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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
二章 嵐の後に花は咲く
39/102

二十三話







(雪菜、武蔵の奴は……!)

(わかりません。見失ってしまいました)

(そうか。まぁ気にするな。

 それよりも眼下のあれをどうするか。それが最大の難関だな)

 

 申し訳なさそうに言う雪菜にそう言って、雄斗は風を纏って少しずつ浮上してくる鋼鉄の巨人に目を向ける。

 理由はわからないが雄斗たちに向けてあの魔導人形から突き刺すような殺意が放たれている。どうやら敵認定されてしまったようだ。


「オオオオオオオオオオオオッ!」


 幾多の合成音が混じった耳障りな音が周囲に響く。

 それを聞いた雄斗たちが顔をしかめたのと同時、巨人は一気に浮上。雄斗に向けて拳を振るってきた。


(ちいっ!)


 でかい図体のくせに驚くべき速さの攻撃。雄斗はそれをかわし【万雷ばんらい閃刀せんとう】で切りつける。

 初撃で確かな手ごたえを感じ雷や連撃、【雷刃らいじん】を放つ。魔導人形の巨体に雷撃や剣戟の傷が刻まれる。

 雄斗の遅れて雪菜も巨人の背後に回り込み剣戟や神威絶技を繰り出す。雄斗同様効果があったのだろう、彼女も魔導人形が放つ攻撃を回避しながら攻撃を続ける。


(く……!)


 一方的に攻撃を放ち続ける雄斗たち。しかし雄斗はもちろん雪菜も微塵も喜ばず、表情を歪ませる。

 攻撃は通る。ダメージはある。──だが、相手はあまりにも大きすぎる上、タフすぎる。

 また体内にある神器の力なのか、つけた傷はあっという間に治っていくのだ。そして魔導人形から放たれる風や風の攻撃は一つ一つが巨大でしかも多い。

 例えば全方位に極大の雷を数十放ったり、魔導人形の体躯以上の大きさの竜巻を十以上発生させたり。

 狙いは粗雑で雄斗たちはかわせているが、それらは一発食らえば即戦闘不能になるほどの威力がある。何せそれらが当たった周囲の島や戦いの衝撃で穴倉から出てきた【異形種キメラ】は跡形もなく吹き飛んでいるからだ。


「ヴォオオオッッ!」


 虫のように飛び回る雄斗たちに苛ついたのか魔導人形の放つ攻撃がより激しく、多くなる。とうとう雄斗たちは回避行動しかとれなくなってしまう。 


「きゃああっ!」

「雪菜!」


 魔導人形の放つ雷霆をかわし損ねた雪菜が体勢を崩す。落下していく彼女とそこに拳を振るう魔導人形を見て雄斗は慌てて駆けつけ、抱きとめる。


「雪菜、大丈夫か!?」

「は、はい……」


 そう言いながらも意識がもうろうとした様子の雪菜。無理もない。実戦で初めて【掌握インペラトル】使ったのだ。いつもとよりずっと消耗が激しいのだろう。

 そこへ魔導人形の壁のような拳が迫ってきていた。


「【剣躰けんたい】……!」


 本日二度目──というよりも魔力残量から最後になるであろう──神威絶技を発動する。

 雪菜を後ろにやって魔導人形の拳を体で受ける雄斗。その一撃に全身が軋む。

 あらゆる神意を切り裂く【剣躰】だが弱点もある。それは単純な物理攻撃や世界を飲み込むような強大無比な攻撃には本領を発揮しないのだ。

 個人が繰り出す剣戟なら数発は受け止められるが、例えば眼前の魔導人形のような巨大な攻撃を受けた場合、その大きさと質量が【剣躰】の効力を無理やり押し切ってしまう。名刀が巨大な岩に押し潰されるように。


