54、・・・どうやら一年経ったらしい。
鼻先を朝の香りが擽る。此処での生活に慣れたのか、何となく朝を香りで感じ取ることが出来るようになった。森が運ぶ朝日の香りに誘われて、ゆっくりと目を開くと、俺の腹の上に顎を乗せて眠っているモモカの顔があった。普段、あまりないのだが、時折こんな事もある。そして今日は更にロックや子蛇達も俺を枕に寝息を立てている。・・・まぁ、今日は致し方ない。だが・・・些か重い。
俺が目を覚ましたのを感じ取ったのか、俺の腹の上のモモカがそのままの体勢で目だけを柔らかく開いた。
「・・・おはようございます、イッスン様。」
朝の陽光を運ぶそよ風みたいな優しいモモカの声が耳に心地良い。
「・・・おはよう。どうしようか、モモカ。身動きが取れないのだが。まぁ・・・別に良いんだけど。」
後もう少しだけなら。だが、やっぱり重い。
「ありがとうございます。今しばらく。」
モモカはそう囁くと、周りにあるもの全てを動かさないかの様にそっと立ち上がり、微笑みながら小さく頷き雲が風に滑る様に庭へと向かった。俺を枕に眠る子供達に気を遣ったのだろう。その子供達を見れば・・・すっかり大きくなったものだとその成長に驚く。そして・・・重い。
「ん・・・。師匠・・・おはよう。」
ロックが目を覚ました様だ。目を擦り起き上がって座った体勢になる。ロックはあれから身体の大きさの変化は殆ど無い。おそらくロックの種族的にこれが最大限に近い体長なのだろう。結局、今の所俺の身長の五分の四くらいか。それでも大きくなった事には変わりない。
「ロック、悪いんだけど、ジュウザ達を起こしてくれるか。」
俺が起こしても良かったんだが、足元の方だったので、自分の足を揺すって起こすのは何だか気が引けたのでロックに頼んだ。ロックは小さく「うん。」と返事をして、近くのハクとサイを軽く揺すった。その振動にハクとサイはすぐに夢の中から此方の世界に呼び出された。
「あるじ、おはよう。」
「あるじ様、おはようございます。」
起床直後で多少滑舌が怪しげではあったがきちんと挨拶をした。だが俺の両足に伸し掛かるように横たわるジュウザは微動だにしない。・・・とにかくこいつが重い。すっかり大きくなって、眼鏡蛇一家ではスーアンの大きさを凌がんばかりの大きさになっている。ミナの様に二足歩行の者もいるので、一概にはなんとも言えないが。
ロックにサイとハクが加わりジュウザを揺すっているが、夢と現の間を行ったり来たりしているご様子。ロックはとうとう揺すって起こすのを諦め、ジュウザの尻尾の先を右手で掴み引き摺りながら庭の方へ歩き始めた。
「・・・ん。わわっ、ロック、ちょ、ちょっと・・・ちょっと待って。」
ここで遂に目が覚めたジュウザは慌てふためきながら、ロックに訴える。だがロックは無情にもそれを完全に無視して、庭の方へと引き摺って行く。
「主ぃぃっ・・・。おはようぅぅぅ・・・。」
哀れなジュウザは遠ざかりながら、きっちり朝の挨拶をした。相変わらず面白いやつだ。その様子をハクとサイが笑いながら並走して行った。朝から愉快な事だ。
俺の右腕を枕にしていたミナは、他の皆が遠ざかったのを待っていたかのように、ゆっくりと上半身を持ち上げた。そして俺の顔を無表情で覗き込んでいる。
「・・・おはよう、ミナ。」
「・・・おはようございます、主さま。」
そのまま俺の目を見つめたまま静かにそう言った。負けじと見つめ返してはいるが、此方としては全く手応えを感じない。
「・・・良く眠れたか。」
との俺の質問にミナは黙ってゆっくり頷いた。そして流れる様な仕草で美しく立ち上がった。モモカが霧のような立ち振舞なら、ミナは風に揺れる柳の様か。似て非なる美しさ。さらにその立ち姿も美しく、前世でもこんなに美しい姿を目の当たりにした事は無いと感じる程だ。・・・まぁ、前世にはそんな方は沢山いただろうが、実際に目を奪われるような程の方を肉眼で確認した記憶は無い。画面の向こうには沢山いらっしゃったが、実物となると御縁は無かったようだ。まぁ、つまりミナには画面の向こうにいた方々の様に立ち姿が美しいと思われると。あくまで俺の感想だが。・・・身長も俺の三倍近くまで伸びているし。
