60、道
小さな針鼠を助けた。直接俺が助けた訳ではないが、ロックとミナがその針鼠を救出した時点で、こうなる事は大体予想できた。
まぁ、つまり・・・家族が増えた。となると、問題は「名前」という事になる。ロックが助けたんだから、ロックが付けてあげる方が良いんじゃないかと思ったのだが・・・。どうやらそれは駄目らしい。ロックは師匠の俺に付けさせたかったらしい。そこまでは分からんでもないが、フタバに至っては、それは主たる俺のお役目だから、それを放棄するなとの言いようである。・・・何時から俺にそんなお役目が課せられたのかは不明だが。・・・まぁあ、特殊な「命名」なる技能を持ち合わせているのは、転生者たる俺だけなんだが。『是、肯定します。』でもさぁ、ロックが考えた名前を俺が付けてやっても問題はなさそうな気がするんだが。『是、肯定します。』ねぇ。でも、しゃあないか。今のロックだと、下手すると、自分と同じ「ロック」にすると言いかねないからな。『否めません。』否めないよな。そもそも魔物に名付けるという感覚が無いんだから、しょうがない。諦めて、考えるとしよう。
出会った日が雨だったのと、その雨に濡れて煌めく銀色の背中の針の毛が相まって、どうしても印象が雨に傾く。だがなぁ・・・。この針鼠を救出した後、ロックとミナが俺の予想より遥かに手際よく撃墜した雹鳥を回収した際、少し離れた所に、その針鼠とそっくりな亡骸を一つ発見した。それでおおよその察しはつく。となると、雨の付く名前は、この辛い記憶と結びついてしまうのではないかと思い、選択肢が少し減る。そうは言っても・・・この姿を見ると、どうしても雨を連想してしまうのも確かなんだが。
と、まあ、そんな事を、ああでもない、こうでもないと呟きながら頭を右に傾けながら考えていると、その傾けた頭の上からフタバの声がした。
「この子、女の子だよ。」
なんですと。完全に勝手に男の子だと思っていたよ。なんでそう思っていたのかは不明だが。
「えっ、そうなの。危ない、助かったよフタバ。ありがとう。」
いやぁ・・・本当に危なかったぜ。フタバが教えてくれなかったら、強そうな男名前を付けてしまったかもしれない。どちらでも通用するような名前を付けることも可能ではあったが、それは彼の・・・もとい彼女の事を考えずに付けるに等しい行為だ。それはあまりに失礼だと、俺は思う。だからちゃんと女の子だと分かって良かった。だからと言って、性別が判明したからすぐに名前が浮かぶというものでもないのですが。さて・・・困ったぞ、と。
あらためて、今自分の身に何が起きているのか今一理解ができないまま、辺りを見回しながら待っている針鼠を見つめる。うぅん、やっぱり何度見ても雨が頭を過る。昨日まで降り続いていた雨も、そして出会ったのが雨の日だったのも影響しているのだろう。彼女にとっては辛い記憶になってしまうかもしれないが、その雨に濡れた姿が、俺にとっては美しく見えたのも確かだ。雨、降り続く雨、そう・・・まるで五月雨の様な。五月雨か・・・。なるほど。五月雨から雨を取って、五月。流石にそのままゴガツと付ける訳にもいなかい。何より可愛くない。という事は・・・。
「・・・サツキ《五月》。サツキ、なんてどうだ。」
これで俺以外は雨を連想をする事はないだろう。響きも綺麗で、女の子にも良く似合うと思う。・・・完全に自画自賛ではあるが。これは前世の俺の影響が大きいが、どうしても名前が和風なものになりがちだ。別に変な名前を付けている訳でもないし、男の子側の名前も、それなりに綺麗に付けているつもりではあるのだが、俺以外の客観的な視点がないので、上手くいっているのかは分からないが。・・・取り敢えず、今の所誰からも不満が上がっていないので、良い事にしておく。そしてサツキも喜んでくれているようなので一安心と言ったところだ。
無事に命名の儀式も終わり、皆で朝食を摂りながらサツキが家族に加わった事を報告し、サツキに家族を紹介した。食事が終わると早速ジュウザやサイの質問攻めに合っていたが、それをヤクモが間に入って遮っていた。これから色々と名前を貰った事によって起きた変化の説明をするのだと言われて、自分達にも身に覚えのあることもあり、素直に引き下がっていた。その説明をヤクモとスーアン、そしてハクがゆっくりと丁寧にしていた。
