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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
二章 嵐の後に花は咲く
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十五話






 雄斗が放つ雷速の剣。閃光の軌跡を見せるそれを武蔵はことごとく紙一重でかわし、反撃の一撃を放つ。

 疾風を思わせる速く斬撃。閃電の域に達したそれを雄斗もまた紙一重で避けてかわす。

 十合ほど打ち合い、共に当たらず。両者は同時に距離を置き、仕切りなおす。


「そこの雑魚と違って噂通りやるな」

「そちらこそ。やっぱり強いじゃないか。

 それとその刀、神具だな」

「ああ。新造神具【征伐せいばつ嵐刀らんとう】。俺のお仲間が作ってくれた俺のための剣だ

 能力は差して珍しくもない、風を操る力だ。──こんな風に」


 そう言うと同時、武蔵は右手の剣を振るう。

 直後、刃の軌跡より視認できるほどの風の刃が生まれ雄斗に飛んでくる。

 直感的に受けてはまずいと思い横に飛びのいてかわす。すると風の刃は頑丈な指令室の壁を破壊し、さらに奥へ突き進んでいった。


「神威絶技【嵐刃らんじん】。嵐のように荒れ狂う風を圧縮して放つ破壊力重視の技だ。

 さてお次は【空刃くうじん】。視認は不可能、感知も難しい刃だ。避けられるかな?」


 そう言って【征伐の嵐刀】を横に薙ぐ武蔵。それを見て雄斗は警戒心を最大限に引き上げる。

 しかし何も起こらない。だが雄斗の勘は警戒音を鳴り響かせている。

 そしてわずかに察した空気の動き。それに周囲の剣群が反応。上、右斜め、左背後より迫っていた風の刃を打ち落とす。


「残念。あと一つある──」

「叢雲、やれるか?」

「はい!」


 武蔵が言うと同時、雪菜の剣戟が正面から迫っていた不可視の刃を切り砕いた。

 【空刃】は目には見えない。だが【心眼】を使えばおぼろげだが捕らえることはできるし、【掌握】状態の雄斗は周囲の動きに非常に敏感だ。その超感覚で最後の刃が迫っているのが分かった。

 剣を構える雪菜。剣聖の領域にまだいない彼女が察せられたのは神具のおかげだろう。

 大地と空──空気は常に密接している。故に空気の微細な流れで見えない空刃の位置が分かったのだろう。


「【空刃】。不可視の刃を周囲の空気の流れに乗せて放つ技といったところでしょうか」

「その通り、的確な分析だな。

 なるほど、以前明さんと会った時えらく褒めていたから只の孫馬鹿かと思っていたけど、そういう訳でもなさそうだ」


 微笑む武蔵。

 それを見ながら雄斗は念話で雪菜に語り掛ける。


(叢雲。相手はまだ俺たちを舐めている。【掌握】もしていないのがその証拠だ。

 本気を出させる前に倒すぞ)

(はい……!)


 【十導士】の強さにばらつきはあるものの最低でも各世界の神々の上位実力者と同等。中には【七英雄】と並ぶ強者さえいるという。

 もし本気を出されでもしたら雄斗たちはなすすべなく蹴散らされる。マリアやグレンとは言わずとも、ラインハルトたちがもう一人いれば食い止めることはできるだろうが。


(コイツは強い。だがそれがどれほどなのか見えない)


 いち剣士として剣聖の領域にある雄斗は相手を一目見て、大方の強さを察することができる。

 だが目の前の敵ははっきりとしない。剣技のみならば自分と同じ領域にあり、若干自分が上であると分析できている。

 しかしそれ以上のこと──神具持ちとしてどれぐらいできるのか──は、わからない。底が見えないのだ。

 グレンと同等か、それ以上だろうか。なんとなくそう思いながら雄斗は再び前に出る。

 

「さて、せっかくだから【草薙剣こいつ】も使ってみるとするかね!」


 そう言って武蔵は左手に【草薙剣くさなぎのつるぎ】を握ると、間合いを詰めてきた。

 雷と焔をまとい振り下ろされる斬撃。その速さが途中で加速する。


(一瞬、体が浮くような突風が吹いた。おそらく神威絶技による超加速──)


 だがその刃を床下から飛び出した石柱が防ぎ、次の瞬間切り砕かれる。

 だがそのわずかな時間があれば雄斗が剣戟を繰り出すことに支障はない。砕ける石柱の影から飛び出した雄斗は雷を伴った斬撃を放つ。

 紫電まとう【万雷の閃刀】を武蔵は【征伐の嵐刀】で受け止め、直後風をまとって後ろに下がる。雄斗が追撃の雷撃を放つもそれも軽やかな動きでかわす。

 だが彼が休むことはできない。着地した周辺から雪菜が放った刃の花弁が襲いかかってきたからだ。


「いいコンビネーションだ!」


 【桜刃爛漫】の花弁を焔で焼きながら言う武蔵へ雄斗は接近。

 立て続けに剣戟を放つがどれも防がれかわされる。しかし雪菜とのコンビネーション攻撃により、武蔵の表情が真剣と焦りを含んだものへと変わる。

 それを見て相手に隙を与えまいと、雄斗はさらに攻めるべく踏み出そうとしたその時だ、微かな違和感を感じた。

 そして直後、猛烈な吐き気を催し、足がもつれる。


(これは……!?)


