プロローグ
無数の花束に囲まれている墓石。そこにマリアは自分が持ってきた花を添える。
墓石に刻まれた名はファルナーズ・サーラ・アナーヒター。ついこの間亡くなった──いや、殺された先代のアナーヒターであり、マリアの師匠だ。
「ファルナーズ様、遅くなって申し訳ありません。
そして改めてご報告申し上げます。わたしマリア・プリマヴェーラは先日、正式にアナーヒターを継承しました」
当然だがマリアの言葉に反応はない。周囲に人の姿はないのだから。
しかしマリアは何の反応もないこと──たおやかな師の言葉が返ってこない事実に、目じりが熱くなる。
浮かびかけた涙を抑えるように奥歯を噛み目を閉じる。
「あなたの、そして歴代のアナーヒター様たちの名に恥じぬよう、戦っていきます」
数秒俯いた後、毅然とした表情を作ってマリアは言い、墓石の前から去っていく。
本当ならもっと言いたいことはあった。だがそれを口にしてしまえば引きずられるように弱音が飛び出しそうになると思い、やめたのだ。
そしてそんな姿をあいつに見られてでもしたら、自分がアナーヒターを継承するとまた騒ぎかねない。
そう思いながら墓地の出入口に来た時だ、姿を見せた少女のことを見てマリアは目を見開く。
喪服を着た自分と同世代の少女。そしてファルナーズに似た顔立ちの彼女。
「シャフナーズ……」
少女の名を口にし、思わず足を止めてしまう。
また視界に映る少女、シャフナーズもこちらに気付き、固まった。
ともに数秒ほどの硬直。そして同時に眉を吊り上げ、お互いへ剣呑な眼差しを向ける。
動き出す両者。他の者が見ればお互いに掴みかかりそうな雰囲気と思うかもしれない。
だがマリアも、シャフナーズも、何も言わずすれ違う。そして墓地を後にし、ファルナーズの気配が遠ざかったところでマリアは大きく息を吐く。
(どうしてファルナーズが今、ここにいるのよ)
墓地に彼女が来たことに驚きはない。彼女は自分と同じアナーヒター継承候補者の一人であり、先代の姪なのだから。
ただ今、自分がいる時に来なくてもいいのではないか。そう思う。
「……譲らないわよ」
墓地の方に視線を向けてマリアは呟き、踵を返すのだった。




