二十一話
「俺が神殺し、【神殺士】になっただと……? どういうことだ」
「? 俺が知るかよ。タルタロスに落ちてくる前、神と戦って倒したんだろう?
随分ボロボロだったから、相当な相手だったんだろうな」
グラディウスの言葉を聞いて脳裏に浮かぶゼノンの姿。
「ま、とにかく戻ろうぜ。
ここにいると戦いの匂いを察知した雑魚たちが際限なくやってくるからな」
グラディウスはそう言い、漆黒の渦を出現させ、中に入っていく。
雄斗は元来た道を戻ろうとしたが渦の中から「さっさと入ってこい」と声をかけられ、やむなく中に入る。
渦を通過すると先程いた建物の中に出る。そして手招きするグラディウスの正面に静かに腰を下ろす。
「しかしまぁ正直お前が神殺しになったのを見た時は流石に驚いたぞ。
神殺し自体、なろうとしてなれるもんじゃないからな」
「……」
彼の言う通りだ。神と違い【神殺士】と呼ばれる存在はこの半世紀でもめったに出現していない。
【神殺士】とは文字通り、神を殺めた士のことだ。そして【神殺士】になる方法は、実のところ単純明快だ。神を殺し神器を破壊すること。それだけ。
だがそれが非常に難易度が高い。神を殺すこともだが、神器を壊すことはそれ以上の困難さなのだ。何せ大陸が消し飛ぶ規模の破壊でも壊れないほどなのだから。
それを証明するように数多の多元世界の長い、二千年を超える歴史の中でも【神殺士】と呼ばれたものは百人にも満たない。
現代でも確認されているのは【アルゴナウタエ】のディアボロを含めて十名もいないのだ。
「俺は本当に【神殺士】になったんだろうか……」
「疑うのであれば体の中にある倒した神の神器と話して見ろよ。
やり方は神具、神財の対話と同じ要領でできるはずだ」
言われた通り雄斗は意識を飛ばす。
漆黒の闇の中──【対話の場】にやってきた雄斗。自分以外誰もいないが少しして雄斗の眼の前に切っ先を下に向けた直剣が現れる。
(これがアレス神の神器か)
内に秘めている巨大な魔力を感じ、雄斗は悟る。
そしてその剣が音もなく人の姿に代わる。三十代半ばあたりの逞しい戦士の姿に。
「あなたは……」
「我が名はアレス。主に屈服させられた神よ」
「もしかして初代アレス神ですか」
目の前の男性に雄斗は問う。
自分やアレスとは違う、歴戦の戦士という雰囲気のを放っている男。しかし彼は首を横に振る。
「否。我は神器に宿りし歴代のアレス神の一柱。
本来なら先代が姿を見せ汝と意思疎通を図るのだが何故か現れないので我がこうして姿を見せたという訳だ」
やれやれと言うように首を振る過去のアレス神。
「屈服……。俺がゼノンを殺したことですか」
「然り。貴殿は当代のアレスを殺め、そして我らが宿りし神器を破壊し、その身に取り込んだ。
故に神殺しとなったのだ」
「……」
「とはいえここまでスムーズに神器移譲が行われたのは当代がお主を認めたからであろう」
「ゼノンに認められた、ですか?」
思わず疑問の声を発する雄斗。一体何がどうしてあの男が死の間際、自分を認めたのかさっぱりわからないのだ。
「うむ。当代はお主を──」
その先を続けようとした過去のアレス神の姿が突然変化する。
飴細工のように溶けた、姿が見慣れた人に変わる。
「全く。自分の事なのにわざわざ聞きに来るとは。鈍いにもほどがあるな」
「ゼノン……! お前無事だったのか?」
「アホ。んなわけあるか。さっき過去のアレス神も言っていたが、今の俺は神器に記録されている俺だ。いわばコピーだな。
本体、オリジナルの俺はとっくに死んでいる。といってもコピーの俺には死の間際までの記憶はあるが」
不承不承というような態度のゼノン。
「お前が俺を認めたのか。……お前を殺めた俺を」
「何言ってんだお前。当然だろうが。
お前は、お前とシンシアは俺に打ち勝ち、そしてお前は暴走していた俺を止めた。認めない理由がねぇぞ。
俺を殺したことを悔やんでいるのなら気にする必要はねぇ。俺がお前に倒されたのは戦った結果であり、俺が望んだことだ。そのことに対して後悔する必要は、無い」
「……」
「フン、納得してねぇってツラだな。
まぁいい。お前がどう思おうがお前は【神殺士】になり俺の、いやアレス神の神器に蓄えられていた魔力を全てモノにした。
目が覚めた後、改めて自分の変化を確認しろよ」
「お、おい待てよ! まだ聞きたいことが」
背を向けるゼノンに呼び掛けるが彼はそれ以上応じようとせず姿を消す。
暗闇の中、幾度かゼノンや先程のアレス神を喚ぶも応答はない。やむなく意識を戻す。
「どうだった?」
「変化は己で確かめろだとさ」
「はははっ。じゃあ早速そうしてみたらどうだ。俺で良ければ付き合うぞ?」
うきうきとしているグラディウスを無視して雄斗は外に出る。
眼前の【異形王】は生粋の戦闘狂。何かのスイッチが入り気分を乗らせてしまえばとんでもないことになる。
そして街の外で改めて自分の体を調べ、驚く。
「どうなっているんだこれは……」
内に秘めている魔力の量が以前とは比較にならない。【万雷の閃刀】という補助バッテリーがあった時よりもだ。
ぶっちゃけ今の状態でも【掌握】した時の十倍以上はあるのではないだろうか。
「……稲妻よ」
空に手を向けて呟く。
人一人をしびれさせるような小さい稲妻を発生させるイメージでやったのだが、掌から溢れ出した稲妻は巨柱のような巨大な雷光だ。
「驚くだろ。自分の変わりように。
神殺しとなったものはあらゆる面が神器より溢れる魔力により強化するためけた違いに跳ね上がる。
魔力の量や放出量はもちろん、戦士としても」
そう言うのはいつの間にか近くに腰を下ろしていたグラディウスだ。そして手元に黒刀を出現させ、雄斗に斬りかかってきた。
ぎょっと驚く雄斗だが手元に【雲耀】を呼び寄せ、受ける。そして繰り出される剣技に押されながら、眉を潜める。
(グラディウスの剣技、こんなに遅かったか?)
