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22、鎖[後編]

 御陽気に高笑いをしているサイに多少の不安は過ぎるが、不完全とはいえ動きを封じられている俺にはどうする事もできないので、何時でも動き出せる様に準備をしながら大人しく待つしかない。しかし一体何をするつもりなんだろうか。バーゲストは今起きてる事態が把握できず苛立っている様子で気が散っている割には、俺を縛り付けている鎖を緩めてはくれない。しかし甘いと言うか何と言うか、周りに気を取られていないでまず俺を仕留めにくれば良いものを。そうすれば危険が一つ減るのに。俺にとっては有り難い限りだが。

 「こっちだよ〜。」「こっちだよ〜。」と四方八方からサイの声が聞こえてくる。それと同時に霧の中に声と同じ数だけ、いやそれ以上の数のサイの姿が浮かび上がる。幻影か・・・だがそのどれもが悪い顔で笑ってるなぁ。その顔にかどうかは定かでは無いが、苛つきが増したバーゲストが一番近くに現れたサイを右の前脚で一掻きした。だが霧がその部分だけ乱れてそのサイの幻影が消え、即座に白く霧が掛かった。更に神経を逆撫でされて、吠え散らかしている。うぅん、相手が悪いかもな。

「眼鏡蛇流戦闘術・毒飛針どくひばり。」

 俺の右前にいたサイから何かがバーゲストに飛んでいくのが辛うじて見えた。おそらく毛程の細さの針が数本撃ち出されたのだろう。瞬きの様な光が見えた様な気がした程度だが。針が命中したバーゲストは高く短い声を上げた。だが針自体に致命傷になる程の威力は無く、少し困惑している。そして痛くも痒くも無いらしく、失笑しているようにも見える。サイは続けてあらゆる方向から針を飛ばし命中させている。それを避ける事も無く、本物のサイを探している。・・・大丈夫か、こいつ。今、お前を襲っているのは毒飛針だぞ。それも眼鏡蛇の毒。思い出すだけで少し震えるよ。なんかだんだん可哀想な気がしてきたな。

「次いくよ〜。眼鏡蛇流戦闘術・麻痺飛針まひひばり。」

 ケタケタ笑いながら先程とほぼ同じ手順で繰り返す。地味だけどエグいな・・・何も気が付かないままチクチクと針を浴びて苛つきを募らせている。いっそ気の毒だよ。

「そろそろいいかな。次は取り敢えずこれ。」

 そう言って俺が角で繋ぎ止めた方の鎖を氷漬けにして駄目押しをしていた。気が利くな・・・ハクの作戦かな。

「あるじの身体のやつはボクには無理そうだね~。」

「まぁ気にすんな。もう少し時間稼ぎ頼むぞ。」

「もちろん。凄く怒らせちゃうかもしれないけど。」

 でしょうねぇ。冷静さを欠いてくれるととても助かる。サイは攻撃を再開する。今度は法術を使って。石礫や火の玉がちょっと可哀想なお犬様に様々な方向から不規則に飛んでいく。流石にこれは仁王立ちで全て受ける訳にはいかないらしく、全てでは無いが避けている。時々当たる石礫と火の玉に唸り声を上げる。だがそれも時間と共に避けられる数が減ってきている。どうやら効いてきたようだね、眼鏡蛇の毒が。立っている脚が震えだした。吠えるのも辞め、歯を食いしばっている。それでもまだ鎖は俺を離してはくれない。サイの含み笑いがする。

「実はぁ本命はこれだよ〜。」

 サイは放水の技能を使用して、バーゲストに水を浴びせ掛ける。水浸しになりほんの少しだけ萎んだようになる。まさしく冷水を浴びせられて呆気に取られる。そりゃあそうだ、放水はただの水だもんね。

