19、・・・やっぱり好きじゃない。
今日はジュウザを肩に乗せ・・・正確にはマフラータオルの様に首に掛けて森の中を散策している。
スーアン達、眼鏡蛇親子が従者になって数日は全員で行動していた。行動範囲内の特に安全と思われる食糧を確保できる場所を案内した。特にスーアンに場所を覚えてもらう事が目的である。これから毎日全員でぞろぞろと動き回る訳にもいかないので色々考えた結果、俺、ヤクモ、モモカ、スーアンがそれぞれ小蛇達と一対一で組になり行動する事にした。1日毎に組み合わせを順番に入れ替え、一周したら一回皆で行動する。つまり5日に一度皆で行動する日という事になる。そうする事である程度別々に行動出来る様になってもらおうと思っている。勿論、特別な日は全員で行動するつもりではある。只、小蛇達が単独で行動できる様になるには暫く時間が必要になると思われるので、今のところ小蛇達だけでの行動は禁止とした。
最近、朝の日課をしている間、ジュウザとサイが家の入口を出た所で終わるのを待っている。そして日課を終えると遊んでくれと近づいてくる。ヤクモに日課を邪魔してはいけないと言い付けられているので、終わるのを大人しく・・・いや、今か今かと待っている。今の流行りは、尻尾の先を掴んでぐるぐる回し庭の中央に軽く放り投げる事だ。初めはあまりに騒がしいので、ふん掴まえて放り投げたのが思いの外楽しかったらしく、それ以来毎回これをやってくれと頼まれる様になった。まぁ別に良いんだけど、あんなにぐるぐる回されてよく平気だな。三半規管が強いのかねぇ。しかしなんで子供って同じ事を繰り返して飽きないんだろうな、不思議だ。っていうかこの子蛇達、2歳なんだよなぁ・・・。俺はこの中で一番若いんだよなぁ、1歳未満なんだよなぁ。おかしいな。俺の方が子供なんだけどなぁ、と。
今日も出かける前に散々っぱらジュウザとサイをぶん投げた。何がそんなに楽しいのやら。朝食を皆で摂ってから、出発した。今日はジュウザと一緒にお出掛けだ。今はまだそんなに遠出はしないようにしているので、ある程度適当に歩き回っても迷うことは無い。なので分かれ道の度にジュウザにどっちに行くか選んでもらう。俺がその全てに「よし。」と言って進んでいくので、途中で何度か「主、大丈夫?」と聞いていた。俺としては何処吹く風で「大丈夫、大丈夫。」と軽く答えていた。実際、問題があればそんな道は進まないし、まだ比較的安全圏内だ。それに方向感覚と帰巣本能の技能も共にLv9まで上がっているし、各探知系・察知系の技能も軒並みLv7〜9まで上げてある。この辺りなら不必要な程の技能だろう。ジュウザって思ったより臆病なんだよなあ、この厳しいワイルドライフの中を生き抜くには決して悪い事では無いとは思うが。それに俺と母上で散々言い聞かせた事も効いている可能性は高い。まあジュウザはこれぐらいが丁度いいかもしれないな。
木の実を群生地で収穫する。ジュウザも一生懸命に収穫している。こういう作業に熱中する気持ちは分からんでもない。皆に褒めてもらえるのも嬉しいのだろう。
「ジュウザ、全部穫っちゃ駄目だぞぉ。」
「なんでぇ。」
「全部穫っちゃうと、次にまた収穫出来なくなっちゃうかもしれないからだ。」
「そうなんだぁ、わかった。」
「下に落ちてるのはいいけど。でもどんなものでも必要以上に取るのは良くない。」
「うん。」