今日は大事を取ってこの場に留まり、サツキの回復を待つ事も考えたが、どうやら思ったより元気そうなので、少しでも先に進む事にした。どちらにしても、サツキ自体がまだ多くはなさそうなので、体力が無くなってきたら、ヤクモなりモモカなりノインなりの背中にでも乗せて貰えば良いだろう。ロックでも抱き抱えられる程の大きさなので、フタバの様に別に俺の頭の上でも、ジュウザの背中でも構わないのだが。何処に乗っかるかはサツキ次第と。好きなやつの上に乗っかってくれれば。フタバと被らなければ、だが。
天幕を畳み、本日は少し遅めの出発を皆に伝え、ロックとミナと共に日課の稽古をする。旅に出てからも稽古は続けてはいたが、ここ数日は雨だったので普段通りという訳にもいかなかったので、久し振りに通常通りの稽古ができた。勿論、雨の日も、それこそ昨日みたいに雨の日の戦闘も想定されるのだから、稽古の必要はあるのだが、やっぱり晴れている方が稽古をしていても、気分が良い。多少大地は乾き切ってはいないが、それでも久し振りの晴れた日の稽古に気合が入る。・・・特にロックとミナの。サツキを助けた事も影響しているのか、何か責任感のようなものが芽生えたのか、凄い気合の入りようだ。若さ故の成長速度もあるのだろうが・・・それにしても、だ。まだ二歳の俺が言うのも何だが。おかしい・・・それなら俺だってまだ成長期のはずなのだが。俺の目の前を、当たったら死んじゃうやつが、凄い速度で通過していく。それも休む暇もなく。此処で俺が、引き攣った顔で避ける訳にもいかず、涼しい顔を装って、さもこれくらいは当たり前ですよみたいな感じで、躱し続ける。
だがそのままでは埒が明かないので・・・ある程度本気でやらなければ俺の稽古にならないと、言い訳にも等しい、尤もらしい理由をくっつけて、合気で迎撃する。本気で地面に叩きつけるような事はしないまでも、ロックを何度も地面に転がす。その姿は、熊のぬいぐるみが、柔らかく大地に落下するみたいで、少し・・・いや、かなり愛らしく、途中で少し、俺は今何をしているのだろうと思ったりした。ただそうなると、大きな損傷を与える訳ではないので、ロックはすぐに立ち上がり何度も向かってくる事になる。ロックの体力が尽きるのを待つしかない様な状態に、心が折れそうになる。ロックの方の心が折れる可能性は、極めて低そうだからな、それに期待するのは現実的じゃない。どうしようかな。そう思い始めた頃だった。
「師匠、此処までにする。」
ロックが急に立ち止まりそう言った。
「・・・そうか。何処か怪我でもしたか。」
内心助かったと思いながら・・・勿論、本当に怪我をさせてしまっていたら、師匠としては失格だから心配はしたが、ロックの申し出を受け入れた。
「このままじゃ、師匠に、当たらない。だから、今日は終わりにする。」
「そうか、分かった。じゃあロックは出発まで休憩だな。」
ロックは戦いに関しては、勘が鋭いというか、見た目以上に色々考えている。それは良いんだけど・・・ロックさん、ロックさんのそれが当たったら、俺死んじゃう。その辺の加減を覚えてくれると助かるんだけどなぁ。そうなるのはもう少し先の話かな・・・。
ロックと交代で今度はミナの相手をする。ロックと違いは・・・ミナはその辺の加減ができている点ではある。・・・できてはいるのだが、結局槍を使っているので、やっぱり貰ったら、俺死んじゃう。
俺の身体のすぐ近くを、何度も槍の切っ先が通過する。おそらくこれは俺の身体が小さいから、辛うじて躱せているんじゃないかと思われる。もっと的が大きかったら、既に俺は細切れにされているんじゃないかと思われる。ロックもそうだが、日に日にその技が鋭さを増す。という事で、ここでもロックの時同様に、相手が武器を使っているのだからという言い訳をくっつけて、対武器用の合気で応戦を開始する。手加減はしているものの、ロックの時と違い、ミナは地面に転がる事なく、俺に投げ飛ばされた後、空中で器用に身体を捻り着地している。どうしてそんな事が出来るのかと驚く。だが良く考えたら、ミナは人間ではなく蛇だった事を思い出す。そりゃぁ柔軟性が違うよな。俺の常識で計ろうというのがそもそもの間違いだ。そういえば俺達、魔物だった。
