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34、聖獣と魔王と白い兎

 ノインは言った。「世界の時間があまり無い。」と。だが今の所予感の域を出ないとも言ってはいたが。そして先日ここに、300年・・・位だったと思うけど、とにかく長い時間を掛けてこの世界を旅して周っていたトウオウが加わった。何か知っているかもしれない。何か心当たりがあるかもしれない。それにノインは出会った時から俺と話をしたいって言ってたし。と、いう事でノインとトウオウに話を聞こうと思い声を掛ける。

「私の知っている事で良ければ。」

「ボクも構わないよぅ。お役に立てるかは分らないけど。」

 と快く承諾してくれた。ノインは「私もイッスンに聞きたい事があるしな。」とも言っていたが。おそらくあの事だろうと予想はできる。話す事に抵抗は無いが。話して良いものだろうかという不安が無いではない。まぁ、相手は聖獣様と魔王様だ、大丈夫だろう。たぶん。それより今はこの世界の情報が欲しい。なにせ俺はまだこの森の事しか知らない。それも家のある「東の森」と呼ばれる森の一部だけ。後はこの前ノインと出会った時に見た森の東側の外に広がる風景だけだ。空でさえ何も遮るものが存在しない状態で見た事が殆ど無い。・・・これは木に登って見ようと思えば見えるだろうが。


 という事で、聖獣と魔王と白兎で座談会と相成った。座・・・南瓜の魔王様は常時浮遊しっぱなしだが。時々墜落して笑い転げてはいるが。トウオウは寝る時も家の前面を覆う我らが御神木の根っこにぶら下がっている。始めは首を吊ってるみたいでギョッとしたが今となっては慣れたもので、収穫祭の飾り物にしか見えない。他の皆は始めからあまり気にならなかった様だが。

 そして本日はその御神木の足元で座談会をする。ノインの技能でかなりの大きさになった家の頂上は思ったより遠かった。まぁ今の俺なら浮遊と二段飛びを併用すれば容易く届く程ではあるが。それだと風情が無いので垂直歩行で脇の壁を登っていく。ノインとトウオウは言わずもがな、彼等に高さなど無きに等しい。何処まで高く上昇出来るかは知らないが。そして垂直歩行に風情があるかは疑問だが、そこは不問とする。ただの俺の気分の問題だ。今日は他に何かする予定を立てていないから急ぐ必要も無い。ゆっくり行こう。俺以外の面子も俺からすると桁違いの時を過ごして来たので、時間に対する意識がだいぶ違うので急かす様な事は無い。

 御神木の根元に腰を下ろす。そこから見える敷地の外の景色は以前と変わらない。不思議な感覚だ。何か食うかと聞いてみたが、ノインもトウオウもいらないと言った。基本的には麒麟もパンプキングも食料を接種する必要は無いようだ。食べる事はできるが、大気中の魔力やら霊力やらを吸収しているから大丈夫なんだそうだ。それでも時々ロックや子蛇達に差し出された木の実は喜んで食べている。ま、食べちゃいけないものなら断るだろうが、そうでないなら俺でもそうする。木の実ついでに、先日開いた銀胡桃を食べたら植物鑑定がLv10になった。そして花占いという技能を取得した。・・・何の役に立つのだろうか。後で調べて分かった事だが、どうやら銀胡桃の実を食べると取得可能なものの中から無作為に何か一つ技能を取得できるらしい。変な木の実だがポイント無しで何か技能が取得できるのは面白いなと思う。見つけたら必ず拾おう。・・・此処まで過ごしてきて、最初の一個以外発見した事は無いが。


 メントグローブの小枝を口に咥え一息着く。さて何の話からしようかと思案する。まぁどれもこの世界の事についてである事には違いないんだが。でもまぁ、これからかなぁ。

「なぁ、この世界に人間っているのか。」

 正直一番気になっているかと言われれば、意外とそうでもない。ただ存在するのであれば、かなり気をつけなければならない生物である事は間違い無いからだ。

「ふむ・・・。まず気になるのは、やはりそこか。」

 ノインは何か納得した様子だ。うぅん、おそらく俺の素性・・・というか、俺がどういう存在かという事におおよそ見当がついているのだろう。そしてそれは、たぶん当っている。

