21、鎖[前編]
本日は俺、スーアン、サイ、ハクの編成でお出掛けである。つまり二つの部隊に別れ探索範囲を少し広げる作戦を実行中である。なんて大袈裟なものでもないのだが。探索範囲を広げようというのは嘘ではないが、無理をする必要も無い。我々の当面の目標はスーアンの種族進化である。そのついでにいつもより少し遠出をしようという訳だ。安全を考慮して普段より頭数を増やして行動することにした。攻撃や支援、連携を考えこの編成になった。正直な話をすれば、子蛇達の能力は加味していない。低く見積もっているつもりも、信用していないつもりもない。ただ現段階ではいざという時、責任を持って各子蛇を各々が担当するというのが我々の決め事であるだけだ。そしてその担当が毎日順番に入れ替わるだけの事である。今日の俺の担当がサイで、スーアンの担当がハクだ。
取り敢えず東西に別れようという事になり、俺達は西に向かう事になった。今回、俺はどうしても探したいものがあり西に行きたいと願い出た。特に危険なものを探す訳では無い事を伝えると、皆快く承諾してくれた。その俺が探したいものとは、「竹」である。先日サイに西で竹林を見たと聞いたからだ。それが竹林である確証がある訳では無いが、地面に絵を書きながら形状を説明すると「たぶんそれだと思う。」という答えが返って来たので、それが竹である可能性は極めて高い。筍を発見したのもサイなので期待も高まる。
竹が手に入れば、念願だった釣り竿に一歩近づく。現在考えられる素材でこれ以上のものは無いだろう。後は「糸」をなんとか調達できれば形になるだろう。竹があればかなり生活が向上する可能性がある。だがあまり気が進まない。面倒くさいからという理由ではなく、魔物の生活に文明を持ち込む事に多少抵抗があるという理由で。俺自身は文明の利器が有った方が生活が楽だとは思うが、やはり人型の魔物及び人種に今のところ出会っていない事が引っ掛かる。まぁ、その人型になってしまった俺が言うのもなんだが。ただ無闇に便利になりすぎると、この森の生態系を大きく変えてしまう可能性がある。既に遅いのかもしれないが・・・。他種族で集まって生活してるんだもんねぇ。普通に考えて、おかしな事になってるもんな。それに俺にとって皆はもう仲間で家族だもんな、皆を守る為なら手段を選ぶつもりは無い。いざという時の為に、準備はしておこう。たとえそれが世界の調和を崩してしまう結果になってしまったとしても。なるべくそうならないように気を付けながら。取り敢えず道具の類に留め、建築の類は辞めておこう。どれ程意味があるかは分からないが。
普段より遠くへと足を伸ばすつもりなのでもう少し掛かりそうだ。
「サイ、どっちにありそうかな。」
立ち止まり無責任に問を投げてみた。
「ん〜、あっち。」
俺に負けない程の無責任に感じる答えが返ってくる。でもサイの場合、喋り方でそういう印象を受けるだけで、適当なことを言ってる訳では無い。不確実な場合は「だと思う。」という言葉が付く。スーアンもその事に気が付いている様だ。
「サイ兄さん、本当ですか。」
「本当だよぉ。」
へぇ。ハクはあまり信用して無いのかな。たぶんハクは理屈で考えるから納得がいかないのかもしれないな。俺も理屈で考える方だから解らんでも無いが、だからこそ直感型のサイの感覚を大事にしたい。ハク、君にも何時か分かる時が来るよ。
「まぁ良いじゃないか。必ず見つけなきゃいけない訳じゃないんだし。見つからなくても別にいいさ。」
「えぇ〜、あるじも信じてないのぉ。」
「そうじゃないよ。聞いたのは俺だ、その答えを俺が信用しないでどうする。」
「そっかぁ、えへへ。」
「ハクの気持ちも分かるけどな。どっちも間違ってないと俺は思うぞ。」
ハクも嬉しそうに頷いた。スーアンはその子供達の様子を微笑ましく見守っている。それはいいんだが、なぜサイもハクも当たり前の様に腕に巻き付いて肩に乗っているのだろう。別に嫌な訳ではないんだが、理由がわからんのだよ。
