47、できるかな。〜素材集め編〜
朝の稽古に新しい日課が加わった。スーアンの手と腕を使うための稽古である。お互いに向き合って座り・・・俺は正座、スーアンはぁ・・・まぁこの辺は御愛嬌、座ったままでの組手をする。我武の根源である合気の稽古を元にしたものだ。だが武を追い求めるものではなく、あくまでも腕と手の使い方を、もう少しいえば今までと大きく変化した上半身の使い方を覚え慣れる事を目的としたものである。
に、してもだ。流石スーアン、あの優秀な子供達の母親だ。飲み込みが早い。直ぐに要領を得てというのかコツを掴んだのか、瞬く間に手強い相手になってしまった。そしてこうなるとあの腕の長さの差は如何ともしがたい。稽古を始めて四日目には左手首を掴まれ上に投げ飛ばされてしまった。スーアンは俺が手加減をしたと思っていたようだが・・・そんな事は断じて無い。勿論自分にある程度制限はしていたが、それは俺自身の課題であって言い訳をするつもりもない。うぅん、基礎から鍛え直す必要があるかもしれないな。頑張ろう。
いつの間にかヤクモの尻尾が増えてたな。まあいつの間にかって事はないんだけど。そうなる前にちゃんと相談された。スーアン同様に技能取得で尻尾の数が増やせる事を発見したのだという。種族進化とどう違うのか、何かしら影響があるのかという事を試してみたいがどうすべきかと。俺自身経験が無いのと、技能を含めこの機能の事をほとんど理解できていないので何とも言えないが。それでもどうせ試すなら、Lvが上限になった時に進化より先に技能で尻尾を取得してみたらどうだと提案してみた。だがヤクモ自身の考えや気持ちを優先するべきだと付け加えておいた。
それでもヤクモは俺の提案に感心した様に深く頷いて、それを採用する事にする旨を俺に伝えた。その結果、三尾狐のLvが上限に達し、その時点で四本目の尻尾の取得を試みた。どうやら取得と同時に種族進化したようだ。それもLvがほとんど据え置きのまま、上限が増えたらしい。
「これは・・・能力も大幅に上がりました。」
「なるほど。それはたぶん進化分の上乗せだろうな。」
「はい、私もそう考えます。」
だが、大幅にスキルポイントを消費するとのことだった。
「進化自体はLvを上げれば条件を満たせる訳だしな・・・。」
それも上限まで上げ切る必要もないからな。
「そうですね・・・。あまり意味がなかったかもしれませんね。」
「そんな事はないと思うぞ。いざという時の緊急措置としては有効じゃないかな。」
「なるほど、流石は主殿です。」
「ポイントで進化できるのは結構大きいかもしれないぞ。進化できるって事は、傷も癒せるって事だからな。俺の時みたいに。」
「そう・・・ですね。・・・あの時は焦りました。」
と、そこから少しの間その時の話と、それに伴い軽い説教をされた。俺を叱ってくれる存在はありがたいが、本来俺の性格からすると、傷つく事を前提とした戦法を取る事は極めて少ない。翠玉馴鹿の時は本当に緊急事態だったんだよ。
この話をした数日後、再びLvが上限に達しヤクモは種族進化して五本目の尻尾を取得した。そして六本目を取得する為に日々己を鍛えている。
それは・・・あくまで余談で、目下最大の問題はロックだ。全く進歩していない訳ではないが、しばらく側で見守っていたトウオウ曰く、錬金術との相性があまり良くないかもしれないとの事だった。相性というより、おそらく錬金術を使いこなす為の知識が圧倒的に不足しているのではないかと考えている。元素記号や化学式までとは言わないが、簡単な理科の知識が必要なのではないかと思う。となるとロックには少し厳し気がする。ロックに勉強が出来ないと思っている訳ではない。ただ、魔物に科学的な知識という概念が殆どと言って良い程存在しないと思われる。それはロックに限らずだが。おそらくそれに足るだけの知識を持ち合わせているのはトウオウだけだろう。ノインに関しては世界の知識に関しては多く蓄えているだろうが、科学的な知識に関しては、本能的に法術的に解決する術を持っているが故に、知識として理屈を持ち合わせていないと思われる。
