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41、=24

 覚悟が決まると推進力になる。今までより少しだけ強くなったような気さえする。自分達の縄張りに侵入者が来たことを察知して、巣とその周辺から無数の蜂達が姿を現す。良くないと解っちゃあいるが、楽しくなってきたぜ。

「ジュウザ、サイ、フタバ。遠慮はいらない、やっつけろ。但し、巣を壊すなよ。壊したら、晩飯抜き。」

 一斉に歓声にも似た返事をする。

「モモカは・・・どうする。」

「久し振りに私も。」

 俺は微笑みながら頷く。

「えっ、モモカ姉ぇが戦うの。やったぁ。」

「あい。」

 サイとフタバが高めの声で喜びを表現した。・・・なるほど、モモカが参戦するのは珍しいからな。いい勉強になると思っているのだろう。今日フタバがモモカに付いて来たのはこの為か。直感なのか、予知的なものなのか。

「準備は良いか。・・・じゃあ、始めようか。」


 日渡す限りの蜂の群。その数はおよそ七八十。いや、もしかしたら三桁を超えているかもしれない。それも一匹の大きさが俺の顔の半分程はあるだろうか。でかいな。いったい何処にこんなに潜んでいたのか。近くに他の巣もあるのかもな。それにしても・・・これだけの数だと、羽音だけでもかなり煩い。大きさもあるかもしれないが、蚊や蝿の様に不快ではないのが救いだ。だが幼少期にお友達と歌った童謡みたいに可愛いものでもない。そしてその全ての蜂達が臨戦態勢と来ている。こりゃ大変だ。まだ俺達と一定の距離を保って間合いを計っている様だが。

「ちょぉっと数が多いな。俺が少し数を減らそう。」

「えぇ・・・俺もやる。」

「あるじぃ、ボクも。」

「まぁ、そう言うなよ。新技を見せてやる。だからちょっとだけ待て。」

 そう言って得意気に口角を上げて見せると、ジュウザの両目とサイの三つの目が輝いた。

「わかった。」「やったぁ。」

 俺は知っている。男の子にはこういうのが一番好きな事を。なぜなら、俺もそうだからだ。・・・あれ、モモカの目が細くなっているような気がする。うぅん、俺がろくでもない事をしでかすと思われているのかな。致し方ない・・・思い当たる前科が幾つかあるのは事実だからな。ま、良いじゃないか、この中で俺が一番子供なんだから、大目に見てもらおう。

 両足を軽く開き、胸の前で両の掌を合わせる。息を吸い、それをゆっくりと吐きながら集中する。

 俺の頭を中心に首から上の位置に、剣玉の玉程の大きさの魔力の玉が、一つまた一つと出現する。兎玉。その兎玉が俺を半球状に取り囲む様に、浮かび上がる。三十個程だろうか・・・。もう少し出せそうだが、一度に制御するには初めてだからこれ位が妥当か。

「白兎流法闘術・兎玉散弾射ラ・ビット・レイン。」

 胸の前の手を腕ごと左右に開きながら、新しい白兎流の技の名を放つ。その動きに合わせて三十の兎玉が四方八方へと飛び散る。相手はあれだけの数だ、頼まなくてもほぼ全弾命中又は掠るだろう。たとえ外れてもその数は片手で足りる位だろうさ。良し。ほぼ思惑通り。・・・外れたのは、三つ。これは魔力を使って近くの蜂へと誘導する。これで全弾命中、およそ敵戦力の三割を減らす事に成功した。先手必勝に勝る戦術なし・・・なんてな。まだ勝利が確定した訳ではない。

「どうだ、ジュウザ。」

「主、すっげぇ。」

「お見事です、イッスン様。」

「さあ、戦闘開始だ。」

 それを合図に火蓋が切って落とされる。


 モモカの氷の法術が降り注ぐ。フタバの法術の木の葉の刃が舞う。サイが操る四本の鎖が踊る。蜂の数が驚くべき速度で減っていく。俺は稽古も兼ねて一体づつ、蹴りと拳で撃破していく。

