40、÷5
先日の一件以来ロックの元気がない。俺の顔面に強烈なドロップキックを決めた事が影響しているようだ。「あれはロックのせいじゃない。ただの事故だ。」とノインとトウオウが励ましていた。流石のヤクモも「今回は主殿が悪い。気にするな。」と言い聞かせていたが、それもあまり効果は無かったようだ。・・・まぁ、一番の原因はたぶんあれだ。俺が三途の川の岸から帰還した後に、モモカとスーアンに叱られた事だろう。その場で散々叱られた挙げ句、帰宅してからもう一度懇々と説教された事だろう。どうやら俺が叱られていたのは自分の所為だと思い込んでいるらしい。それで気落ちしている。完全に俺が悪い。俺も「ロックは悪くない、俺の判断が間違っていた。だから気にしなくて良い。」と言ったんだが、それでも力なく「うん。」と返事をしただけだった。
そう、あの時、俺の足に大打撃を与えたものにではなく、先にハクの動きを封じるなり、一旦遠くへ放り投げるなりしてから試合終了を宣言すれば良かった。その後、ロックの相手をすれば、こんな事にはならなかった筈だ。完全に失敗した。ロックには悪い事をした。
だがあの俺の足を襲った激痛の原因は、俺達の新たな道を開く代物だった。
モモカとスーアンの最初のお説教が終わった後、それを回収した。
「これは・・・茸・・・か。」
形は茸。重いな・・・あの松笠より密度があるからなのか大きさの割に重く感じる。鑑定を試みるも不発。何故だ、植物鑑定はLv10の筈だが。『技能・茸鑑定を取得しますか。』・・・そうきたか。つまり植物と茸は別物と。『是、肯定します。』これが、この世界の理と。ま、確かに植物と茸は厳密には違うものではあるとは思うが。些か分類が細か過ぎる気もする。魔物と魔界獣は別の分類だもんな・・・。虫系の魔物は魔物なのになぁ。なのに虫は虫なんだよな。おっと。セッテさん、お願いします。『技能・茸鑑定を取得しました。』ありがとうございます。『恐れ入ります。』また、お願いします。『何時でもどうぞ。』
では早速・・・黒鉄茸・・・ですか。
「あるじ様、それ・・・殆ど、金属?で出来てるみたいです。」
手に持った、まさしく今ご指摘にあったように金属の塊の様な黒い茸を見つめていた俺にハクがそう言った。ハクは既に茸鑑定を取得していたのか。ハクは鑑定系の技能はある程度網羅しているようだ。
「みたいだな・・・ぐわっ。」
盲点だった・・・と言うより完全に想定外だった。だって金属の茸なんて、終末世界の戦車にしか生えないと思うじゃないか。此処はファンタジー寄りの世界だと思っていたんだからこんなものがあるとは思わないじゃないか。くそぅ、ぬかったわ。
「あ、あるじ様・・・大丈夫ですか。」
両手と両膝を付いて打ち震えていた俺にハクが心配そうに言った。
「あぁ、大丈夫だ・・・。ただちょっと、勝手に可能性を限定していた自分の愚かさに落ち込んでいただけだ。」
力無く笑って体勢を立て直して、改めて手の中の重量感のある茸を見つめる。これは茸鑑定で判別できる以上、間違いなく茸だ。という事はこれが茸ならば、増える・・・繁殖するのだろうか。繁殖するなら生息するのに適した場所、群生地があるのだろうか。
「イッスンの。そいつはたぶん魔界の気の影響を受けたものだろう。」
「なんですと。」
「その茸は魔界のものと言っても良いと思われる。」
「魔界の茸・・・。なるほど、此処が西の森に近いから。」
「そうだね。・・・今日は辞めといた方が良いと思うけど。」
「そうだな、ちゃんと準備してからまた後日だな。・・・皆、待たせたな。帰ろう。・・・それから皆、悪かった。」
