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11、桜咲く。

 ヤクモの傷は三日程でおおよそ回復した。だがまだ万全とは言えないと思われるので共に行動する事にする。どうせヤクモの事だ、「大丈夫か。」と聞けば間違いなく「大丈夫。」と答えるだろう。だからだ。調子と勘を取り戻すまでは単独行動はさせない事にする。

 その三日の間に色々な事を教えてもらった。この世界の事、特にこの森の事を詳しく。我が家はこの森の東部に位置するらしい。この森は大まかに、東部、西部、北部、南部の四つに別れそれぞれ特徴がある様だ。我々の暮らしている東部の森はごく一般的な魔物が生息している。話を聞く限り、どうやら前世の世界で言う所の動物に近い魔物が殆どの様だ。確かに今まで出会った魔物はその範囲内に含まれると思う。ヤシガニみたいのもいるけど。北側の森の先にある、ここからでも見えるあの山には竜が住んでいるらしい。そして、その山に至るまでの間にあるこの森の北部は、ヤクモ曰く昔から「強者の森」と呼ばれているらしい。ヤクモも実際に確認した事は無く、両親から聞かされ「決して近づかない様に。」と言われていたらしい。竜でも勝てぬ訳では無いが、厄介なので無闇に手を出さない程の魔物が住まう森だそうだ。俺達も暫くは近づかない様にしようと心に決める。南側の森には、脚を六本以上持ちその一部が蟹の爪の様になっていたり、硬い表皮で身体が覆われていたりする魔物が多くいるらしい。おそらく推察するに昆虫、虫型の魔物の事だろう。その話を聞いて俺はそれらを食べてみたいと思わないので、行く意味はあまり無いように感じた。どうやらヤクモも同意見の様だった。ただ植物の類、特に木の実の類でまだ見ぬ物があるかもしれない。それが行く動機にはなりそうだが、充分に準備をする必要はあるだろう。そして西側の森には、頭が複数あったり、身体から角ではない何か鋭利な物が生えていたり、火や氷を纏っていたりと、自然の摂理に反する様な生物が跋扈しているらしい。その西側の森には時々魔界と繋がる穴が空き、そこから溢れ出てくるらしい。それは魔物では無く、魔界獣と呼ぶようだ。これはいわゆるファンタジー。ケルベロス的な類だな、たぶん。・・・ん?ま・か・い、ですと?この世界には魔界があるらしい。この魔界獣という生き物は、生きる為に、食う為に他の生き物を襲うのではなく、己の強さを誇示する為に襲うらしい。それも相手が自分より強かろうが弱かろうがお構い無し、魔物だろうが魔界獣だろうがお構い無しらしい。絡まれたら面倒そうだ、今のところ近寄らない方が良さそうだ。魔界には魔界獣の他に魔族と呼ばれる者もいるらしい。魔界で覇を競い戦いに明け暮れているらしい。基本的には自分より強き者に挑むらしい。こちらの世界にも魔族はいるらしいのだが、こちらの世界に来る様な魔族は、戦いに明け暮れる魔界に嫌気が差した戦いを好まない穏やかな者ばかりの様だ。出会ってもこちらから何もしなければ全く問題ないらしい。魔界、魔界獣、魔族・・・ファンタジー要素だが、あまり関わらないようにしよう。魔界獣は理由は判らないが、西の森からあまり出てこないらしい。助かる。・・・しかしどれもこれも「らしい。」ばかりだな。生きていればそのうち答え合わせができる、気長に行こう。

 って事はつまり、この東の森以外何処にも行きたい場所が無いって事か。じゃあ、まずはその境界線を慎重に見極めるのが目標になるのかな。それでもこの兎の身体ではかなりの範囲になるだろう。その為にも自宅以外の拠点の確保も必要になってくる。ま、ヤクモもいる事だしゆっくりやっていこう。


 ヤクモから「この特異能力とは何か。」と質問された。え?なにそれ、知らないんだけど。セッテさん、教えてもらえますか?