 ・・・で、問題はジュウザだ。俺と同じ様に一体づつ仕留めているのは良い。上手く相手を見極め対処している。攻撃を回避し、噛みつき、尾で薙ぎ払い、角で突いて蜂達を撃墜している。それは問題無い。むしろ空飛ぶ相手に上出来と言える。だが明らかにおかしい点が一つある。眼鏡蛇として・・・ではなく蛇として・・・でもなく生き物としてかなり不自然な力を使っている。ジュウザの奴、火を吹いてるぞ。

「あ。あるじに見つかっちゃった。ボクは止めた方が良いって言ったんだけど。」

「あぁそう・・・。まあ、ジュウザらしいっちゃ、らしいがぁ。」

 魔物なんだからそれも有りかとも思うが。ああ、あれだ。バーゲストの技能か。そりゃジュウザなら迷うことなく取得するだろうよ。でも火を出すだけなら法術や魔法で事足りる。選択肢としては取得理由が弱い。気持ちは解るがぁ・・・。

「私も止めたんですが・・・。最終的には自分の判断に任せるしか・・・。」

「あたちは、ジュウザ兄たん、面白くて、好き。」

「まあ、それは俺もそう思うよ。あれがジュウザの良さとも言える。が、あいつは一体何になりたいんだ。」

 角は有るし、火は吐くし・・・。最早魔物じゃなくて怪獣に成りつつあるな。鶏冠や背鰭を生やしたり、目から光線を出したり、巨大化したりしないだろうな。やっぱり暫くの間、角を飛ばせる技能の事は黙っておこう。・・・時間の問題かもしれないが。知ったら絶対取得するだろうなぁ、困った。奥の手としては良いと思ったんだけどなぁ。

「そうですねぇ。でもあの好奇心は私も見習うべきところがあるような気がします。それに・・・上手く言えないのですが・・・いつかとんでもない成長をする様な気がします。」

 へぇ、モモカもそう思うのか。なら本当に何時か大化けするかもな。このまま成長するだけでも充分強くなる素養はあると思うが。

「あたちも、そう思う。」

 ありゃりゃ、フタバのお墨付きも頂いちゃった。確かにな・・・好奇心もだが失敗を恐れず自分の興味のある技能を取得し、何度も挑戦し、失敗を繰り返し、その失敗から多くを学んでいる。少し離れた位置から客観的に見てると愉快で楽しいが、大物になる奴って意外とこういう風に沢山の失敗を楽しんで繰り返せる奴かもしれないな。ジュウザはあんなんだから心配な所も沢山あるけど、尊敬できる。だがこのまま放っておいたら、南の森が火の海になりかねない。

「モモカ、申し訳ないが森が燃えなない様に気を付けて貰えるか。」

「はい、心得ております。」

 流石だ。ジュウザには後で厳重注意かな。

「フタバもモモカを手伝って貰えると助かるんだけど、どうかな。」

「あい。だけど、ジュウザ兄たんは、ちゃんと、気を付けて、戦ってるよ。だから、大丈夫。」

 なんですと。モモカと目を合わせ、驚きの交換をした後、近くで声を出して笑っているサイの方に視線を向ける。俺とモモカの視線に気が付いて此方を向いて、満面の笑みで頷いた。・・・もう一度モモカと視線を合わせた。


 おかしいな・・・。初めの一撃で三割は削ったはずだ。その後も皆のかなりの攻勢で蜂の数を減らした。にも関わらず、この目に映る蜂の数が減っている様には見受けられない。本当に減っているのか・・・いや違うな。これはやはり近くに有るであろう他の巣から、援軍が尽きる事なく供給されていると考えるのが妥当か。この蜂は複数の群で連携をする種なのか。だとするとかなり厄介だな。

