三十一話
「【火山を喚ぶ地槌】!」
ラメオドンの背後に顕現している炎の巨人が雄斗に向かって槌を振り下ろす。
瞬時に伸び、そして大きくなる大槌。槌頭は広さ百メートルになり、しかもそこから火山の噴石を思わせる無数の炎の塊が向かってくる。
それに対し雄斗は左手に雷を圧縮して放出。拡散する虹色の雷撃はラメオドンの神威絶技を容赦なく削り、粉微塵にする。
「【千変万化なる病獣】ー!」
雄斗の背後を取ったロマノスが放つ神威絶技。弓矢から放たれた漆黒の矢が巨大な蛇竜に変わり向かってきた。
牙をむく大蛇を雄斗は雷撃を放って粉砕するが、バラバラになった大蛇の肉体は次の瞬間、狼や鳥、鼠、鹿などの動物に変わり全方位から雄斗に襲いかかる。
粉砕した大蛇もだが、変化して迫る黒の動物は病や死の塊だ。一匹でも接触すれば並の神でも無事では済まないほどの濃度だ。
しかし雄斗は先程同様、虹色の雷を放射状に発射。迫る動物の群を一匹残らず消し飛ばす。
「【逆族を討つ、星天の輝矢】!」
雄斗が反撃でラメオドンの左腕と足を切り落とし、ロマノスの胴を断った直後だ。頭上──天空から巨大な魔力を感じ、同時に重苦しい音が耳に響く。
見上げると視線の先には宇宙空間を背にして両腕を上げているイグナティオスの姿があった。そして彼の背後に見える無数の巨大な隕石が雄斗に向かって降りてきていた。
先日も見た、イグナティオスの神威絶技。地上に落ちれば小さな町は軽く消し飛ばす、また今の雄斗でも直撃を受ければ深い傷は追うであろう威力を秘めた隕石群。
それらに向けて雄斗は【雷刃】を振るう。数十メートルの雷の刃を雄斗はオーケストラの指揮者がごとく速く精密に振るい、迫っていた隕石群を全て両断。最後に落ちてきていた、ひときわ巨大な隕石は傍にいるイグナティオスごと切り裂く。
確実な手ごたえを感じて雄斗は小さく息をつき、しかし視界に映る──断たれた部分を押さえている──イグナティオス達を見て大きな息を吐く。
「しぶといなお前ら。まだ斃れないのか」
心底呆れた雄斗の言葉に【神雷を制する天空の連中は鬼の形相となる。
だが襲ってはこない。回復中な上、突っ込めば再び致命傷を負うことを理解しているからだ。
イグナティオス達と戦い、そして自分が後先考えないほど激怒し力任せな戦いをしていることに気が付いた雄斗は、すぐさま本来の戦い方に戻した。
力任せに戦っても負ける気はさらさらなかったが絶対というわけではない。また【戦欲王】との再戦──あるかどうかはわからないが──に備え、無駄な消耗をしないためだ。
そしてそれから何度も首や胴を断つなど、致死に至る傷を負わせているのだがいまだ健在。おそらくは三者の誰かによる神威絶技により条件付きで不死を得ているのだろう。
(とはいえこの様子を見るにそろそろ限界か、かけている神威絶技の効力が切れるのが近いのだろう)
三者とも先程まで致命傷を負っても構わず突っ込んできていた。
しかし今は殺意を向けてきてはいるが手は出してこない。怒りと屈辱の顔で雄斗の隙を伺っているように見える。
とはいえそんな彼らに律儀に付き合うつもりは雄斗には欠片も無い。今の彼らは敵ではあるが難敵でも強敵でもない。
ぶっちゃけ並の【異形王】と大差ない。これならまだカルロス一人の方が厄介だ。
(さっさと済ませるか)
そう思い雄斗が全身から雷を迸らせたその時だ、【神雷を制する天空】の三者が動く。
「おおおおおっ!」
何故か苦しそうな声を上げてラメオドンとロマノスが攻撃を放つ。向かってくる炎と閃光を雄斗は雷撃で迎撃しようとしたが、
「!?」
