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51、・・・どうやら悩んでいるらしい。

 茸狩りから帰宅した俺とヤクモを見つけたトウオウが近づいてきた。「ただいま。」と挨拶をする前にトウオウが無言で二回指差して、俺達の視線を促した。その指示に従い目線を向けると、その先にロックの姿があった。

 今朝俺が貸した金槌を右手に握りしめ、呆然と立ち尽くし、視線を落とし一点を見つめている。「何があったんだ。」という意を込めた表情をトウオウに向けると、俺の意図をほぼ正確に解したトウオウは左手の掌を上に向けて首を振った。驚きと困惑の乗った顔を少し後ろにいたヤクモに向けると、ヤクモも殆ど同じ顔をしていた。

「何時からだ。」

 再びトウオウの方へ首を戻して聞いた。

「ついさっきから・・・。」

「そうか・・・。」

 声にならない位の呟きが溢れる。さてどうしたものか。まぁ・・・声を掛けない訳にもいかないか。俺にも何を確認する意味があったのかは分からないが、ヤクモの方を見るとおそらくヤクモも何に対してそう反応したのかは分かっていなと思われるが、頷いた。今一度ロックの方へ向き直り、深呼吸を一つしてから、ゆっくりと近づいていく。

 「ロック・・・。」と声を掛ける寸前で、ロックが此方に振り向いた。

「師匠。」

「お、おう・・・。ど、どうした。」

 不意を突かれ、締まらない返事をする。

「新しい技能、出た。」

「なんですと。」「なんだって。」

 思いも寄らぬロックの言葉に、俺の後にいたトウオウと同時に声を上げる。呆然と一点を見つめていたのでは無く、新たに取得又は取得可能になった技能を確認していたのか。で・・・なんですって。

「カジと・・・。」

 あまりの予想外の展開に思考がそのまま呟きになって外に漏れる。

「カジ?・・・火事・・・家事・・・あ、鍛冶か。」

 鍛冶だと。それは凄・・・ん?ロックは今「鍛冶と」って言わなかったか。「と」?更に加速を増す驚きを表情に乗せてトウオウを見る。目が合うと、どうやらトウオウも同じらしい。同時にもう一度ロックを見る。

「鍛冶錬金。」

「「鍛冶錬金。」」

 今度は完全にご唱和する形になった。だが完全に次に続ける言葉を見失う。開けた口を塞げないまま錆びついた錻力の人形みたいにぎこちなく首を動かし、トウオウを見ると表情そのものは何時も通り変化は無いが、感情は俺とほぼ同じだという事だけは容易に汲み取れた。そのまま逆側に首を振りヤクモを見ると、少し困ったような顔をしていた。そりゃあそうだよなぁ・・・今起きている事の意味合いが、俺とトウオウと同種の知識が無いが故に、すぐに理解するのは難しいだろうな。

 俺達が上げた声に皆が此方に視線を向け、集まって来た。俺とトウオウでこれだけ騒げばそうなるよな。特に問題は無いが。

「師匠、どうしたの。」

 先程から驚きの声を上げているだけの俺に当然の疑問だろう。何かもう少し具体的な反応が欲しいということなのだろうと思われる。申し訳ないな、ただいま絶賛狼狽え中なのですよ。俺の後の上の方では、何やら震え始めた奴がいる事を感じ取る。

「あぁ・・・いや、なんでもない。なんでもあるけど、なんでもない。」

 うぅん・・・これではロックを混乱させるだけになっちゃうよなぁ。・・・ほら見ろ、ロックの頭の上に疑問符が。・・・あ。

「あっはっはっはっはっはっ・・・。」

 遂に耐えきれずに南瓜が墜落した。これは、俺の不格好な返答が引き金になった可能性が高いな。墜落した南瓜の魔王は文字通り笑い転げている。足があったら、これでもかと言う程ばたつかせていることだろう。その絵が見えるようだ。

