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32、夢が叶った日(裏)

 今日は念願叶って、多少妥協した所もあるが、釣竿が完成したのでそれを持って釣りに行く事にした。お供にヤクモとスーアン、そしてフタバだ。本日子蛇達とロックはノインが家で面倒を見てくれるらしい。ミナとロックは稽古をするのだそうだ。その稽古にジュウザも参加すると言っていた。サイは鎖の事を含め技能の実験と研究をするのだそうだ。大丈夫かなと少し不安になるがハクもモモカもノインもいるから変な事にはならないだろうと思う。だろうと思う。ハクは新しく取得した技能を使って試したい事があると言っていた。モモカはノインにだけ面倒を見て貰うのは申し訳ないからと言って残ってくれた。此方こそ、なんか申し訳ない。大物を釣って帰るからな。それにしても皆すぐにノインに懐いたなあ。これも聖獣の力なのだろうか・・・違うな、たぶん性格や雰囲気かな。今日もいい天気だ、釣日和。穏やかな一日になりそうだ。

 フタバは普段家にいる時はだいたいノインの角を止まり木にしている。それでも出かける時は、俺、ヤクモ、モモカ、スーアン、ノインの誰かについて行く。どうやら何かフタバの中に決まりがあるみたいなのだが、決まった順番でという事では無いらしい。一緒についてくると、とてもありがたい事がある。梟なので元来夜行性なので殆どの時間誰かの頭の上で寝ているのだが、危機察知能力が非常に高く、魔物の接近を誰より早く察知し報せてくれる。さながら可愛い警報機だ。そして本日はヤクモの日らしい。


 先日ノインが言った「世界の時間が。」という話は、あくまでそんな予感がするという程度の事らしい。まぁそれでも聖獣たる麒麟の予感だ、全く無視する訳にもいかないだろう。そう感じる原因をそのうち調べに行く必要があるかもしれないな。ノインが言うには今すぐにどうこうという事でも無いらしいので、充分に準備してからと思っている。それでも当初の俺の中での予定では、二三年はこの森でゆっくりと鍛えてからにしようと考えていたが少し早める必要があるかもしれない。おそらくノインがいればなんとかなってしまう気はするが、それは最終手段だろう。とりあえず北の森の強者とある程度対等に渡り合える位にはなってからと思っている。まああくまで目安の数値はあの馴鹿を基準にだが。勿論、そう上手く行くとは限らないが。

 という訳で一年位を目標にしようと思う。焦らず行こうと思う。なので暫くはノインも加わった環境に慣れる為にゆっくり過ごす事にした。なので、釣りである。時間は沢山ある。なにせこの世界では、一年が648日もあるんだ。・・・そう言って先延ばしにして結局やらずに終わった事が幾つあっただろう。覚えてない、覚えてない。記憶が無いんだから。・・・なんてな。命懸けのワイルドライフだ、ちゃんとするさ。それでも休息や息抜きは必要だ。ゆっくり研究したり、考えたりする時間も。そんな時には釣りはうってつけだろ。些か言い訳がましいが。


 家から西に向かい歩き出す。ノイン二頭分から三頭分位の川幅の支流が目的地だ。

「主殿、そんな物で本当に魚が捕れるのですか。」

 俺も浮かれているのか、家から担いでいる釣竿を見て両耳の間に寝ているフタバを乗せたヤクモは不思議そうに言った。

「さぁ、どうだろうなぁ・・・。それを今から試しに行くのさ。」

「なる、ほど・・・。」

 魚を釣るのが釣りだが、釣れないのも釣りなんだよなぁ。今のヤクモには少し難しいかもなぁ。

「なんだか楽しそうですね、主様。」

 スーアンが笑顔でそう言った。そんなに楽しそうな顔をしているんだろうか、だいぶ浮かれてんな俺。今日は良いんだ、だって俺はまだ子供だし。うぅん、子供を都合の良い言い訳に使っている気がしてきた。

