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20、新技能と皆の事とこれからと。

 レベル上昇や群青狼、雹鳥を食した事により幾つか技能が取得可能になった。スーアン達、捕縛眼鏡蛇の親子が従者になった時に上昇したレベルに応じて大量のスキルポイントが加算された。危なくポイントが無駄になってしまうところだった。故にポイントを無駄にしないように何か技能を取得して消費しなければと、いつもの様に穴が空くほど一覧とにらめっこをした。

『技能・快速を取得しました。』

『技能・熱探知を取得しました。』

『技能・蛇行走を取得しました。』

『技能・毒耐性を取得しました。』

 この他にも現在取得している技能のLvを上げ、合計1300程消費した。にしても・・・快速って、速く走れる様になる技能だって事は理解できる。とてもありがたい。こんな技能が欲しかった。でも快速って、じゃあ俺は今まで各駅停車だったのか。

『是、肯定します。』

「えっ?マジで。」

『否、否定します。』

「どっち。」

『この世界に鉄道は存在しません。』

 それは何となく判ってはいるんだけど。でも一つ確定したな、鉄道は無い。いや、そういう事じゃ無くて・・・まぁいいか。今回取得した技能もだが今まで一度も使用したことの無い技能の性能を確認しないとな。今日はそれにしようかな。ヤクモやモモカ、スーアン達の能力をある程度把握する必要があるとも思うし。ヤクモとモモカに至っては進化もしたしな。


 ヤクモは二尾狐に進化した。身体の大きさ自体は変化は無かったが、文字通り尻尾が一本増えた。進化する種族を選ぶ時に色々相談を受けた。白雪狐や淡雪風狐など二尾狐を含め六種類あった。どれにするべきかと聞かれたが、俺が選ぶのは良くない、最後は自分で決めて欲しいという事を伝えたうえで俺の思った事を話した。二尾狐は今回を逃すとこの先その選択肢は無い可能性が高い事と時間は掛かると思うが今ある選択肢の可能性を網羅出来るのではないかと。あくまで可能性の話だし推測の域を出ない事だとも話した。何かに特化したいならこの選択肢は向いていないから止めたほうが良いのではないかとも。だがヤクモは俺の話を全て聞き終わる前から決心していた様に感じる。直感で二尾狐と感じていたのかもしれない。俺の話は自分の考えがある程度正しいものである事の確認の意味合いが強かったのかもしれない。だが俺の話を最後まできちんと聞いていた。

 二尾狐に進化して尾が増えたのだが、その尾にそれぞれ火や水などの属性を・・・得意な属性を持たせる事が出来るようになったらしい。一本は火・炎属性を、そしてもう一本を雷属性を持たせたらしい。なぜ雷を選んだのかと聞いたら、「主殿に習って。」とのこと。いやまぁ、嬉しくないと言ったら嘘にはなるが、俺が持っていない属性の方が良かった様な気がしないでもない。ま、どのみち最終的にはほぼ全属性を網羅してしまう事になるだろうから、別に良いか。俺の予想ではだが。

 種族進化をする際に身体に残る傷跡を修復する事が出来るのだが、ヤクモは顔に付いた傷を・・・俺が付けてしまった傷を修復しなかった。

「この傷は、私の主殿に対する誓いの証です。」

 なのでこの先消す事は無いのだと言う。どこまでも真面目というか律儀なやつだ。そんなものが無くたってヤクモの忠義は揺るがない事ぐらい知っているのに。でもヤクモ自身がそうありたいと思っている以上、俺がどうこう言う事はできないし必要も無い。申し訳無さと少しの気恥ずかしさがあるが。そしてヤクモに出会えた事がこの世界の生き方を大きく変えた。正直に言う、出会えて良かった。


 そしてそのヤクモの妹、モモカも種族進化を達成した。そりゃ後4だもんな、あっと言う間だった。その日の昼には達成し早々に家に戻り進化してしまった。その後再び外に出て食糧集めをする余裕があったぐらいだ。

