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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
四章 雷刃、新生
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十九話






 【万雷ばんらい閃刀せんとう】がゼノンの心臓を貫いたのと同時、彼の体中の穴という穴から血飛沫が噴き出す。

 そして体を覆っていた炎も、火傷するような覇気も消え失せる。


「手応え、有り」


 そう呟いて雄斗は【万雷の閃刀】を引き抜く。

 両手には心臓の他に硬いものを貫通し、破壊した感触がある。【凶獣の魔牙トゥレラ・オドス】だろう。

 地面に大の字で倒れたゼノンを見る。すると胸元に何か光を反射するものがある。


「……?」


 ボロボロの上着の間にあったそれはロケットだ。

 ゼノンの放つ超高熱にも形を変えていないそれを開き、入っているものを見て雄斗は大きく目を見開く。

 それは三人の男女が映っている写真だ。中央には王様のような恰好をしているのに、子供のような無邪気な笑顔を見せて両側にいる二人の方に手を置いているゼウス。左には嬉しそうに微笑んでいるシンシアと右には正装をしているが不機嫌と照れくささが混じっているような顔のゼノン。


「……っ!」


 雄斗は歯を食いしばりロケットを閉じる。

 シンシアと彼の間に何があったのか詳しくは知らない。だが彼女とゼウス、そしてゼノンがかつては肩を並べあい笑いあうような間柄ということだけはわかった。それだけで十分すぎた。


「後で謝らないとな……」


 またしてもシンシアから親しい人を奪ってしまった罪悪感を抱きながら雄斗がゼノンの亡骸に手を伸ばした時だ、ズンという音と共に雄斗の体が揺れる。


「な……?」


 何だと呟こうとしたが声が出ない。代わりに口からは血を吐き出て、腹部には灼熱のような激痛がある。


「散々手をかけたというのに敵一人殺せないとは。最後の最後まで使えない奴だったな」


 膝をついていた雄斗は聞こえた声に顔を上げる。

 すると正面に先程までテオドロス達と戦っていたはずの、イグナティオスの姿があった。


「イグナティオス……! テオドロス達は、どうした……!?」

「さぁな。【アルゴナウタエ】の連中共々邪魔だったのでまとめて蹴散らした。

 ──さて、そろそろ私は退散させてもらおう。近々に大事な、やらなければいけないことがあるのでな」


 そう言うイグナティオスの背後の空間が歪み、出現する空中戦艦。

 いつの間にかどこかに移動したようだが、今呼び寄せたようだ。


「とはいえ鳴神雄斗、貴様にはこの二日散々に邪魔をされた。流石に面白くはない。せめて貴様という素材を手に入れておこうと思う。

 あの【戦帝】と戦い生き残った戦士の体だ。ラメオドンは狂喜して弄繰り回すだろう」


 嗜虐に満ちた笑みを浮かべイグナティオスが手をこちらに向けた時だ、背後から凄まじい破壊音が聞こえる。

 そして水の龍などいくつかの攻撃がイグナティオスに殺到するが、彼は軽やかにかわして視線を雄斗からその背後に映す。


「ほう、生きていたのか」


 直後、雄斗の正面に降り立つ三つの背中。テオドロスとシンジ、マリアのものだ。


「雄斗さん! 酷い怪我……!」

「結構深いわね。出血も酷い。雄斗、動かないでじっとしていて」

「雪菜、ヴィルヘルミナ……」


 雄斗の傍に寄ってくる二人。

 そして眼前ではテオドロスたちとイグナティオスとの戦いが再開される。

 傷つき、消耗しているが見事なコンビネーション攻撃を繰り出すテオドロスとシンジ。

 マリアも巧みに動き彼らのサポートやフォローに立ち回るが、


「まだわからんか。貴様たちでは私にかなわないと」


 イグナティオスは攻撃が当たる瞬間、三者の死角に転移。

 豪風がマリアを吹き飛ばし、彼の鎧から飛び出す無数の石礫がテオドロス達を打ちのめす。

 また何かの神威絶技なのか、唐突にテオドロス達はあらぬ方向に転移し、その背後から攻撃を受けてしまう。


「【天空門ウラヌス・ピリ】と【虚空は我が盤面コーロス・パラミ】の弱点を見抜いたのは流石だが、私がその気になれば弱点そのものを消すことは容易だ。

 おまけに【逆族を討つ、星天の正輝】を受けた今の状態では勝負にならん。その程度の事すらわからないほど愚かとはな」


 三者が同時に放った強力な攻撃。しかしそれもイグナティオスの周囲に出現した門に吸い込まれ、それらは攻撃を放った三者に放出される。

 ギリギリ回避する彼らだがその動きには精彩がなく表情にも疲労の色が濃い。


「さてと。あまり時間をかけていると他の十二神がやってくる可能性もある。

 さっさと鳴神雄斗を連れ帰るのでお前たちには消えてもらおう」


 イグナティオスがそう言った直後だ。彼の背後に宇宙空間が出現し、そこから無数の光──いや隕石がこちらに向けて飛んでくる。

 