「まだ楽しいかは分からないが、楽しみだな。」

 と笑う。スーアンは「それはよろしゅうございますね。」と笑い返す。今日は久し振りに子供達から開放されて心なしか肩の力が抜けている様だ。良い事だ。たまには母を休む日があっても良いはずだ。完全な聖域となった家にいれば心配無いからな。それにノインもモモカもいる、魔王でも現れない限り大丈夫だろう。ま、蛇の肩が何処にあるのかは不明だが。フタバはヤクモの上で、「ぴす、ぴす。」と気持ち良さそうに寝息を立てている。

「こんなに寝てるなら、家で寝てればいいのに。面白いやつだな、フタバは。」

 ヤクモの上のフタバをそっと撫でる。気持ち良さそうにもぞもぞする。

「そうですね・・・。しかしフタバも何か我々には分からない何かを感じているのでしょう。」

「えぇ。この子には私も何か不思議なものを感じます。」

 ヤクモとスーアンの話に「うぅん。」と曖昧な返事を返す。フタバの事は、フタバ自身がまだ話すのが上手くないのもあって、いまいち良く分からない。ロックは引っ込み思案といった感じだが、フタバは掴み所が無い印象だ。まあ、フタバの場合は考えている事の量とそれを言葉にして表現する量に大きな差があるんだと思う。成長に合わせてその差が縮まって来るだろう。つまり時間が解決してくれるだろう。それまで楽しみに待とう。


 他愛もない会話に心を和ませてはいたが、油断をしていたつもりも警戒を怠ったつもりもない。それが命を危険に晒す行為だと、今日までの経験で嫌と言う程学習したつもりだ。だが近くで微かに声の様なものが聞こえた。確かに俺の索敵能力を凌駕する気配を隠蔽する技能を持っている魔物がいるかもしれないという可能性を想定していなかった訳では無いが、そんなものがこの東の森にいるという想定はしていなかった。戦慄を覚えながらも、歩く速度と首の向きを変えないまま左目の端だけでその声の発生源に一瞬だけ視線を向ける。・・・?!

 なんだあれ・・・。浮いてる・・・角灯らしき物を持ち魔法使いの様な帽子を被った南瓜が。ジャックランタン。直感的にそう判断する。魔物じゃあない、魔族か。

ーー「主殿。」

 ヤクモが思念伝達で話し掛けてきた。流石ヤクモ、いい判断だ。

ーー「魔族・・・だよな。」

 表情と動きを変えない様に細心の注意を払いながら答える。

ーー「おそらくは。」

ーー「なぜこの様な所に魔族が・・・。」

 スーアンも笑顔のまま会話に加わる。全く見事なものだと感心する。おっと。

ーー「確か魔族は、此方から何かしない限りむやみに手は出さない・・・だずだよな。」

ーー「えぇ・・・。私もそう聞いておりますが。」

 スーアンの返答も緊張気味ではある。只なぁ、うちの可愛い危険探知梟は何事も無いかの様にヤクモの上で夢の中。ということは、たぶん大丈夫だろう。・・・たぶん。

ーー「無視だ、無視。何か刺激して怒らせても損するだけだ。気付かないふりだ。」

ーー「かしこまりました。」

ーー「かしこまりました。」

 魔界から此方の世界に来ている様な魔族の殆どは、戦いを好まない者だと聞いた。傍観者・観察者に徹し見ているだけだと。ならば好きなだけ観察するが良い。見られて困る様な生活はしていないはずだ。・・・そうでもないかも。俺達、かなり普通を逸脱してるよなぁ、たぶん。変な事にならないと良いんだけどなあ。

 一応念の為鑑定しようと試みたが、反応しない。・・・そうか、魔物鑑定じゃ無理か。はっ、南瓜だから植物鑑定で何とか・・・ならない。知ってた。セッテさん、魔族鑑定なんて都合の良い技能は・・・ありませんよねぇ。『技能・魔族鑑定を取得しますか。』え、あるの。『是、肯定します。先日、キリノインと友の絆を結んだ際に取得可能になりました。』にゃるほど、それは納得。相手は聖獣様だもんな。『是、肯定します。』セッテさん、取得可能な最大限で取得をお願いします。『技能・魔族鑑定Lv9を取得しました。』え、あんなにスキルポイントがあったのに10じゃないんだ。『取得条件を満たしていません。』そういう事か、セッテさんありがとう。『恐れ入ります。』

