表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/51

17、・・・やっぱり危険だ。

 気配は二つ。その気配に向けて魔物鑑定を使用する。赤目熊が二頭、Lv381とLv376。上限は600。レベルだけ見れば問題は無さそうだが、この世界ではそれがどれ程確実なもので意味のあるものなのかは分からない。その事は格上の相手を屠ってきた俺自身が一番知っているつもりだ。

「ここで、迎撃する。油断するなよ。」

 ヤクモとモモカに低い声で伝える。「はい。」と同時に答えが返ってくる。

「この威圧は大丈夫か。」

「問題ありません。」

 と、意外にもモモカの方が答えた。その直後にその理由も理解できた。

「聖法術・聖少女の加護。」

 法術を使用したモモカ自身を含めた俺達に淡い光の膜が包み込む。威圧の効果が軽減した・・・それだけじゃない、極微量だが防御系の能力が向上している様だ。凄く薄くはあるが防護膜で守られている様な感覚だ。

「おぉ。」

 と思わず声に出る。俺には威圧軽減の技能があるがそれに上乗せされているのを感じる。効果自体は少ないものだが味方全員に効果を付与することが出来るし、防御系能力の全体的に効果があるのは凄いな。

「主殿、そろそろ会敵します。」

 いくら俺でも二頭同時に相手するのは避けたい。攻撃を回避し続ける事は可能だとは思うが、永遠にと言う訳にもいかない。幸い今の俺には頼りになる従者達がいる。

「会話の言語を限定する、熊言語禁止。」

 俺の瞬時の判断に「了解です。」と頷く。

「ヤクモ、モモカ、片方任せる。もう片方は俺が相手する。頼めるか。」

「お任せ下さい。」

 そう言ってヤクモは自分が優位に戦えそうな高所に移動し身構えた。モモカは俺とヤクモとの距離を少し空け後方に陣取る。俺は川岸に立ち眼前の川を挟み向こう側を睨みつける。

「モモカは後方支援だから良いとして。ヤクモ、川の中に入るなよ。」

 と、警告する。

「分かりました。何か策でも?」

 微笑みを浮かべヤクモは目だけでこちらを見る。俺も目だけをヤクモへ向けて口の端を上に持ち上げる。

「悪い顔になってますよ、主殿。」

「おや。そんなに顔に出てるかな。」

「およそ兎の顔とは思えませんよ、イッスン様。」

 川向うの茂みが揺れる。軽口の叩き合いを止め、気を引き締める。自分達の存在を隠す気も無いのだろう、豪快に音を立て茂みを薙ぎ倒しながら二頭の赤目熊が姿を現した。待ち構えていた俺達を見つけ、立ち止まり威嚇のつもりなのかこちらに向けて一つ吠えた。

「狐と兎・・・か。なぜ一緒にいるんだ。まぁどうでもいいか。しかし兎とは運が良いな。」

「あれは兎なのか。初めて見た。」

 どうやら大いに油断してくれているようだ、有難い限りだ。自分達のほうが絶対強者だと驕っているのだろう、野生にあるまじき行為だな。彼奴等には俺達が震えている様にでも見えているのだろうか。

「よしヤクモ、始めようか。」


 俺の合図にヤクモは限界まで溜めた力を開放する様に二頭の赤目熊に向けて攻撃を開始する。

ーー《白狐流法術・狐炎扇》ーー

 俺と同じ位の大きさの火球が六つ、二頭の熊に向かい横並びで放射状に飛ぶ。川の向こうからの攻撃に居を突かれたのか、それとも相手から先に仕掛けてきた事があまりに予想外だったのかは定かではないが、まともにその火球の殆どが命中する。炎に包まれた熊達は叫び声を上げながら転げ回る。先制攻撃としてはこれ以上無い戦果だ、いや出来すぎな程の理想的な展開だ。ヤクモはどうやって俺の考えを読んでいるのだろうか、指示を出している訳でも、前もってこんな時の為に打ち合わせをしている訳ではないのに。身体に纏わりつく火がヤクモの狐火の追撃のせいで消えない。その消えない火をどうにかして消そうとする。そうなるとこの火熊の取る行動は、当然こうなる。なぜなら目の前にはその火の天敵である水がこれでもかと言う程流れているのだから。二頭の熊は我先にと争うように川の中に飛び込む、こちらの思惑通りに。いらっしゃいませ。

