35、木を隠すなら森
「・・・という訳で、俺は世界を救うために約一年後を目安にこの森から旅に出る。皆はどうする。」
一応一通りノインとトウオウと話し合った事と決まった事を皆に伝え、最後にしなくてもいいと思われる、答えの分かり切っている問いかけをした。そして案の定、何の躊躇いも無くその旅に同行する事を決めていた。もうこれ以上何か言うのは無粋だな。それに、こうなる事は始めから知ってたさ。
一年後の出発の前に準備する事が思ったより沢山ある。俺を含め皆が今より成長する必要がある。特にフタバは能力を見る限り、初期段階・・・つまり俺で言う所の角兎の段階だと思われる。出発までに二回程種族進化してもらいたいところだ。勿論、フタバ自身の意志は尊重するが。フタバが進化を望まない選択するなら強制するつもりは無い。・・・ただなぁ、進化の影響でフタバの身体が大きくなちゃうとちょっとだけ残念だなぁ。完全に自分勝手な言い草だが。
フタバに限らず俺達もノインとトウオウを除き、皆後二度程進化しておきたいところだな。この話をノインにした所、「そんなに警戒する必要も無いと思う。」と言ってはいたが、俺としてはできる限り準備をしておきたいと思っている。本音を言えば、この森を出る前に強者の森の魔物に一対一で勝てる位になっておきたいと考えている。まぁLvだけが全てでは無い事はこの俺自身が証明している気がするが、それでも万全を期したい。稽古で能力自体は底上げ出来そうだが。どちらにしても進化を目標にする以上、Lvの上昇は必須だけどな。
成長の他にも考えなければならない事は幾つかある。旅をするなら食料を確保しておく必要があるだろう。他にも寝泊まりの問題。安全に旅をしようとするならば、避けては通れない問題だな。結界を張れる技能の取得や簡易的な組み立て式の天幕の様な物を作る事を考えなければならないだろう。そして必要なら皆に武器や防具などの装備を持たせる事も考える必要があるだろう。文明を持ち込んで良いものかと思わんでもないが、これから、大袈裟に言えば世界を救おうというのだ、打てる手は全て打っておきたい。持たせておけば良かったと後悔してからでは遅い。・・・まぁ、それを俺が作ろうというのだ、無いよりましという程度の物かもしれないが。
とにかくやることが山積みだ。頑張ろう。期限は約一年。正確には俺が二歳になったら、とした。
という事で翌日から、つまり本日から早速行動開始となる。となるが、それでも焦らずに行こうと思っている。焦りは思わぬ失敗をしたり、しなくて良い無理をしてしまう事になる。だから並行作業にはなるだろうが、一つ一つ確実にだ。・・・とは言ったものの、何から手を着けたものか。
今日はミナ、フタバ、トウオウとお出かけである。俺の担当がミナ、フタバは今日は俺の日らしい、そしてトウオウは俺が誘った。フタバが俺の日だったので誘った。トウオウが一緒にいるとフタバの機嫌が良いからだ。それなら何時もトウオウに付いて行くのかと思いきや、出かける時は必ずその日に誰に付いて行くのかは何かしらの理由があって決めているらしい。俺にはその規則性は今の所判らない。俺の頭の上に陣取っている。その俺の頭の少し上の左側をトウオウが並走している。そしてミナは俺の左。つまりトウオウが0番という事になる。
他の皆は再び眼鏡蛇一家のご自宅に向かい改築作業をするらしい。ロックはジュウザとサイに、一緒に穴掘りをしようと誘われて嬉しそうにしていた。ノインは「森の外を少し探索してくる。」と言って、単独で出かけた。どうやら事前に少し偵察してくれるつもりなんだろうと思う。他の目的もあるのかもしれないが。ノインの事だ、何の意味も無いという事は無いだろう。
俺達は比較的安全と思われる南の森を探索する事にした。おそらく俺達の住む東の森と生息する魔物の強さに大きな差が無い、と思うから・・・感じるからだ。曖昧な根拠だが、そう直感する。技能の影響もあるのだと思うが。とにかく少しでも新しく足を踏み入れる地域を増やすべく、果樹園より南西に進む事が本日の目標だ。