俺が頭を下げると、皆は少し恐縮していた。モモカとスーアンはまだ治まっていないご様子でしたが・・・。案の定帰宅後に庭に正座させられて、左右から散々お説教された。そのお説教がなんとか終了した後、暫く足が痺れてその場から動けず伸びていた。
しかしこれで錬金術・・・金属の問題に光明が指した。北の強者の森を抜けた先の岩山に鉱脈を探しに行くよりは安全な選択肢が確保できた・・・かもしれない。
と、此処までは良いのだが、肝心のロックがあの調子なので、錬金術について調べる事もちょっと難しい。なのでなんとか機嫌を直して貰いたい。そこでだ。本日は何かロックが喜びそうなものを探しに行く事にした。やっぱり甘いものが良いかな。
お供はモモカ。どうやらお目付役のようだ。俺の担当がサイ、モモカの担当がジュウザとなっている。そしてフタバはモモカの日らしい。ヤクモ・スーアン班は別行動、これにノインが同伴するらしい。ロックはトウオウとお留守番。トウオウが「今日はロックと一緒にいるよ。」と 言ってくれたので、任せる事にした。あの魔王様は思っていたより面倒見が良い、ありがたい事だ。俺に対する扱いは些か雑な気がするが。
さて、甘いものか・・・。どうするかな。果物・・・あの果樹園かぁ。面倒臭いなと思うのもあるが、ロックは果物狩り自体慣れている様子だった。ロックにとっては果物は特別なものでは無い可能性が高い。となるとやはり別のもの・・・そういえば、ドロップナッツがお気に入りだったな。確かにあれは蜂蜜みたいで美味いよな。ロックは熊でした。蜂蜜・・・か。蜂蜜とは言わなくても、ドロップナッツみたいなものは見つかるかもしれないな。
「南の森へ行くか。」
一応モモカに許可を貰うつもりで呟くように言った。
「目的を聞いてもよろしいですか。」
むぅ、ちょっと怖いよモモカ。
「う、うん。ロックの為にちょっと探したいものがあるんだ。」
「それは危険な可能性はありませんか。」
くっ、鋭い。ここは、はぐらかさずに正直に答えた方が絶対に良いはず。
「たぶん少し危険な可能性がある。それでもロックの為に手に入れたい。俺に罪滅ぼしをさせてくれないか。」
「・・・わかりました。では充分に警戒して行きましょう。」
モモカも俺に罪滅ぼしがしたいと言われたら、無下に却下は出来ないよな・・・。諦めたように軽く溜息を吐き承諾してくれた。
「ありがとうな、モモカ。ジュウザ、サイ、南の森に行くぞ。」
ジュウザとサイは「は〜い。」と元気よく返事をした。フタバはモモカの頭の上で船を漕いでいる。何でフタバは夜型なのに昼間の散策について来るのだろう。日によってついて行く相手を変えている事から、何らかの意図があるのだとは思うが、その答えは未だに見つからず。
「今回はおそらく虫の魔物との戦闘になると思う。充分に警戒してくれ。そしてそれまで力を温存するように心がけて行動するように。」
ジュウザとサイは今一度元気よく返事をした。モモカも気を引き締める意味も込めてしっかりと頷いた。
「なぁ、ジュウザ、サイ。」と俺に呼び止められて此方を向く。「ロックの元気が無いから、何か甘いものでも探そうと思うんだけど、協力してくれるか。」と投げかける。
「わかった。任せてよ、主。」「勿論だよぉ。」
と同時に返事が帰ってきた。そして何だかやる気を出し始めた。彼らにとってもロックは家族で可愛い弟なのだろう。良いお兄ちゃん達だな。モモカの方へ視線を向けると、モモカも嬉しそうに微笑んでいた。