『まだ開放されていない機能です。』ああ、そういう事か。まだって事はこの先、俺でも使える可能性があるって事ですね。『是、肯定します。』それは、進化と関係があったりするのかな。『是、肯定します。今すぐ種族進化を行いますか?』否です、否定します。条件が大体理解出来たので、焦らずに行こうと思います。『了解しました。』ありがとう、セッテさん。『何時でもどうぞ。』

「今の俺にはまだ使えない機能らしい。」と正直に答えた。「では、どうしましょう。」とヤクモは俺に指示を仰いだ。んん、どうしようかな。何が起こるかわからないからなぁ。内容を見せてもらってから答えを出すのが良いとは思うが、それだと実験台にしてるみたいで気が進まない。もうすぐ俺のレベルが上限になりそうだし、それまでにヤクモが種族進化をする事はなさそうだから、俺が自分で確かめてからでも遅くはなさそうだ。ヤクモには少しの間、我慢してもらうのが良さそうだな。

「俺が使えるようになるまで保留するのが無難かなぁ。」

「承知しました。」

 本当の事を言えば、俺がヤクモの技能等の取得を操作したくは無いのだが。自分で考えて、自分で選んで、自分で決めて欲しいと思っているのだが、ヤクモが望んだ結果を産まない可能性も孕んでいそうな響きの項目名だから、少し警戒しておくことにしよう。

 ヤクモは続けて「異空間収納とは何か。」と聞いた。おっと、これも知らない。俺のアイテムボックスと同じ様な物なのかな。セッテさん、どうでしょう。『是、肯定します。』やっぱり。違いはあるのでしょうか。『是、肯定します。異空間収納は収納した物が通常通りに時間が経過します。』なるほど、アイテムボックスは確か、約一年で一日分位の時間が経過する、逆精神と時の部屋みたいな感じだったっけ。アイテムボックスは異空間収納の上位互換って事かな。『是、肯定します。たぶん合っています。』どうもありがとう。『何時でもどうぞ。』なぜアイテムボックスの方が上位なのかは技能名からは不明だが。・・・それよりもヤクモの能力値はともかく、取得技能を見てみたい。本当は良くないと解っているが、我慢しきれず今回だけと自分に言い訳をくっつけて、ヤクモに頼んでみた。ヤクモが断らない事など始めから分かっているのに・・・罪悪感。勿論俺の情報の開示は交換条件に必須だ。ヤクモに見られて困るような能力じゃないし。ヤクモに比べると貧相で恥ずかしいかもしれないが、別に構わんさ、事実だし。ただなぁ・・・口笛とか暗算とか星見とか用途不明な、スキルポイントを無駄にしない為になんとなく取得した技能がちょっとね。気にしないでくれると嬉しいんだけど。

 やはり自分以外の取得技能の一覧は見ているだけで楽しい。何だか生き方や考え方や性格や理想が見えるようで。楽しみ過ぎて、俺の知らない技能を見つけては「なるほど。」と、欲しいなと思っていた技能を発見しては「いいなぁ。」と声を出していた。ヤクモに引かれていないか少し気にはなったが、やってしまった事は仕方がない、諦めよう。だけどかなり参考になった。条件までは判らないが、条件を満たせばその技能を取得可能になる事が判った。それだけでかなり大きい。そしてやはり種族と技能との相性はかなり重要な事が確認できた。狐火のLvは俺の方が高いのに、ヤクモの方が威力も性能も良かった。勿論、実体験から導き出した答えだが。穴が空く程眺めるのは失礼だと思い、「ありがとう。」とお礼を言って切り上げた。

 ヤクモは俺のを見て、技の多さに驚いていたようだ。・・・恥ずかしい限りだ。だいぶ開き直って、技名を付けてたからな。誰かに見せる想定をしてなかった、全く。多彩と褒めてくれたが、殆ど色違いの流星弾みたいな感じなんだよな。単発か、連弾か、落下か、回転か、角か、脚か、みたいな差しか無いんだよ、実は。ベアハッグは違うけど。正直に告白しよう、見せ方でそう感じさせているだけだと。それは決して悪い事では無いはずだから。まあヤクモみたいに考えてくれる相手じゃないと通用しないけど。