未開の地に足を踏み入れるのは幾つになっても心が踊るものだ。・・・未だ1歳にも満たないが。勿論見知らぬ土地には、見知らぬ魔物や植物が生息しているだろうから警戒を怠る訳にはいかないが。あの果樹園の様に無数の果実に襲われるのはできれば避けたいところではある。美味いんだけどねぇ・・・。
「ミナ、武器を使ってみる気はあるか。」
頭の上では何やら色々会話をしているが、黙って歩いているミナに話題を振ってみた。まぁ、元々ミナは口数の多い方では無いが。
「ブキ・・・ですか。それは・・・どんなものですか。」
おっと。武器自体がどういうものかよく解らないのか。そこまでは考えていなかった。
「そうだなぁ・・・なんていうか、道具だな。戦う為の道具だ。トウオウの持ってるあの角灯も武器だ。」
そう言って左上を指差す。
「それは、私に必要ですか。」
そうきたか。気分を害してしまっただろうか。
「必要かどうかは分からないな。でもな、俺はミナは武器の扱いが上手そうな気がしたんだ。」
正直に思っている事を口にした。あくまで俺の直感ではあるが。
「私が・・・。」
「そうだ。ミナは、二足歩行になって手が使えるようになった。手が使える最大の利点は、その手で道具を使える事だ。と、俺は思っている。」
歩きながらだが、ミナは此方を向いて話を聞いている。良かった、興味はあるらしい。
「だから、なんだか勿体ない気がしてなぁ・・・。まぁ道具を使うだけなら手じゃなくてもなんとかなるんだけどな、サイみたいな事も出来なくはないんだけどな。」
「勿体ない・・・ですか。私に武器が使えますか。」
「使える様に稽古すれば良いさ。俺も付き合うし。それにミナには似合うと思ったんだよなぁ。」
そう言って笑ってみせた。何時も通り冗談っぽく本音で。女の子に武器が似合うなどと言って良かったのか、と反省する。それに武器を笑いながら持たせようといている自分にも嫌悪する。でも強くなって欲しい・・・というより、少しでも身を守る術を身に着けて欲しいというのが本音だ。それが魔物から逸脱するものであっても。此処から先は、ああすれば良かったとか、こうすれば良かったとかは無しだ。後悔など先には出来ないんだからな。勿論、ミナ自身の気持ちが最優先である事は言うまでも無いが。
「・・・使ってみたいです、主さま。」
何だか少し恥ずかしそうなのは、なぜだろう。だが使ってみる気になってくれたのは良かった。子供に武器を持たせる事を、喜ばしいと思う罪を俺が一生背負う必要があるが。それでもだ。
「そうか。じゃあ、今度何か作ってみよう。な。」
俺がそう言うと、ミナは「はい。」と返事をして頷いた。心の中で静かに謝罪する。それでも。・・・他の皆にも何か装備品を作る事も考えてみる必要があるかもしれないな。せめて似合う物を考えよう。
「ボクはそんなに気にする必要は無いと思うよ、イッスンの。」
トウオウは進行方向を向いたままそう言った。なんだか見透かされてるな。でもちょっとだけ救われる。
「ありがとよ。」
左手を少し上げて苦笑する。道具や武器を作る為の素材はなんとかなるとしても、加工方法や制作方法がなぁ・・・。『適した技能の取得を推奨します。』やっぱり、そうなりますよね。検討します。取得する優先順位とか。ありがとう。『恐れ入ります。』あぁ、なんだか自分で自分の首を締めている気分だよ。『是、肯定します。』・・・。
色々と思考を巡らせたり、ミナ達と他愛もない話をしながら歩みを進める。あの果樹園を北に見て南側を回り道して西側へ向かう。また今度、皆で行ってみるか。ちょっとしたお祭りのつもりで。良い訓練にもなるしな。だが暫くはご遠慮させていただこう。
という事はこの辺りは初めての場所だ、警戒をし直す。
「ミナ、少し警戒を。」
「何かありましたか、主さま。」
俺の声に反応しミナは緊張する。凄いな。
「そうじゃない。初めて来た場所だからな。」
俺が教えられる事を教えなきゃな。ま、それも大したものでは無いけどな。それに今回は我一家最強の危険探知梟が一緒だから特に必要ないと言えばそれまでなんだけど。それでも何時もフタバが一緒な訳じゃない。覚えておいて損は無いはずだ。
「はい。」
