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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
三章  黒傷を濯げ、清流の剣
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十三話






「遅れてすまない。【異形種キメラ】の殲滅に時間がかかってね」

「町の暗闇からうじゃうじゃと湧いて出てくるし街の人たちは守らなきゃいけないわで、もう大変だったわ。

 ま、そっちも相応に苦労したみたいね」


 闇夜に浮かぶシャハブとファルナーズ。発せられている巨大な魔力や変化した衣装から、すでに【神解】を済ませているようだ。

 シャハブは鮮やかな青と白の服装の上に黄金と銀の鎧を纏い、右手には曲刀、左手には小さな楕円型の盾がある。

 手にしている剣と盾は固有神具【輝天より降る星は闇を貫く(ティシュタル・ラフシャーン)】。光輝を発するその姿は神解【魃を征する星王マタル・シャーハン】だ。

 シャフナーズは臀部と胴体のみに装着されている碧と銀と藍色の色彩がされた軽鎧に星のエンブレムが刺繍された白のマント。

 彼女の神解【天界を統べるケシュヴァール・星海の女王ナジュムマリカ】であり、両手には直剣型の双剣、固有神具【星女王の霊剣ナジュムマリカ・シャムール】を握っている。


「後は僕たち二人がやる。皆は下がっていてくれ」

「ですが……!」

「消耗したあんたたちがいても邪魔なのよ。

 ここはシャハブさんが住む街で、私も数日後には暮らすことになる街だった。

 それをめちゃくちゃにした【異形王フェノメノ】に私たちが黙っているわけもないでしょ。さっさと下がりなさいよ」


 ファルナーズのきつい物言いを受けてマリアは悔しそうな表情になるが何も言わない。彼女の言うことが正しいとわかるからだろう。

 皆と視線を交わし、雄斗たちは距離を置く。そして爆発の煙の中から姿を見せた、黒の武具群を壁としているザングールと相対する二人に視線を向ける。


「と、いう訳よ。ザングール、あんたたちの相手は私たちが、いや私がしてあげる。

 覚悟しなさい。今度こそ復活できないよう消滅させてやるわ!」

「言うではないか。やって見せよ!」

「シャフナーズ、待て──」


 ザングールが吠えた時、シャハブが何か言おうとした時、ファルナーズは右の剣の切っ先を【異形王】に向ける。そして女神の周囲から数十の光弾が放たた。

 迫る光群にザングールも漆黒の鋼を飛ばし迎撃する。神二人が同時に放った攻撃は空中にて激突。武具群は光弾によってあっけなく破壊される。

 先の異形種の巣殲滅作戦時にも見たファルナーズの神威絶技【星矢ナジム・サハ】だ。数十、数百もの超高密度の魔力弾による広域殲滅攻撃であり一撃でAクラスの【異形種】すら粉砕する破壊力を持つ。


「ぬううっっ!」

「あんたは夜で戦うときに真価を発揮するのよね。まぁ私もそうなんだけとさ!」


 漆黒の防御壁で【星矢】を防ぎつつも苦悶の声を上げるザングールにシャフナーズは余裕の声を上げながら再び【星矢】を放つ。

 ザングールは再び【暗王の鋼具】を発射。今度は双方の神威絶技は空中にて相殺される。しかしファルナーズが絶え間なく【星矢】を雲がない空から放ち【異形王】の迎撃を強引に押し切る。

 先程シャフナーズが言った通り、夜は彼女にとっても有利なフィールドだ。ザングールが夜の闇を味方にするように、シャフナーズは闇夜に煌めく星々の輝きを浴びてパワーアップするのだ。

 その理由は彼女が継承したアスタルテにある。ファルナーズが継承したアスタルテは【ムンドゥス】においてはアナーヒターと同じく最古の大地母神として伝えられている。地母神としてはビックネームであるイシュタルやカーリーと起源が同じらしく、地中海や中東、エジプト神話などにもその名は記されており特に有名なのがウガリット神話の主神、バアルの陪神としての立ち位置や活躍だろうか。

 アスタルテが生まれた世界はすでに滅亡しているが、彼女はそこで【ムンドゥス】と同じ地母神として崇められながらも同時に星々の女王としても称えられていた。

 また地母神でもあるアスタルテは各世界の地母神と同じく軍神、冥府神としての神格も保持しており、彼女が従える死者の魂が星の光に称えられ、彼女自身はそれらを統括、見守る月とされていたという。