 その後にも、先程の森の事情も含め色々な話をした。この世界に、この森に住む魔物にとって当たり前の事も俺には分からない事だらけだったので、とても助かった。その中で再び技能の話になった時に、技能を取得に関して相談を聞いたり助言をしたりはするが、基本的には自己判断で決定して欲しい旨を伝えた。格好良く言えば、生き方は自分で決めてくれと言った訳だ。ヤクモは「分かりました。」と答えた。長い時間話していたらしく、気が付くと辺りが暗くなっていた。ヤクモは俺の姿が殆ど見えなくなっていたようだった。俺は一応見えていた、おそらく夜目の技能の効果だな。「そろそろ寝るか。」と話を切り、その日を終えた。

 余談だが、所得可能な技能の一覧を眺めながら会話をしていたのだが、その際に一覧の中に今まで欲しいなと思っていた技能が、ヤクモが持っていたのでそのうち取得可能になるだろうと思っていた技能が有ることを発見した。それも二つも。確かにここの所、色々あって確認していなかったが、いつもそれこそ自分のだから穴が空く程見ていたつもりだったのに。己の失態に顔を覆う。思わず声も出してしまった。ヤクモに「どうされました。」と聞かれたので、素直に白状した。・・・そして、気を取り直してその二つを取得した。

『技能・後方跳躍バック・ステップを取得しました。』

『技能・横方跳躍サイド・ステップを取得しました。』


 ヤクモに無理をさせないように気をつけながら、安全圏と思われる自宅周辺を中心に食料を確保出来る場所を案内する。ヤクモも植物鑑定を取得し、見つけた草花や木の実を一つ一つ丁寧に確認していた。技能という機能の恩恵を驚きと共に実感している様だった。何かが出来る様になるのって純粋に楽しいよな。

「この森って、果実って無いのかな。探してるんだけど見つからないんだよね。」

「・・・この木の実も果実だと思うのですが。」

「まぁそうなんだけど、そうじゃなくて。林檎とか桃とか柿みたいなやつ。」

 ヤクモは少し考えてから、

「まぁ無い事は無いですが、あまり気が進みませんね。」

 え?この世界の果物は不味いのかな。

「有るは有るのか。あんまり美味しくないの?」

「そうでは無いんですが、少々面倒なんです。」

「面倒・・・。つまり労力に見合わない、と。」

「簡単に言えば、そういう事です。」

 そうか。じゃあ見つけた時に考えるか。話を聞く限り不味くは無いらしい、見つかったらいいな位の気持ちで探してみよう。

 安全圏とはいえ、俺達を襲う魔物が全くいない訳ではない。もはや目を閉じていてもなんとかなってしまいそうな相手だが、襲い掛かってくる。なぜこんなにも俺は人気があるのだろうか。複数で向かってくるのだが、その全てが俺を狙ってくる。だが今までと違いヤクモがいるので、迎撃するのがだいぶ楽になった。俺は避ける事に専念していれば、ヤクモが攻撃してくれる。ちょっと申し訳無いと思ってしまう位だ。取得したばかりの後方跳躍と横方跳躍も思った以上に能力を向上させてくれた。このままだと避けるのばかり上手くなって、単独では戦えなくなってしまいそうだ。その挙げ句に避けてるだけでレベルが上ってしまう。これは本格的に不味いと感じる。頑張ろう。

 栗鼠、猪、ヤシガニの他に、突進鼠と放水鹿という新顔にも出会った。どちらも例に漏れず俺を見るなり襲って来た。はじめましてだったので魔物鑑定で確認したが、特に問題は無い能力だった。今回は何度か反撃もした。ヤクモに勘が鈍るから俺もちゃんと戦いたいと伝えておいた。帰宅してその肉を食した後だが、新たな技能を取得した。体当たり、鹿水の二つが追加された。どちらも俺にとってはあまり使い勝手が良さそうではないなぁ、あって損はないとは思うが。鼠、鹿の両言語も取得した。