 ヤクモに目で合図を出す。同時に川から少し距離を取る。二頭の熊が間違いなく鎮火し、全身が水浸しになったのを確認する。近辺にいる魚達には巻き添えにして申し訳ないと思うが、やらせてもらう。まあ、この騒ぎで殆どこの場に残っちゃいないだろうが。

「兎の雷。」

 角から放たれた俺の持てる最大の雷が、ずぶ濡れの赤目熊達に目掛けて水平に落ちる。二頭の熊は今度は雷に塗れ悶える。

『技能・兎の雷のレベルが上昇しました。』Lv4

 ここでか。まだ倒した訳では無いようだが、ありがたい。

「せっかくだ、も一つ持ってけ。」

 たった今威力の上昇した兎の雷を放つ。今一度雷に打たれ熊達の絶叫が再び響く。確かに威力が増した・・・1しか上がってないんだよなぁ。それにしては威力が上がりすぎじゃないかなぁ、自分でもちょっと引くぐらいだな。それでも止めを刺すには至らない。丈夫な奴らだ。一頭がこちら側の岸に脚を掛け川から這い出てくる。

「くそう、お前たちは奥羽の山ん中にすっこんでろ。」

 即座に走り出し足から飛び掛かる。


ーー《白兎流格闘術・四文ドロップキック》ーー


 足の大きさを測った訳ではないので、四文というのはあくまで推測だ。つまり四文(推定)という事になる。おそらくそんなに大きな誤差は無いと思われる。足からの弾丸が直撃し再び水の中へ轟音を上げ落ちる。俺の方はその反動で高く上へと跳び上がる。

「こいつはおまけだ、くれてやる。」

 上から本日三度目の、そして今度は正真正銘の落雷が熊達を襲う。ヤクモの近くに着地し、アイテムボックスから細石水苺を二つ取り出し一つをヤクモの方へふわりと放る。残った方を自分の口に入れる。一口で食べるには少し大きいな。だが外皮を噛み破ってしまえば殆ど水分なので問題は無い。俺はモモカの方へと移動する。

 熊の方に目をやると、あれだけ畳み掛けたにも関わらずまだ立っている。身体の大きさに比例して体力も多いのだとは思うが、それにしても強靭なお身体をお持ちでいらっしゃる。それに心なしか雷の効きが悪くなった様な気がしないでもない。これだけ受けたら慣れても来るか。おそらく耐性が付いたって事は無さそうだ。とうとう二頭の熊は川から這い出てしまった。呼吸はだいぶ荒くなっているようだが。仕方がない、当初の予定通り分断し手分けして対処しますか。

「ヤクモ、モモカ、頼んだぞ。」

 俺がそう言うと、ヤクモが左の熊に火の玉を、モモカは右の熊に氷の塊をそれぞれ飛ばす。ヤクモ達は向かって左の熊を受け持ってくれるようだ。右の熊は氷の塊を顔に受け・・・先程から散々な目に遭っているのも手伝って怒りの雄叫びを上げモモカに向かい走り出した。モモカはその場から少しだけ後方へ飛び退き立ち止まる。全く出来すぎだぜ、この兄妹。

「お前の相手はこっちだよっと。」

 俺はモモカへ突進してくる熊に向かって、低空の四文を繰り出す。・・・あ。思ったより低く飛べてしまった。頭と胸の下をすり抜けて右の後脚を俺の四文が蹴り飛ばす。やばっ、体勢を崩した熊の巨体がそのまま落ちてくる。先に地面に辿り着いた俺は身体を横へ転がし間一髪、ボディプレスを躱す事が出来た。あ、っぶなかったあぁ。俺はすぐに立ち上がり、モモカを見て頷く。モモカも頷いてからヤクモの援護に向かう。それと逆の方向に距離を取る。熊は立ち上がりながら、首をモモカの方へ向ける。

