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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
二章 嵐の後に花は咲く
33/102

十八話




「結局のところ、神器は奪われてしまったという訳でしょう。

 さらに当代ヤマトタケルの死亡にスサノオの負傷。失態ですな」


 三日前の【狂神】エンリル討伐、ラーマ達の襲撃の一件をマリアとグレンが報告し終えると嫌みったらしい声が謁見の間に響く。

 声を発したのは左側にいる顎髭を生やしたふくよかな体躯の男だ。しかし肥満に見えるその体のほとんどが筋肉であり、放つ気配は屈強な戦士のものだ。

 彼は大国清盛だいこくきよもり・オオクニヌシ。当代のオオクニヌシであり【高天原】のタカ派筆頭と目されている人物だ。


「鹿島殿。そもそも【アルゴナウタエ】へ協力を仰ぐことを陛下に上申したのは貴殿だ。

 この責任をどうとるおつもりか」


 清盛に続き嫌みったらしい声で咎めるのは彼の隣に立つ龍人だ。

 諏訪教経すわのりつね・タケミナカタ。当代のタケミナカタであり清盛と同じタカ派の神だ。

 【ムンドゥス】と同じく多元世界においても人は概、二つの勢力に分かれる。自分の世界、人々を最優先に考えるタカ派、他世界の人々を己が世界の民と同列に扱い、また協調することを考えるハト派。

 今謁見の場にはその二つの派閥の中でも最上位の人間が集まっていた。名目は神器奪還について話し合うといったものだったがいきなりその趣旨から外れ、タカ派によるハト派への糾弾が行われていた。


(こいつらが俺から【万雷ばんらい閃刀せんとう】を奪おうとした奴らか)


 帝との初めての謁見の後、雄斗は自分なりに色々調べてみた。

 そしてタカ派の筆頭は【高天原】における最上位八家──通称天地八家あめつちはっか──のうち二家。代々オオクニヌシを輩出している大国家と同じくタケミナカタを継承させている諏訪家。