「僕、何か、変かな。」

「あぁ、いや、違うぞ、ロック。そうじゃない。」

 慌てて両手を振り回し、最大限に否定を表現する。

「じゃあ、なんで、トウオウは、笑ってるの。」

「それはな、ロックが凄過ぎるからだ。」

 今度はロックの方が意外な答えに驚いたようだ。

「僕が、凄い・・・。」

「そうさ。ロックは俺やトウオウの想像を、それもトウオウの技能を越えた技能を見つけたんだ。それも自力でだ。」

 それは紛れもない事実だ。おそらくロックの一途な思いが、ロックの一生懸命さがこの結果をもたらしたんだと俺は思う。

「そうだ、ロックの。」

 笑いが納まり、仰向けに寝転がったままトウオウが話し始めた。

「君は凄い。本当に凄い。確かにボクはロックより錬金術の技能は上手に使える。でも、それだけだ。他の方法を模索する事はしなかった。だがロックの、君は違った。皆の役に立ちたくて、それは直感にも似た何か確信のようなものがあったのかもしれないが、一心不乱に錬金に向き合い挑み続けた。その先に、ボクでは辿り着く事の出来なかった技能を発見するに至った。・・・なんと素晴らしい事だ。ロックの。君はこの程度でも魔王であるボクを越えたんだ。三百年以上も生きているボクを、まだ数年しか生きていない君がだ。ボクはこの気持ちをなんという言葉で表現したら良いのだろう。」

 こんなに饒舌なトウオウは初めて見た。それだけ衝撃的で感動的だったのだろう。そして更に話を続ける。

「イッスンの・・・、ボクは君に出会えて、ロックの、皆と出会えて本当に良かった。」

 周りに集まった家族の顔を寝転がったまま首だけをゆっくりと動かして見渡しながらそう言った。そしてそのままの姿勢で両手を空に向けて突き上げた。

「長い時を生きてきて、心の底から思う・・・。生まれてきて良かった。今、生きている事がとても嬉しい。」

 トウオウにしては珍しく、力強くそう言った。魔王様の素敵な告白に観衆も皆、優しい笑顔になっている。特にノインが何時も以上に嬉しそうに微笑んでいる。長い時を過ごしてきた者同士、何か思う事があるのかもしれない。


 しかし、ここで今回のロックの新技能取得を上回る出来事が起きる。突然トウオウが輝き出した。

「うおっ。どうした、いきなり。」

「ボクにもわからないよ。」

 トウオウはそう言って、即座に俺の頭の高さまで光を放ったまま浮かび上がる。見ていた皆も呆気にとられて、声もなく見つめている。俺も「どうした。」の後に言葉が出ない。当の魔王様にも何が起きているのか分からないご様子だが。お、光が消えた。

「・・・イッスンの。どうやらボクは進化したらしい。」

「進化。まぁ、魔族だって進化するよな・・・。でも見た目は大きく変わったようには見えないが・・・。」

「あぁ・・・そうだねぇ。正確には、職業ってやつの方かな。」

「なぬ。それはそれで面白い事になってるな。」

 しかし職業って強制的に変わったりするものなのか。っていうか、魔王が進化ってどうなるんだ。魔神にでもなるのか。それとも真・魔王にでもなるのか。

「面白いか・・・確かにね。自分でも思ってもいない事だ。面白いねぇ。」

 いかにもトウオウらしい答えだ。

「・・・で、魔王から何に強制転職したんだ。」

「おっと、そうだった。えぇっとねぇ・・・。魔王が魔王《洋燈王》になったね。」

「なんですと。ランプキングって職業なのか。それってどっちかっていうと、トウオウの固有名じゃないのか。」

「そんな事言われても、ボクには分からないよ。」

「そりゃあそうだな。俺にもさっぱりだな。」

 そう言って顔を見合わせ笑い声を上げる。俺達の笑い声を合図に皆が更に近くに集まって、今起きた事の説明を求められた。

 いやぁ、まさかそんな進化が・・・これを進化と言って良いのかは分からないが、あろうとは。まだまだこの世界には分からない事ばかりだ。


 一通り皆への説明が終わると、俺は開放された。トウオウは皆に、特に子供達の質問攻めにあっている・・・合掌。でも楽しそうだから良い事にする。

 「やれやれ。」と、子供達に囲まれているトウオウから少し離れた所に腰を降ろす。今日は色々な事が起きて頭の整理が追い付かない。さて何処から手を付けたものかと、腕を組んだ時だった。

「イッスンよ、少し良いかい。」

「おう。」

 声を掛けてきたノインに軽く返事をする。

「いやぁ・・・まさかトウオウが進化するとは思はなかったよ。」

「そうだな・・・。だが私の考えでは少し違うのではないかと思っている。」

「違う・・・。ほう、それは興味深いね。」

 確かに所属進化をして少なからず外見に変化があった訳ではない。変化したのは、職業。それだけでもかなり特殊な状況なのではないかと考えられるが。それに対して、聖獣たる麒麟のノインの出した答えは間違いなく興味がある。