となると、だ。俺が今からその知識を教えるのは至難の業だ。なぜなら・・・俺の方の・・・その・・・なんだ。知識が足りているかという問題があるからだ。恥ずかしい限りだが。いやぁ・・・たぶん高校卒業ぐらいの知識はあるとは思うが、なんとか卒業できる程度だったと記憶している。そんな俺が誰かに、しかも全くその世界に触れた事の無いロックに教えるのはかなり無理があるんじゃないかと思う訳である。
先日のトウオウの助言もあるので、俺は別の事を教える事にしようと思う。子供の頃父親に教わった遊びの延長の様な事だけど。肝心の父親の顔は、残念ながら思い出せないが。そしてその知識の他に、俺の中に残っている偏った知識も最大限に利用して。
今日も朝の稽古を終えた後、さっそくただの金属の塊と化した元茸を取り出し捏ねくり回しているロックに声を掛ける。
「なあロック。それで何が作りたいんだ。良かったら教えてくれないか。」
「あ・・・。よくわからない・・・。」
俺に言われて気が付いたらしい。困った顔を俺に向けた。
「そうかぁ。じゃあ、ロックはどんなものが作りたいんだ。」
「うぅんっとねぇ・・・。皆の役に立つものが良い。」
うん。きっとそんな事だろうとは思っていた。ロックは自分が役に立っていないと思っている節がある。全くそんな事は無いのだが。皆の事が大好きだから、自分は皆に助けられてばかりだから、何とか力になりたいと思っているのだろう。
「そっかぁ。・・・なあロック、今日はその練習を休んで俺の手伝いをしてくれないか。」
「え・・・師匠の、手伝い。」
驚きと喜びの混ざった表情になる。何時も通りの薄めの感情表現ではあるが。それでも以前よりだいぶ読み取れるようになった。
「うん。ちょっと作ってみたいものが有るんだ。」
「師匠、何か作るの。」
「ああ。ロックの何かの参考になるかもしれないしな。どうかな。」
気分転換にでもなればというのが一番大きな理由だが。ロックの本当にやりたい事を考えるきっかけにでもなればと思う。
「うん、わかった。一緒にいく。」
ロックは広げたお店を片付けて、出かける準備を始めた。
「じゃあ、出かける前にちょっとトウオウと話をしてくるから、ちょっとだけ待っててくれ。」
「うん。わかった。」
本日俺担当のハクにも声を掛ける。今日の主な目的を伝えると「僕も興味があります。」と興奮気味にそう言った。
「ロック、お待たせ。行こうか。」
待ちきれなかったのか、入り口付近で足踏みしていたロックを連れて森へ出た。
「あるじ様、今日は何処に行くんですか。」
「そうだなぁ・・・どっちに行こうか。」
適当に歩みを進めながら話を続ける。
「え・・・決めてないんですか。」
「ハクは何処に行くのが良いと思う。」
無責任な感じがするが、俺とは違う発想で選んで貰った方が新しい発見があるんじゃないかと思って聞いてみた。
「ねぇ師匠、何を作るの。」
おっと、そうだった。肝心な事をお知らせしてなかった。
「僕も知りたいです。」
ハクもロックに同調する。
「スーアンが手を使える様になっただろ。だから何か道具を作ろうと思ってな。」
この事は前から考えていた事ではある。手が無い状態であったとしても「何か」と思っていたんだが、道具が使える様になった今が良い機会ではないかと思い立った訳だ。その機会とロックの気分転換とが上手い具合に・・・と言って良いのかは分からないが、重なったと。
「ミナお姉ちゃんの、槍みたいなやつ?」
「そうだなぁ。そうだけど、ちょっと違うかな。」
「なんで違うの、師匠。」
そうか、そういう質問になるか。そりゃぁそうだよな、俺みたいに偏った知識がある訳じゃないもんな。
「うん。それはな・・・スーアンがミナと得意な事が違うからだ。」
「得意なこと。」
「そうだ。ミナはロックやジュウザみたいに戦うのが得意だろ。」
ロックは「うん。」と頷く。ハクは「はい。」と頷く。
「じゃあ、スーアンは何が得意かな。」
「・・・法術です。」
「そうだ。」
そう言って今度は俺が頷く。
「スーアンは法術が得意だな。ハク、スーアンはどれくらい法術が使えるかな。」
「それは・・・凄いです。凄く沢山の法術を使えます。」
