53、・・・どうやら甘かったらしい。
日々の気候の変動が緩やかな所為か、時の流れを実感し難い。だが、同じ一日を繰り返しているのではないかと錯覚する程でもない。なぜなら、子供達の成長は早いから。俺やヤクモ達に起きる変化が全く無い訳ではないが、その頻度は子供達に比べれば遥かに少ない。かと言って、子供達が毎日のように何かしらの変化や進化をしている訳でもない。それでも俺達と違い、子供が故に身体的に成長する。主にジュウザ達、眼鏡蛇の子供達だが。それでもロックでさえ、ほんの少しだが、出会った時より大きくなった。本当に少しだけだが。・・・フタバは特に大きな変化はみられないが。心なしか重くなった様な気がしないでもないが。
ノインとトウオウは・・・まぁ、身体的に成長をするという事はなさそうだ。だが、それよりもだ。それよりも気になる事がある。俺は生まれてから今まで、身体的に成長したように思えない。身体的変化は技能の取得やら種族進化やらはあった。それもこの世界で魔物と呼ばれる存在からもかなり逸脱する程の。それなのに、だ。それなのに俺の身長が伸びた気がしない。この世界で一年過ごしたのだぞ。前世の世界の時間の長さで言うなら、約二年程も経過したのに。成長の速度がこの世界の流れに沿ったものだったとしても、ほんの少しも成長した気配が無い。ま、なぜどぅわっ・・・と、目を剥いて不満を噴出させる程気にしてもいないのだが。本音を言えば・・・実は俺自身はこれで良いと思っていたりする。なぜならば、この体型にかなり慣れて来ているから。成長によって手足の長さが変われば、間合いも変わる。それに伴い調整するのはかなり時間が掛かりそうだからだ。約一年後に旅に出る事を考慮すると、少し時間が足りない気がするので、今はこれで良い。おそらく思時間はそう多くないと思っている。同じ稽古に時間を掛けるなら、調整ではなく練度に時間を割きたい。そして何より俺自身が、今の状態を気に入っているのも確かだ。ただ、それでも身長が伸びない理由は知りたい気がする。・・・俺の成長期は前世で終わってしまったのだろうか。
サイにしてもハクにしてもミナにしても、その成長は著しく、その全長だけならおそらくもう少しで俺を追い越してしまうのではないかと思われる。そうなるともうサイもハクも俺の肩に乗ることは無くなってしまうのかと思うと、少し寂しい気もするなぁ。その中でもジュウザは、種族の進化の影響もあるのだろうが、かなり大きくなってきた。大きくなるのは良いのだがぁ、ジュウザの場合はその成長に中身が追いついてないんだよなぁ・・・。いわゆる、図体ばっかり大きくなってぇ・・・という状態だ。これが一番の不安材料だったのだが。
俺達が甘かった・・・。ジュウザの事を甘く見ていた。俺達はジュウザの実に楽しい性格を完全に甘く見ていたよ・・・。いつも俺達の予測の斜め上を華麗に飛び越えて行く。どんなに此方が注意していても。まぁ、それが可愛い所ではあるのだが。それでも些か度が過ぎる時が多々ある。そして今回もそれが起きてしまった。
一応ハクやロック達には、この件をできるだけジュウザには話さないように言い含めていたんだが。そしておそらく彼等は話していないだろう。ヤクモやトウオウに至っては俺と同じ位警戒していてくれていただろうから、そこから情報が漏れる事は無いだろう。そして俺も、ジュウザの前でその技能を使うような事態はなかったと思うのだが。という事はつまり・・・ジュウザは自分だけでその境地に辿り着いてしまったという事だろう。
顔が上下に裂けてしまうのではないかと思われる程口角が上がっているジュウザを見つけた俺は、横にいたサイ顔を向ける。俺と目を合わせたサイも俺と同じ表情で音もなく「あぁあ・・・。」と言っていた。男の子がああいう笑顔をしている時は大抵の場合、ろくでもない事を考えている時だ。
「これは・・・やっちゃったかなぁ・・・。」
「たぶん、やっちゃったね、あるじ・・・。」
「だよなぁ・・・。」