本当に解っているのか多少不安になるが、素直は素直なんだよな。ここはこれくらいでいいかな、次に行ってみよう。ジュウザを呼び、今収穫した木の実の中から二つ程を一緒に食べ一休みしてからこの場所を後にする。移動をしながらジュウザと話をする。誰かと一緒というのは話が出来るのがいい。相手が子供なのであまり難しい話はできないが・・・俺にそれが出来るとも言い切れないが。それでも話をしていると色々な事が分かってくる。ジュウザは意外と、と言うか流石お兄ちゃんと言うか思ったより弟妹の事を良く見ているなぁという事が分かった。そして自分では気が付いていない様だが、その弟妹の事を良く褒める。皆凄いから俺も頑張るんだと、俺が守らなくちゃいけないから強くなりたいんだと言っていた。そう思えるのは単純に凄いなあと感心するし尊敬もする。俺も見習わないとな。
ジュウザに道を選ばせながら進んでいると、普段あまり通らない道を歩いていた。と言っても危険な未踏の地ではなく安全圏内の中でだ。危険を察知して避けていたのではなく、簡単に言えばあまり美味そうな匂いがしないからこっちに来ないといった感じだ。つまりあまり詳しく探索した事が無い地域という事だ。間違いなく安全圏内なので、良い機会だから探索してみよう。俺だけでは見つけられない何かを見つける事が出来るかもしれない。この辺りは樹木の数が少なめでこの森の中でも空が大きく見える。
ここで俺とジュウザは思いがけないものを見つけた。小妖熊だ。二足歩行をする珍しい熊で、身長も俺の半分位。一応腕も前脚という扱いらしいが。可愛らしい熊のぬいぐるみが歩いている様な見た目の魔物。だがこの小妖熊、少し様子がおかしい。本来この小妖熊という魔物は集団で、正確には家族で行動する。単体で行動する事はとても珍しい。一体何をしているのだろう。視界に納めつつ藪の中に身を隠し気配を消す。
「主、どうして隠れるの。」
俺の雰囲気を察し囁き声でジュウザが聞く。
「ちょっと様子がおかしいから、いつもと違うから警戒してるんだ。」
「なんで。主なら簡単に勝てそうだよ。」
本来の野生ならきっとそうなんだろうけどな・・・。ジュウザにしてみれば当然の疑問だろう。
「そうかもしれないな。だけどそうじゃないかもしれない。だから様子を見よう。」
「ふぅん、わかった。」
完全に納得した訳では無いようだが、俺の言う事を理解しようとはしているようだ。奪わなくて良い命をあえて奪う必要は無いという話をしないとな。理解するには長い時間が必要だろう、そして完全には理解できないかもしれないがそれは自然の中で生きる魔物としては仕方のない事かもしれないな。
暫くその小妖熊の様子を伺っていたが、特に何かするで無く、食糧や獲物を探すで無く、目的も無く歩みを進めている様に見える。何と言うか・・・トボトボという表現がしっくり来る様な歩き方だ。家族と逸れたのか、それとも他の家族を失ったか・・・。可愛そうだとは思うが、自然界で生きていたらそんな事もあるだろうな。同情もするが、だからと言って可愛そうだからとその度に助けていたら切りが無い。俺に出来るのは、俺の方から手を出さない事ぐらいだ。ここはワイルドライフ、意図的に非情にならねば生き抜けないと自分に言い聞かせる。そんな事を考えていた時だった、俺の探知に別の反応が引っ掛かる。
数は・・・四。反応を追い首を動かす。上、空・・・鳥系の魔物か。己の目でその姿を確認する。
「チッ、雹鳥か。」
つい舌打ちが出る。隼程の鳥で翼の下部に一本藍色の線が入っている。その名の通り雹で獲物を狩る。集団で獲物を狙い狩りをするのだが、その狩りの仕方がどうも感じが悪い。集団で獲物を狩ること事態は別にいい、より確実に獲物を狩る為に生まれた知恵という名の本能なのだと理解できる。だがあの何処ぞの格闘家の様な名前の鳥は、狩りを愉しむ習性がある。獲物として自分達より弱い相手を狙うのは野生としては当然だと思うが、奴等はその獲物をいたぶる習性がある。逃げる相手を少しずつ傷つけ追い回す。ただの本能なのかもしれないが、俺は気に入らない。