「うん・・・。おそらくだが、トウオウは・・・ランプキングという魔族は精霊に近い種族なのではないかと思うのだよ。」

「そうだな。俺もそう思う。」

「だが、近いというだけで・・・もっと別の存在だと思うのだよ。なんというか、もっと・・・不安定な存在だったのではないかと・・・。」

 ノインの言っている事はおそらく間違っていないだろうと俺も思う。トウオウは・・・それこそ付喪神のような、この表現があっているかは分からないが、幽霊のような存在だったのではないかと思う。

「うん。それは俺も何となく理解できる。」

 ノインは俺の答えに静かに頷いて話を続ける。

「生まれてからずっと不安定な存在だったのではのではないかな。いや、存在自体が不安定な状態だった、といった方が正確かもしれないな。」

「あぁ・・・そうか。そうかもしれないなぁ。」

 どんな生き物も己で望んで生まれてくる訳ではないが、それでもその多くは望まれて生まれてくる筈だ。自分に認識があるかどうかは分からないが、誰にでも親がいるものだ。だが、トウオウにはそれが・・・。あいつは「無」から生まれたに等しい。

「経緯はどうあれ、トウオウは自分の生まれた意味すら曖昧なままだったのではないかと思われる。」

 ノインの話に言葉が詰まる。そこまで考えても見なかった。トウオウ自体、何時も楽しそうに過ごしていたから、そこまで考えが及ばなかった。

「だからこそ、今まで存在自体が曖昧なままだったのではないかな。」

 俺は言葉を詰まらせたまま頷く事しか出来なかった。言葉を発してしまったら、何か別のものが目から流れ出てしまいそうだったかもしれない。

「だがそれが・・・今日、つい先程だが・・・初めて心の底から生まれて来た事を喜んだ。自身が生まれて来た事をちゃんと認識したのではないかな。それが・・・なんというか、存在をこの世界に固定させたのではないかと思うのだよ。」

 ノインのその言葉を聞く頃には、腕を組んだまま目を瞑り肩を震わせていた。別にトウオウのそういう思いに気付いてやれなかった事やトウオウがそういう存在である事に気が付く機会はいくらでもあった事を後悔している訳ではない。ただ俺達に出会うまで、多少の他者との関わりはあったようだが、ずっと孤独だったのかのかと勝手に思いを巡らせ、なんだか物凄く切なくなったのだと思う。三百年という俺からすれば途方も無く長い時間ずっとだと思ったら、もう流れる涙を押し止める事が出来なかった。

「イッスンよ。これはあくまで私の推察でしかない。・・・君は本当に優しいな。」

 ノインはきっと俺が気にしていると思っての気遣いの言葉を掛けてくれたのだろう。おそらくノインのその推察は大きく間違ってはいないだろう。

「・・・そんなんじゃないさ。」

 そうだ・・・そんなんじゃない。きっと俺自身涙が流れている理由を上手く理解出来ていない。

「イッスンよ、この機会に私もちゃんと言っておこうと思う。私もイッスンに、そして皆に出会えて本当に良かったと思っている。」

「あぁ、知ってるよ。俺もだ。」


 もうここまで来ると、茸狩りの途中で黒雲の魔界獣に出会い、その黒雲を白兎流格闘術・真空跳び膝蹴りで蹴り飛ばした事など、それこそその黒雲の魔界獣と一緒に何処かに飛んで行ってしまった。あぁ・・・いや、ちゃんと持ち帰っては来ましたよ。鑑定をしたところ、どうやらこの魔界獣「ダークラウド」という名前らしい。まぁこれも色々思う事もあるが今は置いておく。ただこの魔界獣、事もあろうに、この俺に向かって愚かにも雷撃を放ってきた残念な奴だった事だけは誰かに話したい。まあこのダークラウドとやらも、まさか俺が雷の効かない身体だとは知らなかっただろうから、愚かと評するのは少し可愛そうだな。ただ運が悪かったと言うべきだろう。

