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61、道なりに

 道を見つけた。

 正確にはその痕跡・・・名残の様なもの。トウオウのお墨付きがなければ、気の所為かもしれないかもしれないと見過ごしてしまいそうな程の微かなもの。その道の続く先を視線で辿ると、これから俺達が向かう先へと伸びている事が分かる。それは偶然か、導かれているのか・・・。

 どちらでも構わないさ。道があろうがなかろうが、始めから俺達の向かう先は決まっている。ならば、せっかくだからこの道を行ける所まで道なりに辿って行くとしよう。

「どうかされましたか、主殿。」

 急に立ち止まった俺にヤクモが声を掛けた。

「ちょっとあるものを発見してな・・・。ヤクモ、何か気が付く事はないか。」

 試す様な事を聞いてしまって申し訳ない事をしてしまったと思ったが、ただ単純に純粋な魔物であるヤクモ達が気が付くのかが気になっただけだ。

「気が付く事・・・ですか。」

 俺の横に立ち辺りを見渡す。やや間があって、何かに気が付く。

「これは・・・道、の跡・・・でしょうか。」

「流石だねぇ、ヤクモの。」

 全くだ。一見少し長めの芝生の一部が、まるで何かで剪定された様に均一に短くなっているだけだ。それに気が付く事が出来るとは流石だな。

「そうだな。正確には、道があったであろう場所だな。」

「なるほど。長い時間通るものが無く、その結果こうなった・・・と。」

「これを見ただけで、そこまで解する事が出来るとは、素晴らしいね、ヤクモの。」

 同感だね。

「恐れ入ります、トウオウ殿。主殿にあらためて問われなければ気付く事は出来なかったかもしれません。」

「そんな事はないさ、ヤクモの。なんだか色々教えたくなって来るよ。」

「それは願ってもない事です。」

「だけどね、ヤクモの。ボクは君達の発見する楽しみを奪ってしまうのは嫌なんだ。」

「発見する楽しみ・・・ですか。」

「発見する楽しみか・・・。それは格別だからなぁ。トウオウの言ってる事も分かるな。」

「そうだろ、イッスンの。ヤクモのは、きっと自分で色々な事を発見できる能力があると思うからねぇ。勿体ない。」

 トウオウに高く評価されている事を実感したヤクモは、素直にその言葉を受け取り納得したように頷いた。

「ハクを見ていれば、その発見する楽しみはなんとなく理解出来ると思うけどな。あいつ程それを体現してるやつはいないからな。」

「なるほど・・・仰る通りですね。」

「確かにハクのは一番「発見」を楽しんでいるねぇ。好奇心が眼鏡蛇の形をしているみたいだからね。」

「そうだよな。だけどハクの凄い所は、その好奇心を自分である程度制御出来ている所だな。」

「好奇心を制御する・・・ですか。」

「そうだ。好奇心ってのは、行き過ぎると命を落とす可能性があるんだ。その判断が絶妙なんだよ。まぁそれは・・・あの兄貴の事をずっと見ているからって可能性も高いけどな。」

 ヤクモとトウオウと一緒に笑い合う。

「それじゃあ、せっかくだ。行ける所まで道なりに進んでみようか。」

「はい。」

「それは良いねぇ。」

「良し。さあ、行こうか。」


 道なりにとは言ったものの、今の所これまでの旅との変化はそれ程感じない。辛うじてどうやら道の上を歩き、それをどうやらたどっているものと思われると言った程度のものでしかない。ま、この道を辿っていれば、そのうち何かに出くわすだろうよ・・・きっと。トウオウに聞けばその答えはすぐにでも出るだろうが、それはつまらないだろうし、トウオウ自身も適当にはぐらかすだろうな。たぶん俺でもそうすると思うし。・・・と言う事で、今まで通りに旅を続けるとしよう。

「ヤクモ、サツキの事なんだけど・・・。」

「・・・何か気になる事でもありましたか。」

 おっと、ちょっと深刻な感じで切り出してしまったか。

「いや、気になる様な事って訳じゃなくて・・・。サツキにもある程度戦える様になって貰う必要はあると思ってな。」

「あぁ、はい。それはそうですね。・・・少し厳し目にした方が良さそうですか。」

「うぅん・・・どうだろうな。ただ・・・今の状態だと、やや力不足ではあると思うんだよな。せめて攻撃面はともかく、自分の身を自分で守れる位にはなってもらいたい。せめて確実に逃げ切れる位には・・・な。」