「人間かぁ、それって人、いわゆる人種ってことだよねぇ。」

 トウオウが俺に確認する様に質問した。

「そうだな。」

「たぶん、いない。・・・今はもういないというのが正確かな。少なくともボクはこっちの世界に来て、一度も見た事も会った事も無い。」

「そうか・・・。」

 やはりそうか。ある程度予測はしていたが。確かトウオウは300年位此方で過ごしている。その中で一度もとなると存在しない可能性が極めて高い。ま、いるって事を証明するより、いないって事を証明するのは難しそうだが。いわゆる悪魔の証明だ。それが魔王の証言であっても。

「私も同じ様に思う。」

 ノインが賛成票を投じる。大きな一票だ。聖獣と魔王の票を獲得できたという事は、ほぼ確定的だ。あの時見た亡骸から推察すれば、過去存在したが何らかの理由で、生物的に言えば絶滅したという事だろう。なんだか残念な様な、安心した様な不思議な気分だ。だがこの世界の知りたかった事の一つは解決した。

「イッスンよ、なぜその様な事を知りたかったのだ。」

 まあ、そうなるよな。だがこれは確認作業に等しい質問だ。ほんの少し答えに迷う。真実を話す事は別に構わなが、話して良いものかどうかという事に躊躇する。ヤクモ達にはおそらく話さなくてもいいような気もしている。

「話したく無いか、イッスンよ。」

「・・・いや、そんな事は無いんだが。ただ話していいものなのかと思ってるだけだ。」

「ふむ。・・・私は話して欲しい。推察ではあるが、私の中にある程度の答えはある。それを確かめる為にも、良ければ話してくれると私は嬉しい。」

 ノインには話しても問題はなさそうな気はしている。ただ、トウオウがどんな反応をするのかが少し気にはなる。それでも此処は、ノインに対して誠実であるべきだろうと思う。そしてトウオウの方は何時も通り、微かにゆらゆらと左右に揺れている。全く心情や思考が読み取れない。

「わかった。・・・俺は、元人間だ。もう少し詳しく言うと、異世界転生者だ。」

「やはり・・・そうか。礼を言う、イッスンよ。」

 やっぱりノインは俺が元人間だという事に何となく気が付いていたようだ。

「元人間?イッスンは人間だったの。」

「そうだ。」

「何時兎になっちゃったの。」

「400日位前から兎だ。ある日突然人間から兎になったんじゃないぞ。兎に生まれ変わったんだ。」

 トウオウは「ふうん。」と言って、何かを考え始めた。

「ではイッスンよ、己が転生者である事を自覚しているという事だな。」

 流石ノイン、鋭い。俺もノインと同じ立場ならそこが気になる。

「そうだな。だが記憶の一部は何処かに落っことしちゃったみたいだけどな。」

「そうか。本来転生とは基本的に前世の記憶は無いはずだがな。・・・そうか、異世界転生か。」

 ここまで来るとノインの存在自体に疑問が湧いても来る。やはり聖獣・麒麟は神に近い存在なのではないかと感じる。

「まぁたぶん、そういう事なんじゃないかと思う。・・・が、にしても些か俺自身でも不可解な部分はあるが。」

 そう、なぜ俺の記憶が不完全なのか、なぜ兎だったのか等の疑問はある。ただこれは答えを知るものに聞かなければ解けない謎だろうな。果たして解ける日は来るのだろうか。

「なるほど。転生の際に何らかの手違いがあった・・・と考えるのが妥当か。」

「たぶんな。後は何か別の理由で、そうせざる得なかったか。」

 俺の答えにノインは納得したように頷いた。

「異世界・・・という事は、この世界には、こっちの世界と魔界の他に世界があるのかい。」

 おっと、そうなるか。だがトウオウの疑問は、確かに当然の疑問だな。

「トウオウよ、おそらくこの世界には此処と魔界以外は存在しないと思われる。」

 なるほど。ノインがそう言うならたぶんそうなのだろう。つまりこの世界には天界や仙界は無いらしい。そしてトウオウはノインの答えに首を傾げている。そりゃそうなるな、見えるぞ疑問符が。

「トウオウ、俺はなこの世界とは違う世界から、この世界の理とは違う理の世界から来たんだ。」

 俺のその答えにもまだ疑問符が消えない様子だ。そりゃ普通はそう簡単には理解できないよな。

「俺のいた・・・前世の俺がいた世界には、技能とか魔法とかLvとかは無かった。そういう世界の人間だったんだ。」

「・・・ほう、なるほど。少し解ってきた気がする。つまりまさしく異なる世界、異世界から来た・・・転生したという事か。」

 まさしく聖獣と魔王だな。長く時を過ごしているからなのか、それとも高位種族だからなのか、理解力が凄まじいな。というか転生自体にはあまり疑問を差し挟まないんだな。ノインに至っては補足じみた事も言ってたし。