 モモカは進化先を選ぶ際、特に質問は無かった。兄上の時に俺が話していた事を聞いていたのであまり必要が無かったのだろう。それに何か思うところがあった様だ。後で聞いた話ではヤクモの進化先とは幾つか違う選択肢があったらしい。ま、現にモモカが選んだのはヤクモには無かった選択肢だ。モモカは、聖雪狐に進化した。

 聖属性の技能・法術に特化した種族の様だ。攻撃よりも回復や補助を得意とするのが聖属性と思われる。何処か始めからこういう系統にしようと決めていた節がある。こういうところは、やっぱり兄妹なのだなと思う。回復や補助を得意とするとはいえ、別に攻撃が不得意と言う訳では無い。俺もヤクモも今のところ持ち合わせていない氷属性の法術を使えるのは大きい。相手を倒す事はもしかしたら難しいかもしれないが、赤目熊の時の様に行動を阻害してくれるだけでもとてもありがたい。俺の印象だが、一対一ならヤクモよりモモカの方が得意な様に思う。勿論、戦闘がヤクモより得意という事では無く、あくまで対処がだ。

 技能も幾つか取得していた。その中で「歌」を取得できた事を、とても嬉しそうにしていた。それは別に良いんだけど・・・これは俺も本格的に考えないとなと少し焦る。なので俺も『技能・歌を取得しました。』という事になる。なるべく正しい音階で教えてあげたいし、モモカが音痴なのは凄く嫌だ。それだけは絶対に許し難い、俺が。ただし俺の記憶にも偏りがある事が大問題だ。さてどうしましょうかね。


 スーアンも後少しでレベルが上限に達する様だ。上限は560。これは子蛇達を含め全て一律。つまり上限に個体差は無い、これは淡雪狐の兄妹も差は無かったのでどうやら種族で決まっているらしい。もうすぐ上限になると言ってもまだ30ちょっとあるようなので、余程の事が無い限り今日明日という訳では無さそうだ。スーアンの種族進化が取り敢えずいい区切りになりそうだ。今すぐにでも進化は出来るのだが、上限までレベルを上げる事にしたらしい。つまり我々はレベルを上限まで上げてから進化する方針になる。子供達には自由にして良いんだぞと言うと、ジュウザだけが転げ回って悩んでいた。サイは「はぁ〜い。」と返事をしただけに留まった。ハクとミナは話を聞いて、さも当然の様に上限まで進化を保留する事を決めていた。

 スーアンは捕縛眼鏡蛇なので、本来は近距離からの戦いに特化・・・と言う程では無いだろうが得意であるに違いない。だがどうやら法術に興味がある様だ。機能が開放されてから、今まで意識せずに獲得していたスキルポイントを使って複数の法術とその法術を活かす為の技能を取得していた。それも俺やヤクモとモモカに意見や説明を求め、自分で考えて取得する技能を選択していた。自分の解らない事を解る相手にちゃんと聞く事が出来るのは凄いなと思う。尊敬する。俺達の話を参考に土属性の技能を主に取得した様だった。その他にも火や水の初歩的な法術も取得していた。職業もわざわざ法術士に変更する念の入りようでした。そこまで興味があったのか・・・それとも何か別に考えている事があるのかもしれないが、それは俺には今のところ分からない。

 母親なので子供達の事は良く見ている。流石なのはやはり簡単に子供達の見分けが付く事だ。少し観察していたり、声を聞けば俺だって判別はできる。だが黙って横並びになって誰が誰かを完璧に当てろと言われたら、はっきり言ってかなり無理がある。勿論、今現在はだ。そしてなぜかじっとしていてもジュウザだけは見分けが付くような気がする。あいつ、何か騒がしいんだよな。スーアンはよくジュウザとサイを叱っている印象があるな。お母さんって大変だなあ・・・俺はどうだったかなぁ。よく覚えてないけど、合気を習い始めてからはあまり怒られていない気がするな。たぶん。とにかく、母は偉大なりだ。