 そう、せめて逃げても良いから、生き残れる様になって貰いたいと思っている。

「そうだねぇ。ボクもノインのも気を付けるつもりだけど。守られてばかり、という訳にもいかないだろうしね。」

 その通りだ。何時も守って貰えると思っていたら、この先この大自然の中で生き抜く事は出来なくなるだろうからな。そう・・・サツキには、いやサツキにも生き抜く力を身に着けて貰いたい。

「はい、生き抜く覚悟のないものは、生き抜く事はできないと、私も思います。」

「うん。ある程度は食事でなんとかなるとは思うが・・・それもサツキの意思次第だからなぁ。」

 サツキ自身が他の魔物の肉や魚を食する事を拒否するならば、それを無理強いする訳にもいかないからな。サツキの生き方を強制する様な事は極力避けたいからな。

「そうですね・・・。しかし私の受けた印象では、サツキは強くなろうという意思はあると。」

「ボクにもそう見えたよ。」

「そうか。だが・・・強くなりたいという思いと、サツキ自身の信念とは別のものかもしれないからな。もしかしたら、酷く厳しい方を選ぶかもしれないぞ。」

「そうかもしれませんね。でも大丈夫だと、私は思います。サツキは元々魔物の肉も食する種族ですし、何よりロックに強く憧れているようですし。」

 なるほど。ヤクモに言われて気が付いた。そういえば獲物を追っている最中に、逆に自分達が狙われたのだとサツキが言っていたな。という事は肉も食べるって事だよな。

「そうだねぇ。実際今もロックの頭と一体化しているしねぇ。」

 そう言って、トウオウは笑った。

「確かに。」

 そのロックに視線を向け、その姿を確認して俺も笑う。トウオウの言う通り、まるでそういう一匹の魔物の様になっていますね。何時もより強そう。

「ま、程々にな、ヤクモ。」

「はい。様子を見ながら。」

「ジュウザとサイは厳しくても良いけど。」

「かしこまりました。では・・・その様に。」

「これは、ジュウザのとサイのは災難だねぇ。」

 また俺達の笑い声が上がる。確かにとんだとばっちりだ。ごめんよ、ジュウザ、サイ。だが・・・俺の直感だが、ジュウザとサイは今が何度目かの成長期だと感じているのも事実だ。今が伸び時だ。多少無責任な気もするが、ヤクモもそう感じている様に見える。要するにだ、そう期待してしまうって事だ。頑張れ、ジュウザ、サイ。・・・俺も頑張ろう。


 北側の山脈が姿を消して景色が広がったとはいえ、そこからは大きく変化のない風景が続く。そして本日は特に他の魔物に襲われる事も無く平和に前に歩みを進める事ができた。日が傾いてきたので、そろそろ今日の寝床を確保する事にした。

 これはおそらく俺が人間だった時の感覚だと思うのだが、この道の上に天幕を建てるのはなんだか違う気がして、敢えて道から外れた場所に、天幕の出入り口の前を道が東西に横切る形になるように設置した。勿論、天幕と道との間に皆で食事出来る位の距離を確保して。・・・実に人間らしい感覚だなと少し自分に呆れて苦笑する。

 皆で幾つかの今後の方針などを話し合いながら食事をして、天幕の中へと入った。その後もヤクモやモモカと少し雑談をしてから、今日の寝床を此処だと定め、灯りを吹き消した。灯りが消えると、星の光も届かない分完全な暗闇に近い状態になる。目を開けていても技能を使用していなければ何も見えない。微かに風に揺れる出入り口の隙間から星明りが射し込むだけ。明日からああしようとか、こうしようとか考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。どの時点から俺は目を閉じていたのか。気が付いたら朝だった。


 朝食の前に朝の稽古をする。俺は普段通りにロックとミナとの稽古をする。少し離れた場所から、今までより激しいジュウザとサイの悲鳴が聞こえる。・・・ヤクモ、張り切ってるなぁ。側で見ているサツキが若干・・・いや、かなり引いちゃってるよ。大丈夫かなぁ。

 そんな状況を横目で除いていた俺の視界を上から下へと何かが遮った。うっ・・・ミナの槍の先が俺を掠めたのか。危ない。いまのはかなり危なかった。が、なんとか紙一重で躱せた。そう思ったのも束の間、その槍の先が地面に着く直前で、まるで何かに弾かれた様にその軌道を変えた。下方から俺の顔めがけて飛んでくる。これはかなりやばい・・・と思った瞬間、生存本能が俺の身体を動かした。そのまま上半身を後方へと倒して、反射的に技を繰り出してしまった。