「大体分かった。だがなぜノインはそれを知りたかったんだい。イッスンが元人間だということを。イッスンが元人間だと何か問題でもあるのかい。」

「いや、そうではない。私のただの興味本位だ。イッスンがあまりに特異な個体だったので、そうではないかと思っただけだ。それをどうしても確かめたかっただけだ。身勝手だっただろうか、それならば、謝罪と感謝を。」

 ノインはそう言って頭を下げた。ヤクモにも負けず律儀なやつだ。

「問題ないさ。本当に嫌なら話さないさ。」

 俺はノインに両手を振って見せた。

「じゃあせっかくだから、ボクも失礼ついでに聞いてもいいかい。」

 とのトウオウからの申し出だ。

「もう、この際だ。何でも良いぞ。答えるかは分からんが。」

 もう俺の一番の秘密は話してしまったんだ、特に問題は無いだろう。普通に考えたら、驚くべき事を告白したのにも関わらずノインとトウオウに明らかな態度の変化も無い。それも何となく話す前から分かっていた様な気がする。

「そうかい。イッスンの前の世界・・・前世だったっけ、その前世では人間だった。その時には角はあったのかい。」

 へぇ、面白いな。そんな事が気になるのか。

「いや、本来人間には角は無いな。もしかしたら角のある人種がいたかもしれないが、少なくとも俺は見た事も、いるという話しも聞いた事は無いな。」

「なるほど。つまりその角は、前世の名残ではないのか。」

「そうだな。ついでに言えば、前の世界の兎にも角は無い。」

 トウオウは、ついでの方の答えに「そうなのかぁ。」と嬉しそうにしていた。

「それから、技能や魔法やLvも無かったんだよね。それって凄く不便じゃないのかい。」

 おお、今度は王道な質問だ。俺はこの質問が一番最初だと思ってたよ。

「トウオウ、それはな技能や魔法が当たり前にあるのが前提の側の質問だな。」

「・・・ああ。そうだね。始めから無い事が前提なら、それが当たり前という事だね。」

「そういう事だ。」

 俺とトウオウのやり取りにノインも興味深げに「ほう。」とか「ふむ。」などと言いながら頷いている。しかし理解力が高くて助かる。同じ事をジュウザに説明しようとしたらどれくらいの時間が必要になるかしら。ジュウザよ、引き合いに出してすまない。

「技能や魔法やLvの類は空想の中にしか無かったかな。」

「無くても想像はできるのか。夢見る事は可能なのか。それはある意味、素晴らしい事だな、イッスンよ。」

「あぁ、そうだなノイン。俺もそう思う。」

 そう思えるノインも素晴らしいなと感じる。俺も前世でそう思えていたら、何か変わっていただろうか。・・・分からんな、なにせ覚えちゃいないんだからな。

「イッスンの。じゃあ、どうやって生活をしていたんだい。」

 そうなるか。角灯を持った洋燈の王の発言とは思えないが、きっと純粋にそう思っているんだろうな。

「知恵と知識を蓄えて、そこから様々な道具を生み出し、それらを工夫して利用していたってとこかな。」

「技能や魔法の代わりに、道具を使っていた、と。なるほど、道具か・・・興味深い。」

「トウオウよ、洋燈の魔王が何を言っているのだね。」

 まさかのノインが突っ込んだ。まぁノインが言わなきゃ俺が言ってたが。

「あれぇ、本当だ。」

 トウオウはそう言って楽しそうに笑った。何時もと違った情報を大量に接種したせいでちょっとした興奮状態で冷静さを欠いているのだろう。楽しそうにしているから別に構わないが。

「そういう事だ。この世界の人間も・・・少なくとも600年以上前には洋燈を使っていた事になるな。」

「そうだねぇ。」

「って事は、トウオウはその時に生まれた新しい種族って事なのか。」

 俺もただの興味本位で聞いてみた。文明の利器として洋燈がこの世界に存在する前からランプキングが存在したとは考えにくいからだ。可能性は極めて低そうだが、火や松明の・・・魔族が種族進化した可能性もある。だがそれも洋燈が発明されてから進化の選択肢に加わったと考えるのが自然だろうな。つまり洋燈が先にあったと思うわけだよ、俺は。