「ぐあ、あっ……!」

「雄斗さん!」


 殴り飛ばされる雄斗を見て雪菜が悲鳴を上げる。

 雄斗の全身が感電したかのように動かない。それでも無理やり体を動かして体勢を立て直そうとした時だ、誰かが背中を抱きとめてくれた。


「鳴神君、大丈夫!?」

「ああ。なんとかな。助かったよ……」


 聞こえるマリアの声。彼女が放つ爽やかな匂いを感じ、思わず雄斗は小さく笑む。

 とはいえダメージは思った以上だ。【剣躰】と残った魔力を防御に回したというのに体中の肉と骨が軋んでいる。両腕や肋骨数本はイっているかもしれない。

直後、魔導人形に対して風や雷、焔が放たれる。周囲を見ると【清浄なる黄金の聖盾アルドウィー・スーラー・スクード】のメンバーとグレンの姿があった。


「何だ、あの魔導人形は……!」

「神クラスの魔力を感じるぜ。【狂神きょうしん】かぁ?」

「ラーマが言っていた通り、あの魔導人形の中にエンリルの神器があるのだろうね」


 マリアから治癒魔術を受ける中、ラインハルト、ルクス、グレンらの会話が耳に届く。

 雄斗たちの方を振り向く魔導人形。暴風や雷霆を放ってくるが仲間たちが迎撃してしまう。


「ラーマ達がこの場を離れた以上、あれを収めれば任務完了だな」

「ちょうどいい! 苛ついていたこの気分、ぶつけさせてもらうぜ!」


 ニコスの言葉にルクスが叫ぶように言う。そして彼は【多重掌握ムルティー・インペラトル】をし、魔導人形に突っ込んでいく。

 やや遅れてラインハルト、グレンもそれに続く。三者は魔導人形の周りを動き回って紅蓮の炎に風の鏃、閃光の剣戟などの攻撃を放ち、魔導人形の巨体を揺るがし損傷させる。

 当然魔導人形も殴られ続けられるだけではない。反撃の強風、雷光を放つもグレンたちはそれらをかわし、苛烈な攻撃を放ち続ける。


(さすがに三人がかりなら勝負あっただろう)


 彼らも少なからず消耗しているが的確な攻撃、絶妙なコンビネーションを見せては魔道人形に損傷を負わせる。

 そう思い雄斗はマリアの回復魔術に身をゆだねるがその数分後、いまだ健在な魔導人形の姿を見て雄斗は表情を強張らせる。


「グレンさんたち三人でも倒せないんですか……!?」


 傍にいる雪菜が青ざめる。雄斗の左にいるマリアも厳しい表情だ。

 雄斗と雪菜が戦っていた時と同じだ。ダメージは通っている。だが尋常ならざる再生能力で完全に破壊されるより早く、損傷した箇所が修復されてしまっているのだ。


「【灰燼三刃フォルティス・トリア】!」

「【狂飆の狼王シュトゥルムウンド・ヴォルフ】!」

「【日輪導く光鷹サンシャイン・イーグル】!」


 神威絶技を放つラインハルトたち。

 今までのどの攻撃よりも強力な彼らの絶技を浴び、さしもの魔導人形も上半身の右側が消し飛ぶ。

 だがルクスたちが追撃を仕掛けるより早く破壊された部位は修復される。また修復中にも魔導人形は風と雷による反撃を放ちグレンたちの追撃を妨害してくる。


「雪菜ちゃん、わたしも参戦してくるから鳴神君をお願い」

「待てマリア。お前一人が行ってもおそらくそう変わらん」


 そう言って雄斗を雪菜に預けるマリア。しかし彼女をニコスが呼び止める。 


神魔滅する雷雲ズヴァーオ・ケラウノスを使う。時間を稼いでくれ。

 鳴神、叢雲。疲れているところ悪いがお前たちも戦線に加わってくれ。

 全力は出さなくていい。だが魔導人形が俺に気を取られない程度に攻撃してくれ。それと神威絶技を行使できるだけの魔力は残しておくこと」


 そう言うニコスの体よりゆっくりと湧き出る雲。

 それが周囲に広がり、大きくなっていく。


「【神魔滅する雷雲】?」

「ニコスさんの神威絶技の中では最強の攻撃手段だよ」


 そう言ってマリアは説明する。

 【神魔滅する雷雲】。生み出した雲に多人数の魔力を取り込み巨大な雷霆を精製、敵に向けて放つ神威絶技。

 威力は取り込んだ魔力に比例し過去、数名の神クラスの魔力を取り込み放った【神魔滅する雷雲】は大都市規模に膨れ上がった【異形王フェノメノ】と【異形種】の群れを跡形もなく消滅させたこともあるのだという。


(なるほど。それだけの破壊力があればさすがのあの魔導人形も跡形もないな)