先日戦った時は受けて反撃するのが精一杯だった。だが今なら攻勢に出ることもできるのでは。
そう思っているとグラディウスは下がり黒刀を消して、言う。
「この間のお前なら余裕で切り伏せられるレベルのものだったんだがな。神器をねじ伏せたことで潜在能力も解放されているのさ。
知っているとは思うが神器は非常に強固だ。大陸が消し飛ぶレベルの破壊に巻き込まれても無事だし、俺たちや神殺しでもないかぎり破損させるのも難しい。
ただごく一部の神具、神財使いや神の神威絶技の中にはまれに、神の放つ異能を消し飛ばすような神器特攻というべき絶技がある。
それで砕かれた神器は──理由は俺も知らないが──砕いた相手の体に宿るのさ。戦に敗北した将が敵に降伏するようにな」
言われて雄斗ははっとする。神威絶技、神器特攻の神威絶技なら覚えがある。
(【剣躰】、【閃煌剣】……)
神や【異形王】クラスの放つ超常現象を切り裂く絶技。そしてゼノンを殺めた時、雄斗は確実に彼を止めるために【閃煌剣】を発動させていた──
確かに彼の心臓を貫いたとき、何か硬いものを壊す感触はあった。
てっきり【凶獣の魔牙】だけかと思っていたが、【閃煌剣】を宿していた【万雷の閃刀】の刀身はアレス神の神器を貫いていたのだろう。
「でもまぁ変化にはすぐに慣れる。お前はタルタロスから脱出するために空洞をうろついている俺の同胞たちと戦わなくてはいけないわけだしな。
実にラッキーだぞ。実戦は何物にも勝る鍛錬だ。神殺しとしての力や変化に慣れるのにちょうどいい」
そう言ってグラディウスは何かを雄斗の方に投げてくる。
それを受け取り見ると、掌の中にあったのは細かく折りたたまれたA4サイズの紙だ。開き中を見ると空洞内部の地図が記されていた。
出口と思わしきところにアルファベットのA、B、Cが記されている。見たところCが一番近い様に思い視線を向けたその時だ、
「一番近い出口はCコース。お前が落ちてきた穴だ。空洞に出て右に、順調に進めれば四半時もかからず着く。
だがさっきも言ったが空洞内には俺の同胞たちがうろついている。特に近場のその周辺にはタルタロスで生まれた【異形王】クラスがうようよいるからな」
こちらの考えを見透かすようなグラディウスの口調に、思わず雄斗は眉を潜める。
先程戦った【異形種】でさえ難物だった。【異形王】ともなればさらに強敵だろう。
そしてそんな強敵たちと戦いながら【タルタロス】内に吹く風にも対処しなければいけない──
雄斗はひとまず、|最短の出口(Cコース)から目を離し、改めて地図全体に目を配る。
他の出口に通じる道。アリの巣を複雑化したような、無数の細い道と空洞が記されている地図。
「一番安全なコースはAコースだ。さっきお前が倒した雑魚がうろついているが今の時期だと数は少ないからな。
ま、出口としてはここから一番距離が離れているしまっとうに進んでも一週間はかかるだろう。
Bコースは数日で到着する距離だ。最近は同胞の数も多くはない。だがまぁ、そう言った場合は決まって強力な同胞が居座っている場合が多いけどな。
──さて雄斗。お前はどの道を選ぶのかな?」
グラディウスの愉しそうな、そしてこちらを揶揄するような言葉を聞き、思わず雄斗は顔をしかめるのだった。
次回更新は12月13日 夜7時です。




