三十話
「貴様」
「うるさい」
城内に降り立った雄斗はまず、目の前にいるイグナティオスに向けて雷を放つ。
周囲に各世界の重鎮がいるのを見たので放つ雷は小さく、しかしその分魔力を凝縮した一撃を。
独鈷ほどの大きさの雷光をイグナティオスは受け止めるがその重さに耐えきれず後方に吹き飛ぶ。
それを見て雄斗はすぐに後ろを振り返る。そして消耗している者の無事なルカ、続いてマリアを見て、
「……マリア!」
左わき腹を削り取られ、多大な出血をしているマリアを見て血相を変える。
「マリア、おい、大丈夫か!」
「雄斗、くん。無事、だったんだ……」
「俺のことはいい! つーか、お前が無事じゃないだろうが!
待ってろ、今霊薬を」
「雄斗さん、後ろです!」
雪菜の声が聞こえると同時、雄斗は背後に障壁を展開する。
一瞬で貼られた虹色の障壁。それと巨大な炎と風、光の攻撃が激突。けたたましい音と共に相殺する。
「【神雷を制する天空】の関係者はお前ら三人か」
神具を手にしたラメオドンと彫刻を思わせる超絶美形の男──当代のアポロン。そして先程吹き飛ばしたイグナティオスを見て、雄斗は言う。
「これは驚きだ。まさか【タルタロス】に落ちて数日経過したというのに五体満足で戻ってくるとは」
「彼があの【戦帝】と戦い首を落とした……。なるほど、今の雷といい、確かにそれが可能な強さはあるようですね」
「しかも虹色の雷とは……。やれやれ、ゼノンの奴はどこまでも余計な真似しかしないものだ」
軽口を吐く三名だが、それとは裏腹にこちらに凄絶な殺意を向けていた。
しかし雄斗は意に介さず、
「悪いが今はマリアの治療が最優先だ。お前らの相手は後でしてやるから待っていろ」
三人に背を向けて雄斗はマリアの様子を伺う。
体調も悪そうだがそれ以上に腹部の傷が酷く出血量も多い。意識も朦朧としているようだ。
後ろの雑魚よりも、今は目の前のマリアの方が優先だ。
「……仕方ない」
かすかな躊躇の後、雄斗は最後の霊薬を手にする。
そしてマリアを抱き起し霊薬を口に含み、彼女の唇に口付けた。
「はあっ!?」
素っ頓狂な声をルカが上げるが気にせず雄斗はマリアの体に霊薬を流し込む。
数十秒ほど唇を合わせた後、血色の悪かったマリアの肌色が元の薔薇色になり、腹部の出血も止まる。
ぐったりとしていた体にも活力が満ちてきたのを感じ、顔を離す。
「ゆ、ゆ、雄斗君……」
マリアは意識もはっきりしており顔を赤くしている。
雄斗は彼女のように恥ずかしいのを表に出さないよう奥歯を嚙み、ゆっくりと言う。
「後は俺がやる。ルカ王子を、守っておけ」
抱えていたマリアの体を離し、雄斗は後ろを振り返る。
そして悠然とした態度で殺意と敵意を放つイグナティオス達に声をかけた。
「意外だな。てっきりまた余計な茶々を入れてくると思っていたんだが」
「何、貴様の大胆な行動に驚き、呆れていたのと、最後の逢瀬を邪魔しないよう気を使っただけだ」
「治療行為だ馬鹿。あの状態じゃ霊薬を飲めなさそうだったからな」
鼻を鳴らして雄斗は言い、ジョンの方に振り向く。
「ゼウス様。とりあえずこいつら始末しても問題ないですよね?」
「え? あ、いや」
「生かしておくんですか? それはちょっと難しいんですけど」
正直に手加減ができそうにないこと──いや、しなさそうなことを伝える。
「鳴神雄斗。私たち三柱を相手取るという言、自惚れが過ぎるぞ」
「いかに君が【神殺士】になったとはいえ、なり立ての君に倒されるほど私たちは弱くは」
「うるせぇ」
押さえていた魔力を解き放ち、雄斗はイグナティオス達の戯言を遮る。
会場内部を突き破りそうな巨大で濃密な虹色の雷が放たれ、それが部屋の中にいる世界会議の参加者に接触しないよう抑える。
