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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
四章 雷刃、新生
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十八話






「雪菜ちゃん、大丈夫?」

「は、はい。なんとか……!」


 土埃を掃いながらマリアは雪菜と合流。自分同様五体満足な様子を見てマリアは軽く胸をなでおろす。


「先程の流星群を降らす神威絶技、驚きはしたけれど連続で発動はできないみたいだね。

 ヘラクレス神たちもあれを撃たせないよう絶え間なく攻撃をしているようだし……」


 頭上に響く戦闘音を聞きながらマリアがそう言った時だ、巨大な魔力を感じると同時、景観が揺らぐ。


「これは……!」

「空間創造の神威絶技ですマリアさん!」


 蒼穹だった空が漆黒と煌めきだけの世界──宇宙空間のようになる。星々の輝きは剣の切っ先が放つ危ない輝きのようであり、圧迫するような重苦しい黒色だ。

 【神域】ほどではないが、危険な空間であることは間違いない。


「マリアさん……!」

「ええ、加勢しましょう。

 どのみちこの空間が解除されない限り雄斗君と合流はできないわけだし!」


 マリアは頷き雪菜と共に浮上、イグナティオスを囲んでいるヘラクレス達と合流する。


「ほう、【アルゴナウタエ】の者たちか。確か当代のアナーヒターと叢雲明の孫娘だったな。

 運よく【逆族を討つエラトマ・アス星天の輝矢テール・ヴェロス】を免れたか」


 マリアたちを見ても全く動じた様子がないイグナティオス。

 こうなることは予測済みな為か、それともマリアたちが加わっても問題ないと思っているのか──


(見ての通り加勢するわ。わたしたち二人が仕掛けている間、傷の手を当てを済ませなさい)


 左にいるヘラクレスに念話で伝えると、彼はなぜかきつい視線をマリアに向けるも、小さく頷く。

 そしてヘラクレス達が下がると同時、マリアと雪菜はイグナティオスに仕掛ける。

 左右同時に仕掛ける二人の攻撃をイグナティオスは捌きながら言う。


「なるほどなるほど。流石は【アルゴナウタエ】の精鋭。そこの連中とは動きや攻撃の質が一味違うな。

 ──まぁお前たちが加わったところで、やる気になった私にとっては大差ないのだが」


 平然とした様子でイグナティオスが言った時だ、マリアの放った水鉄砲の前に門が出現する。

 そしてそれが開いたかと思えば水鉄砲を飲み込み、それを見てマリアが目を丸くした次の瞬間だ、


「後ろだ!」


 聞こえたヘラクレスの声に反応して振り向くと、目の前には開かれた門と先程放った水鉄砲がこちらに押し寄せていた。

 ぎょっとするマリアだが、マリアよりわずかに速く反応していた雪菜の【桜刃爛漫おうじんらんまん】で相殺され事なきを得る。


「これは……!」

「【天空門ウラヌス・ピリ】。我が偉大なる神威絶技が一つよ」


 そう言ってイグナティオスは周囲に無数の【天空門】を出現させ門を開き、そこから無数の攻撃を放ってくる。

 業火や波濤、稲妻に氷の塊、さらにはディケオスィニなども放たれる。


(くっ……! グラディウスの【黒空】と同じ、相手の攻撃を吸い込み敵に返すカウンター型の神威絶技なのね……!)


 押し寄せるそれらの激しさにマリアたちは共に【神解】、【掌握】して蹴散らす。

 そして雪菜と同時に一気に距離を詰めて斬りかかるが、


「【虚空は我が盤面コーロス・パラミ】」


 イグナティオスがマリアを指差し何らかの神威絶技の名を呟いた次の瞬間だ。

 マリアの右側にはなぜか雪菜がこちらに向けて攻撃を放とうとしており、攻撃するはずだったイグナティオスはマリアの左側に佇んでいる。


「なっ!?」

「マリアさん!?」


 驚き、慌ててマリアたちは振るおうとしていた剣を止める。

 マリアの剣が雪菜の胴の手前で止まり、雪菜の刀がマリアの首筋数十センチの距離で止まったのを見て、思わず冷や汗をかく。

 剣戟を止めなければ確実にお互いを切り裂いていただろう。


「【虚空は我が盤面】。対象の位置を入れ替える神威絶技だ」


 イグナティオスが告げると同時、放たれる無数の竜巻。

 不規則に動きながら迫るそれらをマリアたちはかわすが、【虚空は我が盤面】によって再び竜巻が眼前に現れる。

 やむなく撃破するも、雪菜の放った攻撃が目の前に現れ再び肝を冷やす。


(これがウラヌス神。天空そのものと言われる神の実力……!)


