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15、これでいい。これがいい。

 ヤクモの妹は俺達が突然笑い始めた理由が解らず狐につままれたような顔をしている。俺達はその顔を見てもう一度笑い声を上げる。後で説明をしようとは思うが、おそらく俺もヤクモも説明しながら吹き出してしまってちゃんとは伝わらないだろう。そして困惑と不快感を募らせてしまうだけだろう。それよりも先に説明しなければならない事もあるしな・・・俺が説明するよりヤクモから、実の兄上から話して貰う方が良いだろうな。

「ヤクモ、妹さんにここまでの経緯の説明は任せる。きっと俺から話すよりは良いと思う。」

「・・・そうですね。畏まりました。」

「たぶん理解するには時間が掛かると思うから、ゆっくりで良いからな。今日はもう出かけないし。」

「はい、そう致します。」

「で、だ。ヤクモの妹さんにはこれからも会う機会があると思うからさぁ・・・。」

「・・・はい、それが何か。」

「自分勝手で申し訳ないんだけど、不便だから名前を付けさせてもらっても良いかな。勿論、嫌なら辞めるけど。」

 ヤクモは少しだけ目を見開いたが、すぐにその目を閉じ微笑む。

「・・・当の妹が受け入れるのであれば、私に異論はありません。むしろありがたい申し出です。」

 そう言って妹の方へ顔を向ける。自分の重要な話が自分を置いてきぼりにして進んでいるこの状況に困惑を隠せていない様だ。そりゃあそうだ、ただでさえ普通にこの森で生きていたらありえない事が幾つも起きているんだからな。

「どうする、妹よ。」

 この問いにも、未だ混乱が続いていて答える事が出来ないでいる。

「ヤクモ、そう急かすな。ゆっくり説明した後でも良いんじゃないか。」

「・・・そうですね、妹の為にもそれが良いかもしれませんね。そうさせていただきます。」

「ああ、俺もゆっくり名前考える事が出来るしな。必要ないかもしれないけどね。」

 そう言って何時も通り冗談めかして笑ってみた。ヤクモは「はい。」とだけ言って妹を連れ少し離れた。冗談めかして言ってはみたが、実際名前が無いと不便なんだよなあ。妹さん自身が望まない事を強要する訳にはいかないしな、ヤクモが上手く説得してくれるとありがたいんだけど、などと邪な事を考えてみたりする。まぁ成るように成るさ。


 時間が出来たのでヤクモに庭にいると声を掛け外に出る。邪魔をしては悪いというのもあるが、身体を動かして確認したい事があったからだ。技能の確認は後でゆっくりすればいい、それよりもさっきの群青狼と戦った時に感じたものを探ってみたいと思っていた。あの瞬間確かに危機的状況だった。致命傷は辛うじて回避できたかもしれないが、腕の一本も失っていた筈だ。だが身体が勝手に、と言うより自然に動いた。まるで身体に染み付いた動きの記憶が再生された様に。

 楽な姿勢で直立し目を閉じる。呼吸をゆっくりとしながら身体の力を抜き、自然体を目指す。何処ぞの地下格闘技場の最年少王者みたいに液体になるほどの脱力では無いが。俺もご多分に漏れず昔試みてはみたが、とてもじゃないがあの領域には到達出来る気がしない。俺も男の子だし。いわゆる若気の至りってやつだ。・・・雑念を払い、あの状況を思い浮かべ頭の中で反芻する。ゆっくりと再生しながら、身体も太極拳の様に緩やかに動かし確認する。速度を変えながら何度か動いてみる。幾度かその所作を繰り返すと、何かを思い出せそうな懐かしさを感じた。この動き、この一連の動作そのものではなく、こういう身体の使い方というか、この相手を倒す、打ち破るのでは無く、相手の力を利用し、受け流し、己の身を守りその相手を制するという精神の様なものにだ。武道の精神の様だがそうではない。柔道や空手などの武道を思い浮かべてみたが、そうではない。そして俺は思い出す、この技が・・・いやこの技術と精神が武道のそれではない事を。身体の奥底に記された体捌きをゆっくりと丁寧に、大事な宝物を掘り出す様に一つ一つ動きながら呼び起こす。一通り動き終え呼吸を整える。


