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18、・・・やっぱり向いてない。

 「・・・やっぱり向いてないな、この技は。」

 今俺は仰向けになり、俺の身長より長い眼鏡蛇を締め上げている。何せ相手は蛇なので羽交い締めにする事もできず両腕両足を使い挟み込んでいる。どうにかして眼鏡蛇にコブラツイストを掛けてやろうと思っていたのだが、薄々気付いてはいたがどうやら蛇の類にはこの技は向いていないらしい。全身を右に左にくねらせ、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら藻掻いてはいるが俺の拘束を逃れる事はできそうもない・・・。


 二頭の赤目熊との戦いのあった日から暫くは、消費した木の実の補充や技能の検討会や取得など色々と忙しく、そして穏やかに過ごしていた。特に食料を確保する必要も無かったので余裕があった。ヤクモとモモカは新しい技能を取得していた様だったが、俺はどうも任意に取得するには決め手を欠いていたので今のところ取得していない。その代わりに工作作業に挑戦してみた。取り敢えずの目標としては当初の予定通り、鋼ガガガニの鋏をナイフとして使いやすく加工する事と魔物の骨を使用した釣り竿を制作する事にした。したのだが、ナイフの柄と柄の部分をどうやってか固定する方法と釣り糸をどうするかという問題が浮上する。ナイフの方は工夫して木組みをすればなんとかなるかもしれない。試行錯誤は必要だろうが、それも悪くない。趣味みたいなもんだな、こりゃ。だが釣り糸はどうにもこうにもそれに見合う素材が今のところ手元にない。まずは使えそうな物を探すところからという結論になる。結局どちらも今すぐには完成に至らない事が解った。残念半分、楽しみ半分。・・・という事で枕を作る事にしました。

 魔物の毛皮なら売る程ある。取り敢えず俺の分なのでそんなに大きな物で無くて良い。熊、猪、鹿の毛皮をそれぞれ必要な分切り分け、肉をできうる限り削ぎ落とす。その後水で良く洗い、庭に干す。これを何回か繰り返さないとな。・・・あれ?またしても手詰まりなのでは。ま、いっか。焦らずやっていこう。ナイフにしても魚の捕獲にしても、どうにもならない訳ではないし。枕はあったら良いなという位の物だし。工作がLv2になった。


 そんな訳で俺の工作作業も一朝一夕ではどうにもならない事が判ったので、行動範囲拡大の為の拠点確保計画の方に移行する事にした。その件でまずはヤクモとモモカの住処に行ってみようという話になった。闇雲に色々と探し回るより遥かに確実で安全だ。有り難い提案に喜んで応じる事にした。

 それで今日は朝の日課と食事を滞り無く済ませ、皆揃って出掛けた。わくわくが溢れてご機嫌だったらしく、鼻息と一緒に鼻歌が漏れていた様だ。モモカに「それはなんですか。」と聞かれ、我に返った。そして、驚きと発見があった。自分が歌っていた事では無く、モモカ達が「歌」を知らないという事だ。この前夜中に吹いた口笛もヤクモにとっては心地の良い音色といった感じだったのだそうだ。つまり「音楽」という概念・・・の様なものがないらしい。「歌」と「音楽」について、俺も造詣が深い訳では無いが俺なりに解りやすく説明した。「素敵ですね、私もやってみたいです。歌って、みたいです。」とモモカは目を輝かせていた。今度何か一曲教えるよと約束する。それにしてもモモカが歌なんか歌ったら大変な事になりそうだな、良すぎて。目がハートになってしまう自信がある。光る棒を両手に一本づつ持って、力の限り振り回してしまいそうだよ。でも困ったな、知ってる歌も大分偏ってるからなぁ。ねぇセッテさん。『是、肯定します。』