ミナの稽古の時は、もう一つロックの時との違いがある。定期的に稽古が止まり、ミナが俺に改善点などの助言を求める事だ。その際に俺が「もっとここはこうした方が良い。」とか「これはやめた方が良い。」「こんな方法もある。」などの助言をする。此処で恐ろしいのは、その助言を元にそれを瞬時に修正してしまう所だ。稽古中に成長してしまう。俺自身が教えた事をそのまま実践してくるのが判っているのに、厄介極まりない。嬉しいやら、困惑するやら、焦るやら。俺ももう一個ぐらい言い訳をくっつけて、武器を使う練習を使用かしら・・・。
ミナの稽古は集中している。大体何時も同じ位の時間で終わる。体内時計の様なものが正確なのだろう、決められた長さの中で集中して稽古に臨んでいる。ミナにはこの方法が効果的な稽古である事を自分で理解してるようだ。ロックとは別の頼もしさと、末恐ろしさを覚える。すぐに師匠の俺より強くなってしまうのではないかと不安にもなる。なるが・・・別にそれならそれでも良い。それが師匠の醍醐味だったりする。でも、俺に憧れて尊敬してくれているから、もう少しだけ凄い師匠でいてみよう。頑張ろう。
なんとか今日の稽古も無傷で終える事ができ、師匠の面子を保つ事ができた。・・・助かった。
稽古を終えて、一休みしてから、そろそろ太陽が真上に差し掛かろうかという頃、出発した。
久し振りに晴れ渡り、視界が良好だ。大気中を舞っていた塵や埃も雨に洗い流されたのか、遠くまで良く見える。見渡すと最近まで俺達の北側を並走する様に連なっていた長い山脈が、とうとうその進路を更に北側に伸ばし、我々と袂を分かち姿を消した。なんだか少し寂しいような気もするが、別にこの世界にいる以上、今生の別れという訳でもない。帰り道にまたご一緒しよう。
山の姿が見えなくなると、更に視界が広がったような印象が強くなる。見渡す限りに広がったその大地を見ると、この世界の広さを更に実感する。こんな場所を歩いていると、方向感覚の技能が無かったら、すぐに自分が今何処を歩いているのか分からなくなりそうだ。地図や地名が無い・・・分からないので、今現在自分が何処にいるのかは良く解ってはいませんが。ただ、あっちに行けばお家に帰れる事だけは分かるので、特に問題はない。
「ご機嫌だね、イッスンの。」
そんなに機嫌が良さそうにしていただろうか。顔に出ちゃっていたのかしら。
「そうかもな・・・これだけ世界が良く見えると、良い気分にもなるさ。」
「それはなんとなく分かる気がするよ。ボクもこの景色は好きだ。」
長い間世界中を旅していたトウオウに同意を得られた。
「どうだ、トウオウ。今までと違って見えるか。」
今までのトウオウは、見るもの全てが興味深くて、それが楽しかったのだから、決して孤独を感じて旅をしてきた訳じゃ無い事は分かってる。だけど今回の旅は・・・言うなれば、家族旅行だ。ちょっと感想が聞いてみたかっただけだ。
「・・・そうだねぇ。正直今までよりずっと世界が綺麗に見える気がするよ。」
「そいつは良かった。」
「もっとちゃんと世界の形を覚えておけば良かったとも思う程だよ。」
なんとも素敵な表現だな。トウオウが家族の事が本当に好きなんだという事が伝わってくる。
「ははは。なぁに、今から覚えたら良いさ。どうせ子供達は、見るもの全てが新しくて、それどころじゃないだろうからな。」
「確かに。初めてこの世界に来た頃を思い出すよ。夢中で飛び回った、あの時の気持を。」
「俺も今、きっとその頃のトウオウの気分だ。・・・良いだろ。」
「良いねぇ。羨ましい限りだ。」
そう・・・やっぱり新しい世界って、不安もあるが、心が踊る。目に映るもの全てが新鮮で、色鮮やかで。・・・ほら、あそこにも何か。
「あれは、お客さんだな・・・。」
そういえば、少し前からフタバの歌声がしていませんでしたね。北側の山脈が見えなくなったせいで、今までより更に遮るものが無くなった感覚が強くなった。ただでさえ何処かの国の動物だけの音楽隊より奇妙な魔物の群なんだから、目立つよなぁ。溜息を一つついて、皆に声を掛ける。
「皆、お出迎えの準備だ。」