 肺、そして眼球に突如発生する痛み。思わず目を細め、口元を手で押さえる雄斗。

 その時武蔵が小さく息を吐き、言う。


「神威絶技【空毒】。大気中の酸素密度を増加して敵を行動不能に陥れる絶技だ」

「空気、密度……!?」


 口を手で押さえくぐもった声で雄斗が言ったその時だ、背後より何かが倒れた物音がした。

 視線を向ければ神具から手を離し、胸元を抑えて苦しそうにあえぐ雪菜の姿があった。


「叢雲……!」

「無理もねぇ。【掌握】状態のお前さんはともかく、常人じゃ行動不能、下手をすれば死ぬぐらいの濃度の酸素がこの部屋に漂っているからな。

 しかしコイツを使わないと止められないとは予想を超えた難敵だったぜ。お前たち」


 賞賛する武蔵。だが表情には十分な余裕があり、それを見て雄斗は思わず奥歯を噛む。


(いつ神威絶技を使用したのか、わからなかった。なんという練度の高さ……!)


 マリア、グレンでさえ神威絶技の発動の兆候は察することはできる。だが彼からはほとんど全く感じられなかった。

 剣士としては同格。だが神具使いとしては小学生と大人の差がある。そう雄斗は痛感してしまう。


「さてと、それじゃあ俺はこれで失礼せてもらうぜ」

「待てよ。まだ俺は立てるぜ……!」


 フラフラの状態でゆっくりと近づく雄斗。


「でも立っているだけだろう? 見たところろくに剣を触れそうにない。無理はよくねぇな」


 すでに【征伐の嵐刀】を鞘に納め、【草薙剣】を消した武蔵が言う。

 表情には憐憫の様子さえ見て取れている。もはや敵とさえ見られていない。

 彼の言う通りだ。【万雷ばんらい閃刀せんとう】を構えている雄斗だが、この高密度の酸素が漂う状況において、正直刀を振るのさえ厳しい。

 だが、相手がこちらを侮っているなら、まだやれることはある。


「剣技はさすがの一言だったぜ雄斗。だが話通り神威絶技が使えない以上、俺の相手にはならねぇよ。

 それにもう勝負はついている。お前が攻撃した瞬間、俺の勝ちは確定する。

 だから、もうやめておけ」

「……そう言われてはいはいと引き下がると思っているのかよ!」


 そう叫ぶと同時、雄斗は超高速の刺突──雷龍顎らいりゅうがを武蔵に向けて放つ。

 武蔵の言う通り、今の雄斗はまともに剣は振るえない。だが一撃だけならばできる。そして彼の喉元を狙った鳴神流最速の一撃を前に武蔵は微動だに動かない。

 いや、速すぎて動けないのだろう。元々最速の剣戟に体中の可動部に雷の速さを加味している。見えてはいるだろうが体が反応しないのだ。


った!)


 そう雄斗が確信したその時だ、体の各所が突然切られ、鮮血が宙を舞う。


「……な」


 かすれた声でそうこぼす雄斗。もはや立っていることもできず床に崩れ落ちる。

 倒れた衝撃を感じるのと同時、【掌握】も解除され、【万雷の閃刀】も右手から消える。


「神威絶技【空刃結界くうじんけっかい】。【空刃】を周囲に展開し、突っ込んできた敵や技を切り裂いて迎撃する絶技だ。

 まともに動けないお前さんがとる攻撃は刺突しかなことぐらい簡単に予想できた。それに備えて設置していたのさ」


 淡々という武蔵。それを聞きながら雄斗は己が勘違いしていたことを悟る。

 剣士としては同格と思っていた。だが今の武蔵の対処で剣士としてでさえ格下であると突き付けられてしまった。


(これが【十導士】……。強い……)


 自分とは明らかな格の違い。

 完成、円熟された強さに雄斗はそう思うしかない。


「俺は言ったはずだぜ? 勝負はついているからやめておけと。

 そして神威絶技を使えないお前では相手にならないともな」


 体中から吹き出した血が床に広がるのを雄斗は見ながら、【十導士】、風祭武蔵の強さに圧倒されているのだった。







次回更新は6月18日 7時です。

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