52、・・・どうやら間違ってはいないらしい。
予てより考案中だったスーアン用の、いわゆる魔法の杖の制作に取り掛かった。我らが制作隊のロックとトウオウを筆頭に、ハクやフタバ、そしてサイを加え、ああでもないこうでもないと試行錯誤を重ね十日程掛けてなんとか翠玉馴鹿の角を使用した杖を完成させる事が出来た。・・・正確には、試作品と言った状態ではあるが。実際にスーアンに使用して貰って、修正・改善する事が前提になっているからだ。なんと言っても魔法の杖など作った事がないので当然だ。上手く機能するかも怪しいところではある。
そしてスーアンが宝石法杖眼鏡蛇に進化したのに合わせて、そのお祝いにという名目でハクとロックから、皆で頑張って作ったその杖を渡して貰った。まぁ、そうなるだろうと思ってはいたが、スーアンは自分が進化した事よりも喜んで涙していた。そりゃぁそうだ、自分の息子と自分の子供達と同じ様に愛している子供達からの贈り物だ。俺でも泣いちゃうな、絶対に。あれぇ、今俺の方を見て頭を下げたな。
「いや・・・主殿、あれだけ毎日大騒ぎしていたのですから。誰からの贈り物かは簡単に判るのでは。」
呆れた顔でヤクモが俺を見ている。笑ってもいるが。
「イッスン様、まさか本当にスーアンさんが気が付かないと思っていたのですか。」
確かに・・・。それで気付かない程スーアンは鈍感じゃぁないよなぁ。ただ作っていた物が自分の為の物だとは思っていなかっただろうが。
「そっかぁ・・・。俺が子供達と遊んでいるだけには見えなかったかぁ・・・。」
「そう見えていたかもしれませんが、スーアンさんならすぐに合点がいったのではないですか。私でもそうだろうなと、思い付きますよ。」
モモカの仰る通り。俺の策があまりに稚拙で笑えてくる。
「俺としては、子供達からって事にした方が喜ぶかなと思っただけなんだけどなぁ。」
「それは・・・。そこまでお考えだったのですか。流石は主殿です。」
あちゃあ、ヤクモの安定の過大評価が発動してしまった。俺も別に嘘をついたつもりもないし、子供達からと思ったのも本心だが。モモカも感心した様に頷いている・・・。この兄妹は全くもう。ま、この兄妹に限った話ではないが・・・。冷静に俺の事を評価しているのはノインとトウオウだけだろうなぁ。ありがたいやら、気恥ずかしいやら。
「実際、ロックとハクが凄く頑張ってくれたからな。間違っちゃあいないさ。」
「主殿がそう仰るのなら。」
ヤクモはそう言ってモモカと同時に静かに頭を下げた。
この魔法の杖、通称「翠玉の杖・試作型(仮)」を作るにあたり、まずは水水晶での試作品を作ってみる事にした。取り敢えず木の棒の先に簡単にくっつけて、ちゃんと機能するのかを確かめてみた。駆け出しの冒険者の魔法使いの初期装備の様な簡単な物だ。試作品の試作品、つまり仮組みといった感じ。はてさてこれで法術用の杖として機能するのだろうか。
「あるじ様、これで法術を使うとどうなるんですか。」
基本的な質問だね。その質問の答えは・・・俺には分からない。なにせ俺だってはじめましてだからな。ハクに質問されて気が付いたが、現状ヤクモとモモカ、そしてスーアンは杖無しでも充分に法術を使えている。だがヤクモに関してはあの複数の尻尾が杖と同様の役割をしているとも考えられる。それこそ当のスーアンの尻尾は、法杖眼鏡蛇のその名の通り法杖と化しているのだから、俺達が作ろうとしている杖が全く意味がないとは考え難い。が、だ。どんな役割があるのかは不明と言わざるを得ない。
「うぅん・・・。使いやすくなったりするんじゃないかと・・・思っている。」
「・・・なるほど。」
「ごめんなぁ、ハク。俺は法術や魔法があんまり得意じゃないから、正直良く解らない。でもスーアンの尻尾と同じ様な機能を持った物が使えたら便利だと思わないか。」
「はっ・・・そうか。そうですね、さすがあるじ様です。」
とは言ったものの、前世でも本物ってやつにお目に掛かった事がないからな。どうしたものか・・・。あ。そういえば近くにその様な物を常に持ち歩いている・・・んん、持ってはいるがぁ、歩いてはいない魔王様がいたな。