「モモカに目を奪われる気持ちは解るが、お前の相手は俺だよ。」


ーー《白兎流法術・兎玉うさぎだま》ーー


 という名の林檎大の魔力玉を発射する。後頭部にそれを受けた熊はゆっくりと振り向き俺を睨み見つけた。ようやく俺を見つけたのかな、俺って小さくて見つけにくいもんねぇ。こちらを向いた奴に対し、右手の平を上に向けて差し出し、ドラゴン先生ばりの挑発をする。これが挑発だと理解してもらえたかどうかは難しい。が、どうやら馬鹿にされている事は何となく伝わった様だ。赤い目を更に赤くして怒らせている。こちらに向きを変えながら何やら喚いている。その勢いのままこちらに突っ込んで来た。それに合わせて俺も正面から突っ込んでいく。左の拳を握り左腕を横へと広げ、首目掛け飛び掛かる。


ーー《白兎流格闘術・兎ラリアット》ーー


 ・・・始めから判っていたさ、そんな事。首を狩るつもりで振り抜いた腕と一緒に熊の顔の左側を掠めてすれ違い、豪快に空を切った。つまり空振ったって事だ。俺としては全てに絶望してテムズ川に身を投げた喧嘩ばかりが取り柄の男、海神の名を冠し完璧になって復活した男の様な強烈なやつをお見舞いする予定だったんだが。やはり足りなかった、腕の長さが。まあ奴としては俺が角で突いてきた様に見えていたみたいだが。結果、ただすれ違っただけ。立ち位置が入れ替わったのは少し失敗だったかもしれない。せっかくこちらにおびき寄せたのに。どうしよう、困った。幸い相手は身体が大きい分まだこちらに背中を向けている。今のうちに向こうの正面に戻るか、勿論何もせずになんて事はしない。真後ろから駆け寄り飛び越すつもりで跳び上がる。下の様子を確認し、両膝を折り曲げ降下する。

「白兎流格闘術・彗星重落下。」

 頚椎を狙ったつもりだったが、向きを変えようと動かした熊の右のこめかみ付近に命中する。カウンター気味に衝突したので、かなり強烈に決まった。熊もだが俺の膝にもかなりの衝撃があった。砕ける程では無いがかなり痛い。地上に降り立ち兎の癒しを使用。相手の方を向き状況を確認する。うめき声を上げながらうつ伏せになっている。あれだけの一撃で意識を飛ばすに至らないのか、やはり落下系の技には重さが若干足りないか。致し方があるまい、なにせ俺は兎だからな。追撃する。至近距離からの兎の雷を放つ。一番近い木を駆け昇る。高い位置から幹を力を込めて蹴り飛ばし熊へと角から飛び掛かる。

「白兎流格闘術・螺旋流星弾。」

 左の肩口を抉る。あまりじっくり狙っている時間も無いと判断したので多少的の大きい方を選んで跳んだ。思ったより致命的な箇所に食らわせる事が出来た。そして角は折れた。ご多分に漏れずと言うか予想通りと言うか。だいたいこれくらいの衝撃で折れてしまう。もう少し強度があると良いんだが。・・・まぁ折れなきゃ折れないで危険ではあるから丈夫過ぎるのも困るんだけどな。今はそれどころじゃなかった。肩を抉られた熊は痛みのあまり跳ね返る様に、うつ伏せから仰向けに裏返った。

「植物捕縛。」

 熊の四肢を捕え大地に貼り付ける。悪いな、これで終わりにする。今一度木を垂直に駆け昇る。駆け昇りながら角を再生する。俺でも問題無く立てる程の太さの枝の上に移動し、低く屈み手でもその枝を掴む。集中してその照準を合わせる。慢心こそしないが、おそらくこの勝負は俺が勝つ。外せば不必要に苦しめる事になる。だからこの一撃で決める。雄叫びを上げ枝から大地に向かい跳び出す。

