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48、風は吹いている

 我が家の一番上から俺達を見守るように鎮座している御神木の横に腰掛け森を見渡しながら物思いに耽る。

「・・・直角のあの太陽が、アスファルトの地面を・・・」

 お気に入りのアイドルの歌を呟くように無意識に口遊む。森を通り抜けるそよ風に乗って木々の間に流れていく。


 これはほんの少し前にあった、休み時間の様な話だ。別になんでもない、ちょっとした約束の話。


 同じアイドルの歌や魔法騎士のOP曲やらを立て続けに歌いながら景色を眺める。途中からは何かを考えて、という事は無かったと思う。無意識・・・俺なりの、一度頭の中と心を空っぽにする為の作業だったのかもしれない。


 気が付くと、いつの間にか俺の後ろにモモカがいた。気配を消し音も無くそこにいた。きっと俺の邪魔をしないように気を遣ったのだろう。

「申し訳ありません。歌が聴こえたので、つい誘われて・・・。」

 首をほんの少しだけモモカの方へ向けて口角を微かに持ち上げる。

「問題ないよ。」

 そう言って頷く俺を確認して御神木と自分で俺を挟むような位置に近づいて座る。・・・「歌」だもんな、モモカの一番興味のあるものだもんな。当然だろう。

「でもモモカに比べたら拙くて、少し恥ずかしいな。」

 照れ隠しに笑って見せる。

「そんな事はありません。」

 少し怒ったようにそう言った。本当の事なんだけどな・・・。歌の技能は5まで上げたが、音感は3までしか上げてないんだけどな。モモカは歌が8、そしてどうやら始めから絶対音感の技能を所持していたのだから、その差は歴然だと思うのだが。それに付け加えて職業も歌手うたいてだし。

「そう言って貰えると、嬉しいよ。」

「嘘ではありませんよ。そうやって御自分の事を低く評価するのは、イッスン様の悪い癖です。」

 知ってるよぅ。意識的に過信をしないようにしているのもあるが、自分に自信が無いのも確かだ。苦笑いを一つ。

「それにしても、俺の歌は殆ど意味が分からないから、ちょっとつまらないだろ。」

「いえそんな事は決して・・・。ですが意味が理解できたらもっと素敵なのにとは思います。」

「そうだよなぁ。モモカにしてみたら知らない言語の歌詞が混じってる様なものだもんなぁ。」

 実際知らない言語があるだろうしな。説明すれば理解出来なくもないだろうが、知らなくても良い事、知らないで欲しい事も多くある。この世界に今の所存在していないような事を知って欲しいとは思わないし、知る必要は無いと思っている。彼女たちは「人間」では無いのだから。なんだか純粋なものが汚れてしまうような気がして。もしこの先魔物の国でも作ったりでもしたのなら、学校の一つも作るとは思うが。今の所その予定は一切無い。少なくとも俺にはそんな野望は無い。魔物の世界に「人」の世界の文明や文化をなるべく持ち込みたくない。生態系が大きく変化してしまう様な事はなるべく避けたい。・・・今更な感じもするが。

「教えては戴けないんですか。」

「んん・・・。モモカだから正直に言うけど、俺達に、魔物には必要が無いと俺は思っているんだ。」

「私達には、必要が無い・・・ですか。」

 意味が良く解らなくて、複雑な表情になっている。

「まぁ、俺にも正確に分かる事も少ないから、あんまり気にしなくて良いよ。分かる範囲で説明はするから。」

 文化的な文明的な知識を省いて説明すれば、歌詞の大まかな意味合いや風情の様なものは正確ではなくとも伝わるはずだ。きっと、それこそ歌に深い興味を抱いているモモカなら汲み取れるに違いない。

「はい。ありがとうございます。」

 モモカの目が子供の様に無邪気に煌めく。時間が掛かりそうだなと思い、アイテムボックスからメントグローブの枝を数本取り出し、その内の一本を口に咥える。


 そこからしばらく、先程俺が歌っていたものの歌詞の説明会が行われた。モモカはそれを嬉しそうに、そして俺の言葉を一言も逃さない様に真剣に聴いていた。うぅん、どれも俺が作ったものじゃないから、それを詳しく説明するのは些か恥ずかしい。なるべく俺の主観を排し言葉の意味を説明する事に徹したつもりではあるが。俺の歌詞の解釈は、モモカの感性の邪魔してしまうんじゃないかと思って。何も知識が無いからこそ純粋に歌詞に込められた想いや意味をモモカなりに見出してくれるんじゃないかと、俺には無い新しいものを受け取って欲しいと、そんな願いも込めて。