「お二人の仰る通り当代ヤマトタケルの死亡にスサノオの負傷は、【しんなる世界せかい】の【十導士じゅうどうし】がこれほどの強者と予測できていなかった我の責。

 だが【狂神きょうしん】二柱を彼らやスサノオたちは見事に討伐、封印してくれた。これもまた事実でもある。

 そしてもし【十導士】の介入がなければ万事上手くいっていただろう」

「仮定の話をしても何の意味もない! 現実は【狂神】の神器を奪われたうえ我が【高天原たかまがはら】の貴重な戦力が失われてしまっている」

「こうなるのであれば最初から我らのみで対処するべきであった! 我らなれば例え【十導士】相手に苦戦したとしても、みすみす神器を奪われる失態は起さなかっただろう!」


 清盛たちタカ派トップ2の言葉を皮切りに、他のタカ派たちもハト派の頼光達に攻めの言葉をぶつける。

 そして責められる頼光達も黙っておらず反撃し、両陣営は帝の御前ということも忘れたかのようにお互いを罵倒し始める。

 とはいえ押しているのはタカ派だ。ハト派も反撃しているものの勢いは強くはない。


「陛下! 今回の一件、【アルゴナウタエ】にも責任を取っていただく必要があると存じます」

「それは全てが済んでからエドガー殿と私が……。いや、いい。申してみよ」


 うんざり顔の帝がそう言うと、タカ派の者たちが意気揚々とした顔で言う。


「尊正殿の死亡に対する賠償金、そして代わりとなる戦力の無償提供」

「それと当代の【万雷の閃刀】の所持者、鳴神殿より【万雷の閃刀】を返却してもらうのです!」

「それについては翌年まで待つよう伝えたし、その理由も知っていよう?」

「もちろんご存じです。ですが彼は大和武蔵に対しほぼ何もできず無力化されました。

 その結果に大和家当主は死亡しスサノオ様も負傷なされたのです。──武士もののふとして責任を取っていただく必要があると思いますが」


 かすかな殺意が籠った声。

 それに雄斗がゾッとした時、隣にいるマリアが叫ぶ。


「お待ちください! 確かに大和家当主様が死亡したという、【高天原】の方々に損失を負わせたのは我ら【アルゴナウタエ】の失態。

 ですがそれを命を持って償えというのはあまりに無慈悲すぎます……!」

「そのような暴挙をなされては【アルゴナウタエ】との関係も大きく悪化しますぞ、タケミナカタ殿」


 血相を変えるマリア。そして表情は変わらないが声音にかすかな怒気を乗せて言うグレン。

 しかしタカ派の雰囲気は少しも揺るがない。


「早合点が過ぎるなアナーヒター殿。【万雷の閃刀】を解呪したとはいえ鳴神殿が死ぬと決まったわけではない。

 ──それに万が一のことが起きたとしても、我らが同胞はそちらの失態で亡くなっている。丁度いいのではないですか」

「暴挙というのなら、そのような未熟者を我が【高天原】の問題に関与させたことこそ暴挙というべきものよ。

 そのような判断を下し、たかが未熟者一人喪った程度で関係が悪化する【アルゴナウタエ】など、むしろ我が【高天原】にとって害悪とさえ、思うわ」


 平然と言うオオクニヌシにタケミナカタ。

 彼らの言葉にマリアとグレンが眉を吊り上げた時だ、彼の横に立ち並ぶタカ派の者たちが次々と同意する。


「確かにタケミナカタ殿の言う通りだ。これが我が世界出身のものならば問答無用で斬首されるべきこと」

「そもそも【掌握インペラトル】ができるというのに【神威絶技しんいぜつぎ】が行使できないなど半端者でしかない。

 そのような軟弱物に我が世界の至宝たる【万雷の閃刀】を預けておくこと自体、言語道断だ」

「もし武士として誇りや意地があるのであればタケミナカタ殿の案に同意するべきではないのか。

 それともその程度の覚悟もなく所持しているというのか」

「陛下! 今すぐに神財解呪の義を執り行うことを上申致します!」


 騒ぐタカ派の者たちに帝は大きく眉を顰める。

 とはいえ反論しないのは雄斗たちが失敗したことやタカ派の者たちへの配慮もあるからだろう。

 帝は【高天原】における最高権力者だが絶対ではない。帝が横暴にふるまえば帝家に次ぐ地位を持つ天地八家が戦を起こして帝から地位を奪い、次の帝を選出したことも過去にある。

 強引にタカ派の者たちを黙らせることもできるが、それをすれば間違いなくタカ派の者たちは帝に反意を抱き、最悪内乱が起こる可能性もある。それを考慮して帝は容易に動けないのだろう。

 勝手に盛り上がるタカ派。それを見て雄斗はついていた膝を上げ、立ち上がる。


「どうしたのか鳴神殿。我らの申し出を受ける気になったのかね」

「いいえ。ですが次の作戦が失敗したらご自由に」

「鳴神君!?」


 マリアが驚きの声を上げるがそれを無視して、雄斗は言う。


「それよりも奪われた神器の奪還することを考えませんか。

 【万雷の閃刀】の処遇や自分の命、タケミカヅチ殿への責任追及はその後決めればいいでしょう」


 タカ派の人間全員より突き刺さる視線を感じるが気にせず言葉を続ける。


「すでに聞いていると思いますが改めて説明します。神器を奪ったラーマ達【十導士】は艮群島うしとらぐんとうに潜伏しています」


 艮群島とは【高天原】本土より北東にある島々の総称だ。

 陰陽道で鬼門の意味を成す艮の名を関するその島々は古来より【異形種キメラ】の発生件数が非常に多いことで有名だ。

 そしてラーマ達が潜伏している島は近くに【異形種】の巣があるとされている孤島だ。


「自分たち【アルゴナウタエ】は明後日、艮群島を襲撃。【真なる世界】より神器を奪還します」

「何をふざけたことを言っている! 認めるわけがないだろう!」

「お前たちはラーマらに圧倒されたと聞いている! そんな弱いお前たちを再び挑ませられるか!」

「せめて【七英雄しちえいゆう】数名を招集してから言うがよい!」


 再び騒がしくなる謁見の間。


「大体貴様、あの裏切り者に成すすべなく敗北したと聞いている。

 軟弱物である【アルゴナウタエ】の中でも最弱であろう貴様が一体何の役に立つというのだ!」

「無駄死にをするのであれば今すぐ神財解呪の義を行い、【万雷の閃刀】を我が国に返還せよ!」

「では! 証明してみましょう!」


 そう叫んで雄斗は全身より雷を発光する。

 緊迫感が走る謁見の間。向けられる敵意、殺意を無視して雄斗は立ち上がり帝と鹿島の方を向く。


「陛下、頼光殿と一勝負する許可をいただけませんか。その結果次第では今日にでも神財解呪の義をしていただいて構いません。

 ですが相応の勝負を見せた時は今一度、【真なる世界】への対処を我らにお任せくださるようお願いいたします」

「鳴神君! 何を勝手に!」


 血相を変えたマリアが立ち上がるが雄斗はそれをスルー。帝たちをまっすぐ見据える。

 炎のような雄斗の眼差しと氷のごとく冷厳な帝の視線がぶつかり合う。──数泊の後、帝は冷たい声音で言う。


「よかろう。──頼光、やるがよい」

「……。御意」


 数秒、間をおいて発せられた天子の言葉。それに頼光は頷き、座席から腰を上げる。


(鳴神君、一体どういうつもりなの……!)