「【逆族を討つエラトマ・アス星天の輝矢テール・ヴェロス】……!?」

「言ったはずだ。【逆族を討つ、星天の正輝】はその気になればいつでも発動できると。

 あの空間限定とでも思っていたのか?」


 戦慄した雪菜の声。雄斗の治療を続けているヴィルヘルミナも表情を引きつらせている。

 雄斗も防御壁を展開しようとしたがそれより早く雪菜とヴィルヘルミナが前に出て造り出す。

 降り注ぐ隕石群に聞こえてくる破壊音と仲間たちの声。腹部の傷と今までの戦いによる疲労でまともに動けない雄斗はただただそれを聞くばかりだ。

 時間にして数十秒が経過した後、攻撃はやむ。そして自分を庇うように立っていた二人はがくっと力が抜けた様子で腰を落とす。

 そしてその奥、戦っていたマリアたちは全員無事だった。だが誰もがボロボロでありもはやまともに戦える状態ではない。

 こちらを見下ろすイグナティオスの手が持ち上がり、マリアに向けられる。それを見た瞬間、雄斗はわずかに回復した力を振り絞り、イグナティオスに掴みかかった。


「うおおおっっっ!」

「雄斗君!?」


 聞こえてきたマリアの声を無視して雄斗は飛ぶ。

 敵の狙いは雄斗なのだ。ならば己と共に彼らから距離を取れば──


「健気だな鳴神雄斗。その体で味方を庇うか。──鬱陶しいぞ愚民が!」


 一転して怒りの表情となるイグナティオス。雄斗の完治していない腹部を殴りつる。


「……っ!」


 痛みに悶絶しながら吹き飛ぶ雄斗。さらに激高したイグナティオスは腕を振り、


「穢れた手で我が玉体に触れるとは万死に値する。連れて帰るつもりだったが気が変わった。

 この世から欠片も残さず消え失せろ! 【天星撃メテオリティス】!」


 雄斗の頭上に小さな宇宙空間が出現し、光の塊が落ちてきた。

 恒星のような巨大な塊を見て、まともに体も動かない雄斗は残った力全てを注いだ迎撃の稲妻を放つ。しかし迫る光の隕石は稲妻を弾き、迫ってくる。

 それを見て死を覚悟する雄斗。すると脳裏に走馬灯がよぎる。

 今まであった数々の出来事や大切な仲間の姿が脳裏に浮かび、消えていく。そして最後にマリアと雪菜、そしてシンシアとアイシャが浮かび上がる。


「……元気でいろよ、皆」


 そう呟いた瞬間、光の塊が雄斗に激突。

 その凄まじい衝撃と熱量、眩しさを受けて雄斗は意識を失った。











 空に生まれる巨大な爆発。そこから一つの影が空に上がり、もう一つは落ちていく。

 上がっていくのはイグナティオス。浮いている空中戦艦の中に入り、そして低い起動音と共に戦艦はその姿を消してしまう。

 そして虚空に落ちていくのはズタボロになった雄斗だ。


「雄斗さん……!」

「今助けにいくよ……!」


 落ちていく雄斗へマリアは雪菜と共に飛ぶ。

 そしてその手を掴みそうになったその時だ、突然巻き込むような風が吹き、マリアたちは雄斗から離れてしまう。


「こ、この風は……!?」


 もしかしてイグナティオスの仕業か。そう思ったが周囲に敵影も、こちらに向けられている戦意もない。

 風にあおられる木の葉のように不規則に動いて落ちていく雄斗。再び彼の元に向かおうとしたその時だ、正面に魔力障壁が展開される。


「お二人とも、そこまでです」


 立ち止まった二人の背後からする声。

 振り向けば厳しい表情をしたベオウルフの姿があった。


「ベオウルフ様、これは一体何の真似ですか!?」

「これ以上降下してはいけません。──鳴神さんが向かう先を見てください」


 言われて視線を向けると、小さくなった雄斗の向かう先には巨大な空洞──タルタロスがあった。


「鳴神さんはタルタロスの風に捕まりました。あなたたちもこれ以上進めば彼と同じくタルタロスに落ちることになります」

「それが何だって言うんですか! 早く障壁を解除してください!」

「行けばあなたたちは死ぬことになります。──タルタロスがどのような場所かはご存じでしょう」


 ベオウルフの言葉にマリアは押し黙る。

 神でさえ落ちればただでは済まないとされている全容の知れない大魔窟。確かに彼の言う通り今の自分たちが行くのは自殺行為以外の何物でもない。


「だからって雄斗君を見殺しにはできません!」

「その気持ちはわからんでもないが、俺たちも【アルゴナウタエ】からの客人をむざむざ死なせるような真似はできないんだよ」


 苦渋の顔で言うヘラクレス。


「僕たちにできることは少しでも早く帰還し、このことを伝えることです。

 早ければ早いほど救出部隊が動くのも早くなるのですから」

「……わかったわ」

「マリアさん!?」

「雪菜ちゃん戻りましょう。──大丈夫。雄斗君のしぶとさはわたしたちもよく知っているでしょう?