ハクの示した方へと歩みを進める。見た事の無い景色に少し警戒を強める。流石スーアン、先程までより緊張を強めた様だ。それを感じ取り目を向けて頷くと、軽く目を閉じ頭を下げた。実に頼もしい。このやり取りを見ていたハクは、何かに気付いた様に体勢を整えた。俺は左の肩をチラリと見て右の口の端を僅かに上げた。ついでと言ってはなんだが右の方の方も覗くと、あらゆる方向に首を忙しなく動かしている。楽しそうな奴だ。そのおかげでここまでの道中でも幾つか植物を新発見した。本当に凄いな、これだけで食糧事情が向上する勢いだ。
「あ、あるじ。あの辺だよ。」
そう言って鼻先を向けた右前方を見る。お、確かに竹林らしき姿が見える。どうやら間違い無さそうだ。
「流石、サイ。凄いな。」
「本当にあった。サイ兄さんの言ったとおりだ。凄い。」
自分の理解の範疇を超えた兄に驚きと尊敬の眼差しで見つめている。口も少し開いちゃっているぞ、ハク。母上も「不思議なものですねぇ。」と感心している。「何で分かったの。」とハクに聞かれたサイは植物鑑定と探し物という技能を組み合わせた、植物探索という技能があるのだとこちらの予想とは裏腹に実に明解な答えが返ってきた。そして直感でも無かった。全く参るぜ、なぁハク。あぁあ、さっきより大きく口が開いちゃった。これには母上も目を大きく開いていた。これが技能の統合・合成ってやつですか。『是、肯定します。』俺もそろそろ一つ位発見したいものだ。
森の中に突然ここだけ竹が群生している。竹林というには少し規模は小さいように思えるが、全部刈り取ってしまう訳ではないので特に問題は無い。竹は繁殖力が高い植物だと思うのだが、ここはあまり繁栄してないな。もしかしたら近くに筍を食べる魔物の良いお食事処になっているのかもしれないな。或いは熊猫さんの様な強引に竹そのものを食す種もいるのかもしれない。・・・辺りを観察してみたが、食い散らかされた様な残骸は確認できなかった。後者の方は可能性が低そうだ。
その竹林に近づくと、早速サイは俺から飛び降りスルスルと吸い込まれていった。ハクはゆっくりと足元に降り、一つ一つ確かめる様に観察作業を始めた。警戒は俺とスーアンですれば良い。我が家と庭の倍くらいの範囲なら容易だ、それにサイもハクもそこから出るような事も無いだろう。俺も警戒態勢を保ちつつ、竹を物色しながら竹林の中へと入って行く。アイテムボックスから鋼ガガガニのナイフを取り出す。これで切断できるのだろうか。
「ハク、この竹の名前は。」
「青銅竹だよ。」
自分の作業を中断し、首を上げ笑顔で答えてくれた。
「これで切れるかな。」
「それは・・・わかりません。」
「そうか、そうだな。後で確かめてみよう。」
「はい。」
三本程持って帰ろうと計画している。どれにしようかと吟味しながら歩き回る。まさか光る竹があったりしないだろうな。それを切ったら、お姫様が出てきたりしないだろうな。俺の名前はイッスンだし、もしかしたらそんな事もあるかもしれない。可能性は0では無い・・・0だろ。流石にそこまでファンタジーでは無いはず。まぁ、あったら間違いなく切っちゃうけどな。などと考えながら歩いていると竹林の切れ目に辿り着いた。切るなら一番外側の竹を切るのが回収しやすそうだな。まずはこいつで切れるかどうかを試してみないとな。ハクの気配を探り、場所を特定する。先程の場所からあまり動いていないようだ。じゃあ俺がそっちに行こうかな。蛇行走を試すいい機会かもしれないな。今回は快速はお休みです。ハクに向かい走り始めると、自分でも驚く程の恩恵を感じる事ができた。本当にまるで竹をすり抜けている様な感覚だった。目的地に辿り着いた時、ハクも「わっ。」と声を出して驚いていた。
「どうしたの、あるじ様。」
「竹、切ろうと思って。見るだろ。」
「はい、見たいです。」
「中の方で切ると色々面倒くさそうだから一番外側のを一本切ってみようと思ってな。」
そう言って移動しようとすると少し後ろから、ハクの声がした。
「あるじぃ、ちょっと待ってぇ。ボクも見たい。」
そう言いながら、蛇ってそんなに速く走れるのという位の速度で近づいてきた。それと同時に何処からともなく、そして音も無くスーアンも姿を現した。