(説教は後にしてくれ。下がっていろ)


 マリアへ突き放すように言って雄斗は謁見の間の中央に移動。神具を手にやってくる頼光に視線を向けながら【万雷の閃刀】を呼び出す。

 マリアが戸惑い、怒るのは無理もない。謁見前、雄斗には自分とグレンが矢面に立ち、ラーマ達との再戦を交渉するから黙っているようにと言っていたからだ。

 雄斗が下手に口を出せばタカ派の者たちから【万雷の閃刀】の返還へ言及してくるからだ。

 しかし現在、帝や頼光への責任追及でヒートアップしている彼らはそれを口にしてきた。そしてマリアたちの説得にも耳を貸す様子もない。

 ならば当事者である雄斗が沈黙を保つのは悪手だ。どうなるにせよ己の意思を示しておかなければならない。

 

「手加減はせんぞ」

「いりません」


 その言葉と同時に両者は体より覇気と雷を発する。

 アマテラスたち【高天原】の神々が形成する結界の中、雄斗は静かに【掌握】し、頼光は神具に巨大な雷の塊を発生させる。


「今は会議の最中。ゆえにすぐ勝負を終わらせるべき渾身の一撃を放つ。──死ぬなよ」


 そう告げて頼光は棍棒を肩に担ぐように構える。放つ圧がより強くなり、鬼の巨躯が一回り大きくなるような錯覚を受けた。

 神具を包む、離れているというのに圧やしびれ、痛みを感じさせる巨大な雷球。おそらくは【雷砕】の強化版と思われる神威絶技。

 今の雄斗でも直撃すれば重傷、最悪は死に至る一撃だろう。周囲に展開されているいくつもの強固な結界を見ればそれぐらいの威力はあると察することはできる。


(チャンスは一度──)


 そう雄斗が思った時だった。頼光は棍棒を振り下ろす。

 それと同時に雄斗に向かって放たれる雷球。神具に付着していた時は直径一メートル程度だったが解き放たれた瞬間、一瞬で数倍の大きさに変わり、雄斗の前面を埋め尽くす。

 正面全てを覆い、壁のように立ちはだかり迫る巨大な雷。回避は不可能であり防御も意味をなさない。そして直撃すれば死に至る可能性すらある一撃。

 