「ええい、ちょこまかと……!」


 自由に空を滑空し近、遠両方から攻撃を放ってくるファルナーズにザングールは苛立った様子を見せる。

 放たれる【星矢】が命中し削り取られる【異形王】の肉体。空に瞬く星の輝きのバックアップを受けてより強力になったファルナーズの神威絶技はザングールの肉体を破壊し、再生速度を低下させている。

 飛び回るファルナーズに【暗王の鋼具】を放つも、天女が舞っている風を連想させる優雅かつ軽やかな彼女の飛行の前に空しく空を切るだけだ。そして再び闇夜に星光が瞬き、数十もの光の弾丸がザングールに激突。その身を削る。

 【星矢】を連射しているシャフナーズだが、近距離でも戦えないわけではない。幾度か接近し、両手に持つ【星女王の霊剣】をザングールに向けて振るう。

 その動きは先日マリアが神殿にて見せたアナーヒターの舞踊に似ている。いや恐らくあれを実戦仕様に変えた舞と言った方がいい。

 またシャフナーズは鳥が獲物を狩るときのような一撃離脱の動きも見せる。【星矢】を放った直後、または放ちながら急加速。一瞬で間合いを詰め取りすぎると同時に振るわれる【星女王の霊剣】の刃はザングールの体を穿つ。


(この間も見たが、本当に凄まじいまでの力押しだな……!)


 自在に空中を滑空しながら無尽蔵に【星矢】を放ち敵を圧倒、ときには猛禽の速さで接近しての近接戦とヒットアンドウェイ。それを巧みに組み合わせて一方的に敵を攻撃、消滅させる。

 絶え間ない圧倒的攻撃量により敵を屈服させる超攻撃的戦闘。これが【アヴェスター】トップクラスの破壊力を持つシャフナーズ・サーラ・アスタルテの戦いだ。


「闇に紛れるってわけ。でもおあいにく様、アスタルテたる私にそんな真似をして無意味よ!」


 闇と化して姿を消したザングールに向かってファルナーズは言い、右手を宙に掲げる。

 するとそこから優しくも眩い輝きが周囲に広がり闇や影を打ち消していく。


(神威絶技【星灯ナジム・ヌル】。闇や陰に隠れ潜む敵を見つけ出す技だよ……!)


 マリアの念話が聞こえ、同時に雄斗は大きく目を見開く。【星灯】を発したことでできたわずかな影。そこからザングールが飛び出してはファルナーズの背後を取ったからだ。

 【異形王】が若き女神の首を落とすため黒の大剣を振るう。察知したファルナーズはかわしすぐに【星矢】を放つが、同時に放たれた【暗王の鋼具】が星の矢を全て打ち砕く。


「……! このっ!」


 初めて【星矢】が打ち負けたのを見て眦を上げたファルナーズは再び【星矢】を放つ。

 輝きから先程よりも威力が込められたであろう【星矢】。だが【暗王の鋼具】より生まれた巨大な剣や盾がそれら全て防いでは砕き、女神へと飛来する。

 焦りの顔をしながらかわすファルナーズ。すぐさま反撃しようとするがザングールの姿はそこにはない。


「足元!」


 マリアが叫んだ通りだ。宙に浮かぶファルナーズの足元にある影から音もなくザングールが姿を見せ、六本腕に握った武器を投擲する。

 それも何とか躱すファルナーズ。だが次の瞬間、雄斗は大きく目を見開く。

 彼女の横を通過した六つの武器。それが光を浴びて生み出した影。そこから牛頭の【異形王】が姿を見せたからだ。


(自分が投げた武器から生まれた影への移動だと……!?)