 では早速。・・・嘘だろ、Lv9の魔族鑑定でこれか。七割方、判らない。開示した機密文書か。壊れた電光掲示板みたいに欠けている。というより判る部分の方が少ない・・・。ただ能力値が桁番な事だけは明らかだ。えっと・・・種族は、ランプキ・・・ランプキンかな。洋燈と南瓜でランプキンだろうな。ジャック・O・ランタンでは無かった、何だか良く判らながちょっと残念な気がした。職業は不明。っていうか年齢が三桁あるのがかろうじて分かる位で、その他も殆ど何も判らない。やっぱりこれってLvや能力に大きく差がある事が理由だろうなぁ。・・・もう、見なかった事にしよう。そう、今日は釣りに来たんだ。魔物にも襲われないし、今日は穏やかな良い日だなぁ。あははぁ・・・。『本当ですか。』・・・んもうっ。


 自分の気持ちに「無視しろ、見なかった事にしろ。」とおまじないを掛けながら歩く。只、技能の自己暗示は使わない様に気をつける。本当に忘れてしまう可能性があるから。・・・くそぅ、一定の距離は保っているものの、時折小刻みに震えながらついて来る。それにあいつは姿を隠す気も無いらしい。強者の余裕か、はたまた只の無頓着か。顔が南瓜をくり抜いて作った仮面の様で表情からは何も感情が読み取れないし、あの震えも相まって不気味だ。あぁっもうぅ、無視だ、無視するんだイッスン。

「主殿、川が見えてきましたよ。」

「おおぅ・・・。」

 不意にヤクモに声を掛けられ変な返事をしてしまった。そうだ今日は釣りをしに来たんだ。

「さ、始めるか。・・・ヤクモとスーアンはどうする。たぶん俺は殆ど動かないぞ。」

「そうですね、私は辺りを少し散策しようと思います。」

「私は今夜の食料の為に、少し木の実でも収集してまいります。」

「そうか、気を付けてな。」ーー「くれぐれもあいつにちょっかいを掛けないようにな。」

 思念伝達で注意喚起をする。ヤクモとスーアンは無言で頷いた。俺は川の縁の近くに腰を降ろし胡座をかく。

「そういえば、フタバは・・・。」

 とヤクモの方を向くと、計ったかのようにフタバが起き上がった。

「主たま、あたちも、あたちもする。」

 と言って俺の方に飛んできた。

「ん?一緒に釣りするのか。いいぞ。」

 俺がそう言い終わる前にフタバは始めからそこに収まる事が決まっていたかの様に、胡座の足の間に川の方を向いてすっぽり嵌った。フタバの頭を軽く一撫でする。

「では主殿、行ってまいります。」

 その俺とフタバの一連を見届けたヤクモとスーアンは各々別の方向へ散った。

「じゃ、始めようか。」

 と言って俺は釣竿を振りかぶり川に向かい針を投げる。魔物の骨を削って作った釣り針が水の中に落ちる音が小さく鳴った。


 そこから暫くは、定期的に針を川から釣り上げ再び投げ込む以外何も無い時間が続いた。うぅん、やっぱり餌を付けないで釣るのは無理があるかな。それにしてもフタバは飽きずに水の中に落ちた針の行方を見守っている。楽しいのかな、俺は充分に楽しいんだけど。

「主様、調子はいかがですか。」

 戻ってきたスーアンに声を掛けられた。

「全然駄目だな。」

 と笑顔で振り向く。

「そうですか。楽しそうで何よりです。」

 そう言って近くにとぐろを巻いて座った。

「スーアンはどうだった。」

「四箇所程回ってまいりました。上々と言って差し支えないかと。」

「そりゃ良かった。」

 すると川の向こう岸にヤクモが姿を現した。俺が「お。」と声を出し片手を上げると、フタバも真似をしてヤクモの方へ片方の翼を嬉しそうに上げた。それを見たヤクモの方も優しく微笑んで三本の尻尾を二度振った。そして此方に向かい走り出し、ふわりと実に軽やかに川を飛び越えた。音も無く此方側に着地した。