ハクにしては漠然としたお答え。
「僕の知らない法術を沢山使えます。」
自分の事でもないのに自慢気だなぁ。誇らしいのだろう。スーアンが聞いたら喜ぶだろうな。
「そうだな。でも凄いのはそれだけじゃない。」
「それだけじゃない・・・。」
「そうだ。スーアンの本当に凄い所は、法術の使い方だ。」
「使い方、ですか。」
驚きと納得が混ざった声を出した。
「どんなに沢山使えたって、使い方が下手だったら意味が無い。使える種類が少なくても、効果的に使えたら上手く立ち回れる。スーアンはその法術の使い方が凄く上手いと俺は思う。そんなスーアンが多くの法術を使える。だから凄いんだ。」
「うん。だから、スーアン母さんは、強いんだね。」
「そうだ。そんなに凄いのに、スーアンはそれで満足せず研鑽を怠らない。いつだって、法術の可能性を追い求め研究している。」
「そうですね、あるじ様。母上は本当に凄いです。」
「ハクも良く見て、聞いて、勉強すると良い。きっと参考になる事がいっぱいだ。」
「はい。」
「でも全部真似して同じ事ができる様になる必要は無いぞ。」
「え・・・。」
「ハクにはハクにしか出来ない事を探した方が俺は良いと思うぞ。勿論、スーアンと同じ事が出来て悪い事は無いと思うけど。」
「僕にしか出来ないこと・・・。」
「そうだ。それにスーアンだってジュウザやミナみたいに戦えないし、サイみたいに鎖は使えないし、ハクみたいに植物や鉱物の知識は無いんだぞ。」
「はい、あるじ様。」
「師匠、僕も頑張る。」
ロックもハクも元気よくそう宣言した。頼もしい。
「あ。あるじ様、それと今日作ろうとしているものが、どう関係しているんですか。」
あ。そうですね、話が少し逸れた。
「そうだったな。・・・なあサイ。じゃあ、そのスーアンがどうしてそんなに法術が得意なんだと思う。もう少し言うと、上手く使えるんだと思う。」
「それは・・・沢山練習と研究をしてるから・・・ってだけじゃないって事ですよね・・・。」
流石だな。俺の質問の意味を文脈から読み取っている。だが答えには「人」ならではの知識が無いと見つけ難いかもしれないな。
「師匠、僕、わかったかもしれない。」
おや、ロック。それは意外だ。
「お。ロックはどうしてだと思う。」
「スーアン母さんの尻尾。」
野生の勘か、天使の加護か。たぶん天性の観察眼。
「そうだ。俺もそう考えている。」
「尻尾・・・ですか。なるほど、そういえば母上は法杖眼鏡蛇でしたね。そういう事かぁ。ロック凄い。」
ロックは右手て自分の頭の後ろを擦って、絵に書いたように照れている。
「でも僕には法杖の意味が良く解らないですが。」
当然そうなるよな。種族の名前も人間・人種視点なのは俺も些か気にはなるが。
「法杖ってのはなぁ・・・そうだな、法術を上手く使いこなす為の道具・・・かな。」
「なるほど。・・・という事は、母上はその道具を既に持っているという事ですね。」
「まぁそうかな。だけど俺は、尻尾が法杖に良く似た形をしていて、その機能を備えていて、その代わりをしているんじゃないかと思っている。」
「そうか・・・そうかもしれませんね。母上の尻尾はあくまで尻尾だと・・・。」
流石ハクだな、理解力が高い。此処まで来るとロックは、首を捻って小さく唸り始めた。ま、後でゆっくり説明してみよう・・・ロックに興味があれば、だが。
「で、だ。今現在、身体の一部がとはいえ常に一本法杖を持っているスーアンがあれだけ法術を使えるんだ。もしこの前使えるようになった手に、もう一本今度はちゃんとした道具の法杖を持つ事が出来たらどうなるかなと、俺は考えた訳だ。」
全部の歯を見せんばかりに口角を上げてそう言った俺を見たハクとロックは目と口を同時に大きく開いた。
「流石です、あるじ様。」
「師匠、凄い。」
興奮のあまり小刻みに飛び跳ねている。可愛らしくてとても良いが、それじゃあ君たちの方が兎みたいだぞ。だがこれで本日俺が作ろうと考えているかは、おおよそ伝わったかな。
「ではその法杖を作るんですね。」
「そうだな。だが正確には法術用の杖を作るつもり、だな。俺が作るものが法杖と呼べるものになるとは限らないからな。」