「主、どうしたの。」
俺の気配が変化した事を察したのと、舌打ちに反応して緊張した声でジュウザは聞いた。
「雹鳥だ。」
多少怖がらせてしまうかもしれないが、警戒を解く訳にもいかないので我慢してもらおう。
「敵?どうする、主。」
「たぶん俺達は見つかってない。見つかったのはあの小妖熊だ。」
そう言ってその小妖熊に視線を戻す。まだ自分が狙われている事に気が付いていない様に見える。
「じゃあ、ここに隠れてる?」
「まぁ・・・そうだな。」
そうだ。それでいいんだ、これが自然の摂理だ。無闇に介入していいものでもない筈だと言い訳にも似た理由を自分に言い聞かせ、きっとそこにある本音を押し殺す。
「ホントに?」
何かを感じ取ったのか、ジュウザは俺の顔を覗き込み疑問を口に出す。見透かされているのか、子供ならではの直感か。小妖熊もその見た目とは裏腹に結構厄介な魔物だ。集団で獲物に襲い掛かるのは良いんだけど、そんなに強く無いくせに好戦的でとにかくしつこい。俺も何度か出会った事があるんだが、その見た目も相まって仕留め辛く、結局遠くへ蹴り飛ばして木にぶつけ気絶させてお暇した。ただ小妖熊は雹鳥と違って自分達より強い相手に挑んでいく変わった習性がある。面倒臭いが、少なくとも雹鳥よりは好感が持てる。
「主、来たよ。」
空を見つめていたジュウザが報告する。上空を旋回しながら獲物を観察していた内の一羽が降下してくるのが見える。雹弾撃って攻撃しないで、あの小妖熊の近くを掠めて自分達の存在を気付かせるつもりか。スッと立ち上がり、嫌悪と怒りを溜息にして吐き出す。
「俺は・・・やっぱり好きじゃない。」
そう言って、降下して低空飛行で小妖熊の真正面から突っ込んで来る雹鳥の前に跳び出す。突然目の前を突風が吹き抜け何かが出現した事に小妖熊は顔を上げた。身体の右側面を雹鳥の向けたまま、ジュウザの尻尾を掴み首からするりと引き抜き左の小妖熊の近くへ軽く放り投げる。朝の運動に比べれば遥かに小さな投擲に、何事も無かったかの様に着地する。左目だけで、少しの間そこにいろと伝える。ジュウザは首を縦に振り笑った。小妖熊の方は何が起きているのか把握しきれず狼狽えている。これは致し方ない。雹鳥の方も戸惑ってはいるものの急に方向も変える事もできずそのまま突っ込んでくる。俺が兎だと判って口角が上がったようにも見える。
「悪いな、これはただの俺の好き嫌いだ。」
体勢を雹鳥に対し横に向けたまま、今度は右目だけで睨みつける。威圧の技能も俺の感情に呼応する様に発動する。普段と違う低い声にジュウザも少し緊張が増した様だ。雹鳥も身体が硬直したようだ。そのまま直進を続けている。右足を少し引く。雹鳥が間合いに入る。右足に狐風の風刃を纏わせる。ザッと大地を蹴る音がして、その次の瞬間もう一度その音に重なる様に同じ音がして右足が先程よりほんの少しだけ後ろに着地する。俺を中心に突風が巻き起こる。
ーー《白兎流格闘術・風刃居合脚》ーー
俺の起こした風が止む。雹鳥は時間が止まってしまったかのようにその場に留まっている。そして音も無く首とそれ以外の部分の二つに分れ落下する。その様子を見ていた雹鳥の一羽が怒りに我を忘れ俺に向かい急降下してくる。今度は正面を向き、足を揃え膝を折り深く沈み込む。充分に溜め込んだ両足の力を雹鳥の動きに合わせ解放して跳び上がる。雹鳥の顎に目掛けて右の掌を力の限り撃ち抜く様に叩き込む。