「ヤクモさんは美しいですね。」

 全くだ。俺もそう思う。スーアンの言葉に微笑みながら頷く。

「おかえり。」

「戻りました。・・・で、いかがですか主殿。」

「全く釣れないね。」

 スーアンの時と同じ様に笑顔で答えた。

「そうですか。その割には楽しそうに見えますが。」

「上手くいかないから、楽しいのさ。」

 と言って笑う。「そういうものですか・・・。」とヤクモは難しい顔をして苦笑して近くに腰を降ろした。ヤクモにはやっぱりこの感覚は少し理解し難いんだろうな。


 スーアンは技能の画面を開き「うん。」とか「はぁ。」とか呟きながら色々考えている。ヤクモはその場に伏せ、目を閉じてゆっくりしている。それに釣られたのか、とうとう飽きてきたのかフタバは目が半分ぐらいに閉じてきて俺の足の上で船を漕ぎ始めた。静かな時間が流れていたのだが・・・。

 俺達の後ろの木にぶら下がって静観していた南瓜の魔族が、ゆっくりと近づいて来た。くそぅ、せっかく関わらない様に気が付かないふりをしていたのに。俺は「あぁ・・・。」と溜息混じりに声を出し、ほぼ真横まで来たその魔族の方へ顔を向けた。それと同時にヤクモは立ち上がり、スーアンも作業を中断し向きを変える。そしてその魔族は何事か音を発した。どうやら察するに俺達に何か喋りかけているらしいのだが、さっぱり解らない。今の所俺は魔族言語を取得出来ない。確認済みだ。

「何か用か。」

 俺の言葉が通じるかは不明だが、話し掛けられた以上何かしら反応は返したほうが良いだろう。俺が何か喋っているという事が伝われば、言葉が通じないことが判って貰える・・・と良いんだが。

 だがその南瓜はもう一度何か言葉らしき音を発した。おそらくその音の感じから、先程と同じ事を言っているらしい事は判ったが、それ以上の事は何も解らない。致し方ないので半分夢の中に行ってしまっているフタバを抱き抱えて立ち上がる。そして警戒しているぞとあえて表情に出してみる。ヤクモとスーアンもそれに同調する。するとその魔族が突然左手を開いて前に出した。魔法でも撃つのかと俺達に緊張が走る。どう対処しようかと思考を最大限で巡らせる。だがそれを感じ取ったのか、急に慌てた様に両腕をばたつかせた。そして今一度、今度は両手を前に出した。・・・どうやら、待ってくれと言っている様に見える。ヤクモとスーアンに目線を送り微かに頷き合う。そして南瓜に向かって、曖昧に頷いて見せる。

 それを確認するかしないかのうちに右を向いて何かを大急ぎでし始めた。あれは・・・技能を取得しようとしているのか。お、会話が出来ていない事に気が付いて貰えたらしいぞ。助かったかも。って事はこっちの言葉は聞き取れていたのか。

「・・・これで、大丈夫かな。」

 少し間があってから、南瓜がそう言った。おお、技能って凄いな。

「大丈夫だ、分かる。・・・で、何の用だ。」

「あぁ、いや、すまない・・・。あまりに奇妙で珍しかったので、つい声を掛けてしまった。」

 おおぅ、まさか謝罪から来るとは。どうやら本当に魔族には魔物に対する敵意は無いようだ。これなら特に問題は無さそうかな。まぁ何があるかまだ分らないから油断しないようにしよう。あと機嫌を損ねないように・・・。