「たぶんそうなるねぇ。ボクはこの洋燈に魔界の魔力や霊力によって宿った命と考えるのが一番自然かな。」

「へぇ・・・じゃあ付喪神みたいなもんかぁ。」

「なんだい、そのツクモガミって。」

 おっと、そりゃそうだ。

「うぅんと・・・俺の前世で住んでいた国では、長い時間大切に使っていた道具には神様が宿る・・・神様になるって言われていたんだ。」

「ほぅ・・・それは面白い話しだね。」

 これにはノインも興味深そうに反応した。

「なるほど。・・・だけどボクは神様じゃないよ。どちらかというと、精霊や妖精に近いかな。」

 トウオウも楽しそうに答えてくれた。・・・それより今、気になる事を言ったな。

「この世界には精霊や妖精がいるのか。」

 ノインもトウオウも同時に「うん。」と頷いた。そして互いに目を合わせ、どちらが話をするかの相談を無言でした。その結果トウオウがする事に決まったらしい。

「いるよ。ボクも此方の世界で何度か会ったよ。ボクが魔族でも自分達に近い存在だと分かると、結構友好的に接してくれたよ。」

 おお、いるのか。俺も会ってみたいな、会えなくとも見てみたいな。

「あぁそうだな。彼等は自分達に危害を加えなければ比較的、友好的だ。だが私も以前に話しをした事があるが、昔に比べると数が減っているらしい。出会うのは難しいかもしれないな。」

「そうかぁ・・・。数が減ってるのか。その原因は分かっているのか。」

 俺がそう言うと、ノインの表情が緊張を帯びる。あぁそういう事か、これが今回の本題の一つと大きく関わるって事か。トウオウもノインを見て「ああ、おそらくそうだね。」と言って頷いてみせた。 

「うむ。少し順を追って話そう。良いかね、イッスンよ。」

「あぁ、問題無い。・・・むしろ俺としては、そちらの方がありがたい。俺は異世界からの来訪者だ、この世界について知らない事が多いからな。」

 そうだ、俺はこの森以外殆どこの世界の事を知らない。・・・この森の事さえまともに知らない。今俺に最も必要なのは、この世界を生き抜く強さと、この世界の情報だ。そしてこの2つは決して別のものという訳でも無い。情報こそ力だ。敵を知り己を知れば百戦危うからず、だ。まぁ・・・魏武注に記されている正確な内容とは少し異なるが。そして俺は何と戦おうというのか。更に敵とは何だ。敵が存在するのかすら今の所、解らない。それを知る為にも重要だ。「世界の時間」とやらに関わるなら。

「では。精霊はともかく妖精という種族は清らかなる場所にしかいない。聖域とまでは言わないが、それに近しい場所でしか生きられないのだ。」

 なるほどと頷き、トウオウを見る。・・・あれ、清らかなる場所ですか。俺の疑問が顔に出たのか、トウオウがその疑問の答えをくれた。

「イッスンの。ボクは存在がそれに近いだけで、あくまで魔族だよ。魔界で350年も生きてたんだよ。」

 あぁそうでした。トウオウは魔王でしたね、それで清らかなる場所も無いわな。基本は魔界に住むただの一種族という事か。で、魔族というだけで悪魔の類では無いから聖域とか関係ない訳だ。普通に我が家で一緒に暮らしてるもんねぇ。

「そういう事だな。続けよう。その妖精が住める、清らかな地域が極端に減っているのだ。なんというか、淀みの様な濁りの様なものが世界を覆いつつあるから・・・と私は考えている。」

「なるほど・・・。それはかなり深刻な状態なのか?」

 ノインはゆっくり首を振る。

「今はまだ・・・といった感じだが。」

「なら、どうして。」

「妖精達は酷く繊細なのだよ。少しでも汚れた場所では生きて行けないのだよ。その淀みが世界を覆いつつある事が彼等にとっては深刻な自体なのだよ。」

 そういう事かぁ・・・。でもそれなら人間、人種族が存在していた頃から住める場所が減っていたのでは。大体諸悪の根源は人間と決まっているからな。

「人間がまだいた頃は大丈夫だったのか。」

 俺としては人間を悪者にしたい訳じゃない。今この世界を「淀み」だか「汚れ」だかが滲み出るように蝕んでいる事が原因であり、それがこの世界に悪影響を与えているという根拠・・・の様なものが欲しい。