俺に一礼をして庭へと向かうミナの美しい後ろ姿を見送りながら上半身を起こす。俺以外がいなくなった家の中を何となくゆっくりと見渡す。天井の、俺が付けた傷跡を見つめながら、色々あった出来事を思い返す。ここまで色々あったね、セッテさん。『是、肯定します。』今日まで沢山助けて戴きました。ありがとうね。『恐れ入ります。』これからも、よろしくね。『此方こそ、よろしくお願いします。』ま、これからの方が大変かもしれませんがぁ。『是、肯定します。』え・・・本気で。『否定する要素が見当たりません。』えぇぇ・・・まあ、そうだよねぇ。それなら尚の事セッテさんに助けてもらわないと。『是、肯定します。微力ながら。』そんな事はないさ。『恐れ入ります。』頼りにしてます。
実際、セッテさんに頼る場面は今後も幾らでもあるだろう。この世界に来てからお世話になりっぱなしだ。・・・それはセッテさんにだけでは無いが。皆がいなかったら今日まで生きては来られなかったし、こんなに楽しくもなかっただろうな。心の中で皆への感謝をそっと呟く。そんな事を考えながら立ち上がり、両腕を上げて身体を伸ばしながら庭へと向かう。
朝の光が差し込む出入り口を潜り庭へ出ると、ヤクモが近寄ってきた。
「おはようございます、主殿。」
「おはよう。」
朝の挨拶を返しながら庭の中央へと向かう。
「いよいよですね・・・。」
流石のヤクモも多少緊張気味の様子だ。
「そうだな。・・・でも、そんなに緊張しなくても大丈夫だと思うぞ。」
「そう・・・ですね。」
まぁしょうがないか。初めての場所へ向かうのだから、緊張するなと言うのが無理がある。それに油断し過ぎても良くはないしな。
「なぁに、大丈夫さ。この日の為に準備してきたんだ。いざとなったら、すぐに引き返せば良いんだ。」
「はい・・・そうですね。」
尻尾が六本になったのに、随分と慎重派だな。決して悪い事ではないのだが。それに引き換え、小蛇達は少し興奮気味だ。特に誰とは言わないが・・・この気楽さが少しヤクモにもあると良いんだけどな。
「やあ、イッスンの。良く眠れたかい。」
「ああ・・・まぁ少し重かったけどな。」
「ははは、それは何よりだね。」
「トウオウはどうなんだ。久し振りのお出掛けだろ。」
トウオウは「ううん。」と言いながら、顎に手を当てながら右に一回転した。
「そうだねぇ。楽しみではある。だけど、此処での生活も気に入っていたからねぇ。楽しみだけど、ちょっと残念かもしれないね。」
それは俺も同感だね。だが此処に留まっているだけではいずれその生活も出来なくなる可能性があるから、出かける事にしたんだ。
「終わったらまた此処に帰って来れば良いさ。」
俺は初めからそのつもりだからな。初めから此処での生活を守らんが為の今回の旅だからな。
「うん、そうだね。早く終わらせて帰って来よう。」
トウオウは俺が思っていたより此処での生活を気に入っていたようだ。嬉しい限りだし、それは俺もだ。俺にはこの世界を征服したいなどという欲望は無い。この森で静かに暮らしてゆければ満足だ。
「えぇ・・・せっかくだら、少し世界を見て回りたいんだけど。」
「あはは。それも悪くない。良ければボクが案内しよう。」
「そうだな。その時は頼むよ。」
トウオウは「あぁ、任せてくれ。」と言い残し、この場を離れた。今回の旅でも頼りにさせて貰うよ。おそらく俺達の中で一番この世界の地理に詳しいだろうからな。たぶんノインよりも。
「ヤクモ、取り敢えず今日の日課を済ませて来る。」
トウオウを見送りながらヤクモにそう言った。ヤクモは静かに目を閉じ頭を下げた。
「主、俺も・・・。」
とジュウザが同行を申し出ようとしたが、それをヤクモが俺との間に割って入りゆっくり首を振った。ジュウザもその意味を解して素直に「うん。」と返事をして引き下がった。すまんな、ジュウザ。今日はちょっと特別なんだ。ヤクモの肩の辺りを軽く叩き「行って来る。」と声を掛けた。
庭の出入り口に差し掛かると、ジュウザが「主、行ってらっしゃい。」と声を掛けてくれた。俺は振り返らずに、左手を軽く上げてそれに応えた。