「ああ・・・だろうなぁ。」

 そりゃあそうだろうなぁ。魔族に限らず他の魔物から見てもだいぶ奇妙だろうよ。

「一つ聞いても良いだろうか。君達はお互いに名前を呼んでいる様に聞こえたんだけど、合っているかな。」

 やはり俺達の会話は理解できていたようだな。にしても、思いも寄らぬ質問だ。

「あ、ああ・・・そうだな。俺はイッスン。ヤクモ、スーアン、フタバだ。」

 機嫌を損ねる訳にもいかないので、一通り指で指し示して紹介する。何でこんな事を聞くのかは分からないが。

「という事は君達に名前を付けた者がいるって事だよね。」

 俺が紹介を終えた直後に・・・いや多少食い気味に早口で身を乗り出して・・・身体ごと少し前に出て来て次の質問を繰り出した。

「あぁまぁ・・・俺が、付けたんだけど・・・。」

 その南瓜の早口に気圧されて少し首を後ろへ仰け反らせて答えた。一体何の質問なんだ。

「そうか、そうなんだ・・・。」

 俺の答えを聞いて早口の質問をする前の位置へ戻った。そして少し考えた後、耳を疑うような事を口にした。

「なあ、イッスン。ボクに名前を付けてくれないか・・・。」

 意を決して、少なくとも俺にはそう見えた、放たれた言葉に戸惑う。なぜそんな事を・・・。魔族って名前無いのか。そういえばさっき名前の欄には何も無かったな、確か。見えない事にばかり目が行っていたが、そう言われてみればそうかもしれない。そしてこの南瓜の魔族はどうやら中途半端な気持ちで、興味本位や思いつきでそう俺に願い出た訳では無さそうだ。南瓜の仮面の中に浮かぶその目は真剣なものに思える。

「・・・それは構わないけど。なんでか聞いてもいいか。」

 そう、名前を付ける分には一向に構わない。おそらく魔族なら野心からの願いでは無いだろう。それにノイン同様、すでに技能は使いこなしている様だし。だからこそ名前を望む理由を知りたい。純粋にそう思っただけだ。・・・まぁ話したく無いって言われても付けるつもりだが。

「ボクの、夢なんだ。名前が、欲しい。ボクだけの、名前が。」

 途切れ途切れだったが、それがその言葉が嘘では無いという事を証明している様に思える。思いが強すぎてこれ以上の言葉で表現できないのだろう。俺にはそれがとても純粋なものに思えた。この純粋さに応えてやれなかったら、きっと俺は俺自身を許せないだろう。それが俺の力で叶えられる夢であるなら尚更だ。

「そうか、わかった。」

 その言葉を聞いた南瓜の顔が明るくなった様に、少なくとも俺にはそう見えた。

「ちょっと考えるから、待ってくれ。」

 あらためてそのジャックランタンに見間違えた、その魔族をよく観察する。・・・いや、どう見てもジャック・O・ランタンだよなぁ。要素としては、南瓜、帽子、外套、右手に・・・角灯?、で胴体が角灯・・・洋燈かなぁ・・・。種族はおそらくランプキン。んん、どうしようかなぁ。

「なぁ・・・それって、角灯?洋燈?」

 判らないから素直に聞いてみた。

「ボクは洋燈だよ。」

「ありがとう。」

 自分「は」洋燈だと明言したな。という事は、その手にぶら下げているのは角灯という事かな。なるほど。魔族かぁ、そういえば東の森に魔族や魔界獣が出てくる場所があるんだっけ。つう事はだ、東から来たのかな。東・・・トウ・・・燈、かぁ。どうせ桁違いに強いんだし魔王みたいなもんか。だから王を付けて、燈王。洋燈の王様でトウオウ《燈王》で良いんじゃないか。

「トウオウ《燈王》、なんてどうだ。」

 あれ・・・動きが止まった。いや、また小刻みに震えているのか。機嫌を損ねたか?俺としてはそんなに安直に付けたつもりはないんだけど。我ながら字面も美しくまとまった気がするんだけど。

「気に入らないか。」

 気に入らなかったら、また考えるしかない。

「違う。それが良い。トウオウが良い。」

 自分の態度が与えてしまった影響に気が付いたらしく、慌てて否定して肯定した。良かった、気に入ってくれたらしい。しかし、声が上ずる程慌てなくても良いのに。・・・いや違うな。夢、だもんな。

「そうか。それなら良かった。じゃ、今からトウオウだ。」

「ああ・・・ありがとう・・・。」

 そう言うと、技能・命名が発動してトウオウの身体が光に包まれる。トウオウは自分の身体が光っている事に気が付いていない様に見えるけど。まぁ特に問題は無いから良いんだけど。あ、そういえば魔族に名前付けちゃって大丈夫だったのかなぁ・・・。聖獣にも付けちゃったんだし、今更だな。

