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4、・・・どうやら準備が整ったらしい。

 完全に油断していた。あんなに警戒していたのに、あんなに戒めていたのに。今日までの十数日間、確かに全ての時間警戒していたかと言えばそうではないが、何事も無く順調に過ごせていた。意図的に慎重に過ごし大事を取って行動していた。それでも足りなかった。いや忘れていたのかもしれない。そうだった、ここはワイルドライフ。当然他の動物もいるに決まってる。ここまで出会わなかったからこの世界に自分しか存在していない様な気さえしていたのかもしれない。とにかく命を危険に晒す大失態だ。


 俺の右側から現れたそれは俺の五倍以上の大きさの狐だった。その眼は殺気に満ち、その口は鋭い犬歯を含むほぼ全ての歯を食いしばったまま剥き出しにしている。その歯の隙間から殺気が蒸気のように立ち昇っている様に錯覚する。こんなに殺気を放っていたのに俺はここまで近づかれるまで気が付くことが出来なかった。勿論狐の方も直前まで気配を殺していたのだとは思うが。その殺気に満ちた眼に睨まれた俺は直感的に死がよぎり恐怖で身体が硬直する。まさに蛇に睨まれた蛙の様に動け無くなる。死に直結する恐怖を感じるとほとんどの思考が止まりそれに伴い身体の動きも停止してしまう様だ。逃げたいと思うより前に本能と直感が瞬間的な反射で身体を奇跡的に後方へ跳ばした。この奇跡のバックステップの時に俺の鼻の頭の上をまさに紙一重、まさに文字通り目の前を右から左に狐の左前脚が通過するのを見た。後0,0数秒・・・いや0,00数秒遅かったら最低でも鼻が失くなっていただろう。狐の爪がもう少し長くても傷を負っていただろう。どちらにしても一撃でも貰ったら致命傷は免れないだろう。己の意識の外の跳躍だったがなんとかかろうじて着地出来た。本能的な反射だったとはいえ身体が動いた事により思考も硬直を解かれる。それと同時に背中から汗が吹き出る。流れるのがちゃんと認識できる程の冷汗だ。その自分の冷汗で身体が冷えて動けなくなりそうだ。とりあえず気休めかもしれないが間合いが出来た。

 冷汗のおかげでは無いと思うが少しだけ冷静さを取り戻した。瞬時に逃げる算段を開始する。そして正面にいる狐に視点を合わせる。今の一撃が不発だった事に多少の疑問を抱いた様な素振りをしたが直ぐに再び俺に照準を合わせている。見逃してくれる気は無さそうだ。そりゃそうだ、向うだって生きる為に俺を食おうってんだ。簡単には諦めないだろうさ。逃げ道は右側、もしくは狐の向こう側。睨み合い互いに次に動き出す機会を伺う。右側に重心を掛ける。その瞬間狐が俺の右側の逃げ道を塞ぐように飛び出す。実質一択だ、とその狐も思っただろう。俺は迷わず左側の藪の中へ飛び込む。そしてそのまま狐との距離を取るように藪だろうが茂みだろうが関係なく脇目も振らず突き進む。むしろ狐との間になるべく障害物が出来るようにあえてそちらを進路に選ぶ。こんな事態を想定して練習をしてはいた。だが練習をしたのはほんの数日間、自信を持ってこうすれば大丈夫と言える程練習は出来てはいない。追い込まれた事による必死さでなんとか止まらないように狐を振り切ろうとする。

 

 どれくらい走っただろう。かなりの時間を走り抜けた様に感じるが、おそらくはそんなに長い時間ではないだろう。全力疾走なんてそもそも長くは続けられるものではない。体力が底を突いて動けなくなってしまえばそれこそ一巻の終わりだ。目の前の藪に飛び込み動きを止めて気配を殺す。息を整えながら恐る恐る後方を確認するために首だけ振り返る。枝と葉の隙間から外を伺うと自分でも思ったより距離を稼げていたのか、狐の姿は目視できない。注意深く気配を探る。近づいて来る気配は感じられない、何かが移動している様な音も聞こえない。上手く撒けたのか?いやそんなに甘くは無いはずだ。さっきの今でそんなに簡単に油断する程楽観的じゃあない。