「それはおそらく大丈夫だったのではないかと思う。その聖域の類に近づける者は限られていた、と考えられる。たとえ魔界獣でも近づくのは本能的に避けていたと。・・・まぁトウオウの様に存在が近しいものには関係ないかもしれないが。」

「そうなのかぁ。ま、ボクには悪意なんかないけど。」

 そう言って頭の南瓜を小刻みに揺らして笑った。たぶん冗談のつもりで言っているんだろうけど、俺とノインから見るとそのとおりだなと思う訳で。俺とノインは見合わせ苦笑い。

「あぁ、つまり・・・聖域に近づけるのは聖なる者、清らかなる者だけって事になる訳だ。・・・あれ?じゃあ俺達は・・・。」

「魔物に妖精を襲うようなものはいないよ。」

 魔物は動物に近い存在・・・この世界では動物とは魔物の事と考えるのが妥当か。動物に妖精を襲う様な本能は備わっていないという事だ。・・・いや、それなら何で此処は安全なんだ。

「そうなると此処は必ずしも安全じゃあないのか。」

「ああそうか。聖域には魔物も基本的には近づかない。清らかなる場所には近づく事はある。そしてイッスンは白い兎だ、それも幸運と星に愛された。属性は限りなく聖に近い存在と言って間違い無いだろう。そしてその従者達が此処に入れない訳は無い、という訳だよ。」

 ああ、そう。・・・俺って聖なる生き物だったんだぁ、知らなかったぁ。幸運と星に愛された・・・か。まさか知らないうちに誘導されたのか。『否、否定します。』じゃあ、たまたまか。『否、否定します。』え、違うの。『白い兎だからです。』なるほど、重要なのはそこか。『是、肯定します。』ありがとう。『恐れ入ります。』

「そうか。とするとやっぱり原因は人間じゃ無いって事か。まぁ300年以上前から存在してないから、可能性は低いか。」

「うむ。少なくとも私はそう考えている。」

「そしてその世界を蝕む「何か」の発生源が何処かにあるって事だな。」

 遂に本日の本題に近づく。さて何が出るやら。

「そういう事になる。」

 ノインの顔に今一度緊張の色が浮かぶ。

「で、その「淀み」が世界に満ちるとどうなる・・・どうなると思う。」

 ノインは一度息を吸い込んで言葉を探す。トウオウは空中に静止してその言葉を待つ。俺もだ。口に咥えた小枝の先を歯で軽く噛み上へと持ち上げる。

「おそらく、生あるものは存在できない世界になるのではないかと思っている。・・・あくまでも推察の域を出ないが。」

 死の世界か・・・。穏やかな話しじゃないね。

「そしてその発生源の場所もおおよそ検討がついている?」

 ノインは俺の目を見て静かに頷く。トウオウの方を見ると、トウオウも黙って一度頷いた。

「ノインとトウオウは場所の検討がついていて、何とかしようとは思っていない。もしくは出来ない。」

「そうだ。敢えて言うなら、私の場合は両方。」

 理由は両方か・・・。

「ボクも似たようなものだよ。」

「出来ないという理由は理解できる。しない理由を聞いても良いか。」

「勿論だ、イッスンよ。私は基本的にはこの世界になるべく介入しない事にしているからだ。たとえ滅びる事になったとしても。その行く末を見守りたいと思っていた。それでこの私自身が滅する事になっても。」

 あくまでも傍観者でいるつもりだったのか。他の誰かが聞いて納得するかは判らないが、俺には理解に足る理由だった。

「ボクは此方の世界に来た時から、観察者に徹すると決めてた。」

 似たような理由ではあるが、俺達に出会うまでのトウオウの経緯を考えれば当然の答えと言えなくもない。

「そうか・・・。」

 俺にはノインとトウオウを批難する事は出来ない。

「でもね、イッスンの。この世界から生き物がいなくなっちゃうのは寂しい。それにボクはせっかく出来た家族を失うのは嫌だ。だからね、もしイッスンがその原因を何とかしようとするなら、協力するよ。」