向かってきていた敵の攻撃が、虹色に輝いているのを見て止める。咄嗟に上に浮上してかわすが、さらに上空から巨大な魔力を感じ視線を向ける。
「はああっ!」
雄斗の頭上にいたイグナティオスが豪風を放つ。それも先程のラメオドン達の攻撃と同じく虹色の光を纏っていた。
今度はかわさず雄斗は雷撃を放つ。激突する虹色の風と雷撃はわずかに拮抗するも雷撃が押し切り、そのままイグナティオスに向かう。
しかし放った雷撃は今までのようにイグナティオスにダメージを与えない。彼が周囲に展開した虹色の風の防御壁が蹴散らしたからだ。
「これは……」
間違いなく雄斗と同じ【神殺士】の力だ。【神殺士】でもない彼らが使用するのはどういうことなのか。
そう思う雄斗に襲いかかるイグナティオス達。彼らが放つ攻撃は雄斗の神威と同じ虹色の光を帯びており、戦況が変わる。
今まで雄斗は彼らの神威や攻撃防御を虹色の雷で一方的に粉砕しダメージを与え、時折食らう攻撃も纏っている雷が大半は消滅させてくれていたため、ダメージはほぼ無かった。
しかし雄斗と同じ【神殺士】の力を行使し始めたイグナティオス達が放つ攻撃により絶対的と思っていた雄斗の攻守が撃ち落され、破られるようになった。
押され始める雄斗。しかし内心は酷く冷静に今の状況を見つめている。分析している。
(連中が行使する【神殺士】の力、俺ほどじゃないな)
戦い始めてすぐに雄斗はそれを察した。彼らが放つ虹色の攻撃は雄斗のそれより威力が弱い。
互いの神威が激突すれば、間違いなく雄斗の雷撃が相手の攻撃を粉砕し、防御を突破する。
また感じた異変はそれだけではない。一見雄斗を一方的に攻め立てているイグナティオス達だが、その表情は鬼気迫ると同時、切羽詰まっているようにも見える。
理由はわからないが、焦っているのだ。
「【鋼を溶砕する一つ目巨人】!」
「【光明を司る輝狼】!」
イグナティオスの強風により身動きを封じられた雄斗に向かってくる、虹色の炎で形成された一つ目巨人と牙をむいて飛び掛かってくる光の巨狼。
雄斗は纏っている雷を外に放出して束縛を解き、近くにいた一つ目巨人に接近。大上段から【叢雲】を振り下ろし、雷の斬撃が巨人を頭長から切り裂く。続いて背後から迫る光狼に雷撃を放って粉砕する。
「……。なるほど。どういう理屈かは知らないが、お前たちが使う【神殺士】の力はお前たちに多大な負担と消耗を強いるようだな」
「……!」
雄斗の言葉にイグナティオス達は目を見開き、そして歯ぎしりする。
イグナティオス達の様子は、先程と明らかに違っていた。感じられる魔力は異様なほどに消耗している上、発せられる精気も弱弱しい。
こちらを睨みつける顔は異様に痩せこけているし表情にも力がない。戦う前、輝くような美貌を見せていたロマノスは特に顕著だ。
どうやら彼らの虹色の煌きは、魔力だけではなく生命力も代償として発動しているようだ。
「しかし浅はかだな。同じ力を使えば俺に勝てると思うとは。
三人がかりで俺に押されているのは【神殺士】の力だけじゃない。単純にお前たち自身が弱いだけだ」
王位継承戦争より神を宿した彼らは強い。しかしその強さはあくまで神の魔力や権能に依存したものだ。
すなわち一人の戦士としての技量は大したことがない。神となったのと同時に手に入れられる【心眼】と【閃電の太刀】も鍛錬を積んでいないのか動きもお粗末。
現に今の戦いでも見えているはずの雄斗の攻撃を彼らはほとんど躱さず防御魔法や咄嗟の障壁で防ぐだけ。認識できていても体がついてこない状態なのだろう。
