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55、満天。

 森の外に出て空を見上げると、あらためてその広さを実感する。開放感というのだろうか、空と俺との間に何も遮るものが無く、陽の光が直に降り注ぐ。森で過ごしていた時よりも太陽の偉大さをこの身体で受ける温度と明るさで認識する。・・・森は暗く閉塞感があって不満だったなどという事は全く無い。俺にとってあの森は故郷だ、帰るべき場所だ。すぐに帰りたくならないか、そちらの方が心配なくらいだ。むしろこの開放感は、それこそ遮るものが何も無く剥き出しにされているみたいで、なんとも言えない不安が過る。おそらくこの不安感に大きな間違いはないと考えている。今まで以上に警戒を強めにして慎重に進まないとな。なにせ只今、当初の心配事が見事に的中し、我が隊の最大の探索役がミナの腕の中でぐっすりとお休み中で、その機能を完全に停止いているからな。

 前方に関しては、ジュウザとロックが警戒をしながら先頭を歩いてくれているので、大きな心配は無さそうだが。それでも不慣れな場所で緊張も手伝って、多少警戒の薄くなっている部分はある。そこはヤクモやトウオウがさり気なく補ってくれている。しかしロックはともかく、あのジュウザがきちんと自分の役割を理解し実行している所などを見ると、成長したなぁと嬉しくなる。その反面、子供で無くなってしまった寂しさもあるが。全く勝手なものだな、俺は。もしかしたらこれが親心というやつなのだろうか・・・などと思ってみたりする。


 ロックは、俺とトウオウが最初に作った小さな金槌をとても大事にしてくれていて、しばらくの間何処へ行くにも・・・それどころか眠る時にも握ったままだった。鍛冶錬金用の金槌をロックも含め何度も試作して作り上げた後もそんな状態だった。手で持っていると常に片手が塞がってしまうので、その金槌に細めの鎖をくっつけて首から掛けられるようにした。ロックはそれを凄く喜んでくれた。今日もその金槌の首飾りがロックの旨の前で小さく揺れている。・・・ちなみにロックの背中の翼の様な模様は、大きくなるのではなく、進化の度にその数が増えた。現在は左右に三づつ、計六つ。

 ジュウザには角を避ける様になった額当てを作った。何を作ってやろうかと考えているうちに、皆の中でも順番が後の方になってしまった。それもあってか、この額当てをあげた時は大変な喜びようだった。頼んでもいないのに皆に自慢して回っていた。終いには俺にまで見せてくれた。その時点からジュウザの成長に合わせて、三度改修した。この額当てが俺の想定よりもかなりジュウザとの相性が良かった。ジュウザの戦闘法との相性も良かったのだが、なによりあの問題の角発射との相性が良く、命中率が格段に向上するという、良かったのか悪かったのか判断に困る結果を生んでしまった。つくづくとんでもないやつだな。・・・本当に大物になるかもしれないな。身体は確かに大きくなったけれど。まぁなにより、昔よりだいぶ落ち着いてきた事が喜ばしい。それでも時々目を輝かせて、変なものを拾って来ていたが・・・。そのうちの数個は大金星だったが、その多くは特になんでもないものだった。でも発見って、きっとそういうものなんだろうと、そんな事を考えさせられたりした。


 東西に横たわる山脈を北に見て、その山脈に沿うように東へと歩を進める。進行方向とは逆の我らが故郷の森の北側に目をやると、その山脈にあって一際高く威厳を放つ山がある。我が家からも見えたその偉大な岩山は、こうして離れて見ると周囲の山脈との対比もあってその高さが更に強く印象付けられる。その麓には竜が住まうという山。余程の事がなければ訪れる事はないだろう。触らぬ神には・・・もとい、竜には祟りなし、だな。不用意に近づいて、それこそ逆鱗に触れては目も当てられない。そして今の俺では、とてもじゃないが竜種を相手に出来るとは思えない。今そこから離れているんだから、特に気にすることはないんだが。ただ森の外に出て見たその山がとても素敵なお姿でちょっと感動したって話だ。


