38、文明開化の音がする
壁に突き刺さった己の角を皆と一緒に見上げている。
「思ったより変な方向に外れなかったな。」
「そうだねぇ、一応ちゃんとこの壁に当たってはいるね。」
「主殿は壁に当たらないと思ったのですか。」
「あぁ、想定よりだいぶ強い反動だったからな。空の彼方に飛んでいったかと思ったよ。」
そう言って首の後ろをさすった。
「あるじ、もう一回やってよ。」
「あのなぁ・・・、俺の角の再生も回数制限があるんだよ。」
「そっかぁ・・・。ごめんなさい、あるじ。」
そんなにあからさまに落ち込まなくても良いのに。
「いやぁ、俺も身体を鍛えないと怪我する。やる時は声を掛けるから。」
「本当?ありがとう。」
「師匠、僕も見たい。」
「ああ。勿論だ、ハクもな。」
ハクは嬉しそうに頷いた。やる時は一応皆に声を掛ける事にしよう。特にジュウザは忘れないようにしないとな。
「なぁ、サイ。あの角取ってくれないか。」
「ボクが・・・あ、そうか。やってみる。」
「師匠、何でサイに頼んだの。」
「ロック、それはね、サイ兄さんの念動力の練習の為だよ。・・・たぶん。」
「その通りだ。主殿は自分でも取る事は可能なはずだからな。」
ヤクモの回答に俺は頷きで正解だと補足する。
「そういう事かぁ・・・。」
「今度はロックに何かお願いするかもしれなからな。その時は頼むな。」
「うん。」
「イッスンの、ボクにも何でも言ってくれ。」
「・・・あぁ、機会があったらお願いするよ。」
トウオウの場合は、何かの練習の為にお願いする事は無いだろうな。
「あるじぃ、取れたよ。」
壁から抜き取った角を念動力でそのまま俺の目の前に運んできてくれた。
「お、ありがとうな。大分上手く使える様になってきたんじゃないか。サイ、これ、簡単に抜けたか。」
胸の前辺りに差し出された、さっきまで俺の頭に付いていた角を受け取りながら聞いた。
「結構大変だったよ。思ったより硬かった・・・と思う。流石あるじ。」
「そっか、思ったより威力があるみたいだな。・・・まぁ、あれだけ反動があれば、まあまあ威力はあるわな。」
「流石です、あるじ様。角を飛ばすなんて、僕には思いつかないです。」
「ハクよ・・・主殿の真似はしなくて良いぞ。ですね、主殿。」
恐い、顔が恐いよヤクモ。まあそう言われても仕方が無い事をしたのは、俺ですが。
「そうだな。あ・・・ジュウザにはちゃんと駄目だと言わないとなぁ。」
「そうですね、主殿・・・。」
「あはは、確かにねぇ。でも、ジュウザには言っても駄目かもねぇ。」
「そうですね・・・ジュウザ兄さんですもんねぇ・・・。」
「ははは、ジュウザ兄ぃは絶対真似するよ、好きそうだもん。それに、あるじ大好きだもん。我慢は無理だと思うなぁ・・・。」
「僕も、ジュウザは真似すると思う。僕も、爪、飛ばすの、やりたい。師匠、駄目?」
満場一致でジュウザの制止は無理と結論が出ました。俺も一票・・・やむなし。しばらくは秘密にする方向で誤魔化そう。それよりも、ロックだ。
「なるほど、爪を飛ばす・・・か。」
「私は、悪くない考えだと思いますが。」
「うん。ボクもそう思うよ。ロックは法術や魔法での遠距離系統があまり得意な方では無さそうだからねぇ。」
どうやらヤクモとトウオウも賛成に寄っているな。
「そうだな、ロック。爪を再生できる技能を先に取得してからにしようか。」
「うん。」
数度首を縦に振って嬉しそうに鼻から息を吹き出した。
手に持った角を眺める。あれだけの威力を発揮した角だが、欠ける事無く・・・傷らしい傷も無く原型を留めている。今出来る最大限の強化をした事も効果があったようだ。
「それは槍の先に使えそうかい、イッスンの。」
「あぁ、充分な強度がありそうだ。」
「それは何より。これで一つ前進だね。」
「ですが・・・主殿。それをどうやって加工するのでしょう・・・。」
「あ・・・。」
そう言われればそうだな・・・完全に失念していた。角の強度が増せば、その角の加工が難しくなる・・・。そんな当たり前の事を忘れていたよ。どうしよう・・・。
「全然考えて無かったよ。角を嵌め込む様な形に、木材の方を加工するしか無いかなぁ、今のところ。」