 そしてそんな中遂にその時が訪れた。成長効率上昇の効果は(微)にも関わらず思ったより大きく、レベルが驚く程上がりやすくなった。上限に達した事をヤクモに伝え、その日は自宅へ戻った。種族進化をする際に何が起こるか分からないので、安全な場所で実行しようと考えたからだ。気を失って何日も眠ったままだったりしたら、命に関わるからな。激痛でのたうちまわるかもしれない。何か危険があるかもしれないから、念の為少し距離を取るようヤクモに言う。俺も少なからず緊張する。深呼吸を何度かして、心を落ち着ける。見守っているヤクモも神妙な面持ちだ。意を決して、セッテさんにお伝えする。

「進化を実行しようと思います。よろしいでしょうか。」

『是、肯定します。それでは種族進化を開始します。』


 進化する種族を選択して下さい。

   大角兎

   二角兎

  ▷耳飛兎(角)

   幸運兎(角)


 選択肢は四つ。大角兎は・・・何が大なのかが問題。身体が大きくなるのか、角が大きくなるのか。たぶん6:4で身体かな、と思う。二角兎は、まぁ角が二本になるんだろうな。サイみたいに縦に二本かな、鬼みたいに左右に二本かな。角が二本になったら、攻撃力が二倍になったりするのかな・・・ならないな。そんなのは超人力学だね。耳飛兎は、耳で飛ぶんだろうな。耳を翼みたいに羽ばたかせて飛行するって事は無いだろう。十中八九、滑空するのがせいぜいだろう。仮に飛べたとしてこの森の中で有利かと言われると疑問が残る。飛べて損はしないとは思うが。・・・(角)ってなんだ。おそらく本来の耳飛兎は角が無い種なのだろう。角兎たる俺が進化すると角のある耳飛兎になれるのだろう。で、だ。この幸運兎とは一体何だ。倒すといっぱい経験値の貰えそうな兎は。他の三つより特徴が曖昧だよな。幸運って、確かに能力値の中に運って項目はあるが実感が無いんだよなぁ。他の能力値より妙に高いんだけど。その運に特化した兎だって事なのだけは解るんだけど。たぶんセッテさんに聞けばある程度答えてくれるとは思う。『是、肯定します。こんな時の為に私がおります。』ありがとう、じゃあ何か俺の予想が大きくハズレてたら教えて。『概ね間違いはありません。』そうかぁ、ありがとう。『あまりお役に立てず申し訳ありません。』なんで?概ね間違ってない事が判ったんだよ、とても助かるよ。『ありがとうございます。』俺の周りは気にしいが多いな。『恐れ入ります。』・・・恐れ入ります?はい。

 さて、どうするかな。大きくなるか、角二本か、空を飛ぶか、幸運か。どれも長所と短所があるのも想像がつく。身体が大きくなれば、丈夫になるだろう。力も増す可能性が高い。その分的も大きくなるし、今まで通れた場所が通れなくなる。決め手を欠く。角が二本になったら、使いにくくなりそうだな。一本の方が俺は便利かな。見た目も好みかな。だが、角を無くす選択は無い。でも正直二本はいらない。空を飛ぶのは悪くない。どちらかと言えば、飛びたい。飛びたいが、耳で飛ぶのはちょっと抵抗がある。背中に翼が生えて飛べる様になってもちょっと違う気がする。空は飛んでみたいが。角と翼があったらもう兎の要素がだいぶ減ってしまう。出来ればそれは避けたい。もし叶うなら、せっかく兎に生まれたのだからあまり付属品は増やさない方向で行きたい。まあ、今回は耳が変化する様だが。で、幸運と。一応一通り確認はしたが、実は始めから殆ど俺の心は決まっていた。

「幸運兎でお願いします、セッテさん。」

 運の能力がどんな効果をもたらすのかははっきりしないが、そんな不確定な要素が数値として存在する以上意味はあるはずだ。他の身体的要素に関しては、能力的な要素に関しては技能を取得すればなんとかなりそうだが、運だけはどうにもならないかもしれない。そう考えると運の要素をある程度意図的に伸ばせなるなら、それが一番幸運な気がする。だから幸運兎は始めから魅力的だった。