 見渡す限りの草原で、遮るものが殆ど無いせいか遠くに複数の気配を見つけることが出来る。おそらくは草食の魔物の群だろう。馬だろうか。それとも鹿の様な魔物だろうか。牛かな、象かな。・・・まぁ、相手が何であれ近づけば面倒な事になるのは間違いないので、できるだけ避けて通る様に心掛けようと思う。なぜならば、俺が兎だからだ。見つかれば肉食、草食関係なく俺に襲い掛かってくるに決まってるからな。全くモテる男は辛いぜ・・・はぁ・・・。

 群れを成し草原で暮らす草食系の魔物への警戒は、油断さえしなけれだそんなに心配をする必要は無いだろう。とすると、警戒すべきは空か地中か・・・。おそらく後者は殆ど警戒する必要は無いだろう。この草原で地中に潜んで獲物を襲う魔物がそんなにいるとは考え難い。勿論ここはファンタジー、そういう魔物がいるだろうから警戒を疎かにする訳にはいかないが。だがやはり真に警戒すべきは上空だろう。森の中と違い頭上を木々の枝葉が覆ってくれている訳では無い。それに俺達も木陰から岩陰、岩陰から草叢へとその身を隠しながら移動している訳ではないからな。その挙げ句に多種族が集まった奇妙な隊列だから、他の魔物から見ればかなり目立つだろうからな。鳥系の魔物は狡猾かつ集団で襲い掛かって来るから面倒なんだよな。その性格もあまりよろしくない。まぁ、さすがに獅子に翼が生えたやつとか、四本脚の鷹のようなやつとかはいない・・・訳はないよなぁ。だってファンタジーだもんなぁ・・・。だが集団にしろ、そんなに強そうなやつにしろ、あちらさんも此方からの視界に遮るものがないのだから発見自体はそんなに難しくはないだろう。警戒を怠らなければ、なんとか対処できるだろう・・・と思いたい。何にせよ今俺達が歩いているのは、俺達にとっては未開の地だ。油断せずに慎重に進んで行こう。・・・但し、我が家の梟は賢くて可愛い。


 その我が家の可愛い梟さんはミナの腕の中で絶賛お休み中である。フタバは現在、頭の上に蕾がある。その名も蕾梟に種族進化している。この蕾はたぶん花開く事にはなるだろうと思われる。・・・それは良いのだが、いまいち不可解ではある。進化の段階を追って花開く方向へ進んで行くのは理解できるんだが、それってフタバ自身の成長とは関係ないのだろうか。進化ではなく成長によって花が咲いても良さそうなものだが。まあ、おそらくだが成長と進化とは車輪の様に平行に連動していると考えるのが妥当だろうな。とはいえ、蕾梟になった時点で花が咲く事になるのは簡単に予測出来るが、俺はあのまま葉の数が増えて帽子の様にフタバの頭上を覆うものだと思っていた。だが違ったようだ。このまま花が咲いたとして、それからどうなるのだろうか。・・・まさか枯れて、種が出来てなんて事にはならないだろうな。そうならないんだとしたらどんな進化をするのか興味はある。自分勝手な願いとしては、フタバには可愛らしいままでいて欲しいなぁ、などと思っていたりする。だが俺がフタバの成長を左右したり妨げたりはしないようにしたい。


 そんなフタバを赤子の様に優しく抱きかかえているミナは、うちで一番の高身長になりつつある。ノインの横に並んでも見劣りしない程だ。ノインの背中に跨っていても全く不自然ではない。むしろ一角馬と聖女の組み合わせに見間違ってもおかしくは無さそうである。ミナもノインも白を基調としている事もそういう印象を与えるのかもしれないが。そしてなによりミナはお洒落な雑誌の表紙になっていそうな程の美貌の持ち主に成長した。あくまで俺の主観だが。好みはそれぞれだからな。

 ミナは槍の使い手であるが、現在は両手が塞がっているので収納している。高身長の上にその身長より長い槍を使うので、稽古をしていても懐に入るのが日に日に難しくなっている。槍を使用しての勝負なら勝てる気がしない。そのうち槍以外のものも勝てなくなってしまうかもな。それでも全然構わないが。稽古の相手は全て我が師匠だからな。・・・にしても、あっという間に手足の使い方を習得してしまったな。俺の様に前世の記憶を持っている訳でもないのになぁ。若さ故の吸収力と適応力なのかもしれないが、それでも大したものだと感心する。俺、ジュウザやロックと並んで、我が部隊の前衛である。ただあまり本気で戦っている所を見た事がない。その実力は未だ未知数。ロックやジュウザとの組手を見る限り、その両名を難なくあしらっているので、その能力は決して低くはなかろうな。あのジュウザでさえミナの言う事を聞くので、きっとそういう事なのではないかと思われる。俺自身、モモカやスーアンにお説教される事もあるが、ミナにされた事はない。それが少し怖くもある。・・・まぁ何にせよ、女性陣を怒らせるのは良くない。絶対に良くない。どんな強力な魔物より恐ろしいから。気を付けよう。