ーー《白兎流格闘術・反天掌》ーー
確実な手応えと音がする。俺の脚力を乗せた掌打をまともに食らった雹鳥は、来た道をそのまま帰るように跳び上がりほんの一瞬空中で動きを止め、その後地上に向かい一直線に落下した。残り二羽。そのまま逃げ出すなら敢えて追う必要は無いと思っていたが。相手は鳥だし、飛んでいる相手を追う様な無駄な事はしない。同胞を失って怒り狂っている。俺に向かい罵詈雑言を浴びせている。地上にいる俺には何を言っているのか良く聞こえないが。どうやら退く気は無いらしいって事はわかった。俺が自ら横取りした喧嘩だ、責任は取るさ。
怒り狂っている割には冷静で、近づくのは危険だと判断したらしく、お得意の雹弾で攻撃してきた。良い判断だとは思うが、警戒しすぎだろ。そんなに遠くから撃ったって当たる訳無いだろ。それは判らないのか・・・。そしてそこにいたら俺の攻撃が当たらないと思っているらしい。残念・・・俺は兎で、ここは森なんだよな。そして俺は木登りが得意な兎なんだよ。更に思ったより芸達者なんだよ、知らないと思うけど。俺に目掛けて降り頻る雹を困難を装いギリギリで躱しながら、駆け上がる木をどれにしようかと思案する。これにしようと決めた時だった。
「主、俺もやる。」
と、ジュウザが言った。
「別に良いけど、どうするつもりなんだよ。」
一応頑張って避けてますよと見せかけながら会話する。
「あれやって。ぐるぐる回すやつ。」
「にゃるほど。あいつに投げれば良いのか。」
「うん。」
悪くない、やってみるか。でも少し近づいた方が良いよな。
「一緒に跳ぶぞ、来い。」
雹の降る中、それを何事も無いかの様に避けながら俺の所に辿り着き肩に登る。にしても大した身体能力だな、さも当たり前みたいに俺の身体に登るな。俺の肩にぶら下がったジュウザは満足気に「へへへ。」と笑った。
「じゃあ、一つ任せる。」
「うん。」
「よしいくぞ。」
さっき目星を付けた木に向かい走り、そのまま駆け上がる。その道を少し遅れて雹弾が通り抜ける。速度を落とす事無く一番上まで駆け昇り、その木を蹴り飛ばし空中の雹鳥の方へと跳ぶ、右手でジュウザの尻尾を掴みご希望通りぐるぐると回しながら。それでもまだ雹鳥高さに少し届かない。そんな俺達を見てホッとした様にニヤリと笑う。・・・残念だったなぁ、実は俺達にとっては想定通りなんだよ。ニヤケ面の雹鳥に向かいジュウザを発射する。
「喰らえ、ジュウザ・ハンマー。」
俺の手から放たれたジュウザが雹鳥の腹の下を目掛け一直線に飛んでいく。激突する直前でジュウザは己の肋骨を開く。
「いくぞ。眼鏡蛇流捕縛術・喰い縛り。」
雹鳥の腹の下に狙い通り肋骨の先を突き刺し喰らいつく。腹を覆うようにへばりついたが翼は無傷、痛みに耐えながら飛び続けている。それでも何をして良いのか解らず狼狽えている。そこにジュウザの追い打ちが喉元を襲う。
「続いて、毒牙。」
雹鳥の鮮血が舞う。威力こそ強烈ではないが、良い戦術だ。・・・ん?これって捕縛眼鏡蛇の一番基本的な戦い方なのでは。胡座をかいたまま落下しながら戦況を見つめる。今回全くの無傷だったもう一羽は、近づく事もジュウザだけを狙い雹弾を放つ事もできず、そしてその同胞ごと撃ち抜く様な非情な攻撃もする事もできず、何もできないまま困惑しながら飛び続けている。あんなにいけ好かない奴等なのに味方を犠牲にする様な戦術は取れないのか。些か不可解だが、野生の本能にその選択肢は無いのかもしれない。俺もそれを良しとは思わないしその戦術をおそらく選びはしないと思うが、選択肢として思い浮かぶのはやはり元人間だったからなのだろうか。とうとうジュウザの打ち込んだ毒が回り推力を失い落下し始めた。そして俺は一足先に地上へ帰還した。・・・で、ジュウザはこの後どうするつもりなんだろうか。