「弱いくせにしぶといお前たちの相手はいい加減面倒になった。──これで終わらせる」
【雲耀】を呼び出した鞘に納め、雄斗は言う。
莫大な雷を鞘と刀身に集めながら抜刀体勢を取る雄斗。大技を放つと言わんばかりの雄斗に対しイグナティオスたちは攻撃を放つが、雄斗は雷を放出してはそのことごとくを防ぎ、迎撃する。
そして充電を終えると、刀を抜き放つ。
「【閃鷹】」
鞘から抜き放たれた【雲耀】が放つ、空を覆いつくすような超巨大な雷の鷹。瞬く間にイグナティオスらに迫っては呑み込み、空に大爆発を生む。
【閃鷹】。つい先ほど思いついた、圧縮した雷を鞘と刀身両方に集め超広範囲に放出する神威絶技だ。
【天地万象に煌めけ、極雷の神刀】ほどではないが威力も高く、何より注目するところは周囲に広がる速度だ。【心眼】で察知していても完全に回避するのは難しい。
まして戦士としては未熟な彼らでは回避はおろか防御もまともに取れないだろう。そう雄斗が思っていると、爆発の中からズタボロの状態で姿を見せるラメオドンとロマノス。
両者とも完全に気を失っているのだろう。【神解】は解除されており神具も消失している。
落下している二人を捕まえるため雄斗は動こうとしたその時、突如吹いた風が彼らを宙に浮かせる。
(本当に、しぶといな)
嘆息して雄斗は視線を真下に向ける。
そこには気絶したラメオドンたちを浮かせた、無数の傷と火傷を負ったイグナティオスの姿があった。
「全く、これほどとはな。【神殺士】になったとはいえ我らをこうも圧倒するその強さ。認めてやろう」
気を失った仲間を浮かせながら言うイグナティオスに雄斗は冷めた目を向ける。
ボロボロな有様で何偉そうにしているんだか。そう思い今度こそ止めを刺すべく【雲耀】を構える。
「こうなったら、我も切り札を出すしかあるまいな」
そう言いイグナティオスは空間を開く。
するとそこから巨大な魔導人形──本島を囲んでいたそれと同じ大きさだ──が姿を現す。
槍を持つ半裸の逞しい男の形をした魔導人形から感じる膨大な魔力。しかしそれを見ても雄斗の表情は平静だ。
魔力は神クラスだが、今更【狂神】を宿した魔導人形一体参戦したところでどうということはない。今の自分なら余裕でイグナティオスたち共々屠れる。そう言う確信があるからだ。
そう思いながら全身に雷光を煌かせたとき、正面にいたイグナティオス達の姿が消える。そして魔導人形の瞳に光が灯る。その中から彼らの魔力が感じられる。
「ロボットよろしく、乗り込むタイプの魔導人形か……!」
そう雄斗が呟いたその時だ、突如魔導人形が放つ魔力が膨れ上がる。
そのあまりの巨大さに雄斗が目を見開いた直後、左手を雄斗に突き出す魔導人形。するとそこから極大の炎が放出される。
迫る巨大な炎から感じられる膨大な魔力、そして予想を超えた速度に雄斗はぎょっとし、思わず防御態勢を取る。
体を覆う虹色の守り。しかし全身を包み込む炎の勢いは凄まじく、体のあちこちを焼き焦がす。
続いて放たれる無数の閃光。こちらも極太だ。雄斗は閃電となってそれをかわすがいくつかは四肢を掠め、傷を負う。
「ち……!」
躱しながら攻撃に転じる雄斗。その巨体故死角は無数にある。
だが後ろに回り込んだ雄斗に今度は魔導人形の背部から突風が吹きつけられる。
雄斗は強引に突破しようとするが突風の強さが勝っており押し戻される。そして体勢を立て直したところに反転した魔導人形が槍を振るう。
【雲耀】を縦に受け流し、その場を離れる雄斗。両腕にしびれを感じながら心中で舌打ちする。
(この魔導人形、乗り込んだ神の権能、魔力を増幅するのか……!)
