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44、緑と黒の。

 ロックの錬金術の開花にはもう少し時間がかかりそうだという事が判明した。トウオウ曰く、おそらくロック自身の法術や魔法があまり得意な分野では無いのだろうとのことだった。確かに純粋な近距離格闘型だもんな。

「トウオウが錬金術使えたら簡単なのになぁ。」

「随分と無茶を言ってくれるねぇ、イッスンの。」

 お互いの顔を見て声を出して笑う。

「まぁ、探っては見るよ。ボクもたまには役に立たないと。」

「おっと、気を使わせちゃったか。」

「そんな事はないさ。単純に興味があるしね。」

 本音が見え難いトウオウではあるが嘘を言っているようには感じられない。おそらく役に立ちたいというのも興味があるというのも半分以上は本音だろう。俺としてはトウオウはいてくれるだけでもありがたい存在なのだが。唯一友達の様に接してくれる貴重な存在だ。それだけでどれ程救われているか。その事をちゃんと言葉にした事は無いが。・・・いつか機会があれば。

 トウオウは、もしかしたらハクの方が先に錬金術を取得するかもしれないとも付け加えていた。うん・・・そうだな。俺よりは近そうだな。


 錬金術の詳細が解明できない以上、茸の消費量も見当がつかない。そうなると茸の収穫量の目安も、という事になる。しばらくは西の森にお出掛けしないでおこう。あそこにいくと面倒な輩に絡まれる可能性が高いからな。

 となると今日は何をしようかなとなる。昨日は、それこそ予想はしていたとはいえ魔界獣との戦闘しかり、茸採取しかり結構忙しかった。それに加え帰宅した後、サイとハクと一緒に茸を一つ一つ調べたので、それだけでかなり疲労してしまった。明日の、つまり今日の予定をまるで決めないまま就寝した。特に大きな問題がある訳でも無いのだが。

 こんな日はロックの気晴らしにでも稽古をしようかと思ったのだが、そのロック自身が現在錬金術の解明に夢中なので俺と遊んでもくれそうに無い。寂しい気もするが、何かに夢中になっているのを邪魔するのも悪いしな。楽しそうだし。別の事にしよう。


 ジュウザはヤクモとモモカと一緒に魚を獲りに出かけた。ハク、サイ、トウオウ、フタバはロックの錬金術の練習に付き合うのだそだ。法術系の皆による手厚い補佐の体勢だな。皆で一緒に試行錯誤するのが楽しいのだろう。良い事だ。ミナとスーアンは木の実の収穫に行った。ノインも今日は森の外の偵察に出た。・・・あれ、俺だけ余ってるな。魚獲りか木の実熱めのどちらかに同行すれば良かったかなぁ。本日当番のハクもロック達と一緒に試行錯誤中。行くぞと言えばついては来るだろうが、今日はそれが正しい事には感じられない。少し寂しい気もするが今日は単独行動かな。出かけない選択肢もあるが・・・近くで見てたら、絶対にちょっかいを出してしまう。おっさんの悪い習性が出てしまうのは確定。なので外出をしよう。新しい技能も試してみたいし、自主練習がてらお散歩でもしようかな。


 トウオウに皆の事を頼むと一言掛けて庭を出た。出た直後、立ち止まり右に行くか左に行くかを少し考える。今日は・・・できる事ならあまり面倒くさいのを相手にしたくない。そうだな、普段あまり森の外周付近を探索していないな。北の森に近づき過ぎない北東の森辺りから外周付近の森を南下してぐるりと南の森付近まで探索してみるか。そう決めて東へと歩き出す。

 まずは全速で走る練習と思い、出発地点を目指し走り出す。能力値が上昇したこともあるのだろうが、思ったよりも速い。現在八割位の速度で走っているのだが、それでも実際の速度と己の感覚との間にズレがある。これで本当に全速力で走ったら制御できる気がしない。出発早々に課題が見つかるとは。幸先が良いのか悪いのか。一度感覚にズレが出ない速度まで落とす。六割五分と言ったところか。徐々に身体と感覚を慣らすしかない。地道だが仕方ないし、意外とこういう地道な練習は嫌いじゃない。

 左右を流れる景色を感じながら、ふと思う。俺が単独行動をすると良く出会う印象のある魔物がいる事が過る。「ある日森の中」の奴だ。・・・まぁそれだけじゃなくても、変な魔物に出会う事が多い気がする。今日は本当に面倒くさいので、どうか出会いません様に。しても意味があまり無いような願い事をしてみる。しかしそう考えると、俺の何処が「幸運」兎なのだろうか。決して此処までの生活が不幸だとは微塵も思わないが。