 女性陣といえば、モモカもこの一年の間に二回程進化した・・・はず。外見に大きな変化が無く、俺としては実感し難い。ヤクモやノイン曰く、その変化は一目瞭然なのだそうだ。おそらくは俺以外の全員が判別出来るのだと推察出来るが、怖くて子供達にも聞けない。俺にわかる事といえば・・・以前よりその白さに些か磨きが掛かった事とその影響もあってか、微かに柔らかな光を放っているのではないかなと感じる事くらいか。それが進化による変化なのかは・・・やはり判断はつかない。

 法術が主体の、それも回復と補助を得意とするモモカにはどんな物が良いかと考えて、宝石を使用した首飾りを作った。スーアンやミナの様に手を使える訳でもないし、口に咥えて使用する物もどうかと思い、身に付けられる物をと考えて。大まかな加工はロックにお願いしたが、細かい装飾は俺が施した。せっかく女性に贈る首飾りなので、ただ宝石を首から下げられるようにしましたみたいな物では味気ない。まぁそれでも喜んでくれたとは思うが。俺がやってみたいというのもあったが。元々こういう作業は嫌いじゃないが、結構苦戦した。と言うより、作るための道具を作る事の方が大変だった。細工自体は好きな事も手伝って順調に進んだ。・・・なんと言っても感動的だったのは、細かい作業にも拘らず、良く見える事だった。いやぁ・・・ほんとに。

 中央に五百円玉程の翠玉を、その周りに四つその他の五円玉の穴位の宝石を嵌め込んだ銀の首飾りを。予想通り、スーアンの杖と同種の効果が得られた。俺なりに雪と風を表現した装飾をしたその首飾りをモモカは凄く喜んでくれたので、一安心だ。大切にしてくれるのは嬉しいんだが、普段は汚れたり傷ついたりするのを嫌い、収納して使用を避けていた。流石に今回は万全を期している為、モモカの首に揺れている。俺が言うのも何だが、中々良く似合っている、似合う物が作れた気がしている。たぶん自己満足だが。「良く似合っているな。」と思った事をそのまま伝えたら、なぜかそのまま俯いて、「ありがとうございます・・・。」と殆ど聴こえない位の声で返事をした。・・・おかしいな、付けるのが恥ずかしいような物ではないと思うんだけどな。モモカの毛並みによく似合うと思うんだけどな。トウオウとノインに「似合ってるよなぁ・・・。」と小声で確認したが、どちらも呆れ顔で溜息をついて首を振って、「そうだね。」と言っていた。あれぇ・・・俺、何か間違ったかな。まぁ、怒ってはいないようなので、良い事にする。


 お昼には少し早めだが、昼食を兼ね休息を取る事にした。ジュウザは「まだ大丈夫だよ。」と言っていたが、此処は普段の森の中とは違う事、そしてそうだからこそ普段以上に慎重に行動する必要がある事を説明すると、素直に従ってくれた。

「お疲れさん。」

 と、先頭のジュウザとロックの補佐に尽力してくれていたヤクモを労う。

「はい・・・。流石に少し疲れました。」

 緊張を解くように深く息を吐き出しながらそう答えた。

「ヤクモの。少し力が入り過ぎの様に思うよ。」

「トウオウ殿・・・。」

「前方はジュウザとロックに任せても問題無いと思うよ。それにこれだけ視界が開けているんだ。かなり距離があっても相手を発見できるよ。もう少し・・・そうだねぇ、時折遠くを見渡すくらいで良いと思うよ。」

「なるほど・・・そう心掛けてみます。」

 流石トウオウ、旅慣れているなぁという印象。まぁ、トウオウの場合は魔王だからなぁ、警戒自体があまり必要ないのだろうが。その魔王様が今は俺達の為に警戒を買って出てくれている。