 自分の家に無事に帰れるまでと気を引き締める。この場所に長く留まるのも良くないだろう。もう少しだけ休んだら移動を再開しようと首を身体の正しい位置へ戻そうとした時だった。視界の端に、先程まで見ていた正面の藪の間から追手がするりと顔を出すのが見えた。ギクリとして、していた呼吸を止める。その追手も注意深く辺りの気配を探っている様だ。全身を藪から引き抜いた狐の身体には所々俺の仕掛けた障害物に邪魔されたせいか傷や汚れが付いている。まあ気を削ぎ俺を追いかけるのを断念させる程の効果が有りそうなものは見受けられないが。おそらく俺が動きを止めたのに気がついて自分も動きを止め気配を消して距離を詰めようと考えたのだろう。野生の本能、恐るべし。下手な小細工は通用しないのか。違う、俺が野生ってものをどこか舐めていたのだろう。認識が甘かったと言わざるを得ないだろう。気を取り直して再び距離を取るために追手と反対側に飛び出すタイミングを図る。ほんの少しとはいえ休めたのは助かった。全快なんて都合良くはいかないがもう一度全力疾走する為に仕切り直せた。狐の呼吸に神経を集中する。息をゆっくりと吐き出したのを見逃さず、ここだと隠れていた所から飛び出す。

 我ながら上手く行ったと思った。タイミングとしては上出来だと思った。それでも俺が絶妙な見極めで作り出した距離をその身体能力で一瞬のうちに無かった事にされる。くそう。体格差がありすぎる。一歩の幅が違い過ぎる。よくここまで追いつかれなかったものだよ。手加減でもしてるのだろうかとよぎったがどうもそういう風では無さそうだ。あの殺気を剥き出しにしている様を見るに狩りを愉しんでいるとは思えない。むしろ少し必死過ぎるようにすら感じる。そんなに空腹なのかそれとも兎って凄く美味いのか。理由は判らないがある種の興奮状態なのか些か冷静さを欠いているようだ。そのおかげでまだ助かっていると思う。何時まで持つかは判らないが。何度も後方から右から左から飛んでくる前脚の攻撃を身を捩り、身を屈め、右に跳び、左に跳び、かろうじて躱し続ける。身体の近くを通り過ぎる度に、聞こえる音と感じる風圧に同じ数だけ短い悲鳴を上げる。怖すぎて涙が溢れてくる。泣いている場合じゃない、これ以上視界が滲んだら泣くことすら出来なくなる。子供の頃のように「うぅ、うぅ」と泣くのを堪えながら逃げ続ける。

 追手の狐の前脚が俺の後頭部の後ろを通り抜けた時だった。左の耳に何か刃物に切られた様な痛みが走った。切られた部分から先が失くなる様な事にはなっていないようだ。確かに空振りだったはずだ。何かに触れられた感覚は無かった。切られた痛みも感じるし血が流れ出ているのも解る。何が起きたのかよく解らないが、立ち止まって考えている暇は無い。痛みは幸いにも転げ回ったり蹲ったりする程ではない。興奮状態なのも手伝って流れる血もそのままに止むこと無く降り注ぐ前脚を掻い潜る。真横に振られる一撃を身体を伏せて避けた時に頭の上を何かが通過するのを感じた。そして目の前の枝や草の先が切れるのを見た。これか。これが俺の兎たるアイデンティティを切り裂いたものの正体は。魔法なのか技なのか風の刃の様なものを飛ばしているようだ。勘弁してくれよ、ファンタジー。もし魔法があるのならこの状況を打開する何かを俺にも使わせてくれ。涙目で誰にという訳でもないが願っていた。それにしてもそうなると不可解な事がある。俺の避け方や前脚の通過した軌道を考えるとどうもおかしい。軌道によっては確実に避けることが出来ないように繰り出す事が可能なはずだ。それこそ一番初めに使われていたらその時点で終わっていた。使わなくても俺を狩れると思っていたのか。ここまで執拗に追い掛けて来ている現状を考えるとそうは考えにくい。となれば上手く使いこなせていないのか。いやそうじゃない。おそらく自覚していない、無意識に使ってる可能性が高い。自覚していればもう少し使おうとする素振りがあったはず、性格によってはもっと闇雲に使っていたはず。本能で行動しているとはいえ気配を消して近づいたり退路を塞ごうとしたりと戦略が無いとは言えない。それでいてこの力を利用しようとしないのは矛盾している様に感じる。俺にとってはありがたい話だ。どうかこのまま気づかないでいてくれ。それでも不意に出てしまうものにも気をつけなければ。警戒する事が増えてしまったが知らないままだったらもっと危険だった。と思いたい。