取得可能条件は正確には分からないが、おそらくある程度の角の強化が関わっているじゃないかと思う。ジュウザはそれに自力で到達してしまったのだろうよ。そりゃあそうだよなぁ・・・。ジュウザの様な男の子は、最強とか無敵とか好きだもんな。となると、お気に入りの自分の角の強化に極振りする可能性は大いにあり得る。ちゃんと言い聞かせておけば良かった・・・いや、きっと言っても無駄だったかもしれないな。甘かったなぁ。まぁ、しょうがないよなぁ。俺にだって覚えがある。何処かの星の戦闘民族の下級戦士みたいに、髪を金色にして逆立てるのに憧れたものさ。今現在もその影響が全く無いかと問われれば・・・そんな事はない事は俺のこの様を見れば一目瞭然だが。
「聞くのが怖いなぁ、サイ。」
「はは・・・しょうがないよ、あるじ。だって、ジュウザ兄ぃだよ。」
「まぁなぁ・・・。見つけちゃったら、絶対に取得しちゃうよな。」
「だね、間違いなく。」
サイと一緒に溜息をつき、ご機嫌なジュウザを見る。仕方がないと諦めてジュウザに近づく。何だか些か足取りが重いよ。ジュウザは俺達に気付くと、満面の笑みで振り返った。そして俺が声を掛けるより先に口を開いた。
「ねえねえ主、聞いてよ。」
まあ嬉しそうな顔をしてからに。目も俺に負けないくらいに星の様に煌めいていますよ。
「お、おう・・・何だ。」
ジュウザの勢いに気圧される。そしてこの後の答えは、十中八九わかっている。
「あのね、新しい技能を取得したんだ。すっげぇ面白そうなやつ。」
ですよね。そうだと思っていました。そしてその技能が何であるかも、大体予想が付いています。サイと目が合う。サイも目を八の字にしての困り顔で此方を見ていた。俺も苦笑いを返すのが精一杯。
「そうかぁ・・・。それは何か教えて貰えるのかな。」
たとえ答えがわかっていても、ここは聞いてやるのが俺の役目・・・と喝を入れる。
「うん。あのね・・・角発射っていう技能。」
あぁ・・・やっぱり・・・。という顔でサイと見合わせる。最も恐れていた事態に・・・。
「ねえ、主。試して良い?」
そうなりますよねぇ。取得してしまったものは今更どうする事も出来ないし、いざという時に役に立つ可能性だって大いにある。これが、ジュウザでなければ・・・と思わんでもないが。
「あ、ああ・・・、勿論だ。だけど、ここだと危ないから、壁に向かって撃ってみような。」
「はぁい。」
飛び跳ねるように移動するジュウザの後を、腕を組み天を仰ぎながらついて行く。
「はは、しょうがないよ、あるじ。ジュウザ兄ぃなら、絶対発見しちゃってたと思うよぉ・・・。」
「俺もそう思うよ。教えたら、取得するなって言っても無駄だっただろうしな。何時かはこうなっただろうけどな。」
「うん。」
「ま、俺が先に取得してて良かったって事にしておこう。」
「確かに。知らなかったら、もっと危なかったかも。」
「なぁ・・・。知らなかったら、俺も面白そうだなぁって思っただろうしな。」
サイは笑いながら「やっぱりあるじもそう思うんだ。」と言っていた。
「主、この辺で良いかな。」
待ち切れないご様子のジュウザが相変わらずの満面の笑みで振り返った。眩しいなぁ、もぅ・・・。
「そうだな、良いんじゃないかな。」
「やったぁ。」
小さく飛び上がって、壁の方を向いた。
「ジュウザ、反動が凄いから気を付けろよ。」
「え・・・。」
驚いた顔で此方を向く。
「ジュウザ兄ぃ、あるじだよぉ。その角発射の技能くらい取得してるに決まってるじゃないか。」
お上手。サイの言葉に合わせて少し偉そうに仰け反ってみる。別に隠していた訳じゃないぞと演出してみる。
「そっかぁ、そうだよね。主だもんね、そんなの当たり前だよね。やっぱり、主は凄いなぁ。」
何の疑いもなくそう信じられると、些か心苦しい。この純粋さがジュウザの魅力でもあるんだけど、こうも簡単だと心配でもあるが。サイに目だけで、ありがとうと伝える。サイは・・・目を弓なりに細めて中々の悪い顔で笑っていた。俺はドロップナッツを一粒取り出して指で弾き、こっそりサイの口の中へ放り込む。まぁいわゆる口止め料である。サイの笑顔も満足気なものに変わった。
「しっかり踏ん張らないと身体ごと持っていかれるぞ。気を付けろよ。」