 マリアも幾柱もの天空神を知っているが、その人達と比べても目の前の男の強さは抜けている。

 彼はまだ【神解】すらしていないのにマリアたちを弄んでいる。おそらく彼の強さは当代の【七英雄】に匹敵するのでは──


「いつまでも調子に乗っているんじゃねぇ!」


 そう叫びベオウルフと共に左右からイグナティオスに殴りかかろうとするヘラクレス。

 しかし攻撃が当たる直前、【虚空は我が盤面】によって位置が入れ替わり、同士討ちのような形になる。

 だがヘラクレス達二人は即座に対応。ヘラクレスは即座に攻撃を中断しては自分と入れ替わったイグナティオスに巨大な光弾を放つ。ベオウルフもヘラクレスの動きに連動。巨大な風を巻き起こしそれらを弾くイグナティオス。


(【天空門】に【虚空は我が盤面】。どちらも厄介な神威絶技ですが使用する直前、かすかに空間に歪みが発生します。

 それを察し、発動される前提で動けば突然の反撃や同士討ちにも対処できるでしょう)


 冷静な口調で言うベオウルフ。それと同時攻撃を再開するヘラクレス達。

 言った通り彼らは二人一組となって攻撃を再開する。激しく、そして連続で続くヘラクレス達の猛攻に面倒臭そうな顔となるイグナティオス。猛攻を受けながらも強風を手足のように扱いつつ、時折【天空門】や【虚空は我が盤面】などを行使して復帰した【オリュンポス】の戦士達と渡り合う。