(おかしいな。制御が上手く効かない)
瞬時にこちらを警戒するイグナティオス達を見ながら雄斗は内心で首をかしげる。威圧する程度に雷を発生させたつもりなのだが。
数日の訓練とジルメルとの戦いでほぼ完璧に制御できるようになったと思っていたのだがどうしたことだろう、最初より酷くなっているような。
そう思う一方、なぜか焦りはない。落ち着いている──というよりも心の隅まで澄み切っている、と言うべきだろうか。
心中の疑問と表に出さず、雄斗は言う。
「できるできないじゃないんだよ。お前らの相手は俺がするって言っているんだ。
──で、ゼウス様。決められないようなら始末しますがよろしいですね」
雄斗は眼差しを少し細くし、始末させろ始末させろと念を送る。
ジョンは一瞬、困ったように眦を下げるが、すぐに表情を引き締めこう返してきた。
「……イグナティオスは生かしておいてくれ。ただし出来たらの話だ」
「わかりました」
少しは念が通じたのか。そう思いながら雄斗はイグナティオス達に向けて雷を放つ。
不意を打った攻撃だが腐っても数十年もの間、神を継承してきた者たち。イグナティオスが発生させたどこかの空に通じている門に三人は飛び込む。
そして雄斗も即座にそこへ入る。門を通った先にあったのは果ての無い蒼穹だ。全方位を見渡すと足元にリトボス本島が見える。どうやら遥か空の上に転移したようだ。
背後の門が閉まるが気にせず、イグナティオス達と対峙する。
「なるほど。言うだけのことはあるということですか。成り立てと侮っていいては、やられますね」
「そのようだ。この巨大な魔力と圧。もはや以前とは別人だ。気は抜けんな」
先程まであった油断が一切無くなっている三名。
油断なく雄斗を見据え、爆発寸前の爆弾のように殺意を魔力を迸らせる。
「貴様はここで、確実に仕留めておかなければな」
「俺も同意見だイグナティオス。
今日の今、ここで、お前たちを始末し、【神雷を制する天空】を潰す」
「やれるものならやってみるがいい!」
激昂するイグナティオス。同時に眼前の三柱は空に巨大な魔力を放出する。
赤。黄金。藍色。それら三色の魔力光が澄んだ蒼穹に広がり塗りつぶす。
「【神解】か」
姿と神具を変化させた彼らを見て雄斗は呟く。
ラメオドンは赤熱色の全身鎧を身にまとい、背後には巨大な槌を持つ十メートルはある巨人を出現させている。
ロマノスは黄金に輝く軽鎧と弓矢。そして多種多様な猛禽を従えている。
そしてイグナティオス。彼は鎧とその手に槍を握っているだけと言う、先程とさほどの変化はない。
しかし放たれる圧と感じる力は三人の中でも際立っている。流石は【神雷を制する天空】の盟主であり、かつてジョンと互角の勝負をしたという【オリュンポス】の神々の中でもトップクラスの実力者というべきだ。
「それじゃあ俺も、全力を出すとするか」
眼前の三柱はグラディウスを除けば今までで一番の脅威だ。しかしそんな彼らと相対しても雄斗は負ける気は微塵もしない。
自身を【タルタロス】に落とした元凶が目の前にいるのに、まるで凪の如く平静の己の心。だというのに彼らへの戦意と殺意も内にはある。
言うなれば氷と焔が並んでいるのにどちらにも変化がない。かつてないほど奇妙な状態だ。
他人事のように思いながら雄斗も魔力を開放する。虹色の雷は瞬く間に周囲に広がり、彼らが放つオーラを容易に凌駕する大きさとなる。
それを見て目を丸くしたイグナティオス達へ、雄斗は【雲耀】を手に突撃する。数十メートルの間合いを一瞬よりも早く詰め、ロマノスの首に斬撃を放つ。
【雲耀】の刃が首に触れるまであと数センチと言うところで気づくロマノス。首周りに魔力を集中させ同時に防御魔法を発動させるが、虹色の雷を宿す斬撃はそれらを容易に切り裂き、彼の首を落とす。