「そうなの、師匠。」
「そりゃぁそうだ。だって作った事無いからな、思った通りに出来るかは分からない。上手く出来るかな。」
「あるじ様なら、きっと出来ます。」
笑顔でそう言われるとそんな気もしてくる。ロックに至ってはまだ出来てもいないのに、嬉しそうに何度も首を縦に振っている。
「じゃあ、上手く出来るように手伝ってくれ。」
「はい。」「うん。」
とは言ったものの、この東の森で良い素材が獲得出来る可能性は低そうだ。良さそうな素材は危険地帯の境目付近で取得したものが多い。あの動く木も馴鹿も茸も。今日はそちらへ近づく予定は無い。でも良いんだ。本日の最大の目的はロックの気分転換だ。
ハクとロックに交互に分かれ道で行き先を決めて貰いながら進む。何処まで行っても東の森である以上、見知った風景ではあるが。それでも今までちゃんとこの足で踏んではいない場所を歩く。このあたりで良いかな。
「じゃあロック、ハク。どんなものでも良いから、杖に使えそうなものを見つけたら教えてくれ。」
「師匠、それってどんなの。」
ハクも気になっている様なので、一応「杖」の形状やら用途やらを大雑把に説明した。それでもちゃんとは理解できてはいない様だった。でも良いんだ。俺が探すと、先入観に囚われたものしか選ばない可能性が高い。ロックやハクの自由な発想で選んで貰った方が良いんじゃないかと思っている。その方が新しい発見があって、いい刺激になるんじゃないかと思って。
「そんなに気にしなくて良いぞ。杖には使えなくても他のものに使えるかもしれないしな。さあ、宝探しだ。」
ロックとハクは楽しそうに返事をして、周囲を観察し始めた。
「一応、あんまり離れるなよ。」
まぁ、この東の森なら特に問題は無いとは思うが、念の為そう声を掛けた。俺も何か一つくらい新しいものを発見するべく、目を皿のようにして周囲を観察する。
ねぇセッテさん。『御用でしょうか。』何か探すのに、「星目」って役に立つかな。『是、肯定します。』おぉ。それはありがたいな。『どういたしまして。』・・・え。『どういたしまして。』これはセッテさんの手柄なのでしょうか。『否、否定します。』はい、どうもありがとうございます。『恐れ入ります。』・・・釈然としないな。『恐れ入ります。』
「ねえねえ師匠、これは。」
セッテさんと戯れていた俺にロックが何かの葉っぱを数枚差し出した。
「これは・・・何の葉かな。」
鑑定をしてみると特に何の変哲もない、この視界に入る限り無数に立っている木のものだった。
「うぅん。これは今の所、特に使い道は無さそうだなぁ。」
目を輝かせている所を申し訳ないが、真実を告げる。
「でも良いぞ、ロック。こういう当たり前だと思っているものをちゃんと調べる事は良い事だ。」
ロックの一度沈んだ気持ちが上を向く。気を取り直して次のものを探し始めた。その後姿に「自分で調べてからでも良いんだぞ。」と声を掛ける。少し驚いた顔で此方を向き、笑顔で頷く。・・・今、俺に言われて気が付いたな、これは。らしいっちゃ、らしいな。
「あるじ様、これはどうですか。」
一度収納したそれを俺の目の前で取り出した。おお。まずは自分の技能を使いこなしている事に驚く。いやハクならそれくらいは当然か。ハクの持ってきたものは、良い感じの木の棒だった。全世界の男子ならば垂涎ものだな。その木の棒を拾い上げて吟味する。やはり厨二男子的には実に趣があって魅力的だが、スーアンに提供する杖にするには素材として物足りないか・・・。
「悪くはないがぁ、これは何か別のものに使うか。」
「そうですか。・・・じゃあ、これはどうですか。」
なんと。複数のものを回収して持ってくるとは。次にハクが取り出したのは・・・。
「石か・・・。これは、硝子・・・じゃないな。水晶かな。」
「綺麗だから拾ってみました。」
なるほど。水晶か、おそらくだが法術の媒介としては悪くないと思うが、いかんせん小さい。この俺の親指と人差指で縦に摘める程しか無い。装飾には使えそうかもしれないな。
「悪くない着眼点だけど、少し小さいかもしれないな。でも杖の飾りには使えそうだな。」