「それにねぇ、ヤクモの。君たちの主殿はそんなに頼りなくないよ。」

「え、俺?」

 不意に出番が回ってきて、声が出てしまった。

「そう・・・でしたね。」

「いや、俺は特に何も・・・。」

 していない訳でもないが、トウオウの解説通り、なるべく遠くに薄く警戒の目を向けているだけで、それ以外は殆どお任せしてはいるんだが。

「ふぅん・・・。そういう事にしておこうか。とにかく、ヤクモの。君も誰かさんと一緒で、もう少し皆を頼って良いと思うよ。ねぇイッスンの。」

 ぐぅ・・・。一応、心の中だけではあるが、ぐうの音は辛うじて出た。

「はい・・・そう思います。」

 くそう、おそらく俺が地中や付近の警戒を密かにしている事を見透かされているな、これは。

「ただ、今の所、肝心要のフタバのがお休み中ではあるけどねえ。」

 トウオウはそう言って笑った。確かにその通りではあるんだが。

「イッスン様、トウオウ様、そして兄上も。少々フタバを甘く見ておられますね。」

 珍しくモモカが会話に加わって来た。で・・・今何と。

「モモカの。それは一体どういう意味かな。」

 そう問われたモモカの表情が少し得意気になる。

「ご存じないんですか。フタバは眠りながらでも広範囲に探知の技能を展開することが出来るのですよ。おそらく最大で、私達の住んでいた森全て位の範囲を。」

 俺達は「なっ。」と音を発した後、目と口を開いたまま二の句が継げないままお互いに顔を見合わせた。

「やはり・・・。だから大丈夫ですよ。ジュウザとロックには良い経験ですから、このままで良いとは思いますが。」

 知らなかったよ、フタバの能力がそんな事になっているとは。

「そうかぁ・・・。それなら存分に頼らせて貰おうか。」

「そうですね。もう少し我々のする事を絞っても良さそうですね。」

 トウオウはそのまま墜落して、声を殺して笑っている。ま、そうなりますよね。しかし驚いた。おそらくモモカはフタバと共に行動する中で知ったのだろう。それに女子会的な事もしていたんじゃないかと。まぁつまりは、男共は女の子の事は良く解らないって事だな。・・・そういえば、今更だがトウオウってどっちなんだろう。そもそも精霊的な感じだから、性別とかないのかな。別にどっちでも良いんだけど。トウオウ自身も考えた事も無さそうではあるが。

 初めて森の外に出た感想などを話しながら食事をし、少し休息を取った。それこそ本当に外で食事をする様な感覚で、それが新鮮でもあり、少し不思議でもあり。


 楽しい昼食を終え、再び東へと歩き出す。森の中では、今でこそ慣れや技能もあってそうでもないが、始めのうちはあれだけの数の木々に囲まれると方向感覚もままならず、自分の現在地を見失いそうになった。だが今俺達が歩いているこの草原は、見渡す限りに広がっていて、それでいてずっと同じ景色が続いており、まるで進んでいないかのような感覚になる。目印になるようなものも少なく、時折それを通り過ぎると、爽やかな黄緑色の平面が地平線まで続いているのが見えるだけ。向かう先にも、南側にも、それ以外のものが目に映らず、ちゃんと進んでいるのだろうかと不安が過る。辛うじて北側に横たわる山脈の峰が脈打っているのと、後方の竜の山が徐々に縮んで行くのを見ると、どうやら目的の方向に進んでいるのだなと、ほんの少し実感できる。ただ・・・龍の山も中々その姿を縮小させてくれないので、実感は薄めではあるが。そしてその龍の山の大きさをあらためて実感する。


 お日様が俺達の真後ろに陣取り、残り四十度程で本日のお役目を終え帰宅する頃、初日ということもあり、ここでも少し早めに本日の行軍を終え野営の準備に取り掛かる事にした。本日は特に、ここまでの間に大きな戦闘等もなく進む事が出来た。その事に少し安堵する。・・・だが気を付けるべきはここらだ。初めての野営、初めて家の外で一夜を過ごすのだから。初めて聖域のように絶対的に安全だと保証されてはいない場所で。勿論その為の対策も幾つか用意しては来たが、それが実際に役に立つのかは殆ど未知数だ。