 要は再生能力を無意味とするほどの超破壊力の神威絶技で消し飛ばそうという訳だ。


「でしたら誰かが護衛に残った方がいいんじゃないでしょうか」

「いやむしろそれは魔導人形の注意が俺に行く可能性があるから賢明ではないな。

 【神魔滅する雷雲】は非常に面倒でな。発動に時間がかかるし邪魔が入れば最初からやり直さなければいけない。

 だから絶対に、魔導人形の注意を俺の方に向けないよう頼む」

「了解。ま、要は相手がニコスさんに気を回さない程度に戦えってことか。あと神威絶技を行使できる魔力を維持しながら」 


 大きく息を吐きながら雄斗は言う。神具のおかげで魔力は少しずつ回復しているが、神威絶技一発分を維持したままで戦うのは元の魔力量が多くなく運用も苦手な雄斗にとって中々に難しい。

 とはいえそれが最善手ならやらなくてはいけない。


「あ、そうだ。【神魔滅する雷雲】を放って魔導人形を消し飛ばすのはいいが神器の方は大丈夫なのか」

「問題ない。あれは大陸が消滅するほどの破壊に巻き込まれても原形を保っている。【神魔滅する雷雲】程度じゃびくともしないだろう。

 まぁ何かしらの反応を起こす可能性はあるが、それは運だな」


 魔導人形の元に向かう雄斗たち。魔力をなるべく使用しないという条件付きのため雄斗と雪菜は掌握を解いた状態での参戦だ。 

 となると必然的に近接戦闘が多くなる。通常の状態で魔導人形の注意を集めるとなればそうならざるを得ない。

 魔導人形の頭部付近を動き回っては雪菜と共に【万雷の閃刀】で切りつける雄斗。仲間たちも雄斗たちに合わせ、魔導人形の気を散らす。


「ガアアッッ!」


 チクチク刺すような攻撃に苛立ちのような絶叫を上げる魔導人形。周囲に雷を放つが雄斗たち二人はマリアたちのフォローもあり事なきを得る。

 そして枯渇していた雄斗の魔力が溜まったのと同時、ニコスから念話で準備が整ったと連絡が入る。

 

(マリア!)

(みんな、ニコスさんに向けて魔力を放って!)


 そうマリアが言うと同時、巨大な雲を背にしたニコスへルクスたちが魔力を放つ。

 積乱雲のような雲に吸い込まれる魔力。雄斗と雪菜も一泊遅れるも魔力を投擲する。

 すると雲から地響きのような音が響く。そして中にある魔力が一気に膨れ上がる。


(【神魔滅する雷雲】──!)


 ニコスが念話で言うと同時、雲より排出される極大の雷霆。

 直視することができないほどの眩い雷光。武蔵の【天燼地滅を成す炎風剣】と同じ、空間そのものを消し飛ばす雷撃が魔導人形とその周囲を飲み込む。


「ッッ!」


 風が荒れ狂う中、体の内外全てを揺さぶるような轟音が轟く。

 轟音のあまりにの大きさに思わず雄斗は耳を手で押さえ、仲間たちも同様の素振りをしている。

 そして雷霆により発生した衝撃波と暴風が収まると、魔導人形は跡形も無くなっていた。

 また空ににかかっていた暗雲、眼下の小島も綺麗さっぱり消えてしまっていた。


(やれやれ。ひとまずは一件落着か)


 周囲に敵影や潜んでいる殺意がないことを確認。宙に浮かんでいるエンリルの神器を回収しようと近づくマリアたちの姿を見て、雄斗は大きくため息をつく。

 色々あったが目的である神器奪還は達成できた。あとは回収して帰るだけ──

 そう思い【万雷の閃刀】を消そうとした時だ、王冠の神器が輝きだす。そして周囲に無数の竜巻を放った。


「……!」


 放たれた竜巻の狙いは粗雑で形も大きさもバラバラ。神器の最後の暴走と言った感じだ。

 だがその一つ──極めて巨大な竜巻が雪菜に迫っているのを見て、雄斗は血相を変えた。自分同様彼女も気を抜いていたのか、迫る竜巻を前に微動だにしない。


「雪菜っっ!!」


 刹那の時間で迎撃、撃墜、回避。そのどれもができないと悟った雄斗は反射的に彼女の前に出る。


(よせ!)