「白兎流格闘術・流星弾。」

 自分でも驚く程の速度で地上へと、正確にはそこに貼り付けられている熊に向かって降下していく。こんな速度で地上に向かい頭から突っ込んで行くなんて、冷静に考えれば正気の沙汰じゃない。互いに命懸けの、ある種の興奮状態だからなのだろう。それに恐怖心が無い訳では断じて無い。

 渾身の流星弾が確実に着弾したことを俺自身の身体に伝わる衝撃で理解する。熊の身体の上に乗ったまま、もう一度力を込め角を押し込み駄目を押す。角を熊の喉元から引き抜き立ち上がる。レベルが6上がったと通知があった、絶命したようだ。頭を振り角の血を払い落とす。左腕で額を拭い、今度はその左腕を振る。ヤクモ達の方へと視線を向ける。ヤクモ、モモカ双方にも通知があった様だ。が、その突然の通知に一瞬集中が途切れ動きを止めこちらを見た。

「気を抜くな、目の前の敵に集中しろっ!」

 大声で叫ぶ。俺の声に相手の方へと視線を戻し、間合いを空けた。仕切り直す為に一度距離を取ったか。良い判断だ。俺も加勢をする為に走り出す。細石水苺を片手に一つづつ持ちモモカに近づく。

「モモカ。」

 手の上に細石水苺を乗せて差し出す。モモカはそれをそっと口で咥え、目だけで礼を言ってから口の中へとしまう。それを確認してヤクモの方へと近づく。モモカの氷の法術が熊へと跳んでいくのを横目で見ながら、

「ヤクモ。」

 と、声を掛け細石水苺を放る。何の迷いも無く口で受け取り食べる。

「ありがとうございます。」

 熊に顔を向けたまま手を上げて返事をする。その赤目熊を見れば、身体中傷だらけではあるがまだ充分に戦えそうだな。

「申し訳ありません。任されたにも関わらず・・・。」

「気にするな。分断してくれただけで充分助かった。ありがとな。」

「いえ・・・。」

 ヤクモは話しながら器用に法術を撃っている。ヤクモもモモカも近距離での戦闘を得意としていない。そして今現在取得している技能では決め手に欠く、といったところか。このまま削り切る事も不可能では無さそうではあるが。

 熊は俺とヤクモの方へと近づいてくる。腕を振り襲い掛かってくる。

「ヤクモ、この距離を保って戦え。攻撃をしなくてもいい、できるか。」

「かしこまりました。」

「モモカ、奴が大きく立ち上がった時に左の後脚を狙って膝をつかせてくれ。」

「はい、分かりました。やってみます。」

「終わりにするぞ。」

 俺の掛け声に気の入った「はい。」という返事が二つ同時に聞こえた。俺はモモカより少し前の距離に位置取りその時を待つ。右足を後ろに引き両手を地に付き、短距離走の選手が走り出す前の体勢を取る。

 狙いを定めていたモモカが遂に法術を放つ。

「法術・狐氷・氷結。」

「主殿、今です。」

 どうやらここまでのお膳立ては整ったようだ。ヤクモは何をするかは解らないが、これから俺がしようといている事を察して合図をした。その合図で俺も何の疑念も抱かずに全速力で走り出す。顔を上げると熊は注文通り左の後脚は膝を付き凍らされている。思惑通り右の膝はほぼ直角になって立ち、上半身は少し仰け反っている。一気に熊との距離を詰める。そして少し跳び上がり階段を上る様に熊の右膝に左足を乗せる。左足で身体を持ち上げつつその膝を蹴り、角を仰け反った上半身を戻そうと前方に起こして来た顔に目掛けて跳び上がる。熊はそれを避けようと咄嗟に右へと頭を傾ける。外した・・・なんてな。わざとだ。敢えてそうなる様に気持ち顔の左側を狙って跳んだ。俺の強みはこの角だけじゃあ無い。俺は兎だ、足にも自信があるんだよ。特に蹴技にはな。避けた頭に・・・いや、顎に目掛けて俺の渾身の右膝が跳ぶ。これぞ必殺。白兎流格闘術、