 ーー白兎流格闘術・逆風車ぎゃくふうしゃーー


 何の事はない、ただの逆回転の風車かざぐるまだ。だが、ミナに対して繰り出す様な技ではない。脊髄反射みたいに放ってしまったとはいえ、やり過ぎた。しまった、と思った時には既に遅く、ミナの槍を蹴り上げ弾き飛ばしてしまっていた。その勢いのまま、着地した後、左の上段蹴りをまるで刃物突き付けるみたいにミナの喉元に添えてしまった。

「・・・すまん。ミナ、大丈夫だったか。少しやり過ぎた。」

 振り上げた足を引きながら謝罪した。もう少しでミナに大怪我をさせるところだった。そんなのは師匠としては失格だ。油断していたとはいえ、そんな事は言い訳にもならない。背筋が凍る。

「いえ・・・参りました。」

 ミナはそう言って、姿勢を正し一礼をして、たった今俺に蹴り飛ばされた槍を拾いに行った。その後姿を見つめながら俺は気を引き締め直す。もっと集中しなければ、と。

「もう一回、お願いします。」

 槍を拾って戻ってきたミナがそう言った。大したものだ。先に今日の稽古を終え、何時ものぬいぐるみ座りで休みながら見ていたロックは立ち上がって小刻みに飛び跳ねている。

「分かった。だけどちょっと待ってくれ。集中し直す。」

「はい。」

 俺は自然体で立ち、目を閉じてゆっくりと深呼吸を一つする。ゆっくりと目を開け、構える。

「良し、やろうか。」

 俺の雰囲気が変わったのを敏感に感じ取り、ミナの顔に緊張の色が浮かぶ。

「はい。・・・お願いします。」

 ミナは低い声でそう答え、本気の姿勢で構えを取る。ロックは飛び跳ねるのをやめ、両手を握り多少前のめりの体勢で固唾を呑んでいる。

「・・・どうした、何時でも良いぞ。」

 少し意地が悪かったかもしれないが、挑発するような言葉を投げかけてみる。ミナにもちゃんと伝わっている様だ、俺が本格的に戦闘の体勢を取っている事が。眉間に皺を寄せ険しい表情になっている。これでも敢えて数か所隙を作っているのだが。何処に打ち込んでも駄目そうな気がするのかな。そう思える感性は、やはり良いものを持っているなと思わせてくれる。それでこそ鍛えがいがあるってもんだ。

「じゃぁ・・・こちらから行くか。」

 そう言って俺の方から仕掛ける。

 そこからは普段は守勢に回っている俺が攻勢に回る。勿論手加減はしているが、それでも普段の稽古の三倍程の速度で攻撃を仕掛ける。これくらいなら、ミナならば何とか躱せるだろうという計算の上で。

 流石ミナだ。徐々にこの速度に慣れてきたのか、少しずつ反撃を繰り出すようになってくる。それでもその槍を躱し、払い、掴み。掴んだついでにそのまま投げてみるが、今度はその槍を離さない。・・・だが、それだけじゃ駄目だな。時にはその槍を離すという選択肢もある事も教えないとな。

 着地したミナが真っ直ぐに突っ込んで来る。俺の方から間合いを詰めて懐に入り込む。更に姿勢を低くしてミナの真下から両足で蹴り上げる。ミナはそれを縦で受け、力を逃がす様に上空へと舞い上がる。俺は一度着地してから即座にミナを追いかけ跳び上がる。それに対しミナは槍と刃化した尾を巧みに使い迎撃を試みる。俺は身体を捩って躱しはしたが、蹴りを一つ繰り出すに留まった。その蹴りを縦で受けられてしまった。その縦を足場にして蹴り飛ばし地上へと帰還する。今度はミナがその俺を追う様に降下してくる。それもあまり得意とはしていないが、氷の法術を数発放ちながら。凄いなと感心しながら、その氷柱状の氷弾を最小限の動きで避ける。悪いな、ミナ。今の俺には当たらないよ。ちょっと本気気味だからな。俺の目には見えちゃうんだな。そして今日の稽古を終わりにしようか。

「白兎流格闘術・浮遊流星跳弾脚ふゆうりゅうせいちょうだんきゃく。」

 浮遊の技能を利用した空中での流星跳弾、それの蹴技版だ。流石に俺の凶器と化した角での攻撃は危険過ぎるので、ある程度加減の効く蹴りでという判断だ。だが少しおこがましい気もしたが、此処まで頑張ったミナへのご褒美の意味も込めての新技で。