いやぁ、まさか途中から鳥の魔物も入り混じって、こんなに面倒臭い事になろうとは。牛やら馬やら鹿やら鳥やら次から次に来やがって・・・。あぁ、忙しかった。何より大変だったのは、俺達の家族になって初めての実戦になってしまったサツキだろう。まあそのサツキの周りをモモカとスーアン、そしてロックが囲んで守っていたから特に問題は無かったが、さぞ慌てただろう。昨日の今日でまた怖い目に合ってしまったかもしれない。
「大丈夫だったか、サツキ。」
「はい。ロックしゃん達が守ってくれました。」
嬉しそうにそう答えるサツキを見て一安心である。
「サツキも、針を飛ばして、一生懸命に戦っていました。あんな事の後なのに・・・たいしたものです。」
スーアンが既に自分の娘の様に、その頑張りを褒めた。俺もそう思う。しかしそうでなくては、この厳しいワイルドライフは生き抜けないのかもしれないなぁ。それにしても・・・あの背中の針、飛ぶんだ。確かに身体中に針が刺さったご遺体が幾つか見受けられるね。
「一休みしよう。フタバ、ヤクモ、警戒を頼む。」
そう言って、今回の獲物を回収してまわる。数が多くて大変だ。だがその間皆は休めるからな、あまり急がないようにしよう。その作業をジュウザとハクが手伝ってくれた。「お前達も大変だったんだから、休んでて良いんだぞ。」と言ったのだが、「主の方が大変だったから、俺もやる。」とのことだった。嬉しい限りだ。・・・っていうか、ハクはともかくジュウザは既に俺より体力があるんじゃないかと思う時がある。くそう・・・体力は身体の大きさに比例するのだろうか。い、いや、まだ大丈夫だ。俺の成長期はまだこれからだ・・・の、はずだ。そうであってくれ。・・・中身のおじさんは不安だ。
全てを回収してから、皆で体力の回復する効果のある木の実を少し食べながら一休みをする。休憩をしながら、先程回収したものの中からサツキの針を取り出して、感触を確かめながら観察する。
「主さま、それはサツキの背中の毛ですか。」
「そうだ。」
「なんでそれを調べてるんですか。」
調べるのが好きなハクらしい質問だな。
「そうだなぁ。せっかくだから、なにかに使えないかなと思ってなぁ。」
「流石主さまです。」
・・・一体何が流石なのだろう。
「なに・・・俺がちょっと、貧乏性なだけさ。」
「ビンボウショウ・・・ってなんですか。」
おっと。貧乏って概念は、確かに魔物には無さそうだな。
「えぇっとだな・・・。どんなものでも何か使い道があるんじゃないかなと思っちゃう癖・・・みたいなものかな。」
「なるほど・・・。流石です。」
・・・何度も言うようだが、一体何が流石なのだろうか。
「何でも、勿体ないと思っちゃうだけさ。」
「僕も考えてみたいです。僕にも少し下さい。」
勝手にサツキの針をハクに渡すのも少し躊躇われたが、勝手に回収して捏ねくり回している俺が何を・・・と思ったので、一応サツキに許可を取ってから、アイテムボックスから適当に引っ掴んで取り出し、ハクに渡した。
小休止を終え、再び東に向けて歩き出す。数こそそこそこ多かったが、今の俺達にとっては特に問題になる程の相手ではなかったので、著しく消耗することもなかった。森を出る前にしっかりと準備をした成果とも言える。これ位の相手に苦戦するようでは、引き返す事も考えなければならないところだった。だがそれも少なくは無いとはいえ、時間制限付きなので、何処かで無理をしなければならなかったかもしれないが。まぁ・・・この先、そういう状況にならないとも言えないが。
それでもやはりサツキには少し体力的にも、能力的にもきつかったらしく、無理をし始めた。俺達に迷惑を掛けまいと頑張っていたが、このままでは良くないと俺が判断した。
「サツキ、無理しないで誰かに運んで貰え。」
そう言われて、始めは首を横に振っていたが、モモカやスーアンの説得もあり、最後は申し訳なさそうに頷いた。
「ほら、誰でも好きなやつに運んで貰え。遠慮しなくて良いぞ。皆もそれで良いな。」
勿論反対意見など出ない。サツキが乗っかったところで、フタバが乗っかっているのと大差無いのだから当然だ。そう言われるとサツキは嬉しそうにロックの頭に飛び乗った。うん・・・たぶんそうだろうと思っていた。