 ジュウザは一言で表現するなら、やんちゃ坊主だな。まあとにかく騒がしい。好奇心が旺盛で、何にでも興味を持つのは悪い事では無いんだが。じっとしている時間の方が少ないのではないかと思う程だ。気配を消して相手に近づき仕留める蛇の本分を全く無視している奴。こいつはいったい何がしたいんだ、可愛い奴だ。それに食べられそうなものは何でも取り敢えず口に入れてしまう。眼鏡蛇は生まれながらに毒に強い体質なのもあり、特に問題は無さそうだが。時々痺れていたり、辛さや苦さでもんどり打ってる事もある。全く何がしたいんだ、可愛い奴め。少なくとも見ていて飽きないやつではある。まぁ他の意味でも目の離せないやつではある。でもやっぱりお兄ちゃんなんだなと思う一面がある。きっと弟妹から見てもやっぱりお兄ちゃんなんだろうな。

 どうやら近距離戦闘が性に合っている様で、身体能力を強化するような技能を好んで取得している。だがここでも持ち前の好奇心が威力を発揮し、手当たり次第にスキルポイントの限り技能を取得しようとするのが困りもの。俺とスーアンで、まるでお小遣いの使い方を教える親の様に一生懸命「ちゃんと考えて使いなさい。いざ欲しい技能ができた時に足りなくなるよ。」と言い聞かせているのだが、どこまで響いているのか不安になる。職業は戦士を選択していた。我々の中では貴重な前衛・・・になってくれると助かる。期待しているぞ、ジュウザ。


 次男のサイはいつもジュウザと一緒に騒いではいるが、ジュウザに従っているのか、自分の意志で騒いでいるのか、良く解らない。と言うより基本的に考えていることがよく解らない。一緒に叱られていても、ジュウザ程堪えていない様に感じる。怒られる事も分かっていて騒いでいるみたいだ。俺の予想だが、おそらくジュウザだけが怒られるのを意図的に防いでいるのではないかと思う。実は一番お兄ちゃん子なんじゃないかと思っている。そしてその事にジュウザは何となく気付いていて、サイは気付いていないと思っている気がする。いい兄弟だね。

 兄ジュウザ同様、好奇心はあるが兄程無謀ではない。兄の様に何でも口に放り込んだりはしない。若干兄を実験台にしている節がある。悪い子だねぇ。でも本当に危険そうな時は、それとなくそれを阻止している。良い子だ。そして周りをよく見ている、よく観察している。サイのおかげで新しい食糧を幾つか発見する事ができた。特に根菜類。大根や牛蒡の他に根菜ではないが筍も発見した。正直何でもありだなこのファンタジーな森。決してメルヘン寄りではないが。そしてなぜか未だに人参は発見できない。だぶん何かの嫌がらせに違いない。・・・誰かの。おっと。

 サイは近距離でも遠距離でも、自分の興味を惹かれる技能を厳選して取得している。使い勝手のよく解らない技能を好んで取得している気もするが。口笛やら占いやら工作やら。君、蛇だよねえ・・・工作ってどうするんだろう。それに蛇が口笛って、なんだかややこしいな。全く面白い子だ。基本的な自分に必要そうな技能はちゃんと取得している、そういう抜け目の無いところもある。大化けするかもしれない。楽しみだ。職業は剣士。・・・謎は深まるばかり。


 兄妹の中で一番大人しい三男のハク。大人しいという表現より考える事が好きという表現の方が正しいかもしれない。たぶん冷静というのも少し違う。勿論、冷静なのは間違いないが。頭が良い。時々ぼそっと言う一言がその賢さを物語る。スーアン同様、法術に興味があるようだ。複数の属性の基本的な法術と取得し、様々な事を試している。複数同時に使用できないかとか、どんな組み合わせが有効かとか、嬉々として色々と試している。どうやら実験が好きらしい。そんな時も押し黙って、取り組んでいる。一生懸命な時も静かだ。実はこの眼鏡蛇親子の中で一番蛇っぽいかもしれない。大抵子供が静かな時は、何やら悪戯か親にやってはいけないと言われている事をやっている場合が多いが、ハクの場合はそれに当たらない。勉強が好きなのだろうか。信じられないと思う反面、解らない事が解る様になる楽しさは理解できる。本来学ぶとは楽しいって事なのかな。良い事だし、その事に早く気が付けて羨ましくもある。俺も見習おう。・・・前世でもそう思えていたらと、思ったりしなくもない。