この世界に来てからすぐに始めた日課。普段なら全速力とまでは言わないが、それでもある程度の速度で自宅の周りを三周するのだが、今日はゆっくりと歩く事にする。今日までに何度通っただろう。日々の日課もさる事ながら、自宅の周りは皆も毎日のように通るので、その足跡が重なり、すっかり獣道が出来上がってしまった。俺だけだったら、もう少し細い道だったのかな。
一番見慣れた景色。何も分からず、恐る恐る行動範囲を拡げた日々。ヤクモ、モモカと出会った日。大立ち回りをして、疲労困憊で帰ってきた日。捕縛眼鏡蛇の親子に出会い、ヤクモ、モモカと共に連れて帰宅した日。強大な魔物に身体の一部を消し飛ばされ、死にかけた日。ロックが弟子入した日。皆で果物狩りに出かけて、泥だらけになった日。念願の大技を決めた日。まさかの聖獣・麒麟のノインが我が家に来た日。実は一番最初から同居していたフタバが、驚きのあまり振って来た日。南瓜の魔王様、トウオウが家族になった日。・・・本当に色んな事があったな。そのどんな日もこの道を歩いた。風景と一緒に思い出もゆっくりと進行方向と逆の方へと流れていく。木々に刻まれた細かい傷跡も今となっては懐かしさを覚える。その一つに触れて目を細める。この世界に来てからそんなに長い時間を過ごした感覚もしなかったが、自分で思っていたよりずっと沢山の出来事が、思い出があったのだなと驚く。いや・・・それはきっと思い出以上。そして思う。一羽の兎になってしまったが、どうやら俺はこの生活が気に入っているのだと。だからどうにかそれを守りたいのだと・・・。
決意を新たにして、それを確かめる様に道を踏みしめながら一周する。自分ではかなりゆっくり歩いたつもりだったが、歩き慣れた道だったせいか、思ったよりも早く一周してしまった。庭の入口に帰って来ると、ヤクモが出迎えてくれた。・・・何時もながら律儀な事だ。
「おかえりなさいませ。」
「ああ。ただいま・・・って、大袈裟だなぁ。」
笑いながら俺がそう言うと、ヤクモは困り顔で「そうでしょうか・・・。」と言っていた。まぁ、気持ちは解らんでもないが。今日はちょっと特別だもんな。
「まぁまぁ、そんな顔するなよ。それがヤクモの良い所なんだから。何時もありがとな。」
「いえ・・・恐れ入ります。」
現時点で俺より強そうなのに、真面目だなぁ。
「やぁ、イッスンの。今日は随分とゆっくりだったねぇ。」
ヤクモを従えて庭の中央へ向かっていた俺を今度はトウオウがお迎えに来た。
「そりゃぁ・・・な。一応生まれてからずっと此処に住んでたからなあ。」
「そういえば、そうだったねぇ・・・。これはボクが無粋だったね、申し訳ない。」
全く、ヤクモにしてもトウオウにしても気にし過ぎだよな。まぁ・・・俺の物言いにも問題があるとは思うが。
「なに、すぐ帰って来るかもしれないんだから、出かける前の点検みたいなものさ。」
「そうかい・・・そうだね。」
少しは気を取り直してくれたかな。
「イッスンよ、少し良いかね。」
先程から様子を伺っていたノインが、話の切れ目を見つけて話し掛けてきた。
「ん。なんだ。」
「この場所の事なんだが。・・・どうするね。元に戻すかね、それともこのままにしておくかね。」
そういえばそんな問題もあったな・・・。とは言っても、それに関しては俺の中で答えは決まっている。
「このままで。」
「そうか。承知した。」
確かに俺達は度に出るが、その最終目標は全員で生きて帰る事。その目標であるこの場所を、出来る事なら他の魔物達に荒らされたくない。元々この場所の性質が聖域に近い状態だったので、元の状態に戻してもその心配は少ないかもしれないが。仮にこの場所に入り込める魔物がいたとして、その魔物が俺達に敵対するとは考え難いが。それでも俺にとっては・・・いや、俺だけじゃなく皆にとっても大切な場所だから、できるだけこのままでと思っている。だから、このままで。帰って来たい場所。必ず此処へ帰って来るぞと誓いの意味も込めて。だから、このままで。
「これ位の規模なら、このままにしておいても特に大きな問題はないだろう。・・・ないよな。」