「フタバ、この近くに巣は幾つ有る。」

「んんとね、いち、にぃ、さん・・・。はち。蜂の巣、はち。」

「ありがとう。」

 多いな、少しうんざりする程の数だな。それを全てとなると、かなりの手間だなあ。どうするかな・・・いっそこの目の前のこれを無理やり引っ剥がして逃げるか。だがなぁ、生き物はアイテムボックスには入らないと考えると、もぎ取った巣を抱えて逃げる事になるだろう。それはとてつもなく・・・面倒くさい。

「主たま、この群の、女王が、あっちの方に、いる。」

 ・・・なんですと。有るほど、八つの巣はその女王が統率する一つの群だと。それなら納得だ。複数の群の共同戦線ではなく、一つの群だからのこの状況という事か。ならばその女王を仕留める事ができれば、なんとかなるかもしれないな。逆に、群を全滅させなければならなくなる可能性もあるが・・・。だがこのまま戦い続けても結局同じ事だ。ならば全滅させずに済む可能性の有る方に掛けるのが良さそうだ。

「皆、頼みがある。少しの間、俺を守ってくれ。」

 これだけ数が多いと何処にいるのか気配を掴み難い。集中して探ってみたい。

「何かお考えがお有りなんですね。」

 モモカに頷きを返す。

「主、また新技?」

「違うよ。ちょっと蜂の親玉を探そうと思ってな。協力してくれるか。」

 笑顔で頷くジュウザとサイの頭を撫でる。するとフタバが俺の肩に乗っかって顔を覗き込んだ。「フタバも頼むぞ。」と言って頭を撫でてやると、満足気に笑って「あい。」と返事をした。

「じゃあ皆、頼むよ。」

 そう言って両手の対になる指同士を鼻の前で合わせ目を閉じる。意識を集中し気配を探る。夜空に煌く無数の星の中から一際強い光を放つ一等星を探す様に。

数が多いとはいえ、いわゆる一般的な兵隊と女王様なのだから差が明確ですぐに発見できるだろうと考えていたのだが、そんなに甘くは無かった。

 瞼で視界を塞ぎ意図的に作り出した暗闇に、天球儀を内側から見上げたかの様に蜂の気配が浮かぶ。それは良いのだが、そのほぼ全ての気配が忙しなく動き回っている。その所為で目を閉じているにも関わらす、視界がちらつく。転生したお陰で、始まりかけていた老眼は無かった事になっている筈なのに、良く見えない。無数の光が塊になり右に左に動き回っていて、非常に鬱陶しい。と言うより縮尺が合っていない。縮尺の分母が大き過ぎる。更に深く集中しその分母を下げていくと同時に探知の範囲を調整する。今までに取得した探知系の技能やら空間把握の技能やらに加え、推察の域を出ないが星目の能力の影響もありかなり見やすく・・・目を閉じているので正確な表現ではないかもしれないが、視界が整理されてきた。

 相変わらず、光の玉が鬱陶しく動き回っているが、その中央のやや奥辺りに他の光より一際大きく光りその場に留まっている一点を発見した。十中八九こいつだ。こいつがこの蜂の群の親玉だな。蜂なのだから、それは女王様だろうな。正確にその気配と位置を特定する。そして俺は目を開く。

「じゃあちょっくら女王様に謁見してくるかな。」

「お気をつけて。」

 足を開き膝に手を突いて体勢を整えている俺にモモカは微笑みながら綿菓子の様な声でそう言った。

「ん。・・・一応撤退の準備を。」

「はい、かしこまりました。」

「えぇ、全部やっつけないの、主。」

 ジュウザが残念そうな声を出した。

「ジュウザ兄たん、主たまは、なるべく、全部は、やっつけない。主たま、森の事、考えてる。」

「そっかぁ、分かった。」

 フタバの言葉は少し足らないが、それでも核心を突いた。そしてそれをジュウザはその足りない部分を少なからず自分の頭の中で補って納得した。サイはその会話の間も笑った顔のまま戦闘を続けていたが、俺の視線に気付き左目だけ俺の方を見て微かに頷いた。ちぃっ、涙が出そうだぜ。