そう言いながら並べて拡げられた木材を眺める。角もだが、この木を加工するにも道具が必要だよな。小分けにするぐらいなら斧でなんとかなるだろうが、細かい作業はあの小刀では些か心許ない。かと言って虎の子の鋏では大き過ぎるし。
「イッスンの。この木だけど、普通のものより強力・・・丈夫なようだぞ。」
「なんですと。」
「そうですね、あるじ様。鑑定で調べました。」
「おそらく、通常の木々より大量の魔力やらを浴びた、もしくは吸収した影響だろうねぇ。」
「そういう事かぁ・・・。そりゃそうだよなぁ、魔物化するくらいだもんな。」
更に加工が困難だと判明しました。次から次へと問題が・・・。文明は程遠いな。いや、違うな。文明とは長い時間を掛けて積み上げたものだという事なんだ。それを零からやろうとすればこうなるに決まってるって事だ。知識がある分、二足跳び三足飛びに良いもの作ろうとしているだけだ。良くないな、時間はそれ程無いかもしれないが、俺も一から積み上げるつもりで取り組もう。
「出来ない事はしょうがない。一つづつ解決する方法を考えよう。」
「流石主殿です。何時も前向きです。」
・・・ヤクモは何時も俺を過大評価している。前向きではあるが・・・意識的にそうしようとしている節はある。始めから出来ない事が多かったからな。やっとこさ此処まで来た、といったところだ。まだこの世界では一年も経過していないのだから、進化の速度としては異常と言っても過言では無いと思う。だから、それでも出来ない事の一つや二つあったところで後ろ向きになる必要など無いと思っている。そう自分に言い聞かせている・・・焦るなと。
「あるじでも出来ない事があるんだねぇ。変なの。」
「うん、変なの。」
サイとロックが顔を見合わせて「ねぇ。」と言い合っている。仲がよろしいですねぇ、微笑ましい。
「いやいや、俺だって出来ない事はたくさんあるさ。」
「そうなの、師匠。」
「ああ。ほら、俺は法術はヤクモ達みたいに得意じゃないし、サイみたいに念動力を使う事も出来ない。ロックみたいな爪も無いし、フタバみたいに空は飛べない。だろ?」
ハクを含め、子供達は「ほおぅ。」と驚いたような、感心したような声を上げて納得した様だった。
「流石です、主殿。子供等の良い励みになります。」
「よせよ、俺は本当の事を言っただけだ。」
「そうだねぇ。ボクにだってイッスンにできない事ができる。」
ヤクモが怪訝そうな表情になる。
「でもねぇ、イッスンやヤクモにできる事でもボクにできない事も沢山あるからねぇ。」
トウオウはそう言って楽しそうに笑った。
「そういう事だ、ヤクモ。」
ヤクモは目を閉じて俺とトウオウに深く頭を下げた。こりゃぁ・・・無駄に反省してる感じだなぁ。
「だから、頼りにしてるよ、ヤクモ。」
「は。」
平伏しちゃった。今はこれ以上言葉を掛けるのはやめておこう。
「イッスンの。ボクも頼りにしてくれて構わないよ。」
トウオウは時々、ジュウザ達に負けない程子供っぽい。いや、もしかしたら敢えてそう振る舞っているのかもしれない。彼なりの気遣い・・・か。
「あぁ、頼りにしてるさ。」
色々とできる事・・・というよりできない事が判明して、手詰まりに近い状態になった。
「ハク、どれが欲しい。」
「そうですね・・・。葉の付いた枝を一つ、細い枝を一本、実を二つ、根を一本欲しいです。」
「うん。問題無いな、良いぞ。あ、根は全部でも良いぞ。」
「良いんですか。」
「ああ。俺には今のところ使い道が思いつかない。何か思いついたら教えてくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
ハクよ、感情が溢れていますよ。可愛いやつ。サイとロックも運ぶのを手伝っている。可愛いやつらだ。
「ねぇ、イッスンの。何か技能で加工する方法を探すのはどうかな。」
「おっと。その手があったか。一番現実的な解決法を失念してたよ。」
「加工の為の技能ですか。私も何か探してみましょう。」
「ああ、いや、ヤクモ。ヤクモは無理して取得しなくて良いぞ。」
「そうですか・・・。」
凄く残念そうだな。
「木の実で取得できるとはいえ、スキルポイントは重要だ。ヤクモの得意な事に使って欲しい。さっきも言ったろ、頼りにしてるって。だから、な。」