「な──」
驚きの声を発しかけたラメオドンに雄斗は左手を向け雷を放つ。
頭を吹き飛ばすつもりで放ったそれは彼とその背後にいる巨人を呑み込んだ。放ってから気付いたが今の雷、【|神威を貫く覇雷(エクスプグナティオ・アートレータ・トニトルス)】だ。
「貴様!」
攻撃態勢に入ろうとするイグナティオスだがそれより早く雄斗反転して剣を振るう。
鳴神流雷刀術三之剣、雷鳥爪。しかし放たれたのは小さな猛禽ではなく、空の王者を思わせる横幅十メートルはありそうな怪鳥だ。
イグナティオスは表情を引きつらせ、雄斗の頭上に転移する。再び放つ雷鳥爪。しかしまたしてもイグナティオスは転移、今度は背後に移動する。
同じような攻防が二度繰り返される。そして直後、体を修復しながら戦線に復帰したラメオドンとロマノスが巨大な炎砲と数百もの光の矢をこちらに放つ。
【心眼】でそれを捕らえ、何らかの神威絶技であることはわかっていた。だが雄斗はそれらにただ無造作に雷を放って撃墜し、そのまま雷は止まらず攻撃したラメオドンたちに激突、爆発する。
そして眼下に驚愕しているイグナティオスに鳴神流雷刀術一之剣、雷斬を放つ。雷鳥爪より遅いが大きい、空を両断するが如き虹色の斬撃がイグナティオスを呑み込む。
「やっぱり、おかしいな……」
警戒を緩めず雄斗は首を傾げる。一連の過剰ともいえる攻撃。自分らしくない。いつもなら無駄を省くため最小の攻撃と行動をしているのに。
【神殺士】となって宿った膨大な魔力に溺れているとも思えない。だが今の挙動や攻撃は明らかに強引な力押しだ。
心はどこまでも冷静なのに。これではまるで怒りに任せているようだ。
「まだ生きてやがるのか。ゴミどもが」
【心眼】でイグナティオス達の姿を確認し、自然と雄斗の口から出た言葉。その氷のような声音と汚さにはっとする。
今のもらしくない行動だ。戦闘中、極力無駄口を叩かないのが雄斗のスタイルだというのに。だが、それで雄斗は自分の異変に気が付く。
犯罪者とはいえ【オリュンポス】の重要参考人である彼らを始末しようとしていた自分。ジョンから頼まれたことも頭の中からすっぽりと抜けていたこと。
そして今、敵とはいえ、彼らが生きていることを心の底から忌々しく思ったこと。
「俺は、怒っているのか。ただ怒りのブレーキが利かない状態と言うだけか」
怒髪天しその怒りを保つと同時、どこまでも冷静に、一切の容赦も情けもなく剣を振るっている。
キレた、と言う状態ではない。そんなものはとうに取り越している。
人は本当に怒った時、酷く冷淡になると聞いたことがあるが、まさにそんな状態なのだろう。
「どうしてここまで怒っているのか……。ああ、そうか」
イグナティオス達の無数の攻撃──神威絶技も含む──を周囲に放つ雷で蹴散らし、反撃でイグナティオスたちを圧倒しながら雄斗は考え、すぐに気づく。
脳裏に浮かんだ、王城に突入した時に見たマリアの姿。そして捕らわれている雪菜たち。あれが理由だ。
しかし不可解ではある。今までも彼女の似たような姿は見たことはあるがこのような状態にはならなかったのだが──
「もしかして、俺は思っている以上にあいつらのことが好きなのか?」
剣を振るい、雷を放ちながら、雄斗は小さい声で呟くのだった。
◆
「おー成り立ての割にやるな鳴神は」
「ええ。最初こそ力任せで隙も多かったですけど、本来の戦い方になった今は圧倒していますね」
「鳴神雄斗に足りなかったものは膨大な魔力に魔力制御能力。後者は数ヵ月前の【高天原】と比べればかなりマシになっている。
及第点は上げてもいかもしれん」
「そうなのか? あれでギリギリ合格点を上げると頼光は評価が甘いな。我が【アヴェスター】なら不合格だぞ」