ーー《固有技能・合気道を開放しました。》ーー


 そう・・・合気道は武にあらず。というのも厳密に言えば少し違う。武道で無い事も無いのだが、それを説明するのはかなり難しい。技や型もあるが、それはより多くの方に解かりやすく説明したり披露し知って頂いたりする為に便宜上のものだとも聞いた事がある。そして、同じ技でも体格や年齢による身体能力の変化で各々の正解があるのだと。今の自分の最適解を追い求める事に近いのかもしれない。勿論それだけが合気道の精神ではないが、少なくとも敵を倒す技ではない事は確かだ。いつから始めたのかまでは思い出せないが、合気から離れた記憶が無いのでおそらく死ぬまでは続けてはいたのだと思う。師範せんせい方にはお叱りを受けてしまうかもしれないが、この世界を生き抜くために使わせて戴きます。相手の生命を奪う為にではなく、自分を含め大切なものを守る為に。俺は合気道を思い出した。

 同時に別の事を思い出した。全く関係がない訳では無いが。俺の中に合気道は当たり前に在ったので、嫌だったりする事は無い。むしろ合気の精神が俺の性格にあっていたので好きだったと思う。好きだったから性格がそちらに寄ったのかもしれないが。合気道は武道とは少し違う。だからこそ武道とは何かという事が知りたくて、柔道や空手の他に様々な格闘技に興味を持った。片手で足りる程だが幾つかの道場で稽古に参加させてもらった事もある。もう一度言うが、俺だって男の子だ。そりゃ好きにもなるよ、色々知っていけば尚の事だ。好きな選手の一人や二人・・・たくさんいるってもんだ。そんな漫画やアニメも好き好んで見たってもんだ。漫画やアニメに関して言えばそれだけでは無かったのですが。他の方より多めに摂取していた可能性は高めだと思われますが。間違いなくそうだろうな、死んでも忘れない程濃い目に蓄積してるからねぇ。まぁとにかく良かった、大切な俺を思い出す事ができた。

 気が付くと空が赤く染まり始めそうな色になっていた。もう一度、身体を動かし合気をもう一度焼き付ける。相手が存在しないので不完全な稽古ではあるが、こればかりは仕方がない。今は自分でできる限りの事をすればいい。でもそのうちヤクモに相手をしてもらうのも悪くないかもしれない。この世界では魔物が相手になるのだから、そういう合気が必要になってくるに違いない。新しい、俺の合気を探すのも悪い目標では無いはずだ。また少し考え事をしていたら、いよいよ空が夕に焼けてきた。そろそろヤクモお兄ちゃんの説明会は終わったかな。


 家の中に戻るとヤクモと妹さんが話を止めて同時にこちらを向いた。

「邪魔しちゃったかな。」

「いえ、少し昔話をしていたところです。」

「そうか、じゃ一応説明は終わったのか。」

「はい。お待たせしました。」

 この兄妹はどんな結論を出したのだろうか。

「主殿、何をされたんですか。」

「ん?何をとは。」

 思いも寄らない質問に戸惑う。俺、何かやっちゃった?自分で気が付かない内にやらかしてしまったのか、なんだろう。心当たりは無いんだけど、やっちゃってる可能性は大いにある。

「先程より・・・少し強くなった様に感じられます。」

 おいマジか、ヤクモよ。凄いな毎回良く気が付くな。俺の何をどれくらい見てたらそうなるんだ。そういう能力が高いだけかもしれないが。確かに狐だから霊力や第六感みたいなものが備わっているのかもしれないな、白い狐だし。

「あぁ、うん。そうだな・・・何ていうか、少しコツを掴んだみたいな感じかな。そしたら新しい技能が開放された。」

 流石に前世の記憶を一部思い出したと言う訳にもいかないが、嘘をつく必要も無いのでヤクモに解かりやすく説明したつもりだ。そのうち全てを打ち明ける日が来るのだろうか。必要があれば話すが今のところそのつもりは無い。

「そうですか、しかし主殿は少し会わないうちにすぐに強くなってしまわれますね・・・。」

 呆れられてしまったかな。

「強くなってはいないさ、今までより上手に身体を動かせるようになっただけさ。」

「敵いませんね。」

 ヤクモの後ろに自分が話し掛ける機会を伺っている狐を発見する。そうだった、本日の議題はまだ結論が出ていなかった。正確に言うとまだこの兄妹の、特に妹さんの出した結論をまだ聞いていなかった。