「あるじ様、飾りってなんですか。」
ほう、そうなりますか。
「そうだなあ・・・あってもなくても良いけど、格好良く見せたり、綺麗に見せたりする為のものかな。」
「そうですか・・・。」
「そんなに残念がる事も無いぞ。これなら補助的に効果を高める事も出来るかもしれないぞ。」
「そんな効果もあるんですか。」
「後で調べてみような。もしかしたら相性が悪くて効果を下げちゃう場合もあるかもしれないからな。」
「道具を作るのにはそんなに色々な事を考えるんですね。」
それはなハク、俺がそういう系統の奴だからだぞ。
「まぁなぁ。でもこれが楽しいんだ。」
「はい。解る気がします。」
その後ロックもハクも何度か俺の元を往復して様々なものを運んでくれた。ハクは運んで来る度に少しずつではあるが精度を上げていたが、ロックは手当たり次第に自分の気になったものをといった感じだった。石、花、根っこ、木の実・・・。なんだかなぁと思う反面、ロックは一つ一つ確認して学習しているのではないかとも感じる。楽しそうだからどっちでも良いか。
「なあハク・・・この水晶、もう少し大きのがあると良いんだけどな。心当たりはないか。」
「それなら・・・その水晶は水水晶ですから、近くの水場に行けば或いは。」
水水晶ですと。全然鑑定とかしてなかったよ。
「あっちに川があるな。行ってみるか。」
「うん。」「はい。」
川辺に来てみたのはいいが、良く考えたら流れが緩やかだとはいえ、この水の中にこの透明な石があったとして、見つける事が可能なのだろうか。試しに先程ハクが持って来てくれた水水晶を掌に乗せて、そっと川の中へ入れてみる。・・・うん。案の定全く見えなくなった。感触はあるので、そこにそれがある事は確かだが。これは肉眼で探すのは不可能に等しい。どうするかな。
「やってみるか。」
先程セッテさんは言った。俺の探索に星目が有効かとの問に「是、肯定します。」と。ならば試してみるとしよう。もし駄目だったとしても特に問題はない。今までと変わらないだけだ。ただ問題があるとすれば、星目を任意で発動できるかという事。一応普段からいざという時の為に備えて訓練はしているが、それでもまだ上手く使いこなせてはいない。ま、これも練習だ。
「あるじ様、どうかしましたか。」
「ちょっと試してみようと思っている事があってな。集中してたんだ。」
「そうだったんですか。邪魔をしてすみませんでした。」
「いや、問題ない。上手くいくかも分からないし。」
「ねぇ師匠、なんで師匠は何時も、そういうふうに言うの。師匠は、凄いのに。」
おわっつ。俺の根本的な性格を指摘された。いやぁ、俺としては不確実な事を出来ると言い放つ事が出来ないだけなんだけど。ロックやハクから見るとそう感じるのか。・・・そうなんだよなぁ、俺の臣下一同、俺への評価が高過ぎるんだよな。それは俺の偏った知識に起因すると思われるが。
「俺はな・・・自分の事を冷静に判断しているつもりなんだけどな。」
「流石あるじ様です。それがあるじ様の凄さの理由なんですね。」
「そうか。だから、師匠は、何時も、ちゃんと稽古するのか。僕も、もっと、稽古する。」
ああぁ・・・合ってるけど合ってない。苦し紛れの言い訳みたいな答えが、俺の思惑とは違う答えを生んでしまった。稽古や練習に一層真面目に取り組んでくれそうだから、悪い事ばかりでは無さそうだが。それでもこの時俺に出せたのは苦笑い。
「ま、まぁ・・・ちょっと試したいことがあるから、少し待っててくれるか。」
ハクとロックが頷くのを確認して、もう一度集中し直す。
目を閉じ、深く吸い込んだ息を静かに細長く吐き出す。意識を一点に集中する。
「星目。」
そっと呟きゆっくり瞼を持ち上げる。・・・目の前の川が先程と違う色合いで俺の目に映る。どうやら成功したようだな、今回は。川の底まで見渡せる。そこにどんなものがあるか、どんな生き物がいるのかが判る。そして目当てのものがある場所も。
「上手くいったみたいだ。それじゃ、ちょっと行ってくる。」
そう言って川へ飛び込む。着水間際にロックとハクの歓声が聞こえた。