南の森へ進んで行く。明確に境界線が地面に引かれている訳では無いので、ここからが南の森だという事でも無いが、一応皆にこの辺りから警戒を強めるようにと声を掛けた。ジュウザとサイは少しだけ口数が減った。・・・これで何か美味しそうなものを探せというのは些か酷な話かもしれないな。悪い事をしたかな。少し困り顔でモモカの方を向くと、仕方ありませんねという微笑みを返してくれた。子供達が素直なのは喜ばしいが。おや、フタバが起きている。
「ジュウザ兄たん、サイ兄たん、あたちが警戒するから大丈夫、だよ。」
「あ、そっかぁ。ありがとうな、フタバ。」
「じゃあボク達は探索をするよ。警戒はお願いするね、フタバ。」
「あい。」
モモカは頭にフタバを乗せたまま驚きの顔を俺に向ける。俺も左の口の端を微かに上げて関心を表現する。ヤクモの教えもあるのだろうが。
「あの追いかけっこも無駄じゃ無かったみたいだな。」
「えぇ、まぁ・・・そうですね。」
うぅん、まだ完全には許して貰えてはいないご様子だな。今のところは、またやりたいと言っても許可は織りなそうだな。
「あ。何か来るよ。二つ。」
あら早速お出ましですか。フタバのお知らせに皆即座に戦闘体勢を取る。
「うわぁ・・・蟷螂だあ。」
「あるじ、一つはボク達がやる。」
頼もしいね。俺は「おう。」と応えながらモモカに援護するよう目で促す。口だけで「はい。」と応えジュウザとサイの後方へ位置を取る。って事はですよ、もう片方は俺が相手をするのですね。それは別に良いんだが・・・しかしでかいな、この蟷螂。上半身を持ち上げた高さが俺の三四倍、ご自慢の鎌だけで俺の一・五倍程あるよ。前世の俺ならこれだけでかいと細部まで良く見えて、気持ち悪いと感じたかもしれないが、不思議とその感覚も無い。魔物だからかな・・・良く考えたら俺も魔物だった。おっと。それどころではなかった。ご挨拶代わりに魔物鑑定を。・・・薄刃蟷螂。Lv351/640。これだと今の俺達なら、ただの大きい虫と大差ない印象だな。どうしてこうも差があるのに襲ってくるのだろうか。相手が虫となるとこれは俺が兎だからだという訳でも無さそうだ。おそらく本能的なものだろうな。どちらかと言うと、あの動く木に近いと思われる。
簡単に情報収集を済ませ、いよいよ退治に取り掛かる為、真剣に向き合う。薄刃というだけあって、確かにあの両腕の鎌、薄いな。薄い分、良く切れそうだな。触れたら真っ二つ、上半身の俺と下半身の俺に、又は右の俺と左の俺にされてしまうだろうか。直接触れるのは避けたい。となると此方も刃物でお相手するか。アイテムボックスに手を突っ込み、お目当てのものを掴み出す。
「工作Lv4、武具作成Lv2の性能を見せてやる。」
と、自慢にもならない程の代物だが、今後の作成の参考にする為にも良い機会だ。峰の部分を整え、持ち手を削り蔦を巻き付けて握り易さを調節したガガ蟹の爪、命名・「ガガ小刀」の性能を試させて貰おう。
格闘術を旨とする俺としては多少不本意ではあるが、これから先今回のように直接触れるのを避けなければならない機会もあることを想定する必要もある。故に今回はこれで戦って見よう、慣れる意味も込めて。勿論、性能や使い勝手を確かめたいと言う気持ちも大いにあるが。・・・まさか、このガガ小刀が真っ二つになるなんて事は無いとは思うが。
右手に持った小刀の切先を蟷螂へ向けて構える。元が蟹の鋏なので通常の刀とは逆の向きに刃が付いている。その感覚にも慣れておかないとな。俺に武器を向けられて少し警戒を強めたようだ。この辺は野生でも感じ取れるみたいだな。相手の強さまでは察知出来ないみたいだけど。此処で不意を突いて角を飛ばせばあっさり片が付くとは思うが・・・辞めておこう。明らかに無駄打ちだし、今日はジュウザも一緒だし。まだもう暫くジュウザには秘密にしておこう、あいつは絶対に真似するから。