「サイ、巣の確保。フタバはサイの援護。モモカは退路の確保。皆、頼めるか。」

「うん。」「あい。」「お任せを。」

「主、俺はぁ・・・。」

 役目を貰えなかったと思ったジュウザが泣き出しそうに声を上げた。

「ジュウザ、俺に付いて来い。遅れるなよ。」

 と言いながら左の口角を上げる。ジュウザの笑顔が弾ける。その直後、集中の増した戦士の顔になる。役割の大きさを瞬時に判断できるのか・・・ジュウザは生粋の本能型の戦士なんだな。そんな事を思いながら、俺は大地を蹴り飛ばす。


 正面の木を左に迂回する。さっきまでより更に蜂の数が増えた。広範囲の法術の一つも使えば簡単に済む話ではあるが、それでは不必要に数を減らす事になる。命を奪うにしても奪わないにしても自己満足でしか無い、身勝手な選択でしかないが。それでも。

 極力蜂達の攻撃を高速で回避しつつ、流石にこれだけの数だ、全てを躱し切るのは無理がある、必要最小限の迎撃をしながら嬢王蜂へと接近していく。ジュウザの方を振り向く余裕も無く、前進する。ジュウザは俺の後ろ姿を見て俺の意図を読み取ってくれるだろうか。俺はちゃんと師範方の様に背中を見せることが出来ているだろうか。へっ・・・一歳にも満たない俺が背中で語ろうなんておこがまし話だ。ただ信念を持ってそれを真っ直ぐ貫くのみ。道を示すんじゃない、俺の進んだ後ろに道ができるんだ。・・・などと格好良い事を思ってみたりする。

 気恥ずかしさを振り払う様に、嬢王蜂の気配を辿る。無数の働き蜂に紛れてその姿を捉えることが出来ていなかったが、ようやくその姿を見つける事ができた。目の錯覚かと思った。遠近法でそう見えているだけかと思った。だがどうやらそうではないらしい。

「おぉ、思ったよりでかいな・・・。」

 まだある程度の距離があるが、それでもその嬢王蜂が他の蜂より大きい事が分かる。俺と同じ位・・・いや、俺より些か大きいか。そんな大きさのものが羽を羽ばたかせ、浮いている。そして間違いなく蜂の姿をしている。女王様であることは確定。これで違ったらこの世界の蜂、蜂の魔物は俺の常識が通用しないということになる。認識を改める必要があるだろう。ま、こんなに大きな蜂は、はじめましてだけどな。

「あ、主っ。数が、数が多すぎるよ・・・。」

 と言う割には、特に大きな問題が無さそうに蜂を捌いているように見えるが。確かに休む暇も無さそうだが。

「分かった、なるべく早く仕留めるから、もう少しだけ頑張れ。」

「わかったぁぁぁっ・・・。」

 そう叫びながら、襲い来る蜂を蹴散らしながら右に左に跳び回っている。そんな光景を一瞬立ち止まり眺める。そんな俺に、三方から針の先を此方に向けて飛び込んでくる。三匹の蜂は俺の姿をすり抜けて、地上へとその針を突き立てた。

「それは残像だ・・・。」

 既にその場から離れ嬢王蜂との距離を詰めた俺は、ほんの少し後方へ首を振りそう言った。いい具合に言いたいだけの台詞が決まったぞとほくそ笑む。おっと。遊んでないで、お役目を果たさないとな。視線を女王へと戻す。

 まだ距離はあるな。蜂の数は多いが、それでも嬢王蜂以外は全て働き蜂。近衛騎士団や四天王がいなくて助かるよ。数を減らすにはどうすれば・・・あ。ちょっと試してみるか。ジュウザとの距離はちゃんと取れているみたいだが、念の為。

「ジュウザ。たぶんこの距離なら大丈夫だと思うけど、気をつけてくれ。」

「え、ちょっと待ってぇぇっ。」

 俺は自慢の耳を頭部に這わせる様に畳む。立ち止まり大きく息を吸い込み、左右の掌を胸の前で顔の幅ほど開き向かい合わせる。ある種の音を乗せて息を吐き出すと同時に、魔力を込めて両手を勢い良く合わせる。