「あるじぃ、お待たせぇ。」

 ん、何が。ああ、そういう事か。上出来だよ。これ以上無い程のお膳立てだね。

「兎の雷。」

 右手で身体を起こし片膝を立て、全力で雷撃を放つ。「ぎゃぁっ。」と悲鳴を上げ横に倒れた。鎖が緩む。右手で掴み引き剥がし、後方に投げ捨てる。倒した訳では無さそうだが、意識が飛んだらしい。止めを刺すべく立ち上がり駆け出す。二三歩前に出た時だった。上から何かに押さえ付けられた様にその場に前のめりに倒れた。

「重っ・・・。」

 身体が動かない。上に何かが伸し掛かってくる。俺の上には何も無いのに、身体が地面ごと少し沈み込んでいる。これは・・・重力か。くっ、まだこんな技があったとは。バーゲストも気絶していたのはほんの一瞬だったらしく、意識を取り戻し力を振り絞り立ち上がっている。奴の左右に円陣が浮かび上がる。その中心から、鎖が小さな金属音を立てながら姿を現す。アイテムボックスや異空間収納では無さそうだ。召喚術か何かか。これは参ったな、万事休すか。

「あるじ、目を閉じて。」

 サイの叫び声がする。その声に反射で目を閉じる。

「眼鏡蛇流瞳術・蛇眼・石化眼。」

 俺の上から重圧が消えるのを目を閉じたまま感じる。

「あるじ、もういいよ。」

 直ぐ側でサイの声がする。目を開き、素早く立ち上がる。

「助かったよ、サイ。」

「うん。でも思ったより効かなかった、残念。」

 そう言われてバーゲストを観察する。脚の先、尻尾や耳などの先端と顔の一部が石化しているが完全には石化していない。だが毒に麻痺に石化の状態異常のてんこ盛りで、立っているのがやっとと言った状況に見える。

「いや、充分過ぎる位だ。」

「そう、よかった。後はあるじにお願いします。」

「良いのか、俺が決めちゃって。」

「実はボクはもう殆ど力を使っちゃた。それに止めを刺す技能が無い。」

「了解だ、後は任せろ。」

 ここまで俺は殆ど寝転がっていただけだからな。最後くらいはきっちり決めないとな。気合を入れる。

「うん。・・・母上ぇ、ハクぅもう大丈夫だよ〜。」

 サイは声を掛けながら離れて行った。辺りの霧が晴れていき元の森の色が戻ってくる。懐に飛び込む為に右足を引き、飛び出そうとしたが、バーゲストも必死だ、左右の鎖を俺に向け飛ばす。咄嗟に飛び出す力を上への跳躍に変える。高く跳び上がったのは良いが、どうしようか。上昇しながら思案する。

「あるじ様〜、竹。さっきの竹、上から二番目の。」

 下からハクの声が響く。竹、上から二番目・・・なるほど竹か。確かにあれなら、あのナイフでも簡単に切断する事ができない強度がある。アイテムボックスに手を突っ込み竹を掴む。上昇する勢いを利用して、ハクご指定の四分割した分の上から二番目の竹の棒を引き抜く。握るのにも俺に丁度いい。上昇する力と重力が等しくなり一瞬だけ空中に静止し、今度は重力に引かれ降下を始める。竹の棒の端を両手で掴み、標的の方へと一直線に降下する。両腕に力を込めて竹の棒を上段に振り上げる。こちらを見上げているバーゲストの顔が近づいてくる。ここだ。振り上げた竹の棒と一緒に全身の力を使い前方宙返りをする。その遠心力を上乗せしてバーゲストの頭上に渾身の力を込めて真っ直ぐ振り下ろす。


ーー《白兎流棍棒術・獅子落し》ーー


 金属の棒と頭蓋骨が衝突する鈍い音と何かが砕ける確かな感触がこの手に伝わってくる。もはや絶命したかを確かめる必要も無さそうだ。それでも着地して、相手に対して構える。レベルが16上昇した。・・・16。能力が確認ができていないから何とも言えないが、そんなに差があったのか。体感ではそんなに差があった様にも思えないが。何にせよ勝てて良かった、殆ど俺の力じゃ無いけど。