 法術の他に植物に興味がある様だ。植物鑑定も取得し既にLv8まで上げている。一度鑑定したものでも、何度も鑑定し確認している。殆ど覚えてしまっているだろうに、それでも熱心に確認している。性分なんだろうな、きっと。そのうち何か薬でも作り出してしまうかもな・・・なんてな。そうでなくても薬草や毒草、茸の類の判別ができる能力は俺達を大いに助けてくれるに違いない。ハク自身にその意識は今のところ無さそうだが。これでいいと思う。好きなだけ学ぶと良い。何か間違いそうな時は、俺が・・・いや俺達が止めればいい。なるべく邪魔をしないように見守ろう。職業は法術士。


 捕縛眼鏡蛇兄妹の紅一点、末っ子で長女ミナ。とにかくよく見ている。何を見ているのかと言うと、母や兄妹を含めた俺達をだ。「俺達の何を見ているのか。」と聞いたことがある。元来口数の少ない彼女だが「戦い方を。」と一言答えてくれた。サイ程では無いが考えている事が分かり難い。感情をあまり表に出さない事もその要因の一つだろう。ミナは強くなりたいのだろうか。どうもそれだけでは無さそうだが。彼女は戦い方をと言ったが、おそらく俺達の「行動」を見ているのだろうと感じる。一挙手一投足を逃さず捉え、何かを学ぼうとしてるのではないかと思う。誰かに聞くのでは無く、自分で見て感じて考えて答えを探している。凄い娘だ。何時か何かを聞いてくる事があるかもしれない。その時にちゃんと答えられる自分でありたいと背筋が伸びる。ヤクモやモモカ、そしてスーアンにもミナの質問があったなら、きちんと答えて欲しいと頭を下げた。皆「わかっております。」と微笑んでいた、皆も薄々気が付いていた様だ。やっぱり自慢の従者達だな、俺は誇らしい。

 ミナに主にどんな技能を取得してるのか聞いてみた。あまり言いたがらないのではないかと思っていたが、ちゃんと教えてくれた。それも余す事無く全て。蛇眼、遠目、夜目などの目の系統の技能。熱探知、音探知、気配察知などの探知・察知系の技能。そして跳躍、垂直歩行、木登りなどの身体能力を向上させる技能。これが全てでは無いが、なんだか取得する技能の選び方が俺に似ている気がするのは気のせいかな。・・・真似をしているなんて事はないだろう。考え方が似ているのかもしれないな。只、一つ気になった事を聞いてみた。「なぜ全て俺に自分の能力を開示したのか。」と。「主さまに隠す事など何もありません。」という答えが返ってきた。真面目というか、忠義者というか。まるで騎士の様だ。そう、「騎士」という表現が彼女に最も良く似合う。戦闘系の技能は、体当たり、頭突き、毒牙など。職業は俺と同じ格闘家。


 こう見ると思っていたより個性的だな。ヤクモとモモカでも選ぶ道が違い、スーアンや子供達でも多様な選択をしている。この先眼鏡蛇親子の選ぶ進化先が違うものになる事はおそらく間違いないだろう。少し無責任かもしれないが、俺としてはとても楽しみだ。


 という事で本日は自分の技能の使い勝手等の確認作業をする事にした。まずは快速。庭の出入り口から出るとすぐに左右に道が分れている。それがそれぞれある程度の距離、ほぼ真っ直ぐに伸びている。完全に安全県内だし試すにはうってつけだ。右に曲がりゆっくりと出発地点を目指す。所定の位置に辿り着くと立ち止まり、振り返る。遥か先の終点付近に左右に別れ子蛇達が並んでいるのが、微かに見える。ヤクモ達は庭の出入り口から顔だけ覗かせている。なんだか気分も昂ってくる。右足を後ろへ引き、短距離走の選手の様に両手を地に着く。ゆっくりと息を吐き、吐き出した分より少しだけ多く息を一瞬で吸い込み止める。腰を上げる。心の中で「よーい、ドン。」と呟き、大地を蹴り前方へと飛び出す。