 ヤクモとの会話を左手を上げて遮り、目で合図する。ヤクモはその問いに、黙って頷きを返す。答えは出たらしい。

「・・・まずは感謝を。兄上と私を救って戴きありがとうございます。」

 そう言って頭を下げられた。だが少しバツが悪い。俺は両膝を折り正座する。

「いや、生きる為だったとはいえ君の兄上を傷つけてしまった。申し訳ない、謝罪する。」

 手を着き頭を下げる。俺からの予想外の謝罪に妹さんは戸惑っている。そうだろうな、こうなる事もある程度予測はできたが、それでもどうしても俺自身がこの件について謝罪しておきたかった。自己満足だと分かってはいるが。

「主殿とはこういうお方なのだ。」

 次の言葉に困っていた妹にそう声を掛けた。それを聞いて何かに納得した様に頷いた。

「はい・・・何となく分かった様な気がします。兄上が仕えている理由も。」

 ヤクモは一体妹に何を話して聞かせたのだろうか。ヤクモは俺の事を過大評価している節があるからなぁ。

「それでは改めて・・・イッスン様。私も名前を頂戴したいと思います。そしてお許し頂けるなら兄同様にお仕えしたいと思っております。」

 ああそうきたか。これから長い付き合いになるだろうから、名前を貰ってくれるのは俺としてもありがたいが、主従関係を結びたいとは。確かに予想の範囲内ではあるが、荷が重いなぁ。俺にそんな器は無いと思うんだけどな。だけどなあ、断る選択肢は無さそうだし、相手はあのヤクモの妹だ。おそらく殆ど同じ問答の繰り返しになるだけだろうよ。

「そうか。わかった。名前の件、受け入れてくれてありがとう。主従の件、ありがたく受け入れよう。」

 俺がそう言うと兄妹揃ってその場に伏した。

「よせよ、そんな大したもんじゃ無いぞ俺は。・・・まずは名前を考えないとな。ちょっと待っててくれ。」

「はい。」

「せっかくだからその美しさに見合う名前がいいよな・・・。」

 既に俺の思考の殆どを名前の候補選出に使い始めていたので、この台詞が外に漏れていた事に気が付いていなかった。


 兄弟揃って美しい白い毛並みの持ち主。そして女性という先入観もあるのかもしれないが、ヤクモより身体付きも角が少なく流線的な印象だ。女性的な名前が良いだろう。そして何と言っても「白」だよな。第一印象でも汚れの無い雪を見た、そしてそれがそのまま咲いた花の様に感じた。白、花、・・・白い花。一輪の白い花。八雲の妹。・・・そうだな。

「モモカ《百花》、なんてどうかな。」

 白に一を足し百、そして花。我ながら上出来な気がする。

「モモカ・・・。ありがたく頂戴します。」

 ヤクモも噛み締めるように頷いている。

「良かった。じゃあこれから君はモモカだ。」

『技能・命名の使用を承認しました。』

 ヤクモの時と同じ様に光が放たれる。短い時間ではあったが日が傾き暗くなり始めた家の中を灯した。俺とモモカを包んでいた光が消える。俺は儀式を見守っていたヤクモにゆっくり近づき、胸の辺りを軽く肘で突く。

「ヤクモもああなってたぞ。」

 今自分に起きている事に首を上下左右に動かしているモモカを指差し、悪戯っ子みたいに笑う。「気持ちは解ります。」と苦笑いを浮かべるヤクモに「取り敢えずもう一回あるぞ。」と付け足す。

「モ、モモカ・・・、落ち着け。これからもう一度同じ様な事が起きる。その後説明をするから今は少し待て。」

 その言葉を聞いてモモカは混乱を残したままこちらの世界に戻ってくる。ヤクモの方も初めて妹の名前を呼び、少し照れ臭そうだ。なるほどなぁ、元人間の俺には滅多に感じる事の出来ない感覚だろうな。今まで名前が無くて、初めて家族の名前を呼ぶなんて経験、少なくとも俺には無かったと思う。