それにしてもこの蟷螂、隙だらけだな。何処をどうやっても一撃で仕留められそうだな。こう攻めるべき箇所が多いと逆にどうして良いのか判らなくなってくる。万が一の二の手が浮かばない・・・困った。決して油断しているつもりは無いが。
「どうされました。」
逡巡している俺にモモカが声を掛けた。そりゃあそうだろうなぁ・・・モモカから見てもこの蟷螂は、相手としては脅威になりえそうもないだろうからな。そんな相手に手を拱いているのだから、不思議だろうな。まさか相手との差が有り過ぎて困っているとは主はないよなぁ。
「主たまは、蟷螂が、思ったより、弱くて、迷ってるだけだよ。」
嘘だろ。思わず目が大きくなる。フタバの下のモモカも今の俺と同じ顔をしている。
「主、すげぇ。流石ぁ。」
「ほら、ジュウザ。よそ見しない。」
ジュウザの声に通常運転に戻ったモモカがジュウザに注意をする。サイに至っては笑いながら振り回していた松笠の鎖分銅をすっぽかした。
「うわっ、危ねぇ。」
俺の頭の後ろを通過した。
「あ。ごめんなさい、あるじ。」
「使う時は集中しろ。笑ってもいいけど、ちゃんと制御しろ。誰かが怪我するぞ。」
そう言うと、少し真剣な顔になってきちんと「はい。」と返事をした。その後すっぽかした鎖分銅を遠隔で回収した。まぁこれであっちは大丈夫そうだな。俺は目の前の蟷螂に集中しよう。
「悪いな、待たせたな。」
今一度きちんと構え直す。それを待っていたかのように、蟷螂はご自慢の鎌を俺に向けて振り下ろして来た。避けるのは容易いが、此処は一度受けてみるか。勿論、素手ではなくこの小刀で。振り下ろされる鎌に合わせて小刀を振る。
高い金属同士が打つかる音がする。が・・・蟷螂の鎌を受け止める事は出来なかった。切れたのだ。俺のガガ小刀・・・ではなく、蟷螂の鎌が俺が受けた部分から先が蟷螂の腕から切断されて離れた。切り離された鎌の先が俺の左の肩の上を通過した。
「うをっ、まじか。」
流石、鋼の木の実を切り裂く蟹の鋏だ。だが正直こんなに性能に差があるとは思わなかった。っていうか、受ける事も出来ないのか。初めて手に入れた道具らしきものだが、いきなり最高級品を手に入れていたのかもしれないな。そしてこれでは最早勝負にはならないな。長引かせるのも忍びない。此処は早めに決着を。
「終わりにしよう。」
少し屈み込み、小刀を逆手に持つ。頭部に目掛けて跳び上がる。
「白兎流格闘術・影技・垂昇斬。」
俺がそのまま通り抜け、蟷螂の後方へと着地する。それと同時にその蟷螂の頭部が胴体から離れ大地へと転がり落ちる。相手が虫系という事もあるのだろうが、刃が通過する手応えを殆ど感じなかった。
ジュウザとサイの方も問題なく片付いたようだ。その亡骸を見ると・・・かなり凄惨な姿になっている。だがこれは悪戯に苦しめたのではなく、自分達より大きい相手に、そして虫系の魔物を相手にどう戦うべきかを知らなかった証拠だろう。虫系には痛覚みたいなものは無いと推測される。となると多少傷ついても、下手をすれば脚の一つや二つ失っても戦意を喪失したり、本能が衰えたりしないという事だ。その結果だろう。ジュウザとサイが今回それを実感出来ただけでも大きな収穫だろう。格下の相手だったにも関わらず、ジュウザは真剣に何かを考え込んでいる。サイはフタバと反省会をしている。それを横目に蟷螂のご遺体を調べる。・・・食うか、食わざるべきか、それが問題だ。少なくとも魔物の俺としても食べたいと思わない。肉や植物は食べたいと感じるのだから、これは俺達にとって食べる必要の無い代物なのかな。つまり・・・食べるのは却下で。