「俺って幸運なのかな。」

『是、肯定します。』

「いまいち「幸運」な実感が無いんだけど。」

『それは、本当ですか。』

「確かに不幸では無いと思うけど。」

『是、肯定します。ご不満ですか。』

「そう言われると、不満ではない。ではないが、釈然としないというか・・・。」

『それでは、何を持って「幸運」と定義しますか。』

「難しい質問だなぁ・・・。」

『お互い様かと思われます。』

「・・・俺もそうかと思われます。」

『「幸運」であることは間違いありません。世界で一番ではありませんが。』

「なるほど。いや、ありがとう。セッテさん、変な質問をして申し訳ないです。」

『いえ。何時でもどうぞ。』

 こんな他愛もない会話ができる事事態が幸運なのかもしれないと思ってみたりする。そんな会話をしているうちに最初の目的地に到着した。・・・明確な場所がある訳ではないし、俺の匙加減でしかないが。良いんだ、今日は特に適当で。


 翠玉馴鹿に遭遇した地点よりもだいぶ南で北上を自重した。今日は絶対に面倒事は御免被る。その森の東の端。そこから更に東を見れば、ノインに出会った時に見た世界が、多少視点は変わっているが広がっている。世界は今日も良い天気だ。北側に見える山・・・山脈には少し雨雲が掛かっている様に見える。かなり距離があるので、本日この森に雨が振る事は無さそうだ。

 まだこの森から出るつもりは無い。さて森の外の景色を左に見ながら森から出ないように森の際を歩いて行こう。これだけ森の外周ならば天敵たる「彼等」に出会う可能性は極めて低いだろう。だから今日は気楽なものだ。・・・勿論警戒を怠らないように。気を抜き過ぎて何度も同じ様な失敗を経験しているからな。

 直ぐ側が開けているからか、吹き抜ける風が普段と少し違う香りを運んでくる。芝の、乾いた土の、草原の花の、太陽の。俺の五感に新鮮に染み渡る。刺激を受けて新しい何かが開花しそうな錯覚をする。勿論そんな事にはならないが、それでも何か新しい発想の一つくらい浮かぶかもしれないな。この森から出る前にしなければならない事、できればしておきたい事も結構ある。それを実行する為の方法も手段も今の俺ではあまり多くは思いつかない。根気良く続けていく事が嫌いな訳でも、悪い事だと考えている訳でもないが、時間的に期限がある程度決められている以上、新しく別の選択肢を模索する必要があるとも感じている。その良いきっかけにでもなってくれればなぁと髭を揺らす風と同じ位に細やかに思って見たりする。


 おそらくケルベロスかヘルハウンド、或いはその両方のを食したからだと思うのだが、新しく並列思考という技能を取得した。任意で取得した訳では無いので、どうやらこの技能の影響で頭部が複数になる事は無いようだ。取得したのは良いが役に立つのだろうか。複数の頭部を持ち合わせていない俺に必要な技能なのだろうか。確かに単純に別の思考を同時に巡らせる事ができれば、便利だと思うが。これならもしかしたら兎玉を制御しながら戦う事も可能になるかもしれない。だがそれを俺は制御できるだろうか。まさかこの技能、頭部複数型の生物専用じゃないだろうな。『否、否定します。』あ、そうなの。そりゃそうだよな。それが条件なら俺が取得できる訳無いよな。

 ならば試してみるか。事前に何を思考するかを決めておくか。ただ並列思考を使っても、何も考えないなら複数あっても意味がないし、検証出来ない。そうだなぁ・・・一つは兎玉にするか。もう一つは、計算にでもするかな。余裕があれば歩きながらって所かな。立ち止まって腕組みをして少し上を向きながらそう思案する。今はまだ思考は一つだけ。周囲に気配は無し。・・・俺が気にならなくなっている可能性もあるが。ここはもう少しだけ警戒を強めて探る。うん、大丈夫そうだ。

「並列思考、開始。」

 一応開始の合図をする。左の掌を胸の高さ辺りで上に向け、俺の小さな手でも握り込める程の大きさの兎玉を一つ作り出す。そして適当な計算か素数でも数えようかと思った次の瞬間だった。

「がぁっ・・・。」

 と、声にならない声を発してその場に蹲る。痛い。激しい頭痛が膨大な情報と同時に流れ込んでくる。頭を抱える両手に俺の頭から発せられる熱が伝わって来る。意識が飛びそうだ・・・。