「おおい、トウオウ。ちょっと聞きたい事があるんだけど。」
俺達から少し離れた場所で茸を捏ねくり回しているトウオウに声を掛けると、身体ごと此方を向いた。
「なんだい、イッスンの。」
そう言いながら近寄ってきた。相も変わらず重力の影響をまるで受けていないかの様に揺れながら。この姿を見ていると、この世界には重力など無いのではないかと錯覚する。
「で、聞きたい事って何だい。」
おっと。
「あぁ、いや・・・あのさ。その角灯、法術・・・トウオウの場合は魔法か、魔法の杖なんだよな。」
「うん。そうだねぇ。それがどうした・・・あぁそうか、今作ろうといているのは、それだったねぇ。」
「そうなんだよ。だけどなぁ・・・根本的な事を知らない事に気が付いたんだよ。」
「根本的な事とな・・・。」
トウオウは不思議そうな顔をした。・・・と思う。
「その杖があると、魔法を使うに当たってどんな効果があるのかって事だ。」
「なるほど。それは確かに根本的な事だね。」
「だから、簡単で良いから教えてくれないか。」
「良いともさ、イッスンの。・・・だけど、少し整理するから待ち給えよ。」
「おうさ。」
俺の相槌を確認すると、トウオウは風に揺れるてるてる坊主の様に左右に振れながら考え始めた。俺は取り敢えず今作りかけの、試作品の試作品の作業を進める。そんな俺をハクが不思議そうな顔で覗き込んでいる。
「どうした、ハク。」
「いえ・・・あるじ様でも知らない事があるんだと思って・・・。」
「そりゃぁ、あるさ。知らない事ばっかりさ。」
そう言って笑顔を向ける。
「そうなんですね・・・。でも何で、そんなに楽しそうなんですか。」
「それはな、知らない事を知るのは楽しい事だからだ。・・・でもそれは、ハクだって楽しい事だと知っているんじゃないか。」
「・・・はい、そうですね。」
俺に言われてその事に気が付いたのか、元気な返事が返ってきた。あんなに色んな事を擦り切れる程調べているのだから当然だろう。好きだから楽しいのだし、楽しいから好きなんだろう。ただ・・・一体何が擦り切れるのかは不明だが。
「良いかい、イッスンの。」
少し前からハクとの会話が途切れるのを待っていてくれたトウオウが見計らって声を掛けてくれた。
「おう。悪いな。」
「問題ないよ。」
ハクは「ありがとうございました。」と丁寧に挨拶をして、南瓜の魔王様が新しく作ってくれた自分専用の金槌を振って、鍛冶錬金と格闘しているロックの作業している方へ向かった。
「ええとねえ、法術や魔法は使う時に、溜めるというか練るというのか、そういうのをするだろう。」
「あぁ、そうだな。」
「それって、本来身体の外側でするだろう。」
「うん。確かに。」
そう言って実際に右の掌の上に小さな兎玉を作り出す。
「そうするとだね、それに必要な力が不必要に消費されるんだよ。だけどね杖を使うと、身体の中で溜める事ができるっていう感覚に近い状態になる・・・って感じかな。」
「なるほど。力をより無駄なく効率良く使う事ができる様になるって事か。」
「流石だね、イッスンの。」
トウオウは満足気に頷いた。納得したのを表現するかの様に右手を握り込み、極小の兎玉を霧散させる。
「それは便利だな。」
「そうだねぇ。・・・しかし、その事を知らないのに杖を作ろうとしているんだから、本当に凄いなぁ君は。」
感心しているトウオウには悪いが、俺にとっては偏った知識からの、法術系・魔法系には杖だろうという安直な発想でしか無かったんだよな。杖にどんな意味があるかなんて詳しく考えた事は無かったよ。だがどうやらヤクモやモモカの、そしてスーアンの尻尾がその役割を担っていたであろうという推察は、大きく間違ってはいなかったらしい。
「なに、ただの先入観でしかないよ。スーアンには法杖が似合うだろうなぁ・・・位のな。」
「そうなのかい。まぁ理由はどうあれ、スーアンのには最適な贈り物だと思うよ。」
「おう。・・・後は、これが俺の思惑通りに機能してくれるかどうかが問題だな。」
「ははは、それは確かにそうだね。・・・ボクはたぶん大丈夫だとは思うけど。はっきり合っているとも断言は出来ないがね。」