食用とは審査を通過出来なかったが、他の用途で身体の部品を使ってやる事は出来ないかと吟味する。甲虫でもないので甲殻を利用する事も出来そうもない。鎌も俺の初期装備に文字道理刃が立たない以上、武器としては心許ない。だが・・・この薄さ、剃刀のように使う事は出来そうだ。何かを薄く剥いだり、それこそ魔物の毛皮を剃ったり。これは使わせて貰おう。しかしそれ以外の部分は・・・奪った命に申し訳ないが、用途が浮かばない。ならばせめて・・・。
その蟷螂の鎌以外の部分を近くの木の側へと運ぶ。地面に穴を掘り埋める事も考えたが、この遺体を食す生き物もいるかも知れないと考え、せめて木の側に寄せるという方を選んだ。たとえそんな生き物がいなくても、森の養分にはなるだろう。空き地の真ん中に無惨に放置するのが少し気が引けただけだ。こんな事、自然の中では自己満足でしか無いが。ご遺体を移動し、軽く手を合わせる。
「あるじ、この蟷螂、ハクが興味ありそうだから持って帰って良い?」
なんですと・・・そういう事もあるのか。そしてサイは・・・ジュウザもだが、弟思いだな。
「勿論だ。」
その方が命が無駄にならないかもしれない。だが食料としては、この蟷螂には申し訳ないが我々にとって必要は無い。だから俺の屠った方は此処に。森の糧に。
「サイ、命に失礼の無いようにな。」
「はい。」
サイは俺の言葉で「そうか」と思い出したような返事をした。そしてなぜだかモモカが感心したような表情で微笑みながら此方を見ている。これなら思ったより早くお許しが出るかも・・・出ないな。それとこれは話は別、だろうな。
木の実を一つ二つ食べながら一休み。さて、もう少しこの南の森を探索してみよう。どっちの方向に進もうかな。こういう時は俺以外の誰かに決めて貰うのが良いかもな。
「なあ、フタバ。」
「なあに、主たま。」
「どっちに行くのが良いかな。」
フタバは「ん〜。」と言いながら首を左右に傾けながら考え始めた。仕草が可愛いな。つい俺の顔も綻ぶ。フタバは首の動きを止めて此方を向いた。
「あっち。」
そう言って左の翼を南西に向けた。
「よしわかった。じゃあそうしよう。」
「あい。」
提案が通って満足そうに返事をした。
「そろそろ出発するぞぉ。」
自主的に休憩を切り上げ、付近を一緒に探検していたジュウザとサイに声を掛ける。
「「は〜い。」」
同時に元気よく返事をしながら茂みの中から出てきた。
「成果はあったか。」
俺の質問にジュウザは笑いながら「なかったぁ。」と教えてくれた。楽しそうで何より。
「そっかぁ、そりゃ残念だな。それじゃ、次の所で見つかると良いな。」
俺も釣られたように笑顔でそう言った。ジュウザとサイは強めに鼻息を吐きながら頷いた。
「今日の目的は、分かってると思うけど、ロックを元気づけるものを探してくれよ。」
「あ。」
「ジュウザぁ。「あ。」じゃないよ「あ。」じゃ。」
「全く・・・ジュウザは相変わらずね。お兄ちゃんなんでしょ。しっかりしなさい。」
モモカの叱咤に「は~い・・・。」と反省込みの返事をした。サイはその様子を楽しそうに笑っていた。あぁ・・・少ししょげちゃったかなぁ。
「ジュウザ兄たん、大丈夫。あっちに、行けば、ロック兄たんの、喜ぶやつが、ある。」
なんですと。フタバは何かしらの確信があるのか。これなら期待しちゃうなぁ。何があるのかな。