「私もご一緒してよろしいですか。」
「勿論だ。でも何処にいたんだ、全然気が付かなかったぞ。」
スーアンは「ホホっ。」と上品に微笑んで「景色同化という法術です。」と答えた。その場から動かなければ姿を景色に同化させて、まるで消えた様に見せる事ができるらしい。俺同様、技能や法術の性能を試していたのだそうだ。
「危ないから俺の後ろに。」
竹林の一番外側の竹を、右側を竹林、左側を外側にして立つ。これを右上から左下に切れば外側へと倒れる筈。すぅっと息を吸い込み、ガガガニナイフを振り上げる。気分は剣豪、何でも切れる様な気がしてくる。息を吐くと同時に勢いよく振り下ろす。その直後、強い衝撃が俺の腕に伝わりナイフが竹に少しだけ食い込み、その動きを止める。・・・なん、だと。この数々の強敵を屠ってきた無敵のナイフで切れないだと。
「おぉ凄いな、この竹。」
そう言いながら少しだけ切り込んだナイフを引き抜いた。刃を確認してみたが、どうやら欠けてはいないようだ。ナイフ自体に問題は無さそうだ。という事は俺の腕の問題か・・・くっ。
「あるじ様、大丈夫?」
「大丈夫。・・・しょうがない、必殺技を使っちゃおうかな。」
アイテムボックスからもう一本、同型の獲物を取り出す。
「必殺技。」
サイは声を一つ高い音で発した。まあ、男の子ならそうなりますよね。ハクもそうなるのは解るが、スーアンまで期待の眼差しを向けているのは何故かしら。まぁいいけども。左右に一本ずつ持ち、竹との距離を測り右足を前にして足を開く。両腕も目一杯開き、刃を内側に構える。
ーー《白兎流格闘術・影技・蟹交閃》ーー
左右の腕を交差させて振る。・・・鋏本来の使用方法に素敵な名前を付けてみました。結果は無事に振り抜く事が出来ました、つまり上手く切断出来た様だ。きちんと狙いを付けて斜めに切る事が出来たので、竹は思惑通り外側へと倒れた。後方から歓声があがり、俺の周りに集まってきた。残った竹の節の中に、お姫様はいなかった。
「あるじ、格好いいぃ。」「あるじ様、凄いです。」「お見事です、主様。」
んん、満更でもないが照れ臭い。照れ笑いをしながら倒れた竹に近寄る。にしてもやっぱりちと長いな。真ん中辺りで立ち止まり、片膝を付く。流石に根本よりは細くなっているので、片方だけでもなんとかなりそうだ。左の脇に抱えて右手に持ったナイフで切断する。それでも三回程振り下ろす必要はあった。この調子で後二本回収した。最後の一本は釣り竿用に四分割にしておいた。
今日は普段より遠出もした事もあり、少し早めだが帰ろうという事になった。もう少しだけこの竹林を皆で探索した後、ゆっくり家に向かい歩き始める。竹林から少し離れた時だった。後方から今までに感じた事の無い気配を察知する。例えるなら獲物を狙うそれでは無く、純粋なる殺気。
「何か来る。俺の後ろへ。」
その殺気の方へ向きを変える。全員がその気配を察知し、俺の指示に従う。気配は一つ、方向はほぼ正面。異様な気配に緊張が走る。魔物鑑定・・・反応しない?何故だ。そう思った次の瞬間、だいぶ距離はあるものの正面の藪が弾け飛んだ。その奥からゆっくりと何者かが姿を現した。
「狼か・・・いや、犬か。」
それで何故、魔物鑑定が使えないんだ。犬は魔物じゃないのか。黒、と言うより深い海の様な暗い青。群青狼より少し大きいか。で、その左右に鎖が二本ゆっくりとうねっている。・・・鎖、だと。魔物じゃない、だから魔物鑑定が不発だったのか。『是、肯定します。』こいつが魔界獣か。思ったより西側の境界線に近づいてしまっていたか。『是、肯定します。』魔界獣鑑定を取得したいんですが。『条件を満たしていないので取得出来ません。』なるほど。だが幸いにも俺は名前を、正確には種族は知っている。まさかこんなところで偏った前世の知識が役に立つとはね。バーゲスト。熊や人の場合もある様だが、この世界では犬の様だ。よく見るとあのバーゲスト、胴体にもその身を守る様にもう一本鎖が螺旋状にくるくると周っている。
「主様、あれは一体なんでしょう。」
「バーゲスト。魔界獣らしい。」
「魔界獣・・・初めて見ました。」