ミナは緊張を乗せた返事をして辺りへの警戒を強める。このやり取りを頭の上で聞いていたフタバも、感心したような可愛い鼻息をしてちょっと気合らしきものを入れた様だ。それを感じ取ったトウオウも「ふふ。」と微かに笑った様だった。
そこから少し進んだ時だった。別段普段の森と大きな違いは無い様に見える場所なのだが、何か違和感がある気がした。
「ちょっと待て。」
直感を信じてその場に止まる。・・・何かおかしい。だが何がおかしいのか分からない。俺の雰囲気が変わった事を感じ取ったミナとフタバも警戒を強める。トウオウはというと・・・何やら小刻みに震え始めた。ん?最近気付いたんだが、トウオウがこういう風に揺れている時は大抵笑いを堪えている時だ。って事はだ、トウオウは何かに気が付いているって事だな、この違和感の原因に。
「ねぇ・・・トウオウ。あれ。」
何も見つけられない俺の頭の上で、フタバが呟いた。しかも少し楽しそうに。・・・フタバはこの違和感が何処にあるのかを発見したらしい。くそう。流石、超高性能探知梟。
「そうだ、フタバ。・・・面白いなあ。」
そう言って笑いを堪えている。フタバも頷いて一緒に笑いを堪えている。えぇ・・・気が付くとそんなに面白い事なのか。まさか気が付いていないのは俺だけなのかと不安になりミナに視線を向ける。ミナは怪訝な表情で景色を凝視している。どうやら答えを発見しつつあるようだ。どうしよう、俺だけ分からなかったら、格好が悪いなぁ。
こういう時は焦ったら負けだ。おそらく鑑定の技能を使えば簡単に分かるんだろうが、トウオウもフタバも使用せずに看破していた様に見える。この初めて訪れた土地とはいえ見慣れた森の景色の何処におかしな所があると・・・。
「えぇ・・・嘘だぁ・・・。」
それを発見して思わず声を漏らす。
「見つけたかい、イッスンの。面白いだろう。」
「あぁ、そうだな・・・。」
答えが分かると何とも間抜けな光景だ。そう、此処は森の中。その森林を構成する樹木の大半は空を目指し先を競う様に直立している。その真っ直ぐ乱立する木々に紛れて、明らかに様子のおかしい木が一本ある。それを侘び寂びと表現するのが正しいかは不明だが、実に趣のある曲線を描いて立っている。しかも周辺の木々は広葉樹なのに対し、それは針葉樹・・・。俺が記憶しているものでそれを言い表すなら、「松」だ。お、ミナも気が付いたようだ。
「なぁ・・・あれは擬態しているつもりなのか。」
もしそうならあまりにもおそ松・・・もとい、お粗末だ。
「んん、おそらく違うだろうね。」
「どういう事だ。」
「そうだねぇ・・・あれはおそらく植物の魔物というより、植物が魔物化したものだろうね。」
植物が魔物化した、だと。トウオウの回答に眉間に皺が寄る。
「植物系の魔物には種子等で子孫を、個体を増やすものと、魔力や霊力に晒された事によって魔物に変異したものがいる。」
なるほど、そういう事か。そしてあの「松」は後者だと。
「あれはたぶん西の森にある魔界と繋がる穴から漏れる魔界の大気の影響で魔物化した個体だろう。」
「そうか。じゃあ西の森にはあんなのが沢山いるって事か。」
もしそうなら、西の森はかなり面倒臭いな。
「それは無いんじゃないかな。木々が魔物化するのは極めて稀だ。ボクも数える程しか見たことがないよ。」
「それって、あれは元々、木だった、という事なの。」
あ。そうだな、フタバの言う通りだ。仕組みはどうあれ植物が魔物に変異した。
「そうだねぇ・・・。正確にはあれは動けるようになった植物かな。」
動けるようになった植物か。フタバも何度か頷いて、何かを考え始めた。
「じゃあ、あれはまだ植物って事だな。植物系の魔物とは違うって事か。」
「んん、どうだろうねぇ。これはボクの見解だけど、あれが種子を蒔き、それが魔物として育つんじゃ無いかな。」
なるほど、ファンタジーとはいえ納得のいく話だ。
「凄い。あれが、植物の、魔物の、最初だね。」
フタバが目を輝かせて、翼を振っている。
「そうだね、フタバ。フタバは賢いねぇ。ボクが百数十年掛けて辿り着いた一つの答えを理解出来るのか。」
その通りだな。俺は元々異世界人で、優秀だったとは言えないが「人並み」に義務教育を受けてきた。・・・はずだ。だから生物の進化の簡単な仕組みぐらいは理解できる。だがフタバはこの世界に生まれたばかり。恐れ入る。人間と魔物の成長速度が違うとはいえ、森の叡智は伊達では無いという事だな。