荒れ果てたパーティ会場。その隅にいる雪菜の横に頼光にエドガー、そしてラフシャーンのお三方の姿がある。
雄斗たちが戦い始めたその直後、シンシアとゼウス様は会場内にいた【オリュンポス】の神々や兵士たちに城下の被害を調べることを厳命。また会場内にいた同盟世界の神々や神具、神財保持者もリトボスの民を助けるのを申し出て、彼らと共にロマノスの病に苦しむ人たちの元に向かっていた。
イグナティオスはアポロンの神威絶技はアポロンを殺すか解除させるかと言っていたが、実際はマリアのような治癒の権能を持つ神や神具、神財持ちで十分に対処できた。
そしてそのマリアは雄斗と口づけ──否、霊薬を飲まされて回復したマリアもそれに加わっているためここに姿はない。シンシアは民を救うために動いている父やオグマに代わり次々と周りに集まる通信用魔法陣から報告を聞いては指示を出していた。
自己治癒能力とマリアの治癒により回復した雪菜はアイシャと共に会場に残っている。【神雷を制する天空】により再襲撃を迎撃するために。
テロの首謀者である【神雷を制する天空】のトップは今、雄斗が戦っているためその可能性は非常に低い。しかしクーデターに失敗した現在たことを知った残存戦力、また先程駆け付けたベオウルフやヴィルヘルミナに報告にあった【欲望の輩】の幹部である【五欲王】が再襲撃してこないとも限らない。それを考慮してのことだ。
そして【高天原】に【アヴェスター】、【アルゴナウタエ】のトップの護衛として雪菜とアイシャは彼らの傍にいるのだが、実際、それどころではなかった。
何故ならマリアもアイシャも、眼前に映し出されている雄斗と【神雷を制する天空】の盟主と幹部達との戦いに目を奪われていたからだ。
「……凄い」
「ええ。そして強いわね。相手は二十数年もの間、神を継承していた歴戦の強者。
そんな彼らを相手取っているのに圧倒している。いえ、圧倒と言う表現すら生ぬるいわね。
──蹂躙、と言った方がいいかしら」
アイシャの言葉に雪菜はただ頷く。言われてみればそのようにしか見えなくなったからだ。
最初こそエドガーの言う通り力任せ魔力任せに戦っていた雄斗だが、途中から本来の戦闘スタイルとなる。
そうなってからはもう一方的だった。放つ攻撃はほぼ全て相手を吹き飛ばしダメージを与え、イグナティオス達からの反撃は剣や雷で悉く迎撃、撃墜しているのだ。
当然だがイグナティオス達は決して弱くはない。莫大な炎と武具を生み出して放つラメオドン。眷属である数百もの鳥類を呼び出し、自身と彼らが光や漆黒──病の塊──を雄斗に浴びせかけるロマノス。
そして戦場を自在に転移しながら風や隕石で攻撃してくるイグナティオス。幹部二人はマリア以上、アイシャ未満。そして盟主たるイグナティオスはもしかしたらエドガー様に匹敵するかもしれない。
しかし【神殺士】となった雄斗と彼が放つ雷は、彼らの攻撃のことごとく撃墜し切り裂いている。または放つ攻撃は確実に彼らへのダメージを与え、追いつめている。
「内に秘めている魔力を外に放出。雷とすることで手足の如く自在に操り、放たれる攻撃のことごとくを切り裂く……」
「仮に撃墜出来なくても肉体には放出されている以上の雷があり、接触と同時にそれらを粉砕する。──新たな神威絶技かしら」
「かもしれません。──でもこれほどまでに【神雷を制する天空】の人たちの攻撃をものともしないなんて」
「流石は【神殺士】と言うべきね」
【神殺士】。それは伝承や神話であるような神を殺めた者の呼び名。そんな彼らは例外なく強大な力と、神に対する圧倒的優勢を誇る。
神と【神殺士】が戦えば、ほぼ確実に【神殺士】が勝つとまで言われている。理由はいくつもあるが最大の理由は彼らが【覇神力】を持っているからだ。