 なんとか狐の猛攻を躱し続けてはいたがそれでも疲労はしてくる。それはお互いにではあるが。飛び散る血が後ろから迫る狐の顔に懸かり視界を塞ぐ。本来ならばしめたと思うところなのだろうが、これが良くなかった。疲労もあり思ったより跳べていなかった事と、視界を奪われ繰り出した右前脚の軌道が急に変化した事が俺にとって良くない方向に作用した。軌道の変わった狐の爪が俺の右後ろ脚の太腿に引っ掛かってしまった。向うも不意を突かれた形になったので全力の一撃では無かったのは助かったが、それでもきっちり爪の数と爪の先の分程削り取られた。致命傷になるものでは無かったがその一撃は体格の差の分だけ俺にとっては強烈でそのまま身体を左側に弾き飛ばされる。身体の左側面を地面に叩きつけられそのままゴロゴロと数回転がらされた。全身に衝撃が走る。痛い、痛いがその痛みが意識を保たせてくれる。体勢を立て直さなければ死ぬと思い、痺れる身体をヨロヨロと無理やり起こし狐に視線を向ける。狐の方もその場で顔の左側を染めた俺の血を気持ち悪そうに拭おうとしていた。起き上がった俺に気づき視界を取り戻すのをやめ飛び掛かる為の体勢を取る。どうしても俺を逃がしたくないらしい。この投げ出された場所は拓けていてちょっとした広場のようになっている。近くに直ぐに身を隠す所は無い。それにこの傷では振り切って逃げるのはかなり難しくなった。死ぬ。死が直前に迫り戦慄する。

 ここまでかと諦めかけた次の瞬間、全く逆の感情が吹き出す。嫌だ。まだ死にたくない。ここで俺の命が尽きる可能性は高いかもしれない。だが簡単に死んでたまるか、俺にもどれ程通用するかは判らないが角が有るんだ。一矢報いてやる。最後の最後まで死とその恐怖に抗ってやる。窮兎狐を刺してやる。俺を追い詰めた事を後悔するがいい。覚悟を決め狐に殺気を込めて視線を向ける。俺の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか狐も少したじろいだ様に見えた。歯を食い縛り四肢に力を込め体勢を低く構える。相手も警戒しながら自分の攻撃が確実に届く所までと、じりじりと距離を詰めてくる。俺は猛獣の様な低い唸り声を挙げながら敵が間合いに入ってくるのを待ち受ける。あと少し・・・今にも飛び出しそうになるのを堪える。入った、今だと力を溜め込んだ脚で地面を全力で蹴り飛ばす。角の先を狐の正面に向けてギリギリまで引き絞った矢の様に真っ直ぐ跳んで行く。ぎゃあと狐の悲鳴に似た鳴き声が聞こえた。だが俺の身体は狐の身体を擦り抜けたかのようにかなりの距離を移動した。着地して直ぐに敵の位置を確認する為に身体ごと振り返る。微かだが手応えはあった。狐は右の肩口から血を流して倒れて悶えている。避けられた、とっさの反応で左に跳びなんとか躱したらしい。だが完全には避けきれず、俺の角が右の肩口を抉ったらしい。だが仕留められなかった。倒れている今が好機と近づこうとしたが狐もそれを察してか直ぐ様立ち上がる。距離が離れ過ぎていたか。しかしこれで逃げられるかもしれないと思ったが、狐の方は負った傷を顧みず俺へと向かってきた。傷が浅かったのか、それとも兎に傷を負わされた事が怒りに火を点けたのか猛烈な勢いで突っ込んでくる。咄嗟に右脚の痛みを堪えながら右へ跳び相手の左側へ回り込む。俺の血で視界を妨げられている方へ回り込み続けて戦うしか無い。血が乾いて視界を取り戻すまでになんとかしないと俺に勝ち目は無い。回り込んで直ぐに狐へと角を向け跳ぶ。角の先が狐の身体のどこかに掠る。掠るが刺さらない。また距離を取り、こちらへ向かってくる相手の左へ回り込み突く。これを繰り返すしか無い、当たるまで。