と、自分の経験を元に言ってはみたものの、眼鏡蛇相手に「踏ん張る」とは・・・。ジュウザは尻尾を振り無邪気に「はぁい。」と返事をした。
「あるじぃ、いっそボクが鎖で地面にくっつけちゃおうか。」
「それも悪くはないが、そんな事したら、ジュウザの首があらぬ方向に曲がってしまうのでは・・・。」
「それはないんじゃないかなぁ。」
「なんでよ。」
「あるじぃ、ボク達眼鏡蛇だよ。だから、たぶん大丈夫だと思うよぉ。」
そうでした。だがなぁ・・・それでも不安だなぁ。俺のとジュウザのとの威力が同じとは限らないしな。
「それにジュウザ兄ぃの身体は大きいから。」
確かに。このまま健やかに育ったなら、半年もすれば今までとは逆に俺が跨って乗れてしまいそうだ。
「あるじは心配し過ぎだよ。ジュウザ兄ぃの身体は大きいだけじゃなくて、凄く丈夫なんだよ。この前稽古した時、ボクの鎖で直接叩いても全然大丈夫だったし。」
サイがジュウザを高く評価している事はよく分かるんだが。まぁ、サイの見立てはおそらく間違ってもいないとも思うが。
「でもまあ、今回はこのままで良いんじゃないかな。このままジュウザが後にひっくり返った方が面白いだろう。」
半分本気、残りは冗談。サイの助言もあり、大怪我を負う可能性は低そうだと判断したのと、一度ちゃんと体験した方が良いと判断した為だ。その方が俺の言う事をちゃんと聞いてくれるようになるだろう。それに実践の度にサイに鎖で止めて貰う訳にもいかないからな。
「それは・・・面白そうだね。あるじぃ・・・悪いんだぁ。」
思い掛けず、ジュウザはどうやら俺の合図を待っているらしい。可愛いやつめ。
「もう一回言うぞ。ちゃんと踏ん張れ。それから首も気を付けろよ。」
少し声を低めにしてそう伝えると、流石にジュウザも緊張したようで、「うん・・・。」と神妙な返事をした。
「サイ、ジュウザが飛ばされた時に受け止めたり出来たりしないか。」
「うぅん・・・出来なくもないと思うけど、たぶんこれはジュウザ兄ぃにしか使えないかなぁ。それでも良いかなぁ。」
「あぁなるほど・・・鎖で受け止めるつもりか。・・・うん、これも練習のつもりでやってみようか。」
「流石、あるじ。わかった、やってみる。」
「良し、ジュウザ。俺達も準備できたから、撃って良いぞ。」
そう言うと、ジュウザは一度大きく深呼吸をした。そして改めて首を正面の壁の方へ向けた。息を止める。俺も少し緊張してきた。来る、と気配で察する。
「角発射っ。」
ジュウザの掛け声と同時に低くて重い砲撃音に似た音が響く。・・・俺の時と音がちょっと違わないか。大きさの差か、それとも俺の時も外から聞いていたら同じ様な音がしたのか。その砲撃音の直後にもう一つ、衝撃音が響く。これは明らかに砲弾の大きさの差だろうな。
そして最大の関心事だったジュウザはどうなった、と急いで視線を向ける。そこには発射位置のやや後方、砂煙の中に発射した時とほぼ同じ体勢の角が無くなったジュウザがいた。
「本気か・・・。」
手で両目を塞ぎ天を仰ぐ。そういう事かぁ・・・。地の上を滑ってそのまま下がったのか・・・。こいつは盲点だったぜ。蛇の身体が幸いしたのか。やっぱり二本足って生物的にはかなり不安定なんだなと実感する。
サイと目を合わせて、たった今起きた事を理解すると吹き出した。
「あはははっ、凄いや、ジュウザ兄ぃ。」
「全くだ。俺も驚いたぜ。まさか身体ごと滑って反動を逃がすとは思わなかったよ。」
勿論、ジュウザがそこまで考えていた・・・なんて事は九分九厘無いだろう。いや、絶対にないな。なぜならジュウザ自身が今現在、何度も瞬き呆然としているからだ。俺達の呼び掛けにも反応できていない有り様だからな。
「おぉぃ、大丈夫か。ジュウザぁ。」
駄目だ、反応が無い。おっとまさかあの自分の砲撃音で、しばらく耳が聴こえない状態かな。絶対俺の時より大きかったもんな。ジュウザのやつ、発射実験の前に何かしらいじったなぁ・・・。この辺をもう少し慎重に進めてくれるだけでも違うんだけどなぁ。思い立ったら一直線だもんな。眼鏡蛇なのに・・・全く猪向きの性格だよ。前世は猪だったんじゃないか・・・と思ってみたり。