「速っ・・・。」

 思ったより速い。左右の木々が次から次へと俺の後方へと流れて行く。僅かにモモカとスーアンが左に見えた様な気がする。もしかしたらヤクモだったかもしれないが。自分の予想よりだいぶ速く終点に到着してしまいそうだ、目の前に大木が迫ってくる。このままではぶつかると思い、止まろうと試みたがどうやら一足遅かった。・・・速かった、が正しいのかもしれない。なんとか首を左に振り、角が突き刺さってしまうのは回避できたが、結局殆ど減速できないまま正面の大木に大の字で激突した。豪快な音が森に響く。

「むぎゃっ。」

 痛い。俺の形に凹んでしまったのではないかと思う程の衝撃だった。衝撃による痺れで暫く動けず、その形のままずり落ち仰向けに倒れる。一瞬の静寂の後、ジュウザとサイの大きな笑い声が辺りの空気を揺らした。今回は流石のハクも耐え切れず、声を出して笑っている。俺も一緒になって笑ってしまった。そんな俺達をミナは真顔で眺めていた。ヤクモ達が慌てて駆け寄ってきて、「大丈夫ですか。」と口々に俺に声を掛ける。

「大丈夫だ、問題ない。思ったより速かったあ。」

 と、笑いながら答えた。

「主さま。」

「ん?なんだ、ミナ。」

「垂直歩行で衝突は回避出来たのでは。」

 ミナが冷静な声で言った。

「あ。」

 それを聞いて、そこにいたミナ以外の全員が大声で笑った。・・・これは練習が必要だな。そして本当に今までの俺は各駅停車だった可能性が高くなった。セッテさんは間違っていなかった。『恐れ入ります。』ぐぅ。気を取り直して次だ、次。


 一休みして皆で移動する。今度は庭より少し広い場所で、避雷針の効果の確認をする事に。お誂え向きにヤクモが種族進化して雷属性の技能を取得したので、その技能を俺に向かい使用してもらい避雷針の実験をしようと思っている。都合よく雷を操る魔物に遭遇する訳も無いし、たとえ都合よく雷を操る魔物に出会えたとしてもこちらの思惑通りにその技能を使ってくれるかは分からない。野生の魔物にそれを期待するのはかなり無理がある。それこそ雷雨の日に自分の近くに落ちてくる雷を待つなどという極めて不確実な方法を取る訳にもいかない。なのでヤクモにお願いする事にした。

「わざと少し逸らして撃ってくれ。」

「本当に大丈夫なのでしょうか、主殿。」

 ヤクモは何やら心配しているようだが、問題は無いだろう。万が一にも俺に何か被害が出るとは考え難い。

「大丈夫だろ。何なら全力でやってもいいぞ。」

「はぁ・・・。分かりました。一応威力は一番弱めて撃ちます。よろしいですね。」

 心配性だなヤクモは。でもまぁ主の俺に雷を落とすのも気が引けるのだろう、仕方がないか。協力してくれているのだから、ここはヤクモの言う事を聞いておく事にしよう。

「ああ、よろしく頼む。」

 あくまで今回確かめるのは、技能・避雷針がどれ位の距離の雷を俺の方へ引き寄せる事ができるかだ。避雷針に攻撃的な要素は無いだろう。この避雷針にもし他の機能があるとすれば、引き寄せた雷撃をこの身に纏わせる事ができるみたいなところだろう。まぁ雷を操る魔物相手にこちらが雷を纏う事にあまり意味があるとも思えないが。