「主殿、すみません。この辺りで少々お待ち戴けないでしょうか。」

「ん、どうした。何かあったか。」

 今日の俺は警戒を怠っていたつもりはない筈だが。ヤクモが俺より警戒範囲が広域に及んでいる可能性はあるが。

「いえ、そうではなく・・・。そろそろ到着するのですが・・・。」

 なんだか歯切れが悪いな。何があったんだ。

「流石に主殿をお迎えするのに、そのままという訳には。少々整える時を頂きたいと思いまして。」

「そうです、イッスン様。お願いします。」

 なるほど、そういう事か。別に俺は気にしないんだけどなあ。ヤクモとモモカなら気にするだろうなあ、ここで抵抗したらお決まりの押し問答になるのは確実だな。

「分かったよ。あ、あの辺に木の実がありそうだからそこで待ってるよ。」

 と左手の親指で左の方を指し、心の中で白旗を上げる。

「かしこまりました。」

「ありがとうございます。」

 そう言って頭を下げ、踵を返し颯爽と森の奥へと消えた。俺は宣言通り先程自分で指し示した場所へと向かう。しかしおかしなものだな、狐でも・・・魔物でも家が散らかっている事を気にしたりするんだな。まぁ他の種族の魔物を招き入れるなんて事は普通は無いだろうけどな。

 ここに万願寺はないかなぁ、見た事の無い木の実はないかなぁと辺りを観察する。確かに思った通り木の実が成っている、俺の直感も捨てたもんじゃない。事、木の実に関してはなかなか良い的中率ではなかろうか。もいではアイテムボックスに放り込む。接触収納を敢えて使わず収穫を楽しむ。採り尽くしてしまわぬ様に気をつけながら。満足したので藪から少し離れ腰を下ろし、今収穫した風鈴苺を口にする。胡座をかき藪を見つめながら。風鈴苺の残りを口に入れ指先を舐める。痺れを切らしたのか目を逸らさずに見ていた藪の中から、一匹の蛇が飛び出て来た。ずっと微かに気配を感じていた。だから驚きはしなかった、が別の事に驚いた。眼鏡蛇?眼鏡蛇ってこんな森の中にいるんだっけ。もっと暖かい場所なら分からんでもないが。まあこれぞファンタジー。魔物鑑定で調べる。捕縛眼鏡蛇ホルド・コブラとおっしゃる。眼鏡蛇の特徴といえば肋骨を開き自分を大きく見せる事。この捕縛眼鏡蛇はその自分で開閉できる肋骨で獲物を包み込む様に捕縛するみたいだ。閉じているとまるで吸血鬼の伯爵が外套を纏っているかの様相だ。その挙げ句に獲物を捕える為に特化したのだろう、骨の先が左右三本づつ爪の様に外に飛び出している。


 そして現在に至る訳だ。案の定飛び掛かってきたので、それを躱し後ろに回り込みこちらが反対に捕縛した形になった。さてどうしてくれようか。

「なぁ、ひとつ相談なんだが。今回は諦めて帰ってくれないか。」

 俺の提案に今自分に起きてる事態を把握しきれず、混乱している様だ。そりゃあそうだよな、簡単に捕食出来ると思っていた筈の兎に逆に締め上げられ、その上その兎は自分と同じ言語を使い、その挙げ句に野生では考えられない提案を口にしてるのだから。思考が追いつかないのも頷ける。先程までは叫び声を上げていたが今度は「え?え?」と疑問符が口から出ている。しょうがないな、落ち着くまで暫くはこのままかな。なあんて事を考えていたのだが、事態は俺の予想していたものとは違う方向へと転がった。

 今俺が締め上げているこの眼鏡蛇が姿を現した藪の中から、この眼鏡蛇の半分・・・三分の一程の長さの眼鏡蛇が飛び出して来た。数は4匹、おそらくと言うよりまず間違いなく子供達だな。それにしても今日は藪蛇が多いな。

「母上を離せ。」

「僕たちが相手だ。」

 と、目に一杯の涙を溜め身体と一緒に震える声で懸命に叫んでいる。右から二番目の一番前に出て声を出しているのが長男かな、一番左のは女の子かな。一番右のやつは一緒に声を出している。左から二番目は歯を食いしばり俺を睨んでいる、泣くのを堪えているだけなのかもしれないが。一番左の女の子が一番冷静で覚悟を決めているように見える。いざとなると女性の方が肝が座るものなのかな。正直危機的状況とは言えない程、力の差がある。っていうか母上だったのか、この眼鏡蛇。母上を盾に取ることも出来るんだけど、それは俺の趣味じゃないし気持ちよくないから超最終的手段だな。どうしよう、困ったな。

