46、日向の櫻乃木
夢を見た。
夢の中で、これは夢だと判る夢。
何時もの森の中。見慣れた景色。しかし普段より森の中に差し込む陽光が多く、明るく見える。どんなに晴れていても木々の葉がその光を遮り影を作るので、こんなに明るくなることはない。というより影が少ない。
静かだ。普段が騒がしい訳ではないが、それでも風が森の歯を揺らす音や、鳥や虫の声、水の音が、いわゆる森の音が少なからずこの耳に届く。兎の俺の耳ならなおさらだ。だが静まり返っている。静寂が聞こえる程ではないが。
掛かっているかどうか分からない位の霧のようなものが淡く森を覆っている。小さくて白い粒子が舞っている様にも見える。
通い慣れた道を当もなく歩く。この世界に来て、兎になってちゃんと夢を見たのは初めてかもしれない。見ているのかもしれないが朝目覚めた時に、何か夢を見たなという感覚になった覚えがない。まぁ自分の記憶程当てにならないものもないが。ただでさえ、その一部を何処かで失くしてしまったみたいだしな。この夢の中の何処かに、落とし物みたいに転がっていないかな。
日常とは違う雰囲気の森を少し楽しみながら歩く。絶対的第六感と言う程大袈裟ではないが、離れた場所から何か気配を感じる。その気配のする方向へと首を向ける。確かに何か感じるが、それが何かまでは感じ取れない。だがそこから光が放たれている様にも見える。誘われているのか、導かれているのか・・・。なに、ここは夢の中。行ってみるか。見たことがない魔物がいるって事も無いだろう。・・・たぶん。夢の中で襲ってくる魔物がいない保証はないが。なにせここは、ファンタジー。だけど魔物は前世でいう動物に近い存在だと思われる。こんな巧妙な攻撃を仕掛けてくるとは考え難い。ただでさえ聖域の中で眠っているんだし。どの道、現状他にどうする事もできないんだ。行ってみるさ。
不思議なものだ。知っている道なのに、知らない気がする。知らない景色のようで、良く知っている場所。進んでいるようで、進んでいる気がしない。その場に留まっているようで、周りの景色は変わる。これが夢だと認識できていなかったら、絶望の一秒前だな。
こうして独りで森の中を歩いていると、この世界に来たばかりの事を思い出す。そろそろ一年になるが・・・懐かしい様な気さえする。あの頃は大変だったなぁ。ヤクモより格下の狐相手に死にかけてた。初めて熊と対峙した時もだ。今考えると、どうして生きているのか不思議なくらいだ。・・・そういえば、俺って運の値が飛び抜けて高かったっけ。どうも自分の能力が数値化されている事が、未だに釈然としていないから、最近はあまり詳しく確認はしていないが。特に運なんて要素が数値化されて良いものなのか、数値が加算されて変化する様なもので良いものなのか疑問だ。いや、それをある程度受け入れようと決めたはずだ。きっとこの数値が高かったおかげで、俺はヤクモに出会う事が出来たんだ。この出会いが、俺のこの世界での生き方を大きく変える事になったんだ。ありがとう、俺の運。・・・どうやらこの夢の中ではセッテさんも反応はしてくれないらしい。
などと昔と言うには些か物足りないが、思い返しながら自分の能力の確認をしてみる。うん・・・なんとなく予想通りだったが、基本的なことを含め、なぁんにもできない。ほんの少しの兎玉一つも出せないし、快速を始めとした技能も機能していないようだ。という事はつまり今の俺はただの兎って事だ。・・・二足歩行で角が付いてる兎の何処が「ただの」なのだろうと思わんではないが。
夢の中なんだから、たまには雨が振ったって良いんじゃないかなどと思ったりしながら、光の方へと歩みを進める。近づいている確信も持てぬまま。辿り着く前に目が覚めてしまうのではないかと思ってみたりもする。にしても、随分としっかりとした夢の世界だな。こうなるとやはり何か意味のある夢なのだろう。そう意識すると、急に目的地に近づき始めた気がする。なるほど・・・精神世界みたいな感じかな。俺の気持ちが大事って事なのかな、たぶん。
目的の場所に近づくにつれて、何かを訴えかけて来るような・・・声と言うには心許無い、微かな音のようなものが聞こえてきた。なんというか・・・光の微粒子が俺の耳に辛うじて届く程の心地の良い音をそよ風に揺られて、鳴っている様な感じだろうか。