緊張した声でハクが言った。俺もだよ。
「あるじ、あの浮いてるのは何。」
そうか、そうだな。
「鎖だ。細かい説明は後でいいか。」
サイはバーゲストから目を逸らさずに頷いた。
「どうすればいい、あれって触っても大丈夫なの。」
一瞬だけ横目でサイを見る。瞬時にその事に気が回るとは。
「わからないな。取り敢えず今は回避だ。」
「了解。」
接近するのは難しそうだな、それに接近できたとしても胴を守る鎖が邪魔だな。浮いてる鎖とも距離が欲しい、どうするか。ナイフは今のところ武器として扱うには些か不便な形で心許ない。角を二本取り出す。本来ならば武器を使うのはあまり気が進まないが、相手が文明の利器を当たり前の様に使用するなら話は別だ。俺も躊躇したりしない。本音を言えばもう少し長い獲物が欲しいところだが贅沢は言っていられない。
「スーアン、基本的には防御に徹してくれ。サイ、ハクは無闇に攻撃してあいつに狙われない様にしてくれ。俺は攻撃に集中したい。勿論、隙があったら攻撃してもいいけど。できれば援護を中心に頼む。」
「じゃあ、ハクが指示出して。」
「え・・・。」
サイの提案にハクは戸惑う。
「ボクは指示された事は殆どこなせると思う。母上はボク達を守ってくれる。あるじがあの魔界獣の気を引いてくれる。だからボクとハクであるじの手助けをする。ボクが勝手にやるとただの悪戯にしかならない。だからハク、指示出して。」
「僕に出来るかな。」
「できるよ。ハクはボクより頭がいい。」
「サイ兄さん・・・。」
そう言いながら俺達を見回す。サイは笑顔で頷く。スーアンも上品な微笑みを浮かべて頷く。
「大丈夫だ、サイが言うんだから間違いない。」
少し屈み頭を撫で、声を掛けると何かを決意した男子の目になる。
「はい。やってみます。」
これは俺も頑張らないとな。スーアンに目をやると俺に向けて一つ頷き、気を引き締め直した表情になる。俺も気合を入れ直して姿勢を整える。あちらさんもやる気満々のご様子だ。
「さて、そろそろ始めようか。」
さて差し当たって問題はあの浮いてる鎖の有効射程範囲と接触による影響だ。とにかく俺は前に出るしか無い。前に出てサイ達に注意が向かないようにしなければならない。絶対の自信があるのか余裕たっぷりにゆっくりと距離を詰めてくるバーゲスト。迷っている暇は無い、奴の真正面に走り込む。先手必勝に勝る戦術無しと兎玉を走りながら発射する。発射するとほぼ同時に二本の浮かぶ鎖が左右から交差する様に線になって飛び掛かってくる。ヒヤリとしたが後方跳躍で回避する。俺の鼻先で鎖が十字になるのを見た。鎖どうしの金属の擦れる音がする。この世界に来て初めての正真正銘の金属音に少なからず恐怖する。動物になって、魔物になって本当の文明の力を初めて実感したかもしれない。俺の放った兎玉は命中したが、バーゲストの顔を軽く叩いた程度のものだった様で気にも留めていない。くそう、手加減をしたつもりは無いんだが。魔界の生き物には効果が薄いのかもしれない。困った、一つ選択肢が減った。
左へ走り相手の右側へ回り込む。それを追うように今度は交互に襲いかかってくる。避けるので精一杯で本体に近づく事が出来ない。一度距離を取り体勢を立て直す事にする。バーゲストもこちらへ向きを直す。正面から睨み合う。あちらさんも俺が思ったより素早く鎖を避けるので多少苛立ち始めた様だ。さて次はどうするか。言っても鎖は二本、なんとか抑え込めれば近づく事が出来そうだ。・・・まぁ言うのは簡単だが、なぁ。手に持った角で受けつつその機会を伺ってみよう。はたき落として植物捕縛で取り押さえてみるか。軌道をあちこちに変えてはいるが、最終的には直線的に飛んでくるので避けるのも払うのもよく見極めれば思った程困難ではない。飛び交う鎖を掻い潜りジリジリ間合いを詰めていく。それでもまだ一飛びには遠い距離だ、もう少しと思った時だった。鎖が空中で動きを止めた。俺も虚を突かれて立ち止まる。少し間を外された感はあるがすぐに近づく為に重心を前方に掛けた。だが一瞬動きを止めていた鎖が再び動き出す、その軌道を変えて。右からの横薙ぎ。条件反射の様に飛び上がりそれを躱す。するともう一方の鎖が頭上から振り降ろされる。額の角と合わせて三本の角でなんとか受け左へと払い落とす。着地した後も矢継ぎ早に数度、横薙ぎ縦薙ぎが迫る。自分が兎であることの本領を発揮し躱したが、たまらず詰めた距離を諦め間合いを取る。鎖を鞭の様に振る戦法に切り替えたのか・・・避けられなくはないが、俺縄跳び苦手なんだよな。困った。