「シャァァァニング・ウィザァァァァァァドォォォォッ!!」


ーー《白兎流格闘術・シャイニング・ウィザード》ーー


 疑いの余地もない程確信に満ちた手応えがあった。俺の右膝はもう一度同じ事をやれと言われても出来るとは思えない程完璧に熊の顎を撃ち抜いた。低く大きな鈍い何かが・・・首の骨が折れたであろう音が響いた。そのまま前のめりに倒れ込んでくる。顎を撃ち抜いた勢いで熊を飛び越え、着地する。心情的には勝利を確信し、右の拳を振り上げ決めたいところだが、ここはワイルドライフ、即座に熊の方を向き構える。

『レベルが上昇しました。』Lv260

『スキルポイントが120加算されました。』

 ふぅっと息を吐く。どうやら仕留めたらしい。・・・膝が痛い、物凄く。膝を痛める程の一撃を見舞った熊を見る。この技を使った俺が言うのも何だが、エグいな。後頭部が己の肩甲骨の間に着いてしまっている、凄惨な姿だ。やっぱり危険だな、この技は。どおりで内腿で蹴り飛ばす形に変わる訳だ・・・。只、文字通り必殺技としては申し分ないな。二足歩行ができる相手じゃないと使えないから、機会はそう多くは無いだろうがな。ゆっくり近づき、そっと触れて収納する。

「モモカ。」

 ヤクモが促すとモモカは俺を見て「はい。」と言って、俺に回復の法術を掛ける。

「聖法術・聖女の癒し。」

 膝の痛みが消えていく。俺が足を引き摺っていた事に気が付いたのか。もう隠し事が出来る気がしない。

「ありがとう、モモカ。それにヤクモも。」

 ヤクモは「いえ。」と言い、モモカは微笑んだ。痛みは引いたが疲労までは回復しない、一休みする為にその場に腰を降ろす。

「で、どうだ。ヤクモ。」

「あぁ、はい。おかげさまで、500に到達しました。」

 そう言って頭を下げた。

「そうか、やったな。目標達成だな。」

「おめでとうございます、兄上。」

「それならさっさと帰ろう。しかし一日で達成しちゃったなぁ。」

 そう言いながら立ち上がる。


 ヤクモとモモカにもドロップナッツを渡す。今回は噛み砕かず口の中で転がしながら、先に仕留めた方の熊へと歩き出す。白い狐の兄妹も追従する。

「それにしても何で俺のやろうとしている事が解ったんだ。」

「雷で魚を捕るのを見たことがありましたので。そして今日はそれを、危険だから、と使用を自重していらしたから、ですかね。」

 まいったね、こりゃ。それで水の中へ誘い込む為に熊共を火達磨にしていたのだろう。俺はどうやってヤクモに勝ったんだろう。

「モモカ、お前の兄上は凄いなあ。」

「そうですね。こんなに察しが良いとは私も知りませんでした。」

「何を言う。お前は察し過ぎても気が付かなくても、機嫌が悪くなるだろう。」

「あぁにぃうぅえぇぇ。」

 つい声を出して笑ってしまった。そんな俺に釣られてヤクモとモモカも笑った。熊を回収する。

「って事は魚ばかりの食事は無しだな。それよりこの熊肉を消費しないとなぁ。」

「そうですね。暫くは食料には困りませんね。」

 そうだな。それならそれで他の事に時間が使えるな。本格的に今の本拠地以外の拠点の確保を計画してみようかな。まあその前に一度、俺とヤクモは技能の見直しと取得するものを検討しないとな。俺はもう一つ二つ遠距離で使えるものを、ヤクモは何か決め手となる強力な技能を取得する必要がありそうだ。何にしてもまずはヤクモの進化を済ませてからだな。それからゆっくり考えればいいさ。モモカに関しては今のところ大きく見直す必要は無さそうに思う。勿論モモカ自身がどう思っているかまでは分からないが、相談されれば一緒に考えよう。