「主様、お見事でした。」

 スーアン達が竹を左に突き、立ってバーゲストの亡骸を見つめながら考え事をしていた俺に駆け寄って来る。

「スーアン、サイ、ハク、本当に助かった。ありがとう。」

 ちゃんと向き直り頭を下げた。

「滅相もございません。お役に立てて何よりでございます。」

 スーアンは軽く首を振りお辞儀をした。サイとハクは満足気に笑っている。頼もしいなぁ。

「少し休んだら、なるべく早く此処を離れよう。」

 そう言って腰を降ろして、細石水苺を取り出して皆に配る。

「あの霧をずっと維持するのは大変だっただろう。」

「いえ、私はそれ以外の事は特にしておりませんのでそれ程難しくは。あの魔界獣は一度も意識をこちらに向けませんでしたし。」

 そうなんだよなあ、目の前の事に気を取られ過ぎてたよな。戦術が全く無いんだよな。そのおかげで助かったんだけど。

「サイは大活躍だったな。」

「ボクはハクの作戦通りにしただけだよぅ。ボクには思い付かない作戦だよ、ハクって凄いでしょ。」

 そう言われて、ハクは照れ臭そうに下を向いた。それを素直に言えるサイも凄いぞ。

「そうだな。でも言われた事をちゃんとできるサイも凄いじゃないか。」

 サイは「そうかなぁ。」と言って嬉しそうにしている。

「ハクの作戦は見事だったな。勝てたのはハクのおかげだ。」

「いえ・・・僕は作戦を立てただけで・・・ほとんど何も・・・。」

「そんな事は無いだろう。あの幻影の術はハクのだろ。」

 顔を上げ目を拡げてこちらを見た。気が付いて無いと思ってたのかな。サイがあんな悪い顔で笑っていた時点で、なんとなく気が付いていたけど。

「それに俺の方こそ殆ど寝っ転がってただけだ。なあ、サイ。」

「そうかも。でも最後はあるじがやっつけたじゃん。」

「最後に美味しいところだけって感じだなあ。」

 俺とサイは顔を見合わせて笑った。「さて、そろそろ行くか。」と立ち上がる。竹の棒を収納して、バーゲストの方を見る。魔界獣って食べられるのかな。『可能です。』あくまで生物って事だからかな。『是、肯定します。』毒まみれだけどなぁ。『火を通せば或いは。』或いは。『・・・或いは。』やっぱり。『お勧めはしません。』知ってます。ありがとう。『恐れ入ります。』

「どうされました。」

 ご遺体を見つめている俺にスーアンが聞いた。

「いやぁ、美味しい美味しくないは別にして、なんとしても食べておかないとな、と。だけど毒がな、と。」

「そういう事でしたか。その件なのですが私に考えがございます。」

「なんですと。」

「おそらく解決できると思います。」

「本当に?助かる。」

 確信に満ちた微笑みを浮かべている。「では・・・。」と言って何かを始めようとしたスーアンを制止する。

「戻ってからにしよう。」

「かしこまりました。」

 バーゲストを回収する。そして戦場に残された四本の鎖を一本づつ回収して行く。もしかしたら今回の一番の成果は、この鎖かもしれない。

「あるじ、ボクも一つ欲しい。」

 サイが回収作業中の俺に話しかけて来た。

「ん、鎖が欲しいのか。」

「うん。」

「分かった、でもこれも戻ってからだな。まだ回収するのは大変だろ。」

 サイは納得して満面の笑みで「うん。」と頷いた。全ての鎖の回収を終え、皆を見渡す。

「帰ろうか。」

 そう言うと皆で家に向かい歩き出した。おや、何時もなら我先にと肩に飛び乗って来るのに。気を使っているのかな、可愛い奴等だな。「いいぞ。」と両腕を差し出すと嬉しそうに登って来た、可愛い奴等だな。肩に乗ったサイが珍しく大人しくしているなと思っていたら、振動も手伝ってか、寝息を立てていた。