「はい、主殿がそうおっしゃるなら。」
「ヤクモの。ボクもその方が良いと思う。そういうのはボクやイッスンの様に大量にスキルポイントを持ってるものが取得した方が良いと思う。勿論ヤクモがどうしても興味があると言うなら、ボクは止めないけど。」
その言葉に俺もヤクモの目を見て頷く。
「わかりました。」
「とは言ったけど・・・ボクにはまだ取得可能では無いみたいだけどね。六百年も生きてるのにねぇ。」
トウオウは能天気に笑う。
「まあ、それは俺もだけど。・・・それにさっき殆どポイントを使っちゃったからな。あっても取得できないな。」
俺も一緒になって笑う。我ながら楽観的な事だ。深刻になるよりずっと良い。
という事で現在どうする事もできない幹の部分は収納した。枝の一本を斧で四つに分けた。斧で問題無く切断できるかを確かめる意味もあったが、どうやら大丈夫の様だ。その切り分けた枝やら松の葉やら松笠を、持ったり降ろしたりしながらどんな風に使おうかと考えている。それを胡座をかいた俺の左側に邪魔をしないようになのか、静かに座り・・・眼鏡蛇のどの状態を座ると表現するのかは微妙だが、サイが興味深そうに眺めている。
「・・・楽しいか。」
「んん・・・わかんない。」
なるほど、「楽しい」ではなく「何をしているのか。何をするのか。」が気になるって事かな。正確だな、よく自分の感情を理解できていて凄いな。後は何か面白そうな事が起こりそうな気がしている、期待しているといった感じかな。
「あるじは楽しい?」
「まあ・・・そうだな、色々考えるのは楽しいかな。」
「そうなんだ。」
「なぁサイ。一緒に考えようぜ。」
そう言って左手で自分の左の太ももを叩いてみせた。サイは破顔して滑る様に俺の足の間に納まった。その後、仰け反るように俺の顔を見上げ、もう一度満面の笑みを見せてくれた。
「なあ、この松笠、何かに使えないかな。」
「それ、松笠って言うの。」
「そうだな。この木が松って言う木で、これが松笠だ。松ぼっくりとも言う。」
「ふぅん・・・松の、木の実って事。」
「まあそういう事だな。確か・・・この隙間に種ができるんだったと思う。」
「へぇ・・・そうなんだ。」
「どうしようか、これ。何か思いつかないか、サイ。」
少し無茶振りだったかもしれないな。ただ子供ならではの発想で、何か面白い事を思いつかないかなという程度のつもりだったんだけど。首を左右に捻り何やら考えを巡らせている。その姿が可愛らしいから、まあ良い事にする。
ハクとロックは少し離れた所で、先程回収した素材を自分の前に並べて何やら話をしながら楽しそうに捏ねくり回している。それを頭の上からトウオウがその会話に参加している。あっちの会議の方が有益な物を生み出しそうだ。それならそれで全然構わないんだけど。と、よそ見をしながら手に持った松笠を、軽く投げては掴んでいたのだが、つい目を逸らした隙に掴み損ねて地面へ落した。松笠が地面に落ちる重い音を聞いて、ひやりとする。
「っと・・・危なっ。すまんな、サイ。」
「うん。大丈夫。・・・それって、結構重いんだよね。」
「そうだな。今の俺じゃ、投げるくらいしか思いつかないんだよな。」
「ねぇ、あるじ。それさぁ、鎖の先に着けられないかな。」
おっと、そうきたか。うん。案外悪くない考えかもしれないぞ。
「面白いかもしれないな。でも、なんでだ。」
「うぅんとねぇ、鎖は摑まえたり動きを止めたりはできるんだけどぉ、やっつけるのが少し難しい。」
なるほど、そういう事か。確かにサイの言う通りだな。鎖での打撃は有効ではないとは思はないが、決め手に欠ける気もする。鎖の先にこの松笠を取り付ける事ができれば・・・。
「やってみるか。サイ、今何本使える。」
「うぅんとねぇ、今はぁ・・・四つ。」
「あれ、思ったより少ないな。鎖召喚できるんだろ。」
「うん・・・できるけど、召喚って凄く大変なんだ。だから普段は念動力の練習にしてる。」
まぁそうなるか。連鎖捕縛は効果が切れれば消滅するが、鎖召喚は「召喚」と言うより「産み出す」に近い感覚だからな。その分大きな力を必要とするのだろう。サイの判断は間違っていないと思う。
「四つか・・・。」
「少ない?」