 完全に虚を突かれた顔のファルナーズ。それでも【星女王の霊剣】を交差させ、光の防御壁を出現させる。

 放たれるザングールの一撃を受け止めた彼女だが、数秒後に光の障壁は粉砕。【異形王】の剛腕は振り下ろされ、彼女は地上に叩き落される。


「ファルナーズ!」


 思わずと言った様子で叫ぶマリア。ファルナーズは苦痛の表情をしながらも地上から1メートルの距離で何とか体勢を立て直す。

 だがその時には再びザングールに背後を取られていた。それを見て雄斗の総身が震える。

 しかし予感した最悪の事態にはならなかった。シャハブが流星のような速さで両者に割って入り、ファルナーズの首を薙ぐ一撃を盾で受け止めたからだ。


「シャハブ様……!」


 ファルナーズの声に答えず、シャハブは全身より光を放つ。

 眩いそれにほんのわずかザングールが目を細めたその一瞬で彼は将来の第二婦人と共に離脱する。


「ファルナーズ、ラジュドを破壊され怒るのはよくわかる。

 だが一人で立ち向かって勝てる相手でないことはわかっていただろう。この時間は君だけではなく相手にも有利なのだから」


 ファルナーズに背中を向けたまま、シャハブは教師が教え子を諭すような口調で言う。

 そこに秘められた氷のような冷たい怒りを感じたのか、ファルナーズは押し黙る。


「勝手をするのはここまでだ。ここからは二人でやろう。いいね」

「……はい」


 悔しげな顔をしながらもファルナーズは首を縦に振り、砂地についていた膝を上げる。

 戦意に満ちていながらも落ち着きも感じられるファルナーズの顔を見てシャハブは小さく微笑。

 そしてすぐに戦士の顔になると盾を前に構え、ザングールへ向かっていく。


「会いたかったぞ、当代のティシュトリヤ! いやシャハブと言ったか!」

「お前に名前で呼ばれる筋合いはない」

「かつてのティシュトリヤから受けた屈辱、貴様で晴らさせてもらうぞ!」


 シャハブは飛んでくる【異形王】の武具群をかわして接近、曲刀で切りかかる。ザングールも六本の腕で先程見せたような嵐と思う暴撃を放つ。

 雄斗たち四人でも互角だった猛攻を当代のティシュトリヤは緩急のついた動きと的確な武具さばきで防ぎ凌いでは反撃。怪物の屈強な体に幾多の傷を刻む。

 流麗、華麗と言うべきシャハブの戦技を見て、雄斗は大きく目を見開く。


(世界は広いな。俺以上の使い手にあったのは久方ぶりだ……!)


 今まで巡り合った自分より強い神々。しかし彼らの武技は勝てないと思うほどではなかった。

 だがシャハブのそれは明らかに雄斗よりも上だ。十本勝負してもおそらく勝率は五割を切るだろう。マリアによく似た、しかし彼女のそれをさらにグレードアップした戦いぶり。

 背後からファルナーズの【星矢】による援護もあるが、それを差し引いても見事だ。


「ふふふ、やるな当代! だがこの程度では儂は斃せんぞ!」


 だが五体に傷を負わされても伝説の【異形王】から余裕は消えない。

 当然だ。傷は時を置かずして直ってしまうし、腕を断つような深い傷も食らっていない。全方位からくるファルナーズの【星矢】も最初と違い、ザングールが放つ無数の漆黒の武具群が的確に撃ち落としている。


(マリア。シャハブさんはさっきああ言ったがこのままじゃ押し負ける。俺たちも参戦するぞ)


 今は互角の戦いをしているが時間が経てば負けるのは目に見えている。

 一瞬も手を緩めている様子がないシャハブたちに対し、ザングールの態度からはまだ余裕があるのだ。自分たちと戦ったうえ──条件付きとはいえ──蘇生したというのに。

 マリアも頷き神具を手にした時だ、シャハブから静かな制止の声がかかる。


(心配してくれてありがとう二人とも。でも大丈夫だからそこにいるんだ。

 ザングールと矛を交えられるほど力が回復していないだろう)

(シャハブさん……! でも!)

(そろそろ準備が終わる。ザングールは私たち二人で倒す。

 もし万が一参戦する必要があれば声をかけるから、その時はよろしく頼むよ)


 微苦笑するような優しい声音でシャハブは言う。師の言葉を聞いてマリアは落ち着いたようだが雄斗はそうはいかない。

 夜である限り不死身であるザングールをどうやって倒すというのか。いつでも参戦するよう呼吸を整え、【万雷ばんらい閃刀せんとう】の握りを掴む。

 そして戦況は予想通りシャハブたちが押されだす。より激しく強くなるザングールの猛攻にシャハブは防御に時間を追われ、反撃するのも苦しくなる。

 後方のファルナーズにも正面だけではなく左右、後方から──周囲の闇より排出される──無数の闇の砲撃や武具群が迫り、それの対処に追われる彼女は【星矢】による支援もできなくなり自分の身を守るだけで精一杯となっていく。

 攻撃を受けて吹き飛ばされるシャハブ、撃墜されかけるファルナーズを見て雄斗が回復した魔力全てを使い【剣躰】を纏おうとした時だ。二人は【異形王】から距離を置き、合流する。