「か、解・・・除っ。」

 頭の中でだけ破裂音の様な乾いた音がした気がした。そして視界が明るくなり、頭痛が止む。その場に仰向けになり、小刻みに意図的ではない呼吸をする。乱れたその呼吸をそのままの姿勢で整える。

「これは・・・不味いな・・・。」

 今のままでは、到底使えない。慣れたりするのだろうか。慣れるのなら相当練習が必要だな。

「外でやるのは危険だな・・・。」

 そう呟いてゆっくりと立ち上がる。


 頭を二度程横に振って歩き出す。並列思考を解除した筈なのだが、まだ頭の後ろの方が痛い気がする。それに加え寝不足の朝の様に気怠い。こんな感覚は久し振りだ。兎に生まれ変わってからは初めてかもしれない。日が沈んだら眠り、次の日の日が昇ったら目を覚ます。自然の流れに寄り添った、なんと健康的な生活なのだろう。そう考えると人間だった時はなんと不自然で不健康な生活をしていたのだろう。まぁだからといって不幸せだったかと言われれば、そんな事は無かったが。・・・ただ、自分が死んだ時の事を覚えていないから何とも言えないが。ま、覚えていない事はいくら考えても意味がない。それに今、俺幸せだし。

 おっと。警戒が疎かになっていた。痛みが残っているような気がする頭を持ち上げ深呼吸をする。警戒網を再び張り直す。どうやら特に問題は無さそうだ。深呼吸をしたおかげで少し意識が戻ってきた。もうしばらくすれば、回復するだろう。

 しかし問題がまた一つ増えてしまった。この感じだと使い所が無い。この技能の有る意味、取得できた意味から考える必要があるのかもしれない。絶対に何か有効的な使い方が、意味があるはずだ・・・あるはずだ。そう信じたい。並列思考なんて御大層な名前の技能なのだから、そうあって欲しい。罠感知よりは使い所があるはずだ。・・・取り敢えずしばらくは封印だな。

 気を取り直して歩みを進めよう。大袈裟に言ってみたが散歩を続けようという事である。あらためて森の外を眺めると、先程は気が付かなかったが思ったより生き物が動き回っているのが確認できる。豆粒程にしか見えないし数も疎らだが、おそらく魔物だろう。距離も相当離れているのだろう、大きさも判別出来ない。鼠程の大きさなのか、馬程の大きさなのか、それとも象よりも大きいのか。まぁ・・・象より大きければこの距離でももう少しちゃんと判別できるだろうな。

 空に目を向けると、森の近くの高い所を翼を広げ空を滑る一つの影が見える。鷲程の大きさだろうか、両翼を広げたその大きさは俺の五六倍はある様に感じる。森から出てくる魔物でも狙っているのだろうか。・・・おや、結構離れているのに今目が合った気がするな。なるほど、俺を狙っているのか。しばらくじっとして様子を伺ってみると、上空のお客さんはその場で大きく旋回しながら待ち構えていますと宣言しているかのようだ。そんなにあからさまに狙っていますと分かる様に振る舞っていたら駄目なんじゃないかな。それじゃ獲物は逃げちゃうんじゃないかな。・・・まぁ、俺達以外の普通の魔物ならそこまで警戒はしないかもしれないな。

「残念、俺はまだこの森から出る気は無い。」

 おまけに手の一つも振ってみせた。ひとまずはこの森の中にいる間は安全だろう。あいつが余程飛行能力に自信があるなら、その限りではないが。この木々の間を縫う様に飛び回る事ができるならかなり危険だ。が、此処で立ち止まっているのに近づいてこないところを見ると、その可能性は低そうだな。威嚇でもしてやろうかとも思ったが、悪戯に刺激するのも良くないと自重する。このまま少し森の内側に進路を取れば、そのうち諦めてくれるだろう。俺にばかりこだわっていると、今日の食い扶持にありつけないだろうからな。それでも俺に執着するようなら・・・迎撃するしかないな。今日はあまり気が進まないが。

 気配に気を配りながら外周から森の中へと進路を取ると、お空のお客さんは程無くして本日は諦めて森から離れていった。

「縁が在ったらまた会おう。」

 そんな風に飛び去る後ろ姿に呟く。もし次に出会う事があったなら今度は命のやり取りになるだろうから、出来る事なら御免被りたい。お互いの為に。


 あの鳥を見送ってしばらく森を進むと、前方の右辺りから何か気配を感じる。それは魔物のものではなく、素敵な予感なようなものだ。その場に立ち止まり、その素敵な気配のする場所を眺める。その場所は藪に囲まれ、ここからでは何があるのかは分からない。