『了解しました。幸運兎(角)に種族進化を行います。よろしいですか。』

「はい。」

『承認しました。それでは幸運兎(角)への種族進化を開始します。』

 おお、いよいよだ。

『種族進化の際、身体の損傷箇所を修復する事が可能です。修復しますか?』

「え。そんな事出来るの。助かるな。左耳と腹の傷が治るの。」

『是、肯定します。』

「いやぁ助かる。このまま毛が無いまま冬になったら腹が冷えて大変だったよ。」

『是、肯定します。』

「・・・ん?選択式って事は治さない事も出来るって事?」

『是、肯定します。』

「修復、お願いします。」

『承認しました。』

 セッテさんの最終確認が終わると身体が淡く光を放ち、やがてそれが萎む様に消える。光の消えた体を見ると、見事に腹の傷は消え元の触り心地の良さそうな白い毛に覆われていた。元の通りに・・・大きな変化が感じられない。ま、別にいいか。緊張した分少し残念な気もするが。


ーー『種族が幸運兎(角)に進化しました。』

ーー『特異能力の取得機能が開放されました。』

ーー『職業の取得機能が開放されました。』

ーー『特殊技能・幸運の尻尾が特殊技能・幸運兎の尻尾に進化しました。』

ーー『特殊技能・白兎の幸運が特殊技能・幸運白兎の幸運に進化しました。』

ーー『特殊技能・能力成長効率上昇が(微)から(小)に変化しました。』

ーー『アイテムボックスの機能が拡張しました。』

ーー『新たな技能が取得可能になりました。』


 うん、予想してはいたけど急に増えたな。これは確認作業に時間が掛かるな。

「無事、進化したらしい。」

 と、心配そうに見守っていたヤクモに報告する。

「おめでとうございます。」

「ありがとう。見た目に何か変化はあるかな。」

「いえ・・・傷がなくなった以外は、大きな変化は見受けられません・・・。」

 ヤクモは申し訳無さそうに答えた。

「そいつは、良かった。今まで通り可愛い俺のままって事だ。」と言うと「そうですね。」と微笑み返した。

「朗報だぞ、進化する時に損傷箇所を治せるみたいだぞ。良かったな、治さない選択も出来るみたいだけど。」

「そうですか・・・それは良かった。」


 これから色々確認作業をするからとヤクモに伝えると、「それでは少し身体を動かしてきます。」と外へ出て行った。その背中に、あまり遠くへ行くなよと声を掛けると、この家の周りを走るだけだとの答えが返ってきた。少しの間様子を伺ってみたが、その言葉に偽りが無い事が確認できた。律儀なやつだ・・・という事は解っていたけれど。

 まずは能力値の確認してみる事にする。その数値を見て「えっ。」と声が出る。軒並み100程上昇している。凄いな進化。こんなに変わるものか。レベルは1に。ただしその分母が550になっている。この後何回進化する機会があるかは判らないが、先は長そうだ。生きている間に辿り着く事が出来るだろうか。気長にいこう、そして頑張ろう。スキルポイントも分母が5000へ上昇していた。これは助かる、のと桁違いにポイントを必要とする技能があるって事かな。それが俺にとって必要かはわからんが。

 アイテムボックスは250種類、200個づつまで収納出来るようになった。たくさん収納できて悪い事はない。管理は大変になりそうだが。時々整理もしないとな。

 そしてお待ちかねの特異能力の確認に入る。職業を先に確認した方がとも思ったが、両方確認してから取得するものを決定すれば良いだろうと結論を出した。後でヤクモに説明する必要もあるのでちゃんと調べよう。一覧を開き、現在取得可能な能力を慎重に確認していく。そして自分に本当に必要のあるものを見逃さないように。やはりある程度特殊な能力なだけあって、技能に比べると数は少ない。取得にはやはりスキルポイントが必要な様だ。今現在、1100ちょっとのスキルポイントを所持している。もしかしたら技能と同じで必要量を所持していなと、能力値が条件に達していないと一覧に載らない可能性が高い。今は本当に必要と思うもの以外の取得は控えておこう。「法術」「水中呼吸」「牙」の他に「毛色変化」や「爪色変化」「目色変化」などの自分の見た目を変化させるものがあった。なるほど、毛をこの森に紛れやすい色に変える事も出来るって訳だ。それもありかもしれないなぁ、が今は保留。水中呼吸はすごく便利そうだ。かなり強力な能力だと思うが、今のところ用途が少ない。早急に必要になりそうもないので、これも保留。ま、これだけ取得しても魚が捕れる様になる訳ではなさそうだしねぇ。牙も俺の戦闘様式にはそぐわない。選択肢としてはあって損はしないと思うが、敢えて取得する必要も今はなさそうだ。保留。法術は取得。スキルポイントを250消費した。