近づけばその音は、僅かでも大きくなるかと思ったが、予想外にも変わらない。俺の向かっている場所が正しいのだと教えてくれているのだろうか。それともその場所の力の影響か。・・・結局変化があってもその答えは、今の俺には解らないが。
どうやら此処らしい。此処まで来て、認識が少しだけ違った事が分かった。その場所は三角の空き地になっていて、そこへ上空から光が差し込んでいて大きな柱の様になっていた。それが周囲に広がり、そこから光が放出されている様に見えていた。
そしてその光の柱は、三角の空き地の中心にある見事な桜の木に降り注いでいた。転生してから初めて桜を見た。そこに不自然に一本だけ。満開だ。その神々しい美しさにしばらく見とれていた。それがほんの一瞬だったのか、かなりの時間だったのか。此処は夢の中、時間の流れとは隔絶されている精神世界みたいなものだから考えてもあまり意味が無いだろう。まぁ此処にいられる時間に制限があるのなら話は別だが、それを知る術もない。
しかし綺麗だな。夢の中とはいえ久し振りに桜が見られて少し嬉しくなる。前世の時から桜は嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。だが花見はあまり好きじゃ無かった。花を見ることが嫌なんじゃない、花見をしている奴が嫌いだったんだ。正確には、花見と称して酒を飲み騒いでいる奴らが、だ。花見と言うなら、花の方が主役のはずだ・・・と、俺は思うからだ。俺だって嗜む程度ではあったと思うが、人並みに酒は飲んだ筈だ。もし花を見ながら酒を飲むのなら、静かに飲みたい。そうでなければ風情がない。ま、あくまで俺の主観だが。
桜が呼んでいる。そんな気がした。その光に照らされた桜があまりに神秘的で、そう感じただけかもしれないが。
なんだか近づくのが勿体無いような気がして、ゆっくりと歩を進める。近づく程に、その荘厳な桜色の花になんだか吸い込まれそうだ。花に視線を向けたまま進んでいたので、首がこれ以上後ろへは曲がらない所まで見上げてしまっている。首が痛・・・くはない。夢の中だからかな。それでも首があらぬ方向へ曲がってしまっても嫌なので、心残りではあるが正しい位置へと戻す。目の前には、その満開の花達を支える立派な幹が間近に現れる。幹だけでも充分にこの世のものとは思えないくらいには美しいと感じる。
呼ばれているような感覚は続いている。右手を前へと伸ばす。幹に触れる直前で一度手を止め、呼吸を一つする。そして、そっと幹に触れた。
幹の感触は、これが夢だからなのか曖昧だ。それとも夢の中とはいえ、この世界におそらく存在していないであろう「桜」を何らかの形で表現しているからだろうか。
触れる事で何かしら起きると思っていたが、特に大きな変化はない。俺の予想では、何者かの言葉の一つも聞こえるものと思っていた。初めから呼ばれていたように感じていた事自体、俺の気の所為だった可能性もある。別にこの夢に意味があると決まっている訳ではない。俺の記憶の片隅に眠っていたものが見えているだけってて事も大いにある。その見え方があまりにも神秘的だったが故に何か勝手にそう思いたいだけかもしれない。
それでもせっかくだからと幹に触れたまま、そっと目を閉じてその桜との対話を試みる。夢の中で目を閉じるのよく考えると変なものだなと右の広角が微かに上がる。おっと。雑念が入ると良くない。集中をし直す。
集中して気配を探ると・・・暗闇の中に、今にも消えてしまいそうな程の僅かなものだが、何かの気配を感じる。それも夜空で瞬く六等星の様に捉えにくい。それでもやはり俺に何かを訴えかけようとしているように感じられる。どうやら俺の気の所為では無かったらしい。更に集中して慎重にその気配を探る。
微弱な気配を辿り、闇の奥の針の穴に糸を通すように、遂に己の意識を繋ぐことに成功する。綿毛を優しく掌で包むようにそっと。
それでも、はっきり何かを俺に伝えて来るには至らなかった。ただ先程より確かに何かを伝えようとしている事は確かだということが分かった。くそぅ・・・探り当てる前と後で大きく違いが無い。このままでは答えの出ない平行線だな。どうするか・・・。