 そういえばこちらの都合で巻き込んでしまった魚も回収しないとな。川へ近づき覗き込む。・・・おや、二匹位哀れな魚がいるかと思っていたのに、見当たらないなぁ。下流に流されちゃったかな・・・、今から追いかけて探すのは魚達には申し訳ないが今回は無しだな。仮死状態の場合も考えられるし、一匹も巻き込んでいない可能性もあるしな。と、言い訳がましくそう思ってみたりする。

「さ、帰ろうか。」

 気を取り直すように背筋を伸ばし、ヤクモ達を見る。


 疲労していた事もあり、歩きながらの帰宅になる。ヤクモと今後優先して取得するべき技能はどんなものにしようかというような話をしている俺の視界に、何か考え事をしながら歩くモモカが入った。

「モモカ、どうした。」

 ヤクモとの会話を中断して聞いてみた。

「あの・・・少し思ったのですが・・・。」

「ん?何を。」

「魚の捕獲なのですが。」

 おや、面倒くさいから今度から同行しないみたいな事かな。それとも自分でやってみたいとか。

「イッスン様の植物捕縛や私の氷結を使えないのでしょうか。」

 俺とヤクモは同時に「あ。」と声を上げた。そしてそれは笑い声に変わる。

「私、何かおかしな事を言ったでしょうか・・・、」

「悪い悪い、違うよ。そんな方法、考えもしてなかったなと思って。今度やってみよう。」

「そうですね。どうして我々はこんな簡単な事を思い付かなかったのでしょう。」

「モモカは天才だな。」

 俺の賛辞に「いえ・・・。」と言いながら恥ずかしそうにしている。

「私は昔から知っていました。」

「もうっ、兄上まで。」

 兄上ぇ、今の追い打ちは良くないなぁ。ヤクモの事だから本気の可能性はあるが。

「水の中で植物捕縛が効果があるかは解らないが、やってみる価値はあるな。氷結も川が全部凍っちゃうかもしれないからな、今度ちゃんと検証してみよう。」

「はい。そうですね。」

 威力を調整すればどちらも使えるかもしれない。楽しみが増えた。


 今度はモモカも交え今後の活動拠点確保計画について話をしながら歩く。やはり問題はどう安全性を確保するかという事になる。今現在の本拠地である俺の住処は明らかに特別な何かがあり、それに守られている。と思われる。そんな場所がそんなに都合よく幾つも存在するとは考え難い。候補地を数カ所見つけて吟味するしか無いだろう。そしてどこかで妥協をしないと活動範囲は広がらないだろうな。ここはワイルドライフ、いつだって命懸けだ。無理をして範囲を広げる必要も無いのかもしれないが。


 ああでもない、こうでもないと話している内に自宅に辿り着いた。各々「ただいま。」と言いながら家の中に入る。今日は散々水遊びをした後に、あんな戦いをしたんだ。木の実効果で何とか動けているが、流石に疲れた。明日は筋肉痛だな、これは。既に今から痛い様な気がしてくるよ。緊張が解けたのか、少しよろけ定位置にへたり込む。モモカ達が心配そうにこちらを見たが、疲れただけだと笑いながら手を挙げると自分達も定位置に収まった。


 だが今日はここで終わりではない。万願寺を咥え気合を入れる。運が良いのか悪いのか、辛いやつだった。レベルが1上昇した。そして皆で食事をしながらヤクモの進化する種族の相談を受ける。最終的に決断をするのはヤクモだし、俺がその決断を誘導するような事をしたくはない。その旨をちゃんと伝えた上で、その名前からおそらくこういう特徴の種ではないかと助言する。真剣に、解らない事は質問しながら、俺の話を聞いていた。そしてヤクモは決断する。


 この日、ヤクモは俺とモモカの見守る中、新たな種族に進化した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