「ああ、落ちる落ちる。どうしよう・・・助けてぇ、主ぃ。」
あぁあ、やっぱり。どうせそんな事だろうと思っていたよ。全くしょうがないなぁ。落下地点に駆け寄り、目を上弦の月の様な形にしながら仕留めた雹鳥と一つになって逆さまに落ちてくるジュウザを待つ。騒ぎながら俺の目の前に辿り着いたジュウザの尻尾を右手で掴む。頭を下に向け俺の右手からぶら下がる。
「ああ助かったあ。主、ありがとう。」
「お前、落ちる事まで考えて無かっただろう。」
「えへへ。ごめんなさい。」
「はぁ・・・次からはちゃんと考えろよ。でも途中でその雹鳥を離せば着地できたんじゃないか。」
「あ、ホントだ。」
そう言って一生懸命抱き抱えていた、もう動かなくなった雹鳥を解放した。ジュウザを「離すぞ。」と言って手を開くと難なく着地した。
「ねえ主、俺レベルが3つ上がった。」
と、嬉しそうに報告してくれた。まあいいか。
「そうか、それは良かったな。でもほらまだ終わってないぞ。」
俺は首ごと視線を上空にただ一羽取り残された雹鳥に向ける。
「そうだった。どうするの主。」
ねぇ。どうしようかね。彼奴等に退くという選択肢は存在しないのかな。確かに俺から売った喧嘩だけど、逃げる相手を追いかけるつもりは無いんだけどな。雹鳥もこれ以上高度を上げたらこちらに攻撃が届かないことは分かっているようで、同じ様な場所を旋回している。そこにいるなら、もう一度同じ方法で近づけばどうとでもなるんだよな。脅かしたら逃げ帰るかな。ちょっと試してみようかな・・・いや、ここはワイルドライフ。きっちり最後まで手加減無しで臨むべきだな。
「よし、終わらせてくる。ちょっと待ってろ。」
意を決して走り出す。動き出した俺に反応して雹鳥が雹を撃ち込んでくる。だからその距離じゃ当たらないよ。先程とは違う木だが先程と同じ様に駆け上がる。その木の頂点で相手と反対の方へ踏ん張り撓らせ、その反動を利用して跳び出す。それでもまだ少し届かない。その俺を見てまたニヤリとする。学習しないな、いつ俺がこの距離で届かないと言った。見せて無いだけだ。俺が目指すのは獣神だぞ。
「兎の雷。」
ジュウザ・ハンマーの時より近い距離で外す訳無いだろ。俺の全力の雷が雹鳥を通過する。悲鳴を上げた後、力無く落ちていく。意識は失った様だが仕留めきれてはいない様だ。ほぼ同時に着地し・・・雷に打たれ焦げてしまっている雹鳥は地面に衝突したと表現した方が正しいだろうが、その直後俺は軽く跳び上がる。
「白兎流格闘術・ギロチンドロップ。」
うつ伏せの雹鳥に情け容赦のない追い打ちをして決着を付ける。今回レベルが計6上昇した。最後に仕留めた雹鳥を回収して、ジュウザと小妖熊の待つところへ向かう。先にジュウザを拾う。
「主、すげぇ。」
そう言って何の躊躇いもなく俺の肩に飛び乗り首にぶら下がる。その後俺の首を素早く二週程した。そしてジュウザの仕留めた雹鳥を掴み上げ、紫色になったそれを見つめる。
「これ、食べられるかな。」
「あはは、主達は駄目かも。」
『火を通せば或いは。』或いは。『・・・或いは。』不確実。『お勧めはしません。』了解であります。モモカありきで。『それならば万全かと思われます。』あくまで、もし食べるならですが。『それが賢明かと思われます。』ですね。ありがとう。『恐れ入ります。』