「ありがとう、イッスン。何かお礼がしたい。ボクにできる事なら何でも言ってくれ。」

 なんですと。思ってもみない申し出だな。でもなぁ、急に言われてもな・・・。

「うぅん・・・。お礼ねぇ。俺は別に今特に無いんだよな・・・。」

 そう言って、ヤクモとスーアンに助けを求める様に視線を振るが、どちらも首を横に振る。

「そういう訳にはいかない。絶対に叶う事の無いと思っていた夢を叶えてもらったんだ。頼む、恩返しをさせてくれ。」

 そうなるよなぁ。自分の夢を叶えてもらったら俺だってきっとそう言う。

「そう言われてもなぁ・・・。どうする、フタバ。」

 苦し紛れに腕の中のフタバに聞いてみる。

「主たま、どうしたの。」

 急に話を振られ、目が半開きのまま俺に聞いた。

「あのな、トウオウがお願い事、聞いてくれるんだって。何か無いかな。」

 どんな可愛らしい願い事でも、俺は構わないと思っている。それで良いんじゃないかな、と。フタバは何度か俺とトウオウを首を一生懸命に動かし、見た。

「・・・トウオウは一緒に住むの?」

 おっとぉ。そう来たか。それは全く考えてもいない答えだったな。トウオウを視界の端で見ると、やはり虚を突かれたというような感じになっている。心配すんな、俺もだ。勿論、ヤクモとスーアンも似たようなものだ。

「フタバはトウオウと一緒に暮らしたいのか。」

「うん。家族、家族。あたちと一緒。」

 俺の質問に無邪気に翼を振って楽しそうに答えた。自然と俺も笑顔になる。あたちと一緒、か・・・それもいいな。

「だとさ、どうする。・・・何なら、ヤクモ達みたいに俺の従者になるか。」

 フタバの願い事に思考が止まってしまっているであろうトウオウに、冗談を多めに含ませた追い打ちを掛ける。まあこれで、願い事が決まるまで俺達と暫く一緒にいる、位でまとまればといった感じかな。だが微かに笑ったような表情になったトウオウはこう言った。

「わかった。そうしよう。」

 ななな、なんですと。あれぇ・・・可能性が全く無いとは思っていなかったけど、だいぶ大穴だった。自分で言った事とはいえ予想外の答えに狼狽え、助けを再び助けを求める様にヤクモを見れば、「流石主殿。」という顔をして此方を見てる。スーアンの方に首を振ると、俺の目を見て苦笑いをしながら首を振っている。いやぁ、そうですよね・・・おっしゃるとおり。俺が撒いた種ですね。トウオウが俺の提案を真剣に受け止め、そして受け入れた。だから俺もそれをちゃんと受け入れるべきだな。

「そうか。でも本当に良いのか、俺の従者になって。トウオウの方が強いと思うんだけど。」

「ボクがイッスンより強いのと、ボクがイッスンの従者になる事に何の関係があるんだい。」

 あははは・・・返す言葉が一つも思いつかない。

「それにボクは基本的には戦いたく無いから、別に問題無いんじゃないかな。」

 あはは・・・問題はそこじゃ無い気もするが。まぁ良いや。トウオウがそうしたいって言うんだから。フタバも何だか上機嫌だし。

「そうか。じゃあトウオウ、君は今から俺の従者だ。」

「うん。よろしく、イッスン。」


 そして今までと同じ様に滞り無く儀式が執り行われた。いつも通り光が俺とトウオウを包み、そして消えた。だが此処で予期せぬ出来事が起こった。


ーー『特殊技能・主従の絆が君臣の絆に進化しました。』


 あわわ。なにかしら条件を達成したんだろうが、まさかこんな事になろうとは。今起きている事は理解できるが、色々な事が起こり過ぎて気持ちが追い付かない。後で一度ゆっくり整理しよう。あぁもう早く帰りたくなってきた。


 という事で皆に「帰ろう。」と声を掛ける。結局魚は一匹も釣る事が出来なかったので、自分達で直接獲る事にした。フタバが「あたちがやっていい?」と言ったので任せることにした。すると何らかの法術を使い川の中から外へ大きめの鉄刃鮭を三匹弾き飛ばした。・・・お見事。