「・・・素晴らしいですね。流石、イッスン様です。」

「はは。凄いのは俺じゃなくて、この歌詞だよ。俺はそれを知っているだけさ。」

 誰が作ったんだとか、どうして知っているのかとか、聞かれると答えに困ってしまうが。

「イッスン様は様々な事を知ってらっしゃいます。感服いたします。」

 ははは、偏った叡智だがな。この件に関しては絶対に話す事は無いだろうがな。・・・どんなに頑張って説明しても理解しては貰えそうもないけどな。

「大袈裟だなぁ、モモカは。」

 「歌」に重きを置いているモモカからすれば、決して大袈裟ではないよな。ただなぁ、作詞や作曲をした方ではなく俺の手柄になってしまっている感じがするのが、なんだか心苦しい。純粋に俺の大好きな歌を知って貰えて、伝えられて喜ばしくはあるのだが。この世界でそれが出来ていることも驚きではあるが。前の世界では中々そんな機会も多くは無かったと思うが・・・。

「そうですか?本当の事なのですが・・・。」

「そうかぁ、ありがとう。」


 爽やかな風を感じながら他愛もない会話をする。久し振りのような気がする・・・、こんな穏やかな時間が流れるのは。普段そんなに焦っているつもりは無かったが、色々とやらねばならない事、考えなければならない事があるのは確かだった。気づかない内に気を張っていたのかもしれない。なにせ「世界を掬う」だもんな。だが・・・良く考えたら内容が漠然とし過ぎていて、準備をするにしても何をどれくらいしたら良いものやら。たぶんこの内容なら準備し過ぎなどという事は無いだろうが。だからと言って余裕が無くなると見えるものも見えなくなるよな。もう少しだけ心に余裕を持っても良さそうだ。

 そう思うと、顔を撫でるそよ風に視界を洗われたみたいに少しだけ世界が明るくなったような気がする。ここまで生きる為に必死に、一生懸命に、それこそ命懸けで駆け抜けてきた。その甲斐あって今日まで何とか生きてこられた。それでも此処に至っては、もう少し余裕を持って進むのが良さそうだ。

 心に余裕が生まれると、どういう訳か止まっていた思考が回り始める。そういえば最近、趣味に等しい技能の事に関する作業をいていなかったなと。

「なぁ、モモカ。最近何か新しい技能を取得したか。」

 自分の取得したものもだが、それと同じ位他のものが取得した技能に興味がある。鑑定をしてしまえば知る事も可能だが、勝手に情報を覗くのは俺の主義に反する。まぁそれは当然家族に限るが。それに見せてくれと言えば、簡単に全て開示する事も知っているので言わないように心掛けている。

「仰っていただければ、何時でもお見せいたしますのに・・・。」

 ほらね。

「それは駄目だ。」

「何故です。」

「モモカだってヤクモに言ってない事や秘密にしている事の一つや二つあるだろ。」

「それは・・・はい。」

「だろう。俺はそれで良いと思ってる。」

「はぁ・・・そういうものでしょうか。」

「そういうもんだ。」

「そうですか・・・。」

 いまいち理解できないという表情をしている。確かにそうだろうな。どうしてそれが良い事なのかと問われれば明確に「こうだ。」と答えられる自信はない。だけど俺だって親にも話していない秘密の一つぐらいあったさ・・・それが何だったかは覚えてはいないが。きっと今から思えばくだらない事だったに違いない。点数の低い試験の結果とか、拾ってきた石とか、好きなアニメやアイドルとか、性癖とか・・・おっと。ま、まぁその他にも、親や恩師への感謝や尊敬とか、気に入らない上司への不満とか、淡い恋心とか。今となってはそのどれもが伝える事はできなくなってしまったが。・・・前世の俺がそれを伝えられたとは到底思えないが。あ、不満だけはいつか爆発していた可能性はあるが。・・・いや、おそらくそれもないな。微かに残っている感情を思い出してみても、怒りや憎しみが抑えきれない程の事ではなかったと思う。要するにその程度の事だったのだろう。きっと世の中の不満なんてそんなものなんだと思う。

 兎になってからそんなつまらない不満を感じる事がない事を思い出す。それが基本的に「少ない」ではなく、「殆ど」でもなく、「全く」だと。その原因はきっと上司がいないからではなさそうだな。生きるのに一生懸命でそれどころではない可能性は高いが、それだけじゃなさそうだ。この世界に来てからこの目に映るもの体験するもの全てが新鮮で楽しい。それが大きな要因かな。常に大自然に囲まれていると、そういうものを感じないのかもしれないな。・・・きっとそうだ、そういう事にしておこう。そう考えた方が楽しい。だいぶ命懸けで大変だけどな。