次はどうしようかと思案しながらバーゲストと睨み合う。そういえばサイ達はと、視線を向けた。すぐに視線を戻したのでほんの一瞬だったが確かに俺は見た。ハクに何かを話し掛けられているサイの目が三日月より細くなり上方に弧を描き、口の両端も釣り上げ笑っているのを。離れていても悪い笑い声が聞こえてくる様な気がする。サイの悪戯心にハクの頭脳が加わるとそんな顔なる程の事なの。味方だけど冷や汗が出てきそうだよ。心強いが無茶はしてくれるなよ。
さて、俺は目の前の敵に集中しよう。なんとしてもまずあの飛び回る厄介な鎖を取り押さえる。何処かで覚悟を決めて試みないと先に進まない。気合を入れて前に出る。左の鎖の縦薙ぎが迫る。右へ少し跳び回避する。右の鎖が予想通り横から大きく弧を描き飛んでくる。両手の角を逆手に構え、その鎖の先端に近い箇所を線で受け止める。勢いが消えたのを身体で感じ取り、左の腕を上に挙げその手に握りしめている角の先を鎖を構成する輪の一つに差し込み、力いっぱい地上へと打ち付ける。角の先が突き刺さったのを確認したのと同時に右側の腕も同様の動作を繰り返す。
「植物捕縛。」
これでなんとか一つ封じる事ができた。・・・が片方の鎖に気を取られ過ぎた。もう片方の鎖が先程までと動きを変え横薙ぎに左側から襲い掛かって来る。しまった。咄嗟に身体を捩り回避行動を取ったが間に合わず、辛うじて右腕は免れたが左腕と胴を一緒に巻き付かれてしまった。巻き付かれた勢いで体勢を崩し右に倒れ込む。くそ、どうする。絞め殺される程では無いが、簡単に外れそうもない。だが幸いな事はこの鎖に触れても特に悪影響が無い事だ、助かった。転がりながらバーゲストとの距離を稼ぐが、あまり意味は無さそうだ。ん?鎖、鎖か・・・。ただの道具、ならばいっそアイテムボックスに収納してしまえば。右手で鎖を掴み、接触収納を使用する。くっ、効果が無い。何故だ。『現在この鎖の所有権は魔界獣・バーゲストにあります。』そういう事か、アイテムボックスには生き物と他者の所有物は収納できない。納得の理由だよ。虎の子のナイフでも切れるかどうか。困った、大ピンチだね。
俺を鎖で捕らえた事で勝利を確信したのか、余裕たっぷりに俺を見下しながらゆっくりと近づいてくる。本格的に不味いな。最後の最後まで足掻くつもりなんだが、自分の意志より身体の方が諦めてしまったのだろうか。目の前が何やら白く靄掛かって来た様な気がする・・・あれ、気の所為じゃあ無いぞ。辺りが、俺とバーゲストの周りを包み込む様に白く靄が、いや霧が掛かって来た。それも濃霧が。みるみる一面が真っ白に染まりすぐ側を取り囲んでいた木々や藪も覆い隠しその姿が見えなくなった。この異常事態にバーゲストも首を右に左に振り状況把握をしようと試みている様だ。そうだろうな、おそらくこれはファンタジーな自然現象ではないだろうな。
「これは母上の霧の法術だよ。」
よく反響する室内の様に何重にもなったサイの声がする。場所が俺でも特定できない、俺が探す必要もないが。
「フフフ・・・。」
魔王の様な不敵な笑い声が霧の中に響き渡る。ついに来たな、悪戯小僧。おぉ恐っ、だが頼もしい。
「あるじ、今助けるね。ちょっと待ってて。」
「ああ、ゆっくり待ってるよ。頼んだ。」
そうだ、俺は独りで戦っている訳ではない、生きてる訳ではない。安心する。心強い。俺はここで大人しく反撃に備えていれば良いんだ。冷静に状況を整理して、次の一手の為に思考を巡らせる。
「ウフフ・・・じゃあ始めるよ、あるじ。フフフ・・・。」
・・・楽しそうだな、些か不安だ。大丈夫かなぁ、いや大丈夫。俺が信じないでどうする。
「眼鏡蛇流法術陣・幻霧。」