「さて、どうするか・・・。」

 本日は独り言が多いな。・・・ヤクモに出会う前はずっとそうだったな。何だか懐かし気がする。

『否、否定します。』

「忘れていた訳じゃないさ。」

『失礼しました。』

「ちゃんと感謝してるよ、セッテさん。」

『恐れ入ります。』

 最初はかなりたどたどしかったけど、話し相手がいない時間が少なくて済んだ事は俺にとってかなり救いだった。今の時点で次の段階に機能を向上させる事が出来る項目が開放されていない。俺がまだその条件を満たしていないという事なのだろう。少し申し訳ない気がする。・・・まぁ、まだ一年経っていないからそこは勘弁して欲しいと言い訳をしてみる。

『承認しました。』

 セッテさんならそう言うと思ったよ、ありがとう。おっと、この話はまた今度。今はあの場所だ。

『是、肯定します。』


 良い予感はする。きっとそこに行けば何か嬉しい発見があるに違いない。だが。だが、だ。今までの経験から、そういう時に限って面倒事も一緒について来る。流石の俺も学習するってもんだ。多くの場合は俺の不注意、油断が招いた結果だが。だから警戒を怠らない様にすれば概ね大丈夫だろう。・・・これが駄目なんだな。大丈夫じゃない、気を抜かずに行くべし。どちらにしても結局行くんだというのは俺の中で初めから決まってはいたんだが。

 今までよりはしっかりと警戒をしたまま、藪の切れ目からその場所へと侵入する。気の所為かと思う程の微かな甘い香りがする。花の香りなのか、果実の香りなのか。この香り・・・知っている気がする。この香りと同じ位微かな記憶が脳裏に漂う。思い出そうと試みる前に、その答えが目の前に姿を現した。

 緑と黒の縞模様の球体。植物鑑定をするまでもなくそれが何であるかは解る。俺の体長が前世よりずっと小さいという事もあるだろうが、それでも現在の俺が殆ど隠れてしまう位の大きさだ。それが今確認できるだけで三個。これは・・・俺の好きなやつ。子供の頃食べ過ぎて、おねしょしたっけなぁ・・・。おかしいなぁ、こういういらぬ事はちゃんと覚えてるのか。どうなってるんだ俺の記憶は。それはさておき、この世界へ来て初めて見つけた。

 思わず駆け寄りそうになるのを既のところで踏みとどまる。この世界の果実は魔物を襲うものもいる事を思い出す。こいつは近づいたら俺を丸呑みにできる程大きな口を開けるんじゃないだろうな。そんな事になったら完全にトラウマ・・・にはならないな。それくらいの事、この世界では日常茶飯事だ。もうだいぶ慣れてきた。勿論俺の予想の範疇に無い事も多々あるが。

 生唾を飲み込み、植物鑑定をする。俺にしては冷静に対応出来たと思われる。・・・うん、鑑定できちゃったねぇ。って事はだ、これは植物。魔物ではありません。一安心だ。後は周囲の警戒を怠らない様に。

 楽西瓜らくすいか。楽・・・ねぇ。いったい何が「楽」なのだろうか。まさか楽しげな幻覚が見えちゃう、やばい代物じゃないだろうな。だがまぁ西瓜である事は間違いないようだ。これは大収穫だ・・・だと良いな。しかしこいつは果実なのに襲ってこないんだな。・・・あ、西瓜は野菜か。果実的野菜みたいな感じだったなぁ、そう言えば。なるほど、野菜は襲ってこないのか。裏を返すと果実は襲ってくる可能性が高いという可能性が高い。木に成っているのは警戒が必要だな。これはもしかしたら良い事を発見出来たかもしれない。此方の方が収穫かもしれない。


 さて、本題はここからだ。目の前の好物にそれでも少しばかり警戒しながら、甘い香りに誘われるように近づく。この世界に来てから初めて出会った久し振りの西瓜にそっと触れる。兎の掌でも懐かしいと思える感触が伝わる。少しの間その感触を確かめる様に西瓜を撫でる。何がという訳でもないが、嬉しいような切ないような感情が滲み出てくる。よもや西瓜一つでこんな気持ちになろうとは。

後は味さえ及第点なら文句無しだ。極上な味である必要などない、不味くさえなければ俺は満足だ。

 アイテムボックスから愛刀を取り出す。西瓜から伸びる蔓を慎重に切り落とす。一度小刀を置き、両腕をいっぱいに広げ抱きしめる様に西瓜を抱えてみる。持ち上げてみる。思ったより重い。俺の身体の大きさが前世よりだいぶ小さめに設定されている所為でそう感じるだけかもしれないが。大事な宝物を扱うみたいに丁寧に降ろす。転がってしまわない事を確認して西瓜の前に腰を降ろす。顎に手を当てて一考する。