「ないだろう。今まで無かったのだ。森に対しても何か影響が出ていたとは感じない。故に、私も大丈夫だと考える。」
ノインのお墨付きを頂けたので一安心だ。何処かの新人類じゃあないが、帰れる場所がちゃんとあるというのは嬉しいものだ。
庭を見渡すと、各々出発を前に興奮したり緊張したりと忙しそうにしている。特に子供達が。その中でもフタバが珍しく、落ち着きなく飛び回っている。普段なら昼間は誰かの頭の上で寝ているのだが・・・主にノインの角を留まり木にして。よほど楽しみなのだろう。今からその調子だと、森を出た辺りで電池切れになっちゃうと思うのだが・・・楽しそうなので邪魔をしないでおいてあげよう。
「主殿、そろそろ出発されますか。」
「いや、もう少し待ってくれ。まだ大切な事が残ってる。」
「大切な事・・・ですか。」
そんなに難しい問題を出したつもりはないが、答えが見つけられずに軽く眉間に皺を寄せている。そんなヤクモに、俺は右手の人差し指を上に向けてこう伝える。
「ご挨拶して来ないと、な。」
「はっ・・・なるほど。それは確かに「大切な事」ですね。」
そう・・・我らが御神木に、今日までの感謝としばらくの間この場所を留守にする旨、そしてその間の事をお願いしなければ。
「だから、もう少しだけ待っててくれ。ちょっと行って来る。」
「はい。いってらっしゃいませ。くれぐれもよろしくお伝え下さい。」
「ああ。皆の分もちゃんと報告してくるよ。」
礼儀正しく頭を下げるヤクモに送り出され、我が家の頭上に鎮座する御神木へと向かう。多少風情に欠けるが、垂直に壁を登る。それでも一歩づつ思いを込めて踏みしめて、その欠けた風情を補った事にしておく。
御神木の足元に立ち、眼下に庭を、そしてそこにいる家族を見つめる。左手で御神木に触れながら感謝を伝える。
『この世界に来てから今日まで、ありがとうな。』
森の香りを纏ったそよ風が俺の周りをすり抜ける。
『ちょっと賑やかになって、迷惑だったかな。』
風に揺れる葉同士が擦れる柔らかい緑の音が微かに降り注ぐ。
『見てくれよ、俺の自慢の家族だ。・・・宝物だ。』
周りの木々の微かな音が重なり、森に薄く合唱が拡がる様に響く。
『俺の力じゃないが、聖域にしちゃったよ。大丈夫だったかな。』
頭上の枝と葉の間から細い光の束が幾つも射し込む。
『大変お世話になりました。少し留守にします。』
不意に疾風が吹き付ける。その風に乗って遠くに微かな笑い声が聴こえた様な気がした。
『じゃぁ、いってきます。』
我らが御神木は優しく微笑みながら「いってらっしゃい。」と言ってくれたんじゃないかなと・・・何となくそう思える。
御神木へ頭を下げてから、庭へと決意と一緒に飛び降りた。
音も無く着地して皆の元へ帰還を果たすと、皆が集まって来た。
「イッスンよ、御神木殿はなんと言っていたかね。」
「いってらっしゃい、ってさ。」
「それはなによりだね。」
初めからノインは御神木様がそう答えるだろうと分かっていたんじゃないかな。っていうか、本当に御神木なのかもしれないなぁ。だとするなら、ノインなら本当に意思疎通ぐらい出来るのかもしれないな。なんてったって、ここはファンタジー・・・だからな。
「主殿、それではいよいよですか。」
「そうだな、そろそろ出発しようか。」
「はい。」
「しかし、ヤクモ。ちょっと緊張し過ぎじゃないか。まだ家から出るだけだぞ。本番は森から出る所からだぞ。」
「はい・・・。それは、分かっているつもりなのですが・・・。」
まぁ無理もないか。ノインとトウオウ以外はこの森から出るのは初めてだからな。俺だって、この世界に来てから初めてだし。それに兎になってからも初めてだからな。緊張感が無く油断するよりは遥かに良いと思うが。
「今からそんな調子だと、いざって時に疲れちゃうぞ。森の中にいる間は普段通りで良いんじゃないか。」
「は、はい・・・。そうですね。」
そう言ってヤクモは、深呼吸をした。うん。すぐにそうやって対応出来るのは素晴らしい事だ。これがヤクモが優秀な所以だ。ま、ヤクモに限らず、我が家臣団は優将揃いなのだが。聖獣や魔王までもがその席を埋めている・・・どうなってんだ、こりゃ。