やむなく繋いだそれを放さない様にしながら目を開く。今一度目の前の桜を見渡す。すると・・・見た目自体には変化は無いが、今繋いでいるその何かが、その何かの先が何処か遠くへと細い糸の様に続いている事に気が付いた。
その方向を丁寧に辿ると、どうやらこの森の東の方へと続いている事が分かった。それが意味するところは計り兼ねるが。導かれているのか、それともこの何かを訴えようとする意識の主がその方向にいるということを示しているだけの事なのか。とにかくその力が弱すぎて、意図を汲み取ることもできない。
どうしようかと一思案してみたが、答えは出ない。東か・・・元々そちらへ行くつもりだ。東に行く理由がもう一つ出来たって事かな。
今一度幹に触れ、目を閉じて集中する。繋がりを確かめ、今度は此方から問いかけをしてみようと試みる。俺に何か伝えたい事があるのかと。もしそうであるなら、あなたは何者なのかと。・・・何やら微かにその気配が揺らめいた様な気がする。反応はした。反応はしたが、あまりに微弱過ぎて明確な意志までは読み取れない・・・。反応したという事は、どうやら俺に何か伝えたい事があるかの問には、是か否かで言えば是と考えて良さそうだ。今の俺にはその内容を汲み取る事は出来そうもない。すまないな・・・。少し先にはなるが、俺の方からそちらへ行くから待っていてくれ、と伝わったかどうかは定かでは無いが返事をしてみる。
六等星が五等星程に明るくなって、消えた。
どうやら俺の意志は伝わったと考えて良さそうだ。・・・たぶん。完全に途切れちゃったな、ここまでか。
目を開けると、そこに見えたのは、見慣れた、俺の付けた傷跡のある天井だった。・・・目が覚めたようだ。そして夢を見た事をはっきり覚えている。意味が無いという事は無さそうだ。
家には朝日が差し込んでいた。ゆっくりと身体を起こして立ち上がり、両腕を上げて伸びをしながら庭へ出た。
庭に出ると、そこには俺達の日常があった。皆と朝の挨拶を交わす。今日も良い天気だ。この世界へ来てから何度目の青空か・・・ほぼ俺の過ごした日数と同数か。空から視線を戻し庭を見渡すと、ノインと目が合った。
「・・・イッスンよ、何かあったのかね。」
鋭いな。そんなに俺の気配に普段と違うだろうか。
「特に何かって事もないが、夢を見た。」
「夢・・・。なるほど。」
ふむ・・・もしかしたら俺の夢に干渉してきたものは聖なる属性の力だったのかもしれないな。だからノインには何か感じるものがあったのかもしれない。
「何か意味があるようで、それを上手く読み取れないみたいな夢だ。」
「そういう事か。納得した。」
「納得。何か思い当たる節でもあるのか。」
「うむ。極微量ではあるが、何か聖なる・・・意志のようなものが、この聖域に干渉していたのを感じたのでな。」
そういう事か。ノインの張った結界と言っても差し支えないこの聖域に干渉するものがあれば気にはなるよな。
「んん、という事は、ここが聖域だから上手く俺に意志を伝える事が出来なかったかもしれないって事か・・・。」
「おそらくそれは違うな、イッスンよ。」
思わず溢れた呟きにノインが意外な答えを返す。
「なんですと。」
「ここが聖域だからこそ、辛うじて繋ぐ事が出来たと考えた方が、私は正しいと思う。」
「なるほど・・・。」
これはノインの推測だが、たぶん概ね正解だろう。聖域だったからこそ聖なる力、意志を繋ぐ事が可能だったと考えるのが妥当だろうな。つまりそれはこの夢は何者かが俺に何かを伝える為に明確な意志を持って意図的に見せたという事だ。残念ながら本質的なことは何も解らないが。
「辿って調べてみるかね、イッスンよ。良ければ私が少し探ってみるが。私なら聖なる力は得意分野だ、なんとかなるだろうと思うが。」
「いや・・・大丈夫だ。おおよその予想は付いてる。それもノインとたぶん同じだ。」
ノインは「そうか。」と言って静かに頷いた。
「それよりも、だ。一応念の為、夢で見た場所に行ってみるよ。何らかの手掛りがあるかもしれないし。」
だいたいあの辺りだろうと見当は付いている。夢の中で距離感が曖昧だったとはいえ、それでも見知った東の森の範囲内だし、技能に依るところもあるとは思うが方向感覚と距離感、そして空間把握能力には些か自身がある。そんなに苦労すること無く辿り着く事ができるだろう。そこに守護者が待ち構えているなんて事も無いだろうと思う。