 いったい何を悩んでいるかと言えば・・・今ここで一口試食して味を確かめるか。それとも口を付けずにそのまま持ち帰り、皆と一緒に食べるか、だ。最初の一口目を皆と味わいたい気持ちは大いにある。俺の好物を一緒に味わえたらこんなに嬉しい事はない。だが万が一この西瓜が美味しくなかった場合が問題だ。鼻先を微かに擽る素敵な香りから察するに美味しいであろうと予測はできる。それを信じるか・・・。大事を取って確かめるか。犠牲になるなら俺だけで良い。うぅん・・・西瓜が好きだからいち早く食べてみたいという気持ちが半分程あるのも事実だが。

 顎に添えていた手を離し、そのまま膝を叩き立ち上がる。

「良し、持って帰ろう。」

 自分に言い聞かせる様に決心を口にする。不味かったら土下座して謝ろう。毒の有無に関してはスーアンとハクに確認して貰うとして。仮に悶絶する程不味かったとしても、きっと何時か笑い話になるさ。だから俺はこの西瓜の初体験を家族と共有したい。

 その場にある三個の西瓜を慎重に収穫する。付近を探ってみたが、この三個以外の西瓜は発見できなかった。おやぁ・・・全部収穫してしまって良かったのだろうか。絶滅させてしまったらどうしよう。西瓜が無くなるのは非常に困る。ま、まぁ西瓜だから種がいっぱいあるはずだ。適当な場所に撒き散らしてみよう。どれか一つくらい西瓜になるはずだ・・・なるはずだ・・・なってくれ。これでこの楽西瓜が全てである可能性の方が低そうだが。三個もあるし、最悪一つはそのまま手を付けずに此処に還そう。なのでそういうお得意の言い訳をくっつけて一旦持ち帰ろう。


 西瓜を収穫し、その場を離れ本日の当初の目的の散歩をもう少しだけ続ける。南の森には近づかないで森の中へと進路を変える。要するにお家に帰る事にした訳だ。

 この間に一度だけ猪に襲われ、それを文字通り一蹴し本日の手土産が増えた。予測していたよりは襲われなかったな。外周付近を住処にしている魔物自体の絶対数が少ないのだろう。という事はわざわざこの辺りを狩り場にしている魔物も少ないという事なのだろう。確かに危険な、注意すべき気配は森の内側方面からしか感じない。まぁそれもこの東の森に最早俺達が余程油断でもしていない限り危険な相手はいないに等しいが。


 帰宅すると、丁度その瞬間に歓声が上がった。虚を突かれた形になり「ただいま。」を飲み込んでしまった。庭の入口で怯んで立ち止まっている俺をサイが発見し笑顔で駆け寄ってきた。

「あるじぃ、おかえりぃ。」

「お、おう。ただいま。」

 サイのおかげで先程飲み込んだ「ただいま。」を口から出せた。

「・・・で、何かあったのか。」

「ロックが、少しだけだけど、茸の形を変えられたぁ。」

 首を縦に振りながらそうに報告してくれた。

「本当か。やったな。」

 そう言って俺はハクに肩に乗れと促し小走りでロックとその周りで一緒に喜んでいるハク達の近くに駆け寄る。ロックは俺を発見して恥ずかしそうに歪な塊に変化した茸だったものを両手で掬う様に乗せて差し出した。俺は「うん。」と言ってロックの頭を撫でた。これでほんの少しだが前進した。そして一生懸命頑張っていたロックが報われた事が嬉しい。


 余談が二つ。

 トウオウが「ボクも錬金術が使える様になっちゃった。」と寝る前にこっそりそう言った。ありゃりゃ。トウオウも「どうしようか。」と言って横回転をしていた。まぁそうなるよな。そして・・・トウオウは悩むと独楽みたいに回るのか、ちょっとだけ面白い発見だ。

 もう一つは、西瓜が美味しかった事。可能なら半玉に全身で飛び込んでしまいたいぐらい。かなりの大当たりである。勿論、皆で一緒に食べた。嬉しい思い出が一つ増えた。そしてハク曰く、この西瓜の種は無闇に捨てない方が良いらしい。繁殖力が高くどこでも育つらしい。どうやらこれが「楽」の由縁らしい。


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