サイの頭の後を軽く押して、側に行ってやれと促す。サイも俺の方を見て軽く頷いてから、未だ状況を把握しきれていない兄の元へ向かった。
近寄ったサイが呼び掛けるとようやく反応を返していた。しかし大したものだ、あの威力の角発射を放っても特に大きな問題がなさそうだ。進化の影響もあるのだろうが、丈夫な身体でなによりだ。・・・本当に無事なのだろうか。
「ジュウザ、身体はなんとも無いのか。無理は良くないぞ。」
サイから少し間を置いて近づいて、そう聞いた。ジュウザは何度か頭を様々な方向に動かした。どうやら自分の身体に異常がないか確かめているらしい。
「・・・なんとも無いよ、主。」
ジュウザは笑顔でそう言った。嘘をついている様子は無さそうだ。ま、たとえ嘘でもジュウザの嘘なら誰でも容易に見抜けそうだが。
「そいつは良かった。・・・で、その角はどうすんだ。ちゃんと再生する技能はあるんだろうな。」
「うん。」
ジュウザは返事をして、即座に角を再生した。流石のジュウザもそれは備えてあったか。改めて角が突き刺さった壁へ視線を向けた。
「いやぁ、しかし凄い音だったな。」
壁に近づきながらその威力を確認する。俺のより間違いなく威力はあるな。ただ、命中精度は俺の方が高そうだな・・・たぶん。技能が技能だけに、おいそれとは試せないが。俺としてはあくまで緊急処置としてのつもりだからなぁ。まぁ、だからといって練習しない訳にもいかないが。それこそ、いざという時の為に備えておく必要はあるだろうからな。それにしても随分と深く刺さってるな。この威力の差は、角の質量の差か、それとも技能の数値の差か、或いはその両方か。しかしその数値に命中精度は含まれないのか。まあ、あの反動じゃあ命中精度もあったもんじゃあ無いけどな。前に飛んで壁に当たっただけでも御の字か。
「ねえねえ、主。」
「ん、なんだ。」
「この角発射さ、連続で出来ないかな。」
なんですと。連射とな・・・。この小僧はなんて恐ろしい事を考えるんだ。確かに角の再生自体は回数制だが、角発射は一応MPなる力を消費するんだよなぁ。今となっては、俺にとっては気になる程でも無いが、ジュウザにしてみたら結構な消費量になるんじゃないのか。
「ま、まあ・・・悪い考えじゃないと思うが、それだと力を沢山消費しちゃうんじゃないのか。」
「そうだよ、ジュウザ兄ぃ。あんまり無茶な事をしない方が良いんじゃないかなぁ。」
サイも同意見のようで、やんわりと援護射撃をする。
「サイ、大丈夫だよ。どうせ俺、法術は全然使えないし。他にあんまり力を消費する技能は無いし。」
平然と何気なくそう言ってのけるジュウザの事を、俺とサイは思わず目と口が同時に開いてしまった。
「おい、サイよ。こいつは本当にジュウザなのか。」
「う、うん・・・たぶん。ボクにはそう見えるけど。」
小声で囁くように会話する。
「まぁ、俺にもそう見えるんだが・・・。なぁ、試しに蛇眼で調べてみてくれないか。」
「あるじぃ・・・それは、いくらなんでもジュウザ兄ぃに失礼だよ。」
そう言って、俺とサイは小刻みに、そして細やかに身体を震わせた。サイの言う通り、確かにジュウザの事を甘く見ていた様だ。ジュウザは、事戦闘においては知恵が回る・・・と言うより本能的に嗅ぎ取る嗅覚のようなものが鋭いんだろうな。全く戦闘向きなやつだぜ。俺達の中でも貴重な前衛だからな。その中でも意外に多様な戦術を用いる事が出来る変わり種。実は結構重要な戦力なんだよな。これでもう少しお馬鹿さんでなかったら・・・。
「サイよぉ・・・もう少しジュウザに色んな事を教えてやれないのか。」
「無茶言わないでよ、あるじぃ。それはたぶん、ボク達兄妹であるじに勝つより難しい気がするよ・・・。」
「ありゃりゃ、そんなにかぁ・・・。」
声を殺しながら笑う。だがこの此方の予測出来ない発想がジュウザの最大の強みと言える。このままでも良いか。だがそれでも絶対にやってはいけない事は、ちゃんと言っておかないとな。
「なあ、ジュウザ。」
「何、主。」
「その角発射な、余程の事が無い限り、森の中で使うのは禁止だ。」
「えぇぇ、何で・・・そうかぁ。森が壊れちゃうからだね。」