「モモカ、もう一度だけ聞く。俺に仕えるって事で良いのか。無理してヤクモに習う必要は無いんだぞ。」

「はい。構いません。私だけではあの狼達からは逃れる事は出来なかったと思います。兄上共々、この命を救って戴きました。ご恩返しさせて下さい。」

 やっぱり兄妹だな、真面目なところも良く似ている。

「恩返しなんて・・・ヤクモの妹を助けるのに理由なんかいらないよ。当たり前の事をしただけだから、気にしなくてもいいのに。」

 モモカは何かを悟った様に微笑みながら目を閉じた。

「でもわかった。じゃあモモカも今から俺の従者だ。よろしくな。」

「よろしくお願いします。」

 再び俺とモモカが光を放つ。こうして命名と主従の絆の儀式を無事に終えた。レベルが246まで上昇し、新しい技能が取得可能になった。

「ヤクモ、またレベルが大幅に上昇したよ。」

「私もです、主殿。」

 俺の報告にヤクモも驚きを浮かべて答えた。

「あれ・・・自分の時は上がらなかったの?」

「あの時は・・・一度に色々な事が起きて、正確には覚えていません。上昇していたかもしれません。」

 ヤクモは面目無さそうに答えた。あぁ確かに。あの時はお互いに未体験の事だったから俺にも説明は出来なかったしな。

「ほら、モモカがその時のヤクモみたいになってるぞ。助けてやれ。」

「あぁ、そうですね。・・・モモカ、大丈夫か。」

 俺は兄妹を残しその場を離れる。


 少し離れた所から微笑ましく眺めていたが、まだ日課が残っていた事を床の間に置いてある銀胡桃を見つけて思い出した。邪魔にならない様に一定の距離を保ちながら銀胡桃の前に移動する。おそらくこの銀胡桃、鋼ガガガニの鋏を使えば割る事は出来るだろう。だがそれでは意味がない。自分の成長を確かめる為に行っている日課だからな。そしてなにより、面白くない。ただ今までは噛み砕こうとしていたが・・・それは二足歩行では無かったからだ。他にこの身体で銀胡桃に対抗する方法が無かったからだ。だかこれからは別の方法にするか、それとも今まで通り噛み砕く方が良いのか。思ったより難しい問題かもしれない。銀胡桃の前に胡座をかき、じっと見つめながら思案する。暫く強敵を眺めていたが、結局ひと齧りして本日も敗北する。俺もまだまだだな。

 ひと齧りしたら、なんだか腹が減ってきた。立ち上がって兄妹に近づいて、数種類の肉と木の実をを取り出しそこに置く。魔物の肉は暇な時に、食べやすく切り分けてある。何も言わずヤクモに目配せだけしてその場を離れる。流石ヤクモ、俺の意を解してくれたらしく、モモカに少しずつでいいから全種類食べるよう促している。更に技能を取得する可能性と取得可能になる可能性の説明もしている。ここまで理解をしてくれると気持ちがいいな。・・・俺はヤクモの事をここまで理解する事が出来るだろうか。頑張ろう・・・頑張って何とかなるものなのか。これは才能かもなぁ。でも心掛ける事ぐらいは出来る筈だ、頑張ろう。

 定位置に戻り、木の実を三つ取り出し取得可能技能一覧を開く。今日も三日月カシューナッツは美味い。寝転がって左肘を床に着き手で頭を支えながら、本日追加された技能を探す。この作業が意外と楽しい、どんな技能が取得可能になったのかは自分で調べるまで分からないのがいい。くじ引きみたいでワクワクする。どの技能も使い道があまり無かったり、解らなかったりするものはあっても、取得して損という事が無いのがまた楽しい。そりゃあ便利そうな方がいいけれど、そればっかりじゃあつまらない。勿論生きる為だから、不用意に取得する訳にもいかないが。一応端から端まで見終わったのを見計らった様にヤクモが俺に声を掛けた。その声に反応し身体を起こす。