 母上を離せと命令口調の懇願をし続ける子蛇達と彼らの母上を拘束している俺との間に、まるで霧が突然形を成したかの様にふわりと顔の左に傷のある二本の尾を持つ美しい白い狐が割って入り子蛇達の前に立ちはだかる。

「主殿、何をなさっているのですか。」

「いや、ちょっとな。」

 この時点でようやくこの眼鏡蛇は自分達の置かれている状況がおおよそ理解できたらしく、

「子供達は、どうか子供達は見逃して下さい。」

 と声を発した。

「どうか私の命だけで、お許しを。」

「はぁぁぁぁっ、もうぅ。」

 俺が大きめの溜息を吐き出すと、ヤクモが目を細めてこちらを見た。

「どうなさるおつもりですか。」

 ねぇ。どうしようかね、全く。

「まぁちょっと落ち着け。そっちの子供達もだ。」

 母眼鏡蛇の拘束を解き、首根っこを掴み立ち上がる。ここでモモカが到着した。モモカは「一体何が・・・。」と言いかけて大体の状況を理解し、ふぅと息を吐いて微笑んだ。

「イッスン様、どうするおつもりですか。」

 本当にこの兄妹は。俺にどうして欲しいんだよ、俺はどうしたら良いんだよ。首根っこを掴まれた母眼鏡蛇は多少震えてはいるものの大人しくはなった。子蛇達の方もなんとか泣くのを堪える声が漏れているものの大人しくしている。分かっているさ、やっぱり俺には向いてないよ、ワイルドライフ。

「今回は子供達に免じて見逃すから、大人しく帰ってくれないか。」

 俺の提案に母眼鏡蛇は高速で首を縦に振っている。・・・おい、そりゃねえぜ。

「ヤクモ、モモカ、頼んだ。」

「はっ。」

「お任せを。」

「お前達はここに居ろ。ヤクモとモモカがなんとかするから。」

 なぜこの状況で襲い掛かって来る奴がいるんだ。獲物が大量にいて儲けものだとでも思ったのか。こちとらただの兎と狐じゃねえんだよ。特に二尾狐に進化したヤクモには群青狼ではもう相手にならないよ。モモカだって一対一で冷静に対処すれば問題ない。周囲の数カ所で法術の弾ける音がして、ヤクモとモモカが戻ってくる。

「終わりました、主殿。」

「お騒がせしました。イッスン様、後で回収をお願いします。」

「おう、ご苦労さま。」

 首を掴んでいた手を離し母眼鏡蛇を解放する。解放された事もだろうが、またしても理解の及ばぬ事態に放心している。解放された母の元に子供達は泣きながら駆け寄る。あの女の子と思われる子は泣いてはいなかったが。彼女は俺を見つめていた。その視線に気が付き目を合わせると、ハッとして目を逸らした。

「あ、あの。お聞きしてもよろしいでしょうか。」

 母眼鏡蛇が頭をゆっくりと上げこちらを見ながら言った。

「ん、何だ。」

「あなた様方は一体・・・。」

「あぁ。この狐、ヤクモとモモカは俺の従者・・・家族だ。」

「家族、ですか・・・。」

「名目上は、一応俺が主って事になってるが俺は家族だと思ってる。」

 ヤクモとモモカは恥ずかしそうに明後日の方を向いている。尻尾は振れているけどな、計三本の。俺の答えを聞いた母眼鏡蛇は少し間を置いてから、俺の予想していなかった事を言った。

「不躾な申し出ではありますが、願わくばわたくしもその末席に加えて頂く事はできないでしょうか。」

「え?」

 何でそうなる。困惑して後ろで控えている狐の兄妹に視線を向けると、ヤクモはなんだか満足げにニヤニヤしているし、モモカさんはさも当然だという顔をしてこちらを見て微笑んでいる。・・・まじかよ。