「ほう、何かするつもりか。

 儂に押されながらも何かをもくろむ目つきをしておった。さて、何をしてくるのだ」


 にやにやと笑いながらゆっくりと歩を進めるザングール。

 それに対しシャハブは大きく深呼吸。そして鋭い眼差しをザングールに向け、口を開く。


「星々よ。そらに瞬き彩る汝らは生命の光。魂の煌きなり」


 紡がれる詠唱。そしてシャハブを中心として莫大な魔力と輝きが放たれ、思わず雄斗は総身を震わせる。


「その一つ一つが無二のもの。世界を形作る神聖なる輝きであり、それが集まる場所こそが世界である」


 瞬く間に地平の彼方まで広がっていく耀き。また光は上空にも立ち上り、空を包んでいく。

 世界が星の海に、光に、塗り替えられていく。


「星の王たる我の元に集う星々よ、光よ。今この一時、その輝きを我に貸し与えたまえ。

 命を蹂躙し、輝きを消す異形を、世界より駆逐するために」


 シャハブが締めくくったのと同時、世界が変わる。闇夜に包まれた世界が数えきれないぐらいの、無数の星々が瞬く空間へと切り替わる。


「【神域サンクトアリウム】、【無窮なる星界サマーア・ナジュドゥーヤ】」


 そう言ってシャハブは【輝天より降る星は闇を貫く】の切っ先をザングールに向ける。

 周囲を見て大きく目を見開いていた牛頭の【異形王】。しかしぐるりと首を一回転させると、狂ったように笑いだす。


「くくく……。ハハハハハハ!

 よもや、まさか【神域】を展開するとは! 素晴らしいぞ! 先代のティシュトリヤさえできなかったというのに!

 想像以上だシャハブよ! 貴様は我が殺めるに値する素晴らしき敵だ!」


 ザングールの態度に雄斗は引きながら同時にかつてないほどに驚いていた。

 【神域】とは、神々が内に秘めた膨大な魔力を開放し、限定ではあるものの己の領域を世界に生み出す神々の最終奥義だ。

 この世界の中でこそ、神々は神話通りの強大でけた外れの力を発揮できる。──故にこの【神域】を行使できる神々は非常に少ない。


(神々の大半は【神解】に到達するのがやっと。【神域】を発現させるとなれば、それこそ神代の神々に等しい力を持っているということ……!)


 シャハブがかつて【アルゴナウタエ】にて【七英雄】の最有力候補に挙がっているという話は聞いてはいたが、【神域】を行使できるとすれば当然だ。


「喜んでいるところ悪いがザングール、お前の敵は私一人ではない」


 哄笑する【異形王】に冷たく言い放つシャハブ。

 直後、その隣にいるファルナーズが手にしている【星女王の霊剣】の切っ先を向け、呟く。


「【晦冥禊ぐ星海の煌輝砲ザラムアスワド・ナジュバハル・サタア】!」


 周囲の星々が輝き、放出される光がザングールに向かっていく。

 【星矢】とは違う、一つ一つがザングールを呑み込むような巨大なレーザー。まともに食らってはまずいと思ったのかザングールも同等の大きさの闇の砲撃を放って迎撃し、閃光の合間を縫って回避する。

 しかしザングールができるのはそれまでだ。全方位360℃から絶え間なく放たれる星光の砲撃の前に回避と防御、迎撃で手一杯となる。


「お、おおおおおおっ!」


 【異形王】の驚愕の叫びが星海に響く。

 そして雄斗は宇宙戦艦が放つようなレーザーが周囲から絶え間なく放出される光景を見てただただ圧倒される。


(凄い……! ファルナーズの奴、これほど強力な神威絶技を持っていたのか)

(いや違う。本来の【晦冥禊ぐ星海の煌輝砲】は周囲の光や輝きを収束して放つ超巨大な砲撃。

 今のように連続して放てる代物じゃねぇ)

(多分これはシャハブさんの【神域】が彼女の力を大きく底上げしているんだよ。

 二人がその身に宿す神々はどちらも光や星に深いかかわりがある。だからこそ可能な強化だろうね)