 三度四度と同じ事を繰り返せば、相手だって俺を喰らう為に多少なりとも策略を練るんだ馬鹿じゃない。時間経過と供にある程度冷静さを取り戻し、俺の意図にも気がついてきたようだ。だがどうしても俺を食べたいのか諦める気配が無い。あと少しでと思っているのか休むこと無く体勢を立て直してはこちらへ向かってくる。狐の繰り出した袈裟が屈めた俺の頭上で空を斬る。そのすぐ後に俺の後方で何か音がした。あの風の刃が地面に当たったか草か枝でも切り裂いたのだろう。ひやりとする。その直後狐が急に力が抜けたみたいによろめく。おそらく今のが最後の一発だったのだろう。そのおかげ今までより懐に入り込めた。この好機を逃すまいと瞬時に首を振り地面を思い切り蹴飛ばす。角に何かが刺さった感触が伝わる。ぎゃっと狐は呻く。敵も必死なのだろう、既のところでその身を捻り致命傷を避けた。胸を狙ったはずだったが俺の角は狐の左脇腹に刺さっていた。浅かった。だがこれは間違いなく好機、もう一度と思い角を引き抜こうとする。抜けない。痛みのあまり反射で筋肉に力を込めているらしく締め付けられて角が掴まれてしまっている。まずいと思ったと同時に腹に強い衝撃を受ける。藻掻いた狐の左の後ろ脚が直撃したらしい。その一撃で角は狐の腹から抜けたが俺はそのまま後方へ突き飛ばされた。


 背中から地面に叩きつけられ転がる。意識が飛びそうな一撃だった、いっそ意識が飛んでしまった方が楽だったかもしれないなと思う。身体中が痛い、疲れた。閉じてしまいそうな瞼の間から見上げる空は無慈悲な程蒼く澄み渡っている。今日もいい天気だ。もはやここまでかと諦めがよぎる。頑張ったよな、俺。ちゃんと一矢を報いたよな。上出来だよな。人参食べたかったなぁ・・・。人参?

「ふっ・・・あっはっははは・・・」

 笑い声が続かず咳き込む。死の際に思う事が人参だと?笑わせてくれる。走馬灯の一つも見るでなく、食い物の事だと。まぁまだ走馬灯を見る程長く生きちゃあいないがな。そうだよ、人参を食うまで死ねないよな。身体中が痛い?だから何だと、力を込める。疲れた?それがどうしたと、立ち上がる。ここまでだと?まだ生きてると、敵を見る。頑張った?まだ残っているものが有る。上出来?最後の最後まで抗うと誓ったはずだ。狐も刺さった角を抜いたせいでその傷口から血が流れ落ちている。あちらも満身創痍の様だ。お互いに体力の限界だろう、おそらく次が最後だ。それでも俺をまだ諦めないらしい。どうしてこんなにも執拗に俺を狙うのだろう。あいつの意地なのだろうか。野生の動物に意地があるとは考え難い。意地よりも生きる方を選びそうな気もするが。それほど空腹だったのか。俺が兎だからって事は無いだろう。どんな理由だったとしてもあの執拗さは狂気じみている。とにかく俺を絶対に見逃す気は無い様だ。どちらかの命が尽きるまで終わらないって事らしい。いいさ付き合ってやる。向うも命懸けならこちらも釣り合うとは思わないが命を懸けなきゃ失礼だ。どのみちこれが最後の一撃だ、残り全ての力を込めてやる。外せば俺の負けだ、この命をくれてやる好きな所へ持って行け。おそらくこういうのを覚悟と呼ぶのだろう。