「──」


 しかし雄斗は短く、思い出した・・・・・神威絶技の真名を唱え、頼光に突っ込む。

 そして思った通り、突っ込んだ雷撃からは痛みも何も感じない。

 そんな雄斗を見て頼光はかすかに目を見開くが、すぐに追撃するべく体を動かす。

 だが遅い。迫る雷の壁を通過したのと同時、雄斗は雷龍顎らいりゅうがを放つ。

 閃電を体に宿して繰り出した鳴神流最速の刺突は真っすぐ直進。二撃目を放とうとする頼光の喉元に【万雷の閃刀】の切っ先を突き付けた。


「な……!」

「馬鹿な……!」


 瞬きするような短い時間での決着に周囲から驚きの声が発する。

 そして切っ先を突き付けられた頼光も目を見開き、雄斗に視線を向ける。


「【剛雷破波ごうらいはば】を受けて無傷……。今のがお主が生み出した神威絶技か」

「いいえ。思い出したが正解ですね」


 【万雷の閃刀】の切っ先を頼光の喉仏から外し、雄斗は言う。

 両派閥が驚きに騒めく中、鋭い帝の声が響いた。


「──見事! 【アルゴナウタエ】よ、【真なる世界】からの神器奪還、今一度お主たちに任せることとする」

「お、お待ちください陛下! これだけで彼らを許すのはあまりにも──」

「鹿島殿が油断、手加減をしていた可能性もございます!」


 騒ぎ立てるタカ派の者たち。

 しかし彼らの声を轟音──頼光が発した雷が吹き飛ばす。

 発生源は鬼気を発し、眉を吊り上げた頼光。そして恐れおののく彼らに帝は刃のような視線を向ける。


「面白いことを言うなお前たち。我が国最強であり誇りとも言える頼光の武を侮辱するとは。

 彼の強さは我が国の誰しもが認めるところ。それを侮辱するのは我が国への侮辱も同じ。──それがわかっていての発言なのだろうな?」


 煮えたぎる怒りを乗せた帝の声音。そして背後で輝く三種の神具を見たタカ派の者たちは気圧され、黙り込む。

 幾名かのタカ派の者たちがタケミナカタとオオクニヌシに目を向けるが彼らは無言で首を横に振る。

 流石はタカ派のトップ。他の者たちと違いよくわかっている。

 先程までタカ派の者たちがハト派や帝に対して忠言という名の暴言を言えたのはあくまで【アルゴナウタエ】の失態について話していたからだ。

 だが今は違う。帝より【高天原】最強と認められた頼光の武を疑う言動。すなわち帝への反逆と取られてもおかしくはない。

 殺意すらにおわせる帝の言にタカ派の者たちは完全に沈黙。それを見て帝は小さく息をつき雄斗を、そしてマリアとグレンに目を向ける。


「改めて言う。貴様たち【アルゴナウタエ】の案に乗ろう。ただしここまでして失敗したときはわかっていような」

「自分の命と【万雷の閃刀】返却ですか」

「その程度ではすまさん。【アルゴナウタエ】本部にも相応の責を負ってもらう。いいな?」


 厳かな帝の声に雄斗は静かに首を垂れるのだった。











「どうしてあんなことを言ったの……!」


 車に乗り込むなり、マリアは声を荒げる。

 胸ぐらをつかみかかりそうな形相の彼女を手で制し、雄斗は言う。


「しょうがないだろ。ああでも言わないと挽回の機会も生まれなかったんだから」

「だとしても君の命を懸ける必要はなかっただろう」

「いや無理でしょう。普通に言っても帝や頼光さんたちはともかくタカ派の連中は絶対に納得しなかったでしょう。

 俺たち【アルゴナウタエ】がやらかした問題を一時とはいえ棚上げにし、こちらの要求を通すにはあれしかなかったかと思いますが」

「それでも……!」

「そんなことよりもグレンさん。叢雲はどうするんですか」


 しつこく食い下がってくるマリアを押しのけて雄斗は隣に座るグレンに訪ねる。

 問われたグレンは沈痛そうな顔となり、小さく息を吐いて、言う。


「……。残念だがあの様子では今回の作戦には参加できないだろう」


 現在、雪菜は実家に戻ってから一歩も部屋から出てきていない。

 マリアや舞香、グレンが中に入って様子を伺ったところ、畳の上で膝を抱えて蹲り、虚ろな眼差しで晴之への謝罪の言葉を繰り返しているという。

 部屋の前に置かれた食事もほとんど手を付けていないとか。

 

(明さん曰く、叢雲の婆さんが亡くなった時に逆戻りしたらしい、か。

 まぁシチュエーションは似ていると言えば似ているからな)


 明より聞いた話を思い返し、雄斗は小さく息をつく。


「あいつも当然戦力に含んでいます。その分の穴をどう補填するんですか」

「……。【アルゴナウタエ】本部に連絡して【戦火を切り裂く閃剣バトル・グウルヴァーン】のメンバーを招集しようと思う」


 苦渋というべき顔でグレンは言う。予想を超えた難敵の対処に今回の任務に参加しない彼らを呼び寄せる。それならば雪菜の穴を埋めるのは十分すぎる。

 しかしグレンの眉間のしわが深くなるのは雪菜の処遇のことを思ったからだ。先日の戦いの後、塞ぎ込んだ雪菜を見て異母姉である舞香が雪菜を【高天原】に戻したいと言ってきたのだ。