 話が逸れてしまった。これも俺の悪い癖だな。

「で、どうよ、モモカ。何か面白い技能ある。」

「そうですねぇ・・・面白いですか。面白いかどうかは分かりませんが、最近取得した技能で良ければ幾つか・・・。」

 本当に申し訳ないな。反省だ。俺が面白いと思うものとモモカの面白いと感じるものには差があるよなぁ。モモカにしてみれば技能の全てが新しく感じるものだろうし、技能の名称だけで面白味があると感じるとは考え難いな。これは俺の聞き方が悪かったな。

「そうだな。・・・最近取得したものだけでも良いから、良かったら幾つか教えて貰えたら嬉しい。」

 モモカは自分の画面を開き「そうですねぇ・・・。」と俺に聞かせる為ではない声で呟く。

「最近ですと、直感、ですかね。しかしこれはイッスン様も確かお持ちですよね・・・。」

「ああ、そんな気がする・・・。」

 最近、技能の確認とかしてなかったから曖昧な返事になってしまった。しかし直感が技能とは・・・やはり釈然としない。これがあると命中と回避に補正でも掛かるのか。じゃあ俺の幸運は獲得資金が二倍になるのか。獲得資金とは何だ。・・・なんてな。おそらくこの技能は直感力が高まるみたいな効果があるのだろう。直感に勝る経験則無し。その経験則をより正確に利用できるといった感じだろうか。ただモモカの場合は直感と言うより霊感と言った方が近い気がするが。

「ご自分の事なのに随分と曖昧ですね。」

 あらら、見抜かれてしまった。

「まぁな。気が付いたら相当な数の技能を取得してるからな。途中から把握しきれなくなってはいるかもな。後で頭の中を整理するつもりで確認してみるよ。」

 言い訳ではないが、俺の意志とは関係なく取得してしまう技能も多いからな。俺に向かって突っ込んで来る相手を蹴り飛ばしたり、食事をしたりするだけで増える事も少なくないからなぁ。記憶力が前世より戻って来ているとはいえ、それを超える速度で増えるからなぁ。整理し切れないよ・・・やっぱり言い訳かな。俺の怠慢・・・だろうな。命が掛かっているんだもんな、ちゃんとしよう。

「その他は・・・そういえば。」

 そう言ってモモカは目を輝かせた。

「癒やしの歌や昂揚の歌などの新しい効力を「歌」に付与する事ができる様になりました。」

「なんですと。それは歌に俺達の能力を向上させたり、傷を癒やしたりする効果を持たせる事ができるった事か。」

 それが本当ならかなり凄い事だぞ。後方支援としてはかなり大きい。

「そうなんです。」

「それは・・・それ専用の歌を歌う必要があるのか。」

「いえ・・・そうでは無いようです。」

「じゃあ、どんな歌でも、歌そのものに効果を付与できる、と。」

「はい・・・おそらくは。」

 こうなると話が変わってくるぞ。

「なるほど・・・。それなら、自分である程度歌によって付与する効果を決めておいた方が良いかもしれないな。」

「そうですね、私もそう考えております。」

「じゃあ・・・歌の数も増やさないとな。」

「はい。よろしくお願いします。」

 あわわ。モモカに満面の笑みでそう言われたら、断る事もできそうもない。まあ良いさ、だいぶ偏ってはいるがモモカにはそんな事は解らないんだし。偏っていたって良い歌は良い歌なのだから問題はない。出し惜しみは無しだ。・・・いや、やっぱり一部の歌は出し惜しんでおこう。何らかの効果を付与する事を想定するなら、戦闘中に使用する事が多くなるだろうから、気が抜ける様な歌は極力避けよう。ただどの歌にどの効果を割り振るのかは興味があるな。楽しみだ。


 そこから今度は歌詞の説明会ではなく、歌の勉強会になった。数が多くて大変だったが、ある程度開き直ってしまうと気が楽になって、とても楽しめた。なにせ好きな歌をただ歌って見せるだけで喜んでくれるので、俺も気分が良い。なんだか大人気の歌手にでもなった様だ。・・・実際、今現在この世界ではその可能性は零ではないが。いわゆる歌謡曲を歌う魔物が他にいなければだが。まぁ、いないだろうなぁ・・・。その種族間でしか伝わらない歌を歌うくらいの事はあるだろうとは思うが。鳥系の種族には多そうだな。