 帰り道、トウオウに此処に至るまでの経緯を簡単に聞きながら歩いた。トウオウとフタバは飛んでたけど。トウオウは余程嬉しかったのか、ジュウザ程ではないが左右に揺れながら飛んでいた。フタバは空を飛ぶ仲間が・・・家族が出来たのが嬉しいらしく、楽しそうにトウオウの横を一緒になって飛んでいた。会話になってんだかなってないんだかわからん会話をしながら。それを見てたら、なんだか俺も自然と笑顔になる。どうやらヤクモもスーアンも同じだったみたいだ。


 家に着くと、主従の絆が変化した旨の報が皆にもあったらしく庭の入口付近で皆が待っていた。ヤクモがモモカに「そろそろ到着する。」と連絡したらしい。新しく従者に、改め臣になった仲間がどんなやつか早く知りたかったのだろう。しかしその新顔の姿を見て絶句していた。まぁそうなるよな・・・。

「ずいぶんと変わったものを釣り上げて来たな、イッスンよ。」

 ノインが開口一番そう言いながら出迎えてくれた。

「俺もそう思うよ・・・。魚は一匹も釣れなかったのになぁ。」

 きっと何とも言えない顔をしていたんだと思う。それもあってかノインは楽しそうに声を出して笑った。俺も笑うしか無い。庭に入って全員とご対面である。紹介しようとトウオウの方を見ると、また小刻みに震えている。どうしたんだ・・・あ、落下した。

 落下したトウオウは地面を転げ回りながら大声で笑い始めた。おぉ、こういうのを笑い転げるって言うんだな。これじゃ会話にならないので、暫く笑いが治まるのを待つ事にした。その間に皆に「トウオウだ。魔族だ。」と一応紹介した。モモカとハクは目を大きく開いて驚いていた。

 笑いが一段落したようなので「何がそんなに面白かった。」のか聞いてみた。

「いやぁ、すまない。二足歩行の兎、尾が三本もある狐に尻尾が特殊な形をした眼鏡蛇だけでもだいぶ特殊なのに、更に森の叡智と呼ばれる種族の梟が一緒にいるんだ。そして他に一緒に暮らしている者が、角の生えた眼鏡蛇、目が三つある眼鏡蛇、白い眼鏡蛇が二つ。その内の片方は二足歩行。聖なる力を宿した狐。見かけただけでも幸せが訪れると言われる希少種の天使熊。その挙げ句に聖獣の麒麟が。堪えきれなかった・・・気分を悪くしたのなら謝る。申し訳なかった。許して欲しい。」

 ふらふらと浮かび上がり礼儀正しく帽子を取り頭を下げてそう言った。理由が判れば、なるほどと納得する。皆を見渡せば、あらためて自分達の事を思い返して、そう言われてみればという顔をしている。気分を害したという風では無さそうだ。ロックとフタバはそんな事も思っていない様子ではあるが。俺は片手を上げ掌を振り、問題無い事を報せる。それよりも、だ。帽子の下から姿を現したものを見て驚いた。向かって右側、トウオウの頭部の左側上部の一部に穴が空いていて、その穴から牛の物の様な立派な角が一本の前髪みたいに垂れ下がっていた。まさしく魔族のそれを思わせるものだった。皆はそれ程気にしていない様子だ。・・・こういうものなのかな、まぁいいか。そして一通り家族に紹介し、それが終わるとトウオウは子蛇三兄弟の質問攻めに合っていた。それを遠巻きに見ていたが、そういえばと思い声を掛けた。

「なあトウオウ。良ければなんだけど、能力を見せて貰えないか。」

「別に構わないよ。イッスンなら鑑定で見られるんじゃないのかい。」

「いやぁ・・・たぶん無理だな。阻害されて見られない。」

 トウオウは「ん?」と顔の角度を上げた。そして「ああそうか。」と呟いて何かを操作し始めた。

「ごめん、イッスン。魔界にいた時のままだった。家族には見られるようにしたよ。好きに見てくれ。」

「ありがとう。」

 そういう事か。おそらく魔界では闘争の日々。相手に能力を知られる事は命取りだろうな。強くなれば尚の事。そしてこっちの世界に来てからは、そんな事も気にしなくて良くなった。そりゃ触らないよな。では遠慮なく。


 俺はそこで見たものに本日一番の驚愕をし、思わず「いいっ。」と声を上げてしまった。


ーー名前・トウオウ《燈王》

ーー種族・ランプキング

ーー職業・魔王


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