「それではまいります、主殿。」

 ヤクモは緊張の面持ちでこちらを見ている。モモカ達は被害に遭わない様に念の為に気持ち多めに距離を取っている。

「さあ何時でも来い。」

 俺は少し芝居がかった余裕の表情で答える。こうやって対峙すると、なんだか初めて出会った時みたいだな。その時より俺とヤクモ間の距離は意識的に空けてある。目の前で雷撃を放たれても意味無いし。ヤクモは尾を一本だけ持ち上げて、その先をこちらへ向ける。弓の様に弧を描いている尾の先を、俺の正面から左へ45度位の位置に向ける。おいおいそんなに離さなくても良いんじゃないかなぁ。まあそれもあり、か。ある程度の距離から始めれば少ない回数で効果範囲を見極める事ができるかもしれないからな。ヤクモさんはそこまで考えているのかもしれないな。どこまでも気の利くやつだぜ。そんなヤクモを見れば、目を少し細め的を外さぬようにと狙う先を見つめている。俺に視線を送り「行きますよ。」と目だけで合図する。それに黙って首を縦に振る。いよいよ来る。

「狐雷・一閃。」

 ヤクモの立てた尾に雷が絡み付く様に浮かび上がり、間を置かずその尾の先に集まり発射される。それと同時に俺は待ってましたとばかりに叫ぶ。

「避雷針。」

 左前方に一直線に放たれた雷光が、角度を変えきっちり俺の方へ飛んでくる。正確には俺の角目掛けて。あの距離で届くのか、と思った次の瞬間だった。その雷が俺の角に到達し、全身を包み込む。

「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

 視界が白く染まったかと思うと激しい痺れと痛みが全身を襲う。身体中の体毛が焦げ、目や口、耳や鼻から黒煙が立ち上る。俺は少し浮き上がり、そのままうつ伏せに地面へと落ちる。一瞬の出来事だった。幸か不幸か意識は飛ばなかった。・・・なぜ、だ。なぜこうなった。その答えはすぐに出た。

『技能・雷耐性を取得しました。』

 嘘でしょ。そういう事・・・皆を雷から守れると思って良い技能を取得できたと思ったのに。これじゃただ俺が身代わりになるだけじゃないか。それも選択肢として全部が全部悪いとは思はないが、最終手段でしか使えない。雷耐性のLvを上げるまで使用は控えないとな。それにしてもヤクモの心配が的中してしまった。でもそのおかげで死なずに済んだな。全身が痛い。

 ヤクモ達が口々に悲鳴に近い声を上げながら駆け寄って来る。流石に今回はジュウザもサイも笑えなかった様だ。駆け寄ってきたモモカが真青になって全力の聖女の癒しを何度か使っていた。

「ありがとう、モモカ。」

 身体を転がして仰向けになり、高速で瞬きをしながらお礼を言った。

「イッスン様、大丈夫ですか・・・。」

 自分で回復の法術を必要以上に掛けておいて、そんなに心配そうな顔をしなくてもいいのに。・・・いやそうじゃないな。これは俺が悪い。

「大丈夫だ、モモカのお陰でな。」

 そう言って笑って見せる。それを聞いて多少心配顔が和らいだ。

「いやまさか、雷耐性の技能が無いとそのまま攻撃を食らう事になるとは思はなかったよ。」

「あるじ様、それは本当ですか。」

「そうなんだよ、ハク。えらい目にあったぜ。」

 立ち上がりながら答えた。問題無く立ち上がったのを確認すると、ジュウザとサイは先を争う様に肩に飛び乗ってきた。俺の肩は君達の座席では無いのだが。

「まぁ、いきなり実戦で使う事になる前に気が付けて良かったよ。」

「はっ、流石です主殿。そこまで考えておられていたとは。」

 あれ、また良い様に勘違いしている様な気がするな。スーアンとハクも「なるほど。」と感心している。困った。そこまで考えていなかった訳では無いけど、凄く楽観的だったのは間違いない。なにせヤクモの予感の方が的中したのだから。もう少し慎重になるべきだったなと反省する。


 その後皆でゆっくりと二箇所、周って木の実を収穫して我が家へと帰る。今日は大木に激突したり、雷に撃たれたり、散々だったな。傷はモモカのおかげで癒えたが、精神的にも疲れたな。本当は今後事を皆で話し合おうと思っていたのだが、食事をしたら睡魔に襲われなす術も無く敗北を喫した。

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