 お互いに相手を正面に見据え睨み合う。狐は脚を引き摺りながら間合いを詰めてくる。俺は相手が間合いに入るのを全身に残りの全ての力を込めて待ち受ける。今までで一番速く、今までで一番力強く跳ぶ為に。この一撃に全てを賭ける。徐々にお互いの距離が縮まって来る。そして、遂にその時が訪れる。

「おおおおおおおおっ!!」

 と雄叫びを上げ気合と闘志も全身に込める。覚悟を決めたせいか、開き直ったせいなのか心に余裕の様なものができた。相手の姿がよく見える。俺の気迫に気圧されたのか一回り小さくなった様に感じる。なんだか勝てそうな気がしてきた。兎の意地を見せてやる。最後ぐらい格好を着けてやる。こんな技でもせめて名前ぐらい付けておこう。只の攻撃じゃ命を懸けた勝負が味気ない。後悔は少ないほうがいい。それに技名があった方が俺の気分と気合が乗るってもんだ。


ーー白兎流格闘術・流星弾ーー


 そう心の中で叫び、正真正銘最後の力を振り絞り全力で大地を蹴り狐に向かい一直線に跳んで行く。自分でも会心の跳躍だった。周りの景色が高速で後方へ飛ぶ。まさにその身を白き弾丸と化していた。目の前にまるで瞬間移動でもして来たかの様に狐の身体が現れた。あっ、と驚き目を閉じた直後、ーードンと低く鈍い音がする。それと同時に額辺りから後ろ脚の先まで身体の後方へ向けて骨が砕けんばかりの衝撃に襲われた。実際幾つかの骨が砕けたかもしれない。俺の命を懸けた一撃は命中したらしい。その勢いは自分で想定していたよりも凄まじかったらしく、狐ごともう少しだけ前進を続けその狐を仰向けにしそのまま地面へと墜落した。驚くほどの高さでは無かったが、それでもその僅かな重力の助力もあり突き立てた角が更に深く食い込んだ。これが駄目を押したらしい。最後の抵抗だったのか狐の右の前脚が俺の左脇腹の辺りを力無くそっと撫でた。その時ボキッと何かが折れた様な音が身体の中で響いた。もはや全身が激痛まみれで何処の骨が折れたのかも解らない。首の骨かもしれないな、などと薄れ行く意識の中で考えていた時だった。


ーー《レベルが上昇しました。》Lv7

ーー《スキルポイントが30加算されました。》


 レベルアップした・・・。どうやら勝てたらしい。しかしこのまま俺が死んだら申し訳ないな。奪った命に報いる事が出来ないなぁ。でももう指一本動かない。ごめんなぁ・・・。


ーー《レベルが規定値に達しました。》

ーー《条件を満たしました。》

ーー《機能の一部が開放されました。》


 何、何だって・・・?もう意識が朦朧としてよく見えない、よく分からない・・・。


ーー《能力値を確認するこ・が・きる・・・なり・・た。》

ーー《機能を・・・・為n・・・・声を・・・d・・・す》

ーー《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》

ーー《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》

ーー《・・・


 もはや何も判らない。さっきまで感じていた痛みも、もう感じない。瞼すら動かせる気がしない。本当に一滴も残らずに力を使ったらしい。このまま意識を失えば、もう二度と目を覚ませないかもしれないな。もしそうなったら今度こそ文句を言ってやる。まぁ神様とやらがいて、会うことが出来たらな。一つも人参が食えなかったぞってな。・・・よく考えたらこんな森で人参なんか有るのか?仮にあったとしても、それはお父つぁんの病気を治すために娘さんがその身と引き換えに手に入れた漢方薬的なやつなんじゃ。あんまり美味く無さそうだ。結局最後は人参だったな。そこでとうとう意識は深い暗闇の底に吸い込まれる様に途切れた。

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