「ヤクモ達は良いのか?」

 両名共黙って頷きを返す。はい。

「じゃあ・・・どうしようか。」

「叶いませんか・・・。」

「ああ、違う違う。ちょっと待ってくれ。ヤクモ、どうしよう。どこでやろうか。」

 一瞬「ん?」という表情をしたが、質問の意味を理解したらしく答えを探し始めた。モモかとも少し相談をして答えを決めたようだ。

「戻りましょう。安全、確実な方が良いと思います。広さも含め。」

 これ以上無い答えだね、全く。残念だけどヤクモ・モモカ邸に行くのはまたの機会だな。しかし、なかなか行動範囲が広がらないねぇ。それも思わぬ理由が原因で。ワイルドライフとは多少ずれている様な気がするが、生きるのは楽しいと思える。

「よし、わかった。そうしよう。」

「あ、あのう・・・。」

「待たせたな、今から俺の・・・俺達の住処に向かう。姐さん、どれくらいの速さで動ける?無理しない程度で。」

 母眼鏡蛇は「そうですねぇ。」と言ってスルスルッとこの広場の縁を沿うように走って・・・滑って?「この程度でしょうか。」と言った。なるほど、思ったより速く動ける様だな。

「ありがとう。それなら大丈夫そうだな。もう少し遅くても問題無い位の速度で移動するから。」

 となると問題は、お子様達だな。

「・・・という事で、ヤクモとモモカで一匹づつ、俺が二匹だな。」

 言うが早いか、ヤクモが長男を、モモカがたぶん次男の首根っこを咥えて摘み上げる。俺はというとおそらく三男と長女を掴み上げようとしたのだが、どういう訳か抵抗する様子も無かったので手を差し出すと頭を俺の肩に乗せ腕に巻き付いた。

「ありゃりゃ。なんだか強くなったみたいだ。」

 と笑い掛けると、両肩の顔も少し笑った。変なの。まいっか。

「じゃあ、行こうか。」

 そう言って、この捕縛眼鏡蛇の一家に出会った地を後にする。・・・おっと、群青狼達を回収する。その様子を見て右肩の子蛇が不思議そうに「ふぁ。」と声を漏らしていた。たぶんお前も出来る様になるぞと心の中で呟いてみた。


 ヤクモとモモカは口を塞がれているので会話ができず、静かな帰り道になる。母眼鏡蛇も俺の肩に頭を乗せた小蛇達も、これから何が起きるのかが判らないので緊張しているせいで、押し黙っている。かといって俺が今何かを説明するのも、何かを聞くのも違うと思い・・・違うと言うより落ち着いた場所で話をしないと混乱が増すので移動中にはよろしく無いと判断した。それに今回は守るべき者達が多いので、普段以上に気を張っていた事も静かな要因だったと思う。


 お陰様で何事もなく庭の入口まで到着した。「ここだ。」と言って庭に足を踏み入れ、緊張の解けない母眼鏡蛇を招き入れる。続いてヤクモとモモカが中へ入り、庭の中央辺りで咥えていた小蛇を降ろした。解き放たれた小蛇は母の元に駆け寄った。我が家の中へと促そうと母眼鏡蛇を見ると、我らのご神木を見上げていた。

「・・・何か居りますが。」

「ああ、いるな。」「いるな。」「いますね。」

 三者同時に答える。そしてヤクモが「気にしなくていい。」と付け加えた。だが今回は珍しく「ピョウ。」と可愛らしい声が聞こえた。この状況に相当驚いたのだろう。確かにな、狐が増えた事でさえ驚きだろうに、本日は眼鏡蛇が親子連れで現れたのだからそうなるよな。・・・で、まだ俺の肩から降りないのか。まぁいいけど。そのまま家の中に入って行く。

 全員が中に入ったのを確認し

「わかったから、取り敢えず一回降りてくれないか。」

 と、両肩の子蛇に声を掛けた。何かに気が付いたように頷いてから、俺の腕から離れ母眼鏡蛇の近くへ移動した。それにしても、俺は何が分かったのだろうか。その親子を見つめ、ヤクモとモモカに目をやるとゆっくりと頷いた。