スーアンが宝石法杖眼鏡蛇に進化した今でこそ、この発想が正しかった事はそのスーアンの変化した尾の形を見れば確信できるが、この時点では全くその確信は持てなかった。
「と言う事で・・・この水水晶の杖で試してみよう。」
「うん。それが良さそうだね。」
水水晶自体も上手く機能するかどうか分からない状態だ。だがこの実験を誰に頼もうかな・・・とトウオウの方へ視線を向ける。
「別にボクが試しても良いけど、ボクの場合は魔法だよ。スーアンのは基本的には法術なのではないかな。」
「そう言われてみればそうだな。魔法では使えて、法術では使えませんじゃ意味があんまりないもんな。」
「そうだねぇ、逆ならまだだいぶ良さそうだけどねぇ。」
「確かに。・・・でもさ、一応魔法で効果があるかどうか、試してくれないか。」
「うん、それも調べて損はなさそうだ。任されたよ。」
トウオウに武器屋の息子が練習で作ったような完成度の杖を手渡す。
「ここでやるかい。」
「いや、さすがに少し離れよう。威力に変化があっても困るしな。」
そう言って立ち上がり、ロック達から距離を取り的にする壁の方へと向う。トウオウも「そうだね。」と返事をしてついてくる。
「ハク、一回トウオウの魔法で実験するぞぉ。」
一応、興味があるかと思って声を掛けると、ハクは首だけが此方に飛んでくるのではないかという勢いで首を回し、輝く笑顔で振り向いた。「来るか。」と聞くより先に此方に向かって滑り出していた。立ち止まりハクの到着を待ち、腕を差し出す。その意味を瞬時に解したハクは、迷う事無く俺の肩に乗る。
「何が起きるか判らないから、念の為な。」
近くで実験を見るなら、おそらくここが一番安全だろう。そう近くで見るなら、だ。こういう時は離れている方が安全なのは間違いない。
壁に向けて試作品の杖を構えて合図を待つトウオウ。俺と肩の上のハクは息を殺しその瞬間を待つ。
「あ、イッスンの。何の魔法で実験しようか。」
俺は肩にハクを乗せたまま前のめりに倒れた。
「・・・そういえば、決めて無かったな。でも何でも良いんじゃないか。」
「・・・イッスンの。君って時々凄くいい加減だよねぇ。」
なんですと。いつも我間せずみたいに浮遊している南瓜の魔王に言われたくないのだが。・・・かと言って、否定する要素も持ち合わせてもいないが。
「あい・・・すみません。」
「まあ良いけど・・・。でもさ、この水水晶との・・・相性みたいなものもあるんじゃないかと思うんだよ。」
あぁ、完全にその発想が抜けていましたね。水水晶っていうくらいだから、水や氷との相性は良さそうだ。逆に火の系統とは相性は良くなさそうだ。だがこれも仮定の話。全く関係ないかもしれないし。
「確かにありそうな気もするな。じゃあトウオウのその角灯は、どうなんだ。相性とかあるのか。」
今度はトウオウの方が「そういえば。」という顔をしている。・・・みたいに見える。
「ボクの角灯は・・・どうだろう。基本的には火の魔法しか使わないから、良く解らないね。」
「おい。」
思わず自然に突っ込みを繰り出してしまった。
「あっははは。少なくとも火の系統とは相性は悪くなさそうだよ。」
「でしょうね。」
トウオウは俺と肩に乗ったハクと一緒に笑った。そりゃあ角灯が火との相性が悪かったら大変だろ。
「じゃぁ・・・何でも良いから、試してみてはくれないか。まぁ何が起きるか分からないから・・・良ければだけど。」
「勿論だ、やってみよう。この角灯は、いっても君が現時点で作り出せる物よりは上等な・・・魔道具の筈だ。そう簡単には壊れないだろうよ。小さな魔法で試せば特に問題は無いだろう。ボクも興味があるしね。」
そういえばそうだった、トウオウもハクと同じ位・・・いやおそらくそれ以上に好奇心の塊だったな。干渉こそしないものの、数百年もの間飽きること無くこの世界を巡り続けていたのだもんな。俺と・・・俺達と出会って、その好奇心に拍車が掛かってしまったご様子だ。積極的にとまでは言わないが、干渉しないというのは何処かへ行ってしまったらしい。その大きな要因はおそらく、あの直向きに探求する子供達だろうな。気持ちは解る気がする。その純粋な姿を見てると、思い出しちゃうよなぁ・・・知るって事の、発見するって事の楽しみを。そして夢中になってしまう気持ちを。