 アザードとマリアの開設に確かにと雄斗も納得する。

 【晦冥禊ぐ星海の煌輝砲】はおそらく都市一つを壊滅させるほどの威力を持っている。これほどの威力の神威絶技を連発することなど普通に考えれば不可能。

 【神域】を展開するか、または二人の言う通り【神域】を展開した、同じ属性を持った神の助力がない限りは。

 ちなみに雄斗たちの方にも砲撃は飛んでくるが数メートル先で拡散する。どうやら敵味方の識別もしっかりとされているようだ。


「【星王工廠アリシェラ・アルヤマネッヤ】」


 さらにシャハブも──ザングールのように──淡い星光を集めて生み出した無数の武具を【異形王】に飛ばす。顕現した武具は【暗王の鋼具】よりも一回りも巨大だ。

 【晦冥禊ぐ星海の煌輝砲】と同じ光でできているのか、ファルナーズの神威絶技と接触しても何も起こらずザングールに飛んでいく。


「オオオオオッッ!」


 ザングールは勇ましい声を上げ、かつてないほど大量の黒の武具群と闇の砲撃を放つ。だがシャハブたちの光撃はそれらを上回り、シャハブの放った武具の刃は屈強な彼の体を貫く。

 漆黒の帝王を押しつぶそうとする星王の暴撃。しかし攻撃を受けながらもザングールは消えず光の爆撃に負けじと攻撃を放ち続ける。

 【異形王】が放つ殺意と暴威の武具と暗黒は密度が増したのか、星光の攻撃をかわし、耐えながら星界の王と王妃に接近し、彼らの体を傷をつける。

 光と闇の正面衝突。そして次第に周囲の星々からレーザーが止みだす。ファルナーズを見ると彼女は大きく肩で息をしており【神解】も解除されていた。シャハブはまだ平気そうだが疲労の色が見える。

 光の爆撃を受けていたザングールは体の所々が欠けておりシャハブの放った光の武器がいくつも体に突き刺さっていた。絶え間なく攻撃を受け続け、反撃し続けたのはさすがに堪えたのか、肩で大きく呼吸をしている。

 だが、しかし、伝説に名を遺す【異形王】が放つ圧は先程と変わりない。


「流石は【神域】内における攻撃、中々効いたぞ。

 しかしそろそろ終わりのようだな」


 体に突き刺さったシャハブの武器を引き抜き砕きながらザングールは言う。

 【神解】と同じく【神域】も時間制限がある。そしてその時間も維持する魔力も当然、【神解】を上回っている。


(本格的に戦い始めてまだ十分程度。

 なのにシャハブさんの魔力はすでに半分もない……!)


 【神域】を発動させる前までは七割ほどあったシャハブの魔力。それがこの短時間で二割も消費してしまっていた。

 また共に戦っていたファルナーズも【神解】が自動で解除されており、疲労困憊の様子だ。

 両者を見て改めて雄斗が参戦を決意した時、シャハブは言う。


「ああ、終わりだ」


 いくつもの闇色の傷を負ったシャハブが静かな声でそう言った時だ、雄斗たちの周囲に光の結界が張られる。

 いや、起こった現象はそれだけではない。創造された世界そのものが輝きを増す。

 それを見て雄斗たちは瞠目。ザングールも構えようとするが、その動きが止まる。


「こ、これは……!」


 驚き、そして怯えの含んだ声を発する【異形王】。それを聞き雄斗は気付く。ザングールの体に食い込んでいる武具の欠片も周囲と同じく強い光を発しており、それが彼の体の動きを阻害していることに。


「お前の不死身ぶりは散々伝承で伝え聞いている。マリアたちとの戦いでもしっかりと見させてもらった。

 闇がある限り不死身と言うならお前を倒すのは闇の無い世界。そして外と内から莫大な光量で押しつぶせばいい」

「……! オ、オオオオッ!」


 シャハブが何をするか悟ったザングールは表情を引きつらせ、攻撃をしようと黒の武具群を出現させる。

 だがそれより先にシャハブは静かに告げる。


「終わりだザングール。光の中に消えるがいい。──【星誕極光アルカウン・ティシュタル】」


 言葉と同時、世界そのものが光となった。一切の影がない空間、純粋な輝きが世界を満たす。

 わずかに目を開けることすらできない眩さの中、ちらりと内外の輝きに押しつぶされていくザングールの姿が視界に入った。

 数分、十数分と感じるほどの輝きが収まり目を開けると、雄斗たちはラジュドに戻ってきていた。闇を支配する不死の【異形王】の姿はなく気配もない。

 討滅されたのが証明されるように、ザングールの傍にあった無数の亀裂が入った漆黒の大剣が音もなく霧散するのだった。






次回更新は8月30日 夜7時です。

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