 そもそも俺の歌は違う世界の文化と文明の上に成り立っているものだから、この世界の魔物には当て嵌まらない事柄も多い。他の種族が聞いたとしても、ちゃんとは伝わらないだろうしな。きっとモモカだったとしても完全に理解する為にはこの世界に無い物事を覚える必要があるので、困難を極めるだろう。そしてモモカはそれを知りたがるだろうな。文明や文化を知りたいというより、歌詞の意味をより正確に理解したいから。上手くこの世界に合わせて変換して伝えてみる事にする。この世界で今の所存在しないであろう事はなるべく省いて。この辺の匙加減は難しいな。「人」自体は存在していたから、ある程度の文明はあったはずだからなぁ。実際我が家の魔王様は文明があっての存在だからなぁ。差し当たって問題なのは、俺の知恵と語彙力だな。・・・頑張ろう。


 片っ端から思い付く限りの歌をモモカに歌って聞かせた。勿論二三曲毎に休みを挟みながら、時間の許す限り。時々その歌の歌われた状況などの説明も含みながら。・・・言うまでもなく偏った記憶に基づいたものですが。戦いの中で歌を歌った、宇宙移民船団の歌姫達や世界を脅威から守る為に絶唱した神姫達、帝都の華撃団の話も。これが予想外に・・・いや予想通りと言うべきか、モモカには大いに響いた様だった。今までより更に目を輝かせて「私にもできるでしょうか。」と声を少し高くして言っていた。

「歌いながら動き回るのは、かなり大変だぞ。頑張らないとな。」

「はい。」

 本日一番の笑顔でそう返事をした。楽しそうで何よりである。

「そのうえで、曲毎に付与する効果を意識する必要があるんだろ。こりゃあ思ったより大変そうだな。」

「そうですね・・・。でも、できそうな気がします。なんとなくですが・・・。」

 そうかもな。モモカは歌が好きだもんな。好きな事って頑張らなくても上達しちゃうんだよな。頑張ってるという意識が希薄になっていると言うべきだろうか。誰も頼んで無いのに、名前とかすぐ覚えちゃうもんな。俺にも身に覚えがあるよ。自分が興味のないものは全部同じに見えるのと対になっているやつだ。

「それは直感かな。」

「そう・・・かもしれませんね。」

 そう言って向かい合って笑い合う。

「でも練習はしないとな。」

「そうですね。ですが・・・そうなると、何処で練習したら良いでしょうか。」

 練習場所か・・・。モモカは皆に迷惑になるのではないかと思っているのおだろう。気にしなくて良いとは思うが、他の皆の方が気を遣ってしまう可能性もあるよなぁ。どうするかな。

「取り敢えずは・・・此処で良いんじゃないか。」

 右の人差し指を下に向ける。

「なるほど。そうですね・・・良いかもしれません。」

「うん。しばらくは此処で我慢してくれ。何か良い方法がないか、ノインかトウオウに相談してみるよ。」

「はい、お願いします。自分でも何かないか考えてみます。」

「そうだな。何か良い技能が見つかると良いんだけど。」


 モモカと休憩がてら何か歌の練習に使えそうな技能はないかと画面と睨み合いをしていると、御神木の上の方からフタバが降りてきた。

「お歌は、もうおしまい。」

 俺の頭に躊躇なく乗っかり、少し残念そうにそう聞いた。

「今は、ちょっと休憩中だ。」

「そっか。じゃあ、今は、何してたの。」

「今はなぁ、モモカが歌の練習をする時に歌が皆の邪魔にならない様にするにはどうしたら良いかなと考えていたんだ。」

「モモカ姉たんの、歌は、邪魔に、ならないよ。」

「そうだな。そうだけど、モモカの歌には補助系の法術みたいな効果があるんだ。その練習をするとなると、な。」

「そうなの。モモカ姉たん、すごい。」

 モモカはフタバに優しい微笑みを返している。フタバは俺の頭の上で小躍りしている。こそばゆい。

「なあ、フタバは何か良い考えはないかな。」

「んんとぉ、音が消える、何かで、囲む。」

 ま、そうなるよな。だが練習の度に風の法術で覆って、それを維持しながらというのはちょっとな。となると・・・その為の部屋ないし小屋を建てるか。防音室か・・・やってみる価値はあるかもしれないな。

「悪くないかもしれないぞ、フタバ。」

 俺にそう言われて嬉しかったのか、頭の上で飛び跳ねている。首が揺れる程の衝撃ではなかったが、こそばゆい。フタバは俺達の頭の上に何の迷いもなく乗っかているが、良いのだろうか・・・。まぁ可愛いから良しとするか。