 その一つとして「火」を用いる事を考えたが、ヤクモやトウオウに「それはあまり効果がないのではないか。」と却下された。そりゃあそうだよな。魔物の中には自ら火を吹いたり、火の法術を使うものもいるんだもんな。それどころか、風や水、雷なんかも使うのをごく当たり前に存在するんだもんな。野生の動物ならまだしも、この世界にいるのは野生の魔物だもんな。効果があるとは考え難いね・・・。残念。もし仮に夜の闇に火などを焚きっぱなしにしておいたら、逆に俺達の居場所を教えてしまいかねない可能性もある。残念。


 俺のアイテムボックスから、折り畳まれた皮と棒の集合体を引っ張り出す。この旅の為に試行錯誤を重ね、何度も失敗を繰り返し作り上げた天幕である。それを子供達と協力して組み立てていく。皆で練習してきた成果を今日という本番で披露する。子供達も野外活動の本番となると少し緊張気味のもちらほら見受けられるが、概ね成功と言って良いだろう。見事その天幕が無事に設置できると、「おぉ。」と低めの歓声が上がった。

 大きさは我が家の居住空間のおよそ四分の一位の大きさ。それでも皆で入るには充分な大きさだ。むしろ大き過ぎるぐらいだが、せっかくなので皆がゆっくり寝床を確保出来るくらいにはしたかった。その結果がこの大きさ。材料も思いの外多く所持していたので、この大きさのものが作れてしまったというのが正しい表現かもしれない。ただその材料というのが、今までに俺を喰らわんと襲い掛かって来て返り討ちにした魔物達の毛皮なのである。その中には狐や熊の毛皮が含まれている。勿論その他にも、馴鹿、箆鹿、猪、鹿等のものもある。流石にこの天幕に栗鼠や蛇、それに鳥の羽根などは大きさの関係で使用していないが。

 ヤクモとモモカ、そしてロックの事を考えると、同族と考えられる狐や熊の魔物の毛皮を使うことが躊躇われた。その旨を彼等に素直に伝えると意外にも、特に何の問題も無いという答えが返って来た。むしろ、命を無駄にしないという精神に感服するとまで言われた。ヤクモ達の方が野生に近い分、命に対して冷めた判断ができるのかもしれない。逆に俺の方が感傷的になって、野生と離れた判断をしているのかもしれない。確かに「命を無駄にしない。」という精神自体は間違ってはいないと思うが。彼等の判断としては、己の命を繋ぐ糧を得た後の毛皮や骨はその場に放置するものなのだろう。だがそれは残った亡骸を自然に還すという行為のようにも思える。となると、俺のしている行為は不自然という事なのかもしれない。文化や文明とはそういった不自然の事を指すのかもしれないな・・・。


 天幕を設置し終えた頃には、すっかり日は西の地平に沈み辺りは夜の闇に包まれていた。天幕の中に入り食事を済ませると、各々適当に今日の寝床を確保し始めた。普段より少し早めだが、やはり慣れない事をして、自分達でも気づかぬうちに披露していたのだろう。やはり早めに休む判断をしたのは正解だったなと思う。それを見届けた後、俺は天幕の外へ出た。

 初めて森の外で見上げる夜空にあらためて、その広さを再確認する。そして目の前の光景に息を呑む。

「これが・・・満天ってやつか・・・。」

 まさに満天の星空。千や二千では足りない程の星が、まるで自分に降り注いで来るかの様な錯覚に襲われる程だ。時間も言葉も忘れてしまったかのように夜空に意識を奪われる。だがしばらくすると、俺の視線が勝手に星を線で結び、星座を象る。あれが歯車座、あれが大盾座・・・。流星兎の恩恵か。天文等の技能の成せる業か。


 星座か・・・。おそらくこの星座はこの世界の「人」が生み出したものだろう。その知識がどうして俺にあるのかも些か不可解だが。それはそれとして、どの世界の「人」も夜空の星に神話や逸話を重ね、寝物語を紡ぐのだなと不思議な共通点に少し口角が持ち上がる。

 そんな星達に、俺は誓う。不自然がなんだ、俺は家族を守るためなら、いざとなったら手段など選ばない。極力「不自然」な事は避けようとは思うが。俺にとってこの世界で皆より大切なものなど無い。世界と家族を天秤に掛けるような事があるのなら、迷いなく俺は皆を選ぶ。だが現状、家族を守る事と世界を救う事はほぼ同じ意味になると思われる。だから、頑張ろう、と。

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