 傍目には空中に見えない壁でもある様に見えた事だろう。まあ実際やっている事はそれに等しいが。ミナに数発の蹴りを当て、最後は地上へと落とすように蹴り飛ばし、そこで勝負あり。

 再び地上に戻ってきて、地に伏したミナに声を掛ける。

「ミナ、強くなったな。」

「いえ・・・。全く敵いませんでした。」

「そんな事はないさ。ちゃんと反撃出来てたじゃないか。」

「そうでしょうか。」

「おいおいミナ。俺は師匠だぞ。そんなに簡単にミナに負ける訳にはいかないよ。」

 そう言って笑うと、ミナは少し嬉しそうに「はい。」と答えた。加減したとはいえ、ほぼ本気の技能を使用した俺が何を言っているのかとも思わんでもないが。

 ミナに手を差し出し、その手を掴んだミナを引き起こす。ミナが立ち上がると俺はもう少しでミナにぶら下がっているかの様な体勢になる。まるで背の高い母親に頑張って手を繋いでもらっている子供みたいだ。これじゃぁどちらが師匠なのか良く分からない。そんな事を思って、つい口の端が上がってしまう。

「どうされましたか、主さま。」

「いやぁ・・・。大きくなったなぁと思ってな。」

 これも本心ではある。本当に大きくなった、身体もだがその強さも。きっとスーアンはもっと嬉しく思っているのだろう。

 気が付くと周りに一定の距離を保って、皆が集まって来ていた。どうやら今日の稽古が思ったより皆の目を引いてしまった様だ。まぁ、あれだけ派手にやってれば、何事かと思うだろうな。

「ミナ、大したものだ。主殿に技を使わせるとは。」

「いえ・・・私は全力ですが、主さまにはまだ敵いません。」

 照れ隠しなのか、ヤクモの賛辞を謙虚に返す。ミナの事だから本心なのだろう。

「それはそうだよ、ミナの。イッスンのは・・・たぶんボクと戦ってもきっと勝てるよ。」

 おっと、いきなり何を言い出すのだろうか、この南瓜の魔王様は。

「そいつは随分と持ち上げてくれるじゃないか、トウオウ。」

「そうかね。イッスンよ、君には戦術があるのだろう。戦い方次第では勝てると思うが。なぁ、トウオウよ。」

 おい、まさか魔王に続いて聖獣様も変な事を言い出したぞ。俺はそんなに強くなったつもりはないんだが。

「そうだねぇ。ボクは近づかれたら、簡単にやられちゃうだろうね。イッスンのを近づく前に倒すのは、相当難しいだろうねぇ。」

 と、言いながら笑っている。それを子供達が目を輝かせて俺を見ている。・・・確かにトウオウの言う通り、そういう戦術をやってやれない事はないだろうとは思うが、魔界とやらで三百年も生き抜いてきた魔王を相手に、まだ片手で足りる程しか生きていない俺が敵うとは思えないのだが。トウオウの戦い方もまともに知らないのに、どうしろと。今の話で、おそらく見た目通りの法術系・魔法系の戦い方をするのだろうとは推察できるが。

「よせよ、俺はトウオウと戦うなんて、御免被る。」

「ははは。それはボクもだよ。」

 トウオウが笑うと、周りで見ていた皆も笑う。そもそもトウオウは戦い自体が嫌いだからな。万が一にもそんな事にならないように願うばかりだ。

「さあ、朝食にしよう。」

 皆で食事をして、天幕を片付け、出発をする。さて・・・今日も道なりに進むとしよう。


 本当に何かに導かれているのかもしれないと疑いたくなる程、進む方向と道とが重なっている。そして進むにつれて、徐々にではあるが、道の上を覆っている草の量が減ってきている様に思える。その感覚が間違っていなかった事を確信できたのは、この日から二日後の事だった・・・。明らかにそこが道であったであろう箇所だけが真っ直ぐに下地の土を露わにし始めた。


 この景色を見ると、本当にこの世界にも文明が存在したのだと分かる。嬉しく感じるのと同時に、残念な様な気持ちにもなる。なぜそう感じたも分からないが。文明がある事など、あの寂しげな亡骸を見つけた日から、角灯を持った洋燈の魔王に出会った時から、分かっていた筈なのに。俺が魔物だからなのだろうか。でも中身は元人間なのだから、そんな発想にはならなそうなんだけどな。たぶんきっとそれは・・・今の俺が、この魔物の生活が、自分でも信じられないくらい気に入っているからなのではないかと考える。『是、肯定します。』ですよね。じゃあ頑張んないとな。この世界が無くなっちゃったら困るからな。『是、肯定します。』その為にはセッテさんも協力してくれよ。『是、肯定します。』頼りにしてるよ、よろしくね。『最善を尽くします。』ありがとう、期待してるよ。