「おや、イッスンの。何を泣いているんだい。」

 子供達から開放されたトウオウが俺の顔に残る涙の跡を見つけてそう言った。

「んん・・・なんでもないよ。ちょっと突かれただけだ。」

 我ながら下手な嘘だなと苦笑いが溢れる。

「ノインの、イッスンを泣かせるのは止め給えよ。」

「これはトウオウよ、とんだ言い掛かりだね。」

 聖獣と魔王の冗談の飛ばし合い、笑い合っている。なんとも奇妙な、それでいて平和な光景だろうか。その話題が俺とは・・・多少くすぐったいね、全く。

「イッスンの、ノインに何か言われたのならボクが変わりに文句を言ってやる。遠慮せずに言ってくれ。」

「ははは、その時は頼むよ。」

「そうだな・・・。だが今回は、どちらかと言えばトウオウよ、君の方に原因があると言えるなぁ。」

「なにぃ、それは本当かい、イッスンの。」

「それは・・・どうかなぁ。」

 どうやら俺は、今、幸せらしい。目の前の光景が輝いて見える。何時までもこんな時間が続けば良い。・・・その為にも、前に進まなければならない時もあるらしい。頑張ろう。


 俺達のじゃれ合いも一段落する。このじゃれ合いで、笑い合った事が更にどっと疲れる追い打ちになった。今日は本当につかれたなぁ。

 本日収穫してきた茸を一通りトウオウに渡し、茸を受け取り離れて行く後ろ姿を見送りながら、そのままその場に仰向けに倒れ込んだ。その俺の顔を近くに座ったノインが微笑みながら覗き込んだ。

「今日は流石の君もお疲れの様だね、イッスンよ。」

「あぁ・・・一度に色々あったからな。気持ちと頭の中の整理が追いつなかいな。」

 真上の空を見つめるでなく見上げながら、疲れを追い出す様な息と一緒にそう言った。

「ああ、私もだ。このような場に居合わせる事が出来るとは思わなかったよ。長く生きているが、初めての事だ。貴重な経験をさせて貰ったよ。まさか真の魔王の誕生を目の当たりにするとは。」

 そりゃそうだ、俺だって初めてだ。・・・まぁこの世界での経験は初めての事ばかりだが。なにせ兎になったのも初めてだ。

「ははは、俺にとっては全部そうだけどな。」

「ふむ。確かにその通りだね。」

 そう言いながら愉快そうに微笑んでいた。

 空をゆっくりと流れていく小さな白い雲を眺めながら、何も考えない時間が少しだけ流れた。

「ねぇ・・・あるじ。」

 そんな俺にサイが申し訳無さそうに話し掛けてきた。

「ん。なんだ、どうした。」

 何時もなら起き上がって対応するのだが、今回は少し横着をして首だけをサイの方に回して返事をした。

「うん・・・あのね・・・。」

 サイはそう言って、下を向いてしまった。何時もと様子の違うサイに少し戸惑い、近くのノインに目線を送る。ノインの方も少し驚いた表情で静かに首を横に振った。

「サイ・・・何か言い難い事か。」

 俺は起き上がって座り直した。サイは俺の言葉に頷くでなく、横に振るでなく、首を捻っている。こんなに何かを言い淀むサイは珍しいな。

「イッスンよ、私は離れていようか。」

 俺がサイの様子を伺い、何かを答えようとする前にサイは首を横に振った。

「うぅん、大丈夫。」

「そ、そうか・・・。」

 そう言ってノインを見ると、ノインも困った顔をした後、微笑んで頷いた。・・・もしかしたらノインにも居て欲しいと思ったのかもしれない。

「あのね、あるじ。ボク・・・皆の役に立ってるかなぁ。」

 なんですと。サイの口から思いも寄らぬ言葉が飛び出した。図らずも目が大きく開く。目だけでノインを見ると、今の俺と同じ顔をしているであろうノインとばっちり目が合う。

「なんでそう思うんだ。」

「うん・・・。ボクは、何だか、自分が、好きな事、ばっかりしてて・・・。皆みたいに、役に、立ってないんじゃないかって・・・。」

 おおぉ、そんな事を思っていたのか・・・。だけど解る気はするなぁ・・・。遠い昔の記憶だが、俺にも何となくそんな風に考えた時があった。自分だけ好きな事をやって遊んでいるだけで、何の役にも立っていないんじゃないかと。さて・・・サイの場合はどう答えて上げるのが正解に近いか。正解なんて有りはしないが、それでも何か答えてやらないとな。これでも主様だからな、・・・一応。