『技能・避雷針を取得しました。』

『技能・水面蹴を取得しました。』

『技能・魔力玉を取得しました。』

『技能・工作を取得しました。』


 ヤクモはモモカへの説明はおおよそ終わった事を報告した。

「ご苦労さま。大変な事を押し付けたみたいで悪いな。」

「いえ、そんな事はございません。」

「イッスン様、改めましてこれからよろしくお願い致します。」

 モモカが律儀に挨拶をしてくれた。全く兄弟揃って。良いご両親に育てられたんだなぁと感じる。

「よろしくな。急にいろんな事が起きて大変だったな、大丈夫か。」

「はい、なんとか・・・。まだ全てを把握出来てはいませんが。」

「だろうなあ。ある程度慣れが必要だろうと思う、焦らずにな。解らない事があったら聞いてくれ。」

「ありがとうございます。・・・別の事でもよろしいですか。」

 別の事?いきなり俺には解らない事だったらどうしよう。聞いてくれと格好をつけてしまった以上、俺に選択肢は無い。

「お、おう。」

 お手本の様にぎこちない返事をしてしまった。

「兄上に聞いたのですが、名前に意味があると・・・。」

「あぁ、モモカの名前の意味が知りたいのか。」

 モモカは恥ずかしそうに「はい。」と言って頷いた。

「それは・・・そうだなぁ。モモには百って意味があって、カは花だから・・・解りやすく言うと沢山の花って事かな。ちょっと説明は難しいけど、一応白って意味も込めてはいるんだけど・・・。」

 ヤクモやモモカに漢字を、文字を説明する訳にもいかないので曖昧な答えになる。にしても名前の意味が気になるのか、思ったより嬉しい。ちゃんと考えた甲斐がある。

「沢山の白い花・・・。」

 モモカは嬉しそうに呟いた。

「何となく解って貰えたかな。気に入ってくれると良いんだけど。」

「はい。素敵な名前を戴けて嬉しいです。ありがとうございます。」

 意味を聞いてホッとしたのか、満足したのか先程より笑顔になっている。俺も良かったとホッと胸を撫で下ろした。

「主殿、気になってることがあるのですが・・・。」

 今度はヤクモが質問がある様だ。「ん?どうした。」と反応する。

「左の目の上が黒くなっている様ですが、大丈夫ですか。」

「あ、これか。」とその場所をなぞりながら「忘れてた。群青狼と戦った時にな。ちょっと毛が焦げただけだ。」

 ヤクモと同時にモモカも顔の同じ皺を付けてこちらを見た。

「大丈夫、大丈夫。毛が焦げただけだから、そのうち生え変わるから問題ないよ。」

「それなら良いのですが・・・。」

「心配し過ぎだよ。ここで嘘を付く必要は無いよ。本当に駄目なら自分である程度治せるし、もう治してるよ。」

 ここで納得したようで、顔から皺が消えた。実際、氷塊を受けた傷は帰り道で治した。

「そういえば、そうでしたね。」


 流石に木の実三個では空腹は満たされないので、他の食材を取り出し食事をする。モモカに先程は渡さなかった食材を渡す。なるべく早いうちに現在手持ちにある種類は食べて貰っておいた方が良いだろう。技能の取得が出来なくとも、取得可能になる数が増えるはず。地味だけど大切な事だと思う、技能は使い方次第で大きな結果を生む。植物捕縛みたいなものや、それがたとえアイテムボックスみたいな技能であってもだ。・・・ま、まぁ大半はセッテさんのおかげですが。いつもお世話になっております。『恐れ入ります。』

 食事をしながら、どんな技能を取得しているのか、これからどんな技能を取得したいのか、しようとしているのかなどを話した。食卓を囲む家族の団欒の様だ・・・いや、きっと「様だ」ではなく。俺はそう思う事にする。ヤクモとモモカはそう思っていないかもしれないが、俺にとってはこの世界に来てできた大切な家族だ。これでいい。これがいい。

 そういえば聞いてみたかった事を思い出した。ヤクモ達の職業が何かという事だ。「良ければ教えて欲しい。」と言うと「構いません。」と快く教えてくれた。ヤクモは法闘士、法術による遠距離攻撃と接近戦を得意とする闘士の両方の特性を持つ中距離戦を得意とする万能型。おのれ優良従者め、恐るべし。Lv63。モモカは聖法術師、回復・治癒・補助を含む聖属性の法術に特化した職業。現在の取得技能だと後方支援型。我らの聖女様といった役どころかな。Lv54。俺、格闘家。法術も使えるが基本は超接近戦型。盾役は難しい・・・回避盾なら辛うじて立ち回れるかも。Lv31。・・・あれ?俺だけ基本職なのでは。しかも一番低い、主なのになぁ。でも参考になった。


 食事も終え、後は寝るだけとなった。今日もいろんな事があった一日だったな。明日は何をしようかなと考えながら寝る準備に入ろうといていた所に、ヤクモが話しかけてきた。

「少しよろしいでしょうか。」

「ん?どうした。」

「ちょっとご相談が・・・。」

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