「しかし・・・どうすればよいのでしょうか。」

 まあそうだよな・・・。防音室と言っても、窓も無いような個室にモモカを閉じ込める訳にもいかないよな。仮にそうするにしても、その部屋をどんなもので作れば良いのか。・・・部屋の中に草や落ち葉なんかを敷き詰めて、消音材にすればなんとかならない事も無いだろうが。材料には事欠かないだろうしなぁ。そうだったとしても、歌の練習の為に暗い部屋に閉じ込めるのは可愛そうな気もするなぁ・・・。瞑想部屋ぐらいはあっても良い気はするが。

「そうだな、ノインとトウオウに相談してみるよ。何か良い技能を知ってるかもしれないしな。」

「あれ、あたちのは、だめだった。」

「そんな事は無いぞ、フタバ。何か・・・そうだな、結界みたいなもので囲む事ができたら、何とかなるかもしれない。」

「そうなの。」

「もしかしたら、この場所みたいに解決してくるかもしれないし。」

 ・・・実に他力本願だが。良いんだ別に。全部俺が解決する必要なんか何処にも無いからな。頼り過ぎも良くないが。

「だから、フタバの「何かで囲む」って案は良い考えだと思うぞ。」

「あい。」

「そのモモカを囲む材料を何にしようかなぁって、皆と相談しようとしてるのさ。」

「あい。」

「フタバも何か思いついたら教えてくれ。」

 そう言って頭の上のフタバを両手で抱き上げて膝の上に乗せる。

「あい。」

 膝の上に乗ったフタバは俺の膝の上でも相変わらず喜びの舞を披露している。フタバは意外と起きている時間はちょこまかと動き回るんだよな。多くの時間は寝てるけど・・・昼間はかな。しかも多くの寝床は誰かの頭の頭の上だが。面白い子だ。皆も何事も無いかのように受け入れているのも面白い。無論俺もだが。


 一度に何十曲も覚えるのは・・・モモカなら当たり前のようにできそうだが、大変だろうと思い、本日はこの辺で終わりにして、本日教えた歌を一緒に歌いながら復習する。それでも合計十六曲もあった。軽く一公演分はある。それも全尺でだから大変だ。にも関わらず、解らない事があればすぐに質問するし、不安なら一度止めて繰り返し、始めから歌い直す。それを面倒くさがらずに、それどころか本当に楽しそうに歌っている。それを見ているだけで、俺も自然と笑顔になる。途中からは、フタバも少しずつ覚えた曲を一緒になって歌っていた。

 しかしこれだけ歌って声が枯れる事が無いのには驚かされる。きっと腹式呼吸がちゃんと出来てるんだろうな。魔物の腹式呼吸とは一体どういう事なのだろうと思わんでもないが。俺は、全く別の理由でそれが身についているのだが。そして幸いにもそれを思い出す事ができた。やってて良かった、合気道。そう思った次の瞬間思わぬご報告が頭の中に響く。

『技能・腹式呼吸を取得しました。』

 えぇ・・・今なの。なぜどぅわ。『必要ありませんか。』いや、そんな事はないが。助かります。『恐れ入ります。』

「どうされました。何処かおかしな所がありあましたか・・・。」

 急に歌が淀んだ俺にモモカが不安気な表情を俺に向ける。

「いや違うよ。急に技能を取得したから、ちょっと動揺したんだよ。」

「なになに。どんなの、取得したの。」

「腹式呼吸。」

「ふくしきこきゅう?」

「おう。呼吸法だな。これで声を出すと、喉を傷め難いんだ。」

「歌の、為の、呼吸。」

 理解が早いな。まぁ厳密に言えばもう少し意味合いが違うのだが、おおよその理解は間違ってはいないと思う。

「モモカは持ってるだろ。」

「・・・はい。随分前に、歌っている時に取得しました。」

「納得した。この技能、歌と連動してるのかな。・・・たぶん違うな、きっかけになりやすいって感じだろうな。」

 全く、やってくれぜ、ファンタジー。思いも寄らない展開で事態が運ぶぜ。技能に関しては取得して損することは無いから、ちょっと楽しい。


 歌いながら見る景色は、いつもの森が少し違う明るさを纏っているみたいに見えた。世界が変わっても、やはり歌には言葉では説明のできない力があるのだなと感じる。こんなにも言葉を紡いでいるのに。

 モモカとフタバと一緒に歌う歌が、吹き抜ける風に乗って森の奥に流れていく。森には今日も心地の良い風が吹いている。

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