「そうか。同行は必要かね。」
「たぶん大丈夫じゃないかな。・・・どう思う。必要そうか。」
「いや、私も特に問題は無いと思うよ。」
俺は頷きを返す。一応、万が一の為にヤクモに一緒に来て貰おうかな。
日課の朝の稽古を済ませて、出発の準備をする。ヤクモに事情を話し同行を依頼すると快く承諾してくれた。
本日の俺の担当はジュウザ。ヤクモはサイ。この部隊編成で向かう事になった。フタバは最近ロックと一緒にいる事が多い。どうやらフタバも錬金術に興味があるらしい。一緒になって、ああでもないこうでもないと試行錯誤するのが楽しいようだ。良い事だ。
少し意外だったのはトウオウが同行を申し出た事だ。話を聞くと、どうやら気分転換をしたいらしい。勿論俺に断る理由は無い。
目的地を目指して歩きながら、一応トウオウにも事情を話してみたが「ボクには良く分からないなぁ。」と嘘か本当か判らない気の抜けた返事が帰ってきた。おそらくトウオウ程になれば、あの気配を察知していただろう。だが自分の得意分野でない事は明らかなので・・・簡単に言えば興味が無いのだろう。ノインというその分野に特化した仲間・・・家族がいるから自分が手を出す必要は無いと考えているのだろう。実にトウオウらしい。
今日は珍しくジュウザが普段より落ち着いている。・・・少し不気味だな。そんな事を思いながら視線をジュウザからサイに移すと、サイは少し笑ってこう言った。
「実はジュウザ兄ぃはロックの錬金術があんまり上手くいかない事で悩んでるんだよ。」
俺も思わず笑顔になる。ヤクモも俺の顔を見て微笑みながら小さく首を縦に振った。ジュウザは皆のお兄ちゃんなんだなぁ、本当にいい奴だな。
「自分の事じゃ、あんなに悩んでるところを見た事無いのにな。」
俺が小声でそう言うと、サイは満面の笑みで力強く頷いた。
「これがジュウザの強さの理由ですよ、主殿。」
ヤクモもなんだか誇らしげだ。
「知ってるよ。」
そんなジュウザの背中を見ながら歩く。俺も今現在明確な解決方法を持ち合わせていないので、敢えて声を掛けずにおく。不必要に悩み事を煽る事もないだろう。申し訳なくもあり、頼もしくもあり。
「サイ、悪いけど代わりに周囲の警戒を頼むな。」
「はぁい。」
「元々普段からジュウザは、警戒が得意な方じゃぁないだろうよ。イッスンの。」
「そういえば、そうだったな。」
俺達の笑い声に、ジュウザは振り向き不思議そうな顔をした。
今回はジュウザが蛇行することも無く、特に寄り道せずにおそらくこの辺りであろうという場所に辿り着いた。
「この辺りかね、例の場所は。」
「そう・・・だな。たぶん。」
一応念の為、周辺を一通り探索してみた。皆も協力してくれたが何も見つけることが出来なかった。
ここには何も無かった。手掛りになりそうなものも、大きな桜の木も、三角の空き地も・・・。あるのは周りの景色と少しも違和感も無い、この森の景色。この場所自体に意味はないのかもしれないな。俺の脳の中なのか、心、もしくは精神世界に何者かが直接接触を試み、それを探り当てる過程を夢の中でこの森の風景に置き換えていただけなのかもしれないな。
良く解らない事ばかりだな。・・・良く考えたら、俺はこの世界の事もほとんど知らなかったな。そりゃあそうだな、今現在俺の世界なんてこの森の、それもこの東の森が全てだもんな。技能や機能に関しても、本質的なことは何一つ推察の域を出てはいないんだしな。
「変わったものは見つからないねぇ、あるじ。」
「そうだなぁ。残念だけど、こればっかりは仕方がないな。」
「どうされますか、主殿。」
「そうだなあ・・・。トウオウ、なにか感じたりしないか。」
「特には・・・。何の変哲もない普段通りの森だねぇ。」
口調は何時もと同じだが、トウオウの事だから念入りに探ってくれたうえでの回答だろう。それでも何も見つけられないと言うのだから、きっとそうなのだろう。
「あぁそうだな。俺もそう思う。」