「そうか。ありがとな、トウオウ。・・・で何にする。」
「そうだねぇ・・・ボクの得意なのはぁ、火と土と風と・・・かな。」
おや、珍しく言い淀んだな。普段から受け答えが曖昧な事も多いが。言いたくないなら別に構わないさ。
「あのぉ・・・。」
唐突に俺の肩から声がした。
「ん。どうした、ハク。」
「トウオウ様は・・・今までに、その角灯で火の系統以外の魔法は使った事は無いのでしょうか。その・・・魔界でも。」
ハクの質問に俺とトウオウは顔を見合わせる。そしてお互いに指を指し合いながら吹き出す。いつもこんなんだな、俺達は。こういう時は笑い話になるから良いけど、危機的状況でこれでは致命傷になり得る可能性もある。冷静になれば気が付けるはず。反省だな、頑張ろう。
「はぁあ・・・。魔界では問題なく使えていたよ。ハクの、ありがとう。だが、イッスンの。今まで意識していなかったから、改めて調べて見ようと思うのだが。どうかな。」
「勿論だ。やってみてくれると助かる。」
ようやく実験を開始するに至る。何やら余計な廻り道をしたような気もするが、こういう廻り道が楽しかったりもする。この家の敷地内にいる時くらいはこれで良い。お出掛けする時にはもう少し気を引き締めて。最近忘れがちだが、ここはワイルドライフ。油断をすれば命を落とす。多少強くなって疎かになっていた気もする。思い出せて良かった。初心忘れべからず。
トウオウは卓球の球台の魔法を角灯から幾つか壁に放ち、此方を向いた。実際にトウオウが魔法を使う所を初めて見た。特に詠唱なども特に無く、魔法名を小さく呟いてはいたみたいだけど。その様子を俺の肩の上でハクは興奮気味に見つめていた。楽しそうだな・・・俺も楽しい。
トウオウ曰く、特に大きく差は無いが、一応火の魔法は気持ち出が早い気がするとの事だった。おそらくそれはトウオウの能力が極めて高いからなのではないかと考えられる。つまり俺達位であればその影響は結構あるんじゃないかと思われる。だがトウオウの角灯は魔界産の魔道具。宝石、此方の世界の水水晶なる石を使用した杖が果たして上手く機能するかしら。ま、今からそれを試すのだが。
「じゃぁ、今度はこっちで頼む。」
トウオウへ水水晶の杖を差し出す。
「それはまずイッスンの、君が試してみたら良いんじゃないか。」
「なんですと。俺は法術はそんなに得意な方じゃないんだけどな。」
「この実験の場合は、そこはあまり関係ないんじゃないかな。なぁ、ハクの。」
「・・・あ、はい。ボクもそう思います、あるじ様。今回は属性の方が重要です。」
「あぁ、なるほど。・・・で、なんで俺なんだ。」
「はい。あるじ様は、放水が使えるからです。」
あ。そういえばそんな技能があったな。俺としては水場の無い所で飲水が確保できそうだな位に考えていたからな。すっかり忘れてたよ。っていうかトウオウもハクも俺より俺の事に詳しいな。まぁ家族には能力を特に隠してはいないが、こっそり除いている様子もなさそなんだけどな。
「取得した時に試しに使ったきりで、忘れてたよ。確かにあったな、水の法術。・・・じゃあ俺がやってみるか。」
本当に放置してあったから、Lvは2のまま。今回はそれも殆ど関係ない話だが。杖を握り直し壁に先端を向けて構える。
「法術・放水。」
別に声に出す必要性もあまりないのだが、一応この方が明確に意識しやすいので声に出す。杖の先に、力が巡るのを感じる。確かに先程トウオウから受けた説明が、かなり的確だった事を実感できた。あの南瓜の魔王様は中々説明上手だ。そして放水を発射する。杖の先から五百円玉程の直径の水が柱状になって弧を描いた。勢いとしては・・・庭に水を撒く時程だろうか。飛距離としては、ノイン一馬身半程離れた壁には届く気配もない。
「うん。これはたぶん、かなり効果が上がってるな。」
そう言いながら、少しの間杖を真上に向けて自分の上に簡単な雨を降らせる。ハクが肩の上で可愛い笑い声を上げた。
「どうやらこの方法は間違ってはいなかったらしい。良かった。」