ーー《白兎流格闘術・爆裂超音波》ーー

 強烈な破裂音と金属製の弦を爪弾いた様な高音とが同時に俺を中心に拡散・・・したはず。本来俺の掌では拍手をしても音など出ないに等しいが、ここはファンタジー、この手に込めた魔力なる不思議な力で補正した。・・・俺の予想では出来たはずだ。音がちゃんと放出されたのかを耳を塞いでいるが故に自分で確認剃ることが出来ないのがこの技の欠点だ。この先使い所がないかもしれないな。それはともかく耳を元の位置に戻し、辺りを見渡す。

 そこら中を忙しなく跳び回っていた蜂達が次から次へと落下している、その原因を作った俺が言うのもなんだが、異様な光景が飛び込んできた。蜂が地面に当たる音も加わり更に異様さが増す。・・・木の上からも蜂が落ちてくるな。どうやら居住区だったみたいだな。不思議だったんだよな、確かに巣は大きいがそれでも何処にこれだけの数がいたのかと。謎が解けた。俺達が目にしていたものは貯蔵庫だったんだな、たぶん。お。という事は・・・あれには生き物は基本的には入っていないって事かな。・・・さて。

 女王様は俺との距離もあった事もあるのだろうが、それでも流石に落下するには至らないご様子。だが全く効果が無かった訳でも無さそうだ。辛うじて浮遊しながら震えている。ここで決めようか。狙いを定め直してて走り出す。


 あの女王様、さっき俺が三匹の蜂の突撃を残像で躱した時、惑わされずに目で追っていたな。残像や幻影は効果が無さそうだな。幻影は使えないけどな。流石女王様は複眼の性能も配下の蜂とは違うようだ。動きで翻弄するのはあまり意味がない。・・・へっ、この期に及んで小細工なんかするつもりはない。正々堂々、最短距離を真っ直ぐに、だ。

 走りの歩幅ではあるが、後十五歩程の距離の所で、空中の嬢王蜂に向かい斜めに飛び上がる。女王様の真正面に謁見寸前に前方に身体を頭から下げて宙返る。両足を嬢王蜂の両肩に振り下ろし首を挟み込む。首にぶら下がり腹筋運動の様に自分の上半身を持ち上げる。些か失礼な体勢だが間近にご対面だ。

「お初にお目に掛かる。色々すまないな。そして、さよならだ。」

 そう言い残して、上半身を来た道を辿り帰す。その勢いを利用して首を挟んだまま両足を大地に向けて振り下ろしながら、身体の上下を入れ替える。これぞ白兎流格闘術。

「フランケン・シュタイナァァァァァァァァッ!!」

ーー《白兎流格闘術・フランケン・シュタイナー》ーー

 嬢王蜂の頭部が完全に逆さまになった所で両足の締付けを解き、開放する。女王様はそのまま勢い良く大地に激突した。一瞬空中に留まり、直ぐにたった今地面へと打ち付けた嬢王蜂に向かい降下する。重加速術で己の落下速度を上乗せする。そして仰向けに転がっている女王様の首に目掛けて右の脹脛を落とす。

《白兎流格闘術・ギロチンドロップ》

 哀れ、技名通りの結果になってしまった。立ち上がり手を合わせる。そして今まで俺達を包んでいた気配が僅かに変わったのを感じた。この嬢王蜂が配下の蜂に司令を出す為に何らかの電波的なものを出していたのだろう、それが絶命と共に消滅したものと考えられる。

「やっぱり主は強いなぁ。」

 驚きの笑顔でジュウザが駆け寄って来た。左手を軽く上げてそれに応える。

「ジュウザ、撤収するぞぉ。モモカ達に報せてくれ。」

「は〜い。」

 俺も今屠った嬢王蜂の亡骸を回収して、ジュウザの後を追う。


 爆裂超音波で落下した蜂達は未だに目を覚まさずにその場に伸びている。だがそれも絶命した訳では無いので、ずっとこのままではない。時間が経てば正気を取り戻すだろう。その前に御暇したい。超音波の被害を免れた蜂達も司令塔を失い、狼狽えたように右往左往したり、緩慢になっていたり、個体によって様々だが、攻撃をしてこなくなっていた。