「このような事態になれば雪菜が塞ぎ込むことはわかっていました。

 こうなった以上、雪菜を【アルゴナウタエ】に所属させておくわけにはいきません」


 怒りの眼差しを向け静かな声で言う舞香にグレン、マリアの2人は反論しなかった──いや、できなかった。

 当然だ。戦えない以上雪菜が【アルゴナウタエ】にいる理由はない。そして二人は雪菜に幾度も声をかけたが彼女が部屋から出てくることはなかった。


「グレンさん、叢雲については俺に任せてもらっていいですか?」

「……何をする気だい?」

「普通に説得するだけですよ。──まぁちょっと物理が入るかもしれませんが」

「反対、絶対反対だよ鳴神君!」

「僕も承服しかねるね。もし彼女が剣を握らなくなったらどうするんだい」


 荒事になるのを察したのか、眦を立て詰め寄る二人。過保護と思う雄斗だがそれは口に出さず言う。


「大丈夫でしょう。なんだかんだであいつは強い。きっと立ち直る。それは俺よりも付き合いが長いあなたたちもよく知っているはずだ。

 それともこのまま塞ぎ込ませておくことが、あいつのためになると思っているんですか」

「うっ……」

「それは……」


 口をつぐんだ二人へさらに雄斗は追撃する。


「正直なところあいつを遊ばせておく余裕は俺たちにはありません。何が何でも立ち直ってもらわないと。

 【戦火を切り裂く閃剣バトル・グウルヴァーン】から代役を用意するのは構いませんがグレンさん、それは最終手段なのでしょう?」


 そう雄斗が言うとグレンは眉間に深いしわを作り沈黙する。

 グレンとて雪菜をこのままにしておきたいはずがない。彼にとって雪菜は大切な仲間である。

 だがもし、【戦火を切り裂く閃剣】から代役を用意してしまえば、グレンの方から雪菜を必要とはしないと明言するようなものだ。彼女の【高天原】への帰還は必至となるだろう。


「で、でも強引なことをしたら叢雲家の人たちは絶対納得しないよ。特に舞香さんは!」

「出発前に明さんには話を通してある。説得できるなら遠慮なくやってくれとのことだ」

「舞香さんには……話していないんだね」

「話していれば俺は予期せぬ負傷をして会議に出席できなかったですよ。

 ──まぁあいつを立ち直らせた後、舞香さんには甘んじてボコられます」


 身内が傷つき悲しみに暮れる少女を戦いの場に連れて行く。妹がいる雄斗としてもそのような 行動は正直、とりたくはない。

 しかしやらなくてはならない。何よりあのままにしておけば彼女は自責の念に潰されてしまうだろう。そんなことを友人としても仲間としても放っておけない。


(舞香に言った言葉、そして婆さんに誓った言葉。

 あっさり前言撤回するなんて許さないぞ)


 そう思いながら雄斗はマリアたちと共に叢雲邸に戻る間、作戦について詰めていく。

 そして車が叢雲邸に到着し降り立た時だ、雄斗の視界に慌てた様子の使用人たちの姿が映る。


「なんだこれは……」

「何の騒ぎなの……?」


 こちらを見もせず動き回っている使用人たちを見て雄斗たちは思わず唖然となる。

 

「ああ、皆様! お帰りでしたか!」


 声のした方を見ると血相を変えた礼子の姿があった。

 雄斗たちは近づき何があったのかと尋ねると、彼女は引きつった声で言う。


「ゆ、雪菜お嬢様がどこかに行かれてしまいました!

 どこかでお見かけしませんでしたか!?」


 彼女の言葉を聞き、雄斗は走り出す。靴も脱がず屋敷をかけて雪菜の部屋に到着すると襖を力任せに開いた。

 年頃の少女らしい可愛らしさ知品がある和風の部屋。しかしそこには出発前までいた雪菜の姿も気配も微塵もない。


「あいつ……!」


 怒気を込めて呟いたその時だ、視界の隅に開かれた本──いやアルバムがあるのが見える。

 室内に入りそれを見ると、開かれたページには幼い雪菜と叢雲一家が映っている無数の写真がある。

 そこには明と今より少し若々しい彼女の両親と幼い兄と異母姉。そして小学生になったばかりのような幼い雪菜と白髪の老女の姿がある。

 雪菜にどこか似た老女。これがおそらく雪菜の祖母であり明の妻である叢雲冬華──


「……なんか桜ばかりだな」


 一通り開かれていたページを見て、雄斗は眉を潜める。

 どの写真にも風景には桜の木が映っている。どこかの公園だろうかと雄斗が思った時だ、突如【万雷の閃刀】の声が脳内に響く。


(桜園か)

(桜園?)

(帝都郊外にある桜ばかりの公園だ。ここは叢雲家にとって──いや特に冬華にとっては縁の深い場所だ。

 そう言えば幼い雪菜はここに来てははしゃいでいたな)

(写真みたいにか?)

(ああ。あまりにはしゃぐので陽司が冬華にお目付け役をお願いしていたな)

 

 幼い舞香と共に遊んでいる幼い雪菜が映る写真を指差すと、【万雷の閃刀】は厳かな声で肯定する。

 

「桜園、ね……」


 そう呟くと雄斗はアルバムを閉じ、部屋を後にした。






次回更新は6月24日 7時です。

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