『特異能力・法術の取得により、新たな技能が取得可能になりました。』

 職業の確認に入る。これは何か取得すると始めから決めている。どれを選んでも今の住所不定無職より良いはずだ、絶対に。『是、肯定します。』・・・分かってるよ、今から職安に行くんだよ。ちゃんと今日決めてくるつもりだよ。と、冗談はこの辺にして一覧に目を通す。大方の予想通り「戦士」「魔法使い」「盗賊」等の名前が並んでいる。

「セッテさん、職業による違いは。」

『技能、技、法術の効果が変化します。レベル上昇時の能力値に増加補正があります。固有の技能を取得可能になる可能性があります。』

 なるほど。固有技能か。

「職業は任意に変更できるのかな。」

『可能です。職業のLvに応じてスキルポイントを消費します。』

「今この一覧に表示されていないものもあると考えて良いのかな。」

『是、肯定します。』

 ありがとう、セッテさん。能力値や職業Lv、取得技能などの条件を満たせば、他の職業や上位・上級の職業が取得可能になると。現在選択可能な職業のLv上限はどれも100。これまた先が長そうだ。でも楽しみでもある、頑張ろう。

 さて最初はどれにしようかな。一番上から順番に埋めていくか、それとも好きなものから埋めていくか。理想を言えばそんな風に楽しんでやっていきたいところだが、生きる為にはそうも言っていられない。戦う力を強化するか、気配を消したり逃走や回避の方に特化するか。今考えられる方向性としては、この二つが妥当だろう。そんな事を考慮して職業を選んだ。

『職業を格闘家に変更しました。』

 これでやっと無職じゃあ無くなった。セッテさん、やっと仕事が決まったよ。『是、肯定します。』

 そうだ、後でヤクモの職業が何か聞いておこう、参考までに。この前は技能を見るのに夢中で忘れていた。


 この後、新しく所得可能になった技能の確認をした。法術が数種類取得可能になっていた。全て頭に「兎の」が付いている。火、水、風、土・・・と基本的なものが並んでいた。まずは欲張らずに、一つだけ選択して取得する。使い勝手の確認もしないと、何とも言えないし。俺には向いていないかもしれないし。技能・兎の雷、取得。

 兎の癒しの上位技能が開放されていたので、それも取得。技能・兎の祝福。微量の解毒作用もあるらしい。後に確認したが、あくまで微量だった。

 そしてもう一つ。消費スキルポイントも50と思ったより少なく、Lvも存在しない地味な技能を取得した。これが地味な変化なのだが、実に生活の快適さが向上した。革命に近い。なぜこんなに消費ポイントが少ないのか疑問な程だ。ありがたい限りだが。技能・接触収納、取得。


 一覧を一通り確認し終わり、一覧を眺めながら次取得する技能の計画を算段し始めると、外に出ていたヤクモが帰ってきた。帰ってきたヤクモにとりあえず確認作業が終わった事を伝え、自分で調べ試し得た特異能力の情報を話した。

「特異能力は取得すると、姿形が変わる可能性のあるものも含まれてるから、取得する時は慎重に。」と、改めて伝える。


 その日はまたお互いの姿が闇に包まれ見えなくなるまで、こんな技能が欲しいとか、こんな技能があったら良いなとか、そんな話をした。話し相手のいる幸せを感じながら、心地よく眠りに就いた。


 この数日後、ある特異能力を取得する。それは俺の生き方を、特に戦い方を大きく変える事になる。そしてこの能力はこの世界で、まさに特異である事を俺は後に知る事になる。


ーー《特異能力・二足歩行を取得しました。》


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