先程までイグナティオスたちの攻撃は雄斗にとって危険ではあったが脅威ではなかった。何せ容易に迎撃しては破壊できていたし、迎撃が間に合わないときも障壁を張れば防げていたし、当たったとしてもさしたるダメージもなかったからだ。
だが今は違う。防御をしてもその上からでも攻撃が通る。しかも魔導人形が保有する魔力はまだまだ大量にある。
(速めに倒さないとな)
【神殺士】となったことで雄斗の魔力の保有量はけた違いに上がったが、それも有限だ。
また今日は【異形王】にカルロスとも交戦している。霊薬を飲んで消費した魔力は回復したが、回復した分の魔力はとうに使い切っている。
このまま戦いが続けば、雄斗の方が魔力切れを起こすだろう。
「光栄に思え。本来この魔導人形はジョン達と戦う時に用意された物。
それを貴様一人に使ってやるのだからな」
「それを聞いて安心したぜ。それを破壊すれば俺の勝ちという訳だな。
ありがとうよ、そいつを使ってくれて。ようやく終わりが見えてきてすっきりした」
「……どこまでも減らず口を!」
怒りの声と共に放たれるイグナティオス達の攻撃。嵐のようなそれを雄斗は巧みにかわし、逸らしていく。
魔導人形からの攻撃は一つ一つが強力で威力も神威絶技並だ。だが動作は鈍く、攻撃前の挙動もわかりやすい。
魔導人形が放つ攻撃を雄斗は燕のように軽やかに空を舞いながらかわし、また死角に入って反撃する。
またそれと同時に力を貯めている。あの魔導人形ごとイグナティオス達を倒すための一撃を放つために。
(よし!)
魔導人形の周りを十周ぐらいして準備が整った雄斗は、魔導人形の正面に。そして全身に雷を纏い突撃する。
「消し飛ぶがいい!」
真正面から突撃する雄斗に、当然火力を集中するイグナティオス。
向かってくる強大な無数の炎や風、光を雄斗は最小限の動きで回避し、回避できないものは虹色の稲妻で打ち破る。
そして間合に入ると、雄斗は【雲耀】を大上段に構え、振り下ろした。
「【天斬雷剣】!」
「【偽りの王座を砕け。神聖の天裁】!」
激突する巨大な雷の斬撃と風と焔、光が複合した一撃。天地を震わせる二つの巨大な神威が蒼穹を埋め尽くす。
魔力の火花を散らしながら両者は拮抗するも、雄斗の剣戟が押し割る。神威の複合体を粉砕した雷の斬撃は魔導人形の右胸と右腕を切り裂いた。
「おのれ、おのれ! 鳴神雄斗ぉぉ!」
切り裂かれた部位から爆発が起こり、体勢を崩す魔導人形。そこから聞こえてくる心底激怒したイグナティオスの声を聞きながら雄斗は突撃。
【天斬雷剣】をもう一発撃てるだけの力はまだある。今度こそ頭長から切り裂き止めを──。そう思いながら近づこうとした時だ、ピキリという音を聞く。
「……!」
視線を向けて雄斗は大きく目を見開く。【雲耀】の刃に無数の亀裂が走っていたのだ。
敵から目を離したその一瞬、魔導人形より放たれる無数の閃撃。反射的に雄斗はかわすが、その余波で【雲耀】の刀身が砕け散ってしまった。
次回更新は1月17日 夜7時です。