「なるほどなぁ。サイからは皆がそういう風に見えるんだな。」

「え・・・違うの。」

「違わないけど、違うな。」

 俺の答えに、先程より余計に首を捻っている。そうでしょうとも。俺がサイと同じ立場ならそうなるな。

「ちょっと難しいかもしれないけど、聞いてくれ。」

「うん・・・。」

「サイから見ると、ジュウザやハク、ミナやロック達が自分と違って、皆の為に何かしている様に見えるって事だよな。」

「うん。」

 涙目で頷く。気になるよなぁ、そう見えてたら。

「動機はそうかもしれないが、皆自分の好きな事を、自分のやってみたい事をやっているんだぞ。ハクと一緒で。」

「でも・・・ボクだけ・・・。」

「そんな事はないさ。サイにはサイにしか出来ない事が沢山あるだろ。」

 そう言われて、少し自分でもそうかもしれないと思い当たる事が幾つかあると気付いたのだろう。泣くのを堪えて頷いた。

「あの霧の作戦だって、実はサイが考えたんだろ。充分に役に立ってるじゃないか。」

「そ、そうかなぁ・・・。」

 お、少し声に明るさが戻ってきた。

「サイよ、私からも良いかい。」

 その場に留まったまま話を聞いていたノインが優しく話し掛けた。

「うん。」

 少し平静を取り戻したサイが不思議そうに頷いた。あら、ノインからのお話は意外だったのかしら。

「サイは、何時も兄妹達やロックやフタバの事を良く見ているね。細かい事に良く気が付いて、そして気を配ってるね。それは素晴らしい事だと私は思っているよ。それが皆の役に立っていないとは私は思わない。」

 サイは少し驚いた表情で俺を見た。俺はその目を見て、黙って笑顔で頷く。それを見てようやくサイに笑顔が咲いた。流石ノインだ、普段から留守番がてら子供達の面倒をよく見ているだけの事はある。助かる。本当に。恥ずかしながら俺は親になった経験は無いと・・・思う、たぶん。勿論、ノインに限らず、ヤクモとモモカにも助けられている。それはきっとスーアンも助かっていると思っているんじゃないかな。

「そうだな、ノインの言う通りだ。俺もそう思うぞ。俺はな、サイの自由な発想を羨ましい。サイの・・・俺達には思いも寄らない発想で緒戦して、新しい発見をしようとしている所が好きだ。その発見が俺達を何時か必ず助けてくれると俺は思っている。だから大丈夫だ。それに楽しそうに取り組んでいるサイが好きだ。」

 俺に面と向かって好きだと言われて照れたのだろう、蛇の本領発揮と言わんばかりに身体を捩っている。良かったと笑顔で息を一つ吐きノインを見る。ノインも微笑んで小さく頷いた。

「あるじ、ノイン兄ぃ、ありがとう。」

 と言ってすっかり元気を取り戻したサイは皆の所へ戻って行った。先程のトウオウの時と同様に、その踊るように遠ざかる後姿を見送りながら再び背中を大地に合わせる。その目線の先の空には、さっきの雲の姿はもう無かった。


 まさかサイにあんな悩み相談をされるとは思はなかった。でも子供の頃って結構いろんな事で、大きくなって考えると小さくてつまらない事で悩んだりするんだよな。子供にとっては、つまらない事ではないんだけどな。子供は子供なりに色々考えて、悩むんだよな。それを誰にも言えなくて・・・。サイって凄いな。それをちゃんと「悩んでいる。」と誰かに相談できるんだもんな。その相手に俺を選んでくれたのは、素直に嬉しく思う。ちゃんと答えてあげられたかは分からないが・・・。

「今日は本当に大変だったな、イッスンよ。お疲れ様、だな。」

「あぁ・・・。ノインも、ありがとうな。助かった。」

「いや、私はイッスンの補足をしただけさ。」

 ノインはそう言って謙遜する。

「そんな事はないさ。普段から子供達の事を良く見てくれているだろ。助かってるよ。」

「ふふ、その言葉、そっくり君に返そう。イッスンよ。」

 おっと。ちゃんと返って来た。そうかなぁ・・・俺はちゃんと出来ているだろうか。

「ちゃんと見ているだろう。それに全部を自分だけでやろとしなくて良いのではないかな。」

 俺の心の中を見透かしたような言葉が。

「ヤクモもモモカもいるのだ。彼らも良く面倒を見てくれている。ましてやスーアンは母なのだ。」

「ああ・・・そうだな。知ってる、知ってるはずなのになぁ・・・。俺もまだまだだな。」

「そうかもしれないな。だが初めから全部できる物などいないのだよ、イッスンよ。」

 それも知っている。忘れがちではあるが。心なしか愉しそうに語るノインの声を聞きながら青い空を眺めていたが、いつの間にか俺は夢の中へ溶けていった。

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