ロックの頭の上に、小さなフタバの頭が乗っかり、そのままぶら下がっているみたいな状態になっている。まるでロックの頭に銀色の毛が生えたみたいだ。色こそ違うが・・・戦闘民族の第三段階みたいになっている。当のロック自身は妙に懐かれて困惑している様子ではあるが。
「なんだか強そうだな。」
「そうだな、イッスンよ。実際ロックは、これで更に成長するかもしれないぞ。」
「あぁ、ロックも自分で助けたっていう責任を自覚してるみたいだしな。」
そう言ってノインを見ると、子供の成長を喜ぶ親の様な顔をしていた。
「イッスンの。ボクの記憶が確かなら・・・そろそろ見えて来る頃だと思うよ。」
トウオウの声のする方へ首を少しだけ動かす。
「見えて来るって・・・何がだ。」
「君が言っていた・・・文明ってやつさ。」
文明・・・。その言葉を聞いて思わず立ち止まる。そしてあらためてトウオウの方へと首を向ける。
「何かあるって事か。」
「そんなに警戒する必要は無いと思うよ、イッスンの。その文明とやらの・・・微かな痕跡の様なものがあるだけだよ。たぶんそれも、かなり意識して探さないと気が付かないと思うよ。」
なるほど。俺は再び歩き始める。どうやらこのトウオウの言い方だと、その文明の切れ目みたいな地点が近いと言う事なのだろう。それもはっきりと境目があるのではなく、掠れて徐々に薄くなって消えってしまった様な場所があるという感じか。って事はだ、唐突に建造物が視界に入るという様な事ではなさそうだ。
「それは・・・少し楽しみ・・・の様な、残念な様な・・・。」
素直な気持ちではある。知りたい様な、知りたくない様な・・・それでも知りたい様な、複雑な感情が胸を巡る。
「余計な事を言ってしまったかな、イッスンの。」
俺のなんとも言えない表情を見てそう言ったのだろう。
「いや・・・問題無い。森を出ると決めた時から、きっとこんな事になるだろうと思ってはいたんだ。それにたぶん・・・きっと俺は知らなきゃいけない事だとも思ってる。だから大丈夫だ。教えてくれて感謝する。」
「そうかい・・・それなら良かった。ただこれ以上は言わないよ。答えを先に知ってしまうのは、面白くないだろう。」
「あぁ、トウオウは良いやつだな。」
「・・・そんな事はないさ。ボクと一緒で発見する楽しみを知っていると思っただけさ。」
トウオウは、照れ隠しなのか、空中で一度宙返りをしてからそう言った。
そんなやり取りの少し後だった。確かにトウオウの言った通りだった。意識して観察していなければ気が付かなかった可能性はかなり高い。もう少し進めば、それははっきりと姿を表し嫌でも気が付くだろうとは思うが。俺はそれを発見し、それが本当にそれであるかを確かめる為に、その場にしゃがみ込む。
「・・・道か。」
先程助言をくれたトウオウを見上げると、そのトウオウは黙って頷いた。これがトウオウの言っていた文明の痕跡。これは獣道ではない。明らかに意思を持って整えられた形跡がある。別に舗装されている訳でも無ければ、周りの景色と違い不自然に草が生えていない訳でもない。それでも・・・なんとなく分かる。確かに草は生えている。だがその生え方に少しだけ・・・本当にほんの少しだけ差がある。それは気の所為で片付けられてしまえる程の差が。
「流石だねぇ、イッスンの。良く気が付いたね。ボクは逆から辿った事があるから、ある程度判別は出来るけど。」
「いやぁ、これは・・・前もって言われなきゃ気が付かないさ。」
立ち上がりながら、その道・・・らしきものが続く先を見つめる。その先は、これから俺達が向かう方へと続いている事が分かる。
この世界に来て初めて「道」を発見した。
それは本当に道と呼べるものなのかは今の所、定かではないが。それでもそれが道である事を、何処にも根拠がないのに確信できる。それは俺が転生者だからなのか。それとも・・・何か、何者かが指し示す「運命」のようなものに導かれているせいなのか。ま、根拠があるとすれば、トウオウがそう言うのだから間違いはなさそうだという事だけ。
どちらでも構わないさ。始めから目指すのは、この「道」の続く先。今更その目的地を変えるつもりもないし、他に明確な目的地がある訳でもない。つまりこの道を進むしかない。
「さあ、行こうか。」
俺は道を歩き出す。