 そして内から聞こえる【万雷の閃刀】の制止の声を無視して【剣躰】を使用。竜巻を切り裂く。


「雄斗、さん」


 唖然とした、しかし無事な雪菜。それを見て雄斗は微笑み、直後体中の穴と言う穴から出血。

 地表に落下するのだった。











「やぁアルシュ。無事で何よりだ」

「ありがとうテオドリック。君の方も何事も無くてよかったよ」


 砂浜で再開する二人。

 ラーマ──アルシュたちが今いるここはとある小島だ。夕暮れ時という時間のためか海と砂浜は茜色に染め上げられている。


「ははは。僕の鋼をことごとく溶かすルクス・パラディーノの相手は骨が折れたけどね。

 何とかしのいで時間を稼げたよ」

「──その口調からするとやっぱりお前たちはあの魔導人形について知っていたのか」


 言葉が聞こえたほうに振り向くと、そこには半裸の武蔵が立っていた。傍には彼の恋人である麗華の姿もある。


「武蔵、【治癒の聖柩せいひつ】に入っていたのか。どこか怪我をしたのかい」


 武蔵の体に付着している緑色の液体を麗華が拭うのを見て、アルシュは言う。

 すると武蔵は苦笑して左腕部を軽く叩く。


「ああ。左腕を断たれてな。

 だが俺が思った通りだった。当代の【万雷の閃刀】の担い手である鳴神雄斗と明の孫娘の叢雲雪菜、あいつらやるぜ。

 このまま順調に成長し死線を潜れば俺たちに匹敵するか、届くだろうな」

「それは素晴らしい。僕が戦った【清浄なる黄金の聖盾】の面々も同じぐらいの期待が持てそうだよ。

 盟主がわざわざ殺すなと言ったのも納得できる」

「──だが一つ聞かせろ。どうして魔導人形の件を俺に教えなかったんだ。

 そもそも神器を収めた魔導人形の起動実験は本来ここ、【失われた世界ロスト・ワールド】でやる予定だっただろう」


 ざざんと波打つ音が聞こえる。しかし海からも周囲からも生物の気配はほとんど感じられない。

 それも当然だ。この【失われた世界】では大戦中、とある【異形王】により人や神はもちろん、生物のほとんどが死に絶えてしまったのだ。

 その【異形王】は【七英雄しちえいゆう】によって打ち倒されたが、それから数十年たった現在でもこの世界に存在する生命の数は極めて少ない。


「そのはずだったんだけど直前で【アルゴナウタエ】との戦いに投入しろと盟主から命令が来たんだ。

 神器は回収されても構わないとも」

「おいおいマジか。

 それじゃあ俺の苦労はいったい何だったんだ」


 はぁっと大きなため息をつく武蔵。当然だろう。今回の任務で一番気が張っていたのは彼だ。

 何せ【高天原】は彼の故郷。顔見知りも大勢いる。死んだとなっている彼が生きていたと知られれば大騒ぎとなり、アルシュたちも今回のようにスマートに動くこともできなかった。

 また【高天原】の防衛機構に気づかれず転移したり、大和家の用意した魔導人形に細工できたのも彼の功績だ。彼の生存を知った麗華やかつての仲間の親族たちの協力があったからだ。


「すまないね。でもそう落胆することはないよ。

 僕たちの真の目的──神器を宿した魔導人形の完成、起動。

 これらは上手くいったとみていいからね。そうだろうテオドリック?」

「ああ。操作が可能になるのも僕とワンさんが力を合わせれば時間の問題だよ。

 【真なる世界】にも回収した神器はあるわけだし」

「フン。あの牛野郎ね。大人しく手を貸すとは思えねーけどな。

 何かしら条件を付けてくるに決まってるぜ」


 武蔵は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 アルシュとしては同じ【十導士じゅうどうし】なのだからせめて冷静に話し合ってほしいとは思っているのだが。


「その辺は盟主に任せるよ。上手く説得してくれるだろうさ。

 さて、ここで一晩休んだら本部に帰島するとしよう」


 仲間たちにそう言ってラーマは沈む夕焼けに目を向ける。

 洛陽が放つ優しい陽光の中、彼は今回出会った【アルゴナウタエ】の面々のことを思う。

 強く、気の良いものたちだった。本当の戦いが始まったとき、肩を並べて戦う戦友として申し分ない。


(できることならその時まで、生きながらえていてほしいものだね)


 ラーマはそう思い、島の奥に設置してある仮設テントに足を向けるのだった。






次回更新は7月12日 7時です。

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