「そうだねぇ。杖はこの仕組みで良さそうだね。」
これで一安心だな。宝石と思われる類の物は法術・魔法と相性が良い事が分かった。これはかなり大きな一歩だ。
「一応、杖を使わずに放水してみるか。」
「そうですね。ボクもそれが良いと思います。」
ハクの賛成も得られたので、試してみると、自分でも笑ってしまう程貧相な水が掌から流れ出た。流石にこれには俺も膝から崩れ落ち、トウオウは墜落した。ハクも俺の肩から転げ落ち、そのまま地面の上を転げ回っていた。
その後は特に大きな問題も無く、概ね順調に杖の制作は進んだ。確かに水水晶は水属性との相性が良いが、他の属性との相性が特に悪いという事もないことも分かった。どうやら他の属性に比べて水の法術が使い易い・・・かな、という程度だ。威力に関しては相性が大きく影響するらしい、相性の良い属性のものの威力は上昇するといった感じだ。相性の悪そうな火属性の法術や魔法を使い続けても、特に砕け散るというような事は起きなかった。
宝石の大きさに関しては、その大きさに比例して効果が高くなるが、ある程度の大きさ以上になるとその効果に差が出なくなる事を突き止めた。故に無闇に大きい物を使用しても意味が無い。不必要に重くなるだけになりかねないという事だ。だがぁ・・・今回俺が作ろうとしているスーアン用の翠玉馴鹿の角を使用した杖は、見た目にも拘るつもりなので、それはある程度度外視である。
そして皆で試行錯誤を重ね出来上がった杖は、スーアンの全長ではなく、普段の身長より頭二つ分位長めの大きさになった。スーアンの身長は丁度俺二羽分程なので、俺から見るとかなりの長さである。その杖の上部のおよそ四分の一程が翠玉馴鹿の角。角の趣のある枝分かれと曲線を存分に生かしたつもりなので、出来上がりは歪なYの字の様な形状に仕上がった。我ながら概ね満足の出来栄えである。跡はスーアンに使い勝手を聞きながら改修する形になる。そして現在は、言っても辛うじて杖の形をしてはいるが、スーアンの持つものにしては少し味気ない気がするので、ゆくゆくは何かしらの装飾を施したいものだ。勿論、装飾自体に意味など無いが、物の作り手としては拘りたい所だ。ああそうとも、自己満足である。
新たに宝石法杖眼鏡蛇に進化したスーアンだが、大きく変化した箇所が二つ。まずはその種族名が表す様に、それこそ尻尾が、いわゆる魔法の杖の様な形へと変化した。尻尾の先に赤い宝石が付いている。その宝石が何であるかは、今のところ不明である。まぁ、当事者でない我々にしてみればさしたる問題ではない。スーアン自身が把握してさえいれば、俺達が気にする事では無いだろう。気にならないと言ったら嘘にはなるが。
もう一点は、スーアンの額に尻尾のものと同様のものと思われる宝石が付いた事だ。大きさは柿の種程。皆が大好きなお菓子の方ではなく、果物の方の柿の種。スーアン曰く、尻尾同様に法術が使える様になったのだそうだ。という事は、頭と尻尾に各一本づつ杖を常備している事になる。それに加え、俺達が送った杖を持つ事によって、最低でも同時に三つの法術を使用する事が出来るようになったらしい。これは・・・ただでさえスーアンは趣味のように法術を収集していたのだから、思った以上の戦力増強になってしまった様だ。単純に今までのスーアンが三倍になった様な状態に近い。まあ、同時に複数の法術を操る事が可能ならばだが。・・・スーアンなら出来そうなのが、家族ながら少し恐ろしいね。
今回初めて武具制作をした。進化と武具で大きく戦力の強化を図ることが出来たと思われる。この調子で他の皆にも何か作りたいと考えているが、単純に武器という訳にもいかないだろう。今回は手で使う事が大前提だったからな。それ以外の方法でもなにか役に立つ道具を考えないとな。まぁ・・・とにかく、施策段階とはいえ、翠玉の杖が完成した事は嬉しい。一安心だ。
少しづつだが、本当に少しづつだが、準備が整い始めてきた。勿論まだまだ準備すべきもの、できれば準備しておきたいものは沢山あるが。・・・そして何より、俺ももう少し強くなっておきたいところだ。命に関わるからな。どうしようかなぁ・・・。