俺自身でも調べてみた結果の同意見だ。おそらく何か見つかるなら、そんなに手間取る事無く発見出来たんじゃないかと思う。あちらから接触をしてきて、わざわざ手掛りになるようなものを発見し難くする理由は無い筈だし、夢の中である必要はなかった筈だ。ノインが言っていた、我が家が聖域になった事が要因だとするなら、この場所にある何かを中継する理由が無い。やはりあれは俺の精神世界をこの森で置き換えたと考えるのが妥当そうだ。そして相手の力があれだけ微弱だった事を考えると、あの世界の景色を構築したのはおそらく俺の方の無意識かな。ま、そんな事はどうでもいいか。取り敢えず東に行くと決めているんだ。方向は同じ。行き掛けの駄賃だ。難しく考えるのは止めよう。どうせ今のところどう足掻いても、結論には至らない。
「帰るか。」
何も無かったという結論が出ただけでも満足だ。放っておくと何時までも気にしてしまいそうだったからな。
今日は此処に来るのに、ジュウザのおかげでほぼ最短距離で辿り着けたので、帰り道は遠回りしたくなる。まだ日も頂点に到達していないしな。木の実でも収集しながらゆっくり散歩しながら帰るとするか。この東の森なら安全だろう。ヤクモもトウオウも同行しているしな。考えたいことも幾つかあるしな。解決の糸口を見つけたと思うと、そこから更に別の問題が出てくるから、色々と追い付かない。
「イッスンの。ちょっと良いかい。」
腕組みをしながら歩いていた俺に向かってトウオウが声を掛けた。
「おぉ。別に構わないけど・・・。どうした。」
「ロックのことなんだけど。」
まあ、そうなるわな。俺も悩みの一つだしな。
「おう。」
「ここしばらくロックの練習に付き合ってみて、気が付いた事があるんだ。」
なんですと。それは実に興味深い。トウオウは話を続ける。
「ロックは錬金術で何かがしたいんじゃなくて、何かを作りたいんじゃないかと思うんだ。」
「なるほど・・・。」
「どんなものが作りたいのかまでは分からないけど。」
「ロックの作りたいもの・・・か。」
流石に俺もそれは見当がつかないな。ただ何かを、道具を作りたいのか。それとも何か作ってみたいものでもあるのか。
「だからロックの場合は、錬金術に拘る必要はないかもしれないよ。」
「そういう事か。」
少し光明が見えたかもしれない。少なくともロックの気分を変える事ぐらいは出来そうだ。
「そこでね、イッスンの。だからイッスンがロックに何かを作る方法を教えてあげたら良いんじゃないかと思うんだよ。」
「なるほど・・・それは良いかもしれない。ありがとうな、トウオウ。」
「いや、ロックは頑張っているからね。」
そう言って少し照れ臭そうに身体ごと左に一回転した。・・・そうか、これも照れ隠しなのか。面白いな、この魔王様。
「それに頑張っていたのはロックだけじゃないよ。ジュウザやサイ、ハクにフタバもね。」
「そうか、そうだな・・・。」
トウオウは子供達の事をよく見てくれているなぁ。俺はといえば、勿論気にかけていない訳では無いが、ここ最近問題が山積みで、ちゃんと皆の事を見られていたとは言い難い。情けないことだ。
「・・・少しよろしいでしょうか。」
急にヤクモが話し掛けてきた。
「お・・・おう。」
「主殿は・・・気にし過ぎではないかと、思われます。」
なんと。ヤクモは心が読めるのか。
「そんなに顔に出てたか。」
「いえ、そんなには。ほんの少し眉間に皺が、という程度です。」
それで気が付くものなのか。だがそれはそれで恥ずかしいな。
「それで、ですね。主殿は・・・私が言うのも失礼かもしれませんが、ちゃんと子供達の事を考えておられると思います。」
「そうかな。時々疎かになっちゃう気がするんだよなぁ。」
「決してそのような事は無いと思います。そればかりか、子供達だけでなく我々の事も気にかけて下さっています。」
「そうだねぇ。イッスンは気にし過ぎだよ。子供達の事はボクを含めて、皆で見ているんだからもう少し気楽に構えても良いんじゃないかと思うよ。ねぇ、ヤクモの。」
「全く仰っしゃる通りだと思います、トウオウ殿。」
そう言ってヤクモとトウオウは俺に視線を向けている。ため息を一つ。
「そうだったな・・・ありがとう。」
俺には頼れる臣下が、家族がいるんだ。そんな簡単な事を俺は直ぐに忘れてしまう。悪い癖だ。俺は一番年下なんだ、もっと皆に頼ろう。
頑張った子供達の為に果実を獲りに行く為に南の森へ遠回り。ジュウザの良い気晴らしになったみたいだ。
その日の深夜、日を跨ぎ、俺は歳を一つ重ねた。