【覇神力】。覇──力によって神を打倒した者が発現させる力であり、それは使用者が行使する権能や神威を虹色に輝かせる。
そして【覇神力】により振るわれる【神殺士】の神威は、神に対し多大なダメージを与え、また神が放つ権能や神威を容易に粉砕してしまう。いうなれば神々特効と言うべき特性を持つ。
もちろん魔力や神々の神威で【覇神力】を打ち破ることはできる。だがその場合、【神殺士】が放つ力を一とする【覇神力】に対し、魔力や神威はその十倍から数十倍の量を必要とすると言われている。
「なり立ての鳴神に対し、相手は歴戦の神々三柱。
さすがに互角の勝負になるかと思っていたが、杞憂だったな」
「しかし新たな【神殺士】の誕生。しかもそれが今各多元世界で注目されている鳴神雄斗とは。
……これから大変だな、エドガー」
「そうですね。ですが私以上に雄斗君が大変でしょうな。
【アルゴナウタエ】に所属する新たな【神殺士】。【ムンドゥス】は今まで以上に騒ぐでしょうし、さして興味を示していなかった他世界も注目してくるでしょう」
「そうだな。──ところでだ、エドガー。少し相談があるんだが」
「奇遇だなラフシャーン。私もエドガー殿に話すことがある」
「……向こうで話しましょうか」
そう言って何故か雪菜たちから距離を置く頼光達。聞かれたくないのか防音の魔術まで行使する。
それを見て雪菜が首を傾げた時だった、祖父と同じくしゃがれた、しかし柔らかい声が聞こえてきた。
「ふむ。鳴神君は頑張っておるようじゃな」
聞こえてきた声にはっとなって振り向く。
するといつの間にかそこには城下に行っているはずのヴィハーンの姿があった。
「お爺様。城下の人たちは」
「心配いらぬ。民たち自身の頑張りとジョン君たちが迅速に動いたこともあって今のところ死傷者は出ておらん。
意識不明者はそこそこいるようじゃが、それも大事無いと聞いておる」
訪ねてくる孫娘へ長い白髭をさすりながらヴィハーンは言う。
そして雄斗の戦う様を見て、呟く。
「流石【神殺士】。成り立てとはいえ、強いのう」
「ええ。わかってはいたけどあたしの予想を超える強さよ。
我が【ヴェーダ】でも彼に拮抗する神は五柱いるかいないかってところかしら」
「そうさのう。確実に倒せるとすればヴィシュヌの小僧ぐらいじゃろうて。他の者たちは互角……が関の山と言ったところじゃろうな。
──さて、儂もエドガー君と話すとするかの」
「お爺様? 何か用事でもできたの?」
目を丸くするアイシャ。
ヴィハーンはそんな孫娘の方を振り向き、
「できたとも。とても大切な、用事がの」
イグナティオス達を圧倒する雄斗を背に厳かに言い、エドガーたちの元に歩いていく。
それを見て雪菜は眉根を潜め、アイシャを見る。彼女も自分と同じ、不可解な表情だ。
先程と違い、今は厳めしい顔をする状況ではないだろうに。一体どうしたのだろう。
「アイシャさん。ヴィハーンさんは、どうされたんでしょうか」
「悪いけどあたしにもわからないわ。──だから考えるのはやめにしましょう」
そう言うアイシャに雪菜は冷たい目を向ける。
しかし彼女は笑みを浮かべて雪菜の方を振り向く。
「ところで雪菜。よかったわね」
「何がですか?」
「雄斗が生きていたことがよ」
アイシャの言葉に雪菜は目を見開く。そして目じりにジワリと涙が浮かぶ。
彼女に言われ、雪菜はあらためて実感する。雄斗が生きていることを。──また自分を助けてくれたことを。
「はい。……本当に、よかったです」
目じりに浮かんだ涙をぬぐい、雪菜は微笑む。
そしてアイシャと共に雄斗が戦う様に目を向けるのだった。
次回更新は1月13日 夜7時です。