「って事は、あれはまだ植物って事だな。」
「ボクもそう思う。」
「そうかぁ・・・。じゃあ内蔵もへったくれも無い訳だ。当然、此処も。」
そう言って自分の左のこめかみを左の人差し指で啄く。
「そういう事になるねぇ。まぁ霊体に近いボクが言うのもなんだけど。」
トウオウはそう言って笑った。そう言われてみればそうだった。このトウオウこそファンタジーだな。
「じゃあ・・・どうしようかなぁ。あれは放っておいた方がいいのかな・・・と。」
「それはどうだろうねぇ。あれは魔界の大気の影響だと思うけど、もしかしたら増えるかもしれない。」
「もっとまずいのが・・・か。」
トウオウは黙って頷いた。世界を滅ぼす可能性のある何かの影響で、か。
「切り倒しておいた方が良いと。」
「森の魔物がいなくなってしまう前に。と、ボクは思う。」
そうか、そうだな。自然の流れに俺が水を指すのもどうかと思うが、俺が・・・俺達がこれからしようとしているのは、その流れに抗い逆らうという事だ。まずは手始めに近場の森の平穏を守るとしよう。
「ミナ、あれを切り倒すぞ。」
声を掛けるとミナは静かに頷き「はい。」と答え、戦う者の顔になる。
「そうだ、ミナ。試しに使ってみるか、武器。」
そう言ってアイテムボックスの中に手を突っ込む。そしてお目当てのものを掴み引っ張り出す。
「これだ。」
そう言って、それをミナに渡す。ミナは受け取ったそれの持ち手を掴みまじまじと見つめ、それが何であるかを考えている。
「斧だ。」
元々は大斧箆鹿の角だ。それをなんとか分解して、なんとなく斧として使えるように加工したものだ。大斧箆鹿の頭に左右一本づつ生えていた角。手に入れた角は二本。一本の角から大小各一本づつ斧を・・・斧らしきものを作ることができた。その内の小さく斧として形の良いものをミナに渡した。まぁ、加工と言っても扱い易い様に持ち手を削ったといった程度のものだが。そして小さいとはいえ、現在俺より身長の低いミナにとっては手斧より少し大きい位のものだ。武器・道具の初心者には些か扱い難いかもしれない。だがこの状況で最も適しているものを渡したつもりだ。俺は大きい方の少し不格好な斧を引っ張り出す。
「これが・・・武器・・・。」
戸惑っているのか、緊張しているのか。ミナのその感性は悪くないと感じる。
「本来それは、木を切り倒す道具だ。」
「それでは今回の戦いにうってつけだねぇ。」
勿論トウオウの言う通り、そのつもりでもある。・・・が、方法がこれで合っているのかは疑問が残る。
「なぁ、トウオウ。根元の辺りで切り倒す・・・で合ってるか。」
「おそらく大丈夫だろう。残った根元の方を逃さなければ。」
あぁ、なるほど。根絶やしにしろと。あいつはあくまで植物。土に根ざし養分を得る事ができれば、また枝が伸び葉を付ける・・・か。
「了解した。まず切り倒す。そしてその切り株を確実に仕留める。いいな、ミナ。」
「はい。」
ミナは気合と緊張を一緒に握り込んでいる。
「ミナ、初めての戦い方になる。無理して本体の根元を狙わなくて良い。おそらく襲ってくる枝を払うだけでも構わない。なんなら武器を持ったまま避けるだけでもいい練習になるだろう。」
「はい。」
「よし。じゃあ、トウオウ、フタバを頼む。」
「あたちも、やるぅ。」
俺の頭の上で身体を揺らし駄々を捏ねている。後頭部がくすぐったい。
「分かったから、ここからミナお姉ちゃんの援護してくれ。な。」
危険な目に合わせたくないというより、こいつが相手だと相性が悪そうだと思ったからだ。木の魔物もどきに土系統は・・・ねぇ。「うん。あたちも、頑張る。」
良かった。満足気に可愛い鼻息を噴出させた。
「あ、火の法術は駄目だぞ。森が火事になるからな。」
「あい。」
高い声で返事をした。
「フタバはボクが責任を持って守ろう。」
トウオウはそう言って、右手の角灯を振って槌に変形させた。おぉ、これぞファンタジー。理屈がさっぱり解らない、最高だ。確かに見た目は先に角灯の付いた杖だな。
「ミナ、始めようか。」
