26、大収穫祭
この世界に転生して、380日とちょっと経過した。季節は巡り・・・、め、ぐ・・・、巡らない。この世界に来て前世の時間では1年以上過ごしているのに、一向に季節の移り変わりを感じない。俺が生まれたのがどの季節かは判らないが、そこから暑くなる訳でなく寒くなる訳でなく、ずぅっと過ごしやすい日が続いている。勿論、雨の降る日もあれば風の吹く日もあるが、気候としてはとても過ごしやすい。・・・別にそれが悪い事だとは思わないし、有り難い事だとも思う。のだが。
俺は左右の掌を上に向け指を何かを鷲掴みするかの様に折り曲げ、小さく前へ倣えの時位腕を曲げその両方を少し外側へ開き仰け反る。そして目を細長い逆三角形の様にし釣り上げ、口を台形に開いて思わず周りにいる皆に聞こえる程度の声だが叫んでしまった。つまり、「グワッ」という口の形で「グワッ。」と叫んだのである。もう少し判りやすく言うと「ガッ」という口の形で「ガッ。」と叫んだという事だ。
その声に反応して、ヤクモやモモカは「どうかしましたか。」「大丈夫ですか。」と声を掛けてきた。「いや、何でもない・・・。」と曖昧に返した。ジュウザとサイは俺の発した声が面白かったのか、「グワッ、グワッ。」と真似をしながら俺の周りをぐるぐると楽しそうに回り始めた。おいおい、そんなに回ってるとバターになっちゃうぞ。隣に立っていたロックは、これが何かの型だと思ったのか一生懸命その姿勢を真似て「グワッ、グワッ。」と繰り返し仰け反っている。「ロックぅ、これは関係ないからやらなくていいぞ。」と言うと「そうなの。」と、ふぅんという顔をした。
そして、季節の巡りもだが・・・380日以上経っているのにまだ1年じゃないのか。経過日数に関しては自分の能力値と同じ画面に表示されるので正確に知る事ができる。そして魔物鑑定や家族の皆のを見せて貰った時に、年齢の項目が在ることも知っているし、その表示が年単位でも表示される事は確認済みだ。という事は、まだ俺はこの世界で1年過ごせていないって事だ。って、1年は何日なんだ。『648日です。』うぉっ・・・そうなんだ。えぇじゃあつまり俺はまだ生後半年ぐらいって事なの。『是、肯定します。』まじかぁ・・・。『マジです。』そうですか。じゃぁとりあえずまずは後半年程を目標に頑張ってみます。目指せ一歳。
少し前になるが、俺の弟子になったロック。そのロックだが俺は「小妖熊」だと思っていたのだが違った。「小天使熊」という希少種だった事が判明した。どうやら俺と同じく孤児だったらしく、同系種族の小妖熊の家族に拾われ末っ子として過ごしてきたとの事。ロックの記憶もその家族の中にいる状態から始まっている様で、真実は分からないらしい。家族は皆優しかったし、たとえ拾われたにしろ正確には種族が違う事に誰も、当のロックもずっと気が付かなかったらしい。きっかけはあの時俺が助けた事だが、それ以外の此処に至るまでの経緯は良く解らない。ロック自身もまだ幼く上手く説明できないようなので、今は敢えて聞かないでおこうと思う。それに話したくなったらきっと何時か話してくれるだろう。
それにしてもこの俺がよもや弟子を取る事になろうとは。誰かの師になる日が来ようとは思ってもみなかった。俺が教わって来た武道に関して言えば、師範方だけでなく兄弟子姉弟子、そして弟弟子妹弟子も全て己の師であると言う考え方なので特に意識した事も無かったというのが実情ではある。だが逆に言えば敢えて師匠になろうとしなくても良いのでは無いかとも言える。だから気負わずに師匠をやってみようと思う。今此処に至ってはその全ての師に恩返しする事は出来ない。ならば俺が師達から教わった事を、俺自身がこの身で学んだ事を伝える事で恩返しの代わりになればと思う。只の自己満足なのかもしれないし、俺の方が学ぶ事が多いかもしれないが。
まぁどちらにせよロックに合気道が戦い方として向いているとは思えない。性格としては向いているような気もするが、今は得意な事を伸ばして上げる方が良いと思うので、その俊敏性と強烈な打撃及び爪による攻撃方法を身につける方を優先させて行こうと思う。このワイルドライフを生き抜く為にはなるべく早めにある程度戦える様になった方がロックにとっても良いはずだ。合気を学ぶのはその後でも良いはずだ。もしロック自身がそれを望めば、だが。勿論精神面や考え方についてはきちんと教えたいと思うが。それが俺が師匠である意味だと思うから。これについては家族には・・・特に子蛇達には一緒に伝えられたらと思う。
ロックが我が家の内弟子になって新しい情報がもたらされた。それは俺の待ち望んだ果物の情報だった。
「いっぱいいるところを知ってる。」
との事。その話を聞き、「それはどこだ。」と自分でも大きいなと感じる声を出してしまった。ロックは驚いて目を瞬かせていた。悪い事をしたなぁ。ミナに言わせれば、その瞬間俺の目の星が輝いたらしい。・・・そんな事が起きるのかと思ったのと、なんだかちょっと恥ずかしい。
「・・・えっとねぇ、あっち。」
そう言いながら右腕を上げてで南側を指した。
「そうか、ありがとうな。・・・よし、今日は皆でそこへ行こう。ロック、案内してくれ。」
ロックは嬉しそうに、そして控えめに頷いた。そもそもロックは・・・というより小天使熊は草食だったらしい。小妖熊は俺達と同じ雑食。だから果物の群生地を知っていたようだ。それは良いのだが俺の浮かれた号令に、ヤクモとモモカは顔を顰めている。
「・・・どうした。そんなに嫌か。」
「いや・・・嫌ではなのですが。果物は酷く面倒と言いますか・・・。」
なんだかはっきりしない物言いだな。面倒か・・・ヤクモがそう言うのだから、きっとそうなんだろうなぁ。
「そっか。でも今日だけ俺の我儘に付き合ってくれないか。頼む。」
「あ、いえ、頭をお上げ下さい、イッスン様。勿論イッスン様が行くと言えば私達はそれに従います。」
「主殿、私こそ申し訳ありませんでした。子供達にも良い経験になるかもしれません。参りましょう。」
俺は若干申し訳ない気もしたが、ミナ曰く目の星を輝かせ頭を上げた。
「ヤクモ、モモカ、ありがとう。」
「とんでもございません。いざという時は我々が子供達を守ります。」
・・・ん?なにやらさっきから不穏な文言が混じっている気がするんだが。ま、いっか。きっとその近くには面倒な果物を主食にする魔物でもいるって事なんだろう。
「お、おう・・・頼むぞ。」
ヤクモとモモカは「危険だからやめよう。」とは言わない。「面倒だ。」と表現している。ロックは特に何かを気にしている様子も無い。その意味するところが上手く掴めない。あくまで推測だが、今の俺達なら特に問題になる程の相手では無いが、数が多かったりしつこかったりするという事なのだろう。此方も家族総出で向かうのだからたぶん大丈夫だろう。
「よし、行こうか。ロック、案内よろしく。」
「うん。・・・こっち。」
ジュウザとサイは相も変わらず先頭を右に左に動き回りながら進んでいる。それをスーアンとミナは呆れ顔で眺めている。ハクはヤクモの上に乗り、そのヤクモと色々な話をしながら付いてくる。ロックは時々俺の方を振り返り「こっち。」と教えてくれながら歩いている。そんなに振り返らなくてもちゃんと後ろにいるよ。そんなロックをモモカと微笑ましく見つめながらゆっくりと追いかける。ただ皆で歩いているだけなのに、実に俺達らしいなぁ。自然と目が細くなる。モモカに「なんだか嬉しそうですね。」と言われた。
「そうだな。俺、今幸せだ。」
思ったより南に移動してきた。だが今日は此処まで特に魔物に絡まれる事も無く来る事ができた。案内ができるのが嬉しいのか、先程から頻繁に「もう少しだよ。」と報告してくれている。俺とモモカもその度に「おう。」「ありがとう。」と相槌を打つ。もうこれだけでも少し楽しい。ヤクモの懸念のあり、周囲を警戒しながらだったがどうやら何事も無く目的地に辿り着けそうだ。まぁ俺はこれでも幸運星兎(角)だからな。おや、微かに果実の爽やかな甘い香りが鼻腔を擽り始めた。心が踊る。
「師匠、あそこだよ。」
ロックは前方を指し示す。その指の先に視線を向けると、明らかに今までと種類の違う樹木が乱立している森を見つける事ができた。その木々にはこの距離からでもはっきりと認識できる位の量の果実が生っている。思わず喉が鳴る。子供の頃の様に駆け出したい気持ちをどうにかこうにか抑えつつ、ゆっくりと近づいて行く。俺と同じ景色を発見したジュウザとサイは歓声を上げた。そして走り出そうとしていたのだが、ヤクモの「待て。」という珍しく低い声の静止に動きを止める。
「なんだ、敵か。」
「いえ、違います。・・・違わないかもしれませんが。」
此処まで来て未だ要領を得ない、一体何があるというのだろう。
「近づいたらヤクモお兄ちゃんの言ってることがわかる。師匠なら大丈夫。だよね、ヤクモお兄ちゃん。」
「ああ。主殿なら問題無いかと。」
ぬえぃ。全然分からん。俺なら問題が無い、俺以外なら問題があるのか。何の。だがあのヤクモがここまで警戒するんだから「何か」はあるのだろう。気を引き締めて、歩みを進める。
「わかった。よく分からんが分かった。俺が先に行く。」
ロックに変わり先頭に立ち果樹園へ入って行く。その後ろに少し距離を置き、ヤクモとロックを先頭にして子蛇達を守る様に隊列を組み付いてくる。我が家の庭の三倍程の広さの広場を囲む様に林檎や桃と思われる果実のなった木がぐるりと囲んでいる。美味そうな香りに張った気が緩みそうになる。どれからもいでやろうかと吟味し始めた時だった。左前方の木から一つの林檎が落下した。・・・いや、落下はしなかった。おい、どうなってんだ。宙に浮いてるぞ。これじゃあ、英国の学者先生が万有引力を発見できないぞ。
「うをっ、まじか。」
その宙に浮いた林檎は牙を剥き、俺に向かって真っ直ぐに飛び掛かって来た。そういう事か、ファンタジー。これがヤクモの言っていた面倒な事か。その可能性は完全に俺の中に無かった。でもこの世界ではその可能性はあって然るべきだ。完全にしくじった。
「林檎に喰われてたまるか。」
咄嗟に足を前後に開き腰を落とす。左手を前に突き出し、右腕を折畳み拳を握り引き口を開き直進してくる林檎を見据える。ここで不思議な事に気が付く。飛んで来るその林檎の軌道がはっきりと予測できる。まるで光る道を滑るようにその道を寸分の狂いも無く進み、その先にも道が続いている。・・・ならば俺はその道に拳を置いておけば良い。
ーー《白兎流格闘術・星拳突》ーー
前世でも感じた事が無い程の完璧な手応えがあった。まさに林檎か砕け散る音が響き、襲いかかってきた林檎は見事に爆ぜた。までは良かった・・・。真っ直ぐに飛んで来たのだからこうなるのは必然、たとえここがファンタジーな世界だったとしても基本的な物理法則に大きな差異は無い。砕け散った林檎の破片と果汁がが何処ぞの流星打法よろしく俺に降り注ぐ。何も考えずに拳を突き出したのだから、それを全身で浴びてしまうのはこの際致し方がない。問題だったのは、己の拳を振るう際に多少なりとも武道の心得がある以上、目を閉じるという事は断じて無い。そして回避行動の時にもだ。・・・つまり林檎の酸味を含んだ果汁と破片を無抵抗に顔面にも浴びてしまったという事だ。
「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・。」
両目を両手で押さえ、両足をばたつかせて転げ回る。香りと味が良い事は解ったが、それどころでは無い。激烈に目が痛い。
「大丈夫ですか、イッスン様。」
モモカが大慌てで近づいて来た。ヤクモとスーアンもそれに続いて近寄って来た。まぁ、まだ見えないから気配を感じ取って、なんとなくそうではなかろうかと思っているだけだが。どうやらジュウザとサイは笑い転げているようだ。そうなるよな、已む無し。俺も子供で同じ立場だったら、間違いなく腹が千切れる程笑うだろう。そう思ったら、俺もなんだか笑えてきた。悲鳴と笑い声が混じる。
「あはは・・・痛た・・・。ミナ、悪いんだけど、放水を頼む。」
「え・・・そうか。判りました。」
ミナの最小限の放水を顔面で受け止め、顔を洗う。助かった。
「ふぅ。ミナ、ありがとう。」
首を小刻みに左右に振り水気を払う。先程までより良く見える気がするよ。えらい目に会ったぜ。よく見えるついでに魔物鑑定で辺りを見渡す。・・・無反応だと?何故だ。魔物じゃないのか。じゃあ何だ。・・・まさか。植物鑑定で今一度見渡す。反応あり。そうかぁ、植物なのかぁ。林檎に梨に青林檎、柿に桃に無花果、檸檬に蜜柑に柘榴に洋梨、選り取り見取り。陽の光を浴びて宝石の様に美しく煌めいている。その眼の前に広がる光景に息を呑む。
だがその光景に見とれる暇など無かった。一つ目の林檎を打ち砕いた事がきっかけになったのか、四方八方から煌めく果実共が俺達に目掛けて凄い勢いで飛び掛かって来た。
「散開。遠慮はいらない、飛んでくるやつはやっつけろ。ただし、食べられるようにな。」
皆、「はい。」と返事をして個々に対応を始める。特に子蛇三兄弟は奇声に近い歓声を上げながら飛び交う果物を角で突き刺したり、法術で真っ二つにしている。うぅん、それでも良いんだけど・・・できれば原型のまま収穫したいんだけど。楽しそうだから良いか。どうせ食べちゃうんだし。・・・おや。
「ヤクモ、どうした。避けてばかりじゃないか。」
「えぇまぁ・・・。火や雷を使う訳にもいかないので。どうしようかと思案しているところです。」
飛んでくる果物を見る事も無く難なく避けながら答える。ヤクモって凄いな。
「モモカは器用に氷の法術で捕獲しているようですね。さてさてどうしたものでしょう。」
「へっ、そう言ってる割には楽しそうじゃないか。」
そう言いながら飛んでくる檸檬を砕けぬように加減しながら高く真上に蹴り上げる。只の檸檬になって落ちてきたその檸檬を右手で掴む。ヤクモと目を合わせ笑い合う。
ロックは慣れているのか、当たり前の様に空中でそのまま掴み齧りついている。それ以外も掴んでは拍手の要領で挟み、次から次へと異空間収納へ放り込んでいる。一番効率良く収穫しているな。やはりある程度の衝撃を与えれば俺の知ってる普通の果物になるようだ。・・・にしても数が多い。
スーアンもモモカ同様、氷の法術で対応している。同時に複数の対象に法術を掛けている。見事なものだな。それでも「モモカさんの様に上手くいきませんねぇ。」と言っていた。確かにモモカは実に器用に対象に薄い膜を纏わせる様に氷で包み込んでいる。芸術的だな。それに対してスーアンは果実の二回り程の大きさの氷の中に閉じ込めている感じだ。だが一度に三つ四つ同時に凍らせている。これはこれで別の鮮やかさがある。同じ氷の法術でも使用者によって色々と個性が出るんだな。・・・そういえば、俺も風刃を足に纏わせて蹴り飛ばしてるっけな。まぁ俺の場合は、法術があまり得意じゃ無いから編み出したものだが。これも個性って事かな。
サイは鎖やら見た事の無い技能と思われるものを色々と使って果物と格闘している。格闘とは言っても特に苦戦する様子も無く、ほぼサイの技能の実験場と化している。しかも楽しそうに目を輝かせて笑ってるなぁ。試しているのだから仕方ないが、原型を留めている個体が少ない・・・。そこら中に粉々になった果肉が散らばっている。勿体ないが今回は初めてだから、これで良しとしておこう。そして、危なそうなので暫く近づかないでおこう。
ハクはというと集中しているのか、夢中になっているのか、とにかく静かだ。どの技能をどの順番で使用すれば良いのかを検証しているようだ。それも今回に限らず、実戦を想定しているように思われる。それにサイと違って、なるべく無傷で収穫できる様にと考えているようだ。如何にして与えられた目的を遂行するかを考えている。大したやつだよ、全く。ハクはこういう風に静かに集中している時が一番楽しそうだ。何よりである。
ミナは始めのうちは尻尾の剣で切り落としていたが、それでは全てが真っ二つになってしまう。途中から尻尾を通常に戻し、その尻尾で叩き落としている。近距離戦闘に関しては高い能力を有している。あれだけの果物弾が飛び交う中、実に冷静に一つ一つ確実に仕留めている。その姿はまるで舞踊の様でもあり、美しい。だがその目は鋭く、隙が無い。ただなかなか「無傷」でとはいかないみたいで、苦戦している御様子。ミナにとってはいい練習になっている様に思える、頑張れ。
で、ジュウザはというと・・・ねぇ。まぁそれはそれは楽しそうにご自慢の角を使って、串刺しにしたり叩き切ったりして果汁と果肉を全身で浴びながら大はしゃぎしている。その挙げ句に地面を転げ回っているので、元の色が何だったのか分からなくなる程泥だらけになっている。満面の笑みで。駄目だこりゃ。既に本来の目的を忘れてるな、これは。放っておこう。後でスーアンやヤクモにたっぷり説教される事になるだろうな。已む無し。
いやぁ、なかなか大変だったが現在実っていた果実が殆ど無くなった。そろそろ引き上げようかなと、俺の知っている果実になったものの回収を始める。・・・誰かさんのせいでその十分の一はちゃんと食べられる状態では無くなってしまっているが。
今回はいい経験になった。そりゃヤクモ達が面倒だと言う訳だ。特に問題になる程の脅威ではないが、流石にこの数は。たぶん俺が角兎だったとしても充分に対応はできただろう。だがこれだけの数になると、俺だけだったら途中で脱兎の如く逃げ出していただろうな。とてもじゃないが面倒くさくて。気が付いたら、まあまあ大所帯になったなぁ。
「皆、撤収するぞぉ。」
そう言うと、ジュウザ以外は返事をして回収作業を優先し始めた。まぁジュウザの場合は、ちゃんと回収すべき状態のものは無きに等しいが。っていうか、聞いてないし。・・・あぁあ、早くも怒られちゃってるよ。しょうがないやつだ。
「モモカ、スーアン達を止めてやれ。残りは帰ってからってさ。」
見兼ねてジュウザに助け舟を出してやる。
「はい。」
そう言って、スーアン達に近づいて行くモモカに着いていく。「まあまあその辺で。」とモモカの説得にスーアンは渋々納得して矛を収める。
「帰りに川に寄るぞ。良いな、ジュウザ。」
「え、なんで。」
「なんで、じゃない。そんな泥だらけのままで良いわけ無いだろ。」
と低い声で言い、腕組みをして上から睨みつける。流石にジュウザも萎れて俯き、力無く「はぁぃ。」と返事をした。ちと可愛そうだが、たまには良いだろう。
「皆も軽く洗い流したいだろ。」
「うん。あるじ、ボクも洗いたい。」
サイは良いやつだな。ま、実際俺も洗いたい。お世辞にも少なかったとは言えない数の果実を相手にしたんだ、これで全く汚れないのは至難の業だ。
「よし、行くぞ。」
と言ってジュウザの尻尾の先を素早く摘み上げる。そして「このままで行くぞ。肩に乗っかるなよ。」と言い聞かせ、闘技場「果樹園」を後にする。
川に向かう道中、ジュウザはずっと萎れたままだった。なにせ俺に摘み上げられたまま、終始スーアンとモモカにお説教をされ続けていたのだから。間違いなく吊るし上げられていた。最初の方はヤクモも一緒に厳し目に説教していたが、流石に見るに見兼ねて途中からジュウザの擁護をしていた。サイはどこ吹く風、ハクは行く末を不安そうに伺っている。ミナは冷めた目でジュウザを見つめ、私は「ああはなるまいぞ。」と反面教師にしている様だ。ロックは・・・どうも感情をあまり表に出さないので良くは判らないが、おそらくなぜジュウザが叱られているのかが良く分からない様だった。だが、俺の手元に向かって説教をしているので、だんだん俺が説教されている様な気になってくる。そして、ヤクモじゃないが泥だらけの姿も相まって俺も少しいたたまれなくなってくる。
「・・・川が見えてきたぞ。スーアン、モモカ。その辺にしといてやれ。」
なんとか目的地に近づいて来たので、ジュウザへ向けられていた集中砲火を逸らす事に成功した。ジュウザは涙目で俺の方を見ていた。・・・頑張ったな。
「着いたぞ。・・・ほれ、ジュウザ。投げるぞ。」
そう言って、ジュウザ・ハンマーの要領でぶん回し水の中へ放り込む。ジュウザは奇声を上げて飛んで行き、水の中へ消えた。三つ数える程間があって、嬉しそうに顔だけを水から出した。
「暫く泳いで泥を洗い流せ。」
「はぁい・・・。」
返事を言い終える前に再び水の中へ消えた。
「あるじ、あるじ。ボクも、ボクも。」
あぁそうなりますよね。サイの尻尾を掴み振り回して川へと放り込んでやる。ジュウザと同じ様に奇声を上げて飛んで行った。楽しそうで何よりだよ。
「あの・・・あるじ様。ぼ、僕も・・・。」
「お。ハクもやるか。良いぞ。」
なんだ、ハクもやりたかったのか。何時もと違って水の中に、だもんな。確かに楽しそうだよな。気持ちは解る。俺も逆の立場ならお願いしちゃうだろうな。尻尾を掴み、三投目を川へと発射する。楽しそうで何より。
「ミナもやるか。」
「いえ。大丈夫です。」
そう言って川へ近づき、音も飛沫も出さずに吸い込まれるように水の中へと入っていった。うぅん、やっぱりこういうのは男の子の方が好きなのかな。
「ロックは・・・あれ?」
気が付いたら、黙って川に近付いて行き、速度を変えること無くそのまま川の中へと直進していった。無表情のまま・・・。なんというか、面白いやつだ。
その後、残った俺達も各々川の中へ入り身体の果汁を洗い流した。川から上がり水を払い一休みする。結局「帰るぞ。」と声を掛けるまでジュウザとサイは川で遊び続けていた。