「まぁどちらにしてもこいつを仕留めたのはジュウザだ。お前の獲物だ。」
ジュウザに異空間収納を開かせてそこへ放り込む。ジュウザはとても満足気に笑った。掌打で迎撃した個体を回収して、小妖熊に歩み寄る。その近くに落ちた、二つに分れてしまった雹鳥に手を合わせてから回収する。小妖熊に目を向けると、なんとも言えない表情をして俺達を見ていた。どうやら俺達に対して戦意は無いようなので、立ち上がってもう少し近づく。小妖熊には、額に個別の紋様がある。身体の殆どは茶色の毛で覆われているが首周りだけ襟巻きの様に白くなっている。そしてその額の部分に白い毛で数本の縞の様な紋様が入っている。それが個体によっては三角であったり、川の字の様であったり様々だ。特に決まりは無いようではあるが、どうやら遺伝はするようで親子では似たような紋様になっている印象がある。その小妖熊の額には綺麗な輪っかが描かれていた。多少左右に長く上下の幅の方が少し狭い、輪ゴムの様な形をしている。こんな個体もいるんだな。
「すまんな。お前の獲物を取っちまって。」
そう声を掛けると、その小妖熊は首を横に降った。アイテムボックスから雹鳥を取り出す。
「食うか、これ。」
小妖熊は再び首を横に振る。
「そうか。じゃこれは俺達が貰うな。・・・じゃあこれ食うか。」
雹鳥をしまい、代わりにドロップナッツを取り出して差し出す。今度は俺とドロップナッツに何度か視線を何度か往復させてから、恐る恐る頷いた。しゃがんで視線の高さを合わせて右手を取りその上に乗せてやり、笑顔を向ける。微かに「ありがとう。」と言った様な気がしたが、俺がそう言って欲しかっただけの幻聴かもしれない。でも嬉しそうに手渡したドロップナッツを見つめていた・・・と思う。
「ちゃんと帰れるか。」
この問いに小妖熊はゆっくりと頷いた。
「何があったかは知らないが、諦めるなよ。強く生きろとは言わないが。」
野生の魔物にどれ程理解できるかは判らないが、それでも今度は力強くしっかりと頷いた。それを見て俺もしっかりと「うん。」と頷きを返した。
「じゃあな。」
帰り道、ジュウザの口にドロップナッツを放り込んでやる。「スーアン達には内緒だぞ。」と言うとニコニコしながら首を縦に振っていた。
「主、せっかく助けたのに従者にしなくて良かったの。」
「いいんだ。」
「そうなんだ。良く分かんないけど分かった。」
そうだろうな。俺にだってこれが正解だったのかも、そうした理由もそうしなかった理由も良く分からない。
「ジュウザ、今日は皆に自慢話ができたな。」
「うん、そうだね。でも良く考えたら主のおかげだけど。」
「良いじゃないか、何時か自分だけでも戦えるようになれば。」
「そうかな。」
結構自分に厳しいな。それに気が付かず浮かれるより全然良いか。
「そうだよ。気持ちは解るけど、まだ経験が少ないんだから焦る事は無いさ。」
「そっか、そうだね。」
そうだ、頑張れ若者よ。俺も追い抜かれないようにしないとな。仮にも俺は彼らの主なんだから。頑張ろう。
「今日はよく頑張ったな、ジュウザ。」
俺の掛けた言葉にジュウザは力強く「うん。」と返事をした。
その日帰宅した後、皆で雹鳥の肉を分けて食べた。ジュウザの仕留めた毒まみれの雹鳥を少し分けて貰い、庭で食した。勿論モモカに事情を話し、側にいてもらって。
案の定、暫くのたうち回った挙げ句モモカに助けて貰った。捕縛眼鏡蛇の毒の脅威をその身で体感し、そして毒耐性の技能を取得する必要性を痛感した。