 きっと救出部隊の人たちと一緒に戻ってくるわ」


 マリアはそう言って雪菜を、そして己を無理やり説き伏せる。すぐにでも彼を助けに行きたい衝動を懸命に抑え込みながら。

 ベオウルフたちと共にリトボスの王城に戻り、シンシア達に報告を済ませる。

 雄斗がタルタロスに落ちたことを聞いたシンシアと世界会議に参加するために共にやってきていたエドガーは流石に絶句する。

 しかしシンシアはベオウルフの言う通り手早く救出部隊を編成し、【オリュンポス】における【放浪する神】の一柱とその仲間たちがタルタロスに向かわせた。

 救出部隊を見送ったあと、マリアたちは綿密な手当てや怪我や疲労回復のための食材をふんだんに使用した夕食を済ませる。そして用意された客間にて今日の事件のあらましを報告書にまとめ上げた。

 エドガーからはしっかり体を休めた後で良いと言われていたが、夕食後ベットに入っても全く寝付けなかったので止む無く済ませたのだ。


「ふぅ……」


 イスに深くもたれかかりマリアは大きく息をつく。

 体は重く疲れている。しかし雄斗のことが頭から離れない。


(雄斗君……)


 生きていると。無事だと信じたい。

 だがタルタロスに落ちた数多の神々、勇士が帰ってこなかったという事実がその想いを揺らがせる。

 多元世界には様々な危険な場所はあるが、その中でもタルタロスは最上級の一つだ。

 なにせ神さえ落ちれば命が危うい場所なのだから。


「夜分遅くに申し訳ございません。

 マリア・プリマヴェーラ・アナーヒター様。大至急謁見の前に来てください。

 救出部隊の方々が戻られました」


 扉向こうからかけられた声にマリアはすぐに腰を上げて身なりを整え、謁見の間に向かう。

 軽く息を乱して到着した謁見の間にはゼウスとオグマ、シンシア。それとエドガーたち【アルゴナウタエ】の面々の姿があった。

 玉座に座っているゼウスはマリアが到着したのを見ると、正面に立つ男に呼び掛ける。


「メルクリウス。報告を」

「はっ、ゼウス様。……我ら【水銀の徒弟マーキュリー・ラレース】は第七タルタロスを捜索しましたが鳴神雄斗氏は発見できませんでした。

 また鳴神雄斗氏が落下したと思わしき場所でこちらの品を発見しました」


 一瞬、逡巡するような顔になるもメルクリウスはそう言い、手元に何かを呼び出す。

 そしてそれを見てマリアは大きく目を見開き、雪菜は小さな悲鳴のような声を上げた。

 

「……!」

「そ、そんな……!」


 メルクリウスの手元に出現したのは【万雷の閃刀】だ。

 神財は基本、宿主が解除しない限り離れることはない。宿主から離れるとしたら場合は当人があえてそうするか、死亡した場合のみだ。

 タルタロスという場所を考えて前者はあり得ない。と、なると、必然的に答えは後者の方になってしまう。


「雄斗君……」


 力の名、か細い声でマリアは想い人の名を呟く。

 横目で泣き崩れる雪菜とそれを支えるエドガーの姿が映るが、マリアはただ呆然と立ち尽くすばかりだ。 


「鳴神雄斗の亡骸は無かったのか」

「はい。恐らくは彼を殺害した【異形種】が欠片も残さず食してしまったか、もしくはタルタロスの強風にて深部に吹き飛んでしまったかのどちらかと推測します──」


 ゼウス達の話も頭に入ってこない。そして気が付けばいつの間にか自分の客間にあるベットに横たわっていた。


「……。雄斗君」


 呆然とベットの天蓋を見ながらマリアは雄斗の名を口にする。

 すると自然と目の端から涙が流れる。一瞬止めなければと思うがすぐにそれは消え、胸の中にある感情が堰を切ったように溢れる


「……う、ううぅうああああっっ……」


 後悔が、己を苛む声が、胸の内から湧き出てくる。

 どうしてあの時、制止を振り払ってでも助けに行かなかったのか。もしかしたら助けられたのではないか。我が身可愛さで彼を見殺しにしてしまったのではないか。


(わたしは、わたしはまた……! 大切な人を……!)


 泣き顔を隠そう、声を抑えようとも思わず、マリアは哀しみの涙を流し、悲痛な声を上げるのだった。






次回更新は12月6日 夜7時です。 

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