お、自分で答えを見つけた。ちゃんと成長しているんだな、良い事だ。
「そうだ。連続発射なんて、もっての外だ。森の形が変わっちゃう。」
「はぁい・・・。」
少し残念そうに俯く。
「俺はな、この森が好きなんだ。だからできるだけ傷つけたくないんだ。ジュウザはこの森は好きか。」
「うん、勿論だよ。だって生まれた場所だもん。」
「そうだよな。だからジュウザにもこの森を大切にして欲しいんだ。」
「わかったよ、主。」
素直で可愛いやつだ。可愛いと表現するには些か身体が大きくなって、適切ではなくなってきてはいるが。それでもまだ中身の成長は追いついていないが。まぁそんなに焦って成長しなくても良いけどな。
「だけど、連射は悪くないと思う。何か練習出来る方法を考えるから、少し使うのは待ってくれ。それで良いかな。」
「うん。ありがとう、主。」
声が元気を取り戻した事を伝えてくれる。確かに連射は、使い所によっては一撃必殺の大技になり得る。使える様になって損は無さそうだ。俺も三連射位は出来るようになっておこうかな。
「あるじ、ありがとう。」
「何がだ。俺は何かしたか。」
「ジュウザ兄ぃの事、怒らないでくれて。」
サイは兄想いの良いやつだ。まあ、この兄妹は皆お互いの事を想い合っている良い兄妹だけどな。
「何で怒る必要があるんだよ。ちょっと馬鹿な事をしでかす時もあるけど、悪さをしている訳じゃないだろ。」
「うん、そうだね。」
「ジュウザは強くなりたいだけだからな。その方法がちょっと独特だけどな。」
「はは、そういえばそうだった。あるじみたいになりたいんだもんね、ジュウザ兄ぃは。」
そう言われちゃうと、何だか気恥ずかしくて返す言葉が出てこない。鼻の頭を指で掻いて誤魔化す。
「なぁ、ジュウザ。連射は何発位撃てる様になりたいんだ。」
照れ隠しついでに苦し紛れの質問を投げる。「そうだなぁ・・・。」と少し考えてから、
「十三連射が良いかな。」
と答えた。
「へぇ・・・。どうしてだ。」
「だって俺、ジュウザだし。ジュウザって、十三って意味でしょ。」
これはジュウザにしては随分と気の利いた答えだな。
「まぁ・・・そうだな。」
一応、漢字で書けばそうなる様に意味を込めてはみたが。無論、適当に名付けたつもりもない。
「俺、主に付けて貰ったこの名前、凄く気に入ってるんだ。だから、十三。」
おっと、不意を突かれた。鼻の奥に軽い刺激が走り、弱めではあるが涙腺を攻撃する。危ない。こいつ、奇襲の天才か。素早く顔を上に向け、軽く首を振る。何とか平静を取り戻す。
「そうか。それなら、角の再生回数には気をつけないとな。」
「うん。ええとね、今は・・・二十二回だね。だから・・・次の目標は二十七回かな。」
「ジュウザ兄ぃ、それだと一回多くない。」
「だって、丁度だと角が無いまま戦う事になっちゃうじゃないか。俺、それは嫌だ。」
おおっと、これはサイが一本取られた。俺もジュウザがそこまで計算していたとは驚いた。にしても角にそこまでの強い拘りがあるとは思わなかったよ。そんなに気に入っているのか、角。
「本当にジュウザ兄ぃはあるじの事が好きだねぇ。」
んん、なぜそうなる。
「何だよ、サイだって主の事好きだろ。」
「そうだねぇ。」
一体何故そんな会話になるんだ。
「おい、ジュウザ。そういえばさっき、力を使う技能はあんまり無いって言ってたけど。他に力を使うのはどんな技能なんだ。」
またしても苦し紛れの質問を、多少無理やりではあるが、放り投げた。
ジュウザは自分の能力画面を開いて眺めながら、どの技能がそれなのかを調べているのだろう。
「サイはどんな技能だと思う。」
「さあ・・・。ボクが言うのも何だけど、全く予想がつかないなぁ。」
やはりサイでもジュウザの考えは読めないか。
「ああ、そうだ。主、実は俺・・・。」
次にどんな言葉が出てくるのかを期待と不安で待ち構える。
「火が吹けるんだぁ。あのね・・・火炎放射って技能。」
・・・あっちゃぁ。俺とサイは絶句して、同時に首をほぼ直角に曲げ天を仰ぐ。そういえばそうでした。
・・・どうやら俺達は甘かったらしい。