 しかしベオウルフの言う通り、彼らは唐突なカウンターや位置の入れ替えにもすぐに順応する。流石は【オリュンポス】の精鋭と彼らの上に立つ十二神というべきか。

 彼らの戦いぶりを少し見てマリアたちも再び戦線に復帰。その猛攻にイグナティオスは不機嫌そうな顔を崩さない。

 それはマリアたちの参戦が効果的であり、ヘラクレス達と息があっているからだ。

 マリアたち【アルゴナウタエ】の戦士達は月に一度は必ず他世界に赴き、その世界を守る戦士達と共に戦う。つまり初対面である者たちと息を合わせることに慣れているのだ。

 もちろん他世界の戦士達も同盟を結んでいる世界の者たちと合同訓練したり任務にあたっているだろうが、【アルゴナウタエ】の回数や質に比べたら大きく劣る。 


「……ええい! 【塵芥を薙ぎ祓えケイモーン・ノテロス・空王の風剣クシフォス】!」


 苛立ちと共にイグナティオスから放たれる巨大な風の一撃。

 それに対してヘラクレス達が迎撃した直後、マリアと雪菜は同時に反撃の神威絶技を放つ。


「【桜刃爛漫】!」

「【無垢なる龍王キアーロ・ドラゴーネ】!」


 長大な水の龍とその側面から覆いかぶさるような無数の花弁がイグナティオスに迫る。

 攻撃直後のためかイグナティオスは神威絶技を使わず、強固な魔力障壁を張って防御する。

 しかし息を合わせた二人の攻撃は幾重にも張り巡らされた障壁を砕き、イグナティオスを吹き飛ばす。


「よっしゃあ!」


 喝さいの声を上げるヘラクレス。

 すぐさま体勢を立て直したイグナティオスは血走った眼を向けてくるが、何かを察したのかこちらに向けていた戦意が急速に収まる。


「……どうやら外でも決着がついたころだろう。

 こちらもお前たちと遊ぶのはもう終わりにするとしよう」


 彼の言葉にマリアはかすかに目を見開く。間違いなく雄斗とアレス神との戦いのことを言っている。


「はっ。何戯言抜かしてやがる。このまま逃がすとでも──」

「【空圧ペリオリズモス】」


 突如、マリアの体が動かなくなる。いやマリアだけではない。他の皆ものだ。

 しかしすぐに魔力を放出して束縛を吹き飛ばす。しかしその一瞬でイグナティオスはマリアたちの頭上に転移。

 そして膨大な魔力が彼の全身から放出され、彼の頭上で輝く星の光が強くなる。


「【逆族を討つ、星天の正輝】」


 イグナティオスの背後から飛来する数十、いや数百の流星群。

 しかも先程の拡散していたそれとは違い、マリアたちに向かって飛んできていた。


「私の暇つぶしと運動に付き合ってくれたことで一つ教えてやろう。【逆族を討つ、星天の剣】は私の意志一つでいつでも発動可能なのだ。

 その気になればお前たちを殲滅することなど、造作もなかったのだよ」

「なんだとぉ!?」


 驚愕の声を上げるヘラクレス。一方マリアはイグナティオスの言葉に疑問を抱く。

 いくら神といえど、周囲を焦土に変えてしまうほどの強力な神威絶技を何のためも無しに使えるとは思わない。おそらくこの空間限定での話だろう。

 が、今はそれはどうでもいい。


(あれを食らったら……!)


 迫る隕石の群れを見てマリアは雪菜と視線をかわし離脱しようとする。

 しかし後ろを振り向いてそれを止める。自分たちと同じくヘラクレスやベオウルフは動けるようだが、他の面々は【空圧】に捕らわれたままだからだ。

 彼らとて相応の実力者。解除できないわけではないがマリアたちに比べれば時間がかかる。そして降り注ぐ流星群はその時間を与えてはくれない。


「【海原を支配する龍帝オチェアーノ・レ・ドラーゴ】!」

「【桜刃爛漫おうじんらんまん】!」

「【狩猟群リオンダーリ・キニギ】っ!」

「【巨人を押しつぶすジャイアントノット・激流の巨剣トレント・セイバー】……!」


 ヘラクレス、ベオウルフと共にマリアたちも迎撃のための広範囲、拡散型の神威絶技を放つ。また身動きの取れない面々もマリアたちに強化や補助の魔術をかけて援護してくれる。

 しかしそれでも、迫る流星群全てを破壊することはできなかった。最終的にヘラクレス達と協力して魔力障壁を生み出すも激突した隕石に砕かれ、マリアたちも隕石の直撃を受けて吹き飛ばされる。

 聞こえる味方の怒号や悲鳴。また激突の衝撃でわずかな時間だが意識がブラックアウトする。 

 反射的な動きで何とか体勢を立て直す。朦朧としている意識を無理やり回復させ、念話で呼びかける。


(雪菜ちゃん、大丈夫!? どこにいるの!?)

(な、何とか平気です……)


 右下方向から届く雪菜の念話。視線を向ければそちらに彼女の姿はあった。

 いや、よく見たらそこにいるのは雪菜だけではない。【空圧】により身動きが取れなかったものたちもいる。

 そして消耗しきっている様子を見ると、おそらく完全に迎撃ができないと見るや、残っていた力全てを使い彼らを庇ったのだろう。


「それよりも他の皆さんは……?」

「わたし達と同じく何とか無事みたいね……」


 周囲を見渡すとボロボロな様相ながらもヘラクレスたちは動いていた。

 彼らを見てマリアは改めて周囲を探る。先程も確認したがイグナティオスの姿はなくどこからも敵意は感じられない。

 軽く一息つき、マリアはヘラクレス達に近づいて問う。


「まだ戦えるかしら」

「こちらで動けるのは僕とテオドロス、ウィルマの三人です。

 他の面々は力を使い果たしたり怪我で動けそうにありません」

「そう。ならイグナティオスと再戦するので手を貸してもらえない?

 彼は雄斗君とゼノンの元に行ったわ。何の目的かわからないけど碌な理由ではないでしょう。

 雄斗君もセノンと戦ってかなり消耗しているはず。彼を助けるため力を貸してほしいの」

「ええ、もちろんです。すぐにこの空間を破壊して鳴神さんの元に行きましょう」


 そうベオウルフが言った時だ、宇宙空間だった周囲が元の景色に切り替わる。


「手間が省けましたね……。それでは早速駆け付けましょう!」


 彼の言葉に頷き、マリアたちはイグナティオスの後を追うのだった。







次回更新は12月2日 夜7時です。 

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