 「それじゃ、まず名前を付けるぞ。いいかな。」

 眼鏡蛇親子に投げ掛ける。

「名前を・・・本当ですか?」

 母眼鏡蛇が驚きで返した。子蛇達はその意味が解らないのだろう、疑問符をくっつけて母親と俺を交互に見ている。

「ああ、うん。無いと不便だからな。」

 それを聞いた母眼鏡蛇は今持ち上げている上半身・・・だと思う箇所を折り曲げ床に蛇口が着いてしまいそうな程頭を下げた。そういうものか・・・そういうものなのだろうな。

「子供等にも俺が付けるが、構わないか。嫌なら止めとくけど。」

「滅相もございません。私共の方こそ本当によろしいのでしょうか。」

「よし、じゃあ決まりだ。今から考えるからちょっと待っててくれ。・・・あ、ヤクモ、モモカ。その間に説明お願い出来るか。」

 「はい。」「かしこまりました。」の返事を聴き、思案を開始する。

 よし、まずは母眼鏡蛇からだな。母親って事は女性だよなぁ。子供が4匹・・・四暗刻なんてね、そういうのは良くないな。でも悪い響きでも無いな。四暗、スーアンか・・・でもなぁ、暗は無いよなぁ。色合い的には問題は無さそうな紫を基調とした見た目だけれども。アンの字を別のものに置き換えるか・・・杏、案、餡、とっても大好き・・・おっと。安、安か。安心安全の安、安らぎの安。

「四安」で「スーアン」か、良いんじゃないか。

「スーアンなんてどうかな。」

 一通りヤクモ達からの説明を終え、子供達に名前の事について話して聞かせていた母眼鏡蛇に声を掛けた。

「スーアン・・・それが私の名前。勿論どんな名前でもありがたく。」

「そうか。じゃあ君は今からスーアン《四安》だ。」

『技能・命名の使用を承認しました。』

 光の粒子がスーアンを包み込む。その光が内に吸い込まれるように消えると、もはや見慣れてきたが頭の中に大量の情報が襲いかかりその対応が追いつかず、混乱を極めている。

「落ち着いて下さい。後で私達が説明しますので、大丈夫ですよ。」

 モモカが落ち着いた口調で声を掛ける。その声にスーアンはすぐに落ち着きを取り戻した。凄いな、モモカもスーアンも。特にスーアンはこの状況にあって、こんなに早く体勢を立て直す事が出来るなんて。「母」っていうのは偉大だな。

「スーアン、今起きた事が子供達にも起こる。大変だけどしっかりな。」

 スーアンは一度深呼吸をしてから俺をじっと見て「はい。」と頷いた。俺も頷きを返す。

「子供達よ、悪いんだけど、こっちから順番に並んでくれるかな。こっちが一番上の子。」

 そう言って、向かって右を手で指し示す。で、こっちがと言いかけた時には既に一番左の位置には、女の子の蛇がそこにいるのを見つけた。目が合ったので、微笑み掛け頷いてみた。するとスッと目を瞑り少しだけ頭を下げた。男子の方は恐る恐る、言われた立ち位置に移動していた。不思議だよなぁ、だいたいこういう時って男子の方が臆病なんだよな。きっと俺もそうだったんだろうなあ、昔の事過ぎて覚えていないけど。整列が完了し、それぞれの顔を見る。すると不思議なことに名前が自然に浮かんでくる。

「ジュウザ《十三》。」

「サイ《才》。」

「ハク《箔》。」

「ミナ《珠南》。」

 順番にゆっくりと、そしてしっかりと目を見ながら名前を渡す。それぞれ「うん。」「はい。」と返事をして神妙に頷いた。名前を受け入れると小蛇達は母の時と同様に光りに包まれた。


 ジュウザとサイは慌てふためいていたが、ハクは黙って視線を上に向けそれを左右に動かしながら「うん。うん。」と返事をしている。ミナに至っては目を閉じたまま「なるほど・・・。」と静かに呟いてる。見た目は殆ど同じなのにこんなにも個性が出るものなんだな。おそらく兄妹の順番だって、誰が先に卵から出てきたか位の差しか無いだろうに。面白いものだ、思わず左の口の端が少し上がる。