「よし。フタバがこう言ってるんだ、間違いない。だから頼むぞ、ジュウザ。」
「うん。」
ジュウザも元気を取り戻した様でなにより。しかし上がったり下がったり忙しい奴だ。
皆で談笑しながらフタバの指し示した方へと歩みを進める。・・・まぁ、その間もジュウザとサイはあっちに行ったりこっちに行ったり、忙しくしていた。元気なのは良いが、落ち着きがないとも言う。時々モモカが声を掛けて進行方向を修正していた。モモカには申し訳ないが、俺はその愉快な様子を楽しんでいた。
「主たま。あそこ。」
不意にフタバが目的地に着いた事を報せてくれた。フタバの示した方へ視線を向ける。んん、何か無数の気配。そして何やら大きな塊・・・の様なものがくっついた木が目に入る。気配自体は少し前から気が付いてはいたが、まさか目的地がその気配のする場所だったとは。木に貼り付いた塊は、俺のおよそ八倍程。かなりでかい。形状、模様などから推察すると・・・おそらくあれだなぁ。
「蜂の巣・・・だよな。」
「あい。」
ですよね。そんな事じゃないかとは思ってはいたが・・・この大きさはぁ、想定外ですぅ。
「あ、主・・・あれ何。」
いや、今フタバに蜂の巣である事を確認しましたよ、ジュウザさん。まぁ、蜂と蜂の巣を知らない可能性はあるが。サイの方は興味深げに笑ってはいるが、額の第三の目を半分開き警戒を初めている。こういう時のサイは良く感じ取れているなと感心する。ジュウザにも見習って欲しい気もする。が、ジュウザにはジュウザの良い所がある・・・はずだ。
蜂の巣か。という事は、やはり蜂蜜か。ロックに蜂蜜。間違いないとは思う。凄く元気になるかまでは分からないが、喜ばないという事は無いだろう。だが俺は思う。はたして此方の都合で・・・欲望で他の生き物の生活を、命を奪って良いものなのだろうか、と。相手は魔物とはいえ、どちらかと言えば虫の類だ。交渉して蜂蜜を分けて貰う、又は何か他の物と交換するなんて事は出来そうも無い。となるとやはり蜂蜜を手に入れるには、蜂と戦い奪い取るしか無いだろう。普段は俺を狩ろうとする魔物を返り討ちにいているだけで、わざわざ此方から他の魔物を襲う事は無い。
「イッスン様、どうされました。」
迷う俺にモモカが声を掛ける。
「いや・・・はたしてあの蜂の住処を襲う事が正しい事なのかと思ってな。」
右の人差し指で鼻の頭を掻きながら本音を吐露する。
「お優しいですね。ですが魔物とはそういうものだと、私は思いますが。」
モモカは俺の素性に少し気が付いているのだろうか。何かを見透かされたような台詞が返ってくる。
「確かに。」
「それに・・・失礼を承知で申し上げます。魚が良くて、虫が駄目な理由が私には解りません。」
優しくて力強い声で俺にそう言った。
「確かに。」
思わず俺は天を仰ぐ。
「イッスン様・・・。申し訳・・・。」
モモカの言葉を右手を上げて遮る。
「そういえば俺、魔物だったな。忘れてたよ。」
「ふふっ。ではご自分の事を何だと思っていたのですか。」
「兎。」
「あはははははは・・・。」
俺とモモカの会話を聞いていたフタバが笑い出した。俺とモモカも目を見合わせて笑い合う。
そうだ、俺は魔物だ。たまには良いじゃないか、本能を剥き出しにして見ようじゃないか。家族の為に、可愛い弟子の為に暴れようじゃないか。蜂達には何の恨みも無いし憎しみも無い。だが大変申し訳無いが俺の欲望の為に犠牲になって貰おう。そうだ、俺は頭に角のある兎の魔物だ。
ジュウザとサイにも「いくぞ。」と声を掛けて、蜂達の領域へと足を踏み入れる。