 帰り道、自宅付近で木の実を収穫していった。家に辿り着くとヤクモ達が庭まで来て出迎えてくれた。俺の姿を見て「何があったのですか。」と皆に質問攻めにあった。・・・そりゃそうだ、あんなに地面に押さえ付けられたら汚れるわな。そこまで気が回らなかったよ。「中でゆっくり話すよ。」と説得して家の中へ移動した。定位置にでんと腰を降ろすと、そのまま両腕を広げ仰向けに倒れ込んだ。

「ああ、疲れたぁ。」

 スーアンとハクはそうでも無さそうだったが、サイは流石に帰り道だけでは足りなかった様で俺同様に全身を床に着け力を抜いている。モモカが心配そうに側に座り俺を覗き込んでいる。

「大丈夫大丈夫。疲れただけだよ。今日は殆ど寝転がってただけだし。危なくぺしゃんこになるところだったけどな。」

 そう言って笑うとサイも声を出して笑った。モモカとミナは目を見開いた。

「笑い事ではありませんよ、主様。サイも。」

 困り顔でスーアンが呆れた声で言う。あらら、怒られちゃった。

「主殿、どういう事かちゃんと話して戴けますか。」

 のわっ、ヤクモさんの声が些か低めになっていますね。観念して今日の出来事をなるべく詳細に、俺、スーアン、サイ、ハクそれぞれの視点から、その時の心情も含め臨場感たっぷりに語った。ジュウザは歓声を上げながら楽しそうに聞いていた。ヤクモ達は時には息を呑み、時にはうぅんと唸っていた。

 俺以外の視点からの話は、俺にとっても面白いものだった。ハクは俯瞰で物事が見られる事、スーアンは複数の法術を同時に操る事ができる事がわかった。サイは様々な物事を表現する言葉に独特の感性があって、話が面白い事。好き嫌いが出そうだが、俺は好きだな。

 我らイッスン班の話が終わった流れで、魔界獣・バーゲストを食す事にする。アイテムボックスから取り出す。

「そういえばスーアン、この毒をなんとかできるかもしれなとか言ってたっけ。」

「はい、私に試してみたい事がございます。おそらくなんとかなるかと。」

 そう言いながら前に出てくる。

「よろしくお願いします。」

 かしこまって頭を下げた。「はい、それでは・・・。」と言って微笑みながら俺に合わせて礼儀正しくお辞儀をする。何時もながらスーアンの所作には品があるなぁ。サイの毒まみれのバーゲストに近づく。

「法術・蛇毒の解。」

 なるほど。解毒の術か。

「・・・上手くいったようです。」

「助かるよ、スーアン。それは解毒の技能か。」

「えぇ。蛇毒しか解毒出来ませんが、消費する力が極端に少ないのです。」

 俺は納得した頷きを返す。そういう事か。植物毒や魚、茸や他の魔物の毒は癒せないという事だが使用に消費するMPが極端に少ないという事は、またしても我々の食糧事情にとって素晴らしい技能であることは間違いない。俺はナイフを使い解体を始める。

「そういえば主様、ご報告が。レベルが上限に至りました。」

「おぉ、そりゃあ良かった。おめでとう。・・・進化してから食べるか、食べてから進化するか。どうする。取得技能によっては選択肢が増えるかもしれない。」

「進化してから、戴きたいと存じます。既に進化先は決めております故。」

「そうか・・・じゃあ、食事の準備が終わるまでちょっと待ってて。せっかくだから皆でお祝いしよう。」

 スーアンは抵抗せずに頭を垂れた。スーアンは解体している最中ヤクモ兄妹と談笑していた。サイは力尽き寝息を立てている。ハクとミナは何が楽しいのか判らないが俺の側で解体作業を真剣に黙って見つめていた。・・・あれ、胴体の周りにあった鎖は何処にいったんだ。アイテムボックスの中身を確認してみる。鎖が五本。回収出来ていたようだ、そして身体の一部ではなかったらしい事がわかった。解体を終え、食べるのには適さない部分はアイテムボックスに放り込み、肉を切り分ける。

