴り飛ばした。

「よ、大丈夫か。」

 そこにいた皆が歓声を上げて迎えてくれた。

「良く頑張ったな。残りはあと少しだ。」

 その返事をする声だけで士気が上がったのが分かる。まぁ、何と言っても数が多いから大変だっただろう事は想像に難くない。

「ハク、空は任せろ。フタバ、一緒に行こうか。」

「はい、あるじ様。お願いします。」

 任されたよ、ハク。

「あい。」

 フタバは申し合わせた様に頭の上に乗っかる。・・・梟なんだから自分で飛べば良いのに。ま、頭の上に高性能な自動砲台があると思えば良いか。


 そこからはただの掃討戦。皆で千切っては投げ、千切っては投げ・・・。

 この激戦を終え、その亡骸を回収し、この日はここから少し進んだ地点で、日の沈む前に天幕を張り早目に休むことにした。

 そんなに焦っている訳ではないが、今日はとんだ道草を食わされた。あぁ・・・疲れた。

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