 スーアンがジュウザとサイに落ち着きなさいと声を掛ける。ようやくジュウザとサイが落ち着きを取り戻し、スーアンを中央にして俺の前に並んだ。

「で、だ。スーアンは俺の従者になると。それは良いとして、ジュウザ達はどうする。」

 俺としては強制もしたくない反面、子供達が個別に恩恵で差が着いてしまうのは良くない気もする。でも個々の意志を、選択を尊重したい。だからその子が自分で選択した答えを受け入れようと思う。

「俺は従者になる。」

 ジュウザは何の迷いも無いかの様に言う。大丈夫かなぁ。まあ、こういう奴なんだろうな。不安もあるがこういう奴がいざって時に一番強かったりするんだよな。

「ボクも。」

 サイは兄と一緒が良いのか、自分の意志なのか、流されているのか、考えて決めたのか、良く解らない。この中では一番何を考えてるのかが分かりにくい。

「僕は従者になりたいです。」

 ハクは、先程もそうだが、ちゃんと自分で考えて答えを出している様に感じる。彼にとっては少し考える時間が短かったかもしれないが、その中でもちゃんと自分で答えを導き出している。大したものだ。

「私はもとよりそのつもりでした。」

 ミナは冷静に、静かにそう言った。ここに来るまでの間に考えていたのだろう、そしてこの家に辿り着いた頃には答えが出ていたのだと思う。この子だけは俺が聞く前から心を決めていた事を何となく感じていた。何が彼女をそうさせたかまでは俺にも判らないが。

「そうか。じゃぁ、ここにいる全員従者になるって事で良いんだな。」

 俺の問に眼鏡蛇の親子は揃って返事をして、頭を下げた。

「では、スーアン、ジュウザ、サイ、ハク、ミナは今から俺の従者だ。よろしくな。」

 俺がそう言うと部屋中に光が溢れる。あれ、ヤクモとモモカも光ってるぞ、ってそういえばそうだったな。主従の絆は従者間にも影響があるんだった。

『レベルが上昇しました。』Lv462

『スキルポイントが3920加算されました。』

『技能・能力成長効率上昇(微)が能力成長効率上昇(小)に変化しました。』

 あまりの出来事に「ギャッ!」と声を上げてしまった。!!?、レベルが一気に196も上がった・・・スキルポイントも20加算されるようになってるし。

『技能・暗算のレベルが上昇しました。』Lv4

 今?・・・ってまぁそうかもしれないがあ。おかげで冷静さを取り戻しました。周りを見ると、突然変な叫び声を上げた俺を皆が心配そうに見ていた。

「なんでもない、只思っていた以上にレベルが上って驚いただけだ。すまない。」

「そうでしたか・・・でも私もです。一度に100以上上がったので。」

 ヤクモもそんなにか。という事はモモカもかと思い目を向けると

「はい・・・私もです。それで、なんですが・・・。」

「どうした・・・あぁ、もう少しで上限になりそうなのか。」

「はい。後4で上限です。」

「そうか、上手く行けば明日中にでもなんとかなるかもな。今日は魚にしようか。」

「はい。」

 思ったより早くモモカも進化できそうだな。手持ちの食事だけでもなんとかできそうだな。あ、食事で思い出した。

「シーアン、子供達も聞いてくれ。細かい説明は後で俺とヤクモとモモカでするが、他の事は自分で判断して決めていいけど取り敢えず申し訳ないが技能の草食だけは今すぐ取得してくれ。これだけで食糧事情が大幅に違うからな。それ以外は特に口出ししないから自分で考えて決めてくれ。勿論、俺達は何時でも相談には乗るから心配しなくて良いからな。只、命に関わるからあんまり闇雲に取得しないようにな。特にジュウザは。」

「え、なんで俺だけ。ひどいよ主ぃ。」


 部屋いっぱいに今まで一番の笑い声と笑顔で満たされた。

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