ミナが頷くのを確認して、動く木(松)に向かい走り出す。
接近する俺達に反応して枝を伸ばし襲い掛かってくる。俺は右に、ミナは左へと飛び退く。伸ばした枝が軌道を変え追尾してくる。
「ちぃっ、面倒な。ミナ、気をつけろ。こいつの攻撃方法がこれだけとは限らないぞ。」
ミナは目だけで俺に返事をする。そして追尾してくる枝を右手に持った斧で華麗に切り払っている。生粋の戦士だな、全く。初めての武器を此処まで扱う事ができるものなんだろうか。才能・・・かな。羨ましい限りだ。
俺の方はどうかといえば、斧の扱いはあまり上手くいかず、足に風刃を纏わせ斬撃を飛ばし切り払っている・・・。何の為の武器なのか。ミナに偉そうな事を言った手前、この後どうしようかな。思ったより上手く近づけないし・・・。今の所、枝を伸ばしての攻撃だけだが、おそらくこれだけって事は無いだろうな。困った。どうすっかな。ミナの方はフタバが風の法術で的確に援護しているから問題無いとして。そんな事を考えながら鞭の様に撓りながら襲い掛かってくる枝を躱し続けていると、木の本体の上部で何かが瞬く様に煌めいた。直感的に何かまずいと、少し大袈裟に飛び退く。ちぃっ・・・何かが左手を掠めた。というか、何か刺さった。
「痛っ。」
自分の左手を覗き込む。くそう、松の葉が二本。即座に自分の状態を確認する。毒等の異常は無し、大方の予想通りだ。しかし、ただでさえ枝の攻撃で近づき難いのに、更に飛び道具とは。面倒な。
「主さま、大丈夫ですか。」
「特に問題無い。それより気を抜くな、針の様な葉を飛ばして来るぞ。」
また偉そうな事を、避け切れずに被弾したくせに・・・。くそう、格好良いとこ見せないとなぁ。子供達の為にも俺が格好良い背中を見せないとな。獣神の様にとはいかなくても、おこがましいかもしれないが師範方の様に若い世代の良き手本になりたい。・・・決して師範方が獣神に劣っていると思っている訳では無い。どちらが今の俺に実現可能か、という事だ。ちょっと滾って来た。合気にあるまじき行為だな・・・まぁ、今はこれでいい。刺さった針の様な松の葉を抜く。まるで針金だな。その辺に投げ捨てても良かったんだが、ここで片付けられない男の本領を発揮して、ついアイテムボックスに投げ入れる。
「イッスンの。ミナの方がいい動きをしているぞ。」
「知ってるよ。」
茶化すトウオウに自分に呆れた声を出す。おのれ南瓜の魔王め、痛い所を。仕切り直したいな・・・ただ、その間が無い。なんとかもう少しあいつの攻撃の軌道が読めれば。・・・あ。あの目の力を使えれば。っていうか、これからの事を考えるとこの力を任意に使える様にならないとな。良い機会だ、松の木殿には悪いが練習相手になってもらおうか。
軽快に飛び回り攻撃を躱すミナを確認して、俺は少し距離を取る。それにしてもあのミナの動き、兎の俺よりちゃんと良い様に感じる。そりゃそうだよなぁ、ミナは眼鏡蛇だもんな。柔軟性が違う、嘘みたいな方向に身体が曲がってるよ。安心して仕切り直す為に、姿勢を整え目を閉じる。集中し星目の発動を意識して目を開ける。見える景色が少し変わる。追い込まれた時の様に軌道が線となって見える状態ではなかったが、なんのなく軌道が予測できる。完全とは言えないが任意発動する事が可能な事が分かった。そしてこれで大分戦い易くなった。
これなら攻撃を掻い潜りあいつの横っ腹に一撃くれてやる事ができそうだ。右足を後ろに引き、姿勢を低くする。引いた右足で大地を蹴り前へと跳び出す。顔を狙う横薙ぎの枝を更に姿勢を低くして躱す。右上方から売り降ろされる枝を右に避けてから飛び越える。左から襲う枝に兎玉をぶつけ軌道を変える。だいぶ近づいた、あと少し。上方が横一文字に煌めく。敢えてここで速度を上げて一気に距離を詰める。最初から後方へ引いておいた右腕を目的地に到着と同時に、ここまでの速度も上乗せして水平に振る。
「白兎流格闘術・影技・斧撃偃月。」
渾身の一撃が松の根元の幹に突き刺さる。我ながら会心の一撃が決まった。木に斧が打つかる良い音が森の中に響く。そこまでは良かった。
「あ・・・。」
上手く行き過ぎた。当りが良過ぎて斧が深く食い込み・・・抜けない。