「良し。じゃあ皆、準備は・・・」
と、皆を見渡しながらそう言いかけて、すぐに苦笑する。
「どうやら、万端のようだねぇ・・・。」
すっかり準備を整え終わり、笑顔を向けている。準備がまだ済んでいないのは俺だけのようだ。
「じゃあ・・・後ちょっと待ってくれ・・・よっと。」
アイテムボックスから、我が愛刀・鋼ガガガニの鋏、改め、ガガ小刀を取り出し腰に装備する。ロックが鋼ガガガニの鋏を鍛え直し、更に鞘まで作ってくれた物だ。勿論、俺とトウオウで、ああでもない、こうでもないと色々と口出しをしたのだが。その鞘に帯の様な物を付け、腰に巻けるようにしてある。それを俺の可愛い尻尾の上の背中側の腰に持ち手を右にして、大地に対して水平になるように。まぁつまり、一狩り行く感じに。そしてその用途も武器としてではなく、その一狩り行く感じと同じ位のつもりではある。基本的に戦闘は、あくまで無手による格闘のつもりである。勿論、危機的状況なら、特に俺の家族を守る為なら躊躇なく武器でもなんでも使うが。・・・ちなみにこの小刀、実は予備が後七本ある。つまり蟹二匹分。予備を作ってくれと頼んだのではなく、ロックの練習を兼ねて、自分から申し出たので二匹分の鋏を進呈した結果、こうなった。色々と試行錯誤の結果、一つとして同じものが無い、面白い仕様になっている。
「これで良し。じゃあ・・・出発しようか。」
そう声をを書けると、一斉に「はい。」と応えた。
全員が庭から出たのを確認した後、その出入り口から我が家を見る。そして一礼。
「いってきます。」
と最後に今一度、そっと呟いた。
はしゃぎまくっていたフタバは、とうとうミナに捕まってその腕に抱かれている。それでも気持ちの治まらないフタバは、お気に入りの歌を次から次へと歌いまくっている。フタバの可愛い声なら騒音にはならないので良しとする。その甲斐あってか、皆の緊張が多少緩和されたようだ。モモカの歌とはまた別の効果があるのかな。そのモモカも曲によっては一緒になって歌っている。それがフタバを更に喜ばせてしまった事には、モモカ自身も困り顔で此方を見て軽く頭を下げ謝意を示した。俺は真上を向かんばかりに頭を後に倒して笑った。
何処かの国の動物ばかりの音楽隊よりも愉快な隊列は、素敵な合唱隊のおかげもあって、その足取りは次第に軽くなり程なく出発地点へと辿り着いた。やっと此処まで来たという思いと、あれからもう一年も経ったのだなという思いが同時に湧き上がる。あっという間だった様な、長かった様な。いざこの時を迎えると、こんなお決まりの事を考えるものなのだなと、面白く思う。
森の端に立ち、振り返って皆の方を向く。ヤクモ、モモカ、スーアン、ジュウザ、サイ、ハク、ミナ、ロック、フタバ、ノイン、トウオウ。その一つ一つの顔を確かめる様に見つめる。その顔のどれもが実に頼もしい。
「さて、いよいよだが・・・。ここから先は俺の我儘みたいなものだ。無理に付き合う必要は無い。引き返すなら今だぞ。」
こんな事言わなくても良いのにと思いつつも、それでも最後の確認を。いや・・・きっと聞かなくても分かっている答えを聞きたかったんだと思う。
「今更何を・・・。私の命は常に主殿と共に。」
「イッスン様、そのような事は二度とお尋ねにならないようにお願いします。」
「このスーアン、主様に受けた御恩がございます。どうかお供をさせて戴きたく。」
「俺は主が駄目だって言っても絶ぇぇっ対、ついて行くから。」
「あるじ、ボクはきっと役に立ってみせるから連れてってよ。」
「僕だって・・・僕だって、一緒に行きたい・・・です。」
「私はこの日の為に準備して来ました。」
「僕は師匠の弟子だから。」
「あたちも、主たまたちと、一緒に行くの。」
「イッスンよ、君こそ良いのかね。」
「イッスンの、聞かなくても良い事を聞いたねぇ。」
皆の言葉に黙って頷く。
再び森の外の方へと向き直る。腕を組み目を閉じて、一呼吸置く。そしてゆっくりと閉じた目を開く。
「・・・さあ、始めようか。」