 意外な答え・・・いや、それはトウオウに失礼だな。

「そうか、ありがとう。」

 礼を言って頭を下げる。素直に嬉しい。

「イッスンよ。私は聖獣・麒麟だ。君のことだから、その意味する所をある程度知っているのではないか。」

 俺はその視線を受け止め、深く頷く。それを確認してノインも答える様に頷く。

「その本来の役目を果たそうと思う。どうだろうか。」

 その言葉に、俺は深く深呼吸をしてから黙ってゆっくりと立ち上がる。

「一つ聞いても良いか。」

「初めて会った時からだ。」

 していない質問の答えが返ってきた。敵わないなと苦笑する。

「じゃあ、なぜ。」

「私のせいで生き方を縛ってしまうような気がして、な。」

 良いやつだな、ノインもトウオウも。だから尚更だ。

「ありがとうな、ノイン。俺からも頼むよ。」

 俺のその言葉を受け取るとノインは目を閉じた。そしてその右目から一粒の涙が落ちるのが見えた。その優しさに、その気遣いに俺の胸も熱を帯びる。ノインはゆっくりと目を開く。

「我は聖獣・麒麟、名はキリノイン。今この時より白き兎・イッスンに臣下として仕え、そのゆく道を指し示す標となろう。」

 そう言ってノインは俺の前に跪いた。すると何時もの儀式の様に身体が輝き出す。どうやら絆の更新が起きたらしい。だがそれは今までと違い、その光が治まること無く輝きを増していく。眼の前が白く染まり見えなくなっていく。するとその光の奥からトウオウの声がする。

「イッスンの、ボクも光ってるよ。」

 なんですと。麒麟との君臣の絆は特別な意味があるのか。・・・あるよな、そりゃあ。


ーー《特殊技能・聖獣・麒麟の誓いを取得しました。》ーー

ーー《特殊技能・麒麟の守護を取得しました。》ーー


 俺はこの通知に「ああ。」とか「おお。」という反応しかできなかった。勿論後でちゃんと詳しく確認はしたが。

 普段より多めの光も暫くすると治まっていた。視界が戻って来て、トウオウを見ると首をあらゆる方へ向けて戸惑っている事を表現していた。俺と目が合うと落ち着きを取り戻した。いやまさかトウオウも光るとは思わなかったな。・・・あれ、これって他の皆はどうだったんだろう。出先で急に光ったりしたら大変だよなぁ・・・大丈夫だろうか。

「イッスンよ、あらためて受け入れてくれた事、礼を言う。」

「問題無い。これで、俺がこの世界に転生した意味が少し理解出来た様な気がするよ。」

 本音だ。これが本当に転生した理由や意味であるかは判らないが。それでも少しでもそういう理由があると安心するし、無理矢理でも納得できる。

「こちらこそ、あらためてよろしくな、ノイン。・・・ところで、余韻の中で申し訳ないが聞いても良いかな。」

「勿論だ。」

「世界の時間はどれくらい残っていると思う。」

 この質問を俺はノインとトウオウを交互に見てした。トウオウはノインに先を譲る。ノインの方は慎重に答えを探す。

「・・・一年、二年という事は無いだろう。おそらく・・・七、八年位はまだ大丈夫だろう。」

「そうだね、ボクもそう思うよ。一年位の誤差はあるかもしれないけど。」

 そうか・・・。確かにそれだと世界中を旅して周るには時間が足りないかもな。期限は長くて十年弱、短くて六年と言った所か。

「わかった、ありがとう。・・・俺の計画では後二年位はこの森でと思っていたが、一年で森の外へ出る準備をする。良いかな。」

「私はそれで良いと思う。」

「ボクはイッスンの言う事に従うよ。」

 何の迷いもなくそう答える。皆にも帰って来たら話をしないとな。

「取り敢えず、その場所を確かめに行く事が目標だな。案内、頼むぞ。・・・一年先になるけどな。」

 そう言うと「ああ。」「任せてくれ。」と明るい声で答えてくれた。


 これで俺のこの世界での目的が出来た。少し前までなら俺もノインやトウオウの様にこの世界の事象に介入しようとしなかっただろう。それこそ自然現象に逆らうような事を。勿論、その中で生き抜こうとはしたと思うが。だが今は違う。この世界にも俺にとって失いたくない家族が出来た。だから抗ってみようと思う。俺が抗った所でどうにか出来る保証は無い。だが俺はまがりなりにも麒麟に選ばれた。ならば可能性はある。可能性があるならやってみる価値はあるはずだ。それにきっとやらずに後悔するより、挑んで失敗する方が良いはずだ。何より俺がそうしたい。だから・・・。


 「さあ、始めようか。」

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