「これが、道、ですか・・・。なんだか不思議なものですね。」

 初めて獣道・・・この世界だと魔物道と表現したほうが正確だろうか、その魔物道とは違う、いわゆる意図的に造られた道を見たスーアンが、本当に不思議そうにそう呟いた。

「そうだな。・・・この道は何処に続いてるんだろうなぁ。」

 全ての道は欧州のとある大帝国の首都に続いているとは言うが、この世界ではおそらくそこではなさそうだ。

「この道の先、ですか。そんな事を考えた事もありませんでした。」

 そりゃあそうだろうな。旅をする魔物でもない限り、日々の生活でそんな事に想いを馳せる事はないだろう。

「その答えは、この道を辿っていけば、そのうち分かるさ。」

「そうですね。・・・なんだか、旅というものの楽しみ方が少し分かった様な気がします。」

 随分と風情のある答えに目が細くなる。本来旅などしない魔物であるスーアン達をあの森から連れ出してしまって本当に良かったのだろうかと思う時もある。きっとそれを「どう思うか。」と訪ねたら、「自分達でそう選んだのです。」と答えるだろう。どんなに悩んでも、その答えが出るのはもっと先の話だろう。今はこの道を、道なりに辿って行くだけだ。たとえ後悔する結果になったとしても。そうならなように全力を尽くす。この道を見て今一度気合を入れ直す。

「そうだな。何があるか楽しみだ。その答えを一緒に確かめに行こう。」

「はい。喜んでお供させて頂きます。」

 彼女にしては珍しく期待に満ちた表情で微笑んで頭を下げた。次はどんな法術を取得しようかと、画面を眺めている時に似ている。そういえばスーアンは、あの子蛇達の母親だったな。そしてこの旅の目的が、愉しみが一つ増えた。

「それはそうと、ジュウザとサイには悪い事をしちゃったな。」

「一体何の事・・・あぁ、いえ。そんな事はありません。ジュウザやサイにはあれぐらいで良いのです。」

「そうかぁ?俺が余計な事を言っちゃった所為で、なんだか妙にヤクモが張り切っちゃって。彼奴等は大丈夫なのか。」

「そうですねぇ・・・。大変そうですけど、なんだか嬉しそうでもありますよ。」

 嬉しそう・・・か。分からくもない。なんだか自分の実力をヤクモに認めて貰った様な気がしているのかもしれないな。

「毎日、自分達が少しづつ成長している実感があるようで。」

 なるほどな。それは確かに楽しそうだ。

「とはいえ、少し厳しい過ぎる気もするけどなぁ・・・。」

「そうです。加減というものがないのです、兄上は。」

 頭の上にフタバを乗せたモモカが不満気にそう言った。本日フタバは快眠中。未だにフタバの起きている時と寝ている時の基準が分からない。寝ていても、広範囲の索敵網に魔物の気配があればお報せしてくれるから別に良いんだけど。

「ははは、そうだな。」

「兄上もイッスン様の様に、もう少し加減というものをして欲しいものです。」

「モモカさん、きっとヤクモさんもちゃんと加減しておりますよ。」

「ま、確かにな。それにヤクモもきっと楽しいんだよ、きっと。」

「楽しい・・・ですか。」

「あぁ。教え子が鍛えたら鍛えた分だけ成長するのが楽しいんじゃないかな。」

「はぁ・・・なるほど。・・・ですがそれでも少しやり過ぎです。」

 この辺はきっと男の子と女の子の差なんじゃないかなぁ・・・きっと。一概にそうとは言えないかもしれないが。

「なぁに、ジュウザとサイが少し大袈裟に騒いでいるからそう感じるだけだよ。本当に危なかったら声なんか出ないさ。」

 それでも全部には納得がいかないままのご様子のモモカは「そうですか。」と口を尖らせていた。・・・狐が。

「俺はあれがヤクモの優しさでもあると思うんだ。本当に危ないと思ったら俺が止めるから。それで勘弁してくれないか、モモカ。」

「はい。イッスン様がそこまで仰るなら・・・。」


 道が、いわゆる「道」の様相を呈して来て、そこを道なりに進む。その先に気の所為程の文明の香りを感じながら・・・。

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