「いやいや、そんな事無いと思うぞ。使える様になってから、まだそんなに経ってないだろ。それで四つも使えるなら、大したものだと思うぞ。」
「そう。・・・でも、もう少し使える様になりたいな。」
「そうかぁ、じゃあ、練習しないとな。」
「うん。」
「取り敢えず・・・二本に付けてみようか。」
「うん。ねぇ、全部じゃないの。」
「ああそうだな。全部同じにするより、いろんな種類があった方が戦術に幅ができると思うんだ。どうだろうか。」
「そっかぁ。流石、あるじ。」
「何か他に良いものが見つかったら、別のものも付けてみようか。ま、取り敢えず、二本出せ。」
「はぁい。」
サイは機嫌良く返事をして、自分の異空間収納の出入口に首を突っ込んだ。鎖を引っ張り出している間に、どうやってその鎖の先に松笠を繋ぎ止めるかを思案する。ふと、松の葉が目に入る。手を伸ばし近くの葉の付いた枝を胡座の中で作業中のサイを邪魔しない様にしながら掴み取る。その枝から左手で一掴み葉を毟り取る。枝の方はそのままアイテムボックスに収納する。掴んだ葉を掌を広げ眺めてみる。此処までは良いが・・・作業しづらいな。あ、いいものみっけ。
「サイ、ちょっと肩に乗れ。」
「はぁい・・・この鎖はぁ。」
「そこに置いといて大丈夫だ。すぐ戻って来る。」
作業を終えたサイは頷くと何の躊躇いもなく俺の肩に登る。そして「乗れ。」と言った俺が言うのも何だが、俺も登られる事に全く抵抗が無い。まあ、出会った頃から殆ど抵抗感などありはしなかったが。むしろそんなに簡単に俺の事を信用して良いものなのかと心配になる程だった。
サイを肩に乗せ目的地に移動する。移動と言っても庭の端から端にという事でもなく、並べた商品の一つを回収する為だからほんの数歩の事だ。そして俺は切り株の前で止まる。
「あるじ、これ?」
「そうだ。」
そう言って屈み込みその切り株を持ち上げるべく、空いている右手で掴む。直径はちょっと大きめな中華鍋位か。厚さは俺の下腹部の下辺りか。・・・俺の足はそぉぉんなに長くは無いがぁ。掴んだ切り株をまるで重さが無いかのように持ち上げる。
「あるじ、すげぇ。」
「あぁ・・・まぁ、な。」
そういえばあまり気にした事も無かったが、どうやら能力値に依存したものだろうと思われる。この世界に来た頃の俺ならこんな芸当は無理だっただろうな。ま、一番初めは四足歩行だったしな、無理に決まってる。
「それを使うの。」
「そうだ。」
掴み上げた切り株を軽々と掲げ、先程サイが鎖を出した場所に戻って行く。「よいしょ。」と今の俺なら出す必要の無い声を出し、運んできた切り株をその場に降ろす。うん、やはり丁度良い大きさだ。多少高さがしっくりこないが、これは俺が合わせれば良いだけだ。なぁに、使い続ければ自然と慣れるってもんだ。
「作業台に丁度良いだろ。」
「サギョウダイってなに。」
「あぁ・・・そうだなぁ・・・。ほら、こうやって座った時に、手で色んな事をするのに便利だろう。」
そう言って左手に持っていた松の葉の束を、今作業台に生まれ変わった切り株の上に広げ置く。
「おぉ・・・そうかぁ。」
サイの中に意識の改革が起きたのか、第三の目も開き驚いている。
「今のところサイにはちょっと不便な高さかもしれないけど。」
「そうだね。でもこの上に乗れば・・・良い?」
「邪魔しなければな。後、俺が何かしてる時は駄目だぞ。」
「うん・・・。見てるのも駄目?」
「ものによるかなぁ。危ない事もあるかもしれないから。そういう時は台の下に降りてくれよ。」
「うん。約束する。」
サイだけに限った事では無いが、素直で良い子だ。そうだな、後で木の幹を輪切りにして皆の分の作業台を作ろうかな。
「サイも欲しいか、作業台。」
「え、良いの。」
ヤクモやモモカ達にも必要だろうか。まあ、それは聞けば良い。少なくとも子供達の分は用意しよう。
「あぁ、後でな。取り敢えずこの鎖に松笠を付けちゃおう。」
作業台の上にその材料を乗せる。再び胡座の中に収まる様に促す。サイは目を細くして笑顔で自分の指定席の様に滑り込んできた。今は間違いなくサイの指定席だよ。
作業台の上に広げた松の葉の一本を手に取る。その両端を摘んで少し力を込めると、細い松の葉はまさしく針金の様に曲がった。
