十七話
出血で意識が朦朧としているとき、雄斗は妙なものを見た。
白亜の庭園。そこに大の字で倒れ方で息をしている13、4ぐらいの幼い雄斗と、それを見下ろす熊のような大きな体躯の大男。
噴水の囲いに腰を下ろして男は言う。
『ようやくモノにしたか。【××】。最初の神威絶技にしてはいいじゃねぇか』
『そう、ですか? 自分、としては、●●●●さんの、【●●】みたいな、のが、よかった、ん、ですけど』
『生意気言うなあれは俺の神威絶技の中でも秘儀の一つだ。そう簡単に似たようなのを使われてたまるものかよ』
かっかっかと笑う大男。
『ま、いろいろと弱点はあるが魔術が致命的に苦手な剣技馬鹿には似合いの神威絶技だぜ。
それを基にいろんな絶技を編み出せばいいさ』
『でき、ますか、ね。正直、自信が、ありません』
『さぁな。ただやろうとしなければできはしねぇさ。
まぁ魔術の才能がないうえ、雷を剣と定義している以上、多種多様な絶技を生み出すことは難しいかもしれないが、まぁ要は使い方と考え方次第だな」
男の言葉を聞き、雄斗は納得する。
そうだ。剣だ。自分は【万雷の閃刀】の雷を剣と定義した。
だから××も、これから会得する神威絶技も、剣や刃の性質を持つものを会得していった──
『数は少なくても少数精鋭の絶技を生み出せばいいさ。
神威絶技の数が多い=強いってわけじゃねぇんだからな』
そう言って再び男は笑う。それを見て雄斗は不可解な思いになる。
彼のことは知らない。だが何故か懐かしく暖かい、そして悲しい気持ちになる。
いや、本当に知らないのか。見たことがないのだろうか。そう思い、もしかしたらという思いが心中に生まれる。
(これは、俺の封印された記憶なんじゃないだろうか)
確証はない。だが胸の中に生まれた感傷を感じ、そう思う。
もっと見たい。そう思うがその時、悲痛な叫び声が聞こえ、雄斗の意識を現実に戻す。
(叢雲……!)
倒れている晴之に覆いかぶさり泣きじゃくる雪菜。そしてそんな彼女たちへ武蔵は神威絶技を放つ。
炎と風が入り混じる巨大な火柱。それを見て雄斗は立ち上がり、【万雷の閃刀】を構える。
(って、これからどうするんだ俺は……!?)
雪菜たちを守ろうと迫る火柱の前に立ってしまった雄斗だが、彼らを守る具体策があったわけではない。
凄まじい回転と速度で迫る火柱を見てどうするか脳をフル稼働しようとした時だ、唇が勝手に動き見知らぬ──いや、先程見た記憶の大男が口にしていた神威絶技の名を口にしていた。
「【剣躰】」
呟くと同時、迫ってきた火柱に対し、【万雷の閃刀】を大上段から振り下ろす。
するとどうしたことか、雄斗の数倍近い大きさがある焔の柱は二つに裂けて霧散してしまった。特に力を入れたわけではないというのに。
「……!?」
「あん……!?」
それを見て雄斗は目を丸くし、武蔵も素っ頓狂な声を上げる。
今のは一体どうしたのか。何が起きたのか。自分は何をしたのか。
矢継ぎ早に雄斗は思う。だが深く考えるより先に体から力が抜け、再び地面に倒れてしまう。神威絶技を使用したからか、体に力が入らず魔力も再び枯渇していた。
「雄斗。お前、今のは……」
武蔵から警戒するような声が聞こえる。しかし床に突っ伏した雄斗は答えることができない。
と、その時だ、雄斗は覚えのある魔力が複数、接近しているのを感じた。
傍から聞こえる衝撃音。顔を上げれば自分や雪菜を守るように立っているマリアたちの姿があった。外の魔導人形を対処していたソフィアも駆け付けている。
「これはこれは……【清浄なる黄金の聖盾】のメンバーが勢ぞろいってわけか。
……いや、一人足りないがどうしたんだ。ラーマの奴にやられたか」
「残念ですけど魔力切れで休んでもらっているだけです……!」
攻撃を放つマリアたち。武蔵は風と焔で迎撃しながら後ろに下がる。
そこへさらにグレンが姿を見せて彼に斬りかかった。数合打ち合ったのち、武蔵はさらに距離を取った。
「こっちからもか! ヒルデブラントの奴、完全には抑えきれなかったわけか。
まぁいいさ。目的のブツは手に入った。いい加減、おさらばさせてもらおうか」
そう言って懐から札を取り出す武蔵。
それを見てグレンたちが再び攻撃を放つが呪符から発した輝きに包まれて武蔵は姿を消してしまった。
「くそっ、逃がしたか……!」
「とはいえ危機が去ったのも事実。怪我人の手当てに移ろう。
そうしないと本も満足に読めない」
そんな会話をしながら仲間たちは動き出す。
倒れている雄斗の元に、疲弊した様子のマリアがやってくる。
「鳴神君、大丈夫!?」
「なんとか、な。それよりも晴之さんの方を診てやってくれ。
……あと叢雲のことも頼む」
そう言って雄斗は首を後ろに回す。
すぐ後ろにいる雪菜は未だ倒れている晴之にしがみついており、側にいるソフィアからs何か言われているが動く様子はない。
「……うん。わかったよ。
二人が終わったらすぐ治療するから、大人しくしていてね」
痛ましい表情となってマリアは言い、晴之と雪菜の元に向かう。
それを見て雄斗は腰を落とし、ごろりと体をひっくり返す。
視界に入る空。先程まで曇天だった空からは青空が覗き、無数の光が差し込んでいる。
だがその暖かな光を見ても雄斗は気が晴れず、大きなため息をつくのだった。
次回更新は6月21日 7時です。