 先程回り込んだ木を再び、今度は反対側から回り込みモモカ達に合流した。丁度サイが幹に貼り付いていた巣を・・・もとい蜜の貯蔵庫を切り取り終えた所だった。たぶん・・・蜜だと思うんだけど。

「あ。あるじ、取ったよぅ。」

 念動力で自慢気に持ち上げて報告してくれた。

「おう。お役目ご苦労。・・・ちょっとだけ下げてくれるか。」

「え、う、うん。」

 急に俺にそう言われて戸惑いながら収穫物を操作した。俺は出入口であろう場所を見つけ手を突っ込み指先で中身を探る。指先に触れた感覚でそれが今回の最大の目的のものである可能性が高い事を知る。ゆっくりとそれを中指で少しだけ掬い引き抜く。その外の世界に戻ってきた手の指先に粘り気のある琥珀色の液体が絡みついていた。その見た目と鼻腔を擽る甘い香りでそれが蜂蜜である事がほぼ確定した。だがぁ、肝心の味を確かめないとな。香りが良くても味が・・・苦いかもしれないし、辛いかもしれない。ロックを元気づける為に収穫したものがそれでは困る。確かめねば。今度はその指を自分の口に突っ込む。・・・文句無し。

「良し、任務完了だ。さぁ、逃げるぞぉ。」

 そう言うと各々に返事をした。俺はその蜂蜜の貯蔵庫をアイテムボックに収納し、混乱状態の蜂達を尻目にその戦場を後にする。


 どうやら追手は掛からなかったようでなによりである。胸を撫で下ろすと言う程ではないが、面倒事が減って良かった。

「イッスン様、お疲れ様でした。」

 そう言うモモカの頭の上で、ひと仕事終えたフタバが気持ちよさそうに眠っている。

「おう。」

「あの蜂の群は、あのまま放っておいて良かったのでしょうか・・・。」

「うぅん・・・たぶん大丈夫だろう。生き残った蜂の中から新しい女王なり王なりが生まれるだろ、きっと。」

「そういうものですか・・・。」

「うん。あの女王でも死なない訳では無いはずだ。そうじゃなかったら種は存続出来ないだろ。」

「なるほど・・・そうですね。流石です。」

 なんとなく俺の話を理解してくれた様だ。だがそう話しながら俺は考える。今回の俺の選択は正しかったのかと。冷静に考えれば、決して正しかったとは言えないだろう。だが強者が生き残る弱肉強食の摂理からすれば、完全に間違っていたとも思えない。

 多種族が互いに理解し合い共存する事が正しいのか。自然の摂理に従い強きものが生き残る世界が正しいのか。・・・おそらくどちらも間違っていないし、どちらも正しいのだと思う。ただ大き過ぎる力を持つ者は、その力の使い方を間違わないように気を付けなければ簡単に均衡が崩れ、破綻するだろう。子供達にも・・・そしてヤクモ達にもそんな事を話す必要があるかもな。

「どうされました。」

 急に黙り込んだ俺にモモカが心配そうに声を掛けた。

「いやぁ、なに。ロックの為とはいえ、世界の在りように反しちゃったかなぁってね。」

 モモカは少しだけ目を大きくした後、直ぐ優しい微笑みに変わる。

「世界・・・ですか。随分と大きな話ですね。」

「はは。そうだな。」

 まぁ世界とロック・・・ロックだけじゃないけど、家族のどっちかと聞かれたら、俺は家族を選ぶと思うけどな。それが正しい事かは解らないが、今の俺にとって大切なものを守る為なら世界に楯突く覚悟ぐらいはあるって事だ。今回その決意を新たにした・・・かな。お、我らのご神木が見えてきた。

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