「うん、これならなんとか使えそうだな。」
「あるじ、これ何に使うの。」
「これで・・・こうやってぇ・・・。」
松笠の一番下の段の隙間に松の葉の針金を通し、一回り巻き付ける。サイの取り出した鎖の一番端の輪に葉のそれぞれ端を通し、鎖と松笠の間に遊びを持たせて巻き付ける。
「こんな感じ。サイ、どうかな。」
「すごい、くっついた。」
何だか子供だましを披露しているようで、少し申し訳ない気がしてくる。喜んでくれているようなので、良い事にしておこう。後二本、同じ手順で松の葉を巻き付けて補強する。一本では心許な気がしたのと、これ以上増やして遊びが無くなるのはあまりよろしく無い気がしたので、現段階ではここでやめておこうと思う。もう一本の鎖にも松笠を取り付けた。
「サイ、使ってみて、すぐ取れたり使い難かったら改善しよう。いらないと思ったら取っちゃおうな。」
「ええっ。取っちゃうの。」
「だって、元の鎖の方が良かったら、邪魔になるじゃんか。」
「やだぁ。せっかくあるじが付けけてくれたのに。絶対やだ。」
「あぁ、そう・・・。」
そう言ってくれるのは嬉しいが、照れ臭いな。
「よし、じゃあ試しに使ってみるか。サイ、移動する。」
今作った松笠鉄球を手に取り、立ち上がる。サイは良く分からないが、目を煌めかせて勢い良く鼻息を吐いて返事をした。それを持って店を離れ、庭の広い場所に移動する。
「サイ、間違って打つかるといけないから、少し離れてろ。」
右手で肩の高さから先に付いている松笠が腰の高さに来る位の位置で鎖を持つ。余った部分の鎖を左手で持つ。右の手首を使い、上方から身体の前面に、下方から身体の後方に動くように回転させる。どうやらこれで外れて飛んで行っちまう事は無さそうだな。重さも良い感じだ。連邦の新型のやつみたいではないが、鎖分銅としては申し分ない。よし、やってみるか。
「白兎流格闘術・影技・朝焼箒星。」
遠心力を蓄えた鎖付きの松笠を前方に放り投げる。程良い距離まで飛んだ所で、追従していた鎖を掴み振り降ろす。低くて、重く硬いものが土の地面に叩きつけられた音が響く。手応えも悪くない。・・・いや、想定より大分威力が有りそうな音だ。
「うん、こんな感じかな。」
「やっぱり、あるじはすごいね。」
投げた松笠を手繰り寄せている俺に、踊るように跳ねながらサイが近づいて来た。
「上手くいったな、サイ。」
「うん。」
「主殿、今のはいったい何ですか。」
俺の出した音を聞きつけてヤクモ達が集まってきた。
「上手くいったようだね、イッスンの。」
「あるじ様、それは・・・鎖に松笠を付けたんですか。」
「ああ。サイの新しい・・・武器だな。ほい。」
「ありがとう、あるじ。・・・でも、もう一回見せて欲しい。」
「あぁ、良いけど・・・。そうか、使い方を覚えたいのか。良いぞ。」
この後二回やって見せてから、手作り鎖分銅をサイに渡した。
俺のお手本を見ていた・・・お手本になっていたかは判らないが、サイは念動力の使い方に革新が起きたらしかった。そして起用に松笠分銅を振り回していた。
「あぁ、そうか。鎖全体を持ち上げるんじゃなくて、点で摘む様に持ち上げるのか。」
「サイ兄さんの発想力は凄いです。」
「そうだな、ハク。ああも簡単に主殿の模倣ができる様になるとは。」
「ハクは本質を掴むのが上手いんだねぇ、きっと。」
トウオウも良く見ている。
まぁ取り敢えずなんとなく道具らしきものができた。遥か遠くの方で微かに文明開化の音が鳴ったかな。上手く聞き取れないくらいだが。だが加工と言うには程遠い。作業台の上に乗せた素材を、右肘をつき右手の上に顎を乗せて眺める。
「どうしたんだい、イッスンの。」
「うん・・・やっぱり、加工する為の道具が必要かな、と。」
「そうだねぇ。」
「という事は、錬金術は必須だよなぁ、と。だが、どうしたら良いかも分からんな、と。」
「師匠、僕、それ使える。」
・・・んん?なんですと。
「ロック、今、何と。」
「僕、錬金術、使える。でも、まだ使った事が無い。」
ジュウザ達、眼鏡蛇の子供達に負けない程顎が外れんばかりに開いたきり暫く閉じる事が出来なかった。トウオウも御多分に漏れず墜落していた。