「お待たせしました。」

 そう声を掛けると部屋の中央に円形に並んだ。サイをハクが起こすと寝ぼけ眼を自分の尻尾で器用に擦りながら席に着いた。家族の食卓も賑やかになったものだ。そんな事を思いながら家族に今切り分けた肉を配る。皆、俺が目の前に行き渡すと礼を言いお辞儀をする。それ以外の待ち時間は各々会話をしている。・・・ジュウザだけは「待て。」をされている飼い犬の様になっているが。おぉお、およだが床にくっついちゃうぞぉ。全員に配り終え自分の席に着いた。

「じゃあ、まずスーアンの進化の儀式からだね。・・・ジュウザぁ、まだだぞぉ。」

「わ、わかってるよぉぅ。」

 と言いながら、着地寸前の涎を引き上げた。皆の笑い声が家中に響く。スーアンだけが何とも言えない表情になっていた。

「どうする、真ん中で披露する?」

「そんな主様、御冗談を。」

 あらら、恐縮させてしまった。

「悪い悪い、冗談だよ。ささ、準備が出来たら何時でもどうぞ。」

 スーアンは「はい。」と返事をして深呼吸を一つした。

「それでは・・・参ります。」

 そう言って進化先を選択し、静かに「はい。」と返事をした。光の粒子が集まりスーアンを包み込む。光り輝くスーアンの身体の影が脱皮をするように剥がれるのが見えた。そして光が収束して消える。そこには先程までとは少し違う姿に変化した、それでもスーアンと解る眼鏡蛇が姿を現した。

「無事、終わりましてございます。法杖眼鏡蛇ワンド・コブラに種族進化いたしました。」

 なるほど、そうきましたか。法術特化の種を選びましたか。徹底してるな、スーアンは。尻尾の先端が魔法使いの使う木の杖の様に渦を巻いた形状に変化している。捕縛眼鏡蛇の特徴であった肋骨の先端が少しだけ短くなったか。そして誤差の範囲内に納まりそうな程だが身体が全体的に大きくなった様に感じる。もしかしたら本当に気の所為かもしれない。

「あらためて、おめでとう。」

「ありがとうございます。」

 皆もそれぞれの「おめでとう。」の言葉を掛ける。その祝辞に礼儀正しくお礼を返していた。

「明日はまず確認作業からだな。」

「はい。」

「よし、じゃあ食べようか。・・・ジュウザ、お待たせ。」

 皆で揃って「いただきます。」と挨拶をして、食事を始めた。


 バーゲストの肉は俺達に今までとは違う世界の力をもたらす事になった。それはこの世界の有り様を覆す程では無いが、魔物が有していても良いのだろうかと思える程のものだった。

『特異能力・魔法を取得しました。』

『新しい特異能力が取得可能になりました。』

『技能・重力魔法を取得しました。』

『技能・鎖召喚を取得しました。』

『新しい技能が取得可能になりました。』


 魔法。まさにファンタジー。この世界に転生した時にあったらいいなと、使えたらいいなと思った力。法術という力が存在し、だからこそ魔法は存在しないと思っていた。この世界ではそういう呼び方なのだと納得していた。だが違った。あった。魔界獣・・・つまり「魔界」と呼ばれる世界から来た獣から得た力。という事はこれは魔界の力だ、こちらの世界にあって良いものなのだろうか。まぁ魔界獣自体はこちらに存在してはいるのだから世界そのものの摂理を歪める様な事も無いだろうが。そして一つ解った事がある。魔界に生きる物も・・・少なくとも魔界獣は、そしておそらくは魔族もだろうと思うが、その全てがこの世界のシステムの中に平等に存在しているという事だ。魔界は異界では無く界層が違うだけといった感じなのだろう。それが何を意味しているかは、今の俺には解らない。魔法と法術の違いもいまいち解らない。


 他の皆も歓声や唸り声を上げなら自分に起きた変化を確認している。後で聞いてみたが、やはりそれぞれ取得した技能に差はあるものの取得可能になったものも含めると殆ど差が無いようだった。取得可能になった技能を確認してみたが早急に必要な、どうしても今必要だと感じるものは特に無かった。・・・明日もう一度ちゃんと確認しよう。


 一段落したので、甘味替わりに木の実を食べながら本日のヤクモ班の話を聞かせて貰った。その頃にはサイとハクは夢の中へ旅立っていた。ヤクモ達は俺達の逆、東に向かったとの事。森の終わる所まで、木々の切れ目まで行ったらしい。その途中で数匹の魔物に遭遇したが特に問題は無かった、外側に向かう程生息している魔物が弱くなっている印象だと言った。貴重な情報だ。おそらくそうではなかろうかと思ってはいたが。俺自身の目でもちゃんと確認してから結論を出そう。森の外側は、正確には東側は見渡す限り平原だそうだ。北側は竜の住む山から連なる山脈が横たわっているが、それも切れ目が見えない程遠くまで続いていたらしい。南側は東側と同様の平原が広がっていたと。

「ヤクモ兄ぃ、俺が言ってもいい?」

 ジュウザがとうとう我慢しきれなくなったのか、口を開いた。あら、俺に何かお知らせしたい事でもあるのかしら。

「あの件か。いいぞ、じゃあジュウザ、頼めるか。」

 優しい口調でヤクモは答えた。ちゃんと良いお兄ちゃんしてるなぁ、ヤクモは。ジュウザも初めて自分にお兄ちゃんが出来たような感覚なのかな。そう言われたジュウザが満面の笑みで俺に報告してくれた。

「あのね主、キリンに会った。」

「へぇ、キリンに。それで。」

 何かあったんだろうか。・・・無事なところを見ると争いは無かった、もしくは何事も無く退ける事が出来たのだろう。だとしたら何が問題なんだろうか。戦って倒したのなら、ジュウザならこちらが聞く前に自慢気に話しそうなものだが。

「それでね、俺達を見て話し掛けて来たんだ。」

「ほぉぅ。」

 意外な展開。って言うか、会話が成立するものなのか。可能性があるとすれば、そのキリンが肉食で・・・という事だ。もしそうなら、俺と同じ転生者かもしれない。魔物なので一概にそうとは断定できないが。

「でね、狐と蛇がなんで一緒にいるんだって聞かれたから、主の事を話した。そしたら今度会いたいって。」

 これまた意外な展開にジュウザから視線を上げヤクモとモモカに移すと「はい。」と頷いた。

「何時でも良いので、今日と同じ場所に主殿が来れば、あちらから会いに来られるそうです。」

 とヤクモが補足した。

「そうか。それは俺も興味がある。解った、今度行ってみよう。」

 転生者の可能性が高くなったかな。しかしキリンに転生とはなかなか厳し目な感じだな。兎よりは強そうではあるが。首も強力な武器になりそうだしな。雄は首で喧嘩するんだったっけ。近いうちに会いに行ってみよう。

「そういえば私も報告が。法闘士が上限に達しました。」

「お、おめでとう。で、次は何にした。」

「もう少し考えて、明日の朝決めようと思っております。」

「そうか。」

 慎重だな、まぁヤクモも睡魔に襲われ始めたかな。眠い時に決断すると良くない事も多いからな、良い判断かもしれないな。ヤクモの話を聞いて俺も格闘家のLvを確認してみると、89だった。思ったより上がってるな。色々な恩恵のおかげかもな。これなら俺ももうすぐ次の職に就けるかな、そろそろ転職先を検討し始めても良いかもな。楽しみが一つ増えた。一覧を眺めながら色々想像するのはなんだか良く解らないが楽しいからな。


 これで一つ目標を達成したので、明日からはもう一度状況を整理してから、拠点探しを再開しよう。まずはヤクモ邸に行ってみないとな、それからかな。部屋のあちこちから寝息が聞こえ始めた。外からは微かに夜の鳥の声がする。そんな音に誘われる様に、俺の意識も睡魔の侵入を許してしまったらしい。暫く技能や職業の一覧を開き眺めていたが、気が付いた